(非)日常編1
今日はいつもより目覚めが良かった。というより、逃げ込んでた夢からむりやり追い出された気分だ。受け止めたくない現実から目を背けて、無意識のうちに覚めてほしくない非現実へとすがったんだろう。けど逃げていられるのも限度があった。
『オマエラ、おはようございます!朝です!起床時間ですよーーー!』
「るっせえな・・・」
朝の七時になると合宿場中にあいつの声が響き渡る。別にこの時間通りに起きなくても何も言われないが、これだけ音がデカいと否が応でも起こされる。腹も減ったし、食堂に行くことにした。ドアを開けると、モノクマとは別のムカつく顔があった。
「おはよう清水クン!」
「・・・」
「よく眠れた?こういうときは気疲れしやすから、寝て気分をすっきりさせるのが大事なんだって」
「テメエの面見たせいで朝っぱらから気分悪い」
「じゃあ朝ご飯でも食べよっか!それとさ、せっかくだからみんなとも仲良くしようよ。これくらいのことでもないと、清水クンがみんなと一緒にご飯食べたりなんてしないでしょ?」
「・・・マジで殺すぞお前」
ため息交じりに言うと、曽根崎はわざとっぽく笑った。こいつの言うことは合ってる。だが余計なお世話だ。俺は別にあいつらと仲良くするために飯を食うんじゃない。腹が減ったから食うだけだ。まだ話しかけてくるこいつをガン無視して俺は食堂に行った。
食堂には同じようにモノクマに叩き起こされた奴らが集まってたけど、何人か足りない。あの爆音の中で寝られるとかどんだけだよ。
「清水君に曽根崎君、おはようございます」
「やあ。みんなももう起きてたんだね」
「二人とも、モーニングコーヒーはいかが?」
「いらん」
「ボクはもらおうかな。アニーサンのコーヒーが飲めるなんてうれしいよ」
たぶんアニーは来る奴来る奴にコーヒーを勧めてるんだろう。既に食堂にいた何人かも同じようにコーヒーを飲んでた。本当に殺しが起きるとは思えないが、万が一って時の危機感がねえのかどいつもこいつも。
ざっと見た限り、まだ来てないのは四人だ。放っとけばそのうち来るだろ。そう思ってた矢先に、屋良井が起きてきた。
「ふあぁ〜っ、おお。みんな集まってんのか」
「おはよう!まだ全員ではないがな!」
「テルヤ、コーヒーはいかが?」
「あ〜、オレ苦いのキライだからミルクと砂糖たっぷりたのむわ」
「うふふ、オーケイ」
こいつも危機感がなかった。あとは三人だ。だがそいつらが起きてくるより先に、飯出と六浜が立ち上がって全員に言った。
「みんな、まだ来ていない者もいるが聞いてくれ」
「なんだなんだ?」
「昨日の段階で我々は、ここに閉じ込められ、脱出不可能な状況であるということが分かった。これは紛れもない現実。辛いだろうが、受け止めるしかないようだ」
「な・・・なんでこんなことに・・・」
「おいおい、なくなよ」
「助けを求めるために湖畔の砂利にSOSの字を掘ったが・・・それが助けを呼ぶのもいつになるかはっきりとは分からん」
「予言者のくせに分からねえじゃねえだろ」
「予言ではない、推測だ。それに私の推測は私自身の記憶と過去の統計を基にしている。こんな状況は前例がない。正確に推測することは困難を極める」
「すなわち、助けが来るまでの間・・・む、おはよう有栖川。どこでもいいから座っておけ。とにかく、俺たちはここでしばらくは共同生活をしなければならないわけだ」
「そうだね」
俺の呟いたことにいちいち訂正を入れてくる六浜に変わって飯出が続きを話し、その話の途中で入ってきた有栖川を適当に座らせて本題に入った。
「そして、共同生活において重要なのは全員の連携、助け合いだ。そこで、朝昼晩の食事当番を決めようと思う」
「うんうん!画期的な提案だと思うよ!」
「んで?当番っつってもどうやって決めんの?」
「くじ引きにでもする?」
「あのさ・・・おれそういうかんじのことなんもできねえんだけど・・・」
「確かに。滝山に料理を任せては二度と生物は食えなくなりそうじゃ」
「じゃあ滝山君は抜いて、他の15人で当番を決めますか」
「ファースト、ランチ、ディナーに1人ずつ、毎日3人の5日間ローテーションね」
「それはいいんですけど・・・まだ望月さんと古部来さんが来てないんです」
「その二人がいねえと決めるもんも決められねえじゃねえかあ!」
「いつまで寝ているつもりだ・・・叩き起こしてやる!」
とんとん拍子に話が進んで、いよいよ当番を決めようって時になって、まだ起きてない二人の存在に気付いた。さすがに遅い。六浜がいきり立って食堂を飛び出して二人を呼びに行った。やれやれと思ったら、それと入れ違いになるように望月が食堂に来た。
「あれ、ヅッキーじゃん」
「ヅッキー?」
「私はそんな固有名ではない。望月藍というのが私の固有名だ」
「あだ名だって」
「望月ちゃん、いま六浜ちゃんに会わなかった?」
「興奮状態だった」
「てことはあとは古部来だけか。あいつ感じわりいくせに寝坊するとか、ホント団体行動乱す奴だな」
ぼさぼさの髪を結いながら席に着いた望月に、アニーがコーヒーを勧めてる。たかが飯当番決めるってだけでどいつもこいつも勝手で騒がしい奴らだ。呆れて俺はため息を吐く。そんなため息をかき消すくらいのデカい声が、食堂の中まで響いてきた。
「ああああああああああああああああああああああっ!!?」
「!?」
それは確かに六浜の声だった。声というより悲鳴に近い。食堂にいた奴らはみんなそれが聞こえたらしく、雑談の声がぴたりと止んだ。
「な、なんだ今の・・・?」
「六浜さんの声でしたね。気品さの欠片もありませんでした」
「どうした六浜ァ!!大丈夫か!!」
「あっ!ボ、ボクらも行こう清水クン!」
「は?なんで俺・・・ぐえっ!」
固まった食堂からまず飯出が青い顔して飛び出していった。その後に、野次馬根性丸出しって面で曽根崎が立ち上がって、俺のパーカーを引っ張りやがった。そのまま食堂を出て宿舎に駆け込んだ。こいつはいつか殺す。
宿舎の廊下に入るとすぐ、廊下の壁にもたれて座り込んでる六浜が見つかった。そこに飯出が駆け寄って、呆然とした六浜の肩を揺すってた。
「どうした六浜!何があった!」
「こ、古部来・・・!」
「古部来?古部来がどう・・・ぬおっ!?」
「な、なんだこれ・・・?」
へたり込んだ六浜は顔を真っ赤にして向かいの部屋を見てた。部屋というより、その入口に立ってあくびをしてる古部来をだ。何事かと思って飛び出した曽根崎は少しがっかりしたような息を吐いた。
「き、き、貴様どういうつもりだ古部来!!いきなりそんな・・・そんな格好・・・!!」
「いきなり来たのはお前の方だ。着るものをとやかく言われる筋合いはない」
「古部来、昨日の着物はどうした」
「寝る時にあんな重ね着する馬鹿はいない。考えろ馬鹿が」
顔を赤くしてわなわな震える六浜は、どうやらいきなり現れた古部来の姿に驚いて悲鳴をあげたらしい。といっても、古部来の格好といえばタンクトップにスウェットの下だ。さすがに人前に出る格好じゃねえが、悲鳴をあげるほどか?
「そんな不埒な姿を晒すとは貴様は変質者か!変質者だな!」
「人を叩き起こしておいてよくそんなことが言えるな。それで、用はなんだ」
「お前が起きるのがあまりにも遅いから呼びに来た。今後の生活について話し合うためにな」
「・・・そうか。ならもう少し待っていろ。どこで話し合うつもりだ」
「お前以外はみんな食堂にいる。早く支度しろ。立てるか六浜?」
「あ、ああ・・・すまないな飯出」
俺がここに来る意味あったのか?悲鳴を聞いた時は何事かと思ったが、蓋を開けりゃあこんなコントとは。よろけながら六浜は立ち上がって、飯出の手はとらずに食堂に戻ってった。飯出が行った後、曽根崎は嬉しそうな面して俺に言ってきた。
「いきなりこんな特ダネに巡り会えるなんて、ラッキーだね」
「特ダネ?」
今の何が特ダネなんだ。ただ六浜が勝手にテンパって俺らが巻き込まれただけじゃねえか。そゆな俺の心中を見透かしたように、曽根崎はそれをメモ帳に書くと、ぱたんと閉じて言った。
「六浜サンはむっつりだ」
取りあえず古部来を叩き起こしてから、全員で飯食った後に当番を決めた。別に俺は他人が作らなくても自分で勝手に食う。言ったらまたややこしいことになるから言わねえが、何が入ってるか分からねえもん食うのも安心できねえ。滝山に至っては飯が出てくるや否や手づかみで食いやがって。
「朝食は朝の七時半、昼食は正午、夕食は夜の七時半、いずれもこの食堂でだ。遅れたとして特に罰則があるわけではないが、全員の点呼と安否の確認を兼ねているため出席するように」
「ところで、一人で十六人分の料理って大変なんじゃないかな?」
「別に手伝ってもらう分には構わないだろう。あくまでこの当番制は、チームへの帰属意識を高めることが目的だ」
別に何でもいい。さっさと部屋戻って寝てえ。さすがに食い終わった食器ぐらい片付けてやろう、と思ってキッチンに皿を洗いに行ったら、俺を追っかけて曽根崎が来た。テメエのメガネ流すぞコラ。
「清水クン清水クン!この後って暇?暇だよね!コミュ障の清水クンにこの後予定が入ってるわけなぶへっ!!」
「近寄るな」
馬鹿にしにきたのかこいつは。ちょうど手元にコップがあったから顔面に水かけてやったらようやく黙った。だがポケットからハンカチ取り出してすぐにまた喋り始めた。なんだこいつ。
「それでさ、飯出クンが男子みんなで体動かそうって言ってるんだよ。多目的ホールに行けばなんかあるでしょって。清水クンも行こうよ!」
「行く意味も理由も義務もない」
「意味も理由も義務もないのに部屋に戻って寝ようとしてるじゃないか」
「どうしようが俺の勝手だ」
「あ、いいのかなそんなこと言っちゃって」
なんか意味深なこと言って、曽根崎はそれから黙った。マジでなんなんだこいつ、薄気味悪いな。取りあえず俺は食器を元に戻してからさっさと部屋に戻ろうとした。だが渡り廊下に出た途端、後ろから強く引っ張られる感覚がした。
「ぐおぁっ!?」
「そっちじゃないよ、こっちこっち」
「そっ・・・テメッ!!離せコラ!!」
「どうしようがボクの勝手だよ」
「あぁっ!?」
またかこの野郎。俺のパーカーのフードは引っ張るために付いてんじゃねえぞ。ぶん殴ろうとしてもぐいぐい引っ張られてバランスとれなくて当たらない。なんでこいつ引っ張り慣れしてんだよ。このままじゃ顔から地面にすっころびそうだ。
「分かった分かった!行ってやる!行ってやるから歩かせろ!」
「ホント?逃げたら次はアンテナ引っ張るよ」
「だれがアンテナだ!!さっさと離せクソメガネ!!」
「はいはい」
やっと解放された。もう明日からパーカー着ねえ、と思ったがこれ以外の服なんかあったか?どういうわけか俺含めた全員が何着も同じ服持ってるらしいし、もしかしたらずっとこいつのフード引きから逃げられねえんじゃねえか、と思って背筋が寒くなった。
多目的ホールにはもう俺以外の奴らがいた。言い出しっぺの飯出と、ノリだけで生きてそうな屋良井、あと動けんのか怪しい笹戸。俺と曽根崎を入れて全部で五人か、よくもまあこんだけ集まったな。
「よし!清水も来たな!ミッション・コンプリートだ曽根崎!」
「お安いご用さ」
「これで五人かあ。素数じゃチーム分けしにくくないかな。滝山くんも呼んでくる?」
「あいつは勝手に運動してそうだからいいだろ。古部来は一緒に遊ぶタイプじゃねえし、鳥木は?」
「古部来に将棋に誘われたそうだ」
「マジで!?あいつにそんなコミュ力あったの!?」
「まともに指せる相手が欲しいそうだ。一人で棋譜とにらめっこでは暇つぶしにも限度があるのだろうな」
人のこと馬鹿とか言っといて将棋の相手は欲しいのかあいつ。どんだけわがままなんだよ、寝坊もしやがるし。っていうか、そんな奴らはどうでもいい。ここに呼び出された意味はなんだ。
「ではバスケでもするか!」
「唐突だね」
「一緒に運動することで友好を深めるのだ。共に汗を流せば大抵の人間は仲良くなれる。これは経験則だ」
「飯出クンは動けそうだよね、冒険家だし。でもさすがに1−4は無理があるんじゃないかな?」
「くくく・・・バスケを提案するとは分かってるじゃねえか飯出!ここは”超高校級のバスケ部”こと、屋良井照矢様がお前と組んでやるぜ!」
「”超高校級のバスケ部”?屋良井クンってそうなの?」
「いまに分かる!」
「いや、できねえだろ」
なんかどんどん話が進んでるけど、ここでバスケなんかできねえだろ。
「なんだよ清水、水差すなよ」
「ボールもねえのにどうやってバスケなんか・・・」
「問題なんか何もないよーーーーーーーーーーーーー!!」
「!?」
状況も分かってねえ馬鹿共に現実突きつけてやったら、どこからともなくあの声が聞こえてきた。もうなんかびっくりするっつうよりうんざりした。他の奴らが驚いて辺りを見回してる中、そいつはゼッケンと水色のカツラを被って現れた。手にはバスケのボールが抱えられてる。
「うんうん、友達とバスケをして汗を流す!まさに青春の1ページだよね!いいねオマエラ!」
「で、でた・・・」
「あ、バスケットボール」
「鳴り響く応援、弾ける汗、固い友情・・・これぞまさにスポ根的青春だよ!そんなオマエラにボクは感動した!ほら、言いなよ!バスケがしたいって言えよ!」
壇上に現れたモノクマは水色のカツラを放り投げて、どっかから丸眼鏡をかけた。何がしてえんだよ、こいつがバスケしたいだけなんじゃねえか、と思った。
「モノクマ先生・・・バスケがしたいです!」
「あきらめたらそこで試合終了だよ!」
「噛み合ってない!」
「そのボールを貸してくれるのか?」
「はあ、しょうがないなあ。アメリカのストリートでさえボールがあるっていうのに、オマエラにないのはあまりにも可哀想・・・」
そう言ってモノクマはすすり泣く仕草をした。どうせ涙なんか出ねえくせに、と思ったが汗が出るくらいだからマジで泣いてるのかもしれん。と思ったら急に壇から飛び降りて、舞台の横にあるドアの前に立った。
「というわけだから、ボールとかネットとか、あとバットにラケットに卓球台にグローブに竹刀にエトセトラは全部ここに揃ってるよ」
「あったのかよ!最初からそう言えよ!」
「なぜ俺はあんな無駄な時間を・・・」
「もういいよ」
「あと運動靴は入口に揃ってるから」
なんでこんな無駄に設備整ってんだ。つくづくモノクマの思考回路が分からん。ホールの倉庫にはマジで何でも揃ってたが、金属バットとか砲丸とか、物騒なもんがごろごろしてるのが気になる。こいつは俺らに運動させたいのかそれ以外のことさせたいのかどっちなんだ。ゼッケンとボールと運動靴で準備完了すると、いつの間にかモノクマがにやにやしながら混ざってた。
「なんだ、モノクマもやりたいの?」
「うぷぷぷぷ!オマエラに付き合ってやるんだよ!人数足りなくて困ってたんでしょ!」
「ちょうどいい。3−3でできるな」
「モノクマと飯出クンと屋良井クンが同じチームだと勝てそうにないなあ」
やっぱこいつバスケやりたいだけじゃねえか。まあ、鬱憤晴らしぐらいにはなるかも知れねえからやってやる。まずは俺と笹戸と屋良井でチームになって、モノクマが指を鳴らすと試合開始のホイッスルが鳴った。
『コロシアイ合宿生活』
生き残り人数:残り16人
清水翔/六浜童琉/晴柳院命/明尾奈美
望月藍/石川彼方/曽根崎弥一郎/笹戸優真
有栖川薔薇/穂谷円加/飯出条治/古部来竜馬
屋良井照矢/鳥木平助/滝山大王/アンジェリーナ
pixivに上げる前提で書いてたので、改ページ用の長い空白があります。場面転換だと思って読んで下さい。最後に限り、アニメの最後にあった生存者数を示すアレです。今のところはみんな元気です