(非)日常編1
何一つ前進してねえ。昨日は一日何をしてたっけ?誰かに記憶を抜き取られたように思い出せねえ。ただ、昨日の朝に起きたことは全部覚えてる。飯出の死体、有栖川の処刑、モノクマの嘲笑と晴柳院の噎び泣き。こんなことを繰り返さなきゃならねえのか。これだったら希望ヶ峰の方が何倍もマシだ。だけど、希望ヶ峰に戻るためにはやらなきゃならねえ。誰にも気付かれないよう、誰にもバレないよう、殺人をしなきゃならねえ。
「・・・できるわけねえだろ」
“超高校級の才能”を持った有栖川でさえ、犯行の全てを明らかにされたんだ。何の“才能”も持たねえ俺が何をしたところですぐバレるに決まってる。何より、あんな惨い殺し方をされるって考えただけで、殺しなんてする気にならねえ。
どうすりゃいいんだ。モノクマは俺たちに何をさせてえんだ。何が目的なんだ。
何もわからないまま、俺は食堂に向かった。足が重い。あんな極限の緊張感の疲れはまだ後引いてる。宿舎に出入りする時に視界に映る赤い扉が鬱陶しい。これはもう、単なる邪魔なもんじゃなくなった。
「おはようカケル。コーヒーはいかが?」
「コーヒー牛乳の甘いやつ」
「オーケー」
朝のこのやり取りはもう恒例だ。毎朝一番に食堂に来てるアニーが、後から来る奴らにコーヒーを勧める。十六個並んだカップのうち二つは、もう使われることはない。
「古部来の奴はまた寝坊か。まったく、まるで機械のような若造じゃ」
「案外落ち込んでたりしてな。昨日、有栖川と晴柳院にあんな言い方して罪悪感感じてたり」
「・・・それはそれでらしくないわね。それより、晴柳院ちゃんの方が心配だわ」
屋良井の言葉は現実味がない。罪悪感の部分じゃなくて、昨日までは有栖川が生きてたってことだ。もう遠い昔の気がする。けど飯出や有栖川の死体が鮮明に脳裏に浮かぶのは、それがまだ新しい記憶のせいってこともあるんだろう。
「様子を見てこようか」
「今はそっとしておいた方がいいと思うな。彼女の性格的に、心配してるのは隠しておくべきだよ」
「そうか・・・」
重苦しい空気が食堂にのしかかる。朝飯を適当に済ませてる間に、古部来と晴柳院が一緒に起きてきた。めちゃくちゃ意外だったが、たまたま廊下で会ったらしい。晴柳院の方は泣き疲れたのか、それとも寝てないのか、目の周りや足取りにそれが表れてた。古部来は晴柳院を気遣うこともなく、簡単に飯を済ませてさっさと部屋に戻ろうとした。それを後ろから六浜が呼び止めた。
「待て、古部来」
「・・・」
「どこに行くつもりだ。また部屋にこもって詰め将棋か」
「何が悪い」
「お前は何も感じないのか。昨日起きたことにも、今の晴柳院にも」
「俺なりに思うところはある。敢えて言うことでもないだけだ」
「そうではない!」
背を向けたままの古部来に、六浜が席を立って言う。昨日から古部来は、ここにいる全員を敵に回すような真似ばっかしてる。有栖川と晴柳院を非難したり、いつも通り何の感情も表に出さない。言葉もいつも通り刺々しい。ただ、何も否定する部分がない。
「晴柳院に対して謝罪はないのかと言っている。何を謝ることがある、とは言わせんぞ。昨日の貴様の発言は度が過ぎていた。なぜあそこまで非難する必要があった!なぜそこまで周囲から孤立しようとする!」
「・・・甘い。甘いぞ予言者。この状況を理解していればそんなことは言えん」
「なに?」
古部来の発言を追及する六浜を馬鹿にするように半笑いで、古部来は返した。
「いま俺たちが置かれているこの環境、そしてモノクマと名乗るあの輩が殺し合いを強いる希有な現状。そして実際に殺人は起きた。これで貴様が理解できん方が俺にとっては不思議だな」
「状況が分かっていないのはお前の方だ古部来。これだけ特異な状況だと分かっているならば、我々はなおのこと結束を深めるべきではないのか。自ら孤立するようなマネをして何の意味がある?」
「俺が貴様らから離れているのではない、貴様らが俺を孤立させようとしているのだ」
「・・・そうか」
なんでこいつらはこんな冷静なケンカができんだ。そもそも古部来はつまるところ、何が言いてえんだ。それに、古部来が離れているんじゃなくて俺らが古部来を孤立させようとってどういうことなんだ。わけのわかんねえことばっか言って、結局大事なところが何も分からねえ。いつもいつもこいつらは自分たちだけで話を進めやがる。
そうやって耳障りなケンカを傍観してたら、六浜は諦めたのか深くため息を吐いて言った。
「なら古部来。私からも言わせてもらうぞ」
「好きにしろ」
「貴様はいずれ死ぬ。貴様がここを生きて脱出することはない」
「・・・」
六浜の言葉に、俺たち全員に戦慄が走った。“超高校級の予言者”にそんなこと言われたら、普通不安になるに決まってる。だが、古部来は鼻で笑って食堂を出た。どういうつもりで六浜が言ったのかは分からねえが、どっちも大概人間らしくねえな。
「もういいよ六浜ちゃん。古部来なんか放っとこ」
「・・・いや、私も少し熱くなった。あとで謝罪に行かなければ」
「むつ浜が謝ることなんかねえよ!あいつが晴柳院に謝りゃ済む話だったのによ!」
「そうだな・・・それより屋良井よ。私はむつはまではない、ろくはまだ」
「え、あ、そっか。ま、気にすんな」
今ので六浜は熱くなってたのか。裁判の時に動揺しまくった時の方がよっぽど顔が赤かったような気もするが、そんなことはどうでもいいか。
「では、余計ないざこざを生む害虫が去ったようなので、私から皆さんにご報告があります」
「が、がいちゅうって・・・相変わらずマドカはハードな言い方するわね」
「で、報告ってなに?」
「テラスのあった湖畔の建物ですが、鍵が外れて中に入れるようになっていました。お先に色々と中を見てきましたよ」
「なにっ!?本当か!?」
「湖畔の建物っていうと、あの二階建てのやつだね。よし、行ってみよう!」
「ぐえっ!?・・・おい!」
穂谷が言ってんのは、ここに来た日に六浜と古部来が調べてたあの建物か。ガラス張りだが中が暗くて全然見えなかったのを覚えてる。あそこの鍵が外れてるってのはどういうことだ?確か飯出の捜査の時もあそこは鍵がかかってて入れなかった。それに鍵を開けられる奴っつったら・・・あのエセパンダしかいねえ。
単純にどんな建物か気になる、それに他の奴らが知ってて俺だけが知らねえのも後々面倒が起きそうだから見に行こうと思った。そんな俺の意向は無視して、曽根崎が俺のパーカーのフードを引っ張りやがった。後で湖に突き落としてやる。
四角い建物の前に立つと、勝手にドアが開いた。ガラスの自動ドアか。足を踏み入れると勝手に照明がついて中の様子がよく分かるようになった。ぱっと見の印象は、図書館みてえだった。
黒っぽいカーペットが隙間なく敷かれたフロアは反対側のテラスまでよく見える。入口を背にして左側にはいくつも本棚が並んで、そこには色んな種類の本や雑誌がキレイに並べられていた。手前にあるランプの置かれたテーブルは読書用のものだろう。なぜか入ってすぐ右手には受付カウンターみたいなのが置かれて、一応パソコンとかの用品は揃ってるみてえだ。右側の螺旋階段で二階まで行けるみたいだ。
「わあ・・・図書館?なんでこんな建物が・・・」
「むっ!それより、ここにインターネットが置いてあるぞ!これを使えば外と連絡が取れるのではないか!?誰かインターネットに詳しい奴はおらんか!」
「明尾サン、インターネットは物体じゃないよ。それはコンピューター。でも連絡は取れるかもしれないね。ちょっと貸して」
「引き出しとかなんか入ってたりしてねえか?」
「もう少し奥の方も調べてみるとしよう。曽根崎と明尾と屋良井は入口周辺を調べてくれ」
「おっす!」
今時分厚い箱タイプのパソコンだが、電源は入るようだ。こういうのに強そうな曽根崎はそれをいじって中から情報を引き出そうとして、明尾と屋良井はカウンター内の資料や引き出しを調べることにした。六浜は一階をもっとよく調べようと奥に進む。俺はここが図書館らしいって分かっただけで十分だ。後のことはこいつらに任せて帰ろうとしたが、今度はフードじゃなくて裾を掴まれた。
「あん?」
「どこへ行く、清水翔」
「・・・部屋」
「なぜだ?お前はこの建物に関しての情報を満足に得たのか?」
「ああ」
「そうか。では質問しよう。この建物は一体何だ?」
「図書館だろ」
「なるほど。ではここに陳列された書籍類はどこから運搬されたものだ?」
「んなこと知るか」
「ではこの建物は、あのモノクマによって管理されているのか?」
「知らねえっつってんだろ!」
「・・・ということは、お前がこの建物に関して得た情報は現時点では不十分ということになる」
めんどくせえ。曽根崎がパソコンを必死に調べてる今がチャンスだと思ったら、今度は望月に引き留められた。曽根崎だけじゃなくてこいつも俺を連れ回すのか。もう勘弁してくれ。
「何かの手掛かりが存在する可能性がある。調査する手は多数の方が効率的だ。協力すべきではないか」
「・・・っああ!」
いらいらをため息に乗せて一気に吐きだし、俺は望月をどかして奥に歩いて行った。こうなったらさっさとここの捜索を終わらせた方が早い。ったくなんで俺はこんなめんどくせえ奴ら二人にも絡まれなきゃならねえんだ。
ずかずか中に入ってくと、六浜たちが手分けしてフロア内を調べてるところだった。受付カウンターの向かいは磨り硝子で仕切られてて、その向こうは漫画喫茶みたいな個室が六個くらい並んでた。ドアは全部開いてて、一番手前の個室に入ってみた。「6」のプレートがかけられた重厚な造りのドアは黒光りして、内側の壁にぴったり収まってた。鍵は内側からしかかけられない造り、それからドアは鍵をかけなきゃ勝手に開くのか。普通逆だろ。
中は填め込みの板をテーブル代わりに、薄型テレビと小さな本棚、それから色んな文房具や工具が立てられたペン立て、リクライニングで寝床にもなりそうなイスなんかがある。壁にはヘッドフォンがかけられて、引き出しの中には毛布が入ってた。
「ここで寝てくれと言わんばかりの内装ですね。規則では個室以外での就寝は違反とされていましたが」
「しかしこの毛布は有効利用できそうだ。こうすれば暖がとれる」
勝手に毛布に包まる望月と、隣の部屋を捜索してた鳥木が言ってきた。毛布のタグやヘッドフォンの本体に番号が書かれてて、数字からして部屋番号と備品のチェックに使うんだろう。この六個の個室は全部同じ風になってんのか。番号がなきゃ区別つかねえな。
さてと、個室も見たし本棚も特におかしなところはなさそうだ。後は二階か。俺は二階を見に行こうとした。が、また裾を掴まれた。
「清水翔。あれを見てみろ」
「あ?六浜じゃねえか」
「六浜童琉が見ているものだ」
「は?」
望月に言われた先を見ると、六浜が突っ立ってた。本棚と壁の間に、吹き抜け構造になってる狭い空間がある。そこだけ壁の角に照明が置いてあって、壁を薄暗く照らしてた。それを見たのか、六浜は壁の方を見たまま呆然と立ってた。俺と望月が近付いてくと、その見ているものの全体が見えてきた。
壁一面にでかでかと描かれたのは、シンボルマークだった。それはモノクマのものでも、初めて見るものでもなかった。俺が、俺だけじゃなくここにいる奴ら全員が同じはずだ、何度も見たものだ。
「なぜ・・・こんなものが?」
「このマークって・・・希望ヶ峰学園だよな?」
「間違いない。電子生徒手帳に表示されるマークと完全に一致している」
「どういうことだ・・・」
そこにあったのは、プリントされたように少しの狂いもなく描かれた希望ヶ峰学園のマークだった。建物にマークがあるってことは、この建物は希望ヶ峰学園のものなのか?いや、モノクマが勝手に掲げてるって可能性もあるはずだ。だがなんだ?この妙な胸騒ぎは・・・。ただのマークなのに、少しの未練もなかったはずのマークなのに、なんでこんなにざわつくんだ。
ん〜〜・・・なんか下は本とかいろいろたくさんあってムツかしそうなとこだったなあ。もっとおれでもたのしめそうなもんがねえかなって上にのぼってきたけど、こっちはなんだ?いろんなかたちのいろんなもんがいっぱいあるぞ。
「滝山、あんた昨日ちゃんとお風呂入った?」
「ん?いや、ねむかったからそのままねちった!」
「道理で・・・。後で僕がシャワーの使い方教えてあげるよ」
「そうか?ありがとなささど!」
いきなりいしかわにおこられちった。でもふろはいるとぬれるからイヤなんだよなあ。でもほたにとかしみずに会うたびイヤなかおされるのもなんかこええし、あとでささどにおしえてもらおっと。
「それにしても、下は図書館みたいだったけど、二階はまるで・・・」
「トランペットにフルートにドラムセット、グランドピアノにエレキギターまで・・・まるで音楽室ね」
「オーケストラとバンドが一緒くたになって、そのどさくさに紛れて民族楽器が転がり込んできたようなラインナップだね」
「なんだこれ!たたくと音が出るぞ!」
「うるさい!!シンバル叩くな!!」
なんかヒョウタンに糸つけたり木やてつでできたいろんなものがならんでた。たいこくらいはおれにも分かるぞ。それからこのうすっぺらいやつはたたくとしゃんしゃんなっておもしれえし、くろいのとしろいののならんだやつもぽろんぽろんておもしれえ。でもあそんでたらいしかわにまたおこられちった。
「うるさいですよお猿さん。静かになさい」
「あっ、穂谷さん」
「うん?あ、ほたに、おまえそれのつかいかたしってんのか?」
「当然です。私を誰だと・・・いえ、獣に芸術を尋ねるなど愚問でしたね。失礼しました」
「???・・・ま、いいってことよ!」
「穂谷ちゃんって楽器もできるんだ」
うしろからいきなりはなしかけられてびっくりした。ふりかえったら、ほたにが糸ヒョウタンをかたにのせてた。手に長いもんもってたからひっぱたかれるかとおもったけど、そんなことするほどひどいやつじゃないはずだ。ないはずだよな?
「基本的なものを基本的なレベルでできるだけです。聴くのは構いませんが、練習の邪魔はなさらないようお願いします」
「練習ってなんの?」
「必要な時の、です。いつどこの公演でどんな楽器を弾くことになるか分かりませんから」
「はあ・・・」
なんかよくわかんねーけど、ほたには糸ヒョウタンに手の長いやつをあててこすった。そしたらその糸のところから、きいたことのねえ音が出た。たかくてキーンって耳が少しいてえけど、ずっときいてるとなんか体ん中があったまるっつうか、ほんわかしてくるみてえな。そんなようなかんじになった。
「す・・・すげー!」
「た、滝山くん。静かにしないと」
「ここの楽器は触っていいんだ。飾ってあるものだったらモノクマに止められるかと思ったけど」
「あなたたち・・・三味線の皮になりたいのですか」
「ご、ごめんなさい!」
いきなり音出すの止めたほたにがわらいながらおこってる。ヤベえとおもったらささどが先にあやまった。けどおれはさっさとそこをはなれた。おれのカンがここにいちゃいけねえって言ってる。
一階のブックシェルフにはたくさんの本が並んでたわ。だいたいワタシが思い付く種類の本はほとんど揃ってたし、だいぶ昔の本もきれいなまま並んでた。ここのオーナーはとても本が好きな人だと思ったけれど、よく考えたらここもモノクマの管理下にあるのね。さっきティータイムにしようとしたら、建物の中ではフードもドリンクもダメだって言われたわ。生徒手帳にもルールが追加されたのだし、よっぽどここが大切なのね。
でもテラスがあるのは知ってたからティーブレイクセットを持ってきてよかったわ。元気がないミコトと一緒に、きらきら光る湖を見ながらティータイムにすることにしたの。ミコトがちょっとでもリフレッシュできるようにね。
「まだちょっとだけ寒いけれど、コーヒーが美味しい温度ね。ミコトは、グリーンティーラテが好きだったわね」
「・・・はい」
お気に入りのティーカップにコースター、それからワタシが炒った豆をワタシのオリジナルブレンド専用のコーヒースプーンで合わせて心を込めたコーヒーミルで挽いて、香りを邪魔しない紙フィルターを敷いて取り寄せのミネラルウォーターを沸かしたお湯で丁寧に漉して。そして仕上げに特注のシュガーとミルク、それからミコトのにはグリーンティーパウダーもね。
「はい。ホットだからベロを火傷しないようにね」
「・・・ありがとうございます」
この前カナタとドールにコーヒーを淹れた時は、ワタシのこだわりの品々に驚かれたものだけれど、ミコトはちっともリアクションがなかった。そんな余裕もないのね。だけど、このコーヒーを飲めば少しは変わるはずよ。ワタシの特製コーヒーだもの。
「・・・あちっ!」
「あらあら、ゆっくり飲まないとせっかくのブレンドも台無しよ。まずは豆のフレーバーから楽しまないと」
「ケホッ・・・!ごご、ごめんなさい!」
「あやまることなんてないのよ。ミコト、落ち着いて」
いきなりカップを傾けるからびっくりしちゃったのね。ぴょこんと跳び上がって噎せるミコトは、ワタシが気分を悪くしたんだと思ってあやまった。だけどそんなことじゃ怒ったりなんてしないわ。ワタシはミコトに、このコーヒーをちゃんと飲んでほしいの。
「ふう・・・ふう・・・」
「お味はいかが?」
「ん・・・。あっ・・・お、おいしいです・・・」
「本当に?ミコトの正直な感想をきかせてちょうだい」
「・・・・・・・・・に、苦いです。とても」
ミコトは本当に正直な娘ね。だけど、その感想が聞きたかったの。だってこのコーヒーはワタシのスペシャルブレンド、ワタシが本当に助けてあげたいと思った人にしか出さない特別なものだから。
「ミコト、あなたは優しい娘ね。人に優しすぎて、自分のことをいじめてしまうタイプね」
「えっ」
「ジョージのこと、ローズのこと、それにチエのことまでミコトは責任を感じてるんでしょう?」
「あうぅ・・・そ、それは・・・。だだ、だけどうちが忘れてもうたら飯出さんも有栖川さんも・・・」
「いいのよ、忘れなくって。むしろいつまでも覚えててあげれば、あの子たちも嬉しいんじゃないかしら」
「あ、あのう・・・?」
ちょっとハードなやり方だけど、ミコトが元気になるにはジョージやローズのことを忘れさせるより、受け容れさせないと。きっとミコトはまだ心のどこかで、ジョージが殺されてしまったこともローズがそれをやってしまったことも、自分のせいだと思ってる。
「辛いことを言うけれど、ジョージもローズも、もういないの。それはどうしたって・・・神様にだって変えることはできないの」
「・・・うぅ」
「ミコトがあの子達のことを忘れないのは大切なことよ。だけど、そうやって悩み続けてばかりでもいけないわ」
「で、でもうちがもっと飯出さんとお話してれば・・・有栖川さんが飯出さんに殺意を感じはったのはうちがきちんと・・・」
「違うわ。ミコトがジョージにはっきり言っててもきっと・・・もう手遅れだったはず。なんでも自分のせいだと思うのは傲慢だ、っていう言葉を知ってるかしら」
「へ?」
「誰にだって出来ることと出来ないことがあるわ。だからなんでも自分のせいだと思い込むのは、自分がなんでも出来ると思い込むことと同じなの。だけど、それってちょっとプライドが高すぎじゃない?」
「・・・はい」
「出来ることしか出来ないんだから、無理をすることなんてないの。必要以上に責任を感じたって苦しいだけ。忘れろとは言わないけど、あなたが苦しんでてもローズやジョージは喜ばないんじゃないかしら?」
ワタシがそう言うと、ミコトは静かになってうつむいた。余計に落ち込ませちゃったかしら。だけどため息をついたり肩を落としたりそういう気配はないわね。何か考え込んでるのかしら。
「・・・アニーさんの言うこと、分かります」
少しだけ顔をあげて、ミコトは小さくつぶやいた。うっかりしたら聞き逃してしまいそうなくらい小さな声だったけれど、ワタシはしっかり聞いたわ。
「うち、このままではあかんのです。うちがくよくよしてたから、飯出さんはうちを心配して、特別に気に懸けるようになってしまった。うちがずっとびくびくしてたから、有栖川さんがうちの代わりに飯出さんに襲いかかった。うちがこんなままじゃ・・・あかんっていうのは分かってるんです・・・」
「・・・そうね。今が一番、苦しい時よね」
ミコトはもう気付いてる。ブルーになっているだけじゃ変わらないって。ミコト自身が変わらなきゃいけないって。だけど、そう簡単にできることじゃないわ。
「うち・・・変われるでしょうか・・・。もう二度と、飯出さんと有栖川さんみたいなことにならんように・・・変われるでしょうか」
「・・・さあ。それは分からない。でも、変わるための努力はできるはずよ、誰にだって」
「・・・・・・はい。がんばります。お二人のために」
とっても弱々しくて、頼りなさなんてない。少し叩けば壊れてしまいそうな気がする決意。だけど、その気持ちが生まれただけでも大きな一歩よ。真っ暗闇の中にあるマッチの灯りは、太陽の下のシャンデリアよりも輝いて見えるんだから。
「ありがとうございます、アニーさん」
「いいのよ。ワタシはあなたにマッチをあげただけ」
「マ、マッチ・・・ですか?」
「うふふ。じゃあまず、それを飲み切ってちょうだいね」
「えぇ・・・」
ちょっと冗談めかして言うと、ミコトは首を傾げた。こうやってこの娘の可愛い顔を見ると、ワタシも安心できるわ。やつれた顔なんてもう見たくないものね。
ワタシが笑顔で残りのグリーンティーを勧めると、ミコトは恐る恐るそれに口を付けた。はっきり断れるようになるのは、まだ先かしらね。だけど一口飲んだら、ミコトはまた驚いた顔をした。
「・・・あ、あれ?」
「どうしたの?」
「ちょっとだけ・・・さっきよりも甘いです。な、何か入れた・・・わけないですよね」
「ほんの少しだけ入れたわ」
「えっ!?」
ミコトの希望っていう、仄かに甘いエッセンスをね。
引き出しの中にはなんかの書類。日本語のもんもありゃ英語のもんも。さっぱり読めねえ。読めたところで脱出やモノクマについての情報に繋がりそうもねえしな。やっぱ本命は、曽根崎が解析してるパソコンか。にしても時間かかるな。
「どうだ曽根崎?なんか分かったか?」
「いや・・・まだそれらしいものはないね。っていうかセキュリティが厳重で中身にアクセスすらできないね」
「始まってもねえのかよ!」
「でも大丈夫、広報委員会には“超高校級のハッカー”がいたからね。ボクもそれなりにできるよ」
「屋良井の才能はパソコン関係ではないのか?」
「ん?ははっ!オレの才能は“超高校級の翻訳者”だからな!パソコンは分からんがプログラミング言語だって訳せるぜ!」
「ならばここにある資料の分析を頼んでも良いか?」
「あ、わりい、ウソ。ごめん。本当は“超高校級のサッカー選手”」
「あんまり信用ならないなあ。前言った“超高校級のバスケ部”ってのもウソだったし」
「お前さんいまいち役に立たんのう」
うっせ!オレだって本当の事言えんならそうしてえよ!できねえから誤魔化してんだろうが察しろ!
ま、とにかくこっちは曽根崎に任せて、オレと明尾はカウンター周りをもっとよく調べねえとな。もしかしたら何かあるかも知れねえ。
手当たり次第にどんどん引き出しを開けていく。やっぱりあんのは書類、書類、書類・・・ん?
「なんだこりゃ・・・?」
「どうした屋良井」
「引き出しの中にこんなもん入ってた。モノクママークの・・・メダルか?」
書類の山の中で指先に触れた冷たい金属の感触に少しだけ警戒しながら、オレはそれを手の平に乗せた。十円玉みてえな色で、どっかの寺の代わりにモノクマのマークが彫られてる。数字が書かれてないところからして、金ってわけでもなさそうだ。なんだこりゃ。
「それならわしも持っておるぞ。山を少し掘った時に出て来たんじゃ」
「マジか。持っててもなんも変なこととかねえよな?」
「特にわし自身に何かあったということもなかったぞ。それに、確か石川も同じ物を持っておったはずじゃ」
「なんでお前らそれを隠してんだよ・・・」
「隠しておったわけではない。ただ、言う必要がなかっただけじゃ」
なんだそりゃ、望月みてえな言い方してよ。学者ってのはみんなこんな感じなのか?ま、別に損したわけじゃねえからいいけどよ。でも、もしかしたらこのメダルが何かの手がかりになるかも知れねえ。オレはそれをポケットにしまった。
「あっ、できた」
なんでもないような風に曽根崎が言った。メダルのことも気になってたからうっかり流しちまったが、すぐ気付いてパソコンの画面に食らいついた。
「マジか!!どうだどうだ!!なんか分かったか曽根崎!!」
「こっから脱出する方法は!?希望ヶ峰に戻る方法は!?あのモノクマは一体なんなんじゃ!!」
「うわわわっ!一気にきかないでよ!」
「とにかく外部と連絡が取れればこっちのものじゃ!救出に来てもらおう!」
「それが・・・このパソコン、インターネットに繋がってないんだよね。有線も無線も」
「・・・ま、当然か。モノクマがこんな簡単な見落としするわけねえよな」
「むしろこのパソコンは・・・良くない物が隠されてるかも知れない。何より、このデスクトップの壁紙、見てみなよ」
そう言って曽根崎は一旦ファイルを閉じて、オレと明尾に画面を見せた。パソコンの画面は緑一色に染まってて、パソコン自体が古いのか砂嵐みたいなノイズが時々画面を走る。そんで、そのど真ん中には見慣れたシンボルマーク。白と黒のチェック模様で四マスに区切られ、それをまたいで万年筆と鋭い歪な線が交差する翼の生えた盾。オレたちはこれをよく知ってる。
「これは・・・希望ヶ峰学園のマークか。どういうことじゃ?」
「このパソコンが希望ヶ峰学園の所有物ってことだよ。そしてファイルの中には、この建物の情報やフロアマップが入ってた。ここはどうやら『資料館』らしいね。一階が本や新聞、映画などの大衆メディア、二階は音楽エリアみたいだ」
「ってことは、お前さんの本領ではないのか。曽根崎よ」
「まあね。もう少し詳しく調べてみる必要がありそうだけど、このパソコンにはこれ以上の情報はなさそうだ」
「う〜ん・・・そんな期待してたわけじゃねえけど、残念だな・・・」
希望ヶ峰のマークは気になるが、パソコンにあったのはこの建物の情報だけか。ちっ、まあいきなりこのパソコンで外と連絡とれて脱出できるなんて甘いことは考えてなかったけど、ここまで何もねえとやっぱり残念だ。やっぱ直接この中調べた方がいいのかもな。
「あ、でも資料の検索機能はついてるよ。このパソコン」
「いらねえよ!!」
『コロシアイ合宿生活』
生き残り人数:残り14人
清水翔 六浜童琉 晴柳院命 明尾奈美
望月藍 石川彼方 曽根崎弥一郎 笹戸優真
【有栖川薔薇】 穂谷円加 【飯出条治】 古部来竜馬
屋良井照矢 鳥木平助 滝山大王 アンジェリーナ
アニーさんの独白は書いてて恥ずかしいです。