(非)日常編1
私はなぜこんなにも無力なのだ。なにが“才能”、なにが予言者だ。明日の天気が分かっても、いま何をすべきか分からない。私は何のためにここにいるのだ。
時刻は既に夜時間の終わりを告げ、朝のモノクマアナウンスもとうに聞こえた。それなのに、鉛のようにベッドに沈んだ体の中で、私の意識は未だ夢現の混濁した世界を彷徨っている。握った拳がシーツを巻き込んで皺を作る。頭が、体が重い。
「私は・・・一体なんなのだ・・・。なぜ私はこんなにも・・・・・・」
きっと皆、昨日のことで体力的にも精神的にも疲弊しきっているに違いない。それなのに私は、飯出のように皆をまとめて勇気づけることも、アニーのように弱っている者に手を差し伸べることもできない。だから有栖川の憤りにも、石川の迷いにも気付くことができなかった。私がもっとしっかりしていれば、あんな悲劇が二度も起こることなどなかったはずだ。
「・・・・・・無意味だ。これ以上は何もかも」
もう私の言葉など何の意味もない。私の意思など何の力もない。いっそこのまま寝て、ベッドと一つになってしまいたい。何も感じず、何も言わず、ただそこに存在するだけとなってしまえば、こんなに苦しむこともないだろう。
「おい、起きろ六浜」
「んっ・・・・・・・・・んぃっ!!?」
ふと私の名を呼ぶ声がした。薄く開いた瞼の隙間から、その声の主を見た。白いぼんやりとした影が、私の部屋の中央に立って私を見下ろしている。その影が何か分かった瞬間、私は文字通りベッドから飛び起きた。
「んなっ!!?な、ななな!!こ、こここ、ここぶこぶっ!こぶらい!!?」
「何度呼んでも返事の一つも寄越さず寝坊とは・・・まあ、俺が言えたことではないか」
「な、な、なんだその恰好は!!なぜ私の部屋にいる!!何の用だこの呆け者!!」
「寝起きで一度に質問するとは忙しい奴だな。着物では料理がしにくい。お前が鍵もかけずに寝たのだろう。朝食の時刻を過ぎても姿を見せんから起こしに来た」
はっきりと見えた古部来の姿は、いつもの灰色の着物ではなかった。白いタンクトップに紺色のジーンズパンツ。首から角行のペンダントが下がっていて、それと下駄以外は何も身につけていない。そんな恰好の男が私の部屋にいるなど、夢にもみたことはない。なんという無礼で不純な姿なのだ!
「ちょ、ちょうしょく・・・ああ、そうか」
「とにかく、お前以外は全員集まっている。今後は自分が決めた集合時刻くらい守ることだな」
「・・・す、すまん」
そう言って、古部来は部屋を出て行った。本当に起こしに来ただけか。別に何を期待していたとかいうわけではないが、私とて一応は女だ。部屋に勝手にあがって寝姿を見られて、あそこまで平然とされているのも悔しい。
って私は何を考えているのだ!こんな時に不謹慎ではないか!いやそんなことではなく、不純極まりない!なぜ私が古部来などとそんなことに・・・ああああっ!!!いかん!一度シャワーを浴びて頭を冷やそう、いやそうしたらまた古部来が呼びにくるかも・・・ぬああああああああああああああああああああああっ!!!
「どうすればいいのだぁ!!」
「早く来い!!」
私の叫びに重なるように古部来の声が廊下から聞こえた。いかんいかん、どうやらまだ寝ぼけているようだ。しっかりとドアを閉じて、私は顔を洗ってから着替えと身嗜みを済ませた。まったく、古部来のせいで朝からいらぬ体力を消耗してしまった。無礼な奴め。
食堂の扉を開くと、古部来の言った通り私以外の十一人は既にそこにいた。ここに来ると必ずコーヒーを勧めてくる優しいアニーも、食器棚の奥から見つけてきたティーカップの品定めをする石川も、もうここにはいない。
「ようむつ浜!目ぇ覚めたか?」
「何度も言うが屋良井よ。私はむつ浜ではない、六浜だ」
「席に着け。冷飯は体に悪い」
「むっ・・・すまんな」
促されるまま、私は空いた席に座った。既に古部来が作った朝食が用意されている。今朝の献立は茶碗一杯の白米に豆腐の味噌汁、塩鮭の切り身に納豆とたくあん。なるほど、古き良き日本の朝食といった感じだ。古部来らしい。それより、奴に味噌汁が作れたことが意外だ。
「それで古部来クン、話ってなに?」
「ん?話?」
「あれ、むつ浜サン聞いてないの?古部来クンが、話があるからってみんなを集めたんだよ。朝ご飯ついでに」
「さっさと終わらせろ。俺は昼寝してえんだ」
「しみずそればっかじゃん」
古部来の方から話があるとは、ましてや我々全員に向けてなど、思ってもみなかった。今朝は寝起きから驚きっぱなしだ。私は箸を進めながら、古部来の話を聞くことにした。
と、奴が皆の前に出た瞬間に猛烈な不安を感じた。確か前回の裁判が終わった後、こいつが食堂で皆に言い放った言葉は、我々が結束するにあたって非常に障害となるものだった。まさかこいつ、今度こそ完全に孤立するなどと言い出すのではないだろうか、そう考えると箸が止まり、水も喉を通らなくなった。
「こ、こぶらい。お前、よく考えて言葉を選べよ?」
「・・・ああ、もちろんだ。安心しろ六浜。俺は考えを改めた」
「え?」
考えを?改めた?古部来がか?こんな頑固と冷徹と無神経を絵に描いたものが紙から抜け出して喋りだしたような奴が、考えを改めるなど予想だにしなかった。
たったの一言なのに、私はそれで完全に黙らされてしまった。そして古部来は、姿勢を正すとゆっくり前傾姿勢になり、つむじを我々に向けて静止した。あの古部来が、我々に頭を下げた。
「御免・・・ッ!!」
「っ!!?」
「なっ!?こ、古部来!?何の真似だ!」
「これまでの俺の言動、態度、考え、全てを省みて己に問うた。俺たちが置かれている状況、現状に対しすべきことを。もはやこれは、個人の意思でどうにかなる問題ではない。集れば疑心暗鬼、離れれば己に敗れる。ならば付かず離れず、俺たちに必要なものは、結束だ」
「い、今更何言ってんだよ!それは飯出が最初に言ってたことだろうが!」
「ああ。俺が馬鹿だった。俺は・・・何も分かっていなかった。殺しなど起きるわけがないと高を括り、実際に殺しが起きれば有栖川を必要以上に非難した。誰でもない、俺自身が納得するために、意味不明の現状に潰されないように」
「弱い犬ほどよく吠える、とはよく言ったものですね。あなたは自分が、矮小で吠えることしかできない哀れな犬だった、とでも言うのですか?」
「大差はない」
信じられない、古部来が頭を下げるばかりか、我々に謝罪するなど。晴柳院への謝罪は取り付けた覚えがあるが、全員へとなると自発的にか。
「よく言うぜ。今まで散々馬鹿だなんだ言っといて、考え直したからごめんってか。で、何がしてえんだお前」
「このままでは全員で死を待つばかりだ。俺たちは結束し、黒幕に対し抗わなければならない」
「ふざけんなよ」
頭を下げたままの古部来に、脚を組んだままの清水が冷たい言葉を放つ。衝撃で忘れていたが、古部来の今までしてきたことは確かに、簡単になかったことにできるものではない。
「謝ったから全部チャラにして仲良くしようってか?ずいぶん都合がいいな。どっちにしろ俺はテメエらなんかと友達ごっこするつもりなんか毛ほどもねえが、そんなこと頼まれるだけで反吐が出らあ」
「言い過ぎだよ清水クン!古部来クンだって謝ってるじゃないか!」
「謝って済むのか?もう四人死んでんだぞ。今更こんな奴信じろってのか?謝ったからってこんな奴簡単に信じられっか」
「・・・言い訳も弁明もせん。俺が今できるのはこれだけだ」
相変わらず清水は刺々しい言葉を投げる。古部来はそれに言い返すことも睨むこともなく、いつもより小さく見えた。口には出さないが、清水以外の数人も古部来に対して敵意を持っているのは明らかだ。だが、その沈黙は彼女によって破られた。
「うちは・・・こ、古部来さんのこと・・・信用してええ思います」
「えっ?」
「ああして謝ってはりますし・・・そ、そ、それに・・・仰ってることはうちも思いますしぃ・・・」
「晴柳院さん・・・」
「私も、晴柳院さんに賛成します。許す許さないではなく、今は私たちが分裂すべきではないと考えます」
「おれは、ごめんっていったらいいよっていわなきゃいけねーっておそわったぞ。だから、こぶらい、いいよ」
「客観的、合理的理解の元では、現状不要の敵対は避けられるべきだ。従って、古部来竜馬の謝罪は一度保留し、意思統一を進めることが優先されるという結論が導き出される」
晴柳院に続き、次々と古部来を受け入れる旨の発言が発される。許すとか許さないとか、感情的になっていてはいずれまたモノクマに利用される。だから冷静に、我々は今一度結束すべきなのだ。
「みんながいいならボクはいいよ。また誰かがいなくなることの方がイヤだし、そのために必要ならしょうがないよね」
「うむ、若気の至りというやつじゃな。きちんと自省し身の振り方を改めるのであれば、許してやろう。若いのじゃから、取り返す時間はまだまだあるしのう!」
「ここで反対したらボクの方が村八分になっちゃうかな・・・。それにこっちの方が良い記事書けそうだし、古部来クンもボクの取材に応じてくれるならいいよ!」
「えええマジかよ!?そんな言ってオレがダメっつったらオレが悪者みてえになるじゃねえか!ちくしょー!オレだって言いたいことあんだぞ!あるけど・・・・・・ここ出るまでお預けにするしかねーじゃんか!」
「かたじけないッ・・・!!」
私は、こんな状況を少しも予見していなかった。やはり私には予言者としての“才能”などないようだ。だが、これは予想していなかっただけに、なおさら希望を感じた。
一番の懸念材料であった古部来が、皆に赦され輪に入ろうとしている。未だ難色を示している者はいるが、大きな前進と言える。古部来を許したことで、他の皆同士の結束も強くなったはずだ。
「でさ、古部来クン。結束って具体的にどうするの?」
「うむ。言葉だけの結束は、残念ながら簡単に崩れてしまう。故に俺は、代表を立てることを提案する」
「リーダー、ということですね」
「なるほどな!じゃあこの“超高校級の士官”こと屋良井照矢がお前らのリーダーを」
「俺は六浜を推そう」
「はっ!?んぐっ!!」
いきなり名前を出されて米が喉に詰まった。呆け者め!目配せなりなんなりして心の準備というものをさせる気遣いくらいあってもよいではないか!
「むつ浜かよ!」
「そうだね。ボクもむつ浜サンに一票。ボクらの中じゃ一番リーダーに向いてそうだし」
「むつはまリーダーだ!なんかナントカレンジャーみたいでかっこいーなー!」
「む、むつ浜ではない!!六浜だ!!そんなことより、私をリーダーに推すだと!?どういう風の吹き回しだ古部来!」
「そのままの流れだ。最もリーダーとしての素質がある。何よりお前は、既にリーダーとして動いていただろう」
「な、なにを・・・。私は別に、そんな烏滸がましいことはしていない」
「ならば、これからすればいい。お前になら、俺だけではなく他の奴らも従おう」
「従う、というのは承服し兼ねますが、六浜さんをリーダーとするらことには反対しません。どうぞご自由に」
ど、どういうことなのだこれは・・・私はまだ夢を見ているのか?古部来が我々に頭を下げ、私をリーダーに推している。他の皆も、反対するどころか諸手を挙げて賛成といった様子だ。なぜだ。なぜ今更私なんぞにそんな大役を任せられるのだ。
「なぜ・・・私なのだ?」
「うん?」
「私はお前たちが考えているような人間ではない。予言者としてお前たちに何もできない、飯出の代わりにお前たちを導くことも、アニーのようにお前たちを支えてやることもできない。古部来のようにモノクマに一泡吹かせることも、望月のように冷静でいることもできない。こんな私に、お前たちは一体なにを期待しているのだ?」
「・・・何を言うか」
我ながら卑屈だと思う。だが事実だ。“超高校級の予言者”と言われながら殺人の兆候すら気付けず、届かない声をあげることしかできず、膝を地につく仲間に心を痛めることしかできない。理不尽で絶対的な支配に、反発の声をあげるだけで行動することができない。こんなできないことだらけの私に、一体何をしろというのだ。況してやリーダーなど、一体どうすればいいのだ。
しかし、この男は、それすらもあっさり否定する。
「さっきも言ったが、お前はこの中の誰よりもリーダーの資格がある。事件が起きれば強く悔やみ己を責め、モノクマの理不尽に真っ先に声を上げる。被害者や沈んでいる者に心を寄せ、離れていく者と真っ向からぶつかってきたではないか」
「そうですよ。あのモノクマにあんな風に仰ることが、どれだけ私たちを励ましてきたか。六浜さんはいつでも私たちの想いを代表なさっていました!」
「うむ、昨日の古部来も肝を潰したが、六浜がモノクマに向かっていくのは見ていて気分が良いぞ。何より六浜、古部来が暴走した時に止められるのはお前くらいじゃ。その意味でもお前さんがリーダーというのは適しておるぞ」
「う、うちも・・・六浜さんにだったら任せられます」
「しかし・・・!」
「しかしもヘチマもありません。私がやりなさいと言っているのです。面目を潰さないでいただけますか?」
穂谷に関しては半ば脅迫めいているが、いずれにせよ私がリーダーとなることに反対する者はいないらしい。私はそんなに頼もしかっただろうか、私に何ができるのだろう。未だ私は逡巡している。
「ええい焦れったいのう!何を恐れておるんじゃ!」
「あ、明尾・・・」
「わしら全員がお前さんを推しとる!反対意見などないではないか!それに六浜よ、勘違いしとるようじゃが、わしらはお前に誰かの代わりをしろと言っているわけではない!」
「えっ・・・な、なんだそれは」
「真面目なお前さんのことじゃ、飯出のようにまとめ、アニーのように支えなければと思っておるのじゃろう。じゃがな、わしらはそんなことを言っているのでは断じてないぞ」
「・・・」
そうではないのか?リーダーとは飯出のような者のことではないのか?アニーのように支える者ではないのか?では私は、何をすればいいのだ。どうすることが、私のリーダーとしてあるべき姿なのだ。
「まとめるのも支えるのも、お前一人に任せたりなどしない。わしらの各々が結束し、肩を組んでお前さんについて行く。お前さんはわしらに、次の一歩を踏み出す場所を示してくれれば良い。身構えることも奥手になることもない!若者が失敗を恐れてどうする!当たって砕けてもまた寄り集まればよかろう!」
「明尾さんの言う通りだ。僕らは、六浜さんにリーダーになって欲しいんだ。誰かと比べたりなんかしないよ!」
「・・・ここまで言わせて分からないとは言わせんぞ、予言者」
「つか強引過ぎんだろ。六浜の意思カンケーなしか」
古部来に背中を押され、明尾に勇気づけられ、私は何が何だか分からなくなっていた。皆が私を頼る理由も、私がリーダーとなってしまう状況にも。しかし清水が言った一言で、私はふと悟った。
そうか、私の意見は関係ないのか。私が何を言おうが、皆は私をリーダーとしたいわけだ。私は自分の“才能”すら信じられず、この閉塞し殺伐とした空間に絶望していた。私以外の皆も、同じように感じていると勝手に考えていた。だがそうではない。皆、ここを脱出しようと前向きに考えているのだ。“才能”など関係ないのだな。
「いや、いいんだ清水。心配はいらない」
「は?してねえよ」
「やはり私には、予言者の“才能”はないらしい。思ったよりも事態は悪くないみたいだ」
皆は絶望するどころか、古部来の謝罪もあってか今一度結束しようとしていた。私がうじうじしてそれに水を差すこともできんな。
「皆、ありがとう。そこまで言うのなら、務めさせてもらう」
「うむ、頼んだぞ!」
「奴らの死は無駄にしない。私はお前たちを信頼する。必ずここから生きて出よう。みんなで!」
至極簡単な所信表明演説だ。飯出のように長々と喋れるわけでもないし、このくらいが私の身の丈に合っている。
さて、これから具体的に何をしていこう。
朝食を済ませ、私たちはひとまず解散となりました。六浜さんが私たちの要請を受け容れてリーダーになってくださったことは、非常に嬉しく存じます。まだ何が変わったというわけではありませんが、これで少しはよくなるのではないでしょうか。少なくとも私たちは、古部来君も含め一つになることができました。
これからは私もしっかりと皆様を陰から支えなくてはなりませんね。六浜さんや笹戸君ばかりに負担をかけるわけには参りません。
「・・・おや?」
と、いきなり意気込んばかりでも仕方がないので、まずは気分をリフレッシュさせるために波音でも聞きながらマジックの練習でもと思って湖畔へ参ったのですが、早速お困りの方を見つけました。この方の眉尻が下がっているのはいつものことではございますが、ここは一人の紳士として見過ごしてはおけませんね。
「晴柳院さん、どうかなさいましたか?」
「あ、鳥木さん・・・。い、いえ、別に何っちゅうわけやないんですけど・・・」
私が声をかけると、晴柳院さんはやはり困ったようにお答えになりました。場所は、最初に捜索した際に南京錠で閉められていた倉の前。ですが、ふと倉を見ると扉が開いていました。本日は心地よい陽気につき、中が暗くて外からでは様子が伺えませんでした。
「ここ来てからしばらく経ったんで、結界印を新ししよう思いまして。そしたらあの・・・ここが開いとるんが見えまして」
「結界印?ああ、湖畔や展望台にあるあの榊のことですか」
「はい。あの榊は晴柳院家の家山から採ってきた神聖な霊樹なので、よくないものがここに入ってけえへんようにと」
「お一人でなさっているのですか?いくら合宿場内とはいえ、女性が草鞋で回るのは骨が折れると存じますが」
「心配せんでも大丈夫ですよぉ。あとは湖畔の所だけですから。ありがとうございます」
これはとんだお節介でした。身嗜みに関して以外は女性の頑張りには気付いて差し上げるべきでしたが、私もまだ至りませんね。
「それに一人やありませんから。今は明尾さんの用事に付き合うてるところです」
「明尾さん・・・ああ。そう言えば彼女、この倉に並々ならぬ愛情を注いでおられましたね」
「ぬがああああああああああっ!!!」
「ひっ!?」
倉の前で晴柳院さんと他愛のないお話をしていると、突然倉の中から空気の震えるような叫びが聞こえてきました。悲鳴というよりも、若干の怒りと困惑を込めたような声色でしたので、不穏なことは想像しませんでしたが、どうやら明尾さんが発せられたようでした。
「んぬうううう!!どうなっとるんじゃあここはあ!!」
「こんにちは明尾さん。今日もお元気そうでなによりでございます」
「ど、ど、どうしはったんですかあ?」
「ぬっ、鳥木か。ちょうど良いところにきた。頼みがある!」
「頼み、ですか」
「ちょっと来てくれい!」
倉の中から頭を抱えて出て来た明尾さんは、私を見るや手招きをして再び倉の中へ戻っていかれました。なんのことでしょう、と晴柳院さんとお顔を見合わせましたが、お呼びになっているので中へ入ってみました。
土壁の倉は陽の光を遮っており、中の照明は小さな傘と裸の豆電球が天井からぶら下がっているものだけでした。紐を引いて切り替える単純な造りのもので、資料館の技術レベルを考えるとかなりギャップがありました。
そして内部は鉄格子で三つの区画に分けられており、錆びた鉄扉の前から正面の鉄格子までの狭い空間が、かろうじて通り道になっている程度でした。長い間放置されていたのでしょう。埃っぽく、黴臭く、土煙が立ちこめる、呼吸すら憚られるようなところでした。晴柳院さんは袖で口元を押さえ、暗がりが怖いのか入口のところから奥へは進めないようでした。
「どうやら、モノクマがあの南京錠を解錠したらしい。開放するのならわしに錠を譲ってくれればよかろうに」
「南京錠。あの扉にかけられていたものですか」
あの南京錠に果たして意味はあったのでしょうか。ボロボロに錆びていて、金槌で叩けば簡単に壊れてしまいそうな哀愁を帯びていた覚えがありますが。私は呼吸とともに喉に入り込んだ土埃を、小さく咳払いをして放出してから本題に入りました。
「失礼。それで、どうなさいましたか?」
「お前さんマジシャンじゃろう?わしは実際に観たことはないんじゃが、脱出マジックなども得意なのじゃろう?」
「そうですね。ありがたいことに、"超高校級"と称される評価を頂戴しております」
「マジックの要領でここの鍵を開けてくれ!」
「鍵?」
明尾さんが指さすのは、鉄格子の一部が改造された扉。その部分だけ見るとまるで牢獄のような物々しい雰囲気を醸しておりましたが、施錠しているのがダイヤル式の簡易錠となるとどうにもミスマッチのような気がします。南京錠は明尾さんがご所望になるほど古めかしいものでしたが、三つの鉄格子に付けられたダイヤル錠はどれも新しいものでした。
「さっきからずっと色んな番号を試しとるんじゃが、一向に空く気配がないんじゃ!考古学上の重要な西暦年は全て試してみたがどれも違うた!もうお手上げじゃ!」
「考古学的推測では意味がないと思いますよ」
「頼む!なんとか開けてくれ!」
「あ、あの・・・ご期待に添えずかつ夢を壊してしまうようで大変申し訳ないのですが、脱出マジックはそれなりの準備というものがございまして、この場で開けろとおっしゃられてもお力になりかねます」
「なぬぅ!!?魔法的なことではないのか!!」
「私も大変心苦しいのですが、現実は非情でございます」
マジシャンとして、タネも仕掛けもある、なんてことは口が裂けても言えませんでしたので、それらしい言い回しでお伝えするしかございませんでした。明尾さんは現実的でお若い割に達観した方だと存じておりましたため、大変驚かれた様子の彼女を見て心が痛みました。人を落胆させるマジシャンなど、エンターテイナーの風上にもおけません。
「お力になれず、大変申し訳ございません」
「そうか・・・いや、わしも無理を言ってすまん。しかしこれはどうしたものかの。せっかく開放されたというのに、これでは何も変わらんではないか」
見たところ、鉄格子の向こうには区画毎にいろいろな物が収蔵されているようでした。明尾さんが前で頭を抱えているのは、ハンマー、木杭、シャベルにツルハシなどの土木用具が並べられておりまして、いかにも明尾さんがご興味を惹かれそうなものばかりでした。これが入って右の区画。
入口に背を向けて左の区画が、こちらも埃を被っておりますが将棋盤や碁盤、萎んだ浮き輪などがあり、どうやら娯楽品の類があるようですね。フラフープや一輪車などが時代を感じますが、これもモノクマの趣味なのでしょうか?
そして正面奥に見えるのは、私の見間違いでなければですが、あまり穏やかでないものばかりでした。真正面の壁にかけられているのは、石川さんが鑑定していれば相当な値をつけそうな古い日本刀。棚に並んだのはサーベルや手斧、更にはモーニングスターといった奇天烈なものまで。こちらはどうやら、凶器の区画のようですね。
「お困りですか〜?うぷぷのぷ〜〜〜!」
「ふえ?ひゃあああああああああああああああああっ!!?」
「っ!!」
私たちが倉で立ち尽くしていると、入口の方からまた唐突に悲鳴が聞こえてきました。最初に、例の悪意と絶望色に満ちたあの声が少し聞こえたかと思うと、たちまちそれは晴柳院さんの甲高い悲鳴に掻き消されてしまいました。とっさに振り向くと、倉の入口であのモノクマが箒を片手に目にも留まらぬ早さで足を動かして掃除しておりました。
「ななな・・・!い、いつのまにぃ・・・!?」
「うぷぷ♫足音もなく背後に立つくらい、無口な凄腕スナイパーでなくても容易いことだよ。そんなことより、オマエラよくここに気が付いたね。気付かれなかったらどうしようかと思ったよ」
「何用じゃ!お前はお呼びではないわ!」
「ふえええっ!ち、ちかよらんといてくださいよぉ!」
「しょぼ〜〜ん・・・引率なのに、こんなに生徒たちに嫌われてボクは悲しいです。せっかくボクがオマエラの手助けをしてやろうと思ったのに、オマエラはその手を払いのけるわけですか。ああそうですか」
「手助け、と仰いますと?」
分かりやすく体全体で落ち込んだ雰囲気を表すモノクマは、おそらく内心ではそんなことはないのでしょう。しかし、彼がこうして意味深なことを仄めかす時は、何か重要なことを隠している時であるはずです。私は晴柳院さんと明尾さんの前で盾となり、警戒しながらお伺いしました。
「オマエラがこんな狭くてむさいところで悩んでるのが可哀想だから、そのダイヤルの番号を教えてあげようと思ったのにさ!そんな態度だったらもういいよ!もう教えない!」
「済まなかったモノクマ、いやモノクマ先生。何卒、教えてくれぇ・・・!!」
「早いですよ明尾さあん!!」
「そんなにですか」
私たちの警戒心にヘソを曲げたらしいモノクマに、明尾さんはすぐさま頭を下げられました。このまま手を付いてしまいそうな勢いに思わず止めようと思いましたが、ジャケットの裾を晴柳院さんに握られてその場から動けずにいました。
モノクマはそんな明尾さんを一瞥し、ふっ、と少しだけ嘲笑を含んだため息を吐いて言いました。
「先生・・・うぷぷ♫先生だなんて参っちゃうなあ!今まで誰もそんな風に呼んでくれなかったから嬉しいよ!明尾さんのボクを尊敬する気持ちに免じて教えてあげるよ!」
「かたじけない!」
そう言ってモノクマは土木作業用具類の区画の鍵に手を伸ばし、ダイヤルを回しました。ほどなくカチッ、という音とともに鍵が外れて、金具の擦れる音が倉の仄闇に不気味に響きました。念のためダイヤルを確認すると、番号は『3679』でした。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!開かずの扉が遂に開いたぞ!!!」
「大げさだなあ。こんな倉の中でそんなおっきな声出したら、ボクの耳が爆発してショックの涙で体が青くなっちゃうよ!」
「耳がキーンってしますぅ・・・」
「あ、他のところの番号も一緒だから!ボクのオススメは一番奥のエリアね!オマエラも元気で快適なコロシアイ生活をお楽しみください!」
「はあ・・・」
「それから、規則に『施錠された鍵を破壊することを禁じます』っての追加しとくから!滝山くんとかに注意しといてよね!それじゃ!」
「おう!助かったぞ!」
すっかりモノクマに感謝してしまっている明尾さんは、消えるモノクマに笑顔で手を振っていました。この方は本当に、発掘のこととなると一直線ですね。羨ましい反面、目が離せない気がします。ツルハシなども、使い方を誤れば危険物ですから・・・。
「鳥木、番号は覚えたな?」
「え、はい。『3679』でした」
「『3679』・・・三つとも同じか。しかしこのタイプは簡単に番号を変えられてしまうからな。後で六浜に報告の後、全員で共有しておくべきじゃな」
「意外と冷静ですね」
資料館ほどの広さもなく、今ざっと見渡しただけでほとんどのことが分かってしまうような場所でしたため改めて捜索する必要は感じられませんが、報告だけはしておく必要がございますね。明尾さんは嬉々とした表情でシャベルやツルハシを眺め、晴柳院さんは倉の中の雰囲気に耐えきれず外に出て行ってしまったので、おそらく報告は私の仕事になるのでしょう。
小さな事ですが、僅かでもお役に立てるのであれば、役目に不平など言っては罰が当たりますね。私は早速六浜さんを探しに倉を出ました。
『コロシアイ合宿生活』
生き残り人数:残り12人
清水翔 六浜童琉 晴柳院命 明尾奈美
望月藍 【石川彼方】 曽根崎弥一郎 笹戸優真
【有栖川薔薇】 穂谷円加 【飯出条治】 古部来竜馬
屋良井照矢 鳥木平助 滝山大王 【アンジェリーナ】
心理描写が上手くなりたい。切に、切に。
で、前書きにありましたようにキャラクター人気投票をしようと思います。
投票期間は5/13~5/20の一週間!
ダンガンロンパQQに登場したキャラクターの中からお気に入りのキャラに投票してください。
一位に輝いたキャラにはなんかします。番外編なり外伝なり
投票方法はいくつかあります。
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