ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

48 / 82
学級裁判編1

 

 またこのエレベーターは広くなった。乗るたびに少しずつ人は減っていき、間を埋めるように沈黙は重く、固くなる。集まった証拠はわずか。分かってることは、ほとんど何も分かってないってことだけだ。そんな中で命懸けの学級裁判に挑まなきゃならねえ。これを絶望と言わず、なんて言うんだ。

 エレベーターはまだ止まらない。深い深い闇の底へ俺たちを引き摺り下ろす。このまま地獄の底まで行くんじゃねえかと不安になるくらいに。だがそんな時間さえも、唐突に終わる。

 

 「さあさあ!5回目の学級裁判だよ!うぷぷぷぷ!!もうすっかり遺影ばっかりになっちゃったけど、めげずに頑張りましょう!!クロはクロのために!自分は自分のために!!誰も信じられない絶望の時間の始まりだよ!!」

 「あらモノクマさん、この遺影はどういうつもりですか?鳥木君の証言台になぜこんなものを・・・立てているのですか!!」

 「穂谷・・・!」

 「うわーーーっ!?何してんの!?折角ボクが仲間はずれを作らないために気を利かせたのに!?」

 

 裁判場は、またいつもと違った趣向で造られてた。壁一面に広がるのは、睨み合う風神と雷神、互いを仕留めんと牙を剥く龍と虎、仁王に閻魔大王に名前も分からねえバケモン・・・ずいぶんとやくざなデザインだ。

 それらには目もくれず、穂谷は裁判場に降り立つと真っ先に鳥木の証言台に近寄って、そこにあった遺影を放り捨てた。モノクマは大慌てだが、俺らは誰一人声をあげない。もう見てられねえんだよ。

 

 「縁起でもない、趣味の悪い冗談です」

 「こっちのセリフだよ!お前こそそろそろ目ェ覚ませっつーの!いつもは面白いから放っとくけど、学級裁判の妨害は規則違反なんだぞ!!」

 「遺影が倒れただけだ。裁判を行う上で問題はないだろう」

 「そもそも遺影があること自体おかしいのです。遺影とは故人のためのものではありせんか」

 「はあ・・・見苦しいよ、穂谷サン。辛いのは分かるけど、受け入れて欲しいな」

 

 血の色でバツ印が付けられた遺影が、また二つ増えてた。鳥木も笹戸も死んだ。穂谷は鳥木の死を未だに受け入れようとせずに喚くが、これ以上はモノクマに殺されそうだ。結局、鳥木の遺影は立てたまま、穂谷はぶつぶつうわ言を言いながら証言台に立った。俺たちもそれぞれの場所に立つ。

 

 「さあ、ここが正念場だよオマエラ!覚えてることを全て活用して頑張ってね!うぷぷぷぷ!まだ何も思い出してない人もいるっぽいけど!」

 「じゃあ、始めようか。学級裁判」

 

 曽根崎の一言で、一瞬にして俺たちに緊張が走る。生きるか死ぬか、殺すか殺されるか、そんな命のやり取りがまた始まる。この裁判が終わった後、ここに立ってるのはクロの一人か、それとも俺たちクロ以外か。誰も抗えない学級裁判の幕が、再び上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コトダマ一覧

【モノクマファイル6)

場所:なし

詳細:被害者は“超高校級の釣り人”、笹戸優真。死因は焼死。死体発見場所は植物園内の栽培室。死亡推定時刻は七時五分ごろ。全身の火傷の他に細かな切り傷や打撲痕が多数みられる。薬品を服用した痕跡はなく内部の損傷も少ないが、毒物を摂取した形跡がある。

 

【笹戸の死体)

全身を火傷に覆われていて、見た目では誰だか分からないほどの有様だった。壁にもたれる姿勢で、倒れた棚やガラスケースの下敷きになっていたらしい。

 

【スピーカー)

場所:植物園

詳細:植物園の天井に設置されている。音量は倉庫内の機械で調節することができる。

 

【晴柳院の証言)

場所:なし

詳細:早朝、植物園のスピーカーから突然の爆音が響いてきたという。倉庫で音量のツマミを下げた後に、火事に気付いた。

 

【磁石)

場所:植物園

詳細:植物園の西側出入り口のドアに貼り付けられていた、強い磁力を持つ磁石。

 

【草むらの跡)

場所:植物園

詳細:西側入口付近の草むらに、何かを引きずったような跡が残っていた。

 

【倉庫の備品リスト)

場所:園芸倉庫

詳細:備品リストと実際の倉庫とでは、殺虫剤の個数が合わなかった。

 

【キノコ)

場所:栽培室

詳細:笹戸の死体のそばに転がっていた、千切られたキノコ。焼け焦げているが、食欲はそそられない。

 

【正体不明の物体)

場所:栽培室

詳細:二本のコードが伸びた謎の物体。真っ黒になった上に溶けたプラスチックを被っていて正体が分からない。

 

【溶けたプラスチック)

場所:栽培室

詳細:正体不明の物体に被さっているどろどろのプラスチック。原型を留めていないため、元が何なのかは分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【学級裁判 開廷!】

 

 「まずは、学級裁判の簡単な説明から始めましょう。学級裁判の結果は、オマエラの投票により決定されます。正しいクロを指摘できればクロだけがおしおき。でも、もし間違った人物をクロとしてしまった場合は・・・クロ以外の全員がおしおきされ、生き残ったクロだけに、希望ヶ峰学園に帰る権利が与えられます!」

 「被害者は、言うまでもなく笹戸優真だ。植物園内の栽培室の火災で死亡。焼死だ」

 「死体も現場も証拠も、なにもかも燃えちゃって手掛かりはいつもよりかなり少ないね。だからみんなで頭を振り絞って、発想と推理で頑張るしかないね」

 「私は、改めて事件発生から死体発見までの経緯を確認することが必要であると考える。すでに未確認で進行形のものもある」

 「その話だったら、チビから聞いた方が早そうだな」

 「ふえっ・・・!?は、はい・・・」

 

 裁判が始まってすぐに、改めて晴柳院の口から事件発覚までの流れが語られる。俺と望月、そして穂谷は発見者じゃない上に、火事そのものだって目にしてない。もしかしたらまだ俺らの知らない情報が出てくるかも知れねえから、そこは今一度確認しとくべきだ。

 

 「う、うちは・・・朝起きて、いつも通り慰霊壇のお花を取り替えるために植物園に行きましたぁ」

 「いつも通り?毎朝植物園に行っていたというのですか?」

 「それは私が保証しよう。晴柳院は毎朝、誰よりも早く健気に弔いを続けていたのだ。まったく頭が上がらん」

 「そないに大層なことでは・・・」

 「んなことどうでもいいだろ、続きを話せ」

 

 ちょっと放置するとすぐ話が横道に逸れる。呑気なのかなんなのか、そんな時間はねえんだよ。晴柳院が朝に植物園に行ってることはほとんどの奴が知ってることだ。

 

 「それで・・・今朝も同じようにお花を交換しよう思うて、植物園に行ったんです。その時はなんもおかしいことはなかったです。煙があがってたら、さすがにすぐ気付きますし」

 「ということは、その時点で火災は起きてなかった。笹戸クンも生きてたかも知れないってわけだね」

 「それでその後・・・いつも通り慰霊壇の前のお花を交換して、それから古いお花をお供養しよう思うて、鯉のいる池に行こうとしたんです。そしたら・・・と、突然その・・・音楽が鳴りまして・・・」

 「音楽?そういえば、植物園には定期的に音楽が流れる仕掛けがしてあったな。それのことか?」

 「物凄く大きな音やったから、なんのことや分からなかったんですけど・・・たぶんそうやと思います。あんまりにもうるさかったから、倉庫に音を消しに行きました。音を消してから・・・栽培室が燃えてることに気付いたんです。そ、その後は・・・・・・あんまり覚えてなくて」

 

 そこまで思い出して話してから、晴柳院は頭を抱えた。目の前であの小屋が燃えてるなんて、そりゃチビじゃなくたってパニックにもなる。しかし第一発見者の晴柳院がその調子じゃあ、その後に六浜が植物園に着くまでの間は何も分からねえ。

 

 「急に終わってしまうのですね。随分と無責任な証言ですこと」

 「えっ・・・」

 「そもそも音楽が鳴ったことなど、貴女以外には確認のしようがないではありませんか。嘘にしても意味が分かりませんが・・・貴女が犯人でない保証がない以上、その言葉は信じるに値しませんね」

 「ウソって・・・う、うちはほんまのことしか言うてません!ほんまに音楽が・・・大音量で・・・!」

 「では他にその音を聴いた方がいるのですか?」

 「そ、それは・・・」

 

 まだチビの話を整理してる段階だってのに、穂谷がいきなり核心を突きやがった。確かにチビが本当のことを言ってる保証はねえし、それを証明する証拠もねえ。もしこいつが犯人だったら、俺たちなんかいくらでも騙される。虫も殺せなさそうな奴だが、腹の底で何考えてるかまでは分からねえってのはイヤになるほど思い知ってきた。

 

 「第一発見者が真犯人。ミステリーでは古典的な手法ではありますが、実際にはかなり有効な手ではありませんか?被害者が笹戸君であったことも、彼女の犯行の裏付けになります!」

 「なにそれ?どういうこと?」

 「聞きたいですか?聞きたいですよね?ではお話ししましょう。ですが聞くからには、一言たりとも聞き逃すことは許しませんよ!」

 

 心底めんどくせえ。だがチビが犯人かどうか分からねえままだと、議論の根幹がしっかりしねえ。そのままじゃ犯人を見つけるどころじゃなくなりそうだ。集めた証拠が少ねえ分、ひとつひとつをよく覚えてる。ちっとやってみるか。

 

 

 《議論開始》

 

 「晴柳院さんが犯人ではないことは、誰にも証明できません!むしろ彼女が犯人であるとすれば、辻褄の合うこともあるのではありませんか!?」

 「辻褄が合うこととはなんだ?」

 「今は分からないことだらけだよ。“火元”もそうだし、“笹戸クンが栽培室にいた理由”も、“現場周辺”もおかしなところはあった」

 「そんな細かいことはいいのです!“被害者が笹戸君”であり、“現場が植物園”であること。それが全てです!」

 「聞くだけ聞くとしよう」

 「うちはほんまにやってません・・・あんなひどいこと、で、で、できるわけないやないですかぁ!」

 「お黙りなさい!そんな顔をしても私を騙すことはできません!貴女は早朝に植物園に行き、笹戸君を待ち伏せしたのです!そして彼を誑かして“栽培室に閉じ込め”、火を放ったのです!」

 「ちょっと待て」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なるほどな、現場もろくに見ずに推理するとこういう恥かくわけだな」

 「はい?林檎さんが私の言葉を遮るとは、随分と偉くなったものですね・・・砕かれ砂糖水で煮られてパンに塗られたいのですか!?あぁ!?」

 「リンゴwww」

 

 穂谷の間違いを指摘したはずなのに、なんで俺が笑われてんだ。ただ笑ってんのはメガネガエルだけだが。なんにせよ穂谷の推理には大きな間違いがあるし、説明の付かないことがある。

 

 「笹戸は栽培室の中にいたが、閉じ込められたってのは聞き逃せねえな。現場を見りゃ分かることだろうが」

 「現場は栽培室なのでしょう?では閉じ込める以外にどうするというのですか?」

 「テメエの推理だとチビが笹戸を騙して栽培室に閉じ込めたみてえだが、そんな状態で火ぃ点けられたら、普通逃げようとするだろ」

 「当然です」

 「だが、笹戸の死体は栽培室の奥で、壁にもたれて座った姿勢で見つかった。もし栽培室の中で意識があったんなら、1つしかねえ出口のそばで死体が見つかるはずだろ」

 「確かにそうだな。どのような状況であったとしても、あの空間で奥に行くことは賢明な判断とは言えん」

 

 実際の焼死体なんか見たことねえし火事の現場にだって立ち会ったことすらねえ。だが火の中に放り込まれた人間のとる行動ならおおよその予想はつく。ガラスケースや金属棚で入り組んだ栽培室の奥に行くよりも、出口のすぐ側にいた方がずっと生き残れそうだ。

 

 「では、不意打ちして笹戸君を気絶させたのでは?そして栽培室の奥に運び・・・」

 「不意打ちって、どうやって?笹戸クンは男子にしちゃ細かったけど、晴柳院サンが気絶させられるとは思えないなあ」

 「手段はいくらでもあります。鈍器で頭を殴ってもいいですし、スタンガンのような道具を使ってもいいでしょう。あるいは薬品を使って眠らせれば外傷がありません」

 「モノクマファイルを確認すれば、それらは全て否定される。気絶するほどの殴打があれば傷痕が残り、スタンガンはどのようなものであれ人体内部に損傷を残す。また、薬品の服用も含めてこれらは否定されている」

 「うふふふふ・・・あれもダメ、これもダメ・・・・・・。ずいぶんとお上手にお殺しになったのですね、晴柳院さん」

 「だ、だからうちやないですってぇ・・・」

 

 穂谷がチビを目の敵にしてることは前から分かってたことだ。その上、今はまともな思考力もクソもない。言ってることは案外まともな方だが、どれだけ否定されても諦めねえのは、何が何でもチビを犯人にしてえのか。そう考えると今度は穂谷が怪しくなってくる。余計なことすんなよな。

 

 「晴柳院は確かに第一発見者で、疑わしいかも知れない。だがクロならば栽培室に放火した後にすぐその場を離れず、立ち尽くしていたことの説明ができない。自分自身にしか真偽の分からない証言をすることも、現場と時間を自分にとって都合が良すぎるように設定することも、疑ってくれと言っているようなものだ」

 「露骨に疑わしい、故に潔白ですか?納得できませんね」

 「この場に立つ以上、全員がグレーだ。疑うことも信じないことも自由だが、盲目になれば真実は見えん」

 「失礼ですね!これでも目は開いていますよ!」

 

 いちいち突っ込むのももう疲れた。チビが怪しいのは分かったが、クロだって確定するほどでもねえ。俺を含めて他の奴らだって潔白なわけじゃねえ。参った。穂谷に掻き回されるせいで、思ったより話が進まねえ。

 

 「そもそも花まで交換して自分がいた証拠を残してるわけだから、クロとしては意味不明過ぎだね!」

 「もういいだろう。それより私は、曽根崎弥一郎、お前に聞きたいことがある」

 「え?ボク?」

 

 晴柳院が犯人じゃねえってことだけで随分時間使っちまったが、まだほとんど話は進んでねえ。分からねえことは多いし、疑わしい奴も晴柳院だけじゃねえ。そこに早速望月が切り込んでいった。

 

 「ここにいるほとんどの者は直接現場を見た。ならば私同様の疑問を持つはずだ」

 「まあ疑問は持つだろうけど、なんでボクに?」

 「曽根崎弥一郎、お前は鎮火後の死体を発見した際に、なぜ笹戸優真だとすぐに断定することができた?」

 「あっ、そ、そういえば・・・」

 

 燃えた栽培室で見つかった笹戸の死体、あれはあまりにも惨く、目も当てられないほどだった。炎に全てを奪われた笹戸は、一目見ただけでは誰なのか全く分からない状態だった。なのに曽根崎は、その場にいなかった俺や望月や穂谷の可能性をまったく無視して、笹戸だと言い当てたそうだ。

 

 「確かに、迷いがあった風には見えなかったな。まるではじめから、そこに笹戸がいたのが分かっていたようだった」

 「あれ?もしかして今ボクが怪しい展開?ちょっと待ってよ!」

 「被害者を言い当てるなど、犯人以外にはできない芸当ですね。これはもう決定的ではありませんか?」

 「聞いてよ!別に笹戸クンって分かってたわけじゃなくて、靴を見て笹戸クンだなって思っただけだって!」

 「靴?」

 

 前にもこんな展開があったような気がする。ただでさえ胡散臭えくせに怪しくみられるような言動するからだろうがバカメガネが。それはさておき、靴を見て判断したってのはなんだ?

 

 「焼死体じゃ顔や体付きから判断するのは難しいでしょ。だから靴を見れば分かると思ったわけ。清水クンはスニーカー、望月サンはムートンブーツ、穂谷サンはハイヒール、笹戸クンはトレッキングブーツ、ね?みんなバラバラだし、素材や大きさも違うから全部燃えた後でも見分けつくだろうなあって。で、実際に見てみたら足がそのままの形で大きく膨らんでたから、たぶん分厚くて頑丈な靴だったんだろうなあって思って、だから笹戸クンって思っただけだよ!」

 「なんで俺らの靴を全部把握してんのかは置いといて、一瞬でそこまで推理したってのか?」

 「信じられませんね。言い訳に決まっています」

 「だが筋は通っている。疑わしいことは疑わしいが、時間を割いて追及するほどではないだろう」

 「で、でも他に何を話せば・・・?」

 「何か疑問に感じることがあれば言うことだ」

 

 最初からずっと現場にいた晴柳院も、焼死体を見て笹戸と見抜いた曽根崎もどっちも怪しい。証拠が少ねえ上に全員がアリバイを証明できないんじゃ、どうしたって疑いがバラける。俺らだって死体発見時に現場にいなかったって理由で疑われたっておかしくねえんだ。

 クロを見つけ出す以上に、自分の潔白をまず証明しなきゃならねえ。でなきゃこのまま誰にも決まらねえまま裁判が終わっちまう。とにかく考えるんだ。何か、真相に迫る、クロの正体を暴くための手掛かりを見つけ出すしかねえんだ。

 

 「ん・・・ちょっといいか」

 

 焦り始める脳に気付けをして、改めて証拠品を確認してみる。すると、気になるもんを見つけた。今までも納得いかねえことは何度かあったが、モノクマが質問を受け付けなくなったくらいからか、妙な言い方が増えてきたような気がする。

 

 「笹戸が薬で眠らされたりしてねえってのはモノクマファイルで分かるが、ファイルにはこうも書かれてんぞ。毒物を摂取した形跡がある・・・これは一体なんだ?」

 「ど、どく・・・って、なんで笹戸さんがそんなものを・・・」

 「もしかしたら笹戸は火で焼け死んだんじゃなくて、その毒を盛られて死んだって可能性も・・・」

 「それはないね!」

 

 モノクマファイルにある妙な記述。『薬品を服用した痕跡はなく内部の損傷も少ないが、毒物を摂取した形跡がある。』って、薬品と毒物をわざわざ別に書くことになんの意味があるんだ?モノクマファイルはクロとシロが対等に議論するための資料、だからモノクマはここにウソは書かねえと断言した。だとしたらこの書き方は余計に引っかかる。

 そんな俺の疑問を、曽根崎が一刀両断しにきた。

 

 「目の付け所がトガってるね清水クン!確かにその書き方は気になるけども、だからって笹戸クンの死因までは揺らがないよ!」

 「またテメエか。噛みついてきたからには、俺の聞いたことにゃ全部答えられるってことなんだろうな」

 「当然!清水クンが疑問に感じることならボクも捜査中に疑問に感じてるハズ、つまり答えはもう出てるからね!」

 「なら全部答えてみろや!!ハンパなこと言って誤魔化すんじゃねえぞ!!」

 

 

 《反論ショーダウン》

 

 「モノクマファイルには笹戸が毒を盛られたって書いてある。これが笹戸の死因に関係してるってことは考えられねえか?むしろ栽培室の炎は、笹戸を毒殺した証拠を消すためのカモフラージュだろ!!」

 「ん〜おかしいなあ。モノクマファイルには確かに薬品と毒物の両方が書いてあって気になるけど、同じように死因が焼死ってこともファイルに書いてあるからね。毒が本当の死因とは考えられないよ。それくらいは分かってほしいな」

 「モノクマが死因を書き間違えた可能性だってあんだろ!栽培室の監視カメラだって火事で燃えたんだ、笹戸が死ぬ瞬間まで監視できてなかったとしたらテキトー書いてるかも知れねえだろ!」

 「もしそうだとしても、毒が笹戸クンの死因だとは、絶対に考えられないんだよ」

 「絶対に・・・だと?だったらテメエがなんでそこまで断言できるのか、根拠を言ってみろや!“毒の正体”も分からねえのに、なんで死因にならねえって言えるんだよ!!」

 「はい、論破っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 にこやかに、あっさりと、曽根崎は俺の言葉を斬った。分かり切ってた結果とはいえ、いざやられるとやっぱりムカつく。そんなことを言ってる場合じゃなくて、この疑問を論破したってことは、こいつはモノクマファイルのその記述の意味が分かってるってのか?

 

 「笹戸クンが服用したと思われる毒の正体・・・聞かれると思って事前に資料館で調べときました!」

 「だったら最初に言えバカ野郎」

 「なるほど、ろくに捜査もしないとこのように恥をかくわけですね」

 「あぁっ!?」

 「ケ、ケンカしてる場合とちゃいますよぉ!」

 「まずは毒の出所だけど、医務室にある毒はすべて化学薬品だ。つまり、ここでの毒の出所は別の場所。化学由来じゃない毒とすれば、生物由来の毒。つまりは」

 「栽培室か」

 

 モノクマが用意したこの合宿場には、人を殺すための道具や仕掛けがあちこちに散りばめられてる。その中で毒が用意されてたのは、医務室の棚と、植物園の栽培室だ。わざわざファイルには薬品じゃねえ毒って書いてあるってことは、笹戸が盛られた毒は、栽培室にあったものになるってことか。

 

 「栽培室にはすごく色んな毒があったよね。きっと今回使われた毒はあそこにあったものだよ」

 「しかし、出所が分かったとしても毒の種類までは明確に断定することはできないのではないか?」

 「もちろんそこもばっちりだよ!笹戸クンが摂った毒の正体はすべて丸っとお見通しなんだよ!」

 

 望月の言うとおり、出所が分かったところで、栽培室にあった毒性植物の種類はめちゃくちゃ多い。しかもどれがどんな毒かなんて把握しきれてるわけがない。なのに曽根崎にはその中の何かが分かってるらしい。いつの間にそんなこと調べたんだ。

 

 

 《議論開始》

 

 「笹戸クンが摂った毒の正体はもう分かってるんだ!それがどんな毒かもね!」

 「出所が“医務室”ではなく“栽培室”であることだけでは、毒の種類や効能まで断定するのはほぼ不可能だ」

 「そもそも毒の元である植物が“燃え尽きてしまっている”のですから、最初から断定のしようがありませんわ」

 「それは違うよッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「笹戸クンが摂取した毒の正体は、きちんと現場に残されてた。むしろ分かりやすくね」

 「ほ、ほんまですかぁ?」

 

 笹戸の摂取した毒が栽培室にあったものだとしても、栽培室自体が燃えちまってんだから、もともとどんなもんだったかの知ることはできねえはずだ。だが曽根崎にはそれすらも分かってるらしい。現場に毒の正体が残されてただと?何もかもが灰になっちまったあの現場に残ってたものってなんだったか。

 

 「笹戸クンのそばに落ちてた、あのキノコ。あれが毒の元だ」

 「キノコ?何の話ですか?」

 「笹戸の死体のすぐ側に、燃えたキノコが転がっていたのだ。形状からして千切られた後に燃えたようだが、言われてみれば栽培室の植物の中であれだけは原形を留めていたのは妙だな」

 「正体が気になったからちょっと資料館で調べてみたんだよね。植物図鑑を開いたらすぐ出て来たよ!」

 「燃えていたのに、種類が判別できたのか?」

 「大きさや傘の形からね。間違いないと思うよ」

 

 死体のすぐそばに転がってたキノコか。忘れてたが、言われてみればあれは不自然だ。栽培室ではキノコだけじゃなくコケだとかトリカブトみてえな雑草の類だとか、色んな植物が栽培されてた。なのにあのキノコだけが、見た目で分かるくらいには元の形のまま残ってた。

 

 「じゃあ、そのキノコの毒のことまで分かってんだな?」

 「もちろん!だからこそあのキノコが、つまり毒が死因じゃないって言えるわけだよ」

 

 燃えかす同然のキノコの種類を判別して、さらにその毒がどんなものかまで調べ上げてるとは、こいつはどんだけ頭の回転が早えんだ。捜査時間なんてほとんどなかったのに、現場の状況を調べるだけじゃなくて裁判で必要になる情報まで事前に準備してるなんて、気持ち悪いくらいだ。クソ気持ち悪い。

 

 「あのキノコが持つ毒は、筋肉や神経に働きかける即効性の毒だ。でも大した毒じゃないよ。持続時間は短いし死に至るほどのものじゃない。手足の痺れ、全身の筋肉の弛緩が主な症状だね。長くても一時間くらいで和らぎはじめて、もう一時間で回復する、本当にその程度の毒だ」

 「つまり、摂取後の二時間ほど、自立行動が不能になるだけの毒ということだな?」

 「そだね」

 「はじめて望月の説明の方が分かりやすかった」

 

 一口食っただけで確実に死ぬような毒キノコもあると聞いたことがあるが、あそこに落ちてたキノコの毒ってのはその程度なのか。間違って食っても居眠りしてる間に抜けるような、大したことねえもんなのか。

 そんな風に考える奴は一人もいなかった。なぜなら、その毒の効果を聞いた瞬間にその場の全員が理解したからだ。なぜ笹戸にそんな毒キノコを食わせる必要があったのか。その意味を。

 

 「で、ですけど・・・その毒を笹戸さんに食べさせる意味って・・・」

 「・・・」

 「まあ、今みんなが浮かべてる理由で間違いないと思うよ。実際、焼殺ってやり方はリターンも大きいけど、不確実性の多いやり方なわけだし・・・」

 「笹戸優真にこの軽微な毒を摂取させた目的、それは・・・」

 

 笹戸が逃げられねえようにするためだ。そんなこと口にしなくたって全員理解してた。だから言う必要もなかったし、敢えて言うことでもなかった。それを口にすることは、そこにあった殺意を肯定することになるし、この中の誰かがそれを持ってたことすらも肯定することになるからだ。

 

 「どのような手段で笹戸優真を栽培室に移動させたかは不明だが、意識があろうとなかろうと、身体に毒が回った状態では笹戸優真には現場から避難することも、外部に救助を要請することも不可能だった」

 「保険というわけですね!実に理に適った行動です!しかも毒の正体が明らかになったところで、出所が栽培室であればクロの正体に繋がるものでもありません!」

 「毒の効能から考えて、笹戸が毒を摂取してから栽培室で焼殺されるまでの時間は長くて一時間ほど。互いにアリバイがない上に直前の笹戸の行動が分からない現状、誰にでも可能だったと言える」

 「この線から犯人を絞るのは無理かあ。せっかく調べたのに」

 

 現場の状況から分かることはやっぱり少ねえ。全てが燃えちまってる上に、誰もアリバイがない時間帯に誰でも行ける場所で起きた事件だから、この話のままじゃ先に進めそうにねえ。

 何度も学級裁判をやって分かったことは、一つのことに囚われて考えてちゃ真相は見えて来ねえってことだ。今は意味が分からねえことでも、他のことを考えてく内に明らかになったり、知らず知らずに犯してた間違いに気付いたりするもんだ。

 

 「夜時間でほとんどの者は部屋にいたはずだ。アリバイを立証することは、よほど確定的な証拠がない限り不可能だろう」

 「そ、そしたら・・・どうするんですかぁ?」

 「じゃあボクから提案!次は凶器について話し合ってみない?」

 「凶器?」

 

 話が行き詰まりかけてきたところでの曽根崎から新しい話題の提案があったことは、裁判が膠着しないためには必要なことだった。だが、こいつの口から出て来たってことが気に食わねえ。捜査時間、いや、前回の裁判の時からだ。こいつにはまるで、全てが見えてるような気がする。全てを見た上で、俺たちを自分の向かわせたい方向に誘導してるような気さえしてくる。

 

 「凶器とはなんだ?笹戸優真の死因は焼死だ。それ以外には目立った外傷もない上に、摂取した毒物も行動不能にさせる軽度の物のみだ」

 「うん。だから、栽培室の火事について話し合うんだよ。今回の場合はあれが凶器になるでしょ」

 「火事・・・ですかぁ」

 

 笹戸を殺した凶器、それは包丁でもロープでも毒でもなく、炎だ。仮に人を殺そうと考えた時に、選択肢としてそんなもん浮かぶか?曽根崎が何度も言ってたが、犯人は火で証拠の隠滅も兼ねて笹戸を殺したっていうらしいが、あんなに目立つやり方がそもそも必要だったのかも疑問だ。ひとまず、思い付くことを話し合ってみるか。

 

 

 《議論開始》

 

 「今回の凶器は、“栽培室の火”だ。もちろん自然に発火したものじゃなくて、犯人が意図的に起こした火だろうね」

 「単なる殺害という目的だけでなく、炎による証拠の隠滅や、具体的な犯行発生時刻を曖昧にするという目的もあるのだろう。事実、未だに分かっていない」

 「火事の火元も不鮮明だ。そもそも栽培室に“火気はなかった”はずだ」

 「犯人が“放火”でもしたんじゃねえのか?」

 「ち、ちゃうと思います!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「も、もし放火やったらクロの人は栽培室にいてたはずですし・・・それやったらうちらが見てるはずなんちゃうかなって・・・思うんですけど・・・」

 「南側の出入り口から出て行ったんじゃねえのか?」

 

 晴柳院と犯人が同時に植物園にいたとしても、あの広さと植物の多さなら姿を見られずに別の出入り口から出て行くことだってできる。その後に部屋に戻るなり、何食わぬ顔で合流するなりすれば、無関係の奴を装える。そんな反論は簡単に打ち砕ける。だが、その後に六浜が続けた。

 

 「逃げることは簡単だ。だが放火だとしたら犯人が直接火を点けているだけでなく、家屋とその周辺に特徴的な燃え跡が残る。栽培室は倒壊していたが、周囲にそのような跡はなかった」

 「ずいぶんと火事にお詳しいのですね六浜さん!ご経験があるのですか?焼き殺されたのですか?焼き殺したのですか?どちらでしょうか?」

 「で、その特徴的な跡って?」

 「放火ということは、どこかに火種を設置したということ。つまり家屋のある一点のみ、他の部分よりも強く長く火に晒されるということになる。そうすると、周囲より濃く焦げ跡が残るわけだ」

 「なるほど」

 「栽培室周辺にそのような焼け跡は見られなかった。どちらかというと、栽培室全体が満遍なく燃えていた印象だ。仮に放火だとすれば、多くの火種を同時に設置するというやり方でなければ、ああはならないだろう」

 「実際、そうした可能性ってのはねえのかよ」

 「ないな。壁の下に火種を敷き詰めるようなやり方が必要になる。現実的ではない」

 

 さすがに六浜は色んな事を知ってやがる。普通は焼け跡の残り方で放火かどうかを判断するなんてこと、知るはずねえだろ。まったく、こいつの頭の中はどうなってやがんだか。だが火の元が放火じゃねえとなると、一体犯人はどうやって栽培室に火を点けたんだ?

 

 「ふむふむ、満遍なく燃えてるとなると、犯人が点けた火は栽培室全体で一斉に燃え上がったってことになるね。うんうん、そうなると自ずと手段は絞られてくるんじゃないかな?おまけに、この合宿場内に限られた話になれば、さらに絞られそうだ」

 「あ?テメエ話聞いてねえのか。それは無理だって今言ったばっかだろ」

 「ん?何それ?清水クンこそ、人の話ちゃんと聞きなよ。そんなこと誰も言ってないよ?」

 「はあ?」

 

 たったいま六浜が否定したことを前提にして、曽根崎が勝手に話を進めようとしやがった。なんで放火ができなかったって話から犯行手段が絞られるんだよ。そもそも一斉に燃え上がること自体が現実的じゃねえっつっただろ。そう突っ込んだら、逆に曽根崎の方が俺をたしなめてきた。なんでだ。

 

 「六浜サンが言ったのは、あくまで栽培室全体で一斉に火の手があげるために、火種をバラ撒くことが現実的じゃないって話でしょ?でもそれは、栽培室全体で一斉に火の手をあげることが不可能っていうのとは同じじゃないじゃないか」

 「テメエの話聞いてると頭が痛くなってくる」

 「え、えっとぉ・・・六浜さんが言うてはる以外にやり方があるってことですか・・・?」

 「そりゃあね。要は、栽培室全体に一瞬で火を行き渡らせればいいってことでしょ?それだったら別に火種をたくさん用意することもないよ」

 

 まさか晴柳院の説明に気付かされるとは思わなかった。なにを焦ってんだ俺は。六浜の言葉を丸々、それどころか誇張して鵜呑みにするなんて、危険にもほどがある。こいつだって犯人じゃねえ可能性はねえし、そうでなくても間違ってるかも知れねえんだ。

 

 「ボクが思うに、火元はたった一つ。犯人はその一つを一気に燃え上がらせることで栽培室を火の海にしたんだ。何を使ったんだと思う?あ、もちろんこの合宿場にあるものでだよ?」

 「まるで答えを知っているかのような口振りですね!これはボロが出たと捉えてよろしいでしょうか?」

 「よろしくないよ!ただ質問してるだけじゃん!」

 「合宿場にあるもので、火を一気に拡散できるもの・・・そんなもん・・・」

 

 思い付く限りじゃ一つしかねえ。別に特別なもんでもなんでもねえし、曽根崎の言うものにもぴったり当てはまる。言うだけ言ってみるか。

 

 「油・・・しかねえよな。ここにあるもんじゃ」

 「そうだね!よくミステリーやリアル事件とかで出てくるのは灯油だけど、ここにあるものだとサラダ油くらいかな。キッチンにあるものを持ってくればいいんだから、誰にでもできるよね」

 「サ、サラダ油で火事になんてできるんですかぁ・・・?」

 「もちろんだ。どんなものでも扱い方によっては凶器にもなる」

 「だよね!」

 「しかしだ、曽根崎よ」

 

 ほぼ曽根崎の話に乗っかってた六浜が、そこで一呼吸置いて曽根崎を睨んだ。だいたい何を言いたいかは分かる。曽根崎の今の話には、一番大事なもんがない。

 

 「犯人は短時間で火を広げるために油を使用した、その推論の根拠はあるのか?」

 「証拠ってこと?」

 「油なんて燃えてしまえば跡形も残りませんし、いずれにせよあんな風に崩れた栽培室でそんな証拠なんて見つけられるわけがありません!逆に言えば、適当なことを言っても通じてしまうのではないでしょうか?」

 「失礼だなあ、証拠ならちゃんとあるよ。もちろん捜査中に見つけたものがね」

 「油が使われたという証拠・・・何かあったか?」

 

 穂谷の言う通り、油なんて燃えちまえばそこにあった証拠なんて残らねえ。もし何か証拠があったとしても、火事で全て燃えちまってんだから捜査中に見つけたとしてもそれが本当に油を使ったことの証拠になるかどうかは分からねえはずだ。一体何がある?

 

 

 《証拠提出》

【モノクマファイル6)

場所:なし

詳細:被害者は“超高校級の釣り人”、笹戸優真。死因は焼死。死体発見場所は植物園内の栽培室。死亡推定時刻は七時五分ごろ。全身の火傷の他に細かな切り傷や打撲痕が多数みられる。薬品を服用した痕跡はなく内部の損傷も少ないが、毒物を摂取した形跡がある。

 

【笹戸の死体)

全身を火傷に覆われていて、見た目では誰だか分からないほどの有様だった。壁にもたれる姿勢で、倒れた棚やガラスケースの下敷きになっていたらしい。

 

【スピーカー)

場所:植物園

詳細:植物園の天井に設置されている。音量は倉庫内の機械で調節することができる。

 

【晴柳院の証言)

場所:なし

詳細:早朝、植物園のスピーカーから突然の爆音が響いてきたという。倉庫で音量のツマミを下げた後に、火事に気付いた。

 

【磁石)

場所:植物園

詳細:植物園の西側出入り口のドアに貼り付けられていた、強い磁力を持つ磁石。

 

【草むらの跡)

場所:植物園

詳細:西側入口付近の草むらに、何かを引きずったような跡が残っていた。

 

【倉庫の備品リスト)

場所:園芸倉庫

詳細:備品リストと実際の倉庫とでは、殺虫剤の個数が合わなかった。

 

【キノコ)

場所:栽培室

詳細:笹戸の死体のそばに転がっていた、千切られたキノコ。焼け焦げているが、食欲はそそられない。

 

【正体不明の物体)

場所:栽培室

詳細:二本のコードが伸びた謎の物体。真っ黒になった上に溶けたプラスチックを被っていて正体が分からない。

 

【溶けたプラスチック)

場所:栽培室

詳細:正体不明の物体に被さっているどろどろのプラスチック。原型を留めていないため、元が何なのかは分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「火事現場で見つけた、正体不明の機械があったでしょ?あの機械に被さってたどろどろのプラスチックって、もともとは油のボトルだったんじゃないかな?」

 「・・・あっ、あれか!」

 「ええ・・・な、なんで油のボトルが、どろどろになって変な機械に被さってるんですかぁ・・・?」

 「高温によるプラスチックの融解、それを利用した証拠隠滅及び破壊だろう。確かにこうすれば、内容物と容器の両方を認識させづらくすることができる。しかし、それはあくまで推測に過ぎないのではないか?」

 「ああっ!!思い出しました!!」

 

 言われて思いだしたが、栽培室にあった妙な機械にはプラスチックの溶けた奴が被さってた。あれがボトルだとすれば、確かに油が使われた可能性ってのは高くなる。だがそれは全て曽根崎の推理にすぎねえ。プラスチックが証拠だっつっても、あれが本当に油の入ってたもんかどうかは、燃えちまった今ではよく分からねえ。煮詰まりかけた議論をぶち壊すように、穂谷がよく通る甲高い声をあげた。

 

 「そう言えば私、今日は朝ご飯を作ろうと思って食堂に行ったのです。けども油がなくなっていて何も作ることができませんでした。料理の作れないフライパンなんて、叩くためにあるようなものではありませんか?」

 「フライパンが調理器具か楽器かはさておき、油がなくなっていたというのは本当か?ここの備品は全てモノクマが管理・補充をしているのだろう」

 「はい、そうですよ!いつでもどこでもどんな時も、TPOを弁えないことでお馴染みのモノクマライフサービス!清潔で美しく健やかなコロシアイを目指します!」

 「つまり・・・あるはずの油がボトルごとなくなっていた。火事の発生に使用されたためと推理できるわけだな」

 

 似たような流れを前にも見た気がする。備品はモノクマがうっとうしいくらい確認しては補充を繰り返してるはずだから、油がボトルごとなくなってるなんてことはないはずだ。それが起きたってことは、確実に笹戸殺しに使われてるって言えるわけか。なるほどな。けど、曽根崎の推理に足りねえ重要なことはもっとある。

 

 「よし、油がなくなってて使われたんだろうってとこまでは分かったし、間違いはなさそうだ。だが、まだテメエの推理は完璧じゃねえ。分かってんだろ曽根崎」

 「なんで?油を使えば小さな火からでも火災になるでしょ。サラダ油を使ったことはほぼ確定なんだから、おかしいところなんて何もないじゃないか」

 「じゃあ聞くが、そもそも犯人は最初の火をどうやって点けたんだ」

 「・・・ああ、それね。さあ、どうやったんだろうねえ」

 「はあ?」

 

 なんだよそれ。一番大事なところじゃねえのか。どんだけ油を撒こうが、肝心の火が点かねえと何にもならねえじゃねえか。火事になった以上、絶対に犯人は何らかの方法で火を起こしてんだ。てっきり曽根崎はその方法にも目星が付いてるもんだと思ってたが、どうやらマジで分かってねえらしい。メモ帳をしかめっ面で睨んだり、ペンを走らせたりして思案してる。

 

 「直接放火したって線はさっきの議論でなし。だとすればあらかじめ火を点けておいて時間差で火事になるように仕掛けたか、時限式の発火装置を仕掛けたか」

 「それだけではない。私は現場を調べたのだが、その上で一つの可能性を提示したい」

 「まだ何かおありですか?」

 「現場の荒れ具合、死体の損傷、栽培室周囲の瓦礫の状態・・・いずれも単なる火災にしてはかなり原状からかけ離れていた。ただ燃えた、というだけでは説明のつかない荒れ方をしていたことは無視できない」

 「・・・何が言いてえんだ?」

 「栽培室では、火災だけでなく爆発も起きたはずだ」

 「爆発・・・」

 

 現場の状況なんかろくに見てねえし、普通の火事の現場だってよく知らねえから、六浜の言うことはいまいちピンと来なかった。というか、納得できるわけがねえ。爆発なんてもんが起きてたら、あいつの言ってたことは明らかにおかしくなるじゃねえか。

 

 「それがどうしたのですか?爆発くらいあるでしょう、火事なのですから」

 「ただ油を撒いて火を点けただけなら、爆発など起こらない。もともと栽培室の中に可燃性の危険物などなかったのだ。爆発が起きたということは、そのようなものが新たに持ち込まれたことを意味する」

 「そんな危険なもんがそこらにゴロゴロしててたまるか!っつうかそもそも爆発なんか起きてたわけねえだろ!」

 「なぜだ?現場には確かに爆発痕が残っていたぞ」

 「知らねえよんなこと。おいチビ、お前はずっと植物園にいたんだよな?そん時、爆発なんかあったか?」

 「はええっ!?う、うちですかぁ・・・!?ば、爆発なんかあったら気付かないはずありませんて・・・。うちが火事に気付いてからは、六浜さんや曽根崎さんも来ましたから、その間に爆発なんかは・・・」

 「なかったね!」

 

 そらみろ、火事が起きる前から鎮火までずっと植物園にいたチビが気付かなかったんなら、爆発なんか起きなかったって言える。早朝で物音もしねえような中で爆発の音が聞こえなかったなんてわけがねえし、六浜の説はこれで完全に潰れた。

 

 「しかし現場には確かに爆発痕があったのだ。すまないが晴柳院、もう一度事件当時のことを教えてくれないか」

 「え、ええ・・・わかりましたぁ」

 

 

 《議論開始》

 

 「あのぅ・・・うちは今朝もいつも通り、植物園のお花を交換に行きました。その時はまだ“火事は起きてへん”かって、特におかしな様子はなかったです」

 「火事が起きてたら“煙があがる”から分かるよね。それもなかったんなら、やっぱり火事はまだ起きてなかったと言っていいだろうね」

 「それで、慰霊壇に備えてあるお花を交換して少ししてから、お池に古いお花を供養しようとしたところで・・・いきなり“スピーカー”からおっきい音がしました」

 「例の音のことか。それもよく分かんねえけど、今はおいておくか」

 「彼女の嘘かも知れませんですね!むしろ私はその可能性の方が高いと思いますが!」

 「う、嘘やないですってぇ!ちゃんと音量のつまみも下ろしたんです!で・・・その後に火事に気付きました。植物園に来てからそんなに時間は経ってないです」

 「聞く限りじゃ、チビが植物園に来てから火事に気付くまで“爆発なんてなかった”ってことになるな」

 「待っただ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 捜査時間中から数えて何度目かの晴柳院の証言を聞く。何度聞いてもやっぱりその証言の中に、爆発を臭わせるようなことなんかなかった。いくら栽培室を吹っ飛ばす程度とは言え、さすがに爆発なんかありゃ音も揺れも誤魔化しようがねえ。爆発って言葉だけで脳裏にちらつくあの馬鹿にすらできなかったことをここにいる誰かができたわけねえんだ。

 と思ってたのに、俺の考えをぶち殺すようにあいつが声をあげた。こいつはいつもそうだ。俺が当たり前のように考えてることを当たり前のように否定してくる。

 

 「晴柳院命。お前が植物園に着いた時に火災が発生していなかったのは確かなのだな?」

 「えっとぉ・・・煙が上がってへんかったって記憶だけなんで・・・確かかどうかは分かりません・・・」

 「十分だ。ではもう一つ、植物園に着いた時の時刻は覚えているか?」

 「あんまりはっきりとした時間は・・・ごめんなさい。けど、部屋を出たのが七時ちょっと前やったと思います」

 「六時前・・・とすると」

 「おい、なんなんだ望月。何か言うことあるんだったらさっさと言え」

 

 チビにいくつかの質問をしてから、望月は何もない空を見つめながら指折り何かを数え始めた。否定されたまま放っとかれてイラついてきたから急かすと、望月は数え終わったのか、俺を見て言ってきた。

 

 「おそらく、爆発は確かに起きた。それも、晴柳院命が植物園に着いた後に」

 「・・・取りあえず、理由を言ってみろ」

 「爆発があったとすれば、晴柳院命が植物園に着いた頃から火災を発見するまでの間だ。考えるに、爆発があったのは七時からの二、三分の間のどこかだろう」

 「そんなピンポイントに分かるとは・・・さては、貴女がその爆発を起こ」

 「馬鹿か!爆発があって気付かねえほどチビが間抜けだとでも言うつもりか!?」

 「ふええっ!?」

 「いくら広いつったって植物園にいて植物園で爆発が起きて、音にも気付かねえなんてことあるわけねえだろ!」

 「気付かない、というのは適切な表現とは言えない。正しく言うのならば、聞こえなかったのだろう」

 

 意味が分からん。爆発だぞ、気付かないなんてことあるわけねえだろ。栽培室を吹っ飛ばす程度の爆発がどのくらいのもんか知らねえが、少なくともそれなりの音と震動があるはずだ。いくらなんでも、チビがそれにも気付かねえほどの間抜けだなんて言うわけがねえだろうな。

 

 「気付かねえも聞こえねえも一緒だろうが!どっちにしろ、チビが爆発に気付けなかったわけがねえんだよ!」

 「例えば・・・爆発音を別の音と勘違いしたとか、そういうことは考えられない?」

 「は?・・・は?」

 「晴柳院命の証言の中にあった、明らかに不自然な大音量の音楽。時刻から推察するに、これが爆発と関係していないと考える方が無理がある」

 「何が言いてえんだ」

 

 じわじわと反論の余地を潰しながら、核心には触れずにいつの間にか追い詰めてる。論理的なのに回りくどくて分かりづらいこいつの説明を聞いてるとイラついてくる。爆発とスピーカーの間にどういう関係があるってんだ。

 

 「晴柳院命が聞いた大音量の音楽は、栽培室からの爆発音を掻き消すために仕掛けられたものだということだ」

 「・・・そんなことできんのかよ」

 「初めて植物園に行った時にも音楽かかったよね!物凄くうるさくて目眩がしたよ。むしろあれが爆発音なんじゃないかってくらいだったね」

 「改悪されたものとはいえ、音楽と爆発音の違いくらい聞き分けられないものでしょうか?貴女方の耳は節穴ですか!?耳は元から穴ですが!うふふっ!あっはははははははははははははは!!ケッサクですね!!」

 「聞き分けられるような気持ち悪い耳持ってんのはテメエくらいだ・・・。っつうかそれ以前に、まだ問題があるだろうが!」

 

 曽根崎に言われて思いだした。植物園のスピーカーから出た音は、確かに爆音って喩えがしっくりくるくらいにはうるさかった。だがそれはあくまで喩えだ。しかもスピーカーの音と爆音を被せて爆発に気付かせないようにって簡単に言いやがるが、そんなこと狙ってできるもんじゃねえだろ。

 

 「あの音楽は毎日毎日、モノクマが流してたんじゃねえのか。いつ鳴るかなんて分かりゃしねえもんを使って爆発に気付かせねえなんて、そんなことできるわけねえだろ!」

 「あっ・・・そ、そうですよ・・・。だってうち、いつも同じくらいの時間に行ってますけど、音楽が鳴る時と鳴らない時があって・・・」

 「二人とも、それ本気で言ってんの?モノクマが最初に説明してたでしょ。あの音楽は五時間おきに鳴るようになってるって」

 「ん?」

 

 そんな説明されてたか?クソどうでもいいことだと思って聞き流してたような気もする。

 

 「んもう!清水くんってば話聞いてなかったな!テストに出るから覚えとけっつったろうが!激怒ぷんぷん丸だよ!!」

 「もはや古さすら感じる」

 「五時間おきってことは、ある日とその次の日では鳴る時間が一時間ずれるってことだよ。五日で元に戻るまで、規則的に一時間ずつ遅くなる。晴柳院サンみたいに鳴る時と鳴らない時があるのは、二十四時間が五時間じゃ割り切れないから起きることなんだよ」

 「ああ・・・な、なるほど」

 「だ、だからなんだってんだよ!五時間おきに鳴ってたってそんなもん、事件当日の何時に鳴るかは当日にならねえと分からねえんじゃねえのか!!」

 「分かるよ?一度でも音楽がかかったのを確認すれば、そこから五時間間隔で鳴るんだから、五日間の時間のローテーションは計算できる」

 「それと、清水がしている大きな勘違いの解消もしておこう。犯人が音楽が鳴ることを計画に組み込んでいたのならば、爆発の時刻を音楽がなる時刻に合わせたということだ。どのように爆発を起こしたのかはまだ分からないが、犯人はあらかじめ、誰かが植物園の火災に気付く可能性をできるだけ排除しようとしたのだろう。スピーカーの音量をいじっていること然り、犯行時刻然り、な」

 

 馬鹿にするような言い方より、本気で心配されるような言い方をされる方がムカつく。つうか犯人はわざわざそんな面倒なことしたのか。スピーカーの音で爆発音を掻き消すなんて、植物園に人がいなきゃ何の意味もねえことだ。たまたまチビがいたわけだから、無駄にはなってなかったようだが。

 

 「まったく、貴女方がお粗末な耳を持っているばかりに、犯人の思う壺になってしまうだなんて・・・情けないことですね」

 「だったらテメエも少しはまともな推理してみせろや、イカレ女が」

 「あら?いつ貴方がまともな推理をしたのですか?これだけ話し合って、まだ爆発の原因すら突き止められていないのに、それがまともな推理だと?ずいぶんと呑気なのですね」

 「ああっ!?ケンカ売ってんのかコラ!!」

 「し、清水さんも穂谷さんもやめてくださいぃ・・・そんなんしてる場合とちゃいますよぉ」

 「清水の怒りももっともだが、穂谷の言うことも一理ある。爆発が起きたということと、それが気付かれなかった理由は分かったが、肝心のなぜ起きたかが分からなければ、この先の議論などしようがない」

 「やっぱそうなるんだね」

 

 ふざけやがってクソが、テメエはくだらねえことを喚き散らしてるだけなのに、俺らのこととやかく言える立場かよ。調子乗りやがって。だったらもうぐうの音も出ねえように、今ここで爆発の原因を突き止めるしかねえ。

 

 

 《議論開始》

 

 「爆発が起きるには起爆剤が必要だ。“大量の可燃性物質”があれば爆発は起きるが、油のような液体では起きにくい。火薬の類でもあれば話は別だが」

 「ふふふ、爆薬なら倉庫に“花火”があるではありませんか!貴女の大切な古部来君の命を奪ったあの爆薬が!!」

 「あ、“油をもっとたくさん”撒いて、爆発させたんちゃいますか・・・?」

 「なにも自然に爆発させたと決定したわけでもあるまい。“爆弾”を仕掛けたことによる爆発も十分に考えられる」

 「そこまで大がかりなことするかなあ。もっと“植物園にあるもの”で爆発を起こすこともできそうだけど」

 「・・・そうだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ああ、そうだな。爆弾なんかなくったって、爆発は起こせる。植物園にあるものでな」

 「ふええっ!?ほ、ほんまですかあ!?そんな危ないもの・・・ありましたっけ・・・?」

 「私の記憶ではなかったがな」

 「どんなもんでも使い方次第なんだろ。捜査時間に植物園の倉庫を調べたんだが、備品リストと実際の在庫で数が合わねえもんがあった。あそこにあるもんもモノクマが補充してんだろ?」

 「モチのロンです!一部例外を除き、消耗品はなくなったらすぐに補充するよ!ま、コロシアイが起きた時はクロとシロの公平を期すためにしないけどね!」

 「で、そのなくなっていたものとはなんだ?」

 

 別に俺が自分で見つけたわけじゃねえ。捜査時間が始まってから、曽根崎に言われて倉庫を調べてる時に気付いたんだ。だから曽根崎が言うもんだと思ってたが、俺の話に耳を傾けてるところを見ると、特に確証もなく俺に捜査させてたようだな。

 

 「殺虫剤と除草剤、どっちもスプレー缶タイプのもんだ。それが倉庫からまるまるなくなってた」

 「スプレー缶・・・ああ!なるほどね!」

 「何がなるほどなのですか?」

 「ああいうスプレー缶の中身ってのはよく燃えるんだよ。ライターの火に吹きかけて遊ぶガキなんかよくいるだろ」

 「ホントはとんでもなく危ないんだけどね。中身に引火すれば缶ごと爆発して、まず無事じゃ済まないから」

 「倉庫にあった殺虫剤と除草剤も同じようなもんだったはずだ。あの中身を栽培室いっぱいに撒き散らしてから火を点けりゃ・・・爆発だって起きんだろ」

 「しかしその場合、点火後すぐ爆発が起きる。放火にしろ何にしろ、火を点けた犯人自身も危険な方法と言わざるを得ないが?」

 「缶のまま火にくべても爆発はするよ。その場合は時間差があるから、今回はそうしたんじゃないかな?」

 

 爆発の原因は、これでよさそうだ。スプレー缶を爆薬代わりにするなんて、イカレたこと考えやがる。あの瓦礫の中じゃ粉々になった缶の欠片なんか気付きやしねえし、もし曽根崎が俺に倉庫を調べるように言ってなかったら、こんなことにも気付けなかったかも知れねえ。改めて思うが、証拠が少なさすぎる。こんな綱渡りみてえな議論を続けるだけで、精神力ががんがん削られてく。

 

 「火事が起きた状況も、爆発の原因も分かった。しかしやはり、もともとの火がどうやって点けられたのかがまだ分からない・・・」

 「放火とちがうっていうんはもう、決定・・・で、いいんですよね・・・?そしたらやっぱり・・・なんかの仕掛けを使ったんちゃいますか・・・?」

 「その仕掛けが判明していないのだ」

 

 長いこと議論してたような気がするが、結局今までに分かったのは、笹戸が火事の中でどうしてたかと火事の経過くらいだ。そもそも火事をどうやって起こしたかが分からねえんじゃ、議論は進んだとは言えねえ。複雑に入り組んでるわけでもねえのに、議論が長引く。どうなってやがる。

 

 「ボクが思うに、犯人は機械を使って火を点けたんだと思うよ。ほら、油のボトルが溶けて被さってたあの機械でさ」

 「私もそれに賛成だ。何の意味も無く置いてあったとは思えない。しかし、一体なんの機械なのか、心当たりでもあるのか?」

 「さあね。でも、分かることを少しずつ明らかにしていけばいいんじゃないかな。たとえばホラ、この機械から二本のコードが伸びてるのとか、なんかありそうじゃない?」

 

 曽根崎が取り出した真っ黒の機械は、最初に見た時よりも多少見やすくなった。煤が落ちてきたんだろう。それでもまだ何の機械か分からねえが、二つの箱がくっついたような手の平サイズの本体から虫の脚みてえにひょろっこいコードが二本伸びてる。なんだこりゃ。

 

 「それ以外に特徴ないし、これを明らかにすれば機械の正体も分かるんじゃないかな」

 

 そこまで単純かどうかは分からねえが、とにかくこのコードが何なのかは気になる。機械、コード、二本・・・なにかが閃きそうだ。この機械の正体に繋がる何かが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もしかしたら・・・このコードは回路なんじゃねえのか?もともと電気が流れる部分だったとかよ」

 「回路?」

 「機械なんだったら電気が必要だろ。だったら、このコードはコンセントっぽくねえし、回路の一部なんじゃ・・・」

 「口を挾ませてもらう」

 

 機械から伸びたコードって時点で、これが電気の流れるところなんだってことは想像つく。だがこれがコンセントだとすると二本もあるのはおかしい。何より栽培室は電気こそ通ってたが、コンセントなんかなかった。だとすれば俺が思い付くのはそれくらいだが、そこに六浜が突っ込んできた。

 

 「清水、お前なりに考えたのだろうが、それは私も思い付いた。そしてすぐ否定されたのだ」

 「あ?なんでだよ」

 「今から説明してやろう」

 

 こいつがこんなに突っかかってくるのは珍しい。あれが回路だとしたら何か都合が悪いのか?それともマジで、絶対に回路じゃねえ証拠でもあるってのか?けどあの機械の正体には触れねえあたり、まだこいつにもあれがなんなのか分かってねえってことだ。それなのになんであんな自信たっぷりに否定できんだ。

 

 

 《反論ショーダウン》

 

 「栽培室に残っていた正体不明の機械、そこから伸びる二本のコード、お前はあれが回路の一部だと言いたいわけだな」

 「そうだっつってんだろ。俺には他に思い当たらねえし、どう見たってあそこに電気が流れてたって考えるのが普通だろ」

 「思い付くことは普通かも知れんな。だがその可能性を否定できないことはないはずだぞ。改めて見てみれば分かるだろう!あれは絶対に回路たり得ない!」

 「ずいぶん自信があるようだが、だったらなんで回路じゃあり得ねえか言ってみろや!」

 「こんなものは中学生の理科の時間で習うはずだぞ。回路ということは電気が流れるということだ。電気が流れるためにはただコードがあるだけではいけない」

 「じゃあ他に何が必要だってんだよ!あそこには機械とコード以外に怪しげなもんは“なんもなかった”だろうが!」

 「その矛盾だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「機械と、二本のコード、それしかないことが、あれが回路になっていない決定的な理由だ」

 「はあ?」

 「どのようなものであれ、電気が流れるためには回路が閉じている必要がある。つまり電気を生み出す機関や変換器、電線などが環状に繋がっていることが条件だ。しかしあのコードは好き勝手に伸び、繋がっていなかった。空気は不導体であるから回路の一部にはなり得ない。だから回路であることは否定されるのだ」

 「んっ、んなもん、犯人が捜査中に一部だけ抜き取ったのかも知れねえだろ!」

 「一部だけ持ち去るのなら全て持ち去る。火を使って証拠隠滅を図った犯人だ。証拠を持ち去れる機会があれば見逃すはずがあるまい」

 「んぐぐっ・・・!!」

 「こりゃ負けちゃったね清水クン。まあ六浜サンが相手じゃキミじゃ敵わないよ」

 「うるせえ!」

 「というよりボクは両成敗でいいじゃないと思うんだけど」

 「・・・また何か言いたいことがあるのだな?」

 

 またまた曽根崎が口を挟んできた。はじめっからずっと、この裁判の行方を支配してるようなこいつに、なぜか刃向かう気になれない。こいつにはとっくに真実が見えてるんじゃねえのか。その上であえて俺たちが何も分からねえのを眺めてるんじゃねえのか。

 

 「六浜サンの言う通り、このままじゃこのコードは回路として機能しないよ。でも清水クンの言うことも切り捨てられないんだよね」

 「理解できないな。回路か、回路ではないか、そのどちらかではないのか?」

 「それは今の話でしょ。ボクはさあ・・・事件当時、これはまだ回路だったんじゃないかと思うんだ」

 「なに?」

 「このコードとコードを、電気を良く通す『何か』で繋ぐ。そして火事によってその『何か』は燃えてなくなる。こうすれば、回路だったものが役目を終えて回路じゃなくなる、こういう仕掛けができあがるわけだよ」

 

 ずいぶん曖昧な推理だな。その『何か』が分からねえんじゃ、都合のいいこと言ってるだけじゃねえか。だが、強ちない話とも思えない。事実、今までの議論の中に出て来た物の中には、証拠として残っているはずなのに火事のせいで見つけられなかったもんが幾つかあった。ってことは、他にも何か、証拠になるはずだったものがあってもおかしくねえ。

 

 「だからみんなにちょっと話し合ってもらいたいんだよね!この『何か』がなんなのか!」

 

 またしても曽根崎の思うように議論が進む。こいつがクロだって証拠もなけりゃ、シロだって確証もねえのに、俺たちの感情なんかお構いなしに、議論は別の生き物みてえに勝手に動き出す。

 

 

 《議論開始》

 

 「もともとこれは“一つの回路だった”と思うんだよね。火事のせいでその一部が燃えてなくなった!だからその“なくなった部分”がなんなのかを話し合ってみてほしいんだ!」

 「あったものがなくなって、なくなったものがあって・・・こんがらがってきましたね。ただそこに物があり、私がいる。それだけではいけませんか?存在など、単なる人間の認識に過ぎない。本当にそこに存在するかどうかは誰にもわからないのですよ!」

 「床一面に撒かれてた“油”とかは・・・」

 「栽培室には“鉄製の棚”が大量にあったな。金属はよく電気を通すから、あれではないか?」

 「“蛍光灯”はどうだ」

 「電気は通すが、燃焼によってなくなるものではないな。例えば紙などの燃えやすいもの、あるいは“強烈な熱化学反応を示す”物質などが適切だろう」

 「それに賛成っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「望月サンの意見いいね!それかもしれない!」

 「それかも知れないって・・・なんておっしゃったんかうち、いまいち分からないんですけど・・・」

 「強烈な熱化学反応を示す物質、と言った」

 「要するに、よく燃えて光って熱を出すものということだろう。具体的に何だと考えている?」

 「そうだねえ。やっぱり身近なものがいいんじゃないかな。電気を流すとよく燃えて、なおかつ最後にはなくなっちゃうもの!」

 「そんなもん・・・」

 

 燃えてなくなる、電気で燃えるもの・・・。そういえばさっき六浜が、中学生の理科がなんとか言ってたな。なんとなく印象に残った。もしこの仕掛けにも、中学生の理科レベルのことが利用されてるんだとしたら・・・身近なもので、電気を流すことで強く反応するようなもんがあるとしたら・・・。

 

 「鉛筆の芯・・・」

 「あっ・・・!た、たしかにそれなら・・・芯も木も燃えたらなくなります!」

 「どちらかというとシャーペンの芯の方が満点解答かな。見たことない?電気でめちゃくちゃに燃えてるシャー芯」

 「なるほど」

 

 どっかのバカがやって火傷してたような気がするな。シャーペンの芯は電気を流すと思った以上に燃える。最後には折れて電気も流れなくなるが、あれはつまり芯が燃えてなくなったってことだ。曽根崎が言ってた条件にばっちり合う。

 

 「そうか!その仕掛けを使えば、芯で生じた電熱で油に火を点けることもできる!そうすればあとは燃え広がった炎で芯は焼失し、スプレー缶に引火して爆発・・・証拠の隠滅も兼ねるというわけか」

 「実に込み入ったことをするのですね。最初から放火してしまえばこんな仕掛けをする必要もなく、証拠が増えることもなかったというのに」

 「それは確かに気になるけど、犯人には犯人の思惑があったんだろうね」

 「・・・あれ?あ、あの・・・ちょっといいですか?」

 「どうした、晴柳院」

 

 シャー芯に電気を流して、油に火を点けて、スプレー缶を爆発させて、その音をスピーカーで掻き消して・・・。確かに言われてみりゃ妙だ。普通に火を点けて笹戸を殺すだけなら、こんな仕掛けをしなくてもいい。ロープかなんかで笹戸を動けなくしてから、火を点けてあとは逃げちまえばいい。なんで犯人はわざわざここまでの仕掛けを用意したんだ?

 そんな疑問とは別に、晴柳院が何か気になったらしい。今度はなんだ。

 

 「あの、今までの推理、全部すごく納得できたんですけど・・・あの、一つだけ分からへんことがあるんです・・・」

 「遠慮せずに言ってみろ」

 「えっと・・・火を点けたり爆発させるまでの一連の仕掛けって、そもそもその機械を動かして火を点けるところから始まるんですよね・・・?」

 「そうだな。火を点けなきゃ火事なんか起こらねえからな」

 「だったらあの・・・・・・その機械を動かすための電気って・・・どこから引いてきたんですか?」

 「・・・あ」

 

 やっと議論が動き出したと思ったら、またすぐに止まった。もう何度この繰り返しをした?どんどんイラついてくる。一体俺たちは何をしてんだ。本当に真実に向かってんのか?それとも遠ざかってんのか?同じ所を回ってるだけじゃねえのか?議論は進んでんのか膠着してんのか、意味があるのかねえのか、分からなくなってくる。

 

 「電池・・・ではないか。点火時、犯人は既に現場を離れてた可能性が高い」

 「栽培室にコンセントはなかったんだろ?時限式の電力装置ってことか?」

 「しかし他に機械らしき焼遺物はなかった。あるタイミングで電力を供給したのか、あるいは電流を阻害していた絶縁体を取り除いたのか・・・」

 「さっぱり分かりませんね!事件当時の犯人の動きも!どのように電気を生み出したのかも!何もかも!私たちは何も分からず、ただ絶望に飲み込まれていってしまうのでしょうか!」

 

 ちょっと議論が行き詰まると、すぐ穂谷は不吉なことを言い出す。だが実際、俺たちに進むべき道はないように思えてくる。話し合いで分かることは、犯人の行動とは関係ないことばっかだ。笹戸は動けないまま火に焼かれて死んだ、火を生み出してから爆発までは全自動で、その間に犯人がどこで何をしてたのかは分からねえ。このままじゃマジでどうしようもねえ。

 

 「そもそも、私たちが分からないのは犯人だけではありません!私たちはもっと根本的なことを分かっていません!」

 「根本的なこと?なんだそれは」

 「貴女方は全て分かった気になっているのでしょう?ですが実際にはどれだけのことを知っているのですか?私は何も分かりません。今となっては彼の声すらも、曖昧なままです!」

 「彼って・・・?」

 

 急に饒舌になったと思ったら、穂谷は笑いながら言った。俺たちはまだほとんど何も明らかにできてない。だが根本的に分かってねえことってのはなんだ。犯人の正体か?事件が起きた理由か?この裁判の行方か?

 穂谷の口から飛び出したのは、そのどれでもなかった。

 

 「私たちは彼について・・・笹戸優真君について一体どれほどのことを知っているというのでしょうか!?」

 

 この発言から裁判が一気に動き出すなんて・・・その先に待ち受けてた真実なんて、俺たちは予想だにしていなかった。この事件が、俺たちが思ってる以上にデカい意味を持ってることも、この時の俺たちはまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コロシアイ合宿生活』

生き残り人数:残り6人

 

  清水翔   六浜童琉   晴柳院命    【明尾奈美】

 

  望月藍  【石川彼方】 曽根崎弥一郎   【笹戸優真】

 

【有栖川薔薇】 穂谷円加  【飯出条治】 【古部来竜馬】

 

【屋良井照矢】【鳥木平助】 【滝山大王】【アンジェリーナ】




もっとさっくりいってしまわないか心配してたら、逆に文字数がえらいことに。これで半分とか自分がおそろしい。
なんでこんな長くなっちゃったんだろ。次はもっとスリムにしたいけど、どうせまたすごいことになるんだろうなあ・・・
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。