ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

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非日常編1

 『死体が発見されました!一定の自由時間の後、学級裁判を開きます!』

 

 陽が沈んで星がちらちら瞬く暗い空の下、まだ火薬の臭いが漂う湖畔に、その放送は広がった。その場にいた全員が、言葉を失ったまま立ち尽くしていた。ただ一人、その全員の注目を浴びたそいつだけは、変わり果てた姿で土の上に転がっていた。

 

 「なっ・・・・・・・・・ななな・・・な、なんだよこれええええええええええええええええええええええええっ!!?」

 「お、おいおいおいおい!?なんでだよ!?だってさっきまで・・・!!」

 「そんな!!こんなことが・・・なぜ・・・・・・!?」

 「あああああうううううううううっ!!!ウ、ウソやあ・・・!!ウソやああああああああああっ!!!」

 

 一人の悲鳴をきっかけに、それは連鎖するように広がった。目の前で起きた人の死、その恐怖、当惑、悲痛・・・その全てが混濁した、どす黒い絶望が。

 夜の冷たい空気に乗って、明らかに火薬とは違う、思わず鼻を摘まみたくなるような悪臭が漂ってきた。肉が焼け焦げ、血の鉄臭さが混じった、死体の臭い。その姿を見て、モノクマの死体発見アナウンスを聞いて、更に追い討ちをかけるように漂ってきたその臭いに、その絶望感はますます強くなった。

 

 「何をしている・・・!!ふざけるな・・・!!」

 

 パニックになる湖畔で、そいつは歯の隙間から捻り出すように言った。ショックのせいか、覚束ない足取りで俺たちの中から歩み出すと、横たわるそいつの元まで歩いて、その隣に座った。座ったと言うより、跪いたと言った方が正しいかも知れない。ぎりぎりで保っていた支えが、無惨な現実でふっと外れたような。

 

 「なぜこんな姿になっている・・・!!なぜ・・・こんな簡単に死んでしまう・・・!!お願いだ・・・お願いだから・・・嘘だと言ってくれ・・・・・・・・・古部来ぃ・・・!!古部来いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!」

 

 問いかけるように、囁くように、六浜はその横で言葉を漏らす。そして堰を切ってあふれ出した涙と共に、その名前を叫んだ。痛々しくて、あまりにも惨めで、どうしようもない現実。二度と動かなくなった古部来は、頭にかかる涙を払うことすらしなかった。

 

 「うぷぷぷぷ!オマエラ、絶望してますか!してるよね!この込み上がる気持ちが絶望じゃないなら、何が絶望か分からないほどだよね!」

 「ぎゃああああああああああああああああっ!!!で、でたああああああああああああああああっ!!!」

 「そんなオマエラにボクから、愛を込めてザ・モノクマファイルを!理由なんて聞かなくても分かり切ってるよね!」

 

 まただ。死肉を啄むハゲタカみてえに、誰かが死ぬとモノクマが現れる。そしていつものとことん悪趣味な笑顔で、俺たちの電子生徒手帳に新しいデータを渡した。何の感情も無い電子生徒手帳は、無慈悲に事実だけを表す。絶望感に打ち拉がれて泣き崩れる六浜の隣に横たわるのは、やっぱり古部来だったんだ。

 

 「また・・・あれをやるんだね・・・!」

 「トーゼンじゃん!いつもより長めに待ってるんだから、今回もエキサイティングな学級裁判を期待してますよ!」

 「ウソだろぉ!!?もう勘弁してくれよ!!なんでオレらがこんなことに巻き込まれなきゃならねえんだ!!ふざけんな!!」

 「もう、今更そんな文句言ったって何も変わらないでしょ。こうしてる間にも、捜査時間はじわじわと削れていってるのですよ。現実逃避するのは自由だけど、そのツケを払うのも自分自身なんだからね」

 「うううう・・・・・・もうヤダよぉ・・・たすけてくれよぉ・・・!」

 「助かりたければ学級裁判を生き残ること!もう二回も経験してれば分かるよね?そんじゃま、そういうことで〜〜〜!」

 

 厳しく辛い現実、それを俺たちに突きつけて、モノクマは消えていった。俺たちの一人が死んだ、そしてそれをやったのは俺たちの中の誰か。そんなこと、今まで二回も思い知らされた。三回目になって理解してないわけじゃない。受け容れられねえだけだ。

 

 「では捜査を始めよう。清水翔、曽根崎弥一郎。お前たちで六浜童琉を移動させてくれ。あそこにいられては捜査が十分に行えない」

 「っ!テメエは・・・なんでそんな簡単に言えるんだよ!」

 「簡単?」

 「捜査するってことがどういうことか分かってんのか!六浜がなんで泣いてんのか分かってんのか!あのクソ野郎の言うことに何の疑問もねえのか!なんでそうやって平気な面してられんだよ!!」

 「捜査をするのは古部来竜馬を殺害した犯人を明らかにするため、六浜童琉の涙は死に対する人間の感情的生理現象に起因している、モノクマに関して疑問は多くあるがそれより優先すべき事項が存在している。私も、至って平常心というわけではないのだが」

 「そういうことじゃねえんだよ!!!」

 「よしなよ清水クン。望月サンもちょっと黙っててよ。みんなキミみたいに合理的に考えられるわけじゃないんだ・・・」

 

 痛いほど冷静に、望月はこの状況を即座に理解して、次の行動に移る。分かってる、こうなったらやることは同じだって。また俺たちは命を懸けなきゃいけないんだって。分かってる。頭じゃ全部、分かってるんだ。

 

 「だれだ・・・!だれがやった・・・!」

 「お、おいむつ浜・・・大丈夫かよ?」

 「誰が古部来を殺したッ!!出て来い卑怯者!!あんな煙に紛れて殺すなど下劣な手を使いおって!!」

 「六浜さん!落ち着いてください!滝山君!彼女を抑えるのを手伝ってください!」

 「えあっ・・・!?あ、う、うん!」

 

 モノクマから捜査資料を受け取ると、全員やることは一つだと理解した。六浜だけが、ただ古部来の横で喚き、鳥木と滝山に両脇を抱えられて押さえつけられた。あの調子じゃ、まともな捜査なんかできっこねえ。二人に連れられて、六浜はテラスまで引きずられていった。まさかあいつが、あそこまで取り乱すとは。

 

 「無理もないね。六浜サンは古部来クンと仲良かったみたいだし」

 「仲良かった?あいつが?」

 「比較的、ね。そうでなくても、彼女をリーダーに推したのも古部来クンだし、その責任感もあるんでしょ」

 「仲が良かったか・・・石川ん時と同じじゃねえだろうな」

 「・・・それは後で調べとく必要がありそうだね。ともかく、まずは現場からだ」

 

 発狂した六浜を見たせいか、なんだかんだで俺ももう冷静になっちまってた。まさもう二度も同じことを経験したせいか、シャレにならねえが、人が死ぬことに慣れちまってる気がする。それを差し引いても、目の前に横たわる古部来の死体は思わず目を背けたくなる酷たらしさだった。

 

 「じゃあ、捜査を始めようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《捜査開始》

 

 取りあえず、モノクマファイルを確認しとくか。前回もその前も、それなりに重要なことが書いてあったわけだしな。電子生徒手帳を起動させ、モノクマファイルを開いた。その途端、画面一杯に古部来の凄惨な死に姿が容赦なく表示される。その次のページには、その詳細が綴られてた。いつの間に調べたってんだ。

 

 ーーー被害者は“超高校級の棋士”、古部来竜馬。死亡時刻は午後九時四十分頃。死体発見場所は資料館北の湖畔。頭部から胸部にかけて激しく損傷し、胸部の火傷は内臓まで到達。数カ所に鋭利な物体が刺さっており、骨折も複数ある。ーーー

 

 一通りの記述を読んで、俺はあることに気付いた。読み落としたのかと思ってもう一回読んだが、やっぱり書いてねえことを確認したのとますます気分が悪くなるだけだった。そこには今まで当たり前に書かれてたことが当たり前のように書かれてなかった。

 

 「死因が書いてねえ・・・おいどういうことだ!モノクマ!」

 「はいはい、モノクマですよ」

 

 俺が呼ぶと、どこからともなく出てくる。こういう時にだけ融通が利きやがるのがムカつくがしょうがない。取りあえずこの疑問をぶつけるのが先だ。

 

 「おい、資料作るならちゃんと作りやがれ役立たず。死因が書いてねえじゃねえか」

 「それがなんだい?なんか問題?いやいや無問題(モーマンタイ)!」

 「問題大アリだろうが。死因が分かんねえんじゃ凶器も特定できねえし殺し方も分からねえじゃねえか」

 「・・・まったくもう、これだからゆとりはやんなっちゃうんだよ!教科書や資料集に全てが書いてあると思うなよ!むしろそんなのは現実のほんの一部分、しかも上澄みにしか過ぎないんだよ!それにね、ボクはクロとシロのどっちの味方でもないの!それはあくまで、犯人とオマエラが学級裁判で平等に対決できるようにするための、ボクからの温情なのね」

 「血も涙もねえ埃の塊が何言ってやがる」

 「なので、死因についてはオマエラで捜査して考えてください。今後もモノクマファイルについての質問は受け付けないので!そんじゃ!」

 

 一方的に話を切り上げて、モノクマはどっかへ逃げた。死因は勝手に捜査して考えろだと?今まで教えてたくせに、なんで今回になっていきなりそんなことになってんだ。あいつの気紛れもここまでひでえとは思わなかった。

 自分で調べろってことは、古部来の死体に、少なからず触ることになるんだよな。いざそれが必要になると、やっぱり手が進まねえ。そう考えると、飯出が殺された時に真っ先に死体を捜査した古部来はかなり思い切りが良い奴だったな。今じゃ自分が調べられる側になってるなんて、クソほども笑えねえが。

 

 「しかし・・・ひでえなこりゃ。わざわざこんなグロい殺し方しやがって・・・」

 「火傷、裂傷、銃創、その他多数・・・胸部はともかく、頭部はほぼ原型がない。相当な衝撃だったのだな」

 「原型なしって!?なに怖えことそんな普通に言ってんだよ!!」

 「それより望月サン、銃創って言った?」

 「それに類似する傷が存在している。本物の銃火器というよりも、それに準ずる凶器と考えるのが妥当だ」

 「内部組織にまで達するなんて、本当に人を殺す目的で作られた物でないと不可能なんじゃないかな」

 「うっ・・・オ、オレ一旦トイレ・・・」

 

 うつ伏せになった古部来を、なるべくそのまま調べた。仰向けにしたら、屋良井だけじゃなく俺まで捜査どころじゃなくなるかも知れん。それくらい、古部来は酷い殺され方をしていた。

 望月は淡々と古部来の状態を調べ、曽根崎が推測や疑問点と一緒にメモをする。こいつらに任せときゃ俺いらねえんじゃねえか。と、一歩外れた所から様子を眺めてると、古部来の周りに散らばった何かに気付いた。

 

 「何かのカスか?やけに散らばってんな」

 「燃えカス・・・だね。明らかに不自然だ。覚えておいた方がいい」

 「不自然か?花火やってりゃ燃えカスくらい出るだろ」

 「出たとしても、こんな広範囲に大量になんておかしいよ。古部来クンの周りにあるなら、事件に関係してると考えた方が自然じゃない?」

 「・・・そうか」

 

 黒く煤けた厚紙みてえなカスやら、キラキラ光るカスやら、細長い何かやら、色んなもんがある。どれも古部来の周りに散ってるってことと、燃えたような焦げたような痕跡がある。やっぱ関係あんのかな。それから、燃えたわけじゃねえけど、明らかに元からここに落ちてたもんじゃねえってものもある。

 

 「なんだこれ・・・?」

 「だいぶ細かくなってるけど、ガラス・・・・・・かな?」

 「ガラス?なんでそんなもんがこんなところに落ちてんだよ」

 「さあ?」

 

 ものすごく細かくなってて、ただこの辺で誰かがガラス製の何かを割ったとか、そういうレベルじゃねえ。文字通り、木っ端微塵だ。しかも茶褐色ってことは、メガネとか窓ガラスとかそういうもんでもねえ。なんなんだこりゃ?

 一応事件と関係あるかも知れねえから覚えとこうと、曽根崎がメモを取った。しばらくそのメモ帳を見て、曽根崎は思い出したようにぽつりと言った。

 

 「・・・花火と言えば、あれはなんだったんだろうね」

 「あれってなんだよ?」

 「ほら、事件の直前に煙が出たでしょ。火薬臭かったし、あれは花火の煙だよ」

 「ああ・・・あれか。確かに妙だったな。ただの花火じゃなかった、まるで古部来を殺すのに顔を見られねえようにしたような・・・」

 「ま、普通に考えて犯人が用意したものだよね。でなきゃおかしいもん」

 「・・・」

 

 分かってんなら聞くな。だが、確かにあの煙は不自然だ。花火やってりゃ多少の煙は出るが、次の一歩すら見えねえほど濃い煙で湖畔がいっぱいになるほどなんて、どう考えても誰かが細工したとしか思えねえ。それに、あれも理由の一つだろう。

 

 「あの光を隠すためだったとしたら、辻褄が合うな」

 「ん?清水クン、光ってなに?」

 「煙が噴き出して少しした時、デケえ音がしただろ。あれとほぼ同時に、古部来が倒れてた辺りが光ったんだ。一瞬だったが確かに見た」

 「ああ、音は聞いたよ。けど光は見なかったなあ・・・あれじゃ右も左も分からない状態だったから、違う方向いてたら見えないかもね」

 

 周りが全く見えなくなるほどの煙を出す花火、煙の中で響いた音と激しい光、そこで死んでた古部来。これらが関係ねえわけねえな。覚えといた方がいいな。

 古部来の周りをある程度調べ終えると、やっぱり直接調べなきゃならねえのか。飯出の時もアニーの時も、なんやかんやで間近では見たものの直接触ったりなんかしなかった。今になって、それも、明らかに刺殺や絞殺じゃねえ、鼻を突く異様な臭いの漂う死体を調べなきゃならねえとは。俺は取りあえず平常心に戻るため、深呼吸して気持ちを落ち着かせようとした。

 

 「清水翔、何をしている」

 「あ?見て分かんねえのかよ。古部来の死体調べんのに心の準備してんだろうが。話しかけんな」

 「その必要はない。既に私が一通り調べた。専門知識はないが、モノクマファイルの記述とほぼ一致している」

 「は?」

 

 マジか。こいつに人間味がねえことは前から分かってた。だけどこんなグロい死体を前にして、平然と調査をできるなんて、いよいよこいつは人間じゃねえ気がしてきた。無感情、無表情、ただのアホ面だと思ってたその面が、今はなんとなく怖く見える。

 

 「もう調べ終わったんだ!早いね望月サン!」

 「ほとんどモノクマファイルの内容の確認でしかなかったため手早く終わったのだろう。しかし、モノクマファイルにはなかった情報も入手した」

 「ホント?教えて教えて!」

 

 さっきまでの雰囲気からコロッと変わって、曽根崎は望月の調査結果に興味津々に尋ねた。なんでだ。取りあえず望月はまた情報は共有するべきだとかなんとか言って、新しく見つけた情報ってのを見せた。古部来の反対側に回り込んで、死体から見て左側に来ると、確かにモノクマファイルには載ってねえ重要そうな証拠を見つけた。

 

 「なんだこりゃ」

 「明らかに、自然に形成されたものではない。おそらく古部来竜馬が何かを伝達しようとしたのだろう」

 

 望月が指さしたのは、古部来が倒れている場所のすぐ近く。ちょうど頭の真横あたりにある、線がガタガタでまともな形をしてない・・・辛うじて円に見える何かだ。いやそれよりも、目を引くのはその円の一箇所に意味ありげに置かれた、古部来の指だ。その先には、どう見ても自然に付いたとは思えないような血が付いてる。

 

 「歪んだ円、その一箇所に血の付いた指か。う〜ん、確かに意味深だね」

 「どういう意味だこれ」

 「それは現時点で断定することはできていない。しかし、古部来竜馬以外の誰かにこの記号を作製することは不可能だったと言える」

 「そりゃ、みんなの注目されてる中で堂々とそんなこと・・・・・・できないか。さすがにここまであからさまなのはね」

 「ってことはこれは・・・やっぱあれなんかな」

 

 曽根崎が少し言い淀んだのは、たぶんあのことを考えたからだろう。石川がやったことの逆で、犠牲者のそばに寄り添うフリをして証拠を捏造するってことだ。俺も同じ事を考えてた。だが、普通に考えてこれは古部来が遺したもんだろう。なんだったか忘れたが、推理小説とかミステリー映画とかじゃよくあるやつだ。

 

 「ダイ・・・ダイ・・・」

 「ダイニングコテージだね!」

 「んな小洒落たカフェみてえな名前じゃねえ」

 「ファイティングバンデージだったかな」

 「普通のバンデージじゃねえか」

 「ミーティングパッセージのはずだよ」

 「もう意味分かんねえ」

 「じゃあダイイングメッセージかな」

 「んな物騒な・・・それだ」

 「何をしている」

 

 なんで急にふざけてきたんだこのアホメガネ。まあ今更どうでもいい。とにかくこれは、古部来が遺したダイイングメッセージだ。これが犯人を指すのか、それとも他の何かを指すのか。それは分からねえが、事件の解決に繋がる重要な手掛かりなんだろう。覚えとくべきだな。

 

 「それともう一つ、不審な点がある」

 「教えろ」

 「見て分かるように、古部来竜馬はうつ伏せの状態で死亡している。しかし、モノクマファイルや私の捜査において、古部来竜馬の死因となった外傷の類は、その前半身にしか存在していない」

 「それがどうした」

 「傷を見る限り、古部来竜馬は相当な衝撃を受けて殺害された。前方から衝撃を受けたにもかかわらず、前方に倒れて死亡するというのは明らかに不自然だ」

 「・・・ああ、なるほどな」

 「いや、分からないよ。殺した後に犯人が傷を隠すためにうつ伏せにしたのかも知れないし」

 「その可能性も排除される。証拠も存在している」

 

 後で好きなだけできるんだから、この時点で話し合いなんかしてる場合じゃねえだろうが。望月の言うことはもっともだってのに、それに対して曽根崎が待ったをかけた。そして望月が新しい証拠を出してそれに反論してきた。

 

 「こんなものが落ちていた。ダイイングメッセージに重なる位置にだ」

 「あ?将棋の駒?」

 「角行だね。う〜ん、この汚れ具合、もしかして、古部来クンが身につけてたやつかな」

 「私もそう推測している。これは、もともと古部来竜馬の首に提げられていたものだ。にもかかわらず、古部来竜馬の前方にあった。これは、古部来竜馬が死亡する際に飛び出したと考えられる。少なくとも、古部来竜馬の体を反転させただけではこうはならない。その上、ダイイングメッセージを遺したのが古部来竜馬である以上、古部来竜馬は前傾倒したということになる」

 「・・・つまり、駒やダイイングメッセージの位置から考えて、古部来クンは前から殺されたにもかかわらず前に倒れた。それが不自然だってこと?」

 「簡潔にするとそうなる」

 「お前よく分かるな」

 

 未だに望月の回りくどくて長ったらしい話し方に、俺はいまいち慣れない。なのに曽根崎はそれを簡単に要約しやがった。俺にとっちゃ助かるが、望月は少し不服そうな顔をして、だが間違ってはないと言った。

 

 「ちなみに、その駒ってどの辺に落ちてたの?」

 「古部来竜馬の指の近くに落ちていた。詳細に言うと、古部来の指先を原点とした場合第二象限のX軸の漸近線上、ベクトルはその漸近線に対してほぼ垂直で裏向きに・・・」

 「そこまで細かくは聞いてねえよ!」

 

 よくもまあ、ただ落ちてた将棋の駒の説明をここまで難しくできるもんだ。めんどくせえことになる前にストップをかけて、取りあえず望月の報告はそれで終わった。

 さすがに殺されてすぐ捜査したせいか、死体の周りにはたくさん証拠が残ってた。だがこれだけじゃまだ何も分からねえ。他の場所も捜査する必要があるな。あとどこを調べるべきだ?

 

 「おい曽根崎」

 「う〜ん、正直言うと、ボク今回はあんまりどうしていいか分かんないんだよね」

 「は?」

 「だからさ、今回は清水クンが頑張ってよ。事件と関係ありそうな場所や、証拠が残ってそうな場所を考えて、捜査するの」

 「テメエが分からねえわけねえだろ。なんでわざわざ俺がそんなことしなきゃならねえんだ」

 「・・・なんだかヤな予感がするんだよね。事件はこのままじゃ終わりそうにないっていうか」

 「は、はあ?お前何言ってんだよ」

 「まあ、気のせいだとは思うよ。だけど念のために、清水クンは一人で頑張って。ボクも別で捜査するよ」

 

 深刻そうな顔したと思ったら、いきなりケロッと笑って無責任なことを言い出した。だがその軽い笑顔の底に、絶対譲らねえっつう強引で勝手な意思を感じる。狙いを定めてインタビューをするって時のこいつの顔だ。これ以上は時間の無駄だな。

 

 「・・・ちっ」

 

 俺は曽根崎に背を向けて、取りあえず桟橋に向かうことにした。心当たりっていうわけじゃねえが、気になることがあって近場にあるのがそこだっただけだ。俺を見送りながら曽根崎が何か言った気がしたが、よく聞こえなかったから無視した。

 

 「ボクの勘は当たるからね」

 

 

獲得コトダマ

【モノクマファイル3)

場所:なし

詳細:被害者は“超高校級の棋士”、古部来竜馬。死亡時刻は午後九時四十分頃。死体発見場所は資料館北の湖畔。頭部から胸部にかけて激しく損傷し、胸部の火傷は内臓まで到達。数カ所に異物が刺さっており、骨折も複数ある。

 

【何かの焼けた跡)

場所:湖畔

詳細:古部来の死体の周辺に散っていた燃えかす。木っ端微塵になっているが、かなりの種類と量がある。

 

【粉々のガラス)

場所:湖畔

詳細:古部来の周りに大量のガラスの破片が大量に落ちていた。古部来の体にもいくつか突き刺さっている。

 

【花火の煙)

場所:湖畔

詳細:事件の直前に、遊んでいた花火が突如として大量の煙を噴き出した。もともと煙が出やすい種類の花火だが、通常なら視界を遮るほどではない。

 

【煙の中の閃光)

場所:湖畔

詳細:煙幕の中で清水が見た強烈な閃光。同時に炸裂するような音もした。古部来が倒れていた辺りに見えたため、事件と関係していると思われる。

 

【古部来のダイイング・メッセージ)

場所:湖畔

詳細:歪な形の円が描かれていて、円周の一点に血が付いている。古部来が何かを伝えようとしていたようだ。

 

【うつ伏せの古部来)

場所:湖畔

詳細:古部来の死体はうつ伏せに倒れていた。死因となった火傷や裂傷は全て前面にしかなかったため、不自然であると言える。

 

【角行)

場所:湖畔

詳細:古部来の前方に、ダイイングメッセージと重なる場所に落ちていた。生前の古部来が大切にしていたもの。傷やシミが年月と威風を醸している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 取りあえず桟橋に来た。別に特別に怪しいと思ってるわけじゃねえが、気になることはある。事件に深く関わってりゃ儲けものってくらいの確信だ。少なくとも俺たちに隠し事があるってのは確定してるから、それを引き出すために曽根崎が必要だったんだが、こうなったら俺がやるしかねえか。

 

 「おい」

 「!」

 「んなところで何してる。なんで捜査すっぽかして湖見てんだよ、笹戸」

 「あ、し、清水くん・・・。べ、別に僕は・・・すっぽかしてるわけじゃないよ。ちょっと今は大事なことがあるっていうか・・・」

 

 俺が声をかけると、笹戸は驚いて肩を竦ませた。桟橋から湖を覗き込むようにして座り込んで、捜査らしいことなんか一つもしてねえ。この行動も意味分かんねえが、事件直前のことも気がかりだ。こいつは確実に、何かを隠してる。

 

 「あ、あれ?曽根崎くんか望月さんと一緒じゃないの?」

 「話を逸らすな。いいからここで何してるか言え。それから、事件前にお前だけ湖畔から離れたろ。あの時のバケツに何入ってたか言え」

 「・・・こ、これって尋問なのかな?」

 「拷問になる前に答えろ」

 「うっ・・・」

 

 妙に話したがらない笹戸を脅すつもりで、拳骨に息を吐きかけた。いい加減に俺の我慢の限界を超える前に大人しく答えた方が賢いと分かったのか、笹戸は観念したようにため息を吐いて話し始めた。

 

 「・・・あのバケツには・・・死体が入ってたんだ」

 「は!?し、死体!?古部来の・・・いや、んなわけねえな。誰の死体だ!」

 「だ、だれのって、ひ、人じゃないよ!僕がそんなことするわけないじゃん!」

 「はあ?じゃあ何の死体が入ってたんだよ」

 「・・・・・・打ち上がってたんだ、湖畔に。ピラルクーが」

 「あ?ピラ・・・なんだ?」

 「アロワナ科アロワナ目の淡水魚で、世界最大の淡水魚の一種。シーラカンスと同じ『生きた化石』で、ワシントン条約で保護指定もされてるんだ。南米アマゾン川原産で、こんな湖に生息してるなんて普通は考えられないはずなんだけど・・・」

 「テメエは望月か。んなオタク知識はどうでもいいんだよ」

 

 聞いたことねえ名前が出て来て思わず聞き返すと、笹戸は急にべらべら喋りだした。その調子でさっさと俺の質問に答えやがれ白髪野郎。

 

 「で、そのピクルスがどうした」

 「ピラルクーだってば。その死体が湖に打ち上がってて可哀想だったから、水葬にしようと思ってバケツで運んだんだ。で、今それをしてたところだよ」

 「んなもん放っときゃいいだろうが・・・」

 「だって死んで放ったらかしなんて可哀想だったから、ちゃんと最期も見送ってあげたかったんだ。みんな花火を楽しんでたから、水を差しちゃいけないと思って僕だけでやるつもりだったんだ。それに、ちょっと変な死体だったし」

 「変っつうとなんだ」

 

 死体だの最期だの、こいつは魚と人の区別がつかねえのか。ややこしい言い方しやがって、そんなんだから無駄に疑われて尋問なんかされんだろうが。気の遣い方が下手くそなんだよ。そんなことよりも、笹戸が最後に呟いた一言が気になった。魚の死体に変もクソもあんのか。

 

 「ピラルクーは大人になるとだいたい2mから3m、大きいものだと4mを超えることもあるんだ。前に僕がアマゾンで釣った時は5m以上あったなあ。鱗がすごく硬くて艶もキレイで、筋肉もしっかりしてて格好良かった!まあ、保護対象だからすぐに返して魚拓も取れなかったんだけどね」

 「よーし歯ぁ食いしばれ。一発ぶん殴る」

 「わっ!わっ!ごめんなさい!余計な話してごめんなさい!えっと・・・そう!大きさだったよね!大人のピラルクーなら2mは超えるのに、打ち上がってたのは僕より小さかったんだ。1m強ってところかな」

 「じゃあ単純にガキの魚だったんじゃねえのか」

 「そうなんだよね。でもピラルクーの稚魚は親の真上で群れを成して生きるし、成長はすごく早いんだ。食性は肉食性、体はオタマジャクシのような黒。体の大きさもあるし、たぶんこの湖じゃ最強種だったはずだよ。そんな魚が外傷もなく子供のまま死ぬなんておかしいよ」

 「・・・」

 

 よく分からねえが、要するにそのデケえ魚の子供が死んでんのがおかしいってことか。その程度のことでわざわざ花火を抜け出して、そのタイミングで事件が起きるなんざ、こいつも大概ついてねえな。まあそれが本当かも分からねえし、偶然だったのかも怪しいところだがな。

 

 

獲得コトダマ

【笹戸の証言)

場所:桟橋

詳細:事件発生直前、笹戸は湖畔に打ち上げられていたピラルクーの死体を供養しに桟橋に行っていた。死体は、成熟していないまま死んでいたにもかかわらず、特に襲われた痕跡などはなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後はどうするべきか。一応気になってた笹戸についての捜査は終わった。湖畔に戻るともう曽根崎はいなくて、戻ってきた屋良井と望月で死体の見張りをしてた。ただでさえエグい死体が転がってるってことと、前から望月を疑ってたせいで、屋良井は渋い顔をしてた。

 

 「お、おーい清水ぅ!代わってくれよ!オレこんな空気耐えられねえよ!」

 「は?ふざけんな、誰が好きこのんで死体とブスチビと一緒にいるか」

 「オレの身になって考えてみろよ!っつうかお前容赦ねえな!」

 

 横を通り過ぎようとする俺に、屋良井が小声で話しかけてきた。無視するって手もあったがウザかったから捨て台詞を吐くつもりで言ったら、更にそれに返してきた。こいつも大概めんどくせえな。っつうかいたくねえんだったらさっさと他の所行きゃあいいじゃねえか。

 

 「お前がさっさと捜査に行きゃあいいだろ。なんでここにいるんだよ」

 「それがさ、望月が色々言ってきて、ここにいろってうるせえんだよ。ビビってんだぜきっと。清水の方がいいんじゃねえか?」

 「しばくぞ」

 「照れ隠しか?あぶねっ!!」

 

 俺の平手が空を切った。この野郎、曽根崎並の反射神経してやがる。何が照れ隠しだ馬鹿野郎。いい加減、俺と望月をワンセットで考えるこいつらのそういう感じに我慢が利かなくなってきた。たぶんこいつが元凶なんだろう。もうそれでいい。

 

 「おいおい照れんなって!今更隠したってしょうがねえだろ!?どうせ曽根崎に根掘り葉掘りインタビューされてんだろ!?」

 「潰されてえみてえだなコラ!!」

 「お前たち、騒々しいぞ」

 

 毎度思うが、屋良井のこの普通の男子高校生っぽいノリには苛立たされてばっかだ。なんでこんな奴が“超高校級の才能”持ってて俺が持ってねえんだマジでムカつく!!テメエのせいで望月に注意されたじゃねえか!!

 

 「とにかくさ、マジでオレこんなとこいたくねえから、頼むよ清水。これ真面目な話」

 「ふざけんな。俺は俺でテメエと違って捜査するんだよ。大人しくいろ」

 「いや勘弁してくれって。この際だから望月と色々と話せよ。そういう仲なら募る話もあんだろ?」

 「TPO考えろや」

 

 マジでこいつと話してると無駄な時間だ。それに、前回前々回と思い返してはっきり分かってる。どっちみちこいつにゃまともな捜査なんかできねえんだから、死体の見張りでもしてた方がよっぽど役に立つってもんだ。俺は屋良井を捨て置いて、さっさと他の場所を捜査しに向かった。

 さてどうしたもんか、と考えたら、あの煙幕を思い出した。そう言えばあれは花火から出た煙だったな。花火はもともと倉庫にあったもんだったっけか。そういやあそこにゃ大量の武器もあったし、一回調べに行っといた方が良さそうだな。俺は湖畔をスルーして、倉庫に向かいかけた。だが途中で、倉庫には灯りがなくて夜中だとマジで何も見えねえことを思い出した。

 

 「・・・めんどくせえなあ」

 

 確か部屋にモノクマから支給された懐中電灯があったな。一旦それを取って来ねえと、まともに捜査なんかできねえか。めちゃくちゃめんどくせえが、仕方ねえか。倉庫を捜査するために、一度個室に戻ることにした。

 どいつもこいつもどこ捜査してんだか分からねえが、あちこちに散らばりやがって、中央通りは人気が全然なかった。夜中だと足下が悪いせいか、いつもより時間がかかる気がする。ようやく寄宿舎に着いたと思ったら、向かいの食堂の灯りが点いてるのに気付いた。こんな時間にこんなところにいる奴なんて、だいたい分かる。捜査サボって残飯あさるようなクソザルを怒鳴るつもりで、食堂のドアを勢いよく開けた。

 

 「おい!捜査サボってんじゃねえよ!」

 「のあっ!?」

 「あ?」

 「し、清水君・・・驚かさないでください。夜中に大声を出すと近隣の方の迷惑になりますよ」

 「こんなところで何してんだよ鳥木。てっきり滝山がまた残飯あさってんのかと思ったじゃねえか」

 「またって・・・彼はそんなことをしたことはありませんよ。おそらく」

 

 食堂にいたのは滝山じゃなくて、鳥木だった。なんだってこいつはこんな時にこんな所にいるんだ。こいつは残飯あさるようなキャラじゃなかったと思うけどな。

 

 「で、こんなとこで捜査か?六浜看てんじゃなかったのか」

 「ひとまず落ち着いたようなので、後は晴柳院さんと曽根崎君にお任せして、私と滝山君は捜査に戻りました。その際に滝山君が、お腹を空かせたと仰ったので、食堂で何か繋ぎの物を探すのにご一緒したという次第で」

 「あ?曽根崎?あいつ、六浜んとこ行ったのか」

 「おや、ご存知なかったのですか?てっきりお二人で手分けして捜査しているのかとばかり」

 「俺とあいつをセットみてえに考えんの止めろ。反吐が出る。で、滝山が見当たんねえぞ」

 「ここには何もないようなので、発掘場の方へ行かれました。私はもののついでに、こちらを捜査しているのでございます」

 「こんなところに手掛かりなんかあるわけねえだろ」

 「いえいえ、こうした目立たない所、意外な所、一見関係ないように見える所にこそ、タネがあるのですよ。マジックの場合は大抵これで暴けます」

 

 殺しとマジックを一緒と考えてる時点でこいつはマジシャン失格だろ、あと思考がサイコっぽい。まあんなこたどうでもいいんだが、食堂なんかに証拠があるとは思えねえ。ついでとは言え、こんなの時間の無駄だ。

 

 「こんな事件と関係ねえところまで捜査たあ、ずいぶん気合い入ってんな」

 「・・・私には今回、犯人を突き止める責務がございますので」

 「ん?」

 

 俺はただの皮肉のつもりで言ったんだ。事件と関係ねえところをいくら捜査したって手掛かりなんか見つかるわけねえだろ、ってつもりで。それを汲み取れないほど馬鹿な奴じゃねえと思ってたが、思いの外、鳥木は真剣なトーンで返して来た。

 

 「私があのパーティーを提案したのは、全員が同じ場に居続けることでこのような事態になることを防ぐためだったのです。それなのに・・・まさか、あの花火を利用されるとは・・・!この鳥木平助、一生の不覚です!私の想像力の至らなさのために、古部来君を喪うなんてッ・・・!」

 「アホか」

 「え?」

 「あんなもん想定しろっつう方が無茶苦茶だろ。推理小説じゃあるまいし、全員の視界をなくして殺すなんて普通思い付いてもマジでやる奴が出るなんて考えるかよ」

 「ですが、しっかりとした危機管理と不測の事態への対応ができなかったのは、私の不徳の致すところ・・・」

 

 そうか、こいつはそういう風に自分のせいだと考えて落ち込むタイプのMなんだな。穂谷とよくいるってことはやっぱりこいつはそうなのか。あのパーティーの主催者だからっつって、そこまで責任感じることねえと思うけどな。

 

 「全身全霊、粉骨砕身を以て、捜査と推理に尽力する責任があるのです!私にできることは、それだけです・・・」

 「じゃあそうしてろ。で、ここでなんか見つかったのかよ」

 

 落ち込むのも気合い入れるのもなんでもいいが、だからって食堂なんか調べてても意味ねえだろ。俺と無駄話してる暇があったら別の場所捜査しに行け、と俺が言おうとしたら、その前に鳥木が何かを取り出した。

 

 「清水君、こちらなのですが・・・」

 「あ?」

 「アルミホイルです」

 「見りゃ分かる。それがなんだ」

 「いえ、こちら、どう見ても新品ですよね?」

 「ああ、そうだな。だからなんだよ。珍しいもんじゃねえだろうが」

 「おかしいですね・・・パーティーの準備中に私と六浜さんと古部来君でこちらで食材をまとめていたのですが、その際にアルミホイルを使ったんです。これ以外が見当たらないとなると・・・」

 「使い切ったんじゃねえのかよ。こういうのはモノクマが補給してんだろ?」

 「はい、そうですよ。ボクはオマエラが快適なコロシアイ合宿生活をできるように、寝る間も惜しんで昼夜問わず社畜よろしく働いてるんだよ。ちなみにそのアルミホイルも、もうなくなっちゃったから新しいのと交換してあげましたー!」

 「らしいぞ」

 

 どこからともなく湧いてきて、ふざけた調子で喋ってすぐ引っ込む。あいつをいちいち気にしてる方が疲れちまう。必要なことだけ耳が漉し取って、それをそのまま鳥木に投げた。だがそれでも、鳥木は腑に落ちない顔をしてる。なんなんだよ。

 

 「ですが、確かに私はこれを棚に戻しました。使い切ったらその場で捨てます」

 「じゃあ他に誰かが使ったってことか」

 「そうなりますね。どのように使ったかは分かりませんが・・・」

 「アルミホイルの使い道なんて焼き芋かおにぎりだろ。それなら心当たりがある。事件にゃ関係ねえよ」

 「そうですか。どうやらここの調査は徒労だったようですね。他の場所を調べます」

 

 鳥木はそう言うと、肩を落として食堂を出て行った。そりゃこんなところ事件とは関係ねえに決まってんだろ。ったく、それにしてもあいつはどんだけ食い物周りで俺らに迷惑かけりゃ気が済むんだ。あのクソザル野郎が。確か発掘場に行ったっつってたな。倉庫調べる前に、そっちにも行っとくか。一応事件直前に全員がいたところだしな。

 

 

獲得コトダマ

【夜中のパーティー)

事件当日の夜、鳥木の提案で全員参加のパーティーが開かれた。発掘場で食事を楽しんだ後、湖畔に移動して花火をした。

 

【アルミホイル)

場所:食堂

詳細:食堂にあったアルミホイルが新品になっていた。モノクマが補充したらしいが、鳥木によれば準備の時点では特になくなりそうな気配はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六浜があんな調子だから、今は全員の個室の捜査なんかできる状態じゃねえ。それに事件が起きてから捜査まで、個室に戻った奴なんかいねえから、やる必要もねえだろう。古部来の部屋くらいならやっとく必要があるかも知れねえが、今は人手がねえ。後でいい。ひとまず自分の部屋の引き出しから懐中電灯を取り出して、俺は倉庫に向かうことにした。

 相変わらず倉庫は陰気な雰囲気を醸し出してて、扉は開けるだけで錆びで手が汚れるし、中は息が詰まるほど埃っぽい。照明がないから、夜中だとマジで本当の暗闇になる。そのおかげでここには監視カメラや機械類が置けず、密談にはうってつけの環境になってるわけだが、もうちょっとなんとかしてくれねえとこっちの身が持たねえ。

 

 「ケホッ、ケホッ・・・クソが。なんで俺がこんなことする羽目に・・・」

 

 ぶつくさ文句を言っても埃が収まるわけじゃなく、懐中電灯から発せられる光線が埃で実体化したように見える。ガキの頃はこれが面白くてライトナントカっつって遊んで、埃のせいで喘息になったりしたっけ。んなことを思い出しながら、パーティーグッズが仕舞われてる区画のダイヤルロックを回した。

 

 「えーっと11037・・・あれ、ちげえな。なんだったっけか」

 「3679じゃ」

 「367・・・うおおおっ!!?」

 「おうっ!?な、なんじゃ急に大きな声を出しおって!」

 

 当たり前みてえに後ろから声をかけられて、一瞬流しちまいそうになったがすぐに体が勝手に反応した。そりゃビビるわこんなもん。真っ暗な誰もいねえはずの倉庫で返事が聞こえたら誰だってこうなる。向こうも同じくらいびっくりしてるがテメエのせいだろうが。

 

 「なんだよ明尾か・・・ビビらすんじゃねえ馬鹿野郎」

 「こっちの台詞じゃ!人が親切に教えてやったのに感謝の一つもないのか!これじゃから最近の若いもんは礼儀を知らんと言われるんじゃ」

 「同い年だろうが。っつうか、いるならいるって言えよ。灯りもなしに何やってたんだよ」

 「ん?灯りならあるぞ。わしはたった今来たところじゃ。わしが調べるより先に誰かおったので声をかけてみただけじゃ。清水とは思わんかったがの」

 「どういう意味だ」

 「お前さんが曽根崎も望月も連れず一人で捜査など、珍しいこともあるもんじゃと、この年で妙に感心してしまってな」

 「だから同い年だろって」

 

 どうにもこいつと会話すると、同い年を相手にしてると思えねえ。節々に年寄り染みた言い回しが仕込まれてて、マジでババアを相手にしてるみてえだ。にしても、こいつと言えば最近は発掘場に入り浸ってたみてえだが、この前まではずっとこの倉庫にベタベタして発情してた。そんな、特にここには思い入れが強そうな奴が俺より後に捜査するなんて、そっちの方が妙な感じだ。

 そうは思ったが、やっぱり別にどうでもいい。さっさとダイヤル錠を開けて、パーティーグッズの棚を物色した。確か少しだけ使い物にならねえもんがあるっつってたな。この辺か?

 

 「何を探しておるんじゃ?」

 「花火だよ。古部来が殺される直前に、不自然なくらい煙を噴き出したやつがあったろ。元々ここにあったやつなら、何か手掛かりがあると思って探しに来たんだよ」

 「ふむ、なるほどな。花火じゃったらそこではなく、正面の棚の一番下の段の左側の段ボールにまとまっとったぞ」

 「あ?正面の下の左の段ボール・・・これか。あ、ホントだ。よく知ってんな」

 「ふっふっふ、この倉庫についてわしが知らんことは何もない!ナカもソトも、痒いところに手が届くこと孫の手の如し!ついでに、発掘場に持って行ったパーティーグッズ類は右の棚の下から三段目にあったものじゃ」

 「さすが骨董フェチのジジ専ド変態だな」

 「いやなに、そこまで大したことではないわい!もっと褒めてもええぞ!んはははははははははは!!」

 

 褒めてねえ、引いてんだよ。笑うんじゃねえ、デケえ笑い声出すとこの中響いて耳が痛えんだよ。だがまあ、暗い中であちこち無駄に探し回らずに済むのは割と助かる。こいつがこんな所に興奮する変態で助かった。

 

 「じゃあついでに聞くが、事件前と事件後で、この倉庫で何か変わったことはなかったか?手掛かりになりそうなことだけ言え」

 「お前さんは相も変わらず高圧的じゃのう。年を重ねた老公ならば風格もあるが、若いもんではただの悪印象じゃぞ。気を付けい」

 「で」

 「そうじゃな。外はいつもと変わらず、渋みと威風と哀愁をまとった麗しいものじゃった。夜じゃと雰囲気も相まって、いかん気を起こしてしまいそうになるの。中も見たところ特に変化はない。一応もう少し捜査はするがな」

 

 ちっ、特に手掛かりになりそうなもんはなしか。段ボールの中には開封済み花火がいくつかが残ってただけで、それ以外には何もない。明尾に言われた通りパーティーグッズのしまってあった棚も調べたが、テーブルクロス以外は全部持ち出したみてえでめぼしいものはない。何かあると踏んでただけ、収穫ナシだと精神的に厳しい。一応武器の方の区画も調べてみたが、こっちは埃がもっとひどくて、使われた形跡はない。そもそもこんな埃まみれのもん使えるのかどうかすら怪しい。ここには特に何もなさそうだな。

 

 

獲得コトダマ

【ダイヤル錠)

場所:倉庫

詳細:倉庫の格子戸を施錠している鍵。番号は全て3679で統一されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倉庫の捜査は終わった。いまいち調べ足りねえ気もするが、明尾が残って調べるっつうから、同じ場所を捜査するよりは別の所に行った方がいいだろ。現場と倉庫と、笹戸と、事件に関係ありそうな所で他に思い当たる所を考えてみた。こういう時は事件発生から遡って考えると糸口が見つかるって、どっかのクソメガネが言ってたな。

 

 「花火やってて・・・その前は、パーティーか」

 

 そういうわけで、俺は発掘場に向かうことにした。猿にアルミホイルの件を確認するのと、他に何か手掛かりがねえか調べるためだ。

 

 「おおう・・・そういや時間的にはもう夜時間だったか。さすがに雰囲気あんな」

 

 暗い山道はそれだけで不気味だ。風がなくて音がしねえもんだから、遠くで木が揺れたり石が転がり落ちたりする音もイヤによく聞こえて、そのせいでますます不気味さが増す。こんなことなら曽根崎でも望月でも連れてくるんだった。怖えっつうわけじゃねえが、なんとなく背中が落ち着かねえ。こんなとこで後ろから襲われたりしたらひとたまりもねえな。

 俺は懐中電灯で段差を照らして、足早に山道を駆け上がって発掘場に向かった。こんなことでコケて怪我でもしたらアホくせえな。なんてぼんやり思いながら、まだ灯りの点いてる発掘場に着いた。テーブルにはまだここを出たままの状態で、鍋やらボトルやら食器やら炊飯器やらが置かれてる。それに発掘場中に、日本人には馴染み深いカレーの匂いが漂ってて、思わず涎が出る。

 

 「・・・って俺は滝山か。カレー食ってる場合じゃねえ。おい滝山!どこだ!」

 

 うっかりミイラ取りがミイラになるところだった。一瞬でこんなことを思わせるなんて、このカレー作ったの誰だ。アニーの料理でもここまでなったことはねえぞ。

 って飯のことはどうでもいいんだ。ここには確か滝山がいたはずだ。だが滝山は見当たらない。飯食ってるかと思ったが、もう食い終わってどっか行ったか?まさか森の中に入ったりなんかしねえよな。そう思いつつ一応、発掘場の板を踏み抜かねえように気をつけて、俺はぐるりと一周して森の中にも声をかけた。

 

 「おーい滝山!いるならさっさと出て来い!カレーあるぞ!」

 

 そうやってごく自然に歩いてると、ごく自然にテーブルの反対側に回り込むことになる。そうなるとごく自然に、山道側からは見えなかったテーブルの死角が見えるようになる。俺は、特に考えることなく、何気なくそこを一瞥した。本当に、ごく自然に、そこを見た。そして、それもごく自然に、時間が止まった。

 

 「・・・・・・・・・・・・なっ・・・・・・?」

 

 山道側からはちょうど死角になる、テーブルの真横。発掘用の粗末な光を全方向から浴びて、まだ地面に染み込みきってないそれが、ヌメヌメとした煌めきを湛えてる。赤いその染みが黒く見えるほど濃くなっていく方を辿ると、そこにはその源が転がっていた。鮮やかな服と髪の色彩が、強く散ったそれの補色となって互いをより鮮明にしている。

 

 いつもいつも、あのイラつく笑顔をちらつかせてたはずのあいつが。曽根崎弥一郎が。そこに転がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コロシアイ合宿生活』

生き残り人数:残り??人

 

  清水翔   六浜童琉   晴柳院命     明尾奈美

 

  望月藍  【石川彼方】 曽根崎弥一郎   笹戸優真

 

【有栖川薔薇】 穂谷円加  【飯出条治】 【古部来竜馬】

 

 屋良井照矢  鳥木平助   滝山大王 【アンジェリーナ】




更新が長引いた気がするけど気のせいだ。次回も捜査編です。裁判はまだ始まらない
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