ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

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学級裁判編2

 じゃじゃじゃじゃーーーん!!オマエラ!!元気してる!?そう、モノクマだよ!学級裁判もとうとう五回目!人数は順調に減って六人にまでなってしまいました。そろそろ佳境かな?と思ったら裁判はまさかの膠着!今回の被害者は“超高校級の釣り人”笹戸優真くん!!え?知らない?そうだよね、だってホントに目立たない生徒だったもんね!!ボクも大した思い出ないや!!

 そんな地味な彼も死に方はかなり派手!!彼の死因はなんと焼死!!植物園の栽培室ごと燃えて死んじゃったんだよね!せっかくボクが可愛がってた猛毒植物たちも道連れになっちゃって・・・ホント悲しいよ。でもいいもんね!!モノクマフラワー改二と絶望さえあればボクは満足なの!!うぷぷぷぷ!!この先に待ち受けてる絶望と希望も、素敵なことになりそうだね!!

 何もかも燃えちゃって証拠も少ない上に、人数も少なくなって(しかも一人は使い物にならないwww)裁判はなかなか進まない。それでも少しずつクロは追い詰められ、シロは彷徨っていく!うぷぷぷぷ!クロ負けシロ負けどっちも勝てない!!それこそ絶望だよね!!うぷぷぷぷ!!うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私たちは笹戸君のことをどれほど知っていると言うのでしょうか!いいえ!私も貴女方も、彼のことを何も知らない!一体彼は誰だったのでしょうか!?」

 

 穂谷は歪に笑いながら高らかにそう叫ぶ。狂人の戯言だ、と切り捨てることはできなかった。その言葉には強い説得力があったからだ。もう死んじまってここにはいないあいつを、笹戸のことを、俺たちは本当に知ってると言えるのか?

 

 「今回の被害者は、“超高校級の釣り人”笹戸優真。希望ヶ峰学園の生徒だ」

 「そんなことは分かっている。そうではなく、笹戸という男がどういう人間だったのか、ということだろう」

 「確かにあんまりじっくり話したことないなあ。いつも一緒にいた滝山クンや明尾サンは・・・二人とももう死んじゃったや」

 

 ここにいる奴らは、合宿生活の中でほとんど笹戸と絡んでたことがない。死んでから気付くなんてのも皮肉な話だが、曽根崎すらもあの様子じゃ相当だったようだな。

 

 「私も、笹戸とじっくり話し合ったことはない。奴がなぜここにいるのかも、私には心当たりがない」

 「ど、どういうことですか・・・?」

 「この合宿に参加している私以外は全員、“超高校級の問題児”であるはずだ。しかし笹戸がそのように見られているとは到底思えない。奴は希望ヶ峰学園にとって、そんなに危険な存在だったのか?」

 「言われてみればそうだな。問題児っつっても色々だが、あいつはまだマシな方じゃねえか?少なくとも、学園から隔離されるほどヤバい奴には見えなかった」

 

 別に合わせてるわけでも、あいつに気を遣ってるわけでもない。マジで笹戸が“超高校級の問題児”にされる理由が、俺には分からねえ。自分で言うのもなんだが、俺や古部来みてえに人間性に問題があるわけじゃなく、石川や屋良井みてえに犯罪を犯してるわけでもなさそうだ。

 だったらあいつは、なんで俺たちと同じ扱いをされてるんだ?

 

 「そういえば、笹戸優真は確か、今回の動機である学園での記憶を取り戻していたな」

 「は、はい・・・急に思い出したようで、びっくりしましたぁ」

 「その内容について、聞いた者はいるか?」

 

 誰も手を挙げない。全員がお互いの顔を伺う。つまり、誰も聞いてねえってことだ。晴柳院なら聞いてるかも知れねえと思ったが、そうでもなかった。笹戸は誰にも自分の記憶のことを話さないまま死んじまった。今ではその内容は知る由もないってことか。

 

 「ま、動機なんざ知ったところでどうにかなるもんじゃねえし、あいつの記憶が事件と関係してるとも限らねえしな」

 「果たしてそうでしょうか!?記憶を取り戻したからこそ、今回貴方がたの誰かはこのような事件を起こしたのではありませんか!?内容すら知らないのに、笹戸君の記憶に手掛かりがないなどとなぜ言い切れるのですか!」

 「そうだよね。それに、知ることはできないけど、推測することならできるよ」

 

 単純に穂谷はうるせえ。死んじまった奴の頭の中のことを推測するっつったって、一体どんな手掛かりがあるってんだ。

 

 「記憶を取り戻したことが確定してるのは、清水クンと六浜サンと笹戸クンの三人だ。清水クンと六浜サンの記憶の内容は聞いたよ。それと、その引き金になったパスワードも」

 「私が“希望ヶ峰学園史上最大最悪の事件”で、学園で最も恐怖した記憶。清水が“超高校級の絶望”で、学園で最も困惑した記憶だったな」

 「困惑っつうかなんつうか・・・まあ違いねえけどよ」

 「内容から察するに、パスワードと記憶の中身は強く関係してるよね。詳しいことまでは無理だけど、だいたい何に関する記憶かは分かるんじゃないかな」

 「それは既に共有事項ではなかったのか?」

 「う、うちは知りませんでした・・・ごめんなさい」

 「つまり、笹戸が記憶を取り戻したパスワードが分かりゃ、あいつが何を思い出したのか、だいたいの予想がつくってことか?」

 「手掛かりレベルだけどね。ボクもはっきりとは言えないや」

 

 だが今はマジで手掛かりも何もない。少しでも可能性があるんなら、それに頼るしかねえ状況だ。厄介だな。ろくに話したことも、知りもしない奴が死んだら、こんなにも分からねえことだらけになるのか。せめて何を思い出したのかくらいは言っとけっつうんだ。

 

 「問題は、笹戸優真が何を以て記憶を取り戻したか、その手掛かりがないことだ。おそらくファイルの中の一部だと考えられるが、それでも五冊ある内のいずれかかは不明だ」

 「ではこのやり方はダメですね。手掛かりの手掛かりがないのですから、お話しになりません」

 「・・・そうでもねえんじゃねえか?」

 

 何かを知ろうとすると、それを知るための手段を探すところから始まるのが厄介だ。だが、今回の場合は、意外とすんなりいくかも知れねえ。笹戸が何を見て記憶を取り戻したか、はっきりと知ってるはずの奴がいるからだ。そいつに聞けば案外パスワードくらいはすぐ分かるかも知れねえ。

 

 「お前なら、知ってるはずだ」

 

 

 《人物指名》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あっ・・・あの、えっと・・・ちゃんと覚えてるか分かりませんけど・・・」

 

 俺の視線を感じ取ったのか、晴柳院はそう返した。ファイルを見た笹戸が記憶を取り戻して声をあげた時、こいつも一緒にいたはずだ。パスワードが分からなくても、どのファイルのどのページを読んでたのかくらいは分かるはずだ。

 

 「構わない。少しでも思い付くものがあれば、なんでも言ってくれ」

 「まず・・・笹戸さんが読んではったんは、“超高校級の絶望”が起こした事件についてのファイルです。確か、うちらと同じような状況になってた人たちのページを見てました・・・」

 「ということは、『コロシアイ学園生活』または『コロシアイ修学旅行』についての記述のいずれかということになるが・・・それは確かなのか、晴柳院」

 「は、はい・・・」

 

 俺たちと同じように、希望ヶ峰学園の生徒たちが閉じ込められてコロシアイを強要された事件が、過去に二度もあったらしい。それについて晴柳院に聞く前に、六浜が念を押した。それがなぜかは俺にだって分かる。その2つのコロシアイが起きたのは、『旧希望ヶ峰学園』での話だからだ。

 “超高校級の絶望”、『人類史上最大最悪の絶望的事件』、江ノ島盾子・・・その時代の希望ヶ峰学園は、一度完全に崩壊した。そして今の希望ヶ峰学園は、その絶望との戦いの中で生まれた、『未来機関』って奴らが新たに建てたもんだ。全部ファイルに書いてあった。つまり、『コロシアイ学園生活』も『コロシアイ修学旅行』もずっと昔の、今とは別もんの希望ヶ峰学園で起きた出来事ってことだ。

 

 「『旧』希望ヶ峰学園が壊滅してから『現』希望ヶ峰学園が建てられて、今に至るわけだ。そこには数十年では足りない程の歴史がある。『現』学園すら既に、晴柳院家当主が三世代にわたって入学するくらいには歴史がある」

 「うちはまだ当主と違いますけど・・・で、でもお爺様とお父様は卒業生です・・・」

 「ファイルにある『コロシアイ』はどっちも『旧』学園での出来事だ。そんな昔の出来事と、なんで笹戸クンが関係してるのかな?」

 「デタラメを言っているのではありませんか?」

 「で、でたらめとちゃいます!う、うち・・・見ました・・・。笹戸さんが記憶を取り戻したところ・・・そのページも・・・」

 

 そう言えば、捜査時間中に曽根崎が晴柳院を資料館に連れてってたな。もしかしたらあの時、自分の調べ物のついでに晴柳院にファイルの話をしてたのかも知れねえ。またこいつの先読みが功を奏したってわけか。気に食わねえな。

 

 「実際のファイルも持ってきたよ。晴柳院サン、ちょっと写真がキツいかも知れないけど、そのページを教えてくれる?」

 「はい・・・」

 

 曽根崎から真っ黒なファイルを受け取って、晴柳院がページをめくる。そこに載ってるのは、過去のコロシアイの記録だ。死体はもちろん、凶器や動機、殺人の経緯に、クロが受けた処刑の様子まで載ってる悪趣味っぷりだ。特に晴柳院にはキツいもんがあるはずだ。それでも晴柳院は、顔を苦痛に歪めながら、ページをめくる。そして、笹戸の記憶のパスワードが載っているページを見つけた。

 

 「あっ・・・!こ、これです・・・!笹戸さんの記憶に関係してるページは・・・・・・こ、ここです」

 

 よっぽど凄惨な写真が載ってるんだろう。より一層表情を険しくして、晴柳院は震えながらそのページを開いたまま、ファイルを俺たちの方へ向けた。薄暗い中で真っ赤に弾けた血飛沫が毒々しい写真を。四肢を縛られ、槍で腹を一突きにされた無惨な男の死体の写真を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「『コロシアイ修学旅行』。事件No.5。被害者は“超高校級の幸運”、狛枝凪斗。クロは“超高校級のゲーマー”、七海千秋。被害者の死因は毒性の気体を吸引したことによる毒死」

 

 六浜が、その事件の概要を読み上げる。話を聞くと、その『コロシアイ修学旅行』ってのは“超高校級の絶望”15人を更正させるために作られた仮想空間内で起きた事件らしい。そしてその七海千秋って奴は実際の生徒じゃなく、ゲーム内で生徒たちを監視するために作られたコンピュータープログラムだとか。色々とブッ飛んでやがるな。プログラムごときが人を殺したってのかよ。

 

 「“超高校級の幸運”なら、ここにいる全員が知っているだろう。毎年一人、抽選で入学を許可される一般の高校生のことだ。狛枝凪斗は、旧希望ヶ峰学園の第77期生だ」

 「よくご存知で!なぜそんな大昔の生徒の名前など知っているのですか?妙ですね!」

 「希望ヶ峰学園の生徒会役員、それも学生課だぞ。第1期生から現在の生徒たちまで、顔と名前、“才能”くらいは覚えていて当然だ」

 「そりゃお前だけにしかできねえことだろうが。っつうか、このページが笹戸の記憶の手掛かりだとしても、何が記憶のパスワードなのか分からねえじゃねえか」

 「それがそうでもない」

 

 穂谷の言う通り、旧希望ヶ峰学園の生徒同士のコロシアイなんて、俺たちは普通知るはずがねえことだ。そもそも昔の希望ヶ峰学園でコロシアイが起きてたことすら、このファイルを見た時にはじめて知ったんだ。本当にここに書かれてる内容で、笹戸は記憶を取り戻したってのか?

 

 「この、狛枝凪斗という男はこの時点で確かに死んだ。だが、此奴はそれだけで終わるような男ではなかったのだ」

 「というと?」

 「普段の狛枝は、どちらかと言えば能天気で、マイペースな男だった。飄々と振る舞い、しかし人当たりが悪いようでもなかった。それも奴の一側面ではあったのだろう。だが、奴の真の顔はそれとはまた異なる」

 「真の顔?」

 「狛枝は“超高校級の才能”およびそれを有する希望ヶ峰学園の生徒というものを非常に強く崇めていた。“才能”を人類の希望と掲げる希望ヶ峰学園の思想を体現しているかのように、“才能”を『希望』として崇めていたようだ。反面、絶望というものを激しく嫌悪していたらしい」

 

 また妙な奴が出て来たな。“超高校級”ってのはみんなそうなのか?特に“才能”を崇めてたなんて、そいつと同じ世代じゃなくてよかった。たぶんその狛枝って奴と俺は、何があっても相容れないだろうからな。

 

 「私が知っているのはあくまで記録でしかないため確証がないことを前提に聞いて欲しい。狛枝のこの思想は希望ヶ峰学園の理念に近しいものだが、奴はこうした学級裁判の場において“才能”と“才能”がぶつかり合うことを促したり、『希望』のためには自らの命すら惜しまない危険な領域にまで発展していた。多くの者はこの考えを非難したが、賛同する者は僅かながら存在した」

 「そ、そんな怖い人がいたんですかぁ・・・」

 「“才能”だの希望だの、反吐が出そうな野郎だな。その上、学級裁判だの自分の命も惜しまねえだの・・・」

 「まるで“超高校級の絶望”のようですね!希望を愛するあまり、彼が嫌悪していた絶望と同じ行動を取るだなんて、それは果たして希望なのでしょうか!?或いは絶望なのでしょうか!?」

 「その思想に賛同してた人って、誰だか分かるの?」

 「個人では分からないが、狛枝の死後にその思想を受け継いだ生徒たちが集団で活動していたという事実は、いくつかの記録から推察できる。希望ヶ峰学園が再建された後にも、それらしき活動が窺える」

 「それほど影響力のある生徒だったのか。狛枝凪斗・・・初めて聞く名前だが」

 

 六浜自身が言ってるように、全部ただの記録だ。だがそんな記録が残ってる時点で、そいつがかなりヤバい奴だってことの証明になる。何が“才能”だ、何が『希望』だ。結局は自分の命を捨てようとしたり学級裁判を楽しんだりと、今の穂谷と何が違えんだ。完全にイカレてやがる。

 

 「って、その白ワカメがイカレ野郎だってことが、今回の事件とどう関係あるんだよ?」

 「通常、何十年も昔の、それも『旧』学園の生徒のことなど我々『新』学園の生徒が知るはずもない。私のように調べもしなければな。ならば、笹戸がこのページを見て記憶を取り戻したというのは、実に不可解ではないか?」

 「そりゃそうだね!それに今回の動機である記憶は、ボクたちの学園での一番の記憶!ちょっとやそっと調べた程度の知識が引き金になるわけがないね!」

 「と、というのは・・・?」

 

 まあ、俺の記憶とパスワードがそこまで俺に関わりあるかっつうと疑問だが、モノクマの気まぐれにいちいち理由なんか求めてらんねえし、笹戸とその狛枝ってのが関わり合いがあるのは確かだ。

 

 「笹戸が直に狛枝と接触したという可能性はあり得ない。本人はとうの昔に死亡している。ならば奴が関われる、狛枝に関連するものと言えば・・・」

 「さっき言ってた、狛枝の思想に賛同してた集団か」

 「そう見て間違いないな」

 

 俺の言葉に、六浜は淡白な肯定で返した。マジか、そんな単純なことなのか。

 

 「希望ヶ峰学園内には、生徒が組んだ集団がいくつも存在する。公的に認可された部活動や委員会をはじめ、明確な学園の敵である“超高校級の絶望”までな。笹戸が関わった集団もその一つだ」

 「少しお待ち下さる?なにやら勝手に話が進んでいますが、今確実に言えることは、笹戸君はこのページを見て記憶を取り戻したということ。ならばその狛枝凪斗とかいう生徒以外のパスワードの可能性はありませんこと!?」

 「ない、とみていいだろう」

 「ほう・・・貴女が言うからには、論理的な説明ができるのですよね?望月さん!?ええっ!?」

 「なんでキレてんだよ」

 「無論だ。このページから抜き出せるパスワードの候補は、『狛枝凪斗、七海千秋、アルターエゴ、“超高校級の絶望”、未来機関』の五つだ」

 「ま、他にそれらしい言葉もねえしな」

 

 いきなり話をぶった切ってきた穂谷に応戦したのは、望月だった。こいつは意外と六浜の説に賛成してるようだ。不確定なことがあるから、てっきり疑ってくると思ってたんだが。

 

 「ファイルを読む限り、七海千秋とはプログラム上の存在で実体を持たない。また、この『コロシアイ修学旅行』で完全に消去されたという。故に笹戸優真が関わることは不可能だ」

 「プログラムなのでしょう!?いくらでも複製したり再生したりして同じものを量産することが可能なのでは!?」

 「七海千秋は、アルターエゴと呼ばれるプログラムを基にしているらしい。これを開発したのは『旧』学園の生徒であり、『コロシアイ修学旅行』の時点では既に死亡している。同様のプログラムの作製はほぼ不可能ということだ」

 「七海千秋、アルターエゴ、ともにパスワードとして考えにくいというわけか」

 「“超高校級の絶望”は俺のパスワードだし、笹戸は反応してなかったよな。これもなし」

 「まだあるではありませんか!この、未来機関とはどういうことですか!?学園の運営者である未来機関がなぜパスワードになり得るのですか!?」

 

 ヒステリックに穂谷が叫ぶ。未来機関ってのは、『新』学園を運営してる団体だ。『旧』学園の卒業生が中心になって活動してるとか色々聞くが、これがパスワードになることなんてあんのか?こんなもん、気にはならなくても忘れることはねえだろ。

 

 「なり得るのではない、既になっている」

 「・・・はい?」

 「ボクだよ」

 

 妙に勿体ぶった言い方をした望月のフォローをするように、曽根崎が手を挙げた。その二人だけ、目配せして意図が伝わったらしい。俺らはなにがなんだか分からねえ。何が曽根崎なんだ?既になってるって、どういうことだ?

 

 「未来機関は、ボクの記憶のパスワードだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 記憶のパスワード、それってつまり、曽根崎は記憶を取り戻してたってことか?いつの間に?っていうか、なんで記憶が戻ったことを言わねえんだよ。なんで望月だけはそれを知ってんだ?

 

 「ど、どういうことですか・・・?うち、曽根崎さんが記憶を取り戻したなんて・・・は、はじめて聞きましたけど・・・」

 「・・・あはっ、ごめんね。隠してた」

 「ならば、なぜいま暴露した」

 「議論が横道に逸れちゃいそうだったし、穂谷サンを納得させるには一番手っ取り早いと思ったからさ。どの道もう少ししたら言うつもりだったし」

 「なんで望月は知ってやがる」

 「記憶が戻ったって見抜かれたんだよ。いやあ、まさか望月サンにバレるとはね」

 

 相変わらず飄々としてやがる。こんな状況では、少しでも自分に疑いが向くようなことは避けるべきだってのに、隠し事してたのを何の遠慮もなく開き直りやがった。肝が座ってんのこ、何も考えてねえのか・・・或いは、まだ何か隠してやがるのか。

 

 「だったら曽根崎、お前の記憶はなんなんだ。未来機関がパスワードってことは、テメエ学園と何かあったのか」

 「・・・それは・・・・・・禁則事項ですっ」

 「あ?」

 「今はまだ言えないよ。ボクにも事情があるのさ。それに学級裁判中でしょ。とにかく、これで笹戸クンのパスワードは狛枝凪斗だってはっきりしたね!」

 

 なんの真似だそれは。記憶を取り戻したってことだけ打ち明けて、内容までは言えねえだと?しかも強引に裁判を本筋に戻した。なんなんだこいつ。

 

 「笹戸クンは狛枝凪斗の思想を受け継いだ団体と関わりがあった。それは間違いないね!」

 「で、でも笹戸さんがどれくらい関わってたかまでは分からんのとちゃいますか・・・?」

 「清水翔のように勧誘された程度の関わり合いということも考えられる。或いは・・・」

 「その集団に所属してたとか?」

 「まあ!笹戸君がですか!?あの笹戸君が、そんな得体の知れない団体にですか!?突拍子もない荒唐無稽な推測ですね!」

 「案外、そうでもないかも知れん」

 

 笹戸のパスワードが分かったところで、あいつがその集団とどれくらい関わってたのかは分からねえはずだ。俺だって“超高校級の絶望”とはあれっきりなのに、そんなん推測もクソもねえんじゃねえのか。

 

 「私はこのファイルを読んだのは今が初めてだ。その上で、率直な感想を言わせてもらう」

 「感想?殺人の記録に感想文を出すのですか!最近の夏休みの宿題は過激なのですね!」

 「この、狛枝凪斗が殺害された事件、そして今回笹戸が殺害された事件。死因こそ違えど、妙に共通点が多い」

 「共通点?」

 

 俺はそのファイルを流し読みしただけだから、事件の細けえ部分なんか覚えてねえ。共通点が多いって、狛枝の死因は毒殺で、笹戸の死因は焼殺だろ。全然違うようにしか思えねえが。

 

 「まず、狛枝凪斗の死因は毒だ。摂取すればたちまち意識を混濁させ、死に至らしめる強力な猛毒だという。今回、直接の死因ではないが笹戸も毒を摂っている」

 「ああ、あの毒キノコだね。まあ確かに」

 「笹戸は栽培室の火災で殺害されたが、狛枝凪斗の事件でも火が使われたそうだ。撹乱するためのものでしかないがな」

 「ど、毒と火・・・た、確かに一致してますけど・・・」

 「それだけではない」

 

 毒だけだったら。火だけだったら。たまたま一致しただけだろうで済ませられた。だがその二つが、まるで死因を交換したように一致するなんて。しかも六浜はまだ他の共通点を見つけてるらしい。

 

 「狛枝凪斗はモノクマ製造工場倉庫の奥で、笹戸は植物園内栽培室の奥で、それぞれ気付かなければ発見が難しい場所で死亡している。にもかかわらず、狛枝と笹戸の事件は共に、その付近に生存者を誘導するような手法がとられている。また、現場に大音量の音楽がかかっていた点も同じだ」

 

 ただの偶然だ、と切り捨てられる奴はいただろうか。無関係な奴が人を殺そうとして、ここまで何かが一致するような偶然があるのか。こんな、まるで・・・。

 

 「まるで狛枝君の事件をオマージュしているようですね!見立て殺人?模倣殺人?いいえ!これはもはや、再現に近いです!」

 「過去の殺人の再現・・・悪趣味だけど、確かにそうみえてくる。というか、もはやそうにしか思えないね」

 「つ、つまり笹戸さんは狛枝さんの事件を再現するために殺された・・・?なんのために?」

 「それは・・・」

 「納得できるか!」

 

 二つの事件の共通点、それが意味することは、はっきりとは分からない。だがそこに何か関係があることは確かに分かる。笹戸が死んだこの事件は、この合宿場内で終わる話なんかじゃなかった。もっと昔から、希望ヶ峰学園と“絶望”との戦いに根深く絡んだ事件なんだ。

 その考えに染まりつつある裁判場に、俺は一人だけ異を唱えた。このままじゃ、勘違いしたまま裁判が進んじまう。

 

 「ちょっと待てよ。確かに毒や火の共通点はあるかも知れねえが、だからってこの二つの事件が関係してるなんて言えんのか?」

 「あれ?清水クンは割と納得してくれてると思ったのに、反論なんかしちゃうんだ」

 「当たり前だ。そもそも、テメエらは目の付け所を間違えてる。根本から間違えてんだよ!俺が分からせてやる!」

 「いいだろう。私に好きなだけぶつければいい、お前の言葉を!」

 

 

 《反論ショーダウン》

 

 「笹戸の死に様と狛枝の死に様が似通ってるってことは、六浜の言う通りだ。こいつらの殺され方はそっくりだ」

 「ならば何も反論する余地はないだろう。笹戸はなんらかの形で狛枝凪斗という生徒を記憶に刻みつけている。そしてこの事件の共通性・・・もはやこの二人の関係がかなり深いものであるとの推測に揺らぎはないぞ!」

 「バカか!俺が言いてえのはそこじゃねえ!そのファイルにある事件では、狛枝は被害者なんだろ!?笹戸も今回、殺された側だ!だったら考えるべきは被害者の共通性じゃなくて、クロと“狛枝を殺した奴”との共通点じゃねえのか!」

 「斬らせてもらう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言いたいことは全部言った。絶対に六浜なら、俺の言わんとしてることの意味を理解したはずだ。その上でこいつは、俺の反論を潰せると言う。意味が分からん。殺し方が似てるのは、殺した奴の問題じゃねえのか。俺も途中まで気付かなかったが、被害者が何をしたって、殺した方を似せることなんてできるはずがねえのに・・・。

 

 「この事件の概要は、はじめに話したな。被害者は“超高校級の幸運”狛枝凪斗、クロは“超高校級のゲーマー”七海千秋。この七海千秋は、プログラム上の存在だ」

 「それがどうした」

 「『希望更生プログラム』。未来機関が“超高校級の絶望”の残党に与えた、精神更生のプログラムだ。七海千秋はその監視役である。すなわち、本来ならば殺人などするはずがないのだ。どのような理由があろうとな」

 「ですが、彼女は殺人に手を染めてしまった!絶望に侵されてしまったのでしょうか!?あるいはバグかなにかで!?」

 「厳密に言えば、七海千秋は狛枝を殺したのではない。狛枝に殺させられたのだ」

 「・・・ん?」

 

 いま、聞きなれねえ言葉を聞いた気がする。いや、聞こえるわけがねえ。そんなバカみてえな言葉。だってそうすると、おかしなことになるだろ。殺させられたって、そんなこと。

 

 「狛枝は己の思想を貫こうとしたのだ。自分自身と、七海千秋を除く“超高校級の絶望”全員の死亡を以って、“絶望”を駆逐しようとした」

 

 イカレてやがる。

 

 「そして学級裁判のルールを利用するため、七海が自分を殺すように現場と凶器を用意し、誘導して、自分自身を殺させた」

 

 マジで、狂ってやがる。

 

 「犯人すら殺害方法の分からない中での学級裁判・・・限りなく自殺に近い他殺の体をとった自殺という名の他殺。それがこの事件の真相だ」

 

 希望のために、絶望と自分を殺させるだなんて・・・そんな絶望的に理解の範疇を超えたこと、あり得ねえ。

 

 「な、なな・・・なんですか・・・それ・・・?そんな・・・・・・お、おそろしいこと・・・!」

 「希望を愛した絶望の末路、か。反吐が出るような話だね。結局やることは絶望と同じじゃないか。そんな希望なら、いらないよ」

 「これが清水の反論への答え。そして、この事件の核に触れる話だ」

 「えっ?」

 

 イカレ野郎だとは思ってたが、そこまでだとは思わなかった。こんな奴がかつて希望ヶ峰学園にいて、しかも俺たちと同じようにコロシアイを強いられて、死んでったなんて、そんな現実がどうしても信じられなかった。そして六浜は続ける、この事件の核に迫っていく。

 

 「狛枝の事件と笹戸の事件は酷似している。そして狛枝は、自分自身を殺させるために事件を起こした。そうなれば、浮き上がる可能性は一つだ」

 

 バラバラになっていたピースが一つになるような。今まで繋がりを持たなかった点が、急に一つのストーリーに組み込まれていくような。一瞬にして全てが頭に流れ込む感覚、脳の奥から湧き上がる感覚。

 こんな事実じゃなければ、もう少し感動できたのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「全部・・・笹戸が仕組んだってことかよ・・・!この事件も・・・!」

 「そ、そんな・・・!笹戸さんがそんな・・・そんなことを・・・!?」

 「うふ、うふふ、うふふふふふふ!!それが真実だとすれば、なんと皮肉な話でしょうか!!誰よりも命を尊び、コロシアイを拒絶していた笹戸君が、自らの命を捨てるだなんて!!それほどまでになっていたとは、彼もまた絶望していたということですね!!」

 

 この不可解で難解な事件を裏から操っていたのは、被害者である笹戸自身だってのかよ。狛枝がやったように、笹戸も自分の命を捨てるようなマネまでして、貫きたい何かがあったってことなのかよ・・・!

 あいつがそこまで追い詰められてて・・・なんで俺は何も気付けなかったんだよ!!

 

 「ということは今回の事件の犯人は、被害者である笹戸君ということですか!!こうなると処刑はどうなるのですか!?代わりに彼の釣竿でもへし折るのですか!?」

 「いや、クロは笹戸クンじゃないよ。だよね、モノクマ?」

 「うーん、自殺の場合は被害者がクロになるから、その質問は自殺か他殺かを問うに等しいんだけど・・・まいっか!そうですよ!クロはきちんと、オマエラの中に潜んでいます!」

 「え、えっとお・・・よく分からんくなってきたんですけど・・・」

 「狛枝は他人が自分を殺害するように誘導したのであって、直接手を下すというクロの条件を満たさない。笹戸も同様に、自ら火を点けない限りは、クロになり得ない。すなわち、自殺の扱いにはならないということだ」

 

 めちゃくちゃじゃねえか。笹戸は死ぬつもりで、誰かに殺人にをさせたんだろうが。だったらクロになってる奴は、完全なとばっちりじゃねえか。そんなんで命かけさせられんのか。やっぱこいつらの論理はイカレてる。

 

 「理解不能だ。思想を突き通すだとか、第三者に殺害させるだとか、自らが死亡することを交換可能な取引材料とみなす考え方が、率直に言って異常だ。生物である以上、一部例外を除き、自身の死は絶対に避けるべきことだ。でなければ医学など生まれない」

 「・・・あるんだよ、世界にはね。命を賭けても譲れないものが」

 

 望月の言うことはもっともだが、今じゃその言葉に説得力はない。この合宿場では何が起きてもおかしくねえ。他人のために死んでった奴だっている。命を賭けて消えてった奴らもいる。ここでは、命の価値は途轍もなく軽くなる。

 

 「そ、それじゃあ・・・・・・笹戸さんは、うちらの誰かに自分を殺させたっていうことですか・・・?一体、誰に・・・?」

 「それが分からないことが、最大の問題だ。どうやって殺させたのか、誰が殺させたのか。被害者が全てを握っていたのでは、突き止めようがない」

 「誰が、は一旦置いといてさ、笹戸クンが糸を引いてた前提で、どうやって殺させたか、を考えてみようよ」

 

 結局、考えることは同じだ。誰が笹戸を殺したのか・・・誰が笹戸に殺させられたのか。それを突き止めるまで、この裁判は終わらねえ。

 そして曽根崎の進言で、まずは笹戸の死と現場の状況についてさらうことにした。

 

 「まず笹戸クンは、栽培室の奥で死んでた。側には神経性の毒を持つキノコがあって、たぶん笹戸クンは自分であれを食べたんだろうね」

 「それだけでかなり常軌を逸しているがな・・・。現場に巻かれた油と、爆薬代わりのスプレー缶も自ら用意したのだろう」

 「そしてシャーペンの芯を使った回路で点火をし、後はあらかじめ爆発音をかき消すために音量を設定した音楽で時間を稼いだというわけですね!」

 「問題は、どうやって回路に電流を流したかっつうことだな・・・」

 

 火事の火元、爆発の原因、点火の仕方。散々話しあって少しずつ分かってきたが、それでもまだ最後の部分が分からねえ。点火に必要な電気を、どうやって引いてきたのかが分からん。

 

 「仮に笹戸優真が第三者に自身を殺害させたのだとしたら、犯人が介入できるのはその電気を生み出す行為だろう。そこから連鎖的に火事が起これば、自動殺人の仕掛けが発動するというわけだ」

 「電気を生み出すっつったって、んなこと普通にしててやるわけねえだろ」

 「た、たとえば雷とか静電気みたいなのを利用するとか・・・そしたら電気を生み出せませんか?」

 「かなり不確定だな。落雷の地点とタイミングを予測するのも手間がかかるのに、静電気など予測を立てるだけで日が暮れる」

 「普通は無理って言うところだけどね」

 「そもそも電気を生み出せたとして、どうやって殺意のないクロに栽培室の機械まで電気を通させるのですか!?」

 「それも問題なのだ。クロ自身に殺意がない、殺害に気付いていない。それだけでトリックの構築は格段に困難になる」

 

 むちゃくちゃだろ、そんなこと。自分が人を殺したことにすら気付かないまま、電気を生み出して、しかもそれを栽培室のわけの分からん機械にまで通すなんて。そもそもあの機械はなんなんだ。ただの回路ならどんな機械だっていいはずだ。あの機械にはそれ以上に何かあったんじゃねえのか。笹戸がトリックを作る上で、都合のいい何かが。

 

 「・・・そもそもあんな機械、この合宿場のどこから持ってきたんだ?」

 

 この合宿場には、自分が学園で使ってたものくらいしか持ち込めねえ。配られた電子生徒手帳は改造不可能だし、他に機械なんてねえ。あいつが元から何かの機械を持ってたか?いや、俺はあいつの部屋を捜査したことがある。そんなもんはなかった。じゃあ、あいつがあの機械を手に入れられた場所は・・・。

 

 「・・・モノモノマシーン、しかねえな」

 

 そう言えばこの前、笹戸は大量のカプセルを持て余してた。あのカプセルの中に何らかの機械が混ざっててもおかしくねえ。いや、俺は一つだけ確実に知ってる。モノモノマシーンから出てくる機械を。

 

 「あのラジコンか・・・!!」

 

 笹戸からもらったカプセルから出てきた、ちゃちいラジコン。あれは確か電気で動く代物だった。板金とネジなんてしょうもねえ造りだったから、ドライバーがあれば簡単に分解して機械を取り出すことができるはずだ。

 

 「もしそうなら、あの機械を使ったんなら・・・!できる!」

 「どうしたの清水クン?」

 「できるんだよ、栽培室まで行かなくても電気を通す方法がある。笹戸は、ラジコンのモーターを使ったんだ」

 「ラジコン?そんなものがどこにあるのだ?」

 「あいつは死ぬ何日か前に、アホみてえにモノモノマシーンを引いてた。俺はその内のいくつかをもらったんだが、ラジコンがあったんだ。笹戸が同じものを持ってても不思議じゃねえ」

 

 そしてシャー芯を繋いだ回路が使われてるのは、ラジコンのモーター部分の機械のはずだ。それを使えば、犯人に気付かれないまま、回路に電気を流すことができる。ラジコンの特性を活かせばできる・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ラジコンのモーターの回路を設置しておけば、犯人が別の場所で生み出した電気で遠隔操作ができる。そうすれば、栽培室から離れてても犯人に仕掛けを発動させられるじゃねえか」

 「なるほど!ラジコンで遠隔操作かあ!そんなものがあるなんて知らなかったし、なきゃ思い付かないよねそんなこと!」

 「現場におらずして仕掛けを発動させることができるのは、笹戸にとってありがたかったはずだ。犯人自身に犯行を自覚させない点において、これ以上のものはないだろう」

 「しかしそれでも、電源は栽培室内部から外部に移動しただけだ。笹戸優真がどのように電源を起動させる方法をとったのかが不明なままだ」

 

 笹戸が誰かを誘導した以上、犯人は栽培室には近付かずに犯行をやらされたことになる。中に入れば、油まみれの床と毒で痺れた笹戸がいるはずだ。そんなもんを見て放っておくような奴は・・・いねえはずだ。だが栽培室の外なら、電気を引くのはいくらか簡単になるはずだ。

 

 「栽培室の外に電源を持って行っていいなら、やり方はいくらでもあるね!犯行の幅が広がった!」

 「で、でもますますわけわからんくなってまったような・・・」

 「しかし、犯人が意図せず仕掛けを発動させられたということは変わらん。おまけに笹戸は、ラジコンのコントローラーを使ったのだろう。どうカムフラージュしても、それを犯人自身の手で起動させることは難しいのではないか?」

 

 電源が離れることは笹戸にとって便利だったかも知れねえが、六浜の言う通りでもある。笹戸は犯人が仕掛けを発動するように誘導したはずだ。だったら、これ以上複雑な仕掛けを作ったりしたら、失敗する可能性も高まる上に、犯人が違和感を抱くかも知れねえ。

 

 「栽培室から離れた場所で電気を生み出すというのは納得だ。しかし離れ過ぎればコントローラーからの電波が受信できなくなったりなど、万が一の際に笹戸優真は何もできなくなる」

 「毒キノコで行動不能になるくらいですからね!相当自信があったのでしょう!」

 「っていうことは・・・栽培室の外ではありますけど、あんまりそこからは離れてない場所に・・・そういう仕掛けがしてあったいうことですか・・・?」

 「そうなるね」

 

 計画を悟られないように栽培室からは離れた場所で、だが時間や仕掛けの制約があるせいでそこまで遠くにはならねえ場所。そうなると、電源があったのは自ずと栽培室があった植物園の中に絞られてくる。だが植物園内で笹戸が自由に使える電源なんてなかったはずだ。そもそも寄宿舎の個室にあるコンセント以外の電気系統は、ほとんどがモノクマの支配下にある。

 

 「既に合宿場内に存在している電気系統からの電気の供給はほぼ不可能だ」

 「ええっ!?そ、そこから否定してまうんですかあ!?」

 「モノクマの支配下にある電気を改造するなんてこと、笹戸クンにはできないよね。だからもし電気を持ってきたいなら、他の手段を考えるしかないよね」

 

 電池を使った装置で、犯人にスイッチを入れさせるって方法もある。だがそれだと犯人が、スイッチを入れるって行為に疑問を感じる可能性がある。抜けたプラグをコンセントに指すくらいの自然な行動じゃねえと。だが既にある電気を使えねえんだとしたら、笹戸が、犯人が使える電気なんて・・・。

 

 「18世紀フランスの王妃、マリー・アントワネットは言いました。『パンがなければケーキを食べればいいじゃない』。高い身分の女性が庶民の貧しい暮らしを理解していない愚かな言葉として有名ですが、私はそうは思いません!食べ物にも困るような生活をするくらいなら、どんな手段を使ってでも私のいるところまでのし上がってくればいいではないですかと!!そして累々と横たわる飢えた庶民の亡骸を眺めながら共にケーキを食べようではありませんかと!!そういう意味で言ったのだと思います!!」

 「またおかしなことを」

 「気にしたら負けだよ、言わせておけばそのうち収まるよ」

 

 ちょっとの間まともな議論ができてると思ったら、いきなり穂谷がわけの分からねえことをまた言いだした。クソが。黙ってろや。くだらねえこと言ってねえでどうやって電気を生み出すことができるかを考えやがれってんだ。

 

 「欲しいものがないのならば、自ら掴み取ればいいのです!!必要なものがないのならば、自ら作り出せばいいのです!!そのためならば他人を蹴落とそうが陥れようが、なんら問題ありません!!」

 「考え方がヤバい方向に行き始めてるね」

 「作り出せばいいって、作れもしねえから困って・・・」

 

 作り出せばいい、その言葉が妙に引っかかった。と思った瞬間、頭の中で閃光が弾けた。だがどうやってそんなことができるんだと少し考える。ひとつだけ、その考えを裏付けるようなもんが浮かんだ。そう言えば、あれはまだ話に上がってねえ。

 

 「おい、もしもだが・・・もし、電気を作ることができるとしたら、この計画はかなりやりやすくなるよな?」

 「え?電気を作る?」

 「発電ということか?発電自体は不可能ではないが、それには他のエネルギーをどこかから供給し、基本的には水または水蒸気によりタービンを回すことによって」

 「・・・なにか、根拠か心当たりがあるのか?」

 

 また長々と解説しそうになる望月を制するように、六浜が短く質問した。根拠ってほど大層なもんじゃねえし、心当たりってほど薄ぼんやりとしたもんじゃねえ。ただ、思い当たるもんはある。

 

 「植物園のドアの内側に、でけえ磁石が貼り付けてあった。なんなのか分からねえが、結構強力なやつだった」

 「磁石・・・だと?そうか・・・・・・ならば、そういうことか」

 「どういうことですか!?ご自分一人で納得してしまわないでくださいな!!」

 「電気を生み出したという清水の仮説だが、おそらく的中している」

 「ええっ!?ほ、ほんまに電気を作ったんですかあ!?どうやってそんなこと・・・」

 

 電気を作るなんてこと、どうやったらできんのか。火力発電だの水力発電だの、あんな大がかりな装置が必要になるって思っちまう。だがもっと簡単に、単純な仕掛けで電気を生み出すことだってできる。それこそ、中学生レベルの知識でだって可能だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「電磁誘導だ」

 「へ・・・?で、でんじ・・・?」

 「あっ・・・ああああっ!!その手があったかあああああっ!!!」

 

 六浜の言葉に、曽根崎は仰け反って叫び、望月はまた何かを考え初め、晴柳院と穂谷は首を傾げた。俺だってあいつがなんて言ったか分からねえ。だが、たぶん考えてることは同じだ。中坊の頃の『努力』がこんな風に活きてくるなんて思いもしなかった。気に入らねえ。

 

 「あのう・・・でんじなんとかってなんですかぁ・・・?」

 「磁束の変化する環境下において、導体に電位差すなわち電圧が生じる現象のことだ。また、この現象によって発生した電流を誘導電流と呼ぶ」

 「えっとぉ・・・」

 「もっと分かりやすく平たい説明ができませんか!?」

 「要するに、磁石とコイルを使って電気を生み出すことができるということだ。中学校の理科で馴染みがあると思うのだが・・・忘れている者もいるようだな」

 「ご、ごめんなさい・・・」

 「そんな理屈っぽい話は私には似合いませんもの!もっと煌びやかで美しいものこそ私に似合う、違いませんこと!?」

 「知るか」

 

 俺だって大して覚えてねえが、六浜と曽根崎と望月はしっかり覚えてたようだ。テストでアホみてえに聞かれたから少しは思い出せる。磁石を動かして電流の向きがどうのこうのとか、そういう話だったな。

 

 「植物園のドアに磁石が貼り付けられていたのなら、笹戸がこの現象を利用したことが考えられる。ドアに磁石を貼り付けた状態で閉め、そばにコイルを設置しておく。そうすれば、磁石が動くことでコイルに電気が流れ、電流が生まれる」

 「しかしそんな実験教室まがいなことをしたところで、栽培室の仕掛けが発動するとは思えませんが!?」

 「電磁誘導の装置は多くの電気機器の動作原理だ。つまり、およそ電気機器と呼ばれるものならば、この装置を搭載しているということだ。ラジコンのコントローラーにも当然、コイルが内臓されている」

 「っていうことは磁石だけは別で用意して、コントローラーのコイルを側に設置したわけだよね。後はドアが勝手に開かれて磁石が動くのを待てばいいってわけか」

 「そうなるとこの事件・・・」

 「お待ちなさい!!」

 

 とうとう電気を生み出す仕掛けを明らかにできた。どうやって火事を起こしたのかって疑問からずるずると謎が続いてたが、ここでようやく最後だ。電気を生み出す仕掛けから火事までの一連の流れはもう分かった。後はそれを誰がやったのかってことになる。なのに、また穂谷が俺の話を止めた。なんなんだこいつは。

 

 「電磁誘導ですか!中学時代を思い出しますね!実に滑稽で愚かしく荒唐無稽な推理です!!いいえ、それはもはや推理とも呼べません!!」

 「なんだコラ、黙ってろ」

 「なぜなら貴方の推理には欠陥があるからです!!説明のつかない部分があるからです!!それを説明してから私に説き伏せられることですね!!」

 「なんだお前」

 

 

 《議論開始》

 

 「ドアに貼り付けた磁石と、ドアの側に置いたコイルで電気を生み出し、仕掛けを発動させた?うふ、うふふふふふ・・・・・・バカバカしいにもほどがありますね!!」

 「穂谷円加、何を根拠にそこまで否定する?」

 「あったりまえではありませんか!!仮にそのようにして電気を生み出したとしましょう!!そして笹戸クンは見事殺されることに成功したとしましょう!!ではその後で、どのようにして証拠を隠滅するというのですか!?」

 「証拠隠滅?どういうことだ?」

 「植物園のドア付近にそのような装置があれば、捜査時間に誰も気が付かないわけがないではありませんか!!みなさんは今まで4つもの殺人事件を解決してきた優秀なる“超高校級の問題児”たちなのでしょう!?その目をどのようにして誤魔化せるというのですか!!」

 「死亡した笹戸優真自身に隠滅は不可能だ。確かにそれは考えるべきだな」

 「考える必要などありません!!そんなものは誤った推測に過ぎないからです!!もし清水クンの説が正しいのならば、証拠となる装置がドアのそばに“残っているはず”なのです!!」

 「ちったあ考えろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その程度のことも考えつかねえのか。ここまで巧妙に手を尽くした笹戸が何もしないまま証拠を放置するわけがねえだろ。っつうかそんなモロに証拠っぽいもんが残ってたらここまで悩むこともなかったんだよ。

 

 「植物園のドアの近くの草むらには、何かを引きずったような跡が残ってた。誰かが草を踏んだ跡じゃねえかとも思ったが、今なら分かる。あれは、そのコイルを引きずった跡だ」

 「引きずった跡・・・コイルを引きずったって、どういうこと?」

 「どういうこともなにも、そのまんまじゃねえのか」

 「いや、笹戸クンは装置を設置することはできたと思うけど、回収はできなかったよね。だからどうやって証拠隠滅したのかなって。仕掛けを発動した上で装置を回収ってかなり難しいと思うんだけど」

 「うっ・・・け、けど草むらに変な跡があったのは絶対だ!」

 

 曽根崎に言われて思わずたじろいじまった。けど言ってることは筋が通ってる。事前にどんな準備をしようが、仕掛けが発動した後で笹戸は死ぬしかねえんだ。離れた場所にある装置を隠すなんてことできるわけがねえ。けど、だったらなんであんなところに磁石が貼り付けてあるんだ?どうやって電気を生み出すことができたってんだ?

 

 「できる。奴ならばな」

 「え?」

 「引きずった跡があるということは、装置は手で運ばれたのではなく、どこかへ無理矢理移動させられたということだ。それに、この事件を仕組んだのが笹戸だと言う前提があれば、その手段は自ずと導かれるだろう」

 

 極めて落ち着いてたのに、その口調はどこか痛みに耐えるような苦しみを感じた。この事件を笹戸が仕組んだってことが、装置を隠滅した手段のヒントになるって、どういうことだ。

 

 「事件を仕組んだのが笹戸って前提があれば分かること・・・?笹戸にしかできなかったことってことか?」

 

 いや、笹戸自身だって栽培室の中で動けねえ状態だったんだ。あいつにできることなら俺たちにだってできるはずだ。

 

 「笹戸だからこそできたことってことか?」

 

 笹戸だから・・・笹戸じゃねえとできねえこと?俺たちにはできなくて、笹戸だけにできること・・・あいつが誰よりも自信を持ってたこと。そんなもん、1つしかねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「釣り・・・?」

 「その通りだ」

 「釣り?何の話だ?」

 「笹戸が装置を回収した方法だ」

 「まさか、栽培室から釣り糸を伸ばして釣り上げたなんてことじゃないよね?」

 「そんなわけあるまい。奴は釣り竿を使ったのだ」

 

 笹戸から連想できることを言っただけなんだが、六浜的にはこれで十分だったらしい。釣りで証拠隠滅って、そもそも装置は陸の上にあるんだぞ。釣り竿を持つ奴もいねえ上に陸にある装置をどうやって釣るってんだ。

 

 「コイルを用いたコントローラーをドア付近に固定して設置し、釣り糸を繋いで釣り竿を遠く離れた場所に固定しておく。ドアが開かれると同時にコントローラーを固定していた釣り糸が切れるようにしておけば、ドアが開かれればコントローラーに電気が流れ、同時にコイルは釣り竿に向かって引きずられていく」

 「しかし、釣り糸は頑丈に作られている。ドアを開けた程度で切れるようなものでは」

 「ああっ!で、でもそうかもしれんです!笹戸さんの使ってはった釣り糸って、環境に優しいせいで切れやすかったんです!」

 「では回収した釣り竿と装置はどこへ消えたというのですか!そんなものが転がっていればすぐに気付くはずです!」

 「隠せる場所なら・・・あるだろう。園内に」

 

 行く末の分からねえ議論に俺たちが頭を悩ませる中、六浜の様子がさっきからおかしい。何かに耐えるような、必死に堪えるような表情をして、なんとか言葉を絞り出してるようだ。なんなんだ。こいつ、まだ何か隠してんのか?

 

 「園内には池があっただろう・・・!あの縁に釣り竿を固定しておけば・・・装置を回収した反動でともに池の中に落ちて沈む。池の中など・・・何かあると知らなければ誰が気にかけようかッ!」

 「六浜童琉?」

 「奴は利用したのだッ!!植物園を・・・!!あの場所にある何もかもを!!」

 「池の中に・・・そう言えばあそこのコイが珍しく跳ねてましたけど、落ちてきた装置にびっくりしてはったんですね・・・!」

 「ッ!!」

 「・・・?コイが、跳ねたの?」

 「ええ。そんなこと今までなかったからよう覚えてます」

 

 ぴくり、と裁判場の空気が変わった。六浜の雰囲気が変わったからじゃねえ。それよりもっと大きなうねりが、議論の中に生まれた気がした。

 

 「そうか・・・そうなんだね」

 「・・・」

 「これは、確定的だな」

 「え?え?」

 「何が確定的なのですか?」

 「お、おい・・・テメエらだけで勝手に納得してんな!俺らにも説明しろ!」

 

 辛そうに唇を噛む六浜、悲しそうに目を瞑る曽根崎、全てを理解しわずかに目が大きくなる望月。それ以外の俺たちは、こいつらが何を考えてるのかまだ分からない。確定的って、何が分かったんだ。どこで、何が、どうやって分かったんだ。

 

 「では、結論から言おう」

 

 誰も口を開こうとしない裁判場で、望月だけは淡々と続ける。そんないきなり分かったのかよ。俺たちが散々話しあって、まだ正体の掴めねえそれが、こいつらは今の一瞬で分かったってのかよ。結論って・・・まさか、こいつが次に口にするのは・・・この裁判の結論。つまり・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「晴柳院命。笹戸優真を殺害したクロは、お前だ」

 

 クロの名前だった。

 

 「・・・・・・・・・え?」

 

 返されるのは短い声。言葉にもならないほどか細い声。困惑と、恐怖と、驚愕と、混乱と、何がなんだか分からねえ感情の声。

 

 「な・・・なにが・・・・・・なにがですか・・・?」

 「笹戸優真を殺害したクロ、この殺人事件の犯人、今回の学級裁判で私たちが追及すべき存在。その正体がお前だ」

 

 ただ当然のことを言うように、望月は鋭い言葉を投げ続けた。まだ状況を理解することもできてない晴柳院に、突き刺さるような言葉を浴びせる。こいつはマジで、なんでこんなことができんだ。

 

 「なんで・・・なんでそんなこと言うんですかぁ・・・?う、うちは殺してなんか・・・!」

 「気付いていないのか?お前は既に、自供に等しい発言をしている」

 「えっ」

 

 戸惑う晴柳院に、望月はあくまで冷徹に言葉を吐く。それが当然のことだとでも言うように。いや、あいつにとっては当然のことなんだろう。人を殺した奴を、学級裁判で追及する。今まで何度も繰り返してきたことと同じ事を、今もしてるだけだ。あいつはそういう奴だ。

 

 「この事件は、笹戸優真による計画的犯行だ。これまでの仕掛けの性質上、クロとなる人物の条件はただ1つ。笹戸優真が植物園内に仕掛けを設置してから、最初に仕掛けが設置されたドアを開いて植物園に入った人物。これがクロだ」

 「・・・えっ?」

 「晴柳院命、お前は園内に祭壇を建てて、毎朝参拝していたそうだな。その事実を知る者はいても、お前より先に植物園に行く者はいなかった。当然、事件当日もお前は誰よりも早く植物園に入ったと考えられる。これは、お前がクロである十分な証拠ではないか?」

 「・・・・・・えっ?えっ?」

 「しかし、これだけではそれ以前に植物園に出入りした人物がいたことは否定できない。だがお前は他にも決定的な証拠を提出している。晴柳院命、ついさっきだ。お前は植物園の池で鯉が跳ねたと言ったな」

 「な、なんなんですかそれ・・・!?うちはそんなこと・・・!だって・・・!!」

 「事件当時、あの池に鯉はいなかったはずだ。いや、確実にいなかった」

 「あり得ません・・・!認めません・・・!納得できません・・・!だってうちは・・・うちは人殺しなんか・・・!!」

 「その前の晩に、笹戸優真が調理して、私たちが食したからだ」

 「絶対におかしいです!!う、うちは・・・笹戸さんを殺してなんかないです!!絶対に!!」

 

 まったく調子の変わらない望月に対して、晴柳院はどんどん必死に声を荒げていく。そりゃそうだ。俺たちは今まで目を背けてた、この残酷な真実から。こんなの誰が犯人だって同じだろう。

 笹戸は殺されたんじゃない。殺させたんだ。犯人は殺したんじゃない。殺させられたんだ。今までのクロは殺そうと思って殺したんだ。だがこの事件のクロは違う、殺すつもりなんかねえのに、命をかけて誰かを殺すつもりなんてまったくねえのに、無理矢理立たされたんだ。生きるか死ぬかの淵に。

 

 「否定するのも当然だな。この事件は晴柳院命の意思は一切介入していない。お前は、ただ仕掛けを発動させる存在としてだけこの事件に関与している。ただ、モノクマの尺度で捉えるならば、その仕掛けを利用して笹戸優真の死を引き起こした殺人者となる。それだけの話だろう」

 「そ・・・!?それ、だけって・・・!?それだけってなんですか・・・!それじゃあうちは・・・うちはどうなってまうんですか!!」

 「クロということは、この後の投票で最多得票者となり、処刑されるだろう」

 「しょ、処刑・・・!!?」

 

 なんでもないことのように言いやがる。それが当たり前のように。ふざけんな・・・そんな当たり前があってたまるか!晴柳院は・・・あいつが人を殺すなんてこと、信じられるかッ!!あんな虫も殺せねえような奴がッ!!

 

 「あはっ・・・あはははっ!!あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!」

 

 また笑い声が高まる。歪で甲高い金切り声が裁判場に響き渡る。

 

 「やはり私の見立ては間違っていませんでしたね!言ったではありませんか!!晴柳院さん、貴女が犯人だと!!」

 

 違う。穂谷が言ってたことは違う。こいつはただ闇雲に、何の根拠もなく晴柳院が犯人だって言ってたんだ。けど今はそれより最悪だ。根拠がある、証拠もある、確証もある。だが俺には、俺たちにはどうしたって信じられなかった。納得できなかった。できるわけがねえ。

 なんでこんな真実のせいで、晴柳院が死ぬ羽目にならなきゃならねえんだ。

 

 「で、でも・・・でもうちは・・・・・・!!うちはそんなこと・・・!!」

 「まだ納得できないのか?ならば、はじめから事件の詳細を説明していこう。そうすれば、納得できるはずだろう」

 

 それも、違う。お前が言う納得は、今までの推理を理解して正しいと受け入れることだろうが。それがその先にある処刑を意味することなんか、こいつはこれっぽっちも考えちゃいねえ。それを分かってるからこそ、こんな理不尽で、不条理で、馬鹿げてる話、納得できるわけがねえんだ。

 

 

 《クライマックス推理》

Act.1

 この事件は、これまでのどのような事件よりも奇怪を極めた。なぜなら、被害者である笹戸優真自身がこの事件の首謀者だったからだ。笹戸優真はどういうわけか、このように考えた。自分ではない誰かに自分を殺害させるように仕向け、学級裁判を混乱に陥れようと。奴が記憶を取り戻すきっかけとなった狛枝凪斗の影響か、あるいは他の理由か、それは今となっては不明だ。しかし1つ確かなことは、この事件の犯人はその意思とは一切関係なく、クロとなったということだ。

 

Act.2

 笹戸優真はまず、植物園内の栽培室を犯行現場に選び、死因には焼殺を選択した。おそらく火による証拠の隠滅も兼ねたのだろう。事前にモノモノマシーンから入手していたラジコンを改造し、コントローラーはコイルを剥き出しにして西側出入り口のドア付近に設置、同時にドアに磁石を貼り付けることで、電磁誘導による電流の発生の仕掛けを整えた。また、コントローラーには釣り糸を結び、ドアが開くと同時に釣り竿によって装置が回収され、園内の池に落ちて隠滅される仕掛けもされてあった。

 

Act.3

 続いて植物園内倉庫で、スピーカーの音量を最大にした。これは火事の際に起きる爆発音を掻き消し、発見を遅らせるためのものだろう。さらに倉庫から殺虫剤などのスプレー缶を持ち出し、火災の発生に必要な準備を整え始めた。手始めに、キッチンから持参した食用油を栽培室内に撒いて火が燃え広がりやすい環境を作り、その油に点火するため、ラジコンのモーターにシャープペンシルの芯を繋いだ機械を設置。

 

Act.4

 全ての準備を整えた笹戸優真は、仕上げに栽培室内にあった神経毒を有するキノコを一口かじり、本能的にするであろう生存への行動を封じた。そして笹戸優真は静かに、その時を待つだけとなった。

 

Act.5

 そして今回の事件のクロは、何も知らないまま植物園を訪れた。毎朝植物園に行くことは、クロの日課だった。笹戸優真はそれを知っていたのか、あるいは偶然か。いずれにせよ、クロはドアを開き、一連の仕掛けは発動した。最後に爆発と同時にスピーカーから大音量の音楽が流れることで、笹戸優真の計画は完遂され、クロは何も知らないままに笹戸優真を殺害させられたのだ。

 

 

 「ドアを開ければ問答無用で発動する仕掛けならば、自ずと犯人は植物園に誰よりも早く行く人物となる。これまでの習慣が裏付けになれば、言い逃れなどは不可能だ。これで納得したのではないか?晴柳院命よ」

 「・・・ッ!!うああっ・・・あうぅ・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなの、推理じゃねえ。裁判じゃねえ。一方的に責め立ててるだけだ。罪のないただの子供を・・・罪を犯すことを強いられ、知らず知らずのうちに人を殺しちまった奴を。そんな残酷なことがあるか?

 

 「実に巧妙と言えよう。なぜならば、クロは本来自らの犯行を隠匿するために嘘を吐くことやボロを出すことがあるが、クロすらも事件の概要を知らないのであればボロなど出しようがない。加えて事件解決へ積極的にもなる。周囲の人間に対する不信感の類は実に低次に抑えられよう。しかし、故にその発言が自らの犯行を裏付けることになるとも気付かない。メリットも大きいがデメリットも大きい、賭けのようなやり方だ」

 「もういい!!」

 

 六浜が叫んだ。俺も同時に、同じ事を叫んだ。もう、たくさんだ。何度考えても、望月の推理に綻びはない。そりゃそうだ、俺たちが作り上げた推理なんだ。犯人も、無関係な奴らも、一緒になって考えたんだ。間違ってるはずがねえ。間違ってるはずがねえからこそ、こんなことはもう止めにしたかった。

 

 「テメエは・・・何も感じねえのかッ!!!」

 「何も感じない、とは?」

 

 絞り出した怒鳴り声に、流れるような無機質声で返す。こいつはいつだって人の感情を度外視して、目の前の事実しか見ねえ。周りの人間の表情なんか、ただの筋肉の動きくらいにしか思ってねえんだろ。こいつの顔はいつ見ても同じだ。

 

 「晴柳院は・・・殺したんじゃねえ!!殺させられたんだ!!笹戸は殺されたんじゃねえ!!殺させたんだ!!」

 「分かっている」

 「殺意のねえ奴が知らねえ間に仕掛けを発動したからって、そんなもんが罪になるわけねえだろ!こんなもん事故と同じだ!クロだってんなら笹戸の方だ!!」

 「分かっている」

 「ここにいる奴は誰一人納得なんかしてねえ!!テメエだけだ!!こんなもん筋が通るわけねえだろ!!」

 「分かっている」

 「イカレてやがるんだよどいつもこいつも!!こんなこともうたくさんだ!!もういい!!こんな裁判終わりにしろ!!投票なんかするか!!こんな裁判はなにもかもが」

 「黙れッ!!」

 

 俺の言葉に、望月はただ首肯する。何を言っても、どれだけ喚いても、それは変わらない。感情論でしかない俺の言葉が、感情のない望月にどうやって伝わるってんだ。それでも俺は叫んだ。こんなことで人が死んでいいわけがねえ。

 そんな俺の言葉は、力強い大声で止められた。他でもない、望月に。

 

 「合宿規則17『『クロ』による殺害から学級裁判終了までの間、学級裁判を妨害する行為を禁止します。』。その先の発言は、この規則に抵触しかねない」

 「・・・ッ!!」

 

 なんだその言い方は。それじゃまるで、テメエが俺の命を救ったみてえじゃねえか。俺は無茶苦茶な言葉でテメエを責め立ててたんだぞ。それを、なんでテメエに助けられなくちゃならねえんだ。

 ちらっとモノクマの方を一瞥すると、残念そうに怪しげなボタンから手を離してた。まさか本当に俺は殺されるところだったのか。マジで俺は望月なんかに助けられたってのか。なんなんだ。

 

 「はあ〜、ちっくしょう。もうちょっとで静かになるところだったのにさ。まあいいや、学級裁判の結論も出たみたいだしね!いや〜今回はすごく長かった!今回だけでいつもの二倍はあったんじゃないの?まあ真相が真相なだけに仕方ないよね。でも、裁判自体はここ1,2時間のはずなのに、半年くらいかかってる気がするよ」

 「機械であるお前が、時間感覚が狂うことなどあるのか?いや、感覚という言葉も不適切か・・・」

 

 俯いて、言葉もなく、ただただ痛ましく、俺たちは耐えるしかなかった。この理不尽だらけの事件に。絶望的な結末に。結局悪いのは誰なんだ。クロの晴柳院か?事件を企てた笹戸か?無慈悲に晴柳院を追及した望月か?こんな状況を作り出したモノクマか?何もできずにスイッチを押すことしかできない・・・俺たちなのか?

 

 「それではオマエラ!お手元のスイッチで、クロと思われる人物に投票してください!投票の結果、クロとなるのは誰か〜〜〜!その答えは、正解か、不正解なのかあ〜〜〜?ではいってみましょーーーう!!」

 

 命を左右するボタン。押せばこの中の誰かの命を差し出すことになる。押さなきゃ自分の命を捨てることになる。こんなプラスチックの塊が、何人もの人間の命を奪ってきた。いや、奪ったのはモノクマだ。差し出したのは俺たちだ。

 俺たちはなんなんだ。事件を止めることもできず、クロを救うこともできず、ただ目の前で命が消えていくことに必死になって・・・自分の命を繋ぐことしかできなくて・・・今はただ、このボタンを押すことしかできない。

 

 「すまねえ・・・」

 

 あっけなく沈むボタンの音は、誰かの悲鳴にも聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コロシアイ合宿生活』

生き残り人数:残り6人

 

  清水翔   六浜童琉   晴柳院命    【明尾奈美】

 

  望月藍  【石川彼方】 曽根崎弥一郎   【笹戸優真】

 

【有栖川薔薇】 穂谷円加  【飯出条治】 【古部来竜馬】

 

【屋良井照矢】【鳥木平助】 【滝山大王】【アンジェリーナ】




いやあ長かった。でもここからも長いんです。いろいろやらなきゃならないんで。
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