ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

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学級裁判編2

 は〜い、オマエラどうも。毎度恒例、モノクマの前回までのあらすじのコーナーだよ。今日はいつもよりローテンションでお送りしてま〜す。なんでかって?ボクは今、この上ない悲しみに包まれているのです。みんなしてボクの自慢のモノクマファイルに難癖を付けまくるのです。すべての生徒に平等に接するというのは難しいのです。教師というのは報われない仕事なんだね。それでもボクは負けない!全ては究極の絶望と至高の希望のために!!うぷぷぷぷぷ!!何言ってるか分かんなくなってきちゃったね!!

 

 通算五人目の被害者となってしまったのは、“超高校級の穴掘り名人”・・・じゃなくて、“超高校級の考古学者”の明尾奈美さん!!精神年齢どうなってんだよで骨董品に欲情するド変態な上に常にハイテンションでうるさいことで有名だよね!え?違う?愛用のツルハシで心臓を一突き・・・じゃなくて、真っ赤っかに汚された自分の部屋で横たわってるのを発見されたんだったね!そうそう、確かそうだったよね。

 みんなの中に潜んだ『裏切り者』の正体の件でもっと議論が複雑になると思ったんだけどねぇ・・・あのむっつりのせいで大した文字す、時間が稼げなかったんだよ!!時間が!!でもね、明尾さんの死の状況はなかなか面白かったよ。

 もう一人の被害者である穂谷さんの証言で、犯人は男という可能性が浮上。だけど議論が進んでいく内に、明尾さんの死因や殺害現場についての疑問や矛盾が出て来たんだよねえ。どういうわけだか望月さんと曽根崎くんのタッグによって、殺害当時の状況は一変!部屋で寝込みを襲われて殴殺されたはずの明尾さんは、実は部屋じゃない場所で首を絞め殺されたということが分かったのです!うぷぷぷ!!良い調子だねぇ、このままいけば、まさかまさかの四連勝もあったりしちゃう?だけどクロにももうちょっと頑張ってもらわないとねぇ。うぷぷぷぷぷぷ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・何か言いましたか?清水君」

 

 疑問形だったが、そこにはこれ以上ないほど高圧的な言外の意味が含まれてた。黙れ、口を開くなという圧力が。

 

 「明尾が犯人と戦ったのがあいつの部屋じゃねえとしたら、その痕跡が残ってるお前の部屋しかねえだろっつってんだよ」

 

 今更こいつのそんな言葉に押し負けるわけがねえ、疑わしきは徹底追及だ。

 

 「・・・」

 「どうなんだ・・・!答えろよ!!」

 「ほ、穂谷さん・・・?」

 

 穂谷は黙りこくる。俺の声なんか聞こえないみたいに、目を閉じて俯き微動だにしない。全員の視線を浴びながらも、そこに存在しないかのように一切の動きをみせない。

 

 「・・・それで?」

 

 かと思ったら、不意に短く呟いた。危うくしたら聞き逃しそうなほど唐突で、折れそうなくらいか細い声だ。

 

 「それが一体なんだと言うのですか?明尾さんが私のお部屋で殺されたら、何か分かることでもありまして?」

 「お前が嘘吐いてるってことになるだろうが」

 「はい?なぜそうなるのですか?そのお粗末なアンテナで何か電波でも受信してしまいましたか?」

 「だとしたらテメエの証言はおかしいだろ。テメエは犯人に寝込みを襲われて何もできずに気絶したっつったんだ。そしたらあの部屋の荒れ方はどう説明すんだ」

 「そんなもの・・・私が気絶した後で明尾さんが騒ぎを聞きつけて来たのではありませんか?」

 「き、寄宿舎の反対側にいてたはずの明尾さんが気付かはんねやったら、うちら全員気付くんじゃ・・・」

 「そもそも犯行時間はド深夜から早朝でしょ?そんな時間に都合良く気付くなんてことあるかなあ?」

 「仮に穂谷が気絶した後に明尾が偶然通りかかったなどしたとしてもだ。部屋全体を荒らしながら穂谷に足跡の一つもつけないなどと器用な格闘ができるものか」

 

 穂谷の証言の矛盾を突っつくと、穂谷以外の奴らが矢継ぎ早に疑問と反論を投げかける。穂谷は答える間もなく、次から次へと浴びせられる疑惑を孕んだ言葉に、少しずつ表情が固くなってきた。元から薄気味悪い微笑みで固まってたのが、徐々に怒りを帯びてきて複雑な面持ちになってきた。

 

 「よくもまあそんなにピーチクパーチクと。貴方がたはご自分の意見というものがないのですか?何を勘違いなさっているのやら、私の身体にあるこの忌まわしい怪我こそ私が被害者であることの動かぬ証拠と言えましょう」

 「ということは、分かっているのだな?今この場で、お前が犯人であると疑われているということが」

 「その問いかけは答える必要がありまして?」

 

 六浜の質問にどう答えようが状況は変わらねえし、そこまで分かってるからこそそういう返事なんだろう。けどそれにしちゃあ穂谷は落ち着いてる。さっき鳥木と繰り広げてた言い争いからのギャップには違和感がある。

 

 「し、しかし皆様・・・一度冷静にお考えください。私たちが穂谷さんのお部屋に集まった時、確かに彼女は気絶しておられました。それだけは確かでございます。気を失っていた穂谷さんに、現場の偽装や明尾さんのご遺体を運ぶといったことは不可能なのでは?」

 「その気絶ってのも演技だったんじゃねえのか。っつうかお前は穂谷が死んでるってまで思い込んでたじゃねえか。明尾の死体や血まみれの廊下なんてもんを見た後だったら、そんな三文芝居にも騙されるもんじゃねえのか?」

 「いや・・・そ、そんなはずは!」

 「あ、あのう・・・」

 「なんだチビ」

 「ひっ!!あ・・・や、やっぱいいですぅ・・・」

 「威圧するな清水。何か気になったことがあるなら言え、晴柳院」

 

 威圧って、別に俺はちょっと睨んだだけだろ。このくらいでビビる程度の自信なら言ったってしょうがねえことだろどうせ。

 

 「あの、穂谷さんが犯人なんやったら・・・分からないことがあるんですけど・・・」

 「未だ犯行の全容が明確にされていないが、取りあえず言ってみろ」

 「えっと・・・犯人が使うた凶器いうのが・・・清水さんと曽根崎さんの見つけはったハンマーなんですよね?」

 「うん!脱衣所のロッカーに隠してあったよ!」

 「今となっては直接の死因ではないが、犯行に使用されたことは確かだろう」

 「ほ、穂谷さんが犯人なんやったら・・・男子の脱衣所なんかに隠せへんと違いますか・・・?」

 「・・・はい?」

 

 そういえば、俺と曽根崎が凶器らしきハンマーを見つけたのは男子脱衣所だった。あそこは常に鍵がかかってて、男子脱衣所は男子の生徒手帳でしか、女子脱衣所は女子の生徒手帳でしか解錠できなかった。おまけにマシンガンの見張り付きだ。よっぽどの馬鹿じゃなけりゃ逆パターンを試そうとすら思わねえ。

 

 「機関銃に睨まれていることを気にしなかったとしても、穂谷の生徒手帳では男子脱衣所には入れない。なるほど、確かにそうだ。まさか穂谷が性別を偽っているわけもあるまいに」

 「それなんてプログラマー?」

 「電子生徒手帳を改造すれば可能ではないだろうか」

 「やっぱプログラマーじゃないか!」

 「穂谷がそんなに高度な技術を持っているとは思えん。なによりその程度で男女の間に隔たるセキュリティという名の壁が壊されてたまるかあ!!それでは今後大浴場が使えなくなるではないか!!」

 「あのさあ、なんだか勝手に盛り上がってるみたいだけど、電子生徒手帳は改造不可能だよ。勝手に中を変えたらブザーが鳴る仕組みになってるから」

 「ならよし」

 「ってことは、穂谷さんには凶器のハンマーを男湯の脱衣所に隠すことなんてできなかったのかあ」

 「私としたことが忘れておりました。穂谷さんの証言と、清水君と曽根崎君が男湯の脱衣所でハンマーを見つけたこと、これらで犯人が男性であることはほぼ確定ではありませんか」

 

 また出たな、モノクマの妙な凝り性。電子生徒手帳の中を開く奴なんかいるか、っつうかそんなことできるほど機械強え奴がいるわけねえだろ。一人いたが自分の生徒手帳を爆弾に改造するような馬鹿でもなかったし、大浴場が開放される前に消えた。

 ようやく犯人の正体を突き詰めたと思ったのに、さっき自分で言ったことがここに来て自分の首を絞めてきやがった。男湯の脱衣所のロッカーで見つかったハンマーは、間違いなく犯行に関係してる。直接の死因じゃなくても、あれが明尾や穂谷の身体に傷を付けたものってことはほぼ確定だ。あれが男湯側にあったってことは、やっぱり犯人は男ってことなのか?

 

 

 【議論開始】

 

 「ボクと清水クンがハンマーを見つけたのは、“男湯側の脱衣所のロッカー”でだよ」

 「だけど、そのハンマーは本当に事件と関係あるのかな?」

 「まだそんなことを言っているのですか笹戸君。私の“身体の傷”を見てなぜそんな疑問が浮かぶのでしょうか?」

 「明尾の身体にも同様の傷があったことからも、ハンマーが凶器に使われたことは確かだろう」

 「ではもはやそこに議論の余地はないのではございませんか?男性は男湯に、女性は女湯に、それぞれが“完全に分断されている”以上、その事実が彼女の無実を証明しているではありませんか!」

 「まだ終わらせねえぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まだだ!その程度じゃまだ穂谷の容疑は晴れねえ」

 「な、なんでしょうか清水君?これ以上は流石に無駄と言わざるを得ないのでは?」

 

 黙りこくる穂谷の代弁をするように、鳥木が穂谷は無実だと主張する。確かにあのマシンガンと電子ロックのセキュリティはほぼ完璧だ。監視カメラもあるし、あれをかいくぐって男が女湯に、女が男湯に入るなんてのは無理な話だ。

 

 「もし・・・もしもだ。二つの脱衣所を行き来する方法があったとしたら・・・穂谷が犯人の可能性は消えねえよな?」

 「だッ!!?だだ、脱衣所を・・・行き来する方法だとォッ!!?ふざけるな!!そんなものがあってたまるか!!」

 「なんで六浜サンが一番動揺してんの?」

 

 だから今まで俺も、犯人が男ってことに疑いはなかった。あのハンマーが男湯側にあったことが、穂谷なんかの証言よりよっぽど力を持つように思えた。けど部屋の状況から穂谷の信頼が地に墜ちた今、脱衣所間を移動する手段が分かれば、その仮説を丸ごとひっくり返さなきゃならねえこともあり得る。

 でも、脱衣所の移動なんてどうやってやるんだ。俺にはそのやり方はさっぱり分からねえ。けどその方法を知ってる宛てなら、たった一つだけあった。

 

 「ヘラヘラ笑ってんじゃねえ、曽根崎。テメエの話してんだよ」

 「・・・・・・うん?」

 

 興奮する六浜を指さして笑う曽根崎を名指しした。俺が何を言ってんのか分かってるくせに、何を言ってんのか分からねえっていう面でこっちを見る。だが忘れたとは言わせねえぞ。

 

 「テメエなら知ってるはずだろ、脱衣所を行き来する方法」

 「そうなのか?」

 「し、清水君なにを仰っているのですか・・・!根拠もなしにそんなことを」

 「そうだよ、なんでボクがそんなこと知ってるのさ」

 「テメエ女風呂覗いたろ」

 「へぁっ!?」

 「のッ!!!!!?のぞっ・・・き・・・・・・?のぞき・・・な、なるほどなあ!!東北の話か!!秋田県や山形県にそのような地名があり同名の無人駅も存在している!!さらに米沢藩には書きは異なるが同名の姓の大名もいたとされ」

 「六浜さんが壊れたあ!!っていうか曽根崎くん覗きって本当なの!!?」

 「ええ・・・な、なんのことか分からないなあ・・・やめてよ清水クンってばもう」

 

 しらばっくれるつもりか覗き野郎。あの時俺に助け求めといて知らないじゃねえだろ。明らかに動揺してんじゃねえか。

 

 「証人だっている。おいチビ」

 「はっ!はい!」

 「晴柳院さんが証人?ってことは・・・ま、まま、まさかあ!!?」

 「・・・は、はい。あの、お風呂から上がろうとしたら、そ、曽根崎さんが」

 「曽根崎いいいいいいい!!!貴様あああああああああああああ!!!遂にやったなこの呆け者めがあああああああああああ!!!」

 「そ、そんな・・・!晴柳院さんが・・・・・・曽根崎くんに汚されちゃったなんて・・・!」

 「罪状が重くなってる!!違うよボクは覗きなんかしてないよ!!不可抗力なんだって!!」

 「嘘は吐かねえのがポリシーじゃなかったのかよ。いいから洗いざらい吐け」

 「うう・・・」

 

 何が不可抗力だ、そりゃもうほぼ認めてるのと同じだろ。確か明尾もこいつに覗かれたっつってたけど、死んじまったんじゃ証言なんてできねえよな。曽根崎もそれが分かってるからこそ、気まずそうに晴柳院を見て言い淀んでんだろう。

 

 「の、覗いたわけじゃないよ・・・少なくとも晴柳院さんは見えてないから安心して」

 「晴柳院さんは?」

 「明尾も一緒にいたんだと」

 「ふ、ふ、二人も手にかけたというのか曽根崎ぃ!!!なんと罪深い男なのだ!!いや最早ケダモノだ!!許しておけん!!」

 「少し口を閉じろ、六浜童琉」

 「遂に望月さんに突っ込まれてるよ・・・!!」

 「その・・・教えてもらったんだ。モノクマから。脱衣所を行き来する方法。で、試してみたら、たまたま明尾さんがお風呂から出て来て・・・で、覗きと間違われて」

 「男であるお前が女湯に立ち入った時点で大差ないのではないか?」

 「いやそんなことより、モノクマに教えてもらっただと?」

 

 曽根崎の覗きなんかどうでもいいんだ、大事なのは脱衣所を行き来する方法だろうが。どうやったのか分からんが、こいつは実際にそれをやったんだ。その情報の出所が、モノクマだとは思わなかったが。

 

 「どういうことだモノクマ!なんで曽根崎にだけ教えたんだよ!」

 「はにゃ?何の話?ボクは曽根崎くんにだけ教えるなんて不公平なことしないよ。たまたま知ったんじゃない?」

 「仰っていることが食い違っていらっしゃいますが・・・!?」

 「おい曽根崎!テメエ嘘こいてんじゃねえぞ!」

 「嘘じゃないって!モノクマから知らされたんだってば!まあ・・・うん、そうだよ」

 

 いまいち歯切れが悪い曽根崎は、何か伝えようとしてんのか、それとも隠そうとしてんのか。モノクマから教わったって曽根崎の言い分と曽根崎だけに教える不公平はしねえってモノクマの言い分と、その両方が成立することなんてあんのか。

 

 

 【思考整理】

 

 曽根崎が二つの脱衣所を行き来する方法を知ったのは・・・・・・・・・モノクマに教えてもらった

 

 モノクマの言い分は・・・・・・・・・一人に教えるなんて不公平なことはしねえ

 

 モノクマは全員にその方法を知らせてて、たまたま曽根崎だけが意味を理解したってのか?

 

 モノクマが全員に知らせてることで、一人だけ知ることができるもの・・・・・・・・・?

 

 「・・・!もしかして・・・あれか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おい曽根崎。お前まさか・・・あのレトロゲームやったんじゃねえだろうな?」

 「ギ、ギクゥッ!!?」

 「図星が口に出てはりますよ・・・!?」

 

 やっぱりか。俺たち全員に知るチャンスがあったものっつったら、モノクマがアップデートしたとかなんとか言ってたあのレトロゲームしかねえ。余計な疑心暗鬼のタネになるからって誰も触らなかったはずなのに、曽根崎はいつの間にクリアしてやがったんだ。

 

 「レトロゲームとは、大浴場のホールに設置されていたあの機械か」

 「モノクマ。あのゲームの賞品ってのは、脱衣所を行き来する方法なのかよ」

 「それを言っちゃったらクリア特典にならないでしょ?だから言いません!でも、既にクリアした人が現れたのはお知らせしてあげましょう!」

 「テメエはあのゲームの景品として、脱衣所を行き来する方法を知った。それで覗きなんかしたんだろ曽根崎。いや、ここは敢えてソノゾキと呼ばせてもらおうか」

 「覗いてないってば!やめてよ変なあだ名付けるの!」

 「むつ浜の名付け親は貴様だろうが!!」

 

 脱衣所の行き来ができるんだとしたら、捜査の時こいつがいなくなったのも納得できる。あいつは何らかの方法で、女湯の脱衣所に隠れてたんだ。行き方を知らねえ奴にはどうやったって見つけられねえわけだ。

 

 「えっと・・・何の話だっけ?」

 「覗きは立派な犯罪だ。曽根崎には然るべき罰を受けてもらう」

 「だから不可抗力なの!ボクが試しに女湯の方に行ってみたら、たまたま明尾さんがお風呂からあがってきて・・・でも明尾さんも明尾さんでタオルは頭に巻くんじゃなくて」

 「それ以上言うなこの覗き魔ァ!!!」

 「話を戻してください!!清水君、あなたは一体何を仰りたいのですか!!」

 

 笹戸と鳥木が言わなかったら、このまま有耶無耶になってたかも知れん。元の話はなんだったっけか?曽根崎が女湯に行けたってことは、二つの脱衣所を行き来する方法がある。ってことは、男湯の脱衣所に凶器のハンマーがあったからって、女は犯人じゃねえとは言えねえわけだ。で、今この場で一番疑わしい奴がいる。

 

 「穂谷が男湯の脱衣所にハンマーを隠すこともできたわけだ。つまり、穂谷の容疑は晴れない」

 「むしろ両脱衣所が分断されているという前提があるのなら、敢えて異性の方の脱衣所に証拠を残しておく方が、自身への容疑を逸らすことができる。更に被害者を装い偽証をすることで、説得性を持たせた上でミスリードをさせることも可能。まさに、先ほどまで穂谷円加がしていたことだな」

 「・・・そうなのか、穂谷。お前がやったのか?」

 「・・・」

 

 短くまとめた俺の言葉を、望月が敢えて説明した。黙ってそれを聞く穂谷に七人分の視線が向けられる。もはやそこに疑いの色はほとんどない。それが、ほぼ確定した事実のせいなのか、これからこいつを待ち受ける処刑のせいなのか、俺たちが疑うことに疲れ果てたせいなのか。たぶん、きっとその全部だ。

 

 「・・・はぁ」

 

 緊張の糸が張り詰める音だけが残る裁判場で、そのため息はやけに大きく聞こえた。だがそのまま穂谷は、まただんまりを決め込む。

 

 「穂谷さん、どうして・・・どうして何も言わないんですか・・・。なんか言うてくださいよ・・・!」

 「下手に喋ってボロ出すより、黙ってた方がマシだと思ったんだろ」

 「ま、まだ穂谷さんが犯人やなんて・・・!!」

 

 なんで晴柳院は、こんなに人を信じられるんだ。信じた奴に裏切られて殺され、裏切った奴も惨たらしく殺される、そんなのを今まで何度も見てきたはずだ。誰かが誰かを殺した時点で、俺たちの間で信用なんて言葉は死んだんだ。庇うなんて無駄だし利用されるだけだ。穂谷はその信頼を利用してまた逃げるだけだ。そう思ってた。

 

 「実に不愉快です」

 

 それだけ言って、穂谷はまた深くため息を吐いた。けどその声色は、いつもの人を見下す雰囲気じゃなかった。なぜかそれだけは、いつもと違うことが分かった。

 

 「この私を人殺しなどと疑い、あれこれと証拠と論を並べ立てて、挙句の果てにお粗末な弁護まで・・・一体どれだけ私を辱めようというのですか」

 「だが説得力はある」

 「・・・何より不愉快なのは貴方です。清水君」

 「あ?」

 

 今までの議論を丸ごと否定することを言い出したが、そんなのいつものことだ。俺を名指しで不愉快と言ってくるのも別に今更だし、何やったって不愉快になるだろ。それくらいの気持ちで俺は話半分に聞いてた。

 

 「“才能”もなく、努力もせず、自らの恵まれていることにすら気付けず、責任も負わず、不平ばかり口にして逃げ続ける貴方のような最低の人間に犯行の全てを見抜かれたことが、私は不愉快でなりません」

 

 言いたいだけ言えばいい、どんだけ言い逃れようがもう結果は同じだ。と聞き流してた。危うくしたらスルーしそうになるくらい自然に、穂谷はその言葉を言った。

 

 「・・・ん?」

 「ほ、穂谷・・・?いま、なんと言った?」

 「同じことを何度も言わせないでください。清水君程度の人に見破られたことが不愉快極まりない、と言ったのです」

 「ええっと、穂谷さん?それってさ・・・もう自白ってことになっちゃわない?」

 「醜く足掻くなんてこと、私のプライドが許しませんの」

 

 思った以上にあっさりと穂谷は自供した。言い逃れも言い訳もせず、不気味なほどに潔く。糾弾されてる立場なのにもかかわらず、その立ち姿は気高さすら感じさせる。あんまりにも堂々としてるから、まるでこっちが追い詰められてるみてえだ。

 

 「そんな・・・穂谷さん!!何を仰っているのですか!!あなたが人殺しだなんて、そんなこと冗談でも聞きたくありません!!撤回してください!!」

 「鳥木君」

 「ッ!」

 

 穂谷はただ鳥木の目を見ただけなのに、鎖で縛られたように鳥木は固まった。俺の位置からは穂谷の目の色は分からねえが、その声色が重い威圧感に満ち満ちてることは感じ取れた。言い訳することはおろか、誰かに庇われることすら、『女王様』のプライドは許さねえってことか。

 

 「じゃあ、もういいよな?投票だ」

 「そうですわね。構いません」

 「あらそう、もう裁判は終わりなのね。それでは!」

 「ま、待って!」

 「でじゃゔっ!!」

 

 景気良く投票に移ろうとした裁判を、笹戸の一声が止めた。モノクマは悲鳴らしきものをあげてひっくり返り、玉座の向こうに転げ落ちてった。誰もそんなもんは見てなかったが。

 

 「なんですか?まだ何かありまして?」

 「投票の前に教えてよ。穂谷さん・・・キ、キミが・・・裏切り者なの?裏切り者だから、明尾さんを殺したの?」

 「・・・・・・そんなこと、どうでもよろしいではありませんか」

 

 肯定も否定もしない。ほとんど死んだような目で、穂谷は答えた。明尾を殺したのは裏切り者、そんな証拠はどこにもねえが、全員薄っすら思ってたはずだ。この事件には、裏切り者が関わってるって。

 

 「さあ、もう全て明らかになりました。早く終わりにしてくださるかしら」

 「当然だ。自白したんだから、もう改めて言う必要もねえよな?さっさと投票を終わらせて」

 「これで終わりだなんて、認めるわけに参りません!!」

 

 苦い顔をしてる奴もいたが、穂谷を含めた全員がこの結論に納得してるはずだった。なのにモノクマの号令を待たず投票に移ろうとした俺の指は、鳥木の鬼気迫る声に止められた。本人だって認めてるのに、なんで無関係の鳥木が認めたがらねえんだ。思いっきり睨み付けてやったが、マスク越しに見えるその眼は強く、口から出かけた言葉は喉の奥まで逃げ込んだ。代わりに鳥木に対峙したのは、すぐ隣で眉を顰めた穂谷だった。

 

 「皆様、今一度お考え直しください!!穂谷さんが犯人だなんて、おかしいではありませんか!!彼女にはこのような犯行は不可能なはずです!!」

 「鳥木君。わざわざ投票を止めてまで私を辱めるなんてどういうつもりですか。私に人が殺せないと、本気でお思いですか?そんな甘い考えでは、いずれ痛い目をみますよ」

 「申し訳ございません穂谷さん。ですが私とて退けない理由がございます!!私はここで貴女に負けてはならない!!私と、そして貴女のために!!」

 

 

 【反論ショーダウン】

 

 「貴方が私に刃向かう理由なんて毛ほどの興味もありませんが、これ以上私に生き恥を晒させないでくださいな。潔く去ることも気品あればこそです」

 「いいえ、貴女はまだそんな残酷な運命に進むべきではありません!!そんな最期は断じて美しくない!!」

 「貴方に私の何が分かるのですか!知ったような口をよくも・・・!そんな不届きな方だなんて思いませんでした!幻滅です!」

 「構いません。これで、貴女を救えるのであれば」

 

 【発展!】

 

 「救うとは滑稽なことを言うのですね。私が明尾さんを殺害したのだと、この私が言っているのです!何を疑うことがありますか!」

 「貴女が正しいと仰った、清水君の推理。そこには見逃せない欠落がございます!未完成な推理を肯定してしまった貴女が、犯人であるはずがないのです!」

 「未完成?彼の推理のどこに不足があったというのですか?“犯行現場”も、“被害者の死因”も、“凶器の隠し場所”も、必要な要素は全て揃っていましてよ!」

 「真実はそこにございます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いいえ穂谷さん。貴女は・・・いえ、貴女方は見落としていらっしゃる!!穂谷さんに犯行が不可能だった根拠を!!」

 「穂谷円加に犯行が不可能だったとは考えられないが」

 

 きっぱりと言い切る鳥木に、望月もきっぱりと言い切った。今までの推理通りに動けば、穂谷が犯人で間違いないはずだし、穂谷にしかこの犯行はできなかったはずだ。なのに穂谷に犯行が不可能だってことになったら、いよいよ犯人なんて見つからねえぞ。

 

 「清水君と曽根崎君が犯行に使用されたハンマーを発見なさったのは男子脱衣所。通常女性は入ることのかなわぬ場所です!!」

 「入ってたまるか!!」

 「入ったんだろ。そこの女王様が、こそこそとよ」

 「しかし行き来の方法をご存知だったのは曽根崎君ただ一人!!曽根崎君!!貴方はそのことをどなたかに漏らしましたか!?」

 「え?うーん・・・みんなにバレるまで漏れてはなかったね」

 「知っていたらそんなもの封鎖していた!!なぜ報告しなかったのだ曽根崎!!」

 「面白いかと思って」

 「封鎖されたら覗けなくなるからだろ」

 

 脱衣所の行き来の方法なんて、知ってたらもっと騒ぎになってたっつうの。曽根崎以外の誰も、そんなもんは知るはずがねえ。簡単に知れるようなことだったら、モノクマがゲームの景品に用意した意味がなくなるから。

 

 「ん?・・・いや、だとしたら」

 「そうです清水君!曽根崎君以外の誰もその方法を知らなかったのであれば!!穂谷さん!!なぜ貴女がそれを犯行に利用できたのですか!!」

 「えっ・・・!?」

 「貴女は、貴女が知り得ない方法で凶器を隠したと!そう仰っているのですよ!!」

 「いやっ・・・!そ、それは・・・!!」

 「いかがですか!!納得のいく説明を!!」

 「うっ・・・!」

 

 そうだ。モノクマは確かに、ゲームの景品を受け取れるのは先着一人と言った。曽根崎がその獲得者なら、穂谷が脱衣所の行き来の方法を知ることなんてできねえ。おかしい。じゃあ穂谷はどうやってその方法を知ったんだ?

 鳥木の指摘に、穂谷の動揺が口から漏れた。女王たる佇まいに陰りが指す。穂谷の何かが、少しずつ崩れていってるような。絶対だったはずの要塞が、脆く破壊されていくような。そんな気がしてきた。

 

 

 【議論開始】

 

 「二つの脱衣所を行き来する手段は、曽根崎君しか知り得ませんでした!!そんな情報を犯行に組み込むなんてこと、貴女にできるはずがなかったのですよ!!穂谷さん!!」

 「それって曽根崎くんが犯人って暗に言ってるようなものだけど・・・」

 「ふぁっ!?矛先が急にボクに!?」

 「いずれにせよ鳥木の主張に“誤りはない”ようだ。となると、穂谷はシロということになる」

 「そ、そんなもの・・・モノクマなんかに頼らなくても、自力で見つけ出せましてよ!私は貴方方とは違うのです!」

 「自力で?」

 「一人で“大浴場に行った”時に、たまたま脱衣所を移動する手段を見つけました!本当にたまたまでしたのよ!」

 「ボロが出たね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「一人で大浴場に行ってたまたま見つけたかあ・・・小学生じゃないんだからさ、もうちょっとマシなウソでも言えば?」

 

 追い詰められた穂谷は、明らかに苦し紛れな説明わした。偶然だのたまたまだの、そんなのは誰にも証明もできなきゃ嘘とも言い切れない、一番扱いに困る言い訳だ。嘘が嫌いだと言ってたくせに、曽根崎はそんな穂谷の嘘に楽しそうに突っ込んだ。

 

 「捜査の時に、キミは言ったよね?大浴場に行ったのは動機の発表の時っきりだって。言ってること違うじゃないか」

 「ああ、そりゃ俺も聞いたな」

 「我々はよく利用していたが、穂谷、お前とは一度も共に行ったことはないな。明尾もよくボヤいていた」

 「っ!!そ、それは・・・!!」

 「そっちの証言の方がウソだったってこと?凶器を隠したことがバレないように」

 「笹戸さんは穂谷さんを責めるいうんですか!?」

 「いやだって自白してるし・・・」

 

 捜査の時、確かに穂谷は言ってた。大浴場に行ったのは動機の発表の時だけで、本来ならあんなことでもなきゃ一度も足を踏み入れたくない場所だって。あれはとてもブラフとは思えねえほど嫌悪感と侮蔑に満ちてたが、強烈だとしても状況証拠は決定打にはならない。物的証拠でもありゃまだマシなんだが。

 僅かでも疑念があって、穂谷がこの調子じゃ議論は進まない。どうにかしてこいつから決定的なボロを出させなきゃならねえ。そこで、今まで積極的に穂谷を疑うことをしなかったそいつが動いた。

 

 「穂谷が本当に脱衣所を行き来する方法を知っているか、確かめる方法ならある。穂谷、今ここで教えてくれ。二つ脱衣所を行き来する方法を」

 「・・・・・・え?」

 「お前が明尾を殺し、凶器を男湯の脱衣所に隠したのなら、当然行き来の方法も知っているだろう。現にお前はそう言っているしな。教えてくれないか」

 「そ、そんなことを今言う必要がありまして?どのような方法かなんて、大した問題ではありません。大事なのは二つの脱衣所を行き来できたという事実であって」

 「お前は犯人なのだろう?どうせ処刑されるのであれば、六浜童琉の質問に対して茶を濁す意味などなかろう。それに今後はその方法を封じる必要が生じた」

 「・・・しかし」

 「答えられないのであれば、申し訳ございませんが、穂谷さんの主張は到底信じることはできませんね!!自白までした犯人がなぜそんなことを隠したがるのか、理解に苦しみます!!」

 「理解など必要ありません!!いいから貴方方は大人しく私に投票していればいいのです!!さあ!!早く投票を!!」

 「埒があかん」

 

 六浜たちがしつこいくらい穂谷に脱衣所の行き来の方法を尋問するが、穂谷はそれに食い下がって答えようとしない。しまいにゃさっさと投票しろだ。こんな状態で結論なんか出せねえ。それに少なくとも、穂谷はもう犯人には見えなくなってきた。どういう理由があるかは知らねえが、こいつは自分が明尾を殺したと思い込んだりしてやがんのか?

 

 「もういいんじゃない?穂谷サンが可哀想だよ」

 「え・・・ど、どういう意味ですか、曽根崎さん?」

 「脱衣所の行き来の方法が知りたいならボクが教えてあげるよ。もともとボクはちゃんとした方法で知ったわけだしね」

 「は?なんでお前が」

 「実はね」

 

 急に口を挟んできたと思ったら、曽根崎は穂谷に代わってその方法を答えると言い出しやがった。いやいや、お前が答えたら意味ねえだろ。どっちにしろ穂谷は答えられそうにねえからいずれはそうなるだろうが、このタイミングは早すぎる。今じゃ穂谷に利用されるだけだぞ。そう言おうとした俺を遮って、曽根崎は続ける。

 

 「大浴場のレトロゲーム機の下に隠し階段があってさ。そこを下って隠し部屋から両方の脱衣所に入れるんだ。洗面台の下に秘密の出入り口が隠してあったよ」

 「ゲ、ゲーム機の下に隠し階段に隠し部屋!?あの大浴場にそんな場所があったの!?」

 「ね。穂谷さん」

 「・・・そ、その通りです!地下の隠し部屋からどちらの脱衣所にも自由に出入りできますのよ!誰にも見られずに移動することなど容易いことです!」

 

 まんま、曽根崎の言ったことに便乗して穂谷が言った。ゲーム機の下の隠し階段に隠し部屋、そこから両方の脱衣所に上がれる?本当か?あの大浴場はかなり古い造りだったし、下は湖だぞ。地下に部屋を造って繋げるなんて、いくらモノクマでもそんなことできんのか?強ち出来なくもなさそうだから余計にこんがらがる。

 

 「・・・そうか。それでいいのだな?」

 「はい?なにがです?」

 「本当にそれでいいのかときいている。大浴場には両方の脱衣所に行き来できる隠し部屋があるのだな」

 「何を言いたいのか理解しかねますが・・・曽根崎君もそう言っているではありませんか。私以外にも証人がいて、それでまだお疑いでしょうか」

 「あっ、間違えた」

 

 そう言い切った穂谷から一拍置いて、六浜は意味深に穂谷に確認をとった。それにはっきりとは答えず、穂谷は曽根崎を頼りにしようとしたが、その曽根崎はタイミングを計ったように間抜けな声をあげた。全員の頭に?マークが飛び出して、穂谷の動きが固まったのが見えるようだった。六浜だけは、ため息交じりに曽根崎と穂谷を交互に見ていた。

 

 「これ前に読んだ推理小説のトリックだったや、ごめんごめん。いやあ、こんな後出しトリックじゃ読者は納得しないよね。それがまかり通っちゃったらなんでもアリになっちゃうじゃんってね!」

 「は?あ、あなたは・・・一体なにを言って・・・?」

 「で、穂谷サン。大浴場の地下に隠し部屋?ゲーム機の下の階段から行き来できる?本当に?ボクはあの機械をクリアしたし、その周りも隅々まで調べたけど隠し階段なんてなかったよ?ボクがモノクマから教えてもらった方法も、そんなんじゃなかったし・・・何の話してたの?」

 「鬼畜や・・・」

 

 こ、この野郎・・・またやりやがった。石川に自白させる時にも同じことをして、その時に二度とウソは吐かねえと約束したにもかかわらず、また同じ方法で同じ目的のためにウソ吐きやがった。しかも俺たち全員を巻き込んで。しかもまんまとその罠に引っかかった穂谷を必要以上に質問責めにしてやがる。穂谷は状況を理解したのか、顔を青くして何か呟いてるが、その声は聞こえない。どっちにしろまともな言葉を発しちゃいねえだろう。

 

 「この程度のカマかけに引っかかるようでは、疑う余地はないな。穂谷は脱衣所を行き来する方法を知らなかった」

 「それはつまり、穂谷さんに凶器のハンマーを隠すことは不可能だった!!すなわち犯人ではないことになります!!」

 「ええ・・・ここまで来てそんな。で、でもそうだよね」

 「よく曽根崎の嘘が分かったな、六浜」

 「嘘じゃないよ!!天然で間違えちゃったんだよ!テヘペロ!」

 

 なんか言ってるが嘘は嘘だ。嘘は嫌いだなんだと言いながら結局また使ってんじゃねえか。そのおかげで穂谷がシロだってのもはっきりしたわけだし、別に俺はどうでもいいが。だがそうなると、本当の犯人は誰になるんだ?

 

 「で、本当はどうなのだ」

 「へ?」

 「二つの脱衣所を行き来する方法とは、なんだ。言っておくが、私にはお前の適当な物言いは通用せんぞ」

 「え・・・あ、ははは・・・目が怖いよむつ浜サン。メガ怖い、なんちゃって・・・」

 「・・・」

 「しょうがないなあ。言うよ。あのね、隠し部屋はなかったけど隠し扉はあったんだ。ロッカーの中に」

 「ロッカー?」

 

 六浜にじっくりとガン付けられて、曽根崎の顔からへらへらと腑抜けた笑顔が徐々に消えていくのが分かった。こんなところで誤魔化してもしょうがねえと、あっさり観念したようだ。

 

 「鍵付きの方じゃなくて、入って正面にある小さい方のロッカーだよ。あれ、中に何にも入ってないんだ」

 「そ、そんなロッカーありましたっけ?」

 「あまり気に懸けたことはございませんね。いえ・・・だからこそ秘密の抜け道に適当だったのでしょう。誰も気にしないところにこそトリックはある!マジックでも基本でございます故!」

 「それで、脱衣所を仕切ってる壁のところに小さい引き戸があって、そこを通ればもう片方のロッカーの中に入れるってわけ」

 「実にシンプルだな」

 

 小さいロッカー、初めて行った時にちょっと見たくらいだろうか。マジであんなもん気にしてなかったし、あれが隠し扉を隠すためのダミーだなんて考えもしなかった。あれを通って行き来できるなんて、ゲームの景品にしなくても気付く奴はいたんじゃねえのか?

 

 「はい、この話はこれでおしまい!さてと、穂谷サンがどういうつもりで自分を犯人だって言ってたのかは知らないけど、それも真実とは違うと分かったことだし、そろそろ結論を出そうか」

 「へ?け、結論て・・・?」

 「明尾サンを殺した、真犯人を暴くんだよ!」

 「もとよりそのつもりだ。穂谷円加が掻き乱したことで不明瞭になりつつあるため、今一度整理すべきと考える」

 「うん。僕もう何が何だか分かんなくて・・・」

 「う、うちもです・・・」

 

 強引に話を区切って、曽根崎は改まって裁判の本旨を示した。穂谷がシロだと分かりはしたが、これからあいつの発言はもう聞く価値もない。また自分が犯人だなんて言いだしたら余計ややこしくなるから、無視に限る。それがなんとなく決まると、一旦、これまでの議論を振り返ることになった。何が分かって何が分からねえんだったっけか。

 

 

 【議論開始】

 

 「まず、被害者の明尾サンが発見されたのは、血まみれになった彼女の部屋。これは“犯人が現場を偽装した”もので、本当は明尾サンの部屋は事件と関係ないんだ。本当の現場は寄宿舎の反対側の穂谷サンの部屋、もしくはその前の廊下だ。穂谷サンは、自分の部屋の真ん中で“気絶してた”」

 「明尾奈美と穂谷円加には、身体に“同様の殴打痕”が見られる。同一犯による犯行であると考えられるが、明尾奈美の死因は撲殺ではなく首を絞められたことによる窒息死だ」

 「今となっちゃあ穂谷の証言も意味ねえよな・・・むしろ犯人が男ってのも怪しくなってきた。嘘の自供なんかしてまで犯人を庇うってことは、そこも嘘なんじゃねえのか?」

 「しかし凶器のハンマーは男子脱衣所で見つかったのだぞ。二つの脱衣所を行き来する方法はあったが、それを知っていたのは“曽根崎だけ”ではないか」

 「一つ、いいかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ちょと待ってちょと待ってむつ浜サン!」

 「なんだ、その一年を飾るかと思われたがすぐに忘れ去られ下半期には影も形もなくなった芸人のような呼び止め方は」

 「なんでそんな具体的なの!?」

 「脱衣所の行き来について、ちょっと訂正・・・というか捕捉しておきたいことがあってさ。なんかみんな勘違いしちゃってるみたいだから」

 「勘違い?」

 

 妙な呼び止め方したと思ったら、脱衣所の行き来についての補足ってなんだ?俺たちが何を勘違いしてるっつうんだ。

 

 「あのね、隠し扉のことなんだけど・・・あれを知ってたの、ボクだけじゃないんだよね」

 「なに?さっきと言ってることが違うではないか」

 「違くなくなくない!?ボクの言ったことをみんなが勝手に解釈しただけでしょ!ボクは隠し扉のことが、『みんなにバレるまで漏れてなかった』って言ったんだよ!ボクだけが知ってたってこととはイコールじゃないじゃん!」

 「いやだって元々知ってたのが曽根崎くんだけなんだから、みんなにバレるまで漏れてなかったって、キミしか知らなかったってことにならない?」

 

 笹戸の疑問はたぶん俺たち全員が感じてるもんだ。バレるも漏れるも同じだろ。脱衣所の行き来ができることがバレるまで、曽根崎が誰にも言ってなきゃ漏れるはずが・・・。

 

 「ん?いや、おい曽根崎。お前、隠し扉のこと誰かに言ったのか?」

 「言っちゃった!」

 「ふええっ!?だ、誰にですかあ!?」

 「いやあ、まあ言うには言ったけど、結果的にみんなにはバレなかったみたいだし、結局言ってないのと同じ?」

 

 なんでこいつはいちいち掴み所のないことを言って話をまどろっこしくさせやがるんだ。人に言ったのに誰にもバレてなかったって、そいつが秘密を守ったってことなのか?けど曽根崎は、さっきまで誰にもバレてなかったとも言ってた。どういうことだ。

 

 

 【思考整理】

 

 脱衣所の隠し扉のことを知ってたのは・・・・・・・・・曽根崎ともう一人、誰かだ

 

 その誰かは曽根崎から教えて貰ったはず・・・・・・・・・そいつは誰にも口外してない

 

 ついさっきまで隠し扉のことを知ってたのは・・・・・・・・・ここには曽根崎しかいなかった

 

 じゃあ、曽根崎以外に隠し扉のことを知ってた奴は・・・・・・

 

 「そういうことか・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「曽根崎が隠し扉のことを教えた奴ってのは・・・明尾か?」

 「ギクゥッ!!?な、なんで清水クン知ってんの!?」

 「え!?そうなの!?」

 

 馬鹿にしたようなオーバーリアクションが全てを語ってる。やっぱりこいつ、明尾に隠し扉のこと話してやがったのか。死人に口なしなんてよく言ったもんだ、曽根崎以外には殺された明尾しか知らなかったんだったら、俺らにそのことが漏れるわけがねえよな。つうかストレートに言えっつうの。

 

 「ええ・・・?か、隠し扉のこと知ってたんが、曽根崎さんと、な、亡くなった明尾さんって・・・」

 「いやあ、ボク実は、間違えて女湯に入っちゃった時に明尾サンに捕まっちゃってさ。みんなにチクられたくなかったら、どうやって入ったか教えろっていうから・・・」

 「く、口封じに教えたというのか!!」

 「だってみんなにバレたら今後ボク白い目で見られ続けるじゃん!」

 「そうでなくても見られている節はあるような」

 

 俺は現行犯で捕まってんのを見た気がするけどな、それに晴柳院だって被害者じゃなかったか?別にそこはどうでもいいが、だから明尾は医務室では覗きのことすっとぼけてたのか。

 

 「とまあ、ほんの訂正だよ。それだけ」

 「つまり隠し扉のことを知っていたのは、すなわち二つの脱衣所を行き来することができたのは、曽根崎か明尾の二人だけ、というわけか」

 「でもそれって、ほとんど犯人決まったようなものじゃない?だって、明尾さんは今回の事件の被害者なわけだし・・・」

 「最も犯人と疑わしいのは、曽根崎弥一郎ということになるな」

 「あれぇ!?なんで!?」

 「いえ、曽根崎君が犯人であるならば、凶器のハンマーを男子脱衣所に隠すのはあまり意味がないかと。それに、ご自分で見つけられたのではありませんでしたか?」

 「そ、そうだよ!ボクが何にも言わなかったら清水クンだって大浴場を調べようなんて気にならなかったんだから、ボクが犯人だったらわざわざ清水クンなんて証人まで誘って大浴場を調べに行かないよ!むしろ大浴場から遠ざけてもっと意味のないところを捜査するように仕向けたり色々できるじゃん!」

 「途端に饒舌だな」

 

 ふざけてやがんのか、それとも本気なのか、分かりやすいくらい慌てる曽根崎は一旦さておくことにする。鳥木の言うことも一理あるしな。けどそうなると、脱衣所の隠し扉を知ってた奴はどっちも犯人じゃないってことになるんじゃねえか?あれは事件と関係ねえのか?

 

 「あ、あのぅ・・・う、うちが聞き逃したんか、もう結論が出てるんか分からないんで質問なんですけど・・・」

 「うん!なになに晴柳院サン!なるべくボクの疑いが晴れるような質問してね!」

 「テメエは黙ってろ」

 「えっと、確か犯行現場は明尾さんのお部屋やのうて、穂谷さんのお部屋でしたよね・・・?その、なんでその時、明尾さんが穂谷さんのお部屋にいてはったんかなって・・・」

 「・・・?あ、そっか。犯行時刻はみんなが寝てた夜時間なんだし、そんな時間に寄宿舎の反対側にいるなんておかしいよね」

 「騒ぎを聞きつけた、なんて説明では無理があるな。部屋が隣の私すら気付かなかったのだ」

 「確かに疑問が残るな」

 

 別に俺も気にしてなかったが、改めて聞かれると分からねえ。明尾が事件当時のド深夜に、なんで穂谷の部屋にいるんだ。部屋が隣でも向かいなわけでもなく、その二人が特に仲の良い関係だったとも思えねえ。むしろ穂谷は今までより警戒を強めてたはずだ。だったら、なんで明尾は穂谷の部屋を訪ねられたんだ。

 

 

 【議論開始】

 

 「事件が起きたのは真夜中、普通ならみんな寝てる時間だ。なんでそんな時間に明尾さんは穂谷さんの部屋に行ってたんだろ」

 「単なる早起きではありませんでしょう。すなわち、何か“大切なお話”をなさるためでございます!」

 「用があったんだと思うけど、まさか夜中に“発掘”に誘ったわけじゃないよね・・・」

 「もしかしたら、穂谷が犯人に狙われてんのを嗅ぎつけて、“様子を見に行った”のかもな」

 「単独でそんなことをするほど見立ての甘い奴ではあるまい。もっと他に、よほどの事情があったはずだ」

 「何も真正面から穂谷円加を訪ねたと決定したわけではない。“部屋への侵入”、あるいは待ち伏せの可能性も考えられる」

 「それだと思うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敢えて誰も触れなかったことを、望月は平気で言った。分かってんだよ、真夜中に他人の部屋を訪ねる奴が、ろくな考えを持ってなかったってことくらい。だけどほとんどの奴が、それを信じたくなくて、そんな馬鹿なことを受け入れたくなくて、なんとか他の可能性を捻り出してんだ。なのに真実ってのはいつもこうだ。ここに来てから俺たちは、期待を裏切られっぱなしだ。

 

 「そうだね。明尾サンはきっと、穂谷サンの部屋に侵入したんだよ。彼女に気付かれないように、こっそりとね」

 「そ、そんなまさか!なぜ明尾さんが穂谷さんのお部屋に侵入する必要が・・・!!」

 「真夜中にこっそり人の部屋に忍び込む人が何考えてるかなんて、わざわざ言わなくても分かるでしょ。それとも、言っちゃっていいの?」

 「・・・し、しかし、それは憶測だろう?当事者である穂谷の意見はどうなのだ」

 「わ、わたしは・・・!!」

 「今更あいつに話させたって意味ねえだろ。つうか実際に事件が起きてるわけだし、状況的におかしいことじゃねえんじゃねえか?」

 「それにさ、もし明尾サンが穂谷サンの部屋に行ったんだとすれば」

 「お考え直しくださいませ!」

 

 もし穂谷がまともな状態だったら、明尾と何があったかを聞くこともできた。だけど今の穂谷にそんなことさせられねえし、適当な嘘吐かれて余計にこんがらがるくらいなら、そういうことで話を進めた方がマシだ。けど、それに納得しない奴もいた。鳥木はマスク越しに焦りが伝わるような目の色で、曽根崎に反論してきた。

 

 「曽根崎君、あまり強引にお話を進めても真実は遠のくばかりですよ!もっと慎重になるべきです!」

 「ボクは強引に進めたつもりなんかないけど?むしろ鳥木クンの方が強引じゃないか。ボクの推理のどこに反論する要素があるっていうのさ」

 「では僭越ながら私が指摘いたしましょう!ご静聴願います!」

 

 

 【反論ショーダウン】

 

 「確かに明尾さんが殺害されたのは穂谷さんのお部屋のようです。犯人は犯行現場を偽装することで、明尾さんを殺害した容疑を穂谷さんに向けさせたのでございます!ではなぜ事件当時、明尾さんは穂谷さんのお部屋にいらしたのでしょうか!?答えは至極単純にして実に明快!!お二人は何か大切な、秘密のお話をなさろうとしていたのです!!だから真夜中に、個人の部屋である必要があったのです!!」

 「秘密の話ってなにさ?っていうか話をするだけなら昼間でもできるじゃん。そんな小学生みたいな反論じゃボクの推理は崩れないよ。それに穂谷サンが、真夜中に誰かを自分から部屋にあげるなんてことあるわけないじゃん。彼女の警戒心の強さは鳥木クンだって知ってるでしょ?」

 「ああ!曽根崎君!貴方は論理という名の堅牢強固なる盾の陰に隠れて、とても頑固になってしまっております!!ですがその背は剥き出しに晒されてございます!!頑丈な鎧がなくてはその論は実に脆いもの!!そんな鎧、即ち明尾さんのご意思を示す“証拠”があるというのですか!!」

 「その通りだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「証拠なら、もうみんな分かってるはずだよ。この事件で明尾サンが、ただの被害者じゃないっていうことの証拠をさ」

 「なん・・・だと・・・?」

 

 明尾のこの事件への関わり方は薄々感づいてはいたが、証拠なんてあったか?しかももう俺たち全員が知ってるなんて、そんな分かりやすいもんだったのか。思い返してみるが、俺がそれを思い付くより先に曽根崎が答えを言った。

 

 「凶器のハンマー。誰もあのハンマーの出所を聞かなかったから、もう気付いてるのかと思ったけど、違うの?」

 「ハンマー?」

 「あっ!!そ、そうか!ハンマーって・・・もしかして明尾さんの!?」

 「ハンマーが明尾のなんだというのだ」

 「明尾さんの部屋を捜査した時に、発掘セットの中から金槌だけがなくなってたんだ。清水クンにも話したよ。裁判まで部屋の中は捜査してたんだけど、結局見つからなかったから気にはなってたんだけど・・・すっかり忘れてた」

 

 言われるまで俺は、どうやら曽根崎以外の誰も、凶器のハンマーについて特に考えてなかったみてえだ。どこから出て来たもんなのか、考えてみりゃ簡単なことだ。明尾の部屋から消えてた発掘セットの一つだったんだ。そしてそれは、明尾が穂谷を殺そうとしてたってことをほぼ決定づける証拠にもなった。反論してた鳥木も、ぐうの音も出ねえとばかりに黙り込んだ。

 

 「なくなった金槌、犯行に使われたハンマー、明尾奈美の不自然な行動・・・これらが結びつかないわけがないな」

 「きっとあのハンマーを凶器に選んだのは明尾サン自身だったんだよ。でなきゃ、彼女のハンマーがあんなところにあるわけない」

 「し、しかし・・・犯人が明尾さんのお部屋から盗み出したという可能性は」

 「現場は穂谷の部屋、明尾の部屋は偽装された無関係な部屋だ。先に明尾の部屋に侵入していたなら明尾は自分の部屋で殺害されていたはずだな・・・」

 

 俺はちらりと、渦中の明尾の写真を見た。常に大口を開けて喧しく騒いでたそいつは、今はモノトーンの中でクチを閉じて澄まし顔をしてる。自分がしようとしてたことが明らかにされたってのに眉一つ動かさず、殺されたことにすら気付いてないような、なんの感情も抱いてない表情、そんな風に見える気さえした。ただうっとうしかっただけのあいつが、なぜか今では不気味に思える。

 

 「そ、そんな・・・明尾さんが穂谷さんを・・・そんなこと、どうして・・・」

 「あの明尾が一体なぜそこまでのことを?にわかには信じられんが・・・」

 「信じる必要なんかないさ。でも事実だ。それに今ボクらが明らかにすべきなのは、その明尾サンを殺した犯人だ。それももう、ほとんど分かってるけどね」

 「ええ!?そ、そうなの!?」

 

 いつも俺の考えてることの数歩先を行くのが曽根崎だ。俺はまだ誰が明尾を殺した犯人なのかなんて分からねえ。ある程度の推理はできてても、犯人だと決定づける証拠もなければ論理もない。今までの議論の中に、犯人を特定できる根拠なんかあったのか?

 

 「みんな分からないのかな?じゃあヒントね」

 「ヒ、ヒントではなく答えを教えていただきたいのですが!?」

 「ボクは明尾サンに脱衣所の隠し扉のことを教えた。そしてそのことは裁判前にボクと彼女しか知らなかったはずだ。そんなトリックを犯行に使わない手はないよね。だって上手く利用すれば犯人の性別を偽装できるんだからさ!ま、その場合はボクか明尾サンのどっちかが死んでる必要があったんだけど!」

 「笑えん冗談だな」

 「そ、それが何のヒントなの?」

 

 不謹慎な発言はちょっと前から多くなってきたから、今更突っ込むことでもない。んなことより、隠し扉のことがバレてなかったってことが、犯人とどう結びつくんだ?知ってたのは曽根崎と明尾だけだったんだろ。

 

 「明尾サンが犯行計画に織り込んだ隠し扉・・・彼女を殺した犯人は知らなかったのかな?」

 「は?」

 「殺害状況が分からないから何とも言えないけどさ、明尾サンと犯人は最初から殺意を持った関係じゃなかったと思うんだよね。だから口頭か、それとも明尾サンが何かにメモしてたのか知らないけど、何らかの形で犯人が隠し扉のことを知った可能性はあるよね」

 「そ、そうなのか?」

 「だってそうじゃなきゃ、犯人がわざわざ脱衣所にハンマーを隠す意味がないじゃないか。下手すりゃ誰かの目に付くし、もっと安全に隠せる場所はあったはずだよ」

 「確かに」

 

 前提が曽根崎自身の証言と推理によるものだからか、なんとなく地盤が緩い気もするが、けど筋は通ってる。確かに犯人が脱衣所にハンマーを隠す理由なんて、本来ならない。隠し扉のことを知らなけりゃ、凶器を隠す候補にだってあがらねえはずだ。だったら武器庫にでも隠した方が目立たねえ。

 

 「つまるところ、曽根崎は誰が犯人だと考えているんだ」

 「犯人は脱衣所の隠し扉のことを知っていた。もっと言えば、二つの脱衣所に入ったことがある人物のはずだ。あ、ボクは違うよ。だってボクが犯人だったらわざわざこんな推理の進め方しないでしょ?」

 「なんかズルい逃げ方だなあ・・・」

 

 ちゃっかりしてやがる。そこはさすがと言うべきか、やっぱりと言うべきか。いずれにしろ確かに曽根崎が犯人だとしたら、あまりにこいつは捜査に積極的過ぎた。脱衣所のハンマーだって、こいつが言い出さなきゃ誰も気にしなかったことだしな。

 んなことよりも、脱衣所の隠し扉のことを知ってた奴が犯人って、そんな奴がまだいるってのか?この中で、脱衣所を行き来したってことが言える奴なんかいたか?

 

 「そんな言葉で逃げ切れるとお思いですか・・・!!ここまで推理を進めて、事件の解決に貢献していることをアピールしたに過ぎないのでありませんか!!」

 「もういい、穂谷・・・。頼むから黙っていてくれ」

 

 いよいよ犯人が明らかになりそうって時に、穂谷がまたヒステリックな声をあげた。さっきまで自分が犯人だと言ってた奴が、今度は曽根崎が犯人だなんて言い出す。それも大した証拠のない、ほとんど言いがかりみたいなもんだが。

 

 「隠し扉のことを知ってしまった明尾さんが邪魔だったから殺害したのでしょう!!彼女が私を襲ったのも、貴方が唆したのではないですか!!」

 「穂谷さん・・・もうお止めください。貴女のそんな姿を、私は見たくない」

 「そもそも本当に隠し扉なんてものがあるのですか!?曽根崎君しか知らないだなんて、なんとでも言える不確かなことです!!そんな推理に命をかけるなんてことができまして!?いえ、これは曽根崎君の策略です!!」

 「ならボクの推理を最後まで聞いてみてよ。この事件の犯人、ボクの他に脱衣所を行き来した人がいるんだ」

 「そんな嘘は!!聞かない!!貴方の話なんて!!私は認めない!!」

 

 黙ってた分を発散するように、穂谷は激しく喚く。けどそれは支離滅裂で、そんな言葉に靡く奴なんか今更ここにはいない。曽根崎の視線は舐めるように裁判場を巡り、ある一点を狙い澄まして止まった。そいつが、この事件の犯人だ。

 

 

 【犯人指名】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そうだよね、鳥木クン」

 「ッ!!」

 

 誰も曽根崎の言う犯人を突き止められず、穂谷のがなる声だけが裁判場に広がっていた。そんな中に、曽根崎は鋭く冷たい言葉を投げた。たちまち穂谷は息を飲み、まるで鏡のような水面に雨の雫が一滴垂れるように、その言葉はじわじわと波紋を広げていった。

 

 「キミが、明尾サンを殺したんだよね?」

 「・・・なぜ、私なのですか?」

 「な、なにを・・・!!そんな・・・!!あ、あり得ません・・・!絶対に!!あり得ません!!」

 

 名指しされた鳥木は冷静で、少しだけ目が丸くなっただけだった。その隣の穂谷は、青白い愕然とした表情を浮かべたかと思ったら、また喚きだした。曽根崎は鳥木の質問にだけ答える。

 

 「医務室でボクと清水クンと話をした時、ボクがこれを見せたの、覚えてるよね?」

 

 そう言って曽根崎はポケットから、小汚え木の板を取り出した。でかでかと『六』が書いてあるそれは、確か穂谷の部屋で見つけたもんだ。そして、ハンマーが隠してあるロッカーを示すもんでもあった。

 

 「えっ・・・?そ、それは・・・ロッカーの鍵?ですか?」

 「そのようだ。だが・・・」

 「ボクがこれを出した時、鳥木クンは確かに言ったよ」

 

 見るからにロッカーの鍵だ。なのに晴柳院も六浜も、よく見えねえのか首を傾げてる。曽根崎はこれを医務室で見せた時に鳥木が何か言ったっつうが、何か言ってたか?あの時、鳥木はなんつったっけか。

 

 

 ーーーーーー

 

 「あ、じゃあ目を瞑るついでに一つ聞きたいことがあるんだ。これ何か知ってる?」

 「はい?なんですか、その小汚い木片は。私はそんなもの知りません」

 「それは・・・男子脱衣所のロッカーの鍵ですね。一体なぜそんなものが?」

 「これ、穂谷サンの部屋で見つけたんだ」

 

 ーーーーーー

 

 

 「鳥木クン、キミはこの木の札を見ただけで、『男子脱衣所のロッカーの鍵』って言ったんだ。『脱衣所のロッカーの鍵』じゃなくてね」

 「・・・ッ!!」

 「うん?どうしてそれが証拠になるの?別に付けてもそこまでヘンな気はしないけど?」

 「実はね」

 

 俺と笹戸は首を傾げる。なんでその発言でそこまで言えるんだ。確かに男湯のって部分は言う必要ねえと思うが、だからって犯人なんて言えるほどの違和感でもねえだろ。

 

 「男湯と女湯では、鍵番号の書き方が違うんだよ」

 「ん?」

 「男湯は漢数字で『一、二、三』ってなってたけど、女湯はアラビア数字で『1、2、3』なんだよ。そうだよね、みんな」

 「あ、ああ・・・漢数字の鍵など初めて見た」

 「このことは、両方の脱衣所に行ったことのある人にしか分からないことだよ。わざわざ鍵番号の話なんかする人いないよね」

 「だから、わざわざ男子脱衣所っつった鳥木の発言はおかしいってことか。女湯と鍵番号の書き方が違うって知ってたから、口が滑ったってところか」

 「・・・」

 

 曽根崎に名指しされてから、鳥木はほとんど喋らねえ。いつものこいつなら別におかしくねえが、今はマスクを付けた『Mr.Tricky』になってるはずだ。舞台の上で華やかな演出を浴びながら、観る者を魅了するマジックを繰り出す超一流のマジシャン、『Mr.Tricky』のはずだ。なのに口を噤んで推理を聞くなんて、何を企んでやがるんだ。

 

 「せ、せやけど・・・それが曽根崎さんが深読みしてるだけやったら・・・」

 「そうです・・・たったそれだけのことで、彼が犯人だなんて、こじつけも甚だしい!!聞く価値もない妄言に過ぎません!!やはり犯人は貴方なのです!!彼に罪を被せようとしているのでしょう!!」

 「鳥木クンは明尾サンの死体の第一発見者だ。あの時間に起きてたのは、朝食の当番だったからってだけじゃ納得できないなあ。いくらなんでも早すぎるよ。前の日の晩から準備するっていうなら分かるけどね」

 「だとしても!!彼の犯行を決定づける証拠がない限り、そんな推理など認めません!!」

 「なら鳥木クンに聞いてみようか」

 

 黙りこくってる鳥木よりも、穂谷の方がよっぽど喚いてる。しかもやたらと曽根崎を敵視して、鳥木のことを疑うつもりはまったくないみてえだ。そんな穂谷には一瞥もくれず、鳥木はただ黙って曽根崎を見つめる。反論のひとつもなく、その質問にただただ耳を傾ける。

 

 「捜査時間中にも、ボクは女湯の脱衣所に捜査に行った。犯人が隠し扉のトリックを使ったのなら、そっちに証拠品がある可能性もあるからね」

 「なッ!!?」

 「どうどう」

 

 至って真面目な顔でそんなことを言うから、六浜がまたキレようとするのを望月が制した。この場でそんなん言われてもテンションが違う。

 

 「そしたらあったよ。どういうつもりか、ハンマーが隠してあった男湯のロッカーと同じ、『6』番のロッカーの中に・・・血のついた白い手袋とタオルがさ」

 「・・・ッ!!そ、それは・・・!!」

 「タオルは食堂かどこかから持って来られるけど、この手袋は、鳥木クン、キミがいつも嵌めてたものだよね?」

 

 曽根崎の懐から出て来たビニールの中には、赤い染みのついた手袋とタオルが入ってた。それが犯行に関わってると、一目で分かるくらいに鮮やかな色だ。鳥木は眉一つ動かさず、ただそれを見ていた。曽根崎と合ったままの目で、何かを語っているのだろうか。少しの沈黙の後、曽根崎は突然に切り出した。

 

 「そう・・・。そうだね、もういい。こんなこと、もう終わらせなくちゃいけない。ボクらは、全部を知ってしまったんだからね」

 「全部だと?」

 「この事件の全てを・・・もう一度説明して、それで終わりにするんだ」

 

 この二人は、言葉もなく一体何を通じ合ってやがるんだ。全部を知ってしまったなんて含みのある言い方されたら、この事件は一体何だったんだって不安になる。それでも曽根崎は、この裁判を一から振り返って結論を出す。

 

 

 【クライマックス推理】

 

Act.1

 事件が起きたのは真夜中。ボクらのほとんどは自分の部屋に戻ってて、廊下や外には誰もいなかったんだろうね。もちろん穂谷サンも明尾サンも自分の部屋にいた。だけどその晩、ボクらに気付かれないように殺人行動を起こそうとしてる人がいたんだ。それが今回の事件の被害者、明尾サンだ。彼女は自分の発掘道具のハンマーを持って、ターゲットの部屋まで行った。そのターゲットが、穂谷サンだったんだね。

 

Act.2

 そして明尾サンは、穂谷サンの部屋に入ることに成功。部屋の荒れ具合からして、穂谷サンは間違いなく起きてたはずだ。部屋中を逃げ回りながら抵抗したんだろうね。二人ともその時に激しく負傷したんだよ。その結果、襲撃者だった明尾サンは何かの拍子に自分の頭にハンマーの攻撃を受けてしまった。それが事故だったのか、穂谷サンがハンマーを奪い取ったのかは分からないけど、どちらにせよ彼女は返り討ちにあってしまったんだ。それでもまだ、明尾サンは死んではいなかった。致命傷ではあったけど、辛うじて生きてたはずだよ。

 

Act.3

 明尾サンを撃退した穂谷サンは部屋で気絶、返り討ちに遭った明尾サンはそこで虫の息。あるいは両方とも死んでたかも知れないね。そこに、今回の事件の本当の犯人が現れるまでは。犯人はその場で弱ってる明尾サンを見て驚いたはずだ、だけど同時に殺害も思い付いた。そしてすぐに、それを実行したんだ。きっと頭を打った明尾サンに抵抗することなんてできなかったよ。

 

Act.4

 その後に犯人は、明尾サンの死体を彼女の部屋に運んで、輸血パックの血を使って部屋と廊下を荒らすことで現場の偽装をした。次に、明尾サンが使う予定だった脱衣所の隠し扉を利用して、血のついた手袋とタオルを女子脱衣所に、凶器のハンマーを男子脱衣所に隠し、男子脱衣所のロッカーの鍵を穂谷サンの部屋に隠したんだ。

 

Act.5

 仕上げに、適当な時間に慌てた様子でみんなを起こして回れば、明尾サンの死体の第一発見者を装うことができる。みんなの前で穂谷サンを心配する様子を見せれば、事件とは無関係な人間だと印象づけることもできる。こうして犯人は、突発的で単純な殺人を複雑に見せかけたんだ。シンプルなタネを派手な演出で飾るようにね。

 

 

 「キミは明尾サンを殺す必要なんかなかった。その場ならまだ手の施しようがあったかも知れないのに、キミは殺害衝動に抗えなかった。とても・・・残念だよ、鳥木平助クン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一通りの推理を聞いても、鳥木はまだ黙ってる。マジで急にどうしたんだこいつ。自分が犯人だって言われてんのに、何のリアクションもない。おかしいだろ。だって、今の推理の中で鳥木が犯人だって証拠なんてなかった。鳥木じゃなくたって誰にだってできる。結果的に鳥木が当てはまりはするが、でもそんなの決定的な証拠じゃない。

 

 「う、うううううう、う、うう・・・・・・ウソだッ!!!!!」

 

 まるで鳥木を代弁するように、穂谷は声をあげた。『女王様』の面影なんてない、ただの金切り声だ。

 

 「ほ、穂谷さん・・・!?」

 「そんな・・・そ、そんなものが・・・!!!証拠になるはずがない・・・!!!お前がでっち上げたんだ!!!」

 「でもこの手袋、鳥木クンが嵌めてたものと一緒だよ?」

 「ウソだウソだウソだウソだウソだあ!!!!手袋を持ってる奴なんて他にもいるはずです!!!明尾さんだって石川さんだって手袋を持ってる!!!その部屋からお前が盗み出したんだ!!!!それは彼の手袋じゃない!!!!」

 「・・・それじゃあ聞こうか。鳥木クン、キミは普段から手袋をしてたはずだ。でもなんで今は外してるの?」

 「えっ・・・!!?」

 「今だけじゃない。穂谷サンを部屋から医務室に運ぶ時、キミは指を怪我してたよね。手袋をつけてたらそんなことにはならないはずだ。どうしてあの時、手袋をしてなかったの?」

 「そ、そういえば・・・」

 

 曽根崎が指摘するまで、まったく気にならなかった。鳥木が手袋をしてるかどうかなんて気にも留めてなかった。当の鳥木は、全員に見やすいようにか、証言台の柵の上に両手を置いてた。指に巻かれた絆創膏が曽根崎の追及からの逃げ道を塞いでる。穂谷はそれを見て、開いた口が塞がらないようだった。

 

 「なるほど。どうやら鳥木平助が犯人で間違いないようだ。手袋を外していたことの合理的な説明ができればあるいは、といったところか」

 「・・・」

 「ど、どうしてなんですか鳥木さん・・・。どうしてそんな・・・明尾さんを、そんな、ひどいこと・・・」

 「・・・」

 「なぜ何も言わないのだ鳥木・・・頼むから、何か言ってくれ。お前が犯人なら・・・そんな意味のない悪足掻きはしないでくれ・・・!!どうしてお前のような奴が、殺人など・・・・・・」

 「・・・・・・哀れなことに」

 

 この中の誰かが犯人、それを承知で臨んだはずだ。なのに鳥木が犯人だってことを、俺はまだ受け入れきれずにいた。こいつが、しかもそんないい加減なやり方で殺人をするなんて。色んなことを考えてると、鳥木はようやく口を開いた。

 

 「哀れなことに、その男は声を失ってしまいました。悲しみに声をあげることも、助けを求めることも、自らの過ちを悔いる言葉を口にすることもできなくなってしまったのです。これは罰です。その男が犯してしまった罪に対する、最初の罰なのです」

 「は、はあ・・・?」

 「どうか皆様のその手で、彼に言葉を取り戻させてください。簡単なことです!ただその男の名を示せばよいのです!!お手元にあるそのスイッチで、彼の名を選択すればよいことなのです!!さあ!!皆様のお力をお貸しくださいませ!!」

 「なに・・・言ってんの・・・?鳥木くん、どうしちゃったのさ・・・?」

 「投票しろって・・・そういうことだよね。鳥木クン」

 「結論の出た裁判は閉められなくてはなりません。振り上げられた裁きの槌は、断罪の音を以て納められるのです」

 

 冷静過ぎる。なんでだよ、このまま投票したら、確実に鳥木は犯人にされる。それが正解か不正解かなんて関係なく、鳥木は処刑されるんだぞ。なのに鳥木はなんでそんな風にいられる?さっきまであんなに黙ってたのに、今度は『Mr.Tricky』みたいな言い回しをしやがる。俺だけじゃない、他の奴らも茫然としてる。どうすればいいのか分からねえ。このまま鳥木が犯人だとしていいのか。でも、さっきの質問は決定的だ。他に犯人だって奴なんか考えられねえ。

 

 「はあ〜〜〜、ボクはこんなやっすいヒューマンドラマを見るために裁判を開いてるわけじゃないんだけどなあ」

 

 そこに口を挟んでくるのが、あの忌々しいモノクマだ。

 

 「じゃあ結論も出たようだから、ちゃちゃっと投票いっちゃおうか?どっちの方ももうこれ以上言うことないみたいだし、もういいよね?いいってことにしちゃうから!」

 「ま、待ちなさい・・・!!まだ・・・!!」

 

 投票に移ろうとするモノクマを、憔悴しきった穂谷が止める。幽霊のように長い髪を揺らして、憎しみのこもった声をぶつける。けどそれは、より大きな絶望の塊には何の意味もなさない。

 

 「それではオマエラ!!お手元のスイッチで、犯人と疑わしき人に投票してください!!」

 「やめなさい!!!違います!!!彼は犯人じゃない!!!私が・・・私が明尾さんを殺したんです!!!私が・・・!!!」

 「投票の結果、クロとなるのは誰か!!果たしてその答えは正解か、不正解なのか〜〜〜?どっちなんでしょーね?うぷぷぷぷ!!ほんじゃま、いってみましょーか!!みんなで元気に、レッツとーひょー!」

 

 モノクマの笑い声に穂谷の叫び声。裁判場はそれを必要以上に響かせて、俺たちの耳にまとわりつく不協和音を生み出す。結局、そんな土壇場で結論を変えるなんてことできるわけがない。すべてに納得したわけじゃねえのに、俺は曽根崎の結論に従わざるを得ない。

 投票のボタンは、思ったよりすんなり押せた。もっと重たかったはずなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コロシアイ合宿生活』

生き残り人数:残り8人

 

  清水翔   六浜童琉   晴柳院命    【明尾奈美】

 

  望月藍  【石川彼方】 曽根崎弥一郎    笹戸優真

 

【有栖川薔薇】 穂谷円加  【飯出条治】 【古部来竜馬】

 

【屋良井照矢】 鳥木平助  【滝山大王】【アンジェリーナ】




この話では四章は終わりません。当たり前ですか?当たり前ですね。それでも、事件の全容が明らかになるのはおしおき編にてです。年内に投稿できるといいな(するとは言ってない)。
皮肉なことに、更新日が明尾の誕生日という。狙ったわけじゃないんです、たまたま今日書き上がったんです。本当なんです
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