ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

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(非)日常編3

 寄宿舎の望月の部屋の隣にある、学校ならどこにでもあるようなロッカー。ただのちゃちいロッカーにしか見えねえが、それを開けると中には妙なガチャガチャマシーンが置いてあった。

 

 「なんだこりゃ」

 「モノクマが用意したらしい。石川彼方が捜査中カメラを使用していただろう。あのカメラはここから入手した物らしい」

 「メダル一枚でガチャガチャ一回だぜ。しかも元手タダ!こりゃやらねえ手はねえだろ!」

 「カメラなんかいらねえよ」

 「他にも色々出るんだって。んじゃ、取りあえずオレがやってみんぞ。良いモン出てくれよ!」

 「そう簡単に出るわけねえだろ」

 「バッカ!オレは“超高校級の名人”と呼ばれた男だぜ!ガチャガチャで目当てのもんを出すなんて朝飯前だよ!」

 

 なんだそりゃ。“超高校級”って付けりゃそれっぽくなると思ってんのかよ。だいたいこいつのその手の発言はもう信じねえことにしてる。こいつほど自分の“才能”を隠すのもわけ分かんねえが、それと似た“才能”かも知れねえし話半分で聞いてた。

 朝飯だけじゃ満足できなくて食堂でなんか食おうと行ったら、食器棚に隠されてたモノクマ印のメダルを見つけた。何かと思ってたらそこにモノクマが現れて、寄宿舎のガチャガチャで使えるものと説明された。暇だったから何の気なしにその場所に行ってみたら、望月と屋良井がちょうどガチャガチャに興じてるところだった。こいつらもどっかでメダルを探してきたらしい。

 屋良井は機械の前で二回手を叩いて、モノクマ印のメダルを入れてでっけえレバーを思いっきり捻った。がちゃがちゃ、っていうよりもっと変な音がして中のカプセルが暴れまくって、取り出し口に一個だけ落ちてきた。

 

 「さ〜て、何が出るかなっと。この瞬間がわくわくすんだよなあ」

 「所詮ガチャガチャのレベルだろ」

 「なんだこりゃ。タオルか?」

 

 屋良井がカプセルを開けた。中に入ってたのは、薄青いタオルだった。見るからに手触りが滑らかでふわふわしてそうな、気持ちよさそうなタオルだ。広げると、明らかにカプセルの体積よりデカかったけど、そこには突っ込まないことにした。今更モノクマにそんなこと通用しねえ。

 

 「最高級シルクのタオル、か」

 「ガチャガチャのレベルじゃなかった!」

 「いやすげえけど、オレこんなんいらねえよ。清水か望月いるか?」

 「いらん」

 「私も不要だな」

 

 欲しい奴は欲しいんだろうが、ここにこのタオルが欲しい奴はいなかった。っていうかシルクってタオルにしていいのか?よく分かんねえが、こんなもんをガチャガチャに入れとくって、モノクマはどういうセンスしてやがんだ。わけ分かんねえな。

 

 「っしょお!もっかい!」

 「ところで、お前は何を欲している?」

 「モノクマに聞いたらさ、すっげえかっけえデザインの万能ナイフがあるっつうからそれ狙ってんだ」

 「万能ナイフか、なるほど。もし私が引き当てたら譲ろう」

 「おっ!マジか。頼んだぜ望月!」

 

 そう言って屋良井はまた取り出し口からカプセルを取り出した。中に入ってたのは、やたらデカくて派手な色合いのデザインがされた物だった。なんだこりゃ。

 

 「それは一体何だ?」

 「十万時間電池。十万時間連続で使えるドデカい電池。専用ケース(別)で充電も可能・・・なんだよそれ」

 「セットで当てなきゃならんとは・・・セコい商売みてえだな」

 「っつうか十万時間って十年以上あんぞ。絶対ウソだろ」

 「実に画期的だな。しかし大きさが難点だな」

 

 同封されてる説明書を屋良井が読み上げた。こんなデカい電池使い道がねえよ。十年持つわけもねえし完全にハズレだなこれ。屋良井はそれもカプセルに戻してポケットにねじ込んで、最後のメダルを入れてレバーを回した。出て来た緑のカプセルは透けて、中が薄く見える。

 

 「もっこり丸。超特大のマリモ。なんだよこれ・・・」

 「本当になんだそれ」

 「実に多様だな」

 「タオルと電池とマリモってどんなラインナップだよ!!一個も欲しくねえよ!!」

 「普通にタオルは良さげだけどな」

 

 出てくるもんがゴミばっかってのは、やっぱモノクマが俺らに妙なプレッシャーをかけてんのか。てっきりナイフとかスタンガンとか武器が出て来て、これで殺し合え的なことになるかと思ってたが、本当にただのゴミ製造マシーンみてえだ。

 

 「では次は清水翔の番だな」

 「ああ」

 「っつうかお前ら何が欲しいんだよ!なんもいらねえならオレに回させてくれよ!」

 「いらねえもんはねえがテメエにくれてやるのは勿体ない」

 「モノクマは確か、全部で百種類のラインナップと言っていたな」

 

 とてもそんな数のカプセルが入ってるようなデカさのガチャガチャマシーンには見えねえが、あいつが言うならそうなんだろう。っつうか知らねえ内にこんなもん拵えてメダル隠してるくらいだから、モノクマがこっそり補充してんのか。変なところ真面目な奴だ。

 別に俺は何が出ようがどうでもいいから、適当にメダルを入れてレバーを回した。少し固くて突っかかるような感触に苛立ちを乗せて捻ると、さっきより一層妙な音を立ててカプセルが転がった。取り出し口にごろっと一つ出て来た。

 

 「またなんか妙なもんが出た予感するな」

 「それは・・・」

 「・・・どこでもプラネタリウム。世にも珍しいゴーグルタイプのプラネタリウム。かければいつでもどこでも満天の星空が眺められる」

 「普通にそういうのあるだろいま。安めのデパートで買えそうだ」

 「私は見たことがない。しかし、機械が実物の空を再現できるとは思えない」

 「お、望月こういうの好きそうだと思ったけどな」

 

 いよいよこのカプセルが四次元空間に繋がってるって疑いが強くなった。こんなゴーグル、カプセルん中入るわけがねえだろ。しかも一番欲しがりそうな望月がこう言ってちゃ、これは完全な外れだな。

 

 「捨てるか」

 「もったいねえなあ」

 「清水翔。不要とするのなら私が預かろう」

 「は?いらねえんだろ」

 「実物に劣るだろうという発言から、私がそれを不要と判断したという解釈を得ることは難しいと考えられるはずだ」

 「・・・じゃあ欲しいのか?」

 「研究対象として些細ではあるが、興味があることは認めよう」

 「めんどくせえなお前ら」

 「俺もか!?」

 

 めんどくせえのはこの電波だけだろ!なんで俺が一緒にされんだ!?

 ついびっくりして声を出しちまったが、とにかく欲しい奴がいるなら押し付けておく。ゴーグルを望月に渡すと、望月は興味津々にそのゴーグルを調べ始めた。テメエもさっさと回せよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それで、何が出てきたの?」

 「清水翔と屋良井照矢が所望していた品物は得られなかった」

 「俺は欲しいもんなんかねえよ」

 

 食堂に行くとアニーがコーヒー飲んでた。こいついつもコーヒー飲んでて飽きねえのかな。いつものようにオレらにも勧めてきたから取りあえずオレはめっちゃくちゃに甘いやつ頼んどいた。あんな苦い汁よく飲めんな、と思っても言わねえ。

 

 「“超高校級の幸運”と呼ばれたオレが狙いを外すとは。堕ちたもんだ」

 「テルヤは何が欲しかったの?みんなに言っておいてあげるわよ」

 「万能ナイフ!なんかこうシュッとしてて、ナイフもだけど栓抜きとか色々使えるんだぜ!なんかよくね!?そういうギミック的なの!」

 「屋良井照矢は機巧を好むか」

 「ノベルのタイトルみたいに言うわね、ラン」

 「にしてもひでえよな。オレなんかタオルとマリモと電池だぞ。タオルはともかく電池とマリモなんか誰が欲しいんだよ」

 「そうだ。アンジェリーナ・フォールデンスが欲しがりそうな物を引き当てたのだった」

 「へえ、なあに?」

 

 そう言って望月は一個カプセルを取り出した。アニーは少し嬉しそうに、でもだいぶ子供の相手をしてる大人的な雰囲気を出しながらそれを開けた。いつもこいつはオレたちにそういう感じに接するけども、別に嫌とかじゃなくてタメなのになんか違和感あるっつーか・・・。ま、いいんだけどよ。

 カプセルがぱかっ、と開いて中から出て来たのは、シェード付きの卓上ランプだった。高級な木製家具っぽいアームに花をモチーフにしたプラスチックのシェード、中の電球はそれ越しに見ると金色っぽくて、素材の割にだいぶ良い物に見える。でもよく見たらすぐ化けの皮が剥がれる。

 

 「名を、それっぽい卓上ランプ、だそうだ」

 「とてもシックでワタシの好みよ」

 「良い品かも知れないが、私の部屋では持て余す。清水翔も屋良井照矢も不要と言うのだ。アンジェリーナ・フォールデンスに譲ろうと思うが、どうだ」

 「ワタシに?それじゃ、遠慮無くいただこうかしら。ありがと、ラン」

 「なんの」

 

 望月が人の好みをだいたい把握してるってのは意外だった。まあ確かにここにいる奴らはどいつもこいつもクセの強い奴ばっかりだから、好みもはっきり分かれてそうだ。でもこれを引いてすぐアニーの所に行くあたり、結構こいつは自分の興味一直線っつうよりも周りを見てんのかも知んねえな。

 

 「何かお礼しなくちゃね。ランは好きな食べ物とかあるかしら?」

 「瓶牛乳とゆでタマゴは栄養効率や機能性の観点から重宝している。夜間の天体観測などで効率的にカロリーを摂取できるのは理想的だ」

 「そ、そう・・・」

 「牛乳とゆで卵って・・・爬虫類みてえな奴だな」

 「爬虫類生物の大多数の食性は、自分より小さな昆虫や哺乳動物または魚類などが主だ。加熱した卵は多くの生物に対して食べ難さや栄養面で、適しているとは言い難い」

 「そうかい」

 

 ・・・。

 

 「清水翔は生物にも興味を持っているのか?生憎だが私は基本的な知識しか持っていない。資料館に行けばその類の本は多くありそうだ。実は私もいま地球外生命体に関しての研究で、生命に関するより深い知識が必要なのだ。この後で資料館に行くか?」

 「行かねえ」

 

 ・・・・・・。

 

 「そうか。ところで今日の夕飯は何にするつもりだ?先に言っておくが、私はピーマンとパプリカが苦手だ。詳細に言えば他にも」

 「わかったわかった。テキトーに済ます」

 「カケルのご飯はどれも美味しいわよ。ワタシがあまり食べたことないものばっかりだもの。カケルはチャイニーズレストランでの経験でもあるのかしら?」

 「ねえよ。全部レトルトだ」

 「へえ!レトルトであんなに美味しいなんて、日本はやっぱりフード先進国ね」

 「初めて聞くな」

 

 ・・・・・・・・・。

 

 「清水翔、お前は食べ物では何が好きだ?」

 「貝じゃなきゃなんでもいい」

 「私は自分でよく食べるから味噌汁とコーンポタージュが得意なのだが、具は何が好きだ?」

 「なんでもいい」

 「そうか。ところで、六浜童琉によると今晩は快晴だそうだ。天体観測をしようと思うのだが、屋外で寝てしまわないよう付き添いを頼む」

 「断る」

 「お前ら仲良すぎだろ!!」

 

 思わず声をあげちまった。けどこんなもん目の前で見せつけられてオレはとても黙ってられねえ!いや別に清水がうらやましいとか望月が守備範囲にいるとかそういうわけじゃねえが、こんな環境で常に監視カメラで見られてて色々と発散できてねえっつう時にこんな風なんなってる奴が許せねえ!!

 

 「清水テメー望月と仲良すぎだろ!!なんだお前は!!なんかさんざん全員から嫌われてるオーラ出しやがって、結局ちゃっかり望月と仲良くなってんじゃねえか!!うらやましくなんかねーぞ!!」

 「は?なんだお前」

 「ど、どうしたのテルヤ?コーヒーでも飲んで落ち着いたら?」

 「・・・解離性障害か?」

 

 三人ともきょとんとした面向けやがって!チクショー!アニーと望月は別にいい!コミュ障で愛想無くて乱暴で“無能”で良いとこ無しの清水ごときにそんな面されんのがムカつく!なーんでこんな奴がモテてオレがほったらかしにされてんだ!オレだって石川とか穂谷とかむつ浜とかよぉ!!あの辺だったらアリなんだよ全然よお!!

 

 「ってやべえ、オレは飯出か。こんな必死になってたら寄るもんも寄らねえよな。うん、落ち着けオレ。今はそれどころじゃねえよな、ふう」

 「何を言ってるのかしら、テルヤは」

 「過度にストレスがかかる環境だから無理もないな。カウンセリング治療などが必要だろうか」

 「ほっとけ」

 「せめて監視カメラのねえ場所がありゃあなあ・・・」

 

 モノクマの野郎ぜってえ許さねえ・・・。健全な高校生をこんな二十四時間フル監視体制の元で共同生活させるなんて。しかも男だらけならまだ諦めもつくし女だらけだったらウハウハなのに、ちょうど男女一対一にさせるとか、心理戦としか思えねえよ。

 

 「もういい直接聞くわ!清水と望月はなんなんだよ!どういう関係なんだ!?」

 「テルヤ・・・いくらなんでもストレート過ぎるわ。デリカシーのない」

 「どういう関係・・・か。解釈の困難な質問だな。具体的に説明すれば、私は清水翔を重要な研究対象と考えている。実に興味深い」

 「カッコ意味深って付いてんだろその説明!!っざけんなチクショー!!テメエらいつからそんなんなってたんだよ!!」

 「私は学園で噂を聞いていた段階で、清水翔という存在には興味を抱いていた。研究対象としてはっきりと告げたのは、裁判の日の前日だったな」

 「恥ずかしげもなく言いやがって・・・う、うらやましくなんかねーぞ!うらやましくなんかねーからなぁ!!」

 「なんで二回言ったの?」

 

 清水は一切答えねえでコーヒー飲んで、望月はすらすらオレの質問に答えやがる!しかもどっちも表情一つ変えずに!なんだよこの安定感と信頼感!金婚式かテメエら!!っかあーーーーっ!!聞かなきゃよかった!!テメエら爆発しろ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かな空間と手入れの行き届いたテーブルが、行儀良く私の前に佇んでおります。皺一つないカーペットは靴音をはじめとするあらゆる雑音を吸収して、心地よくも張り詰めた独特の雰囲気を醸し出していました。

 よく切った53枚のトランプの上からカードを五枚取り出して、右から順番に並べていきます。これをしっかりと把握することが、トランプマジックを極める上での初歩となるわけです。私はその赤色の鮮やかなトランプに手をかけました。

 

 「・・・ハートの5、クラブのキング、ダイヤの3、ハートの10、スペードのA」

 

 心の中で暗唱するだけでは誤魔化してしまいますので、一つ一つ言葉にして順番にカードをめくっていきます。口にしたものと同じカードが、順番通りにテーブルの上に並びました。思い通りにカードを動かしているわけでも、袖に仕込んですり替えたわけでもありません。ただ初めの並びに規則性を持たせて切り方を工夫してやれば、少し複雑な暗記の問題になるわけです。それでも、これを完全に習得するのには長い時間を要しました。

 

 「素晴らしい」

 

 思わず呟いてしまいました。我ながら、ここまで的確に言い当てられる技能を持っているということは誇らしく感じます。しかし慢心は油断であり、失敗を招く原因になります。それにこれは初歩中の初歩、これを更に発展させていくのがマジシャンとしての腕の見せ所です。

 

 「ずいぶんと地味な手品をなさるのですね、Mr.Trickyともあろう方が」

 「!」

 

 ふと、私の耳に透き通るような声が聞こえました。お声の主はそれだけで分かります。希望ヶ峰学園の女王様こと、穂谷円加さん。“超高校級の歌姫”と呼ばれる彼女は、歌う時はもちろん話す時の声すら心を震わせるような美声でした。その内容が、小さな針でちくちくと刺すようなものでなければ、いつまでも聞いていたいものです。

 しかし、地味というのは確かですね。あくまでこれはマジシャンの練習であり基礎、とてもお客様に見せて笑っていただけるようなものではありません。

 

 「どうも、穂谷さん。確かに地味ですが、これはほんの手遊びです。よろしければ、こちらでご覧になりますか?」

 「そうですね。ちょうど休憩しようと思っていたところです。本当ならアニーさんのコーヒーを頂いて、ショパンでも聴きながら過ごしたかったところですが、良いでしょう」

 「恐縮です」

 

 もしこの場にいるのが私ではなく、古部来君や清水君だったら険悪なムードになっていたかも知れません。ですが、私はこれしきのこと、もう慣れっこです。駆け出しの頃は、散々お客様から野次を飛ばされたものです。

 私は胸ポケットから、白い目元だけのマスクを取り出しました。人前でマジックをする時には、これは手放せなくなりました。これをかけると、もう一人の私が姿を現すのです。誰かに尽くすことが楽しみであり、誰かに施すことが喜びであり、誰かを幸せにすることが幸せである私が。

 

 「では、初めていきます」

 「どうぞ」

 「・・・ハーーーーーーーーーーーッハッハッハ!!ごきげんよう!Miss.穂谷!それではこれより、私『Mr.Tricky』があなたを、奇跡と魔術の世界へご案内いたしましょう!どうか・・・一時の夢をお楽しみください」

 「急に大声を出さないでください」

 「おっと、これは失礼。それでは今回は、このトランプを使ったマジックをご覧にいれましょう。こちらに53枚のトランプがございます。その他は種も仕掛けもございません」

 「そうですか。では上着を脱いでください。それからシャツの袖はまくり、テーブルを一つ隣に移してください」

 「は、はあ・・・ずいぶんと徹底しておりますね。ですが、それでこそ私のマジシャン魂が奮い立つというもの!これだけでご満足なさるのですか?」

 

 トリックを見抜こうとしたり、マジックをできなくして困らせてやろうとするお客様は大変多くいらっしゃいます。ですから、穂谷さんがこういう注文をなさるのは想定の範囲内でしたが、些か過剰のような気がします。ですが服を脱ごうとテーブルを移そうと、その程度では『Mr.Tricky』の仮面は剥がれません。

 

 「ええ、取りあえず一度見せてください」

 「かしこまりました!それではまず、こちらをよく切ります。十分に混ざったことをご確認ください」

 「もう一度私が切ってもよろしいですか?」

 「どうぞ。お気の済むまで」

 

 やはりここはそう来ましたか。穂谷さんはとことん私のマジックを潰すおつもりのようですね。ですが、そうしたお客様こそ、マジシャンにとっては良いお客様なのです!

 穂谷さんは私が渡した山札を鬼のように切ってから、私にお返しいただきました。なるほど、この時点では私もどれがどのカードかまったく分かりません。ですがそれは何の問題もございません!

 

 「ではこちらから一枚、引いていただけますか?」

 「はい」

 「それを覚えましたら、山札に戻してよく切ってください」

 「水を差すようですが一応言いますね。私はこの手のマジックは何度も見ておりますの」

 「ご心配なく!Miss.穂谷。ここはあなたの夢の中、私はあなたに愉快な夢をみさせるマジシャンです。夢は常に、あなたの期待を越えるものです」

 「なるほど。ではどうぞ」

 「ありがとうございます。しばしのお付き合いをお願いいたします」

 

 どんなお客様であっても礼儀正しく、それが完璧なマジックをする上で、完璧なマジシャンを演じる上で大切なことです。むしろ私は、対抗心を剥き出しになさるお客様は大歓迎でございます!

 

 「ではまずは小手調べ。一番上のカードは、引いたカードと違いますね」

 「ええ」

 「しかしここで指を鳴らすと・・・いかがですか?」

 「・・・ええ、合ってます」

 

 一番上をめくるとスペードの6でした。ですが裏返しにしてぱちん、と指を鳴らすと、次にめくったときにはハートのキング。なるほど、穂谷さんらしいカードです。ですがこれはまだ簡単なものです。

 

 「確かにこれはMiss.穂谷が引いたカード、ですがもう一度指を鳴らすと・・・元通り」

 「本当ですね」

 「では次に、このトランプの裏は赤色になっていますが、このように少し撫でると・・・」

 「あら、青色に」

 「今は横に撫でましたが、縦に撫でると」

 「黄色です」

 「ではMiss.穂谷、あなたの好きな色はなんでしょうか?」

 「そうですね・・・濃い紫色、艶美で素敵だと思います」

 「かしこまりました。ではその色をイメージしながら、こちらのトランプの背中を軽く撫でていただけますか?」

 

 トランプマジックは私の得意とするところですが、なにぶん地味です。普段私がテレビなどで披露するのは、脱出マジックや消失マジックなど大がかりなものですが、私はこの、静かに落ち着いてできるマジックの方が好きです。あの大がかりなものは、より多くのお客様を楽しませるために編み出したものです。

 穂谷さんがトランプを撫でると、黄色かったトランプの色はみるみるうちに、水で薄めず絵の具を付けたような濃い紫色へ変化していきました。ここの色を変えるくらいはまだまだです。

 

 「なるほど。ですが、まだ私は満足いたしませんわ」

 「もちろんでございます。では、今撫でていただいたこのカード、なんだと思いますか?」

 「スペードの6でしたでしょうか」

 「正解です。ではこうして指を鳴らします。Miss.穂谷、何か適当なスートとナンバーを指定してください」

 「う〜ん・・・クラブのA」

 「ではこちらをめくっていただけますか?」

 

 穂谷さんが山札の一番上をめくります。そこにあったのはスペードの6ではなく、クラブのA。いつもならここで、お客様が少し怖がるほどなのですが、穂谷さんはまだ動じません。これはずいぶんと手強い。では、私も本気を出すしかありませんね。

 

 「さすがは“超高校級のマジシャン”です。地味ですが、確かに不思議です」

 「それでは最後に、思わずMiss.穂谷が驚嘆するようなマジックをご覧にいれましょう」

 「あら、楽しみですわ」

 「それではお好きなカードをおっしゃってください」

 「ハートのジャックをお願いします」

 「かしこまりました。それではそのカードをこちらにどうぞ」

 

 カードを指定させて指を鳴らすとそれが山札の一番上に。これをマジックの一部にしてしまうのは、私としてはかなり勿体ないのですが、彼女に喜んで頂くためには仕方ありません。そのカードを穂谷さんにお渡しして、しっかりと確認した後にそれをテーブルに伏せていただきました。

 

 「ではこちらのカードをよく切ります。こちらには、ハートのジャックの代わりにジョーカーが一枚入った52枚のカードがあることになりますね。見やすいように、一度順番に並べます」

 

 切ったばかりで不規則にカードが並んだ状態では、きちんと確認することもできません。デタラメに並んだトランプを、一度閉じて二度ほど振ると、スペードのAからクラブのキングまで順番に、そしてハートのジャックに当たる場所にはジョーカーが入った状態に変わりました。これも勿体ないのを堪えてやっているのです。

 

 「はい、確かに」

 「ではこれを閉じて、今からお呪いをかけます。Miss.穂谷。この山札に右手の人差し指を置いていただけますか?」

 「こうですか」

 「素晴らしい!それでは左手を伏せたカードにかざして、こうおっしゃってください。『このカードにならえ!』と」

 「・・・このカードにならえ!」

 「ありがとうございます。それではこちらの山札、見ていきましょう」

 「あら?」

 

 穂谷さんに命令されたカードがどうなったか。山札を広げて見てみますと、そこにあったのは全てがジョーカーになった52枚のカード。今までにっこりとした笑顔が貼り付いていた穂谷さんの表情が変わったのを私は見逃しませんでした。今こそ畳みかける時です!

 

 「おかしいですか?命令では、そのカードにならえとありましたよね。では、そちらを開いてください」

 「・・・なるほど」

 

 目の前にあったカードをめくると、穂谷さんはまた少しだけ目を見開きました。そこにあったのはハートのジャックではありません。派手な出で立ちをしたピエロのおどけ顔、ジョーカーです。

 

 「しかしこれでは使い物になりませんね。もう一度それを伏せて、先ほどと同じように『戻れ!』とご命令ください」

 「はい。戻れ!」

 「これで元通りになったはずです・・・おや?」

 「?」

 「申し訳ありません。少し戻りすぎてしまったようです」

 「あっ・・・」

 

 山札は先ほどと同じようにカードが整列していました。先ほどと違うのは、ジョーカーのある位置がハートのジャックではなく、一番最初に穂谷さんが引いたハートのキングの場所でした。そして穂谷さんの前に伏せられたカードをめくると、ジョーカーと入れ替わるように、確かにハートのキングがそこにおりました。

 

 「Miss.穂谷のお呪いは少々強力過ぎたようです。いかがでしたでしょうか。果たしてこれは夢か現か、いずれにせよまた、夢の中でお目にかかりましょう。ありがとうございました」

 

 最後に深々と一礼、これで簡単ではありますが、私のトランプマジックは終了となりました。穂谷さんにこれでご満足いただけたでしょうか。マスクを外して、私は顔をあげました。穂谷さんは、私をじっくりと見た後にカードを置いて、両手を三度ほど合わせました。

 

 「お見事、と言っておきます」

 「お粗末様でございます」

 「ほんの座興のつもりで見ていましたが、そんなレベルではありませんね。見せつけられた気がします」

 「女王様にそんなお言葉をいただくとは、もったいなく存じます」

 「ふふ・・・あなたは可笑しな人ですね」

 「?」

 

 思った以上に私のマジックは穂谷さんに好評価のようで危うく顔が綻びかけましたが、マジシャンたるもの、お客様のペースに引き込まれてはなりません。ここはぐっと堪えて、丁寧な姿勢は崩しません。しかし、そんな私を見た穂谷さんは軽く笑われました。

 

 「可笑しい、というのは?」

 「可笑しいじゃないですか。マジックは終わったのに、どうしてあなたはまだ仮面を被っているんですか?」

 「・・・」

 

 ふと、穂谷さんの笑顔はもう、純粋な笑顔から作り物の笑顔に戻っていることに気付きました。いや、よく見れば笑顔ですらありませんでした。まるで私の目から心を見透かすような、強く妖しい瞳をしておられました。

 

 「過剰なほど丁寧な言葉遣いをして、指先にまで礼儀正しくしようという意識が張り詰められています。大衆は騙せても、舞台に上がる者には通じませんよ」

 「お気に召しませんでしたでしょうか」

 「いいえ、その徹底ぶりが気になっただけです。だって、今はあなたは鳥木平助君としていてもいい時ではありませんか?それとも、そっちの名前が仮の姿なのですか?」

 「・・・どうなのでしょう。申し訳ありませんが、今の私にはお答えできません」

 

 教えたくないわけでも、隠しているわけでもありません。分からないのです。今の私は鳥木平助ではなく、『Mr.Tricky』です。それくらいは分かります。ですが、一体どちらが真に『私』と言える存在なのでしょうか。思えば、いつから私はこの仮面を被っておりましたでしょうか。久しく、鳥木平助という男は見ておりませんね。

 

 「失礼、私が言えたことではなかったかも知れませんね」

 「・・・穂谷さんのそれは、仮面なのですか?」

 「ええ。ですが、私はあなたと違って、自分の仮面に迷いなどありません。だから、あなたのよりも強く硬い」

 

 迷い、なのでしょうか。私は迷っているのでしょうか。自分という存在に、自分という生き方に、自分という感情に、私は一体何を以てして、私を私としているのでしょうか。

 穂谷さんは私にそれを問うているのでしょうか。それとも、私が勝手に悩んでいるだけなのですか?まるで今まで私を支えていた足場が音を立てて崩れていくような、しかし落ちることもなく、かといってその場に留まるわけでもなく。ただ宙に浮いているような、そんな不安を感じました。

 ですが、そんな不安を打ち砕くように、いや、もっと大きな不安で塗り潰すように、私たちの耳にあの悪魔のような声が聞こえてきたのです。

 

 『ピンポンパンポーーーンッ!!おい退屈なオマエラ!!至急多目的ホールにお集まりくださいやがれ!!こちとらホームドラマ撮ってんじゃねーんだぞ!!』

 「!」

 「・・・今度はなんでしょう」

 「分かりません。行くしかないのならそうしましょう」

 

 あの女王様ですら、モノクマには逆らえない。それは命がかかっているからです。ついさっきまで、この奇怪な環境や飯出君と有栖川さんのことは一時でも忘れられていたのに、たった一度の放送で現実に引き戻された気がします。

 私と穂谷さんは、何も言わないまま立ち上がりました。テーブルの上を片付け、私は上着を着直して、多目的ホールへ向かいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コロシアイ合宿生活』

生き残り人数:残り14人

 

  清水翔   六浜童琉   晴柳院命     明尾奈美

 

  望月藍   石川彼方  曽根崎弥一郎    笹戸優真

 

【有栖川薔薇】 穂谷円加  【飯出条治】  古部来竜馬

 

 屋良井照矢  鳥木平助   滝山大王  アンジェリーナ




日常編3。日常編は中だるみしやすいですので、色んな所に不穏な要素を撒いてます。基本的にみんな仲良いけどどこか壁があります
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