ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

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(非)日常編4

 「良い朝だな、晴柳院」

 

 新しくて清々しい陽の光りが植物園に降り注いで気持ちいい。後ろから聞こえてきた声は、優しくしようと気張ってしまってどこか不自然な、そんな六浜さんの声やった。朝いうてもまだ六時くらいで、こんな時間に起きてきて植物園にいる人なんてうちくらいなもんやと思ってたから、声をかけられるなんて思ってなくて、驚いた顔のまま振り向いてしまった。

 

 「ろ、六浜さん・・・おはようございます」

 「お前だったんだな、毎朝ここの花を取り替えてくれていたのは」

 「え」

 

 慰霊檀の前に備えてあるお花を見て、六浜さんは言わはる。手には瑞々しい新鮮なお花を持ってて、所在無さげに頭を垂れる花がしおらしく揺れてます。ついさっきうちが交換したばっかりやから、うちの手には古いお花がありました。

 

 「ああ、このお花ですか。そうですよ。きれいで新鮮なお花にしとかんと、せっかくの供養も台無しになってまいますから」

 「いつ来ても新しい花に替えられているから、お前がやってくれているのだろうと思ってな。先回りしてやろうと思ったが、私もまだまだのようだ。毎朝この時間に来ているのか?」

 「ええ。朝に良いことすると、その日の運びがようなるんです」

 

 古いお花やからってぞんざいにしたらバチが当たります。ゴミ箱なんかに捨てんと、ちゃんとこれも供養したらんと。ここに慰霊壇を建てた日から毎日同じことをしてて、もうすっかり早起きにも慣れました。ここに来てからぐっすり眠れた日なんてないですけど・・・。

 

 「ところで、古い花はどうするのだ?」

 「ほんまやったら御神船に乗せて川に流すんですけど、ここではできひんので向こうの池に沈めてます」

 「あの鯉がいる池か。沈めると言っても花は勝手に沈まないだろう」

 「水を吸うと自然に沈んでくんです。ときどきご飯と間違うて鯉が食べてまいますけど」

 「沈むかどうかは鯉の気分次第というわけか」

 

 慰霊檀も仮。花の供養も仮。こんなところやと、完璧に型に則ったやり方はあんまりでけへんけど、形だけでも寄せれば少しは意味があるんちゃうかと思います。というよりこれは、うちらがそこに意味を感じんことには始まらんのやから、意味があると思いこまなあかん。亡くなった人はもうしゃべられへんけど、一緒に過ごした思い出ならうちらが持ってますから。安心して成仏してください。そう思い続けることしか、うちにはできないんです。

 

 「それにしても、どれだけ鬱屈した時でもこうした作法に頼るというのは・・・“超高校級の陰陽師”ゆえというか、ある意味でお前もかなりマイペースと言えるな」

 「ほえ?」

 「一つ一つの所作が丁寧で指先まで無意識に意識されている。さすがは晴柳院家の令嬢だ」

 

 令嬢、なんて風に言われるんは好きやない。晴柳院の名前に不満があるわけでも、悪いことを言われてるわけでもないけど、なんだかうちがうちじゃなくなるような・・・そんな不安な気持ちになるんです。

 うちの気持ちもそうですけど、でもこの話をしたのは元から知ってはった穂谷さんと、それから明尾さんと笹戸さんの三人だけ。なんで六浜さんがそのことを知ってはるんやろ・・・。

 

 「え・・・せ、晴柳院家のって・・・う、うち六浜さんにそんな話・・・」

 「なに、思い出しただけだ。晴柳院という名は学園でも有名だからな。お前の祖父にあたる晴柳院義虎も、父である晴柳院龍臣も、希望ヶ峰学園の卒業生だ。私が歴代卒業生の顔と名前くらい覚えていないと思ったか?特に晴柳院義虎に関しては今でもなお、学園に少なからぬ影響力を持っているという噂だ。印象に残る」

 

 六浜さんが急にうちの家系の話なんてしはるから、うっかり持ってた花を落としてまいそうになった。思い出したって、六浜さんが思い出したのは生徒会に関係する記憶だけやったんとちゃうんやろか。それに今になってこんなことを言い出すなんて、一体何を言われるんやろ。うちのお爺様とお父様の名前も言い当てはったし、二人が学園の卒業生ってことも・・・。

 

 「お前はまだ思い出していないだろうが、私は学園で、一度ここの全員に会っている。その時に学園から一通りのことを知らされてな。お前の家柄のこともだ。あの『日青会』のトップの孫とは、私も驚いたぞ」

 「あ、あんまり知られたないんです・・・そのこと。うちが義虎爺様の孫やって知られると・・・みんなうちのことをヘンな風に見るようになるから・・・」

 「安心しろ。言いふらしたりはせん。もっとも、清水も望月もそうした話には興味はなさそうだし、穂谷と曽根崎はもう知っているようだ。笹戸には自ら話したのだろう?」

 「・・・な、なんでそこまで分かるんですかぁ?」

 「これでも“超高校級の予言者”だ」

 

 なんだか納得できるようなできひんような答えやなあ・・・。でも、確かに穂谷さんには直接言われたし、曽根崎さんやったら最初からなんでも知ってそうや。うちの名前を聞いて義虎爺様、それに『日青会』を連想しててもおかしない。それでもうちに普通に接してくれてはるんは、曽根崎さんが優しいからですね。あんまり大っぴらにされたないんですが、曽根崎さんはきっとそんなことしてません・・・はずです。

 

 「でも、なんで急にそんな話をしはるんですか?」

 「我ながら、記憶という領域に関して私は恵まれていると思う。実際にモノクマに封印されていた記憶は生徒会に関するものだったが、それと関連する記憶の情報量が膨大でな。連鎖的に色々と思い出したのだ」

 「・・・それって、六浜さんがただ忘れてはったことなんじゃ」

 「忘れさせられていた、もしくは思い出せなくされていたと言ってくれ」

 

 あんまり違いがよう分からんけど、六浜さんは頭が良いですから、きっと一個のことを思い出しただけでたくさんのことが分かったってことでしょう。

 

 「その中の一つで、ある噂を思い出したのだ。晴柳院家が中心となっている宗教団体『日青会』と、希望ヶ峰学園との妙な関係の噂をな」

 「妙な噂・・・?な、なんでしょう?うちのことやないですよね・・・?」

 「何か心当たりがあるのか?」

 「い、いや・・・その、『日青会』と学園の繋がりなんて、今やったらうちが学園にいることくらいやろなあって・・・思って・・・」

 「さっきも言ったが、晴柳院義虎は学園に強い影響力を持っている。それは、学園の一部に太いパイプを持っているから、という噂だ。お前がそのパイプであるというのは・・・否定はできん、という程度のものだな」

 

 そんな噂ありましたっけ?思い出してないだけで、うちも知ってるのかも知れへんけど、自分の家に関する記憶を封印されるんもよう分からん。確か、前に明尾さんも同じようなこと言うてはったような気がしますし、明尾さんや六浜さんが知ってはるのに、晴柳院家の人間のうちが知らん噂っていうのもヘンな話やけど、そういうもんなんやろか。

 

 「晴柳院家は名門と呼ばれる家柄の一つだ。希望ヶ峰学園に多少なり関係が生まれるのはなんら不自然ではないが、そんな家柄は他にもある。なぜ晴柳院家だけがそんな噂がたつほど深い関わりを持っているのか、それが疑問だ。そこで、お前は何か知らないか聞こうと思ったのだ」

 「うう・・・そ、そんなん言われましても・・・。うちは晴柳院家の人間ですけど、『日青会』にはなんも関わってませんから・・・」

 「そうなのか?『日青会』の幹部役職はだいたい晴柳院家、またはその分家で構成されていたはずだが」

 「組織の運営とか管理とか難しいことはお父様が中心にしはって、会員の方の前で話すんはお爺様のお務めです。あとは叔父様や従兄弟やお母様が・・・うちは、学園を卒業してからお手伝いをする予定やったんです」

 「まあ・・・“超高校級”とはいえまだ高校生、卒業をもって認められるのは当然か。では学園にいた頃には何かなかったか?例えば・・・『日青会』の会員に話しかけられたとか、二次団体、三次団体の噂などなにかないか」

 

 うちの家柄が大きいことは重々承知です。せやから穂谷さんにあんなことを言われたり、ヘンな噂がたったりしてる。うちがまだまだ未熟なんも分かってますし、学園に会員の方のお子さんが通われることもそう珍しいことやないです。

 分からへんのは、六浜さんがなんでこんなに詳しく聞いてくるのかや。

 

 「あ、あのう・・・質問に質問で返すのも気が引けるんですけど・・・なんでそんなに聞かはるんです?」

 

 六浜さんがこうして質問する時は、何かを考えててその答えを導くのに必要やから聞いてはるんや。でも、そのために晴柳院家と希望ヶ峰学園の関係を明らかにせなあかんことって、なんやろう。ほんまにうちは心当たりないし、それが今、六浜さんのするべきことやとも思えない。

 

 「・・・済まん、気を悪くさせたな。気になっただけだ」

 「あっ、あっ、べ、別にそんな・・・!う、うちもただ・・・気になっただけですんで・・・」

 「しかし今のお前が何も知らないということが分かった。それだけでも十分な収穫だ。邪魔をしたな」

 

 ちょっと気になったからって口にしても、いらん気を遣わせてまうだけやなあ。でも六浜さんは満足したように、って言うより満足したと自分で決めたように頷いてから、植物園の出入り口の方に向かって行かはった。まだ朝ご飯の時間にも少し早いのに。

 

 「え?どちらへ行かはるんですか?」

 「なに、ただの調べ物だ。心配するな」

 

 また、つい気になったから言うてもうた。六浜さんはうちの質問に振り返って、軽く笑った。今まで話してたこととか、穂谷さんや笹戸さんのこととか、この場所から出る方法とか、色々悩んではるはずやのに、なんでかその表情は軽やかで、無理してるようにしか見えんかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドアを三回ほど、一定の間隔で叩く。無機質な私が発した無機質な音は、角ばった廊下に反響して私の耳に戻ってくる。程なくしてドアは開き、覗いた緑色は私の顔を見て少しだけ表情が変わった。それがどのような変化なのかを知ることは、私には不可能だった。

 

 「珍しいね、望月サンがボクのとこに来るなんて」

 「5冊目のファイルを読みにきた。貸してほしい」

 

 用件だけを伝えると、曽根崎弥一郎はまた表情が変わった。目が少し広がり、すぐに元に戻り、意味のない笑顔になった。なぜ笑うのか理解できないが、曽根崎弥一郎はこの表情でいるのが基本だ。

 

 「え〜っと・・・なに?いま会話を拒絶されたような気がしたんだけど」

 「資料館に隠されていた動機となるファイルの5冊目を借りにきた。お前が持っているのだろう?」

 「いろいろ突っ込みどころ多過ぎるんだけど・・・。取りあえず、中入って座る?立ち話もなんだしさ」

 

 曽根崎弥一郎はそう言って私を部屋の中へ促した。安易に隙をみせるのは危険だが、自室で殺人を犯すリスクを理解しないほど曽根崎弥一郎は無考えではないと推察される。ひとまず中に入り、勧められるまま椅子にかけた。

 

 「コーヒー飲む?アニーサンほど美味しく淹れられないけど」

 「手短に済ませたい。ファイルはどこにある?」

 「・・・あのね、望月サン。なんでボクが資料館にあるはずのファイルを持ってると思ってるわけ?ヘンな電波受信しちゃった?」

 「ファイルを最初に発見したのはお前だ。持ち出す機会は他の者より圧倒的に多い」

 「いやそうだけど・・・清水クンかも知れないじゃん」

 「私の知る清水翔はそれほど器用な人間ではないが」

 「そうだね。でも六浜サンや穂谷サン、笹戸クンも晴柳院サンもいるじゃないか」

 「可能性はあるが、お前がそれに気付かないとは考えられない。“超高校級の広報委員”の眼を誤魔化す者がいたと思うのか?」

 「そう言われちゃうとなあ・・・ボクにもプライドあるし」

 「仮に気付いていて敢えて見逃したとしても、その理由が理解できない。考えられるとすれば、お前も同様に何かを隠していたため、他者を追及できなかったということだ」

 「逃げる気のない逃げ道を潰された!どっちにしろボクが疑われるわけだね。なるほど」

 

 なるほど、と口にしてはいるが、その態度は未だ認めようとしない考えが滲み出ている。何かを食い止めようと必死に取り繕う人間というのは、何度見ても面白みのないものだ。

 

 「でもなんでファイルを持ってると思うのさ。もしかしたらトイレに行きたかったのかも知れないし、気まぐれで思わせぶりな風にしてたのかもよ?ボクはさながら風のように気ままだからね〜」

 「収納されていたファイルを全て読んだが、私の記憶は戻らなかった。そして棚に戻した際に不自然に広い隙間ができていた。その時点で少なくとも一冊ファイルがなくなったことは明白だ」

 「読み落としてたんじゃないの?だいたい5冊目のファイルなんてあったかな?元から4冊じゃなかった?」

 「不毛だ」

 

 往生際が悪いとはこのことだ。ここまで言えば認める他にないと思うのだが、曽根崎弥一郎はまだ認めない。持ち去ったことを指摘すればすんなり渡すかと思っていたが、思いの外意思は固いようだ。

 

 「長い間放置されていたファイルの背表紙には、埃が付着し、また多少の変色も見られた。しかし壁や隣り合うファイルと密着していたそれぞれの表紙、裏表紙は背表紙よりもその劣化は軽度だ。4冊目のファイルも同様に、裏表紙の劣化はそれほど進行していなかった。壁に密着せず空気に晒されていたにもかかわらずだ。故にここにもう一冊ファイルがあると推測することができる。一目瞭然だろう」

 「その恐ろしいほど細かいことに気付く観察眼があればね。参ったなあ・・・」

 

 眉尻を下げて、曽根崎弥一郎は頭をかいた。降参ということだろうか。これでまだ納得しなければ、この部屋を徹底的に捜索する強硬手段に出ざるを得ないのだが、できればそんな非生産的なことはしたくない。果たして曽根崎弥一郎は認めるだろうか。

 

 「六浜サンだけ警戒してたけど、望月サンの執念がここまでとはね。そんなに自分の記憶に興味ある?」

 「興味ではない。本来知っているべきことを知らずにいるのは不合理だ。故に再び知る必要がある」

 「動機ってことは関係ないわけね。望月サンのそういう、ウソつかないとこはボク好きだよ」

 「軽薄な言葉だ」

 「あはは・・・まあ正解。確かにあそこからファイルを持って行ったのはボクだよ。ファイル5はボクが持ってる。だけど渡すわけにはいかないなあ」

 

 ウソを吐く理由など私はこれまで考えたことがない。事実と異なることを事実として認識する理由が分からないし、他人にそれを強いる意味もない。不合理で、不条理で、全くもって無意味だ。その点では私と曽根崎弥一郎はどうやら共通しているようだが、なぜこんなにも曽根崎弥一郎の考えが分からないのだろう?

 

 「前の4冊にないなら、望月サンの記憶のパスワードは確かにここにあるんだろうね。でもだからって・・・なおさら、見せるわけにはいかない。どんな記憶か知らないけど、それは絶対にキミを不幸にする」

 「・・・なぜ言い切れる?」

 「1冊目は“超高校級の絶望”、2冊目は“絶望”が関わる事件、3冊目は未来機関の歴史、4冊目は希望ヶ峰学園の内情。どれもこれも希望ヶ峰学園と“超高校級の絶望”の戦いの歴史だ。しかもどんどん深い部分に入り込んでる。つまり5冊目のファイルに書かれてることは、この希望と絶望の戦いの最深部なんだ。それを読むことが何を意味するか分かる?」

 

 私もファイルには全て目を通したから、それくらいのことは理解している。江ノ島盾子を筆頭とする“超高校級の絶望”、私たちが現在置かれている状況に酷似したコロシアイ生活、“超高校級の絶望”に抵抗し現在の希望ヶ峰学園を設立・運営している未来機関、その希望ヶ峰学園内に存在するいくつかの組織。ファイルはそれらに関するレポートだ。全て読んだ。

 最後に何が載っているかは不明だが、おそらく曽根崎弥一郎の言うように、このレポートが書かれた核の部分があるのだろう。歴史を3冊目までで歴史を解説し、4冊目で現在の状況を説明。ならば5冊目では未来の話だろうか。

 

 「まだ間に合う。この問題はキミが・・・キミたちが関わるには闇が大き過ぎるんだよ。記憶なんて諦めた方がいい。言い訳で言ってるんじゃない、警告してるんだ」

 「お前は関わっているというのか?」

 「・・・まあ、ね」

 「私の記憶がそこにあることは、私はその件に関わっているという証明になる。私も関係者だ」

 「失った今なら引き返せるって意味でもあるでしょ。知らない方がいいことだってある」

 

 先程までとは語調が異なる。逃げ道を探しているというより、私を食い止めているようだ。よほどな内容ということか。一体何が書かれている?希望と絶望の戦いの最深部とはなんだ?

 

 「もし思い出しちゃったらお互いのためにならない。このままでいいんだ」

 「どうしても見せないのか」

 「そうだね」

 「・・・どうやら諦めざるを得ないようだ。今日のところは、な」

 

 これ以上は本当に無意味だ。そう判断し、今日のところは断念することにした。ファイルの在り処が分からないのでは自力で見つけるか白状させるしかないが、どちらもできそうにない。曽根崎弥一郎の顔が少し晴れた。

 

 「では代わりに一つだけ答えろ」

 「いいけど、ファイルの場所は言わないよ」

 

 部屋から出る前に、何か収穫をしてでなければ帰れないと、一つだけ尋ねてみることにした。ウソを吐かない曽根崎弥一郎ならば、正直に答えるだろう。

 

 「曽根崎弥一郎、お前の記憶はどこにあった?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっと前までだったら、こんなこと考えられなかった。たぶんこの先も二度とないんだろうけど、でも今はできてる。ダメ元で誘ってみてよかった。僕一人じゃどうにもできなかったから。

 

 「どうすんだよこれ・・・」

 「捨てちゃうとモノクマに怒られるから・・・なんとかしないとね」

 

 テーブルに山積みになったモノモノマシーンのカプセル。大量に手に入ったメダルを全部使ってみたらこんな量になっちゃった。イイものが出る気がして回してみたんだけど、そうでもなかったみたい。

 

 「ぬいぐるみだ、置物だ、よく分かんねえマロンだかロマンだかだ・・・マジでお前ふざけんなよ。捨てろよ」

 「捨てたらモノクマに嫌がらせされそうじゃん。何個か引き取ってよ、お願い」

 「ったく、こんなことしてる場合じゃねえだろうが」

 

 そう言って清水くんは、カプセルを一つポケットに入れた。もうちょっと引き取って欲しいなあ、って言ったら睨まれたけど、渋々な感じでまた一つ入れた。なんだかんだで優しくしてくれるから、思わず笑ったら、また睨まれた。

 なんで資料館でこんなことをしてるかと言うと、手入れした『渦潮』の具合を確かめるために釣りをしてたら、釣り上げたヘンなものからモノクマメダルがいっぱい出てきたからなんだよね。幸運なんだか不運なんだか分かんないけど、きっと幸運だと思う。

 

 「だいたいなんでこのタイミングで釣りなんかしてんだよ。お前さっさとむつ浜んとこ行って仲直りしてこい」

 「え?むつ・・・六浜さん?」

 「『裏切り者』だなんだ言われて、あいつだって滅入るだろうが。お前らギクシャクしてたら飯が不味いだろ」

 

 そんなどストレートにそんなことを言われるなんて思ってもみなかった。しかも、ご飯がどうとか言ってるけど、清水くんが僕と六浜さんのことを心配してくれるなんて。やっぱり、清水くんは変わった。

 

 「でも彼女は『裏切り者』だったんだよ?それって、僕らを騙してたってことになるんじゃないの?」

 「本人は覚えてなかったっつってた。記憶力に自信あるクセにそんなこと言うって・・・よっぽどガチってことじゃねえか?」

 「・・・口だけならなんとでも言える。そんな言葉で帰ってこないんだ。明尾さんと鳥木くんは」

 「卑怯もんが」

 

 モノクマのことだから、本当に六浜さんが『裏切り者』としての記憶を失くしてたこともあり得る。でも彼女だって“超高校級の予言者”なら、自分のことを推理することだってできたはずだ。それをしなかったのは彼女の怠慢・・・いや、やっぱり分かっててしなかったんだ。『裏切り者』の追及を避けてたのも、自分で自分を追い詰めることになるから。だとしたら六浜さんは、誰かが事件を起こすまで明かすつもりはなかったんじゃないのかな?だから裁判が終わった後になってモノクマが六浜さんを名指しした、いや、六浜さんが名指しさせたんだ。

 

 「じゃあ、清水くんはどう思うの?六浜さんが『裏切り者』だってこと。記憶が戻ったかなんていうのも、全部六浜さん本人にしか分からないことなんだよ?そんな言葉を簡単に信じちゃっていいの?」

 「別に、なんとも思わん」

 

 一蹴された。しかも結構食い気味に。なんで?僕がこんなに悩んでるのに、どうして清水くんはそんな一瞬で答えが出せるの?『裏切り者』がいたことにも、そのせいで明尾さんと鳥木くんが死ぬ羽目になったことにも、なんとも思わないの?

 怒るなんてこと、僕にはできない。きっと支離滅裂になっちゃう。だから流れ出そうな言葉の波を押さえ込んで、必死に意味を込めた一言を言うのが精一杯だった。

 

 「・・・なんでさ」

 「なんでって・・・ぁあ、そうだな。まああれだ。今から言うことは全部、クズがクズらしく偉そうにほざいてるだけだと思え」

 「?」

 

 絞り出した僕の言葉に対して、清水くんは詰まりの悪そうな言い方で返した。クズがクズらしくって、清水くんは他人への評価はいいのに自己評価がすこぶる悪い。謙虚なんじゃない、別の理由なんだろうなあ。

 

 「まず死んだ奴はどうしたって生き返らない。だったらそんなもんさっさと忘れちまえばいい。次に俺らはこのまま死ぬかも知れねえがそんなのは御免だ。だから死なねえ方法をまず考えるべきだ。できればクソクマ野郎に一泡吹かせてな。そんでクソクマに対抗するには俺ら全員が同じ方を向くのが都合いい。単純に数が多けりゃ強くなる。自分の死ぬ確率も減る。だから・・・過ぎたことねちねち言ってねえで仲直りしてこいっつうんだよ」

 「・・・」

 

 それだけ言って、清水くんはそっぽを向いた。肘掛に肘をついて、脚を組みながら背もたれに肩をよりかけたまま、癖っ毛をゆらゆらさせている。それは機嫌が悪いんじゃなくて、どう見ても僕のことを直視できないって姿勢だ。説教したのが恥ずかしいのか、それとも本当に自信がないのか。でも。

 

 「分かってるよ・・・そんなこと」

 「だろうな。当たり前のことしか言ってねえ」

 「もう誰も帰ってこない・・・一度消えた命は二度と戻ってこない!だから大切なんじゃないか!それをもてあそぶモノクマは絶対に許せない!!『裏切り者』なんかよりずっと許せない!!六浜さんに責任があろうとなかろうと、元凶は間違いなくモノクマなんだ!!六浜さんばっかり責めるのは間違ってる、そんなこと分かってるよ!!」

 「でけえ声出すなよ・・・」

 

 モノクマを責めたって何も変わらないし、到底かないっこない。だから無意識のうちに六浜さんに逃げてるんだ。どれだけ力を使っても倒せない巨木から、少し頑張れば折れてしまいそうな枝に。でもそれは巨木にとって大した意味なんかない。それどころかその枝は巨木の枝ですらない。僕はずっと、的外れなことに躍起になってたんだ。そんなこと、最初から分かってた。

 

 「もう限界なんだよ・・・信じるのも、裏切られるのも、諦めないのも、助けを求めるのも・・・全部疲れたよ・・・」

 「そりゃいい。俺もお前に頼られてちゃしんどい」

 「何を信じていいか分かんないんだよ・・・。六浜さんみたいに、また裏切られたらって思うと・・・。今度こそ僕はもう耐えられないかも知れない」

 「・・・耐えるって、何をだ?」

 「え?」

 

 何も分からなくなる。ここに来た日からずっと、誰かが消えていくたびにずっと、僕は耐えてきた。どんなに辛くても、苦しくても、悲しくても、絶望に負けちゃいけない。希望を失っちゃいけないって。無意識に戦ってきたんだ。それが間違ってるなんて思わない、むしろ正しいことだと思ってた。でもだからこそ、僕はもう限界なんだ。これ以上は戦えないかも知れない。また誰かに裏切られたら、今度こそおしまいかも知れない。そう思うと、何もできなくなるんだ。

 

 「何をって、今までの絶望に決まってるでしょ。ここに閉じ込められて、コロシアイをさせられて、犯人探しなんかさせられて、最後はその人も処刑されて、それを繰り返して・・・」

 「それをお前、耐えてたのか?」

 「だって、そうしなきゃモノクマの振りまく絶望に侵されちゃうから・・・」

 「で、自分の中でぐちゃぐちゃになって、むつ浜に八つ当たりか。明尾と鳥木まで持ち出して」

 「っ!そ、それは・・・!」

 

 八つ当たり・・・になるのかな。確かに清水くんの言う通り、僕は今まで耐えてきたことで胸にもやもやがあったのは確かだ。それが、六浜さんが一番分かりやすい形で立場が違うと分かった途端に溢れ出した・・・。これが八つ当たりじゃないんだとしたら、他になんて言えばいいんだろう。

 

 「お前はバカか。なに勝手に限界迎えてんだよ」

 「勝手にって・・・それは僕の感覚の問題だから・・・」

 「ちげえだろ。お前が一人で悩んで、誰にも相談しねえから、爆発した時に周りが意味がわからねえんだよ。もっと分かりやすく悩めっつってんだ」

 「分かりやすく・・・?」

 「なにをカッコつけてんのか遠慮してんのか知らねえがな、俺に言わせりゃ全部くだらねえ。ムカついたらキレて、苦しかったら喚き散らして、辛かったら文句ぶちまけて、それでいいだろ。思った通りにすりゃいいし、やりたいようにやれよ。耐えてりゃ解決すると思ってんのか?バカが」

 

 一瞬たりとも目を合わせないまま、だらけきった姿勢のまま、清水くんは不平不満を言うように、僕に言った。それなのに、説得力があった。清水くんはいつでも感情をさらけ出してきた。怒ったり、イライラしたり、怒鳴ったり、暴力を振るったり・・・あんまり違いはないけど、それでも感情を抑え込むなんてことをしてる風には見えなかった。それでも、彼は絶望してるだろうか。希望を失くしてしまっているだろうか。

 

 「僕は、いまさらなれるのかな?」

 「あ?」

 「清水くんみたいに、なれるかな・・・?」

 「俺・・・?なんで俺になるんだよ。お前はお前が感じたようにすりゃいいだろ。それで文句言う奴ぁいねえよ」

 「・・・そっか。そうなんだ」

 

 感じたように、やりたいように、思ったこと、か。簡単だね。すごく。こんな簡単なことに気付けなかった僕は、清水くんの言う通りバカなのかな。じゃあ、バカはバカなりに頑張んないと。

 

 「うん、よかったよ」

 「なにが」

 「清水くんと話せてさ」

 「つまんねえ冗談だな。俺にボロカス言われてよかったのか?」

 「まだ気持ちの整理つけるのは時間がかかるけど、なんか吹っ切れたよ。ありがとう」

 「・・・何の礼なんだよ」

 

 姿勢が悪いから、清水くんはもぞもぞと動いてさっきよりももっとそっぽを向いた。感情はむき出しなのに、素直じゃないんだから。だから曽根崎くんにイジられるのに、気付いてないのかな。

 そんなことはもういいや。僕も僕のやりたいことをしなくちゃ。だけどその前に、清水くんに一番大事なことを聞かないと。

 

 「清水くん、一つ聞いてもいい?」

 「ダメだっつってもきくだろ」

 「うん。僕は僕のしたいことをするからね」

 「なんだ」

 

 気怠げなままの清水くんは、目だけでちらりと僕を見た。その一瞬を逃さず、目と目が合ったと同時に僕は尋ねた。

 

 「清水くん、キミは希望を信じる?」

 「はあ?・・・なんだそりゃ。お前、まだ俺が“絶望”のなんかだと思ってんのか?」

 「答えてよ」

 

 清水くんがあんなのの仲間だとは思わない。でも本人も接触があったことは認めてる。だから確かめるんだ。清水くんはどっち側なのか。

 僕の質問に少し戸惑いながらも、ちょっと考えてから清水くんは答えた。

 

 「希望は怠い、絶望はキモい。俺は俺自身に失望しきったんだ」

 「・・・」

 

 その時だけは、清水くんは目を逸らさなかった。冗談やカッコつけで言ってるわけじゃない。本心だ。それだけははっきり分かった。それだけが分かれば十分だ。

 

 「そっか。じゃあね」

 

 清水くんにそれだけ言って、僕は資料館を後にした。持ってきたカプセルの山も、少しだけ軽くなってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コロシアイ合宿生活』

生き残り人数:残り7人

 

  清水翔   六浜童琉   晴柳院命    【明尾奈美】

 

  望月藍  【石川彼方】 曽根崎弥一郎    笹戸優真

 

【有栖川薔薇】 穂谷円加  【飯出条治】 【古部来竜馬】

 

【屋良井照矢】【鳥木平助】 【滝山大王】【アンジェリーナ】




ラストに向けて突っ走っていると、他のオチが閃きます。そのオチをしたいがために二作目、三作目をぼんやりと考えている次第です。書くとは言ってない書くとは
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