ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

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(非)日常編3

 くそっ、あんな話まともに聞くんじゃなかった。六浜の野郎、黒幕の手先が俺たちの中にいるかも知れねえから気を付けろだなんて言いやがって、今までより余計に周りの奴らの扱いに困るじゃねえか。それに、一番黒幕っぽい奴らが・・・両方とも俺に付きまとってきやがる。

 

 『オマエラ、おはようございます!朝です!今日も一日張り切って、合宿ライフを絶望的にエンジョイしてください!』

 

 相変わらず、喉の奥に手ぇ突っ込んで声帯をぶっこ抜きたくなるクソみてえな放送だ。いっそのこと部屋のスピーカーぶっ壊してやろうか。けどんなことやったら、またモノクマに難癖つけられそうだ。クソッ、ムカつくからもう一眠りするか。

 俺はもう一度目を閉じて、スピーカーに背を向ける体勢に寝返りを打った。まだ眠てえんだよ。こんなくだらねえ放送で起こすんじゃねえ。深く一息吐くと、周りの音が気にならないくらいの眠気に襲われて・・・。

 

 『え〜、朝っぱらからなんですが、オマエラ!至急多目的ホールにお集まり下さい!おいでよ!っつうか来いよ!』

 「・・・」

 

 俺の意識はベッドの下まで沈む前に無理矢理引っ張り出された。ついでに忘れてたムカつきも一緒に釣れたらしい。さっき目を覚ました時よりもずっと腹が立つ。これじゃ誰かに殺される前にどっかのボニファティウスみてえに憤死しちまう。マジでぶっ飛ばしてやろうかあのクソクマ。

 ベッドのバネを潰すつもりで手で杖を突き、俺はベッドから跳び起きた。最近は身嗜みを整えてねえと六浜や曽根崎がうるさくなってきた。どんだけ梳かしてもムース付けようとこの癖っ毛だけは直らねえんだっつうの。馬鹿にしやがって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 多目的ホールには、案の定ほとんどの奴がいた。まだ来てねえのは古部来だけだ。あいつはあんな風に言った後も平気で遅刻できんのか。大した奴だな。そのせいで前回の裁判で容疑者になったの覚えてねえのか。

 

 「おはようございます清水君」

 「これで、古部来クン以外は全員だね。いつも通りだ」

 「しょうのない奴じゃのう。しかしこうも毎日寝坊とは、一周回って不自然じゃの」

 「ちゃんとおきられねーやつはこどもなんだってアニーがいってたぞ!」

 「うわあ・・・それ滝山にだけは言われたくねえ」

 「すまん。遅れた」

 

 そんな風に雑談してると、古部来が当たり前のように扉を開けた。入ってくる時に小さくだが謝ったのは、こいつにしちゃあ相当な前進なんだろう。大概の奴が気付いてねえが、古部来もだいぶ丸くなった。最初の馬鹿馬鹿連発してた頃に比べりゃな。

 

 「清水クンは未だにツンケンしてるけどねえ」

 「余計なお世話・・・あ?テメッ、いま心ん中読んだろ!」

 「はあ?あっはは!何言ってんのさ、そんなことできるわけないじゃん!エスパーじゃあるまいし!」

 「・・・そんなんだから胡散臭えって言われんだろうが」

 

 このメガネ野郎なら、人の心を読むくらいのことやってのけそうだから信用ならねえ。そこで俺は、昨日の六浜の話を思い出した。そうだ、怪しい雰囲気で言ったらこいつはこの中でぶっちぎりだ。この前モノクマが偽の秘密をバラ撒いた時の態度もそうだし、裁判中の態度もそうだ。

 黒幕と直接結びつくような証拠はねえが、引っかかる部分が多すぎる。だいたいこいつ、俺のことは根掘り葉掘り聞くくせに、テメエのことは何にも話そうとしてねえじゃねえか。こいつは一体何者なんだ?

 

 「ん?なあに?ボクの顔に何か付いてる?それとも、ボクのメガネに映る自分の顔に酔いしれてる?」

 「・・・ふん」

 「ありゃ。スルーされちゃった」

 

 無意識の内に曽根崎を睨んでた。それに気付いても曽根崎はへらへら笑って軽口を叩きやがる。マジで秘密がバラ撒かれたあの時の怯えた顔は、見間違いだったんじゃねえかって思えてくる。

 

 『はい!全員集まったね!それじゃあ満を持してボク登場!』

 「相変わらず間抜けな登場の仕方だな」

 「じゃじゃじゃじゃーーーん!!まったくさあ、オマエラ、なんか結束しようとしたり疑い合ったり別にいいんだけどさ、刺激が足りねーっつってんだろ!」

 「そ、そんな理不尽な怒り方されても・・・」

 「こちとらオマエラのほのぼの青春白書を観てえんじゃねーっつーの!!高級住宅街気取りか!!麻布十番か!六本木か!白金台か!」

 「なんで南北線沿いなの?」

 「うるせー!とにかく、オマエラののんびりライフを観てるほどボクは暇じゃねーっつうんだよ!というわけで、今回もやって参りました!オマエラに動機をあげてあげましょう!」

 「いらねーよそんなもん!いいからひっこめー!」

 

 ずいぶんローカルなネタを仕込んできやがったな。そう言えば希望ヶ峰学園の最寄り駅はどこだったか。って今はそんなことどうだっていい。やっぱりまた動機を発表しやがるつもりか。どうせ次の動機もウソだろう。さすがに三度目でそんなウソに惑わされる馬鹿がいるとは思うが、周りの奴らが分かってりゃ問題ねえだろ。小学生の大口みてえに百億円でも積まれりゃ別だが。

 

 「付き合ってられん。まともに取り合うだけ時間の無駄だ」

 「と思うじゃん?でもボクだって勉強しました!オマエラゆとり世代は、叩いてばかりじゃすぐ潰れちゃうんだってね!だから今回は、ボクからアメをあげることにしました!」

 「どうせろくでもない物に決まっている。みんな、耳を貸すな」

 「アメくれんのか!わーい!」

 「そのアメじゃないよ!?」

 

 アメだと?人を殺させるような動機に、飴も鞭もあるわけねえだろ。今度は何が出るってんだ。

 モノクマは口元を手で押さえて、怪しげなボタンを取り出して足で踏んだ。たちまち天井から何か降ってきたと思うと、それは天井に届きそうなくらい積み上がって山になった。遠目には、それが本だってことしか分からねえ。

 

 「じゃーーーん!オマエラが望んで止まない、外の世界の情報でーーーす!いつかオマエラに見せようと、スコールにも負けずトルネードにも負けずあっちこっちの書店から買い集めて、ボクもうすっかり財布がすっからかんになっちゃって・・・感謝して読めよオマエラ!」

 「は・・・はあ?外の世界の情報?」

 「オマエラがここに来てからの新聞、週刊誌、ニュースサイトのコピー、その他メディアを掻き集めてやったんだよ!これだってほんの一部なんだからな!資料館に置いとくから読みたきゃ読めよ!」

 「そんなもので、今さら外に出ようと抜け駆けする者が現れるとでも思っているのか!」

 「うぷぷ・・・今さら、ねえ。うぷぷ!うぷぷぷぷぷぷぷぷ!!」

 「えー?アメは?ほんなんかよめねーよ」

 

 六浜の言葉に、モノクマは笑いながら消えてった。本も一緒にはけたってことは、資料館に置きに行ったんだろう。わざわざ面倒くせえことして、ご苦労なこった。

 だが、あんなもんが動機になんのか?外の世界の情報を見せて、すぐに出たいなんて思わせることが目的なら、最初の映像の方が効果的だ。だいたいここに閉じ込められてから一ヶ月も経ってねえのに、大した情報なんて・・・ん?

 

 「いや待て・・・おかしいだろ」

 「どうしたの、清水クン」

 「俺らがここに来てから、まだ一ヶ月経ってねえはずだろ・・・。なんであんなに山積みになるんだ」

 「えっ・・・?」

 

 自分で言ってて気付いた。あんまりにも濃い日が続いてて忘れてたが、俺らがこの生活を始めてからまだ精々二週間。新聞なんて掻き集めても百部かそこら、週刊誌なんかそれよりずっと少ねえはずだ。なのに、なんで見上げるほどに積み上げられるんだ。

 

 「・・・奴の言葉を真に受けるな。どうせ妄言に決まっている」

 「しかし、私たちはもうその可能性を知ってしまいました。どうなさるおつもりですか、六浜リーダー?」

 「んん・・・」

 

 六浜がきっぱりと言い切った。だが、その後の皮肉気味な穂谷の質問には、答えに詰まってた。そりゃそうだ。あんなもん気になるに決まってる。それにモノクマは今までウソは言ってきたが、冗談を言ったことはない。あいつが動機として持ってきたんなら、間違いなくそれは俺たちの誰かにとって動機になり得るもんだ。もしそいつがあれを手にとって、マジで誰かを殺すつもりになったら、また同じ事を繰り返すだけだ。

 

 「ひとまず資料館に行って確認をすべきだ。処分するなり封印するなり、俺たちからあれを遠ざける方法はいくらでもある」

 「・・・そうだな。移動しよう」

 

 古部来はいつものように落ち着いてる。俺の言ったことにほとんどの奴が動揺してんのに、一人だけ冷静ってのも不気味だ。

 六浜が出て行くのについてって、俺たちは全員で多目的ホールから資料館に移動した。別に六浜に従ったとかいうわけじゃなくて、単純に新しい動機が気になったからだ。俺が違和感を覚えたあれは、まだ未解決だしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員で資料館に来るなんて、まだアニーサンと石川サンが生きていたころを思い出す。そんなことを考えるのは不謹慎なのかな。でも、彼女たちだって確かに僕らの仲間だった。アニーサンはみんなを支えていたし、石川サンだって自分のやり方で、みんなの絆を強く固くしようとしていた。ただ、“才能”というプレッシャーに耐えきれなくなっちゃっただけなんだ。最後の一線を越えさせたのは、モノクマだ。

 ボクは、ここにいないみんなのことを考えることを不謹慎とは思わない。だったらそれを口にしてしまえばいい、いつもみたいに軽々しく言えばいい。でもそうしないのは、やっぱりボクもそれを不謹慎だと思ってるからなのかな。

 

 「改めて見ると・・・ようかき集めたもんじゃな」

 「本当にそのまんま置いてあるとは・・・。誰が片付ければいいのだ」

 

 資料館のテーブルは、さっき多目的ホールで見た山積みの本や雑誌で埋め尽くされていた。清水クンが違和感を覚えた通り、その量は確かにおかしい。たった二週間やそこらじゃ、いくらありとあらゆる情報をかき集めたからって、ここまでの量になるはずがない。

 それにしても、読もうにも一冊抜き取っただけで全部崩れてしまいそうだ。どこから手を付ければいいのさ。

 

 「・・・読むべきだと思うか?」

 

 なんとなく、みんなでその山を囲んで、それからは誰も行動を起こそうとしなかった。だって、これは『動機』なんだから。これを読むってことは、モノクマが言うコロシアイをするための、『動機』を手に入れるってことだ。それはつまり、またボクたちの間に疑心暗鬼を生むことになる。

 頭では理解してても、脳はお構いなしに体に命令する。その本を取れ、中に書かれていることを確認しろ、知りたくてしょうがないって。それは、ボクが広報委員だからっていうわけでもないはずだ。ここにいるみんなが思ってる。それに待ったをかけた古部来クンは、さすがに緊張感に慣れてるだけある。

 

 「仮にこの場で解散し、誰も手を付けずに資料館を後にしたとしても、未処理のままではそれだけで疑念を生むぞ。いっそ全員で読み情報を共有するか、或いは誰も読まずに処分するか」

 「しかし古部来。これが本当に、動機となり得ると思うのか?」

 「それは読んでみるまで分からん。だが読んで動機となれば、また心安らがぬ日々を過ごすことになる。まさにジレンマだ」

 

 目の前に大量の情報が分かりやすく存在してるのに手を付けないなんて、広報委員の名が廃るよ。だけど六浜サンはまだどうすべきか迷っている。

 

 「読むべきではないだろうか」

 

 気持ち悪い静けさに、また彼女が一石を投じた。みんなは目を向けたり、ため息を吐いたり、反応もバラけてきた。

 膠着した時に最初に口を開くのは、いつも彼女だ。読むべき、っていうのは、彼女なりの考えがあるんだろうけど、どういうことなんだろう。

 

 「私たちがここに監禁され、少なくとも一週間以上が経過している。これに対し希望ヶ峰学園は、何らかの行動を起こしていると考えられる。それを把握することは、私たちがここから脱出するための足がかりになると言えよう」

 「だ、だけどそれが載ってるなんて確証はないじゃないか。モノクマがその部分だけ切り抜いてたりしたら・・・」

 「それに、動機と分かっているものに敢えて触れるような危険を冒すことは合理的ではない」

 「合理的でない?私にはお前たちの方が、よほど非合理的であるように見えるが。いや、理性的でない、という表現の方が適切だ」

 

 相変わらず、人間味のない冷たい喋り方だ。それに、状況を理解しているのかしてないのか分からない主張、淡々と人を敵に回すような発言。望月サンはブレないなあ。

 今まで二回の事件を通して、ボクたちの内面には少なからず変化があったはずだ。なのに望月サンだけは、まるで機械みたいに変わらない。だからこそ不気味で、怖い。そんな不安が、いつしかボクたちの中にあった。それを代表するみたいに、古部来クンが望月サンを睨んだ。

 

 「理性的でないのはお前だ、望月。冗談ならば笑えんぞ」

 「私は冗談を言うのが苦手だ」

 「まあ落ち着け古部来。望月の主張も分かる。読んでしまうのも一つの方法ではある」

 「一つ質問したい、六浜童琉。それらに目を通さず処分するメリットとは何だ?」

 

 うわあ、ここまであからさまにケンカを売るなんて、本当に望月サンはブレない。もしかしたら、ケンカを売ってるってことにすら気付いてないのかもしれない。見ててひやひやする。

 

 「誰も動機に触れない。それは、これ以上の悲劇を回避することに繋がる。分かるだろう」

 「誰も動機に触れない、という状況は、観測不可能だ」

 「・・・?」

 「仮にこれを処分するとして、焼却にせよ裁断にせよ、処分の過程で何者かがその内容を目にし理解する可能性は十分にある。誰も動機に触れないためには、直ちにこの書類の山に火を点けるというような方法しかない」

 「そんな現実的でないことを言うなど、お前らしくないな。望月」

 「反語的表現だ。つまり、誰も動機を得ないという事象の均質化は、事実上成立し得ない。だが、全員が情報を共有するという事象の均質化は成立可能だ。なにより動機も不明なままでは、それこそ有栖川薔薇や石川彼方と同じ過ちを」

 「望月サン、そこまでだ」

 

 だんだんと六浜サンと古部来クンの表情が険しくなる。二人だけじゃない、周りで聞いてるみんなの顔も、次第に暗くなってきている。望月サンにそのつもりがなくても、これ以上喋るのはボクらにとっても、望月サンにとっても不利益にしかならない。ボクはストップをかけた。望月サンは、また機械みたいに喋るのを止めた。

 

 「それで、どうする」

 

 静かになった瞬間を見逃さず、古部来クンが改めて六浜サンに尋ねた。こんな状況じゃあ、どっちの決断をするのも苦でしかない。いちいち責任感が強い六浜サンには酷だ。

 

 「・・・オレは読むぜ。ここまでされて、読まねえ方が気持ち悪い」

 「私も。あなた方と違って、私が失踪したとなれば国際機関が黙っていませんわ」

 「また大袈裟な・・・。でも、ボクも読んだ方がいいと思う。このままじゃ、誰がどんな情報を持ってるか分からないことになる。秘密をばら撒かれた時と同じように」

 

 大事なのは、そこに書かれてることじゃない。全員が同じ状態にならないといけない、ってことだ。それが疑心暗鬼の素になるってことは、みんな分かってる。だけど、外の世界の情報を前にして、清水クンの違和感を聞いて、ボクたちはもう足を取られてたんだ。この、深い深い、好奇心という名の沼に。

 

 「目に暖簾、口に留め金、耳に蓋・・・か」

 「仕方ない・・・分かった。我々はこの情報を共有することとする。読むなりなんなり・・・好きにすればいい」

 

 ボクたちは、その山に手を伸ばした。そこに眠る絶望に、吸い寄せられるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「っ!?ど、どうなってやがる・・・!?」

 「・・・モノクマの偽造だ。そうに決まっている!」

 「それならどれだけいいことだろうね。ご丁寧に、『HOPE』まで置いてある。編集者のボクがいるのに・・・いや、いるからこそ、なのかな」

 

 手に取った本や新聞、週刊誌・・・それらの内容は、いずれも怪奇を極めた。なぜ私の知らないことが載っている?なぜ私の知らない事件が、既に起きたことになっている?どういうことだ。

 これが意味すること、そして全ての物に記されている、大きな問題が、じわじわと背後から近付いてくる気がした。

 

 「・・・これらの文献から推測するに、私たちは、少なくとも三年先の世界にいるということになるな」

 「馬鹿なことを言うな!!」

 

 どこまでも冷静な望月に、私は思わず声を荒げた。なぜそんなに落ち着いていられる!?あり得んだろう!!なぜどの新聞も雑誌も、日付が三年後なのだ!!

 

 「な、ななな、なんで・・・!?三年なんて・・・!?」

 「・・・いかん!いかんぞ!信じてはいかん!どう考えてもおかしかろう!わしは脳まで老化した覚えはないぞ!確かにわしらがここに来てから、二週間ほどしか経っておらん!」

 「なら、この山はどう説明するの?新聞や雑誌は捏造があったとして、これだけはどうやっても説明つかないはずだよ」

 

 そう言って、曽根崎は何冊もの『HOPE』を見せた。いつもの飄々とした態度は失せ、薄く青ざめている。自分が編集者であるにもかかわらず、見覚えのない冊子の数々。この中で最も動揺して然るべきだ。

 

 「ボクは『HOPE』を編集して、奥付に手書きでサインをするようにしてる。ここにあるのは、ボクらがすっ飛ばしたはずの三年分の『HOPE』、その全部にボクのサインがあったんだ」

 「そんなもの、モノクマの手にかかれば模倣など簡単にできるのではないですか?」

 「コピーだって言うつもり?ボクに、万年筆のインクとプリンターのインクの違いが分からないとでも?筆跡をコンマ1ミリ単位で見分けられないとでも?」

 「有栖川のメモがあいつのだって見破れなかっただろうが・・・」

 「だって彼女の字を知らなかったんだもん」

 

 おそらくモノクマは、この『HOPE』こそが、曽根崎こそが、この混乱の根拠となるように図ったのだろう。我々がどうしても、この不可解で、不条理で、馬鹿げた事実を受け入れざるを得ないように。

 

 「ボクも知らない事件、ボクも知らない記事、ボクも知らない日付・・・だけど記事の書き方といい構成といい、何よりサインも、全部ボクのものとしか思えない」

 「貴様は・・・」

 

 望月が乗り移ったのか、曽根崎は淡々と述べる。私だって信じられん。新聞の一面に載るような事件も、株価の大変動も、自然災害も、私が推測していないことが起きている。そしてそれには、不気味なほどに筋が通っている。全てを予見するなど傲慢なことを言うつもりはないが、ここまでのことを今まで知らなかったということが信じられん。

 『HOPE』を見ながら冷や汗を垂らす曽根崎に、古部来が口を開く。

 

 「俺たちがその三年間の記憶を、丸ごと失っているとでもいうつもりか」

 「・・・それが一番現実味がなくて、一番納得できる解釈だね」

 「わ、わけがわからないよ・・・。どういうこと?僕らがいる今は、いつなの?」

 「少なくとも、ボクらが学園にいた時から三年後・・・ってことになるかな」

 「馬鹿げている!!そんな阿呆な話があってたまるか!!」

 「・・・」

 

 信じられるか!!信じてたまるか!!丸々三年も記憶がないだと!?どれだけ馬鹿げたことが起きようと、私の記憶まで疑うなど、馬鹿馬鹿しいにも程がある!!そんなわけがない!!

 

 「落ち着け六浜。これが事実か否か、確かめる方法はない。踊らされるな」

 「だ、だよな!いきなり三年後とか少年漫画じゃあるまいしな!確かめる方法なんて・・・」

 「ここから脱出し、直に外の世界と接触する以外にない」

 「!」

 

 また望月か。一体こいつは我々をどうしたいのだ。そんなこと分かっている。最も手っ取り早くこの複雑で憂鬱な気分を晴らす方法は、モノクマのルールに従うことだ。だが、絶対にそんなことは許されない。もう絶対にあんなことを繰り返すわけにはいかない。

 

 「・・・ひとまず、知ってしまったものは仕方ない。愚かな考えを浮かべんよう、各々気を確り持つんだな」

 「も、もちろんですけど・・・」

 「ふう、やはり室内で考えてばかりではいかん。発掘にでも行くか」

 「馬鹿の一つ覚えのように同じ事しかしないのですね。私も、部屋に帰ります」

 

 結局、古部来がその場を締めた。私はいったい何をしているのだ。いくら理解不可能な事象を前にしたからと言って、リーダーになっておきながら冷静さを欠いて大声を出すなど。

 私に呆れたのか、この重苦しい雰囲気がいたたまれないのか、一人また一人と資料館を後にしていく。残ったのは数人だ。みな、受け容れたくないのか、気にしていないのか・・・気にしていないわけがあるまい。何も知らないうちに三年もの時間が過ぎていたなど、どう受け止めれば良い?どう納得すればいい?

 

 「フンッ・・・馬鹿め」

 「なにっ?」

 「六浜、一局付き合え。貴様に、リーダーのなんたるかを教えてやる」

 「は?」

 

 唐突に何を言い出すのだこいつは。私はいま将棋なんぞ打っている場合ではない。一度はまとまりかけた皆が、再び離れようとしている。前回私は、ただそれを嘆き悩むことしかできなかった。だから今度は、何か行動を起こさねばならないのだ。しかし何をすればいいのか。それを考えているのだ。

 

 「悩むばかりがリーダーではない。いいから来い、責任を果たしてやる」

 「せ、責任?」

 「貴様に足りないことを教えてやると言うのだ」

 

 よく分からんが、古部来の表情は真剣だ。この男のふざけた顔など見たことがないが、目の奥から本気であることが伝わる。私は従うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 知らない間に三年もの時間が過ぎてるなんて、普通は信じられません。けど、ここに来てからは信じられないことばっかり起きてる。もしかしたら、あの雑誌や新聞も本物・・・?ほんまにここは、三年後の世界なんやろか。

 

 「晴柳院さん?」

 「ふえっ!?」

 「大丈夫?ずっと青い顔してるけど・・・でも晴柳院さんって元が白いから、あんまり分からないね」

 「・・・さ、笹戸さんこそ大丈夫なんですか?」

 「うん。びっくりしたけど、不安にばっかりなってられないかなって。本当に三年経ってたとしても、時間は巻き戻せないんだから、これからのことを考えないとって思ってさ」

 

 笹戸さんは、そう言って空元気を見せました。簡単に切り替えるなんてことできるはずありません。やっぱり見ない方が良かったんやろか。こんなに不安になってまうって知ってたら、あんなの絶対見いひんかったのに。

 

 「はあ・・・」

 「きっと、あれを読まなくても同じだったよ」

 「へ?」

 「みんなで読まないことを決めても、誰かが裏切って読むんじゃないかって、そんなことを考えて、結局今と変わらなかったと思うよ」

 「え?え?いや・・・そんな・・・って、なんで分かったんですかあ!?」

 「何が?」

 「う、うちが・・・読まんかったらよかった思ってたこと・・・」

 「あははっ、そんなの分かるよ。晴柳院さんのことなんて」

 「ええ・・・?」

 

 軽く笑顔を見せる笹戸さんは、ちょっと不気味に見えました。切り替えが早いゆうても、今は笑える気分やないのに。それに、どうしてうちの考えてることが分かったんやろか。

 

 「モノクマが動機を発表した時点で、僕らはもう、疑い合うことを強いられてたんだ」

 「そそ、そんなこと・・・!」

 「だからこそ、晴柳院さん、僕は君が心配なんだ」

 「ふえ?う、うちが?」

 「誰よりもこのコロシアイに怯えて、誰よりもこの疑心暗鬼を悲しんでる君が。僕は心配なんだよ」

 「さ、笹戸さん?」

 

 笹戸さんの目は、ほんまにうちを心配してる目でした。真剣に、真面目に、うちから目を離そうとしませんでした。

 

 「糸ってね、張り詰めてるとすぐに切れちゃうんだ」

 「は、はい?」

 「だから、釣りで大物がかかった時は、相手のペースに合わせて糸を少しずつ手繰り寄せて、絶対に力ずくで勝負なんてしない。負けるのが目に見えてるからね」

 「はあ・・・そ、そうなんですか」

 「だから晴柳院さん、もっと気を緩めてよ。ここに来てから、緊張しっぱなしでしょ?」

 「き、きを・・・?」

 「僕らの相手は、黒幕っていう大きな敵。緊張して疑って怯えることは、黒幕に弱みを見せることになるんだ。張り詰めた心の糸は、簡単に切れる。釣り糸なら修復できるけど、心の糸は・・・二度と戻らないんだ。だから、もっと気楽になっていいんだ。いや、ならなきゃいけないんだ」

 「そ、そうなんでしょうか・・・?」

 

 な、なんだかこんな笹戸さんは初めて見ます。気楽に言う割に、笹戸さん自身が焦ってはるような。きっと、うちに気を遣ってくれてはるんや。うちがいつまでも暗い顔してるから・・・もう落ち込まないって決めたのに、これじゃうちは変わらんままや。

 

 「そう・・・ですよね。暗い顔したらあきませんよね」

 「うん、晴柳院さんは笑った方がステキだよ。きれいなんだからさ」

 「へっ!?あ、あ、いえ・・・そそそ、そん、そんな・・・うううぅ・・・」

 

 なな、なんでいきなりそんな恥ずかしいことを、そんな当たり前みたいな顔して言うてまうんですかあ!?笹戸さんってこんな人でしたっけ!?そんなこと言われたら、もう笹戸さんの顔見られないやないですかあ!そんな風に言ってくれたんは・・・有栖川さんだけやったから・・・。

 

 「むっ、丁度良いところに!おい笹戸!晴柳院!」

 「うぁっ・・・?明尾さん・・・?」

 「ちょうど人手が欲しかったところじゃ!発掘場で大量のモノクマメダルを見つけてな、あんなにいらんから譲ろうと思っとったんじゃ。寄宿舎まで運ぶ駄賃にくれてやるから手伝うてくれ!」

 「そ、そそ・・・そうなんだ・・・・・・う、うん。手伝うよ・・・」

 「何を真っ赤になっとるんじゃお前さんら。暑いのか?」

 「い、いえ・・・」

 

 間が良いのか悪いのか、明尾さんが声をかけてくれたお陰で、妙な雰囲気のまま笹戸さんと二人でいる必要もなくなりました。だけど・・・これから顔を合わせるのがちょっと気恥ずかしくなってまうような気がして、やっぱりまだ気まずいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コロシアイ合宿生活』

生き残り人数:残り12人

 

  清水翔   六浜童琉   晴柳院命     明尾奈美

 

  望月藍  【石川彼方】 曽根崎弥一郎    笹戸優真

 

【有栖川薔薇】 穂谷円加  【飯出条治】  古部来竜馬

 

 屋良井照矢  鳥木平助   滝山大王 【アンジェリーナ】




久し振りの更新です。スクールモードばかりではいけませんね。本編もようやく進みました。日常編なので物語的にはそこまで進んでません
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