クソみたいな学園のクソみたいな日が終わって、また朝になった。ふかふかのベッドにうつ伏せのまま眠ってた俺は、全身に肌寒さを感じて目が覚めた。時刻は既に朝礼の時間を過ぎていた。
「ダリぃ」
そういえば昨日は部屋に戻った後、制服をゴミ箱に突っ込んでそのまま寝たんだっけ。飯も食わずに長いこと寝たせいで、起き上がる気力もろくにない。取りあえず背中が寒いから、寝返りをうって仰向けになった。いつもと変わらない、見飽きた部屋だ。
L字型の部屋には、簡素なベッドとタンスと勉強机、それからテーブル一脚と椅子が二つ。他の奴らは花やら小物やらで部屋の中を散らかすんだろうが、この部屋には一切そんな無駄な物はない。その代わりに机の上は風が吹けば崩れそうなほど、プリントだの教科書だのが積み上がってた。最後にあれと向き合ったのはいつだったか思い出せない。シャワーのドアは開けっ放しで、すぐ近くのカーペットは水で傷んでる。
「・・・」
俺はただ、仰向けのまま目を閉じた。二度寝でもして、今日は部屋にこもると決めた。昨日あんなことをして、気まずくて自分からのこのこ出て行けるわけがない。第一、俺は間違ったことは言ってないから出て行くにしても俺が何も気負いする必要はないわけだが。
すう、と深呼吸して意識が沈んでいくのを感じながら脱力した。その意識は、突然の爆音に強引に引き上げられた。
『ピンポンパンポーン!あー、あー、ホンジツハドンテンナリ!』
「っ!?な、なんだ・・・?」
『えー、オマエラ、おはようございます!ってあれ?なんだよ!まだ全員揃ってないんじゃないか!』
「なんだこの放送。どこのバカだ」
調整が下手くそでハウリングしまくりの放送が狭い部屋に響いた。寝入りを邪魔されたことにも腹が立ったけど、このふざけたダミ声は聞いてるだけで虫唾が走る。いたずらか何か知らんが、こんなことして後でどうなるか分かってないのは相当な馬鹿に違いない。
『まだ来てない人!早く多目的ホールに来いよ!でなきゃ始まんないだろ!オマエに言ってるんだぞ!』
「!」
うるさいが俺には関係ない。そう思って無視して寝ようとしたが、無理だった。いきなり誰かが俺の部屋のドアを叩いたからだ。しかも激しく、何度も殴るようにノックしてるのが分かった。急にそんな調子でノックされたら誰だってビビる。びっくりしたけど、すぐにその意味が推測できた。もしかしてこの放送で呼び出されてるのって俺なのか?
『早くしろよ!はーやーくー!』
「ちっ・・・!うるせえな!人の部屋のドア殴んなボケ!」
単純にうるさいのと寝起きってことで頭にきて、こいつの鼻っ面にぶつけるつもりで思いっ切りドアを開けた。けどそいつに当たるどころか、部屋の前には誰もいなかった。たった今ドアを破る勢いでノックしてたのに、廊下の先を見ても影も見えない。いや、それよりももっと変なことがある。
「どこだここ?」
部屋の前を横切る廊下は、うんざりするほど見てきた希望ヶ峰学園の廊下じゃなかった。変な模様のついた敷物が隙間なく貼られたいつもの廊下の面影は全然なくて、代わりに黒ずんだ赤い絨毯が敷かれてた。端っこのしわが寄ってめくれた所から、大理石っぽい冷たそうな石が見えた。白い蛍光灯の照明は、なぜか濃いめの紫色に変わってた。廊下を挟んだ向かい側の部屋のドアには、妙な絵と「ソネザキヤイチロウ」という文字がドットで描かれたパネルがかけられていた。そして両側に伸びていた廊下の片方はすぐ行き止まりで、反対側もすぐ曲がり角になってた。
「どういうことだよ・・・?」
『早く着替えて多目的ホールに来なさい。早くしないと、どうなってもし〜らないよ〜!』
「はぁ・・・」
なんでか、この放送をしてる奴には逆らえないと思った。この状況はまったく意味が分からんが、面倒臭いことはどうでもいい。来いと言われたから行く、そこでまだこいつがふざけるなら、その時はその時だ。朝っぱらからむかむかしながら、俺は着替えることにした。
妙なことに、寝る前にゴミ箱に捨てたはずの制服はきれいさっぱりなくなって、タンスの中の私服だけが残ってた。制服を隠す嫌がらせの一種かとも思ったが、元から捨ててあるものを隠したところで嫌がらせとして成立するわけがない。だから、制服がなくなったのは気持ち悪いが、集積所に持っていく手間が省けただけだ。それよりわけがわからんのが、いま俺がいるこの場所だ。
「マジでどうなってんだ?なんなんだこれ?」
俺の部屋と他に幾つかの個室らしきものが並ぶこの建物は、その個室と赤くてデカい扉しかなくて、両開きの引き戸だけがこの建物の出入り口だった。廊下はコの字に延びていて、背中のところが外に続いてる。そこを出ると目の前にガラス戸の小屋があって、この宿舎とちゃちい渡り廊下で繋がってる。その小屋の真ん前に矢印型の看板が立ってて、「多目的ホール」とだけ書かれてた。矢印の向く方には雑草だらけの原っぱに、土が剥き出しの線が二本、轍みたいに伸びてた。その線の先に、どっかの体育館をそのまま持ってきたような建物がある。どうやらあれが多目的ホールらしい。ついでにその多目的ホールの向こう側には、莫迦にデカい湖が広がっててる。もしかしたら海かと思ったけど、潮の匂いがしないからたぶん湖なんだろう。
気になるといえば気になるところは山ほどある。けど俺がここでいくら考えたところで意味がないことは明らかだし、面倒臭いことは放っとけばいい。とにかく俺は、あのクソうるさい放送をした奴をぶん殴るために、多目的ホールの鉄扉を開いた。
「むむっ、やっと来たな!」
「これで全員・・・十六人ですか」
外見が体育館だったから、中がそのまんま体育館だったのも予想通りだった。予想と違ったのは、だだっ広いホールの中にいたのは、たった十数人の奴らだけだったということだ。見た目からして、だいたい俺と同い年、たぶんあの希望ヶ峰学園の生徒なんだろう。一部の奴らは俺のことを知ってるみたいだったし、俺もこの中の何人かの顔には見覚えがある。なんなんだこれは。
「なんか、いよいよどういうことか分かんなくなってきたわね・・・」
「集められたのは”超高校級”の生徒だけではないということか」
「・・・ちっ」
多目的ホールに入った俺は一気に注目を浴びた。どいつもこいつも変なもん見るような目で見やがって。俺から周りのこいつらの方が、常人離れしててよっぽど気持ち悪い。けどまた余計な問題を起こしても無駄に時間を食うだけだ、俺は黙って入口のすぐ横の壁にもたれかかった。これから何が起きるのか知らんが、俺がそれに付き合ってやる義務はない。少しでもくだらないと思ったらすぐ帰れるように陣取った。
「おやおや?おや〜〜〜あ?そのぴんと跳ねたアホ毛に猫より曲がった猫背は・・・もしかしてキミがかの有名な、清水翔クン?」
「あ?」
「いや間違いない!そんな立派なアンテナは他にない!いやあ、キミみたいな有名人にこんなところで会えるとは思わなかったなあ」
「・・・なんだテメーは」
いきなり俺に近寄ってきて顔を覗き込んできたそいつは、俺の頭の上から足の先までしげしげと眺めてから手に持ったメモと俺を交互に見て勝手にテンションを上げていた。正直むちゃくちゃムカつくが、俺はまだ少しだけ我慢することにした。どっかで先公が見てるかも分からん。
「ボクのこと知らない?自分で言うのもアレだけど、ボクもそれなりに有名だと思ってたんだけどなあ。あ、顔は知らないのもしょうがないか。でも名前は絶対聞いたことあるはずだけど?」
「質問に答えろ馬鹿野郎」
「ん、ああそうか。改めまして。ボクは”超高校級の広報委員”こと
「ない。失せろ」
曽根崎は胸を張って自己紹介すると、ペンとメモを持って俺の方にまた寄ってきた。さっきまではまだ逃げられそうだったけど、いつの間にかそれもできそうにないくらいむちゃくちゃ近くにまで寄られてた。距離感ってもんがねえのかこの馬鹿には。
「それで、ボクは前々から是非とも清水クンにインタビューしてみたいと思ってたわけ。”才能”を捨てたことについてどう思ってるのかとか、それでも希望ヶ峰に居続ける理由とか。自分から”才能”を捨てるなんて、希望ヶ峰の中じゃ特別な存在だからさ!」
「曽根崎君、その辺にしておいた方が・・・。彼に失礼ですよ」
「失礼かどうかは別として、声を落としてください。騒々しいですよ」
「いやいやいや。これは取材なんだって!最近は広報誌もマンネリ化してきてるんだから、もっとセンセーショナルな内容を載せないとさ!」
「うるせえんだよ緑色。話しかけんな」
「あっ!なにするんだよ!」
なんでこうも俺の神経に障る部分にずけずけと入ってこれるんだこいつは。わざとかと思うほど的確に俺が言いたくないところに突っ込んできやがる。こいつがどんな奴なのかなんて興味ないが、俺にこんな絡み方をしてくるなら払いのけるだけだ。だから俺は曽根崎の左手を強めに払って、持ってたメモ帳を吹っ飛ばした。やっぱり大事な物だったらしく、曽根崎は血相変えてメモ帳を拾いに行った。その瞬間、一気に空気が張り詰めてほとんどの奴が顔を上げたのを感じた。もうこの緊迫した空気には慣れたから俺はただ下を見ていた。でもその次に聞こえてきた声には、俺も思わず顔を上げた。
『あ〜〜〜!ようやく集まったんだね!待ちくたびれたよ!あんまり長い時間待たされてるせいで足が棒になっちゃったよ!』
その声が聞こえてきたのは、ホールの一番奥の舞台だった。普通の体育館と同じように両側に分厚いカーテンが垂れ下がってて、上のところに幕が少しだけ見える。舞台上に演説用の壇が置かれてて、そこにスタンドマイクがセットされてた。全員がそっちを向いて黙ってると、スピーカーからまたムカつく声が聞こえてきた。俺の睡眠を妨害しやがった、あの声だ。
『何度も呼び出したのに来るのが遅い!遅すぎるよ!こんなに遅刻するなんてキミの人間性が心配だよ!』
耳鳴りがするぐらいの大音量がホールに響いて、また俺は眉をひそめた。昨日から腹の立つことばかりで、いよいよこいつをぶん殴りたくなってきた。そんなことを考えてたら、急にまた大音量で奇天烈な音楽が流れてきて、それに合わせて壇の上に何かが飛び出してきた。舞台の袖から現れるとかじゃなくて、床を突き破って跳び上がってきたみたいな登場の仕方だった。そしてその現れた奴は、あまりにわけが分からなくて、なぜだかまたムカついた。
そいつはまず、人間じゃなかった。パンダなのかタヌキなのか、左右でくっきり白と黒に色が分かれた、へんちくりんな生き物だ。遠くでよく分からんが、大きさは俺の腰までもないくらい。デブでチビなキモい生き物だ。いや、生き物ですらない、ただのラジコン人形かその辺だ。いきなり現れたそいつに、俺以外の奴らも戸惑ったりビビったりしてるのが分かった。
「じゃじゃじゃじゃーーーん!!」
「?」
「な、なんだ・・・?パンダ?」
「え〜、オマエラ、おはようございます!」
「・・・」
「おはようございますったら!キミたちはあいさつを返すこともできないのかい!これだからゆとり世代はダメなんだよまったく!さんはい!おはようございます!」
「お・・・おはようございます・・・」
「なにかしらこれ?希望ヶ峰はずいぶんファンタスティックなペットを飼ってるのね」
「ぺ、ペットなんかじゃないよ!ボクはモノクマ!この合宿場の施設長なんだぞう!偉いんだぞう!」
「クマぁ?ちっともうまくなさそうだけどな」
「はうぅ!?ボ、ボクを襲うつもりかあ!?いきなり施設長に牙を剥くなんて、オマエラは本当に手がつけられないよ!カピバラの温厚さを少しは見習ったらどうなんだい!」
ここまでわけが分からないと、逆に冷静になるもんなのかも知れない。モノクマと名乗るさっきの意味不明な人形は、他の奴らの一言一言に面倒臭く反応して真っ赤になって怒ったり冷や汗をだらだら流したりしてる。その中でそいつが言った、合宿とか施設長とかいう言葉が引っかかる。それを察してか知らんが、モノクマは大きく咳払いしてから改まって話し始めた。
「え〜、話が逸れたので軌道修正しますよ。オマエラ静粛に!改めまして、ボクの名前はモノクマ。この合宿場の施設長なのだ〜!」
「馬鹿でもあるまいに、一度聞けば覚える」
「いやいや、その前に合宿ってなに?そんなの聞いてないよ!」
「だからそれもいっぺんに説明してやるってんだよ!いいから黙って聞きなさい!」
分かんねえなら余計なこと言って時間を無駄にさせんじゃねえ。状況が分かんねえんだからこいつに好き勝手喋らせとけばいいだろうが。
「ではこれより、この合宿の目的を説明いたします。オマエラは、率直に言えば我が強くて、悪く言えばアクが強すぎる希望ヶ峰学園の生徒達の中でも、特に手に負えない強烈過ぎる生徒達なのです。教師たちの間では、”超高校級の問題児たち”と呼ばれておりま〜す!」
「え!?そ、そうなんですか!?」
「知らなかった・・・」
「かわいそうに。教師たちは、表ではオマエラにいい顔をしてても、裏では問題児扱いしているなんて・・・。大人って汚いよね、教師と生徒との信頼関係は、まだうら若きオマエラの成長に多大な影響力を持っているというのにね」
そんな風に呼ばれてることは知らなかったが、別にだからどうとも感じない。周りの奴らが俺を白い目で見てるんだから、先公どもが俺のことをそう呼んでても何もおかしくない。それにしても他の奴らとまとめて呼ばれるってことは、こいつらも俺と同じくらい厄介なんだろう。なんだか面倒臭そうなことになってきた。
「なのでオマエラには、ここでオマエラだけで共同生活を送ってもらいます!それぞれがそれぞれの役割を果たして生活することで、オマエラ自身が抱える問題を解決し、学園生活に欠かせない協調性を養おうというのが目的なのです!」
「なるほど。お前の言葉の意味は理解した。では、ここで明確にしておくべき事項が一つある。その共同生活が終了する具体的な日時の提示を求める」
「はにゃ?ややこしい言い方だなあ。要はこの合宿の期限を知りたいわけでしょ?」
「訂正を要する程度の相違はない」
「ではお答えしましょう!この共同生活の期限はぁ・・・・・・ありませ〜〜〜ん!!無期限、無制限、フォーエバーなので〜〜す!!」
「はあ?」
共同生活?こんな奴らと?冗談じゃない。希望ヶ峰学園で部屋の外に出るのさえ憂鬱だったのに、こんな奴らとどこかも分からん場所で共同生活なんて、悪夢でしかない。その時点で俺にとっては最悪だったのに、その後にモノクマが言ったことはもっと最悪だった。
「オマエラには一生、この合宿場で生活してもらいます!うっぷっぷっぷ!どう、ステキでしょ?もう受験戦争だとか就職氷河期だとか、面倒な社会のしがらみから一切解放されて、キミたちはここで一生自由に暮らせるんだよ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!意味が分かんないんだけど!」
「いきなりこんな所に連れて来て何言ってんだ!んなもん誘拐と一緒じゃねえか!冗談じゃねえぞ!」
「冗談?冗談なんかじゃないよ!ボクはいつだって本気!本気と書いてマジと読むんだし、真剣と書いてガチと読むんだよ!オマエラの問題ってのは本当にひどくて、学園が頭を抱えてるのも事実なんだよ!オマエラが知らないうちに、どれだけの迷惑をかけてるかも知らないんだろう!」
「だからと言って一生ここに閉じ込めるのは・・・私たちの意思も確認せずにとはさすがに乱暴過ぎます。責任者の方とお話がしたい」
「もう!ホンット分からず屋だなあ!ボクがここの施設、そして合宿の責任者なんだってば!それに何を言われてもボクは一度言ったことは曲げない主義なんだよ!今日はその日なの!」
俺はずっと黙ってモノクマと他の奴らのやり取りを眺めてたが、どうせこんなものは質の悪いいたずらか、希望ヶ峰学園が俺たちを懲らしめようとしてるイベントかなんかに決まってる。何にしてもあいつとまともに話し合うだけ時間の無駄だ。なるべく関わらないように放っといてやり過ごすに限る。すると、モノクマは散々ぶつけられた文句を聞き入れたらしく、急に態度を変えた。
「でもまあ、キミたちが反発してくることは想定内だよ。だから心が太平洋・・・いや、アンドロメダのように広いボクは、キミたちがすぐに希望ヶ峰学園に帰れる制度を用意しているのです」
「あんのかよ!だったらそれ早く言えよ!」
「ボクが用意した特別ルール、それはねぇ・・・うっぷっぷっぷ♫」
壇上で俺らを馬鹿にするように一回転して、モノクマはさっきまでの明るい間抜けな態度から、不気味でなんとなく冷たい雰囲気を出した。俺はそれに圧倒されて、帰る方法を聞く気なんてなかったのに、思わず固唾を飲んで耳を傾けた。でもまさかそんなことを言うなんて、その場にいた誰も思いもしなかった。
「人が人を殺すことだよ」
「は!?」
「・・・殺す?」
「凶器、現場、時間、その他殺害に必要なことは全て自由!思う存分、仲間同士で殺りあっちゃってください!ただし、一つの殺人で帰れるのは、直接手を下した実行犯一人だけです!首謀者や共犯者がいても、その人はクロとはなりませんので気をつけてよね!」
「ちょっ、ちょ!待ってよ!なんだよそれ!?ささ、殺人なんて・・・正気!?」
「さっきも言ったでしょ?ボクはいつだってだよ!オマエラは、一生ここで平和に暮らすか、誰かを犠牲にして希望ヶ峰学園に帰るか、二つに一つなんだよ!うっぷっぷっぷ!」
「いい加減にしろよクソ野郎」
「うん?」
また、自然に口が動いてた。この意味が分からん状況に、ムカつく声でふざけたことを延々聞かされて、いつの間にか俺は我慢の限界を超えてた。壁にもたれた身体を起こして、俺は一歩一歩を床に叩きつけながらモノクマに近付いていった。他の奴らがビビってやらねえことを俺がやって、このふざけた状況を終わらせてやる。
「合宿だの共同生活だの挙げ句殺人だの・・・ふざけたことほざくのも大概にしろよコラ!人形使ってくだらねえこと言ってねえで直接顔見せやがれ腰抜けが!!」
「っ!うわあーーー!」
「こいつを操作してる奴が近くにいるんだろ?これ以上まだふざけるってんならテメーを殺すぞ!!」
俺は正面の階段から舞台に上がって、壇を蹴ってモノクマを叩き落とした。慌てて逃げようとするそいつの首を後ろから捕まえて、耳っぽいところに思いっきり怒鳴った。モノクマは短い手足をばたつかせるが、その程度じゃ何の意味もない。すると突然モノクマは、吊り上がって裂けた左目を赤く光らせた。
「こ、こら!ボクへの暴力は合宿規則違反だよ!助けて!グングニルの槍!」
「あ?・・・!!」
「!?」
モノクマがそう叫んでから後のことはよく覚えてない。ただ、気付いたら捕まえてたモノクマは足下から相変わらずの笑みで俺を覗きこんで、舞台の床からはぶっとくて長い槍が何本も突き出ていた。俺の周りを取り囲むように、ぎりぎり身体に当たらないところを貫いてる。一歩でもズレてれば、マジで冗談抜きで死んでたことは、今までそういうことに関わってこなかった素人の俺でも分かる。もう苛立ちとかの感情はなくなって、俺は真っ青になってその場から動けなくなった。舞台下で見てた他の奴らも、まさかこんなことが起きるとは思ってなかったらしく、小さく悲鳴も聞こえた。
「これで分かったでしょ?ボクは本気だよ。キミたちにはボクの言うことをきく以外の選択肢はないんだよ」
「あ・・・・・・ああ・・・・・・・・・」
「そういえばキミ、寝坊したっけ。ボクへの暴力も規則違反だけど、ボクが来いって言った時間に来ないのも規則違反なんだからね。簡単に死なれてもつまんないから今回はこれで大目に見てあげるけど、次からは本当に許さないぞぉ!」
「・・・」
「うっぷっぷっぷ♫それじゃあオマエラ、有意義な合宿生活を!グッバ〜〜イ!」
モノクマは表情も声も変えず、相変わらずの間抜けな声で言った。けどそれは、今の俺にはめちゃくちゃに迫力があって、説得力と現実味を帯びた本物の恐怖でしかなかった。こいつはきっと俺だけじゃなく、このホールにいる全員を、殺そうと思えば殺せるんだろう。そんな奴にこれ以上刃向かう気なんか起きなかった。それを確認してからモノクマは、けろっと態度を変えて、俺の足下の槍を一本引き抜いた。物々しい仕掛けの割に、意外と簡単に外れるみたいだ。モノクマはその槍を振り回しながら舞台の袖に歩いて消えていった。しばらくの間、俺も他の奴も、何も言葉を発せなかった。
この主人公、すごく動かしにくいってことに気付いた。そんな彼に良きパートナーが現れたようです