ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

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非日常編4

 発掘場での捜査の後、てっきり曽根崎は多目的ホールに行くもんだと思ってたが、山道を降りるや右に曲がって資料館に向かった。いまさらそっちに方に何の情報があるってんだ。そっちはもう古部来が死んだ時に散々調べ尽くした。新しい情報なんて出てくるわけねえだろ。

 

 「おい曽根崎、そっちはもう調べたぞ」

 「え?まだ発掘場にしか行ってないじゃん。それとも清水クン、ボクが山道を降りる間に瞬間移動したとか・・・?」

 「アホか。テメエがぶっ倒れて使い物にならなくなってる間に捜査しきったっつうんだよ」

 「ああ。でもそれ裁判前の話でしょ?今回は、まだ捜査してないじゃん」

 「なんも違わねえだろ」

 「いいや、何も分からない状態で捜査するのと、ある程度の予測を立てた上で捜査をするんじゃ、見える世界が全然違うよ」

 

 そう言って資料館に歩いて行く。見える世界も何も、今は真夜中だからまともに見える場所の方が少ねえよ。気怠くついて行く俺の前をさっさと歩いて行って、曽根崎は資料館の前で立ち止まった。ちょうど、俺の目の前で六浜が襲撃された場所だ。ああ、その件についてはこいつはまだ何も知らないんだったな。

 

 「ここに散らばってるのは・・・ガラスの破片かな?懐中電灯で照らすと細かいのまで見えるね」

 「そりゃ六浜がやられた時のやつだ。俺もそこにいたから分かる」

 「六浜サンがねえ、あの包帯はそういうことか。でもやられたって言う割には元気そうだったけど」

 「すぐ医務室で穂谷に手当してもらってたからな。それに直接殴られたわけじゃねえから、軽く済んだんじゃねえの」

 「直接じゃないって言うと?」

 「俺が見た限りだと、資料館から出た六浜の真上から、いきなり何かが降ってきたんだ。それで頭打った六浜がその場に倒れた。ついでに言うと医務室まで六浜運んだのは俺だ」

 「へえ。男の清水クンに運ばれるってことは、軽傷だけど意識は微睡む感じだったのかな」

 

 必要なことだけ言わせて、そこから推測を広げて実際の状況を頭の中で再現する。そして気になるところや証拠品をメモにとる。曽根崎のやり方は至って普通なはずだ。たったこれだけのことでなんで、そこまで推理できるんだ?なんかコツでもあんのか。

 資料館の前は簡単に調べて、灯りの点いてる中に入ってみる。いつでも空調の効いたこの中は、薄ら寒くも湿っぽくも蒸し暑くもない、適度な気温と湿度を保っていた。中に入ると、俺たちの耳に思ってもなかった音が響いてきた。音と音が交差しあって複雑な感じがするのに淀みなく流れるような調べで、一つ一つの音は重厚なのに軽やかな感じもする。これは、ピアノの音だ。音源は決まってる、二階の音楽資料館だ。

 

 「おや、こんな時間にピアノの音がするよ。なんだか学校の七不思議みたいだね、夜な夜な階段が一段増えた理科室でピアノを練習しながら鏡の中に引きずり込まれるトイレの花子さん!」

 「詰め込みすぎだ」

 「お前たち、やはり一緒にいたか。ここは私と穂谷で捜査している。時間もない、他の場所へ行け」

 「あれ、六浜サンいたの?」

 

 真夜中の資料館にしっかりはっきり響くピアノの音。よくよく考えてみりゃ不気味だし雰囲気もばっちしだが、正体が分かってるから特にビビることもねえ。そして受付でパソコンを睨んでいた六浜に気が付いて、余計にその気持ちが冷めた。

 

 「やっぱ穂谷か。こんな時に何やってんだ」

 「自分なりに考えをまとめているらしい。楽器を弾いている時は集中できるそうだ、夜中に鳴り物を鳴らすとヘビが出ると言ったのだが・・・」

 「いや子供じゃないんだからそれじゃ止めないでしょ」

 「それより、お前は何してんだ。パソコンで調べたら犯人が分かるのかよ」

 

 裁判の時からちょっと様子がおかしかった六浜だが、今もなんか刺々しい。時間が時間で眠気もあるし、何よりこいつだって被害者の一人だ。流石に苛立つ気持ちもまあ汲んでやらんこともない。それにしたって、“超高校級の予言者”とまで呼ばれる頭持った奴がこんな時にパソコンに齧り付くなんて、よっぽど参ってんだな。

 

 「気にするな。そんなことより、切羽詰まった今、時間を無駄にすることだけは避けるべきだ」

 「そうだね。じゃあ清水クン、穂谷サンに話を聞いてきてよ」

 「あ?なんで俺が」

 「ぶっちゃけ、ボク穂谷サンのこと苦手なんだよね。怖いじゃん。清水クンだったらそんなんカンケーないでしょ」

 

 どういう理屈だ。俺だって穂谷なんかと話さなくていいならそれに越したことはねえよ。あんな女王様気取りの偏屈ドS女、誰が好き好んで話すっつうんだ。

 そう思う俺の頭に浮かんだ鳥木をぶん殴って片隅に追いやり、有無を言わさない曽根崎の言い方に観念して二階に上がって行った。抵抗は時間の無駄、無視は情報不足の可能性。どっちにしろ話は聞くべきか。

 

 「・・・おい穂谷」

 

 階段を上がって楽器置き場の方を見ると、やっぱり穂谷はピアノの前に座ってた。俺がそう言葉を発した瞬間、ピアノを弾く指が止まって音が広がり消えてった。少し肩で息をしてるってことは、よっぽど長い間弾いてたのか、それとも激しく弾いてたのか。

 

 「せっかくのモーツァルトを邪魔するなんて、貴方には芸術が全く分からないのですね」

 「こんな時間にうるせえって文句言いに来たんだよ。ピアノ弾いてる暇あったら捜査しろ」

 「この私が直々に、彼らのためにレクイエムを弾いてるというのに。無情な人ですこと。それに、ただ弾いてるだけではなくってよ」

 「下で六浜に聞いた。考えんのは後でいいだろ。何か分かったってんなら別だが」

 

 モーツァルトとかレクイエムとか俺が知るわけねえだろ。ピアノ弾いて犯人が分かりゃ苦労しねえっつうの。こんな所でじっとして捜査時間を無駄にするくらいなら歩いて手がかりでもなんでも探せ。

 

 「・・・では、特別に教えて差し上げます。私は先ほどここに来た時、テラスを調べてみました」

 「で」

 「貴方も行ってみるといいでしょう。万が一貴方がまだ真面な人間であるなら、すぐに気付きます。たとえば、手すりとか」

 「もったいぶってねえで直接教えろや」

 「うるさいですよ」

 

 そう言って穂谷は、またピアノを弾き始めた。言うだけ言って放置するたあ良い身分だなクソ女。こいつが殺されればよかったのに、なんて思っちまうくらいにムカつく。実際ここまで敵作るような態度とってられる神経が分からねえ。テメエの方がまともな人間じゃねえだろ。

 馬鹿と話してる時間がもったいねえから、俺は仕方なくテラスに出た。資料館の灯りを少しだけ反射する波とその音でようやく、そこに湖があるってことが分かる。真っ暗でまともに証拠なんて探せそうにねえ。やっぱ無理矢理にでも穂谷を連れてくるべきか?

 

 「手すりなんかがなんだってんだ・・・」

 

 落下防止かただのデザインか、テラスにある手すりは腰より高くて頑丈になってる。まあここから勝手に落ちて死ぬなんて間抜けな死に方じゃあ、モノクマ自身もつまらねえからだろうな。その割に展望台の柵は大したことなかったが。

 穂谷が仄めかしてた通りだと手すりに何か情報が残されてるらしいが、特にどこかが壊れてるとか怪しげなロープとか削れた痕が残ってるなんてこともねえし、適当言いやがったかあの女。

 

 「・・・ん?」

 

 何も具体的なこと言わねえ穂谷のせいで、俺はわざわざ端から手すりを調べる羽目になった。懐中電灯があるとはいえ視界は悪いし、何より手すりがどういう風に証拠と関わってんのかも分からねえ。分かってるのにあいつはなんで言わねえんだクソが。ふざけやがって。

 頭の中で穂谷のことをボロクソに言ってると、手すりにかけて滑らせてた手に、それまでは感じなかった妙な感覚を覚えた。滑らかに削られた手すりと違ってざらついてて、少し冷たい。触れた瞬間はちょっとビビったが、血とかそういうもんでもなさそうだ。懐中電灯を向けて照らしてみると、そこにべっとりと付いたものの正体が分かった。

 

 「土か?なんでこんな所に」

 

 風に乗ってとかそんなレベルじゃなく、誰かが押しつけたように土が付着してた。なんだこりゃ。証拠なのかどうかは微妙だが、確かに不自然だな。っつうか『つち』の二文字も言えねえのかあの馬鹿は。

 

 「しかも二箇所か。明らかになんかあるっぽいな・・・」

 

 何の気なしに、その土の付いた手すりの近くにあるテーブルを見てみた。そこには、手すりと同じ色の汚れが付いてた。懐中電灯で照らしてみてみると、それは手すりに付いてるただの汚れみてえなもんじゃなく、ちゃんと意味のある汚れだった。

 

 「足跡・・・か?」

 

 なんとなくその場で断定しちまうのを躊躇って、かろうじて疑問系に留めた。だけどそれは疑いようもない足跡だ。それも靴跡じゃなくて、指の一つ一つまではっきり残った裸足の足跡。土の具合といい、手すりに付いてるのと同じもんだろう。ってことは、こっちも足跡ってことになるな。

 

 「・・・」

 

 資料館の入口、階段、二階の床、そして窓から手すりまでのテラスの床。そのどこにも、こんなべっとりと目立つ土は見当たらなかった。つまりこの土の足跡は、手すりとテーブルだけに付いてるってことだ。どういうことだ?まるで逆だ。普通足跡があるべき所に足跡がなくて、あるべきじゃない所にある。

 

 「一応、言っとくか」

 

 別に意見を求めるわけでも、考えを聞くわけでも、捜査に協力するわけでもない。ただ不自然に思ったから話すだけだ。誰があんなカエル野郎に協力なんかしてやるか。ともかく俺は、もう一度そこの足跡を確認して資料館に戻った。まだピアノを弾く穂谷を一瞥して、入口で待つ曽根崎の所に戻っていった。

 

 

獲得コトダマ

【テラスの足跡)

場所:資料館二階・テラス

詳細:手すりとテーブルに土の足跡が付着していた。靴を履いた形跡はなく、どちらも裸足のものと断定できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「清水クンもちゃんと捜査できるんじゃない」

 「上から言ってんじゃねえぞコラ」

 

 資料館の入口に戻って曽根崎と合流した俺は、取りあえずテラスで見つけた妙な土のことを話した。どうせ隠したところで意味なんてねえし、曽根崎だって何かあると踏んで俺に捜査させたはずだ。実際に証拠があろうがなかろうが根掘り葉掘り聞かれるんだったら、最初から洗いざらい吐いた方がいい。主に精神衛生的な意味で。

 発掘場、資料館の捜査を終え、次に俺たちは桟橋に来た。事件発生直後にも来たが、その時にもいた奴とその時にはいなかった奴の両方がいた。どっちも黒に沈んだ湖を覗き込んでる。

 

 「ここに放置したのだな?」

 「放置って・・・まあ、そうだけどさ」

 「あまり視界が良くないな。改めて釣り上げることは可能か?」

 「そんな酷いことできないよ!墓荒らししろって言ってるようなもんだよ!?」

 「可能か不可能か」

 「不可能だってば。自分から食いつくこともないし、明かりもこれだけじゃ引っかけて揚げることもできないよ。それにもう・・・食べられちゃってるかも知れないし」

 「そうか」

 

 懐中電灯を湖の中に向けた笹戸が明かりを担当し、望月がまじまじと水面を見つめてる。やっぱここに来たってことは、あの笹戸の証言が事実かどうかを捜査しに来たんだな。普通に考えて、魚を弔ってたなんて言い訳が通用するわけがねえ。あの時はたまたま望月が指摘したから逃れたが、その望月に疑われてんじゃどうしようもねえな。

 

 「二人ともなにやってんの?」

 「あ、曽根崎くんに清水くん・・・」

 「笹戸優真の証言、アリバイの裏付けをするため、ピラルクーの死骸を確認しようとしているのだが、どうやら期待できなさそうだ」

 「はあ・・・こんなことより他の場所を捜査した方が絶対いいって」

 「笹戸クンのアリバイ?ちょっとそれ詳しく聞かせてよ」

 「清水翔は曽根崎弥一郎に何も伝えていないのか?」

 「めんどくせえからな」

 

 笹戸が犯人だって疑われた所は話してなかったっけか。ったく、なまじ実際の裁判と同じ結論まで出てた分、途中経過の所が抜けてて噛み合わねえ。つくづくめんどくせえ奴だなこいつは。

 

 「事件の時に煙が出たでしょ?あの時、僕だけ桟橋にいて、煙に巻き込まれずに済んだんだ。ただ打ち上げられてたピラルクーを水葬にしてただけなんだけど・・・みんなに疑われちゃってさ」

 「ん?でも清水クンからは滝山クンが犯人って結論が出たって聞いたけど?」

 「笹戸優真が犯人だった場合を想定すると、古部来竜馬の負傷状態を合理的に説明できない。背理的に笹戸優真の潔白が証明されるというわけだ。あくまで背理的なため、ここで水葬をしていた事実があって初めて説得力を持つのだが・・・この有様だ」

 「古部来クンの負傷状態って言うと、前半身だけ火傷をしてたこと?」

 「ああ。煙の外部から古部来竜馬を殺害した場合、煙の内部を向いていた古部来竜馬の背面から働きかけることとなるからだ」

 「確かにそれはおかしいね。敢えて前に回り込んだってことも絶対ないとは言い切れないけど・・・ま、滝山クンが臭いを辿ったって方がまだ現実味あるね」

 

 望月と曽根崎の会話は何度聞いても頭がこんがらがる。望月のわけの分からねえ言い方もそうだし、なぜかそれに普通に返せてなおかつ内容にもついて行けてる曽根崎が分からねえ。俺はもう何度目かのことで聞き流すことを覚えたが、笹戸はそのやり取りに入ることもできずおろおろしてた。

 

 「取りあえずありがとね。それじゃあ二人とも、特に笹戸クンはアリバイ作りがんばってね」

 「そんな犯人に言うみたいなこと言わないでよ!」

 「あははっ、それじゃあね」

 

 けらけらと軽く笑い、曽根崎は望月と笹戸に背を向けた。普段だったらもっとしつこく捜査したり尋問したりするはずなのに、なんでここだけこんなにあっさりしてんだ?

 

 「おい曽根崎、ここはもういいのかよ」

 「ああ、そうだね。十分だよ」

 「いや望月から裁判の話聞いただけじゃねえか」

 「自分がいなかった時の裁判の話なんて、何よりの情報だよ。みんなの細かい表情とか声色とかまでは流石に無理だけど、話の流れを知れたことはもの凄い収穫だよ。やっぱこういうのはキミより望月サンの方がしっかり丁寧に教えてくれるから助かるよ!」

 「さり気に人のこと馬鹿にしやがったな」

 「そう?むしろ露骨に馬鹿にしたつもりだったんだけドッ!?」

 

 つむじにチョップしてやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 桟橋から戻ったその足で、曽根崎は湖畔に向かった。とっくに火薬の臭いもあの煙も消え去ったが、焦げ臭い腐敗臭と顔が歪むような鉄の臭いだけは残ってた。明かりがうごめいてる辺りに言ってみると、まだ放ったらかしにされてる古部来の死体に、晴柳院と鳥木が手を合わせてた。

 

 「おいおい・・・それ今することかよ」

 「うひっ!?あ、し、清水さんに曽根崎さん・・・お、驚かさんといてくださいよぉ・・・」

 「あの、晴柳院さん。ご安心なさったのなら私の上着の裾を離していただけますか?あまり強く握られると伸びてしまいますので・・・」

 「はうううっ!!ご、ごめんなさいいいっ!!」

 「笹戸は魚がどうだこうだ言うし、お前らは古部来かよ」

 「いやあれと一緒くたにしちゃダメでしょ流石に。人として」

 「お前が言うな」

 

 滝山が死んでよかったとか言ってたのどこのどいつだ馬鹿野郎。にしても、鳥木はともかく晴柳院まで古部来を弔ってるなんて意外だ。こいつ、最初の裁判が終わった後に晴柳院にボロクソ言ってたはずだぞ。恨むのが筋違いだとしても、怒るとか嫌うとかあるんじゃねえのか。

 

 「おいチビ、お前古部来に何も感じてねえのかよ」

 「は、はい・・・?どういうことですか?」

 「有栖川のこととか、お前が弱いとか、そういうこと言ってただろこいつ。なのに、なんで捜査時間削ってまでそんなことしてんだよ」

 「あうぅ・・・す、すみません・・・でで、ですけど、そういうことって・・・・・・今言ってもしょうがないやないですか・・・」

 「は?」

 「ひいっ!」

 

 相変わらずたどたどしくて弱っちくて逆にムカつく喋り方なのに、言い方に若干の違和感を覚えた。なんだ?このチビにしてはいつもより強気というか、そんな感じがする。思わず聞き返したら、俺がキレたのかと勘違いしてビビられた。そっちの方がムカつく。

 

 「だ、だだ、ってぇ・・・!こ、古部来さんは・・・ただうちが恨めしいてあんなん言う人やないから・・・・・・!ちゃんと意味があるからって・・・ろ、六浜さんが言うてはったし・・・」

 「ああ、あいつか」

 

 なんだ、結局六浜か。あんだけのこと言っといてそんなのフォローにもなってねえと思うが、こいつにはばっちり効いたみてえだな。どんだけ単純だこいつ。

 

 「それに・・・古部来さんはうちにちゃんと謝ってくれました。食堂でやなくて、ちゃんと、正式に」

 「えっ?そうなの?」

 

 謝った?古部来が、晴柳院に?そんな話初めて聞いた。食堂で俺たちに頭を下げたのも意外だったし、あいつの性格上、絶対考えられなかったってほどのことなのに、それとは違う場所で晴柳院にも頭下げてたのか?どんどん俺の中の古部来像が崩れていく。頑固が字面から抜け出してきたような奴だと思ってたのに、話を聞くほど違った奴に見えてくる。

 

 「で、でももう・・・その古部来さんまで・・・・・・うぅっ」

 「晴柳院さん。ご無理はなさることはありませんよ」

 「だから・・・古部来さんを憎いなんて思ったことないですし・・・もういない人をそういう風に言うんはあきません・・・・・・」

 「優しいね、晴柳院サンは。で、鳥木クンはどうしたの」

 「夜中にお一人では危険ですので、付き添いを」

 

 まあ普通だったら、真夜中に一人で死体と一緒にいようなんて気色悪い趣味の奴はいねえよな。かと言って捜査の手数減らしてるからどうとも言えねえが。いまさら古部来の死体を捜査したところで、新しく何か情報が出てくるとは思えねえ。

 

 「弔うのはいいけど捜査もしないと。改めて古部来クンの死体を捜査して、何か分かった?」

 「い、いえ・・・やはり最初の捜査が丁寧になされていたようで、新しい発見は私の方では何も・・・」

 「やっぱりあのぉ・・・」

 

 新しい発見もなしにこんな所に居続けても時間の無駄だ。そう言おうとした矢先に、晴柳院が遠慮がちに古部来の死体に目をやった。皆まで言わなくても、古部来の死体の周辺でまだ調べられそうな所っつったら、一つしかねえか。まだその意味を理解しきれてねえところが残ってる。

 

 「ダイイングメッセージだよね。これを解けば犯人にグッと近付けるはずだ。けど、今んとこさっぱりなんだよねえ。一体何を意味してるのやら」

 「犯人じゃねえのか。名前か何かそういうようなもんだろ」

 「ざっくりした推理だね。そりゃ犯人の手掛かりだろうけど、それが分からないから苦労してるんじゃん」

 「つうかこんな意味深なもん書くくらいなら、手っ取り早く名前でも書けっつうんだ」

 「で、できたらしてますて・・・」

 「ミステリーではこうした暗示的なものが主流ですからね。もちろん小説やドラマは推理に重点を置くための演出ですが、隠滅や捏造を防止するためという意味では実用的と言えますね」

 「俺らにも意味が分からねえんじゃ本末転倒もいいとこだ。だいたい、死に際に余計な知恵働かせてんじゃねえよ」

 「どんどん口がひどくなるね」

 

 しょうがねえだろ、元はと言えば古部来が殺されたりなんかしなけりゃこんなことする必要もねえんだ。生きてても死んでも手間掛けさせやがって。あんだけ自分勝手なマネしてきた奴に、死んだ後で少しくらい言ったって罰当たらねえだろ。

 晴柳院の怯える視線、鳥木の困ったような視線、曽根崎の引いてる視線を受けつつ、俺はいかにも気怠いといった視線を古部来の遺したダイイングメッセージに向けた。歪に描かれた丸の円周上に人差し指で血を付けただけのシンプルなマーク。だけど意味は全然分からねえ。そばに乱暴に転がった角行の駒が、唐突に殺された古部来の無念を訴えてるようで、ただの駒なのになんとなく不気味に見える。

 

 「まあ、相手は“超高校級の棋士”だからね。しかも古部来クンは先読みとロジックの天才だ。むしろ火事場の馬鹿力よろしく、今際の際に立たされて脳が活性化したかも知れない。そうそう簡単に解ける謎じゃないんじゃないかな」

 「っていうか、古部来殺したのは滝山で決定だろ。よく考えたらダイイングメッセージなんてもう解く意味すらねえじゃねえか」

 「あっそう。じゃあ清水クンはもう忘れていいよ」

 

 曽根崎があっさり言って、言われた通り俺は考えるのをやめた。危うく目的を間違えそうになってた。これは古部来殺しの捜査じゃなくて滝山殺しの捜査だ。古部来を殺した滝山を、たまたま誰かが別の場所で殺そうとしてて、ああなった。そう考えれば辻褄が合う。何より余計なことを考えずに済んで、思考が整理しやすくなる。

 まだ無駄なことを考え続けてる曽根崎をよそに他に証拠が残ってそうな場所がねえか、頭の中で合宿場のあちこちを回ったが、他に特に怪しいところはない。けどまだ捜査時間に余裕はありそうだ。今まで行ったところを改めて捜査してもいいかもしれねえ。そう考えてたらポケットから、ピロリン、という電子音がした。

 

 「ん」

 

 その場にいた全員が、自分の電子生徒手帳を取り出した。モノクマの面を模したアイコンの右上に、『New』の文字がうざってえくらいに目立つ色でくっついてる。これはつまり、滝山の検死が終わったってことを意味する。すぐに俺はそれを開いた。

 

 「滝山クンのモノクマファイルが出来たみたいだね。せっかくだから、今ここで確認しあおうか」

 「ええ。晴柳院さんは・・・よろしいですか?」

 「は、はい!できるだけがんばりますぅ」

 「どれどれ」

 

 四人で生徒手帳を開き、『モノクマファイル4』と題されたファイルを開いた。画面いっぱいに表示される滝山の死に様は、直に見るよりは幾らかマシとはいえ、それでも写真だけで吐き気を催す酷さだった。血の混ざった汚物の中に倒れて、口も目も中途半端に開いたその姿は、本当に突然の死だったことをリアルに伝えてくる。

 

 「ううぅっ・・・た、滝山さん・・・」

 「やあ、これはひどいね。で、詳細がっと・・・。死亡時刻が今までと違って分単位ではっきりしてるね。ま、全員の目の前で死んだわけだし、誤魔化しも推定も必要ないか。それから痙攣に吐血に嘔吐、死斑ときたか。薬物による中毒死・・・うん、なるほど」

 「凄惨・・・なんてものではないですね。ご本人も直前まで状況が理解できなかったご様子でしたし、本当に突然の死になってしまったわけですか・・・」

 「毒死ってことは、何か飲んだり食ったり打ったりしたわけだろ?普通だったら食い物に毒を混ぜて・・・」

 「はえええええっ!!?うちら全員同じお鍋からカレー食べてまいましたよぉっ!!?」

 「い、いや、カレーに毒が混ざってたらボクら全員同時に死んじゃってるから」

 

 早とちりでデケえ声出すんじゃねえチビ。カレーなんかに入れたら食っても死ぬし食わなきゃ怪しいしで、自分から疑われにいくようなもんだろ。あそこには他にも色んな食い物があったし、何より滝山ならそこら辺にあるものでも適当に食いそうだ。あいつに毒を飲ませること自体は特に難しくなさそうだな。問題はそれを誰がやったかだ。

 

 「それじゃあ次は現場を捜査しに行こうか。ここじゃなくて、裁判場をね」

 「そうか。お前はあの現場にいなかったんだったな」

 「モノクマファイルは精密だけど、やっぱり自分の目で見ないと」

 

 曽根崎を覗く俺たち全員の前で死んだ滝山について、あれこれ余計な誤魔化しをしても余計に怪しいだけだ。それをモノクマも分かってたみてえで、モノクマファイルはシンプルで正直に書いてある。けどやっぱり、死体を直接捜査することにはなんのか。何度やってもこれだけは気が乗らねえが、仕方ねえ。

 早速と裁判場に行こうとした曽根崎だが、少し歩いてから振り返った。

 

 「あれ?そういえば裁判場ってあのエレベーターで行けばいいのかな?」

 「・・・モノクマが、捜査したきゃ多目的ホールに来いっつってたぞ。どうせエレベーターは使うだろうけどな」

 

 

獲得コトダマ

【モノクマファイル4)

場所:なし

詳細:被害者は“超高校級の野生児”、滝山大王。死亡時刻は午前一時十五分。死体発見場所は学級裁判場。軽度の痙攣と吐血、激しい嘔吐の後に死亡。特徴的な死斑が確認できることから、薬物による中毒死と断定される。この死斑は、頸部、腕部、腹部と広い範囲にみられる。吐瀉物に血液が混ざっているため、胃袋などの内臓から出血していると推測できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺と曽根崎は、滝山の死体を直に捜査するために、モノクマが指定した多目的ホールに来た。鉄の扉を開けると、そこには既にモノクマが待ち構えてた。そして入口のすぐ横の壁に六浜が神妙な顔をしてもたれかかってて、モノクマと微妙な距離感で笹戸が立ってた。

 

 「あれ?六浜サンに笹戸クンも来たんだ」

 「当然だ。なるべく時間が経たないうちに捜査をしたいからな」

 「ぼ、僕は・・・滝山くんのことが気になったから・・・」

 「いらっしゃーい!曽根崎くんに清水くん!んじゃ、これ以上待ってもあんまり来そうにないから、とっとと行っちゃいましょーか!学級裁判場殺人事件ツアーに!」

 「相変わらず反吐が出るほど悪趣味だな」

 

 にこにこと笑うモノクマは、張り切った様子でその場で一回転した。こちとらそんな気分じゃねえんだよ。いいからさっさと連れてけクソぐるみ。

 

 「そんじゃあオマエラ!今から寄宿舎のエレベーターまで移動するからついて来てね!」

 

 じゃあ最初っから寄宿舎のエレベーターに集合でよかったじゃねえか。無駄なことさせやがって。なんてことを言ったってしょうがねえってのも分かってるから、俺たちは黙ってモノクマの後に続いて寄宿舎のエレベーターまで移動した。他の奴らはまだどこかで捜査をしてるらしい。

 寄宿舎に着いてすぐ、赤い扉が開いて中のエレベーターが待ってましたとばかりに俺たちを迎え入れた。モノクマはそこで、先に行くからと消えた。たった四人で乗り込むエレベーターは、なんとなく物寂しい。初めてこれに乗った時は、もっと人数がいたのに。そんな煩雑な考えを掻き消すように、甲高い金属音とごうごうという暗い音が辺りに響く。そして再び華やかな照明で目の前が開けたかと思うと、そこには凄惨な姿の滝山が在った。

 

 「うっ・・・!」

 「はい!とうちゃーく!こんな所で捜査時間を打ち切っていちいちエレベーターを動かすのも面倒臭いから、さっさと捜査は終わらせちゃってね。ただでさえ学級裁判を打ち止めにされて、ボクだって消化不良なんだから!肉食のボクが野菜を食べたらお腹を壊しちゃうようにね!」

 「そういいながらもろきゅうを食べてるのはどういうことなの」

 「最近は暑いからさっぱりしたい気分なの!」

 

 理由になってねえじゃねえか。っつうかそもそも綿埃のテメエに食性なんかねえだろ。よくゲロまみれの死体を前にしてんなもん食えるな。モノクマの、ひいては黒幕の感性を疑う。ものすげえ今更って感じだが。

 変わり果てた滝山を前にして、笹戸は思わず目を背け、六浜は辛そうに軽く項垂れると、すぐに捜査を開始した。俺たちも、いつまでもモノクマに苛ついたり滝山の死に怯んでる場合じゃねえ。そんなちょっとした足止めさえ、この空間はさせてくれねえんだ。

 

 「う〜ん、これはひどいね。見た目もそうだし、時間が経って臭いまでキツい。鼻ピン持ってくればよかったかな」

 「言葉に気を付けろ、曽根崎。この程度で音をあげるな。滝山はもっと辛かったはずだ」

 「そ、そうだよね・・・六浜さん。ここは僕にやらせて」

 「なぜだ?」

 「だってホラ、六浜さん女の子だから、あんまりこういうの触りたくないでしょ。それにさ・・・滝山くんのことは、僕がやってあげたいから」

 

 死体の周りにゲロが広がって、いまいち近付きづらい。流石の六浜も曽根崎も躊躇った様子だったが、そこで笹戸が率先して前に出た。やっぱりゲロに足を踏み入れるのは躊躇ってたが、懐からビニール袋を取り出してそれを足に結んだ。簡易長靴ってところか。

 

 「ホラ、僕は大丈夫。だから、ね?」

 「・・・そこまで言うのなら任せた。我々も尽力するが、ここはお前を頼るとしよう」

 「勇気あるねえ笹戸クン!“超高校級の釣り人”の根性ってところかな?」

 「そんなんじゃないよ。僕はただ、滝山くんの友達として、ちゃんと彼の死と向きあってあげたいんだ。最期に滝山くんが言った言葉を・・・忘れたくないんだ・・・」

 

 滝山の最期の言葉か。俺もはっきり聞いた。あいつのあんな声はじめて聞いたし、最期のあいつの顔も覚えてる。つうか忘れられるわけねえ。

 もう二度と動くことのない滝山のそばにしゃがんで、笹戸は手を合わせてから調べ始めた。俺たちも少し離れて、できるだけの情報は集めよう。

 

 「痙攣や吐血があったってことは、滝山クンも分かってたんだろうね。自分がもう死ぬってこと」

 「野生の勘とかじゃねえの?ネコだって死に目に姿を消すっつうしな」

 「見てよ、この悲惨な死に顔。ゲロもそうだけど、涙もよだれも冷や汗も・・・顔から出るもの全部出てる」

 「それも毒のせいか?」

 「いや、単純に滝山クンが死ぬことを怖がってたからだろうね。それにしても、どんな毒を使ったんだろう?」

 

 こんな人間の表情は初めて見た。恐怖なんてもんじゃねえ、自分の死を悟り、怯え、怖れ、絶望した顔。もともと滝山はガキっぽかったから泣くことは不思議じゃねえが、あんなにか弱い奴じゃなかった。少なくとも、何も分からない裁判中でも黙ってられないような奴だった。

 にしても毒殺なんて、ずいぶん妙な真似をする犯人だ。人を刺したり首を絞めたりするのと違って、毒殺はその効果も発現するタイミングも、普通は知らねえ。それも滝山が死んだのは学級裁判中だ。即死する毒ならまだしも、しばらくは生きられるような毒なんか色々と怖くて使えねえよ。

 

 「ん、ねえみんな。これ見てよ」

 

 そう言って笹戸は、滝山のズボンのポケットから何か取り出した。こいつのボロボロのズボンにまだポケットとして機能する布が付いてたのか。見てみると、それはいかにも毒物然としたラベルの貼られたビンだった。その色は濃い茶褐色で、中身は空になってる。ほんのちょっと底の方に残ってるって感じか。

 

 「それは・・・毒か?」

 「うん。細かい字だけど色々書いてあるよ。このビンに入ってたのは毒だったみたい」

 「まだ底の方に残っているな。貸してくれ」

 

 四人で覗き込んでみると、ラベルには明らかにヤバそうな化学薬品の名前と、人体に及ぼす影響と取り扱い上の危険なんてのが書き込んである。飲まなくたってこの薬がどんだけヤベえもんかは分かる。すると六浜はビンを借りて、中に残ったうちのほんの数滴を手の甲に垂らした。

 

 「うぉいっ!?な、なにやってんだよ!?」

 「ろろろろろ六浜さん!!?なに素手で触ってんの!!?毒だよそれ毒!!」

 「安心しろ、毒と言っても強酸性・強アルカリ性というわけではない。それに多くの毒物は体内に摂取することで効果が発現する。まあ、触らないに越したことはないが・・・これは皮膚に触れても大して害はないから問題ない」

 「何より褐色ビンに入ってるってことは、化学的に不安定な物質ってことだもんね」

 「あっそう・・・ならいいんだけど」

 

 ついに気でも触れたかと思ったが、そういうことか。ちょっと覗いただけであんな細かい注意書きに目を通したってのかよ。ほんとそういうところだけは超人的だな。それで何をするかと思えば、その数滴を臭ったり手の甲でこねくり回したりして観察した。

 

 「ふむ、なるほどな」

 「何がなるほどなの?」

 「これは水だ」

 「あん?」

 「これは毒物などではない。完全なる水だ。水道水だ」

 

 六浜は何を自信満々に言ってやがんだ?水道水だと?このビンに入ってるのがか?いやいやいや、毒の名前が書いてあるだろ。ラベルにはっきりとよ。

 

 「ホントに?妙だね、滝山クンは毒殺された。飲んだと思われる毒のビンは彼のポケットにあった。でもその中身はただの水道水・・・う〜ん、水道水でキレイに洗ってリサイクル、なんてわけないか」

 「ちゃんと考えてよ曽根崎くん!」

 「ははは、冗談だよ。でもま、やっぱり直接調べに来てよかった。色々と面白いことが分かったしね」

 

 面白いことなんてなかっただろ。わけ分からねえことが増えただけだ。滝山は殺されたんじゃなかったのかよ、なんで毒の瓶がこいつのポケットから出てくるんだ。それに、この瓶には見覚えがある。確か、古部来殺しの犯人を見つける学級裁判の直前、こいつが必死になって飲んでた奴だ。遠目からじゃラベルまでは分からなかったけど、これに間違いない。そうすると、こいつが毒を飲んだのって・・・。

 

 「あ、あとこれ・・・」

 「ん?それは」

 「滝山くんの電子生徒手帳。たぶん・・・まだ本人も使ったことないと思うけど」

 「だろうね。で、それどうするの?」

 「電子生徒手帳は個人のプライバシーに深く関わる物なので、ボクが回収します!いくら友達だからって人の電子生徒手帳まで勝手に持ち出しちゃダメだよ!カギの交換は友達以上から!」

 「恋人未満でもいいんだ」

 「そんな含みのある発言ではなかっただろう!不純だぞ貴様!」

 

 笹戸が取り出した滝山の電子生徒手帳を、モノクマが横からひったくった。まあ一度も起動してないんだったら、あそこに事件の手掛かりが残ってるとは考えられねえな。

 

 

獲得コトダマ

【滝山の違和感)

場所:なし

詳細:天真爛漫で無邪気な滝山は裁判中もとにかく落ち着いてはいなかったが、前回の裁判中は一言も喋らないほど大人しかった。花火中はいたずらを仕掛けるなどして普段と変わりなかった。

 

【小瓶)

場所:滝山のポケット

詳細:いかにもヤバそうな名前の毒物のビン。中身はほとんど空になっていて、僅かに残っていたのはただの水道水だった。

 

【電子生徒手帳)

場所:なし

詳細:希望ヶ峰学園の生徒に一つずつ配られる電子タイプの生徒手帳。規則や合宿場の地図を確認したり、メモ機能やロック機能もついている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もともと滝山自身が物を持たねえ奴だった上に毒殺なんて殺し方だったから、裁判場での捜査は思ったより早く終わった。再びエレベーターで地上に上がると、まだもう少し捜査の時間はあるようだ。エレベーターを降りてすぐ、笹戸はまた桟橋で望月の手伝いをすると言ってそそくさと行っちまった。もう諦めて他のことした方がいいんじゃねえかあいつ。

 

 「お前たちは、これからどうする。まだ時間があるようだが」

 「そうだね・・・まだ行ってないところを捜査しようと思うよ。たとえば、毒殺といったら薬、薬といったら医療、というわけで医務室とか」

 「その連想ゲームいらねえからさっさと行くぞ」

 「うわあ!清水クンがボクをリードして捜査してるよ!すごい!こんなこトロスッ!!」

 「トロスッ!?」

 

 うるせえ馬鹿の口をガラス戸で思いっきり閉じてやった。顎でも外れて喋れなくなればいいと思ったが、閉める力が弱かったみてえだ。次の時のために体でも鍛えるか。

 予想してたことだが、六浜も同じように医務室を捜査しようと考えてたらしく俺たちについて来た。医務室に来てみると、さっきモノクマに連れられてここを歩いた時には点いてなかった医務室の明かりが、今は煌々と輝いている。誰か中にいるのか、と戸を開けてみると、思ってたのと違う奴がいた。

 

 「うおっ!?」

 「あ?穂谷じゃねえのか」

 「な、なんだよ清水・・・あいつの方が良かったのか?」

 「んなわけねえだろ。穂谷がここに入り浸ってたからそう思っただけだ、つかなんでそんなこといちいちテメエに説明しなきゃいけねえんだ」

 「お前が勝手に言ったんだろ!オレのとっさのボケにも淡泊に返しやがってこんにゃろう!」

 「ボ、ボケにしては冗談が過ぎるような気もするがな・・・」

 「だって清水クンには望月サンっていう嫁がもうげふんげふん」

 「よ・・・・・・め・・・・・・!?」

 「むつ浜は今いいよめんどくせーよ!!」

 

 超めんどくせえ。俺だけもう別の場所の捜査に行きたくなった。けど気になるからここは調べねえわけにはいかねえんだよな。先に来てた屋良井は、やっぱり薬品棚からいくつかビンを取り出してラベルを読んでたみてえだ。モノクマファイルにも毒殺って書いてあったし、やっぱここ来るよなあ。

 

 「あ、穂谷で思い出した」

 「えっ!?なに清水クン!もしかして望月サンと『星空がキレイ』〜『お前の方がキレイだよ』的なやり取りをする傍ら、音楽資料館で穂谷サンと『私と貴方でラヴァースコンツェルトを奏でましょう』〜『デュエットにしちゃ激しくなるぜ』的なことも」

 「やああああああめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 「さすがに清水と穂谷じゃそんなこと、西から昇った太陽がまた西に沈んでってもねえと思うけどな」

 「いやあ、アンテナの人は天然タラシって相場が決まってるんだよ。だから案外晴柳院サンとか明尾サンとかとももうす、あっ!ご、ごめん清水クンごめんホントごめん。謝るよ謝る!ちゃんと謝るから腕外してよねえったら!このままじゃ外れるから!!ホントヤバいから!!もうホント外れァッ」

 

 いつも余裕のある曽根崎が珍しく本気で焦った様子になって俺にあれこれ言ってきたが、そろそろこんくらいのことしねえと。こいつも調子乗ってきたからな。

 

 「はあ・・・はあ・・・よくやった清水・・・・・・後でその辺の話は聞かせて貰うぞ」

 「むつ浜もこいつの妄言いちいち間に受けんじゃねえ」

 「むつ浜ではない!!六浜だッ!!」

 「お前らおもしれーな」

 

 見た事ねえ方向に曲がってる肩に悶絶する曽根崎は置いといて、何の話だったか思い出す。ああ、穂谷がここで見つけた手掛かりのことだっけ。クソ野郎の余計な一言のせいで話が横道にずれちまった。

 

 「確か、穂谷がそこの棚から毒の瓶がなくなってるっつってたんだ。裁判前の捜査の時に言ってたから、その前からなくなってたんだな」

 「そうなのか。穂谷がその瓶を最後に見たのはいつだ?これと同じ物だったか?」

 「あんまし詳しくは聞いてねえけど、褐色のビンとは言ってたぞ。それから、なくなったのはパーティーの準備中だみてえなこと言ってたような気がする」

 「つ、つまり滝山クンが毒を飲んだのも、うぅ・・・パーティーの準備中からパーティー直前にかけてってことになるね・・・いたた」

 「あ、自力で治した」

 「ひどいよ清水クン!いくらなんでもジャーナリストの肩外しちゃダメでしょ!しかも右腕って!キミは鬼か!あ、角は立ってたね」

 

 今度は左肩を外してやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『「我思う故に我在り」の対偶は「我在らざる故に我思わぬ」。存在すらしないものは考えることもないんだよ。でもそれって、存在するものはみんな考えるってことになるのかな?考えないものは存在しないってことになるのかな?頭を働かせろ!考えるのを止めるな!考えるのを止めた時、オマエラはもう存在していないってことなんだよ!というわけで、寄宿舎の赤い扉の前に集合してください!オマエラの存在を証明してやりましょう!え?誰にかって?オマエラで考えな!うぷぷぷぷ!』

 

 無駄に長いアナウンスが医務室に響く。遂に二度目の捜査時間も終わった。長かったような、短かったような。なんで今回に限ってそんなことを思うんだ?いつもと違って特殊なパターンだったからか?分からねえ。とにかく、俺たちはもう寄り道することもなく、ただ一箇所に集められるだけだ。

 

 「・・・うぜえな」

 「コギト命題を引き合いに出す必要はあったのだろうか」

 「あいつどうせ何も考えてねえだろ。ヘソ曲げられちゃたまらねえし、さっさと行こうぜ」

 「お、おーい!誰でもいいから助けてよぉ!」

 

 わざとらしく痛がる曽根崎の肩を乱暴に嵌めてやると、また妙な呻き声をあげて肩を摩りながら立ち上がった。余計なこと言う前にぶん殴るつもりで睨み付けたら、さすがにこれ以上痛い目みたくねえのか両手を挙げて降参した。最初っからそうしてりゃいいんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寄宿舎の赤い扉はまた開く。もうこれで四回目だ。乗る度に周りの人間が減っていく。次にこのエレベーターに乗る時には、またここから一人減ってるのかと思うと、あの独特の緊張感と興奮が胸の奥底から湧き上がってきた。

 

 「やってやろうじゃねえか」

 「ふふっ・・・その意気だよ、清水クン」

 

 正体の分からないクロに向かって言った俺の言葉に反応したのは、土の壁を眺める曽根崎だった。薄ら笑いを浮かべてペンを回しながら、手帳に連ねた手掛かりを眺めてる。こいつの頭の中では、もう既にこれらの手掛かりから推理が始まってるんだろう。この中に潜んだ、人殺しの正体を暴くために。

 エレベーターの止まる重い衝撃が、俺たちに覚悟を決めろと叫ぶ。裁判場から差し込むまばゆい照明が、俺たちに逃げ場はないと釘を刺す。性根から歪んだモノクマの笑顔が、俺たちの命を弄ぶ興奮を待ちわびている。踏み出す一歩に、いつも以上の力がこもった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コロシアイ合宿生活』

生き残り人数:残り10人

 

  清水翔   六浜童琉   晴柳院命     明尾奈美

 

  望月藍  【石川彼方】 曽根崎弥一郎    笹戸優真

 

【有栖川薔薇】 穂谷円加  【飯出条治】 【古部来竜馬】

 

 屋良井照矢  鳥木平助  【滝山大王】【アンジェリーナ】




前回の分割した分をちゃちゃっと直しただけなので間隔が詰まってますね。なぜすぐに更新しなかったかというと、次もそんなペースで更新されると思われると困っちゃうからです。マイペースにいきませう
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