ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

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Prologue
Prologue.1『覆水は盆には返れない』


 

 

 「そこを移動してくれないか」

 

 そいつはドアを向いたままの俺に、機械みたいな声でそう言った。たった今この中から出てきた俺にとって、お願いとも命令ともとれるその言い方は無性に腹が立った。俺は胸から湧き上がる苛立ちを乗せて、そいつの方を振り返りながら深くため息をついた。

 

 「お前も呼び出しを受けたのか。しかし深く思慮する必要性はない。教師の説教など、宇宙に数多存在する言葉の一つでしかない。宇宙の前に、人類の個体差など限りなく0に近い」

 「・・・」

 

 あからさまに苛ついてるって態度を見せても、そいつは聞いてもない話をくどくど話しだした。こいつの、機械みたいに無機質な声も、調子に起伏のない喋り方も、意味不明で回りくどい話の中身も、全てが耳障りだ。俺はさっさと言われた通りにそこをどいて、戻りたくもない所へ戻ることにした。俺がいなくなったドアの前でぶつぶつ独り言をつぶやくその声に、自然と歩調が強まった。

 

 「・・・ふむ、難解だっただろうか。しかしあの顔、既視感があるな・・・うん、確かに知っている」

 

 俺が去ってからも、そいつはドアには手も触れず考え込んでいた。ドアの真上に掲げられている「職員室」と彫られた石のプレートが、廊下の照明を受けて艶やかにきらめいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がこの学園にいる理由なんて、とうの昔になくなった。それは俺自身が選んだことで、後悔なんてしてない。なのに、希望ヶ峰学園は俺を引き入れた。俺の”才能”を賞賛して、尊敬して、保護しようとした。それがどんな間違いからそうなったのかは知らんが、入学した段階で将来の成功が約束されるなんて言われるここは、俺にとって希望の学園なんかじゃない。生まれ持った”才能”に自惚れてるクソみたいな奴らだけを集めた、この世で俺が最も嫌いな場所だ。

 廊下を歩いて教室に行くまでの間に、そんなクソみたいな奴らと何回すれ違っただろう。どいつもこいつも俺の顔を見て、あからさまに態度を変えた。さっきまで楽しげに話してた奴らが、俺を見つけると途端に声をひそめてこそこそ話しだす。ときどき、鼻で笑ったり馬鹿にしてるような声も聞こえた。ここに来て数ヶ月が経った辺りから、学園の連中の俺に対する扱いはずっとこんな感じだ。けど寂しいとか辛いとか思ったことなんてない。こんなテメエの”才能”にあぐらをかいて性格が歪んだような奴らはこっちから願い下げだ。

 

 「おい、清水だ」

 「ああ・・・どうせまた職員室に呼び出されてたんだろ」

 「学園内であいつが他に行くところなんかあるかよ」

 

 俺の席は教室の一番後ろの窓側だった。教室に戻った俺が自分の席に座ると、教室の隅でたまってた秋藁佐六(アキワラサロク)とその取り巻きが、他の奴らと同じように俺の陰口を話し始めた。こいつらも自分の”才能”に酔って調子に乗ってるクソ野郎共だ。しかもこいつらは数人でつるんで強くなった気でいる、どこのクラスにもいる一番質の悪いクソガキだ。俺が席に着くまでより声の大きさは落としてたけど、すぐ近くにいた俺の耳にはその会話が全部聞こえてきた。

 

 「毎日毎日、よく懲りねえよな」

 「もう最近こいつ指されなくなってね?」

 「見捨てられたんだよ。あんだけ授業の邪魔すりゃ当然だろ」

 「なんでまだ学園にいんだよ・・・。普通にできる神経がわかんねえ」

 「でもこいつがいねえとクラスの平均点上がるぞ?」

 「そりゃ困るな」

 

 こんなくだらねえ奴らには勝手に言わせておけばいい。何を言ったところで俺は自分の”才能”を取り戻す気なんか微塵もないし、たとえ取り戻してもろくな”才能”じゃない。俺はもう、ただの一般人としてこの学園を卒業してやる。そのうち”超高校級の一般人”なんてあだ名でもつくんじゃないだろうか。

 

 「ってかさ?授業妨害、無断欠席、指導無視に仲良い奴なんか一人もいねえ、挙げ句”才能ナシ”だぞ?なんでこいつ退学にならねえの?」

 「希望ヶ峰学園ってスカウト制だからな・・・。退学になんかしたら学園の威信にかかわる汚点だろ。できっこねえって」

 「まあ俺らにとっても平均点下がるのとか、最底辺が近くにいるってのはありがたいけどな。俺あいつのこと見てるとまだマシだな〜って思うんだよ」

 「お前えげつねえな!」

 

 ”才能”を育てるのがこの学園の理念なら、"才能"なんかとっくに捨てた俺はそれに従う理由も義務もない。だからこの学園のルールなんかには縛られない。そもそも希望ヶ峰学園が勝手に俺のことを引き込んだんだ、俺が何をしようととやかく言われる筋合いはない。こいつらが俺を迷惑だと感じても悪いのは俺じゃない、まだ俺を退学にせずそのくせ勝手なルールを押しつけてくる希望ヶ峰学園だ。

 

 「つうか”才能ナシ”なのになんで希望ヶ峰に入れたんだよ?学園長の気でも触れたか」

 「裏口入学とかじゃねえの?うちも言ったって私立校だし、金積まれれば弱いだろ」

 

 馬鹿が。なんで俺がこんなクソみたいな場所に、わざわざ金積んでまで入学しなきゃならねえんだ。学歴至上主義のお利口さんとかならあり得る話か知らんが、俺の家は普通の一般家庭だ。希望ヶ峰の理事長クラスを動かすなんて国家予算レベルの金を用意できるわけがない。希望ヶ峰から来た入学通知に舞い上がった親が勝手に入学手続きをしてなきゃ、こっちから願い下げだっつうの。

 

 「俺ならあんな奴、何百万・・・いや何億積まれたって断るけどな。あいつといたら俺たちの”才能”までなくなりそうだぜ」

 「っていうかそこまでして希望ヶ峰ってネームバリュー取りに来るとか、どんだけ必死だし!まあそれもある意味、”才能”かもしれねーけどな!」

 

 お前らが”才能”をなくそうが俺には関係ない話だ。俺はただ一般人として振る舞ってるだけだ。それでなくなるようなしょうもない”才能”なら、そのまま持って卒業したって役に立つわけがない。もしもの時のいちゃもんつけられるのも癪だが、俺が自分の意思でここにいるわけじゃない以上、俺には何の責任もない。

 

 「そんなんで”才能”認定されんなら裏口入学した奴はみんな”超高校級の学歴信者”ってとこだな!くだらねー!」

 「それ高校生カンケーねえじゃん!」

 

 くだらねえ。俺が自分からこの学園に来るわけがねえだろうが。声がでけえだけでただの害悪どもが言えたことなのか。

 

 「なんにしてもいい加減にしてくれよな!”才能”もねえのにいつまでも居座られちゃ迷惑なんだよ!」

 

 いなくていいならいつだって出て行ってやる。俺だってこんなクソの溜まり場にいつまでもいたくねえ。

 

 「考えてみりゃあさ、こいつが入学してなきゃ一つ席が空いて、他のちゃんと”才能”を持った奴が入ってきたかもしれねえんだよな?」

 「確かに。うわあ〜、あんな奴のせいで希望ヶ峰に来るチャンス逃すとか可哀想過ぎる!」

 「ただ”才能”がないだけじゃなくて人一人分の希望を潰してるとか、どんだけクズだよ!?」

 

 俺が知ったことか。んなもん俺に席を取られるような奴の技量不足と学園側が悪い。俺は何も悪くない。勝手なことばっか言うんじゃねえ。

 

 「”才能”もねえくせに小狡い手で入学して希望一つ潰して他の”才能”も消そうとして、なのに平気な顔で毎日生きてるとか同じ人間とは思えねえな!あーぁ!退学でもなんでもいいからさっさと消えてくんねえかなあ!」

 「だまれ!!!」

 

 思わず俺は、秋藁たちのくだらない馬鹿話を止めさせた。ついでに日頃の鬱憤とかたまってるストレスとか、そういうものもまとめて吐き出そうと思って、腹の底から怒鳴り声をあげた。教室内だけじゃなくて、廊下や校庭からも一斉に視線が向けられるのを感じた。でもいまさら、目立つことを気にしててもしょうがない。俺がこの学園で生活してきた中で注目を浴びなかった日なんて、最初の数ヶ月しかない。むしろ最初の数ヶ月の方がマシだったかも知れない。

 そんなことはもうどうでもよくて、とにかく今はこの勝手なことばっか言ってる人の形をしたゴミクズ共に言い返さないと気が済まない。

 

 「あ?なんだよ」

 「だまれよ!!調子乗った馬鹿共があれこれほざきやがって!!誰がわざわざテメーらみてえなクズ共のいるとこに来ようと思うんだ!!何も知らねえくせに勝手なこと言うんじゃねえ!!」

 「はあ?」

 「テメーらはいいよな!!たまたま持って生まれた"才能"さえひけらかしてりゃ将来が約束されるんだからよ!!そうやって"才能"のない奴ら見下してバカにしてても勝手に成功してくんだろ!!努力なんかしたこともねえくせして偉そうなことばっか言ってんじゃねえクソ野郎ォ!!」

 

 呆気にとられた秋藁の間抜け面に、唾を飛ばしながら思いっきり喚き散らした。一気に言い切った後に息を吸った一瞬に、頭の中の熱がすうっと引いていくのを感じた。その後の誰も喋らない間は、俺の荒い息遣いだけが聞こえてきた。

 

 「出てけ」

 「・・・?」

 

 ぽつり、と秋藁がつぶやいた。その目は俺をどこまでも見下してた。軽蔑と拒絶に染まった、とても人間の相手に向ける目じゃなかった。秋藁はその後にすぐ語気を荒げて、その取り巻きから教室や廊下やグラウンドを巻き込んで、あっという間にその波は広がった。

 

 「出てけよ。俺らと一緒にいるのが嫌なんだろ?だったらすぐこの学園から出てけよ!」

 「そうだ!無能のくせに希望ヶ峰にいるなんて厚かましいんだよ!出てけ無能!」

 「お前みたいな奴もうたくさんだ!元の学校に帰れ!」

 「この学園に無能なんていらねえんだ!お前みてえなクズ必要ねえんだよ!」

 「出てけ!出てけ!」

 

 いつの間にか、さっきの俺の怒鳴り声よりずっとデカい声になってた。思わずぶちまけた俺の感情が、文字通り波紋を呼んだわけだ。群れた奴らの罵詈雑言と一緒にボールやら消しゴムやらが飛んでくる中、俺はその場にいる奴ら全員をぶん殴りたい衝動をなんとか抑え込んで、そいつらの要求に応えてやることにした。だいたいこいつらに言われなくても、こんな所はもううんざりだ。

 

 「テメエら全員、死んじまえ」

 

 吐き捨てた言葉は誰にも聞こえなかったと思う。俺は自分の机を蹴り飛ばして、何も持たずに教室を後にした。




実は主人公のフルネームも才能も本文の中に書かれてないっていうことに、できあがってから気付いてしまいましたので、その二つだけを後書きにでも書こうと思います。秋藁くんは、名前の由来が黒澤明である、ということだけ言えば分かっていただけるかと。

・主人公
清水翔(シミズカケル) ”超高校級の努力家”

画像はTwitterの方に上げようと思います。都合でpixivが見られない、見たくない、見えない、その他という方はそちらへどうぞ。
※注意※
作者が普段から使ってるアカウントなので、この小説と関係ない内容ばっかりです。ご理解の上でご覧下さい
→@substitute_jan
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