家庭教師ヒットマンREBORN-another 作:金剛石Mk2
「おーい、矢島ー?」
土屋はいま、玄関から飛び出した矢島を探していた。つい先ほど、ビアンキと矢島が姉弟であるというかなりの驚きの事実が判明したのだが、だからこそ矢島はビアンキの弱点のようなものを知っているのではないかと考えたのだ。
「おっ、いたいた。おーいどうした矢島?」
その姿はすぐに見つかった。木にもたれかかるようにして、荒い息を整えていた。普段なら声をかければすぐに大きな声で返事を返す矢島は、今はほとんど反応もせずにゼェゼェと荒い呼吸を整えるだけだった。
「ていうか、おい?ホント大丈夫かお前?何かあったのか?」
その様子に思わず土屋は心配して声をかけた。
「俺は、姉さんとは8歳まで一緒にうちの城に住んでいました」
「へぇ、そうなのか……城ぉ!?」
再び明かされた矢島の家庭事情に、思わず土屋は叫んでしまったが矢島はそれを気にすることなく話を続ける。
「はい、そこでよくパーティーがあったんですが俺が6歳のとき家族やパーティーの招待客の前でピアノを披露する事になったんです」
「お、おう。ピアノをか……」
ピアノの前に立つ背丈の小さくなった矢島を想像した土屋は、噴き出しそうになったがどうにかこらえる事ができた。
「そ、それでどうしたんだ?」
「その時、姉さんがおれのためにはじめてクッキーを焼いてくれたんです。それが、ポイズンクッキー1号でした」
「……は?」
恐ろしく唐突に口に出された単語に、土屋は話の腰を折ってしまうほどの疑問の声を上げた。
「後で分かったんですが姉さんが作る料理がすべてポイズンクッキングになる才能の持ち主だったんです」
「どういうことだそれ!?ていうか、それって才能で片付けていいのか!?」
「当然、それを食べた俺は激しい眩暈と吐き気などの諸症状に襲われました。もちろんピアノの演奏はとんでもない事に……」
まさかの自分を慕っているはずの矢島にすらスルーをかまされたんじゃないかと、わずかにショックを受ける土屋をよそに話は続く。
「でもそれだけではないんです」
「え、まだなんかあったの?」
「そのイカれた演奏が高く評価されたんです」
「それってなんかだめなのか?」
「……その事に気をよくした父さんが演奏会の機会を増やして、その度に姉さんにクッキーを作るように言っていなければ、何も問題は無かったです」
「うわあ…………」
思わず、あの鼻をさすような異臭を放つクッキーを想像した土屋は顔をしかめた。しかも矢島の口ぶりでは、まず拒否する事はできなかったのだろうと察しが着く。
「その恐怖が体に染み付いてしまったせいで、今では姉さんの姿を見るだけで腹痛が…………」
「ど、ドンマイ……。良く我慢できたな」
「ええ、もし別々に暮らすのがもう少し遅かったらヤッていたかもしれません。そのくらい大嫌いです」
「お、おう。そっか……」
とりあえず土屋は、妙なニュアンスを持ったヤるという言葉を全力で気にしないで言葉を返した。あまりにもこわかったからだ。
「ボス、ものは相談なんですが……」
「え、な、なんだよ」
急に改まった態度で話しかけてきた矢島に、思わずまごついた返事をする。つい先ほどの言葉に感じ取ったニュアンスが土屋は忘れられない。
「俺は姉さんに近づけません。どうにかこの町から追い出してもらえませんか?」
だがその恐怖も続いた言葉で忘れてしまった。代わりに頭を埋め尽くしたのは一つだけ。
「……それは俺が言いたいセリフだああぁぁ!!」