ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

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決断編

 

 植物園から出た曽根崎は、山道を降りてすぐ止まった。資料館や大浴場に行くわけでもなく、すぐその場で近くにある建物を見た。サビと、コケと、ツタと、ホコリと泥にまみれた最悪な環境。鉄の扉は開け閉めする度にキイキイとやかましく音を立てる。ホコリが喉に刺さった。

 

 「ケホッ・・ああクソ」

 「前に清水クン言ったよね。この場所が気になるって」

 「よく覚えてんな」

 

 いつだったか、この場所に妙な違和感を覚えたときに、調べてみようと曽根崎に行ったことがあったな。二人で倉庫の中を調べてみたが、出てくるのは古くせえパーティーグッズかシャベルやらツルハシやら、あとは名前も分からねえような武器ばっかだった。きっと気の迷いだと思って忘れてたんだが、曽根崎はそうは思わなかったらしい。

 

 「ちょっと考えてみたんだ。キミがあの時感じた違和感のこと」

 「なんだったか・・・忘れちまった」

 「この合宿場はもともと希望ヶ峰学園の所有物だ。色んな“才能”を持つ人がいるとはいえ、コロシアイのために用意されたような武器庫なんて、本来あるはずがない。じゃあ仮にこれを用意したのがモノクマだとしたら、それより前、本来ここには何があったんだろう?そう言ったんだよ」

 「ああ・・・そうだったかもな」

 

 ぶっちゃけそれすらも覚えてねえんだが、確かに言われてみりゃそうだ。俺がそんなこと言ったような気もする。“超高校級の絶望”やら、カムクライズルやら、そんなもんを聞いた今は武器庫くらいあってもおかしくねえような気もするがな。だが曽根崎は武器庫を開けて、そこを検め始めた。

 

 「前に調べた時は、もともとここにあったものが他の場所に移されたんじゃないかとか、武器の裏に隠してあるんじゃないかとか、そんなことばっかり考えてたッ・・・!だ、だけど・・・そうじゃなかったんだ。ここで、考えるべき事は・・・!!」

 「・・・かせ、一人で持てるわけねえだろ」

 

 おもむろに床を物色し始めたと思ったら、その周辺の武器を片付け始めた。一人じゃ持てるわけもねえデカい箱を抱えようと躍起になってたから、少しだけ手を貸した。別に手伝うわけじゃねえ。話の続きが気になった。

 

 「ふぅ・・・ありがと、清水クン」

 「いいから続けろ。どうせその話とここ片付けんのと、関係あんだろ」

 「うん」

 

 うっかりすると剣で手を斬りそうになるし、鈍器を落としたら歩けなくなるどころじゃねえな。古風な拷問器具は見たくもねえから、代わりに忍者が使いそうな暗器をまとめて段ボールに突っ込む。誰かを殺すために作られて、誰かの殺意を具現化したようなもんばっかりの空間に二人きり。互いに背中を向けて、いつだって相手を殺せる状態だ。

 もしこれが望月や穂谷だったら・・・六浜でもどうだろう。ここまで無防備にいられるもんだろうか。だが不思議と、曽根崎に殺されるかも知れねえなんて考えは微塵も浮かばなかった。殺せる状況は完全に整ってるのに。

 

 「清水クンは、考えたことある?」

 「なにをだよ」

 「モノクマについてだよ」

 「あん?今更あんな奴のこと考えてどうすんだよ」

 「逆々。今だからこそ考えるんだよ」

 

 こんな問答してっから話が長くなんだろうが。単刀直入に言うってことをしねえのはわざとなのか、それとも無意識なのか。だからこいつと話してるとイライラするんだ。

 

 「まさかモノクマ自体が命を持ってるわけじゃない。合宿場全体を監視しながら、モノクマを操作して、誰にも目撃されずに食材や消耗品を供給し、今もこの合宿場に潜んでいる『誰か』がいるはずなんだ」

 「黒幕ってことか?」

 「たぶんそうだと思うよ」

 「それだってずっと前から分かってたことじゃねえか。俺らをここに連れてきた誰かがいるってのは」

 「じゃあその黒幕はどこにいるんだろうね?16人もの人間がたったの一度もその痕跡を見つけられない、だけど確実に存在してる」

 「・・・」

 「それと合わせて考えてみてよ。わざわざ倉庫を武器庫に変えてまで、黒幕はいったいここで何をしたかったんだろうね?」

 「そりゃ・・・いや、ここが・・・まさか」

 

 このコロシアイ生活の首謀者、すべての事件の裏に潜んでいる『黒幕』。そんな奴がいるって漠然と考えてたが、言われてみりゃこの合宿場に誰かがずっと隠れていられる場所なんてなかったはずだ。だったら黒幕はどこにいる?俺たちに見つかることなく、ずっと俺たちを見続けられる場所なんてどこにある?

 曽根崎がそれと同時に言ってきたってことは、黒幕の居場所とこの倉庫のことは関係してるってことなんだろ。倉庫を武器庫に変えて黒幕は何をしたかったのか。そんなの、一つしか考えられねえだろ。

 

 「あ、あった」

 

 デカい木箱をやっとこさどかしたら、その下に目的のものを見つけた。ホコリを被った倉庫の中で、そこだけは頻繁に使われたように小綺麗だった。床のある範囲だけを切り取って、よく見ねえと分からねえが取っ手をつけて開閉するように改造してある。見るからに怪しげだ。

 

 「合宿場にいながら、ボクたち全員に見つかることなくなおかつ簡単に行き来できる場所。それはもう、地下しかないよね」

 「こんなんありかよ・・・そんな発想あるか普通」

 「清水クン、みんなを集めてこようよ。少なくともボクたちの中に黒幕はいないってことは確定させようね」

 

 現れたのは、倉庫から地下へと続く階段だった。ただでさえ暗い倉庫の中で、階段の下は真っ暗闇で何も分からねえ。それでも、そこは確かに誰かが使っている形跡が残ってる。マジで黒幕がこれを使ってたんだとしたら、俺たちは一気にその正体まで辿り着いちまうんじゃねえのか。それくらい黒幕の存在が肉迫してる感じだ。

 取りあえず俺と曽根崎は合宿場中に散った残りの女共を集めてきた。望月に至っては多目的ホールにまでいやがって、無駄に時間がかかった。だがそんな中でもモノクマは捜査時間の終了を告げない。とっくにいつもの捜査時間は過ぎてるってのに、まだアナウンスがないってのはどういうことだ?

 

 「この場所を武器庫にしたのは、ボクたちをこの隠し階段から遠ざけるためだったんだね。もっとも誰かを殺そうとして武器庫を使う人に、これを見つける余裕はないだろうけど」

 「ううむ・・・言われてみれば武器庫は不自然だな。そんなことにも気付けないとは、私も気が動転していたようだ」

 「地獄の底に続くようですね。こんなホコリっぽいところにいるくらいなら鉄釜で茹でられる方が幾分かマシだと思いますが」

 「この先に黒幕がいるというのか?」

 「たぶんな」

 

 今、この合宿場で生き残っているはずの人間が5人。そして黒幕が少なくとも1人。俺たち以外の誰かがこの先にいる。モノクマはまだ捜査時間を打ち切らない。それだけが不気味だ。自分の正体がバレることになっても問題ない自信を持ってるんだとしたら、俺らにとってこれ以上ないくらい絶望的だ。

 それでも、目の前に与えられたすべての真実への入口を放置することなんかできなかった。

 

 「うだうだしてても意味ねえよ。俺は行く」

 「待て。黒幕のいる場所なら、セキュリティや罠が仕掛けられている可能性は十分に考えられる。むしろあると考えなければならない。慎重に行けよ」

 「そりゃどうも。なんならお前が露払いになるか?」

 「構わん。私が先に様子を見てこよう」

 

 女に先陣切らせるのはどうかと思ったが、俺の言葉を間に受けるような六浜だし別にいいか。今更になってモノクマが俺らに手を下すことも考えにくい。セキュリティはあってもまず大丈夫だろう。

 階段を降りていく六浜の姿はすぐ見えなくなり、靴音の響きだけが返ってくる。どうやらかなり広い場所らしい。ただの地下室かと思ってたが、もっと色んな施設があるのかも知れねえ。妙に緊張した空気の中、六浜の声が聞こえてきた。

 

 「大丈夫だ。階段には何の仕掛けもない」

 「だってさ、じゃあ行こうか。思ったよりも広そうだよ。手分けして探索しようよ」

 「承知した」

 「エスコートもなしに階段を降りろだなんて・・・なんて不躾な人たち。鳥木君ならばきっと・・・」

 

 素直に階段を降りる望月と、文句を言いながらだらだら降りて行く穂谷、そして曽根崎は心なしか浮ついた表情をして降りて行く。黒幕にとってここに俺たちが踏み入るのは緊急事態のはずだ。なのにモノクマは全く止めに入らねえし、捜査時間も十分過ぎるほど用意されてる。武器庫でカムフラージュしてまで遠ざけてたのに、今は野放しにしてる。矛盾してやがる。この場所の違和感が解消されたと思ったら、今度は黒幕の態度に違和感を覚え始めた。クソが、モヤモヤしっぱなしだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 階段を降りた先は、薄暗えホコリくせえ倉庫から続いてるとは思えねえほど、無機質で整然としていた。どこぞのSF映画にでも出て来そうな、何の色もない真っ白な廊下と、いくつかの部屋に続くドア。それだけだ。

 

 「なんでしょうここは・・・?病院かなにかですか?」

 「遠近感覚に支障を来す造りだ。こんなところに黒幕がいるというのか?」

 「黒幕がいるだけ・・・ってわけでもなさそうだね。いろいろと見つかりそうじゃないか」

 「どうでもいい。いるなら見つけてふん縛ってやりゃ解決だろ」

 

 マジで何もない空間だ。画一的で真っ白なせいで罠が仕掛けられてりゃすぐ分かるし、他に誰もいないことも分かる。こんな場所が合宿場の地下にあるなんて、想像だにしなかった。考えてみりゃ、裁判場も地下にあったな。黒幕の野郎はミミズかなんかか?俺たちから姿を隠すにしたって、なんで地下なんだ。

 

 「気を付けろお前たち。本来ならここは黒幕以外は立ち入れない場所。奴の懐中に飛び込んだのだぞ」

 「しかし追い込まれているのは黒幕も同じではありませんか!?私たちが危険を冒せば黒幕も首が絞まる!なんでしょうか、この奇妙な関係は!どうでもいいことですが!」

 

 地下のせいか、穂谷の声がよく響く。とにかく、ここまで来たからにはぜってえに引き下がらねえ。黒幕が見つかればそれでよし、見つからねえなら見つからねえでまたやり方を考えるだけだ。

 

 「では、手分けして捜索するとしよう。私は奥の部屋を」

 「少しくらいは危ない橋渡らないとね」

 

 望月の一言で、俺たちは地下エリアの捜索を始めた。望月と六浜と曽根崎はエリアの奥へ、穂谷はすぐ近くにある部屋を捜索することにした。俺は、少し離れた部屋から見ていくことにした。

 真っ白な廊下に真っ白なドア、離れてると気付かなかったが、ドアには小さなプレートが付けられてて、そこが何の部屋なのかを示してた。俺が最初に手を付けた部屋には、『資料室』と書かれていた。資料って、何の資料だ。なんとなく嫌な予感というか、妙に近寄りがたい雰囲気を感じる。それでも、その気持ち悪さをおさえてドアを開いた。

 

 「・・・?」

 

 鬼が出るか蛇が出るか、そんな気持ちでドアを開いたもんだから、中の様子を見て肩透かしを食らった気分だ。簡易デスクに簡易椅子、簡易本棚に簡易照明、資料室って名前にぴったりな、味気なくて質素な空間だ。棚には黒い紐でまとめられた数枚の紙がびっしり並んで整頓されてた。つい最近まで誰かが使ってたことが分かるが、一切の乱れなく片付けられてる。

 

 「何の資料だこりゃ」

 

 手近な資料に手を伸ばして引き抜いた。ひらがなの書かれた付箋で五十音順に並べられてて、資料の表紙は履歴書みてえな写真付きの紙だった。だがそれが履歴書じゃねえことは、見てすぐに分かった。

 

 「新希望ヶ峰学園第4期生“超高校級の仲人”藍弾結・・・」

 

 それは、希望ヶ峰学園に通う“超高校級”な奴らのデータだった。顔写真と名前とプロフィールだけじゃなく、出身中学校や家族構成、“才能”にまつわる経歴に学園生活の詳細、卒業後の進路、果ては好き嫌いや口癖まで書いてある。

 ただの紙の集まりのはずなのに、まるで“超高校級”の奴の『人生』がその薄っぺらい紙の束に込められてるような、そんな薄気味悪さすら感じた。何より分からねえのは、その表紙にはでかでかと『済』のハンコが捺されてることだった。

 

 「気持ちわりいな・・・」

 

 紙束を棚に押し込んで戻す。ふと、部屋の真ん中に置かれたデスクに目が向いた。よく見るとそこにも、同じような紙の束が何部かある。それにデケえハンコもだ。いい加減にデスクに放置された紙束が気になった。何気なく視線を落とす。

 その途端、強烈な寒気を感じた。なんでかは分からねえが、恐怖すら覚えた。俺たちに向けられた背後の視線に気付いちまったような、そんな感覚だ。

 

 「マジかよ・・・!!」

 

 俺は、俺と目が合った。俺を見る俺の視線は冷ややかで、そこには何の色もない。恐怖、混乱、当惑、絶望・・・そんな感情が綯い交ぜになった俺のことなんかお構いなしに、ただ無意味に視線を返す。

 そこに書かれていたのは、まさに俺の『人生』だった。いつどこで生まれたのか。いつ1人で歩けるようになったのか。はじめて喋った言葉は。通った幼稚園は。小学校は。中学は。何が好きで何が嫌いか。誰と出会って何を感じたか。なぜ希望ヶ峰学園に来たのか。どうしてこの合宿場にいるのか。まだ生きてるのか。

 

 「・・・ッ!!」

 

 思わず後ろを振り向いた。当然誰もいない、何もない。自分の人生がそのまま集約されたこの紙は、今この瞬間にも書き加えられそうな程、細かく書かれてる。気味が悪い。

 思わず他の紙を見た。俺以外にもまだいくつかの『人生』が、そこにはあった。

 

 「曽根崎・・・!?六浜・・・!穂谷・・・望月・・・」

 

 ただの紙の束のように、そいつらの『人生』は乱雑に散らされてた。それだけじゃない。それ以外の『人生』には、最初に見たような『済』のハンコが捺されてた。

 

 「明尾・・・滝山・・・晴柳院、石川、屋良井、有栖川、飯出、古部来、笹戸、アニー、鳥木・・・・・・こいつら全員・・・!!」

 

 『済』のハンコが捺された奴と捺されてない奴の違いは明白だった。このハンコの意味は、もしかしたらそういうことなのか?だが、だとしたらここにある資料ってのはどれもこれも・・・そんな馬鹿な話があるか。これだけの数の学園生が俺らみたいな目に遭ってたら知らねえわけがねえ。だが、違うとしたら他にどんな意味があるってんだ。

 

 「・・・!」

 

 頭の中がガンガンして、思わず目を背けた。そしたら、足下に転がった黒いファイルに気が付いた。地上のあちこちに散らされてた、俺らに与えられたものと同じだ。ここにあるってことは、もしかして黒幕にとって俺らがここに辿り着くことは想定の範囲内だったのか?

 ファイルのタイトルは、『“超高校級の希望”』だった。もう絶望だ希望だってのは聞き飽きた。なにがなんだか分からねえ。希望ヶ峰学園にとって“絶望”は反乱分子、“希望”は研究目標。ただそれだけに収まらねえからややこしい。俺にとっちゃどっちがどっちでもいい話だ。

 

 

 

 

 

 ーーー

 『“超高校級の希望”』

 希望ヶ峰学園は、創始者であり初代学園長である神座出流が、“才能”を育成・研究するための施設として建てたものである。彼はありとあらゆる“才能”を持った究極の人類の創造を悲願とし、希望ヶ峰学園が行う研究の最終目的はそれに同じく、“超高校級の希望”を生み出すことである。

 “超高校級の希望”、すなわちあらゆる“全能”の人間を生み出すことは容易ではなく、“才能”についての研究及び“才能”を人為的に発現、移植する技術などの開発が不可欠となった。希望ヶ峰学園の歴史は、“才能”実験の歴史と換言できる。ある時は多岐に渡る“才能”を有したサンプルに特殊訓練を行って破壊し、またある時は催眠的手法により“才能”を植え付けようとして破壊してきた。完全な成功と言える研究は、未だに現れない。

 唯一、“超高校級の希望”の成功例として現れたのが、『験体ヒナタ』である。予備学科生として入学した、一切の“才能”を持たない脳に、“才能”を移植することに成功し、術後の容態も非常に安定していた。しかし、彼は“超高校級の絶望”に染まってしまったため、その能力を人類の“絶望”のために振るってしまった。

 新希望ヶ峰学園では、旧学園でのデータから“超高校級の希望”研究を継続して行っている。完成品としての“超高校級の希望”、その絶対条件は、『絶望しないこと』である。絶望的状況に屈しない精神力や、絶望的状況を察知し回避する適応力、そのような素質を数値化し、抗絶望性として実験データへの追加項目とした。

 研究開始、及び中途開始実験は数十ケースに及ぶが、現在、希望ヶ峰学園で行われている“超高校級の希望”研究は以下にまとめる通りのみである。ただしいずれも、“超高校級の希望”を完成させるための実験であり、最終的には失敗に終わる前提で行われていることに気を付けたい。

 『プランD』

 験体:(黒く塗り潰されてる)

 “才能”指数:下

 実験内容:投薬により精神的エントロピーを減少させることで、保有する“才能”の伸長を観察する。

 

 『プランS』

 験体:(黒く塗り潰されてる)

 “才能”指数:中

 実験内容:験体が保有する“才能”により、一人の人間が保有可能な“才能”数の限界を調査する。

 ーーー

 

 

 

 

 

 『プランD』と『プランS』。どっちも聞いたことがあるような気がした。モノクマの気紛れで始まった学級裁判の捜査のはずなのに、あちこちで手に入る情報が互いに絡み合って複雑になっていく。どうなってんだ。“超高校級の希望”ってなんなんだ。

 

 「あったまいてえ」

 

 俺の脳みそじゃこれ以上は処理しきれねえのか、狭苦しい場所にずっといたからなのか、頭が痛くなってきた。取りあえずこのファイルは曽根崎たちに見せなきゃならねえ。あいつが話してた内容がウソじゃねえってことを、このファイルが証明してる。このコロシアイにも深く関わってるはずだ。

 資料室を出た俺は、他の部屋を捜査してる奴らの様子を見に行くことにした。手近なところだと、丁度廊下の奥にある部屋だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『霊安室』とネームプレートがかけられた部屋のドアは開放されてて、中はひんやりと薄気味悪い寒さに満たされてた。厳かな意匠でささやかに飾られた棺が16個、そのうちの5つは蓋がされてない。圧倒的な存在感を放つ棺桶の真ん中に、そいつはただ立っていた。

 

 「おい」

 「・・・?」

 

 何か用か、とでも言いたげな顔でそいつは振り向いた。こんな居心地の悪いところ、一刻も早く出てえ。何の手掛かりもなさそうだしな。けどそんな場所でも相変わらずの顔色で突っ立ってるそいつを、そのまま放置していくことはできなかった。

 

 「何やってんだ」

 「反省だ」

 「あ?」

 「私も冷静さが欠落していたようだ。改めて考えてみれば、死体が跡形もなく消滅することなどあり得ない。全く消えたことに疑問を抱かなかったのは、冷静に状況を見極めることができていなかったからだろう」

 

 何も言う気になれねえ。俺もそうだったし、けど今はそんなこと考えたくもねえからだ。ここには間違いなく、11の死体がある。どの棺桶も静かにそこにあるだけだが、こんなことを考えてたら今にも何か妙なことが起きそうでおどろおどろしい。

 

 「なんと表現すべきか・・・処刑映像や本物の死体を目の当たりにするよりも、死の儀礼に身を置く方がより死を強く感じる。これを不気味というのだろうか」

 「何も感じてねえくせに」

 「そう見えるか?」

 

 無表情の中にも、きょとん、という音が聞こえそうな顔を覗かせる。そんな面して、一人でこんな所いて、何が不気味だ。今まで何の感情もなく、淡白にやりてえことだけやってきたくせに。

 考えてみれば、俺はこいつのことも何も知らねえ。つうかそもそも何を考えてるか全然分からねえ。あの映像といい、無感情といい、卒業条件といい、こいつは謎が多い。もしかしたら、このコロシアイの何かを知ってやがんのか?そうだ。今生き残ってる奴らで、唯一こいつだけはどの殺しにも関わってこなかった。まさか、マジでこいつは・・・。

 

 「どうした?」

 「いや・・・別に。お前に人間らしさがねえことなんか、今更だ。んなことより今はもっとやることがある」

 「黒幕との学級裁判か。お前は本当に行われると思うか?」

 「は?なんだそれ」

 「黒幕はモノクマとして、今まで絶対安全な立場から学級裁判を俯瞰していた。なぜ今になって、処刑される可能性のある場に自ら降りてくるのだろうか。コロシアイの謎を明らかにできるか否かを試すだけならば、他に方法があるだろうに」

 「知らねえよ。気紛れだろ。コロシアイなんてイカレたことする奴の考えなんか分からねえよ」

 「全く以て非合理的だ・・・疑問を持たないのか?」

 「持たねえな。そもそも合理的もクソもねえんだよ。物事ってのは理不尽で不条理なもんだ」

 「そうだろうか」

 

 モノクマの考えることなんか、俺らがいくら考えたって分かるわけがねえ。すべてあいつの気紛れで片付けてきたが、それがどんな意味を持つか考えることから逃げてるだけなのかも知れねえ。こいつといると、気にしなかったことまで気になってくる。妙な奴だ。妙な奴ついでに、こいつを黙らせてやるか。

 

 「なら逆にきくぞ。お前はなんで疑問を持つんだ。知らなくてもいいことを知ろうとして、それがお前の言う合理的なことか?」

 「・・・なぜ、疑問を持つか?それもまた疑問だな」

 

 余計な一言を言った後、望月は押し黙った。そんなもんに答えなんかあるわけねえ。馬鹿真面目に答えを出そうとしてる限り、こいつは余計なことを言わなくなるだろう。と、安易に考えてたが、どうやら俺はまだまだこいつのことを分かってねえらしい。

 

 「知り・・・たい、から。だろうか?」

 

 いつものように淡白で味気ない言い方じゃなかった。言い淀むような、言葉を探るような、言葉に詰まるような、言いにくそうな。何にせよ、こいつらしくない言い方だった。はっきりとした結論だけを口にする奴が、曖昧で不確かなことを口にした。

 

 「知らないものが眼前に存在している。それが何なのか、どのような物なのかを知りたいと考えているのかもしれない。知らずにおくと非常に気掛かりで、何かが不足しているように錯覚する。星々の運行や天体の性質、宇宙の真実・・・これは世界の始まりから存在して、数多の人間が知ろうと探求してきた。それでも解明できない巨漠な謎が常に私の頭上にある。興味を抱かずにはいられない。研究対象とするには十分過ぎるとは思わないか?」

 「知らねえよ」

 「適切かどうかは分からない。私にその感情はないからだ。しかし敢えて言うのなら、私が研究対象に抱いているこの感覚こそが、疑問を抱く理由だろう」

 

 長い独り言をぶつぶつと言って、望月はいつの間にか結論を出した。

 

 「『好き』だから知りたい、知りたいから疑問を抱く。それでは不十分か?」

 

 こいつには何の感情もないはずだ。なのにそう言ったそいつの表情は妙に晴れやかで、薄く笑っているような気さえした。そんなわけはねえ。ただ、あの映像に出て来た望月に似た女の顔が、やけに今の望月とダブる。

 不十分か、なんて聞かれても、俺は本気でこいつから答えを聞きたいから質問したわけじゃねえ。その答えに納得することも否定することもしねえ。ただ、こいつにそんな真っ直ぐな眼で言われたら、受け入れるしかねえじゃねえか。

 

 「いや、十分だ」

 

 辛うじてそれだけ言えた。どうも俺はこいつが苦手だ。考えが読めねえし、そのくせ俺に構ってきやがるし、女のくせに背丈も俺と同じだし、人間らしくねえと思ってたら急にそんなこと言いやがるし。思わず眼を逸らした。これ以上直視してたら、こいつに圧倒されそうだ。

 

 「話が長くなった。どうやらここに、学級裁判の手掛かりになるようなものはないらしい。死体が一つでも消えていれば別だが」

 「・・・確認しろってか」

 「万が一の可能性でも、検証しておく方が合理的だ」

 

 生意気なことを言って、望月は俺に棺桶の中身を一つずつチェックさせた。望月は望月で俺と一緒に中身を確認する。だったらお前一人でやりゃいいだろ、とは言わなかった。さすがに俺だって、こんな場所に一人で棺桶を10個以上開ける度胸はねえ。望月がいるせいで逃げ道を塞がれてるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何度吐きそうになったか。思わず眼を背けて鼻を摘まんだか。結局、死体は全部そこにあった。改めて11人の死を強制的に実感させられた。あそこは本当に、死体を安置するだけの部屋らしい。

 資料室に興味があると言いだした望月を引き留めて、気分が悪くなった俺はまた別の部屋を調査することにした。望月は勝手に俺の後ろをついてくる。

 

 「なんだこの部屋」

 「モニター室、と書いてあるな」

 

 白いドアを開けると、眼から脳みそまで一気に強い刺激が突き抜けたような感覚を覚えた。薄暗い部屋中に設置されたモニターと、キャスター付きの椅子の前にずらりと並んだ色とりどりのボタンやレバーやスイッチ。安っぽい映画に出てくる宇宙船かっつうくらい機械が所狭しと並んでる。

 そして、ここを調査してたのは六浜だった。モニターを見て何か考えてるみてえだ。

 

 「なんか見つかったか」

 「・・・清水に望月か。この部屋はモニター室、合宿場中の監視を担う部屋だな。また、モノクマ操作室でもあるようだ。このボタン類から見て分かる」

 「妙な記号ばかりだな。まったく意味を為していないように見えるが?」

 「暗号だろう。万が一、私たちにモノクマを操作されたら黒幕と私たちのパワーバランスが崩壊する。解読してみたが、それがまた異なる形の暗号になっているようだ。おまけに操作には指紋認証が必要・・・無駄なほどの徹底ぶりだな」

 「さらっと解読してんじゃねえよ」

 

 どこぞの国の言語みてえなわけわからん記号だらけで、それを解読する六浜もバケモノ級だが、これを使ってモノクマを操作してたっつうんだから黒幕もバケモノ級だ。おまけにこのモニターから考えて、俺らの様子を全て見張りながら、操作してたってことか。

 

 「では、その操作者は基本的にここにいたわけか。何か情報が残っている可能性があるな」

 「いいや。髪の毛すら落ちていない。本職の鑑識でもいれば別だが、情報らしい情報はないな」

 「っつうか黒幕はどこ行ったんだよ。俺らの監視も、モノクマの操作もほっぽり出して」

 「さあな。私たちがここに来ることが分かっていれば、事前にどこへでも逃げられる。あるいは・・・すぐ近くに隠れていたりするのかも知れんな」

 

 機械が大量に設置されたこの部屋なら、どこかに身を潜められそうだ。あとは、俺たちが気付いてない隠し部屋か、ここより地下の部屋か。いずれにしても俺たちが直接黒幕の正体を拝めるのはもう少し先になるんだろう。

 

 「まあいい・・・私は今、胸を痛めているのだ」

 「胸部に疾患でもあるのか?」

 「モニターに映った場所が分かるか?展望台、資料館、湖の畔、寄宿舎、植物園、裁判場・・・処刑場まで映っている。私たちの友が、仲間が、喪われていった場所だ」

 「・・・」

 「奴らの無念を思うと胸が張り裂けそうだ・・・!私はもっと必死になるべきだった!殺しなど起きるはずがない、そう信じていたと思っていた!だがそれは、逃げていただけだ。人は人を殺すという現実から。それを止めることのできない私自身の弱さから・・・!口先で協力しようと言いながら、行動を抑えることなどできなかった!私は裏切り者などではない・・・最初から奴らの味方などしていなかったのだ!裏切る資格さえ、私には・・・!!」

 「勝手にヒートアップしてんじゃねえようるせえな。テメエの独白聞くために来たんじゃねえっつうの」

 「んっ・・・!す、すまん。周りが見えなくなるのは治そうとしているのだが・・・」

 「六浜、お前めんどくせえな」

 

 思ったことを率直に言った。こいつなら、その意味を理解すると思ったからだ。こいつはいつもそうだ。人の前に立ちたがって、人のことを気に懸け過ぎて、自分のことを責め過ぎて、関係ねえことにも責任を感じ過ぎて、後悔ばっかしてやがる。ムカつく奴だ。

 

 「お前よぉ、前から思ってたんだが、生徒会の役員なんだよな?学園の生徒会ってのはお前みてえな奴ばっかりか?」

 「い、いや・・・私のような若輩者なんぞより優秀な方はたくさんいらっしゃるぞ」

 「お前の肩書きなんっつったっけか?ナントカカントカ係とか」

 「希望ヶ峰学園生徒会・学生課生活指導係だ」

 「そりゃなんだ?」

 「学園生活を送る上で生徒が不自由をしないよう、また快適でいられるように学園と生徒との間を取り持つ、生徒会の中では最も一般性ととの関わりが多い仕事だ。また、素行不良の生徒への指導も行う。むしろその方がイメージとしては普及しているな」

 

 よくある生徒会のイメージ。風紀を守り、清く正しく美しく、真面目で誠実で、勉強をがんばって、みんな仲良く過ごして、素敵な学園生活を送り、人生における大切な青春の1ページを作りましょう、ってか。んな吐き気がするような爽やかさじゃねえにしても、そういうイメージでいいんだな。じゃあ俺の言いたいこと言っていいよな。

 

 「だったらなんでテメエはそんなに偉そうなんだ。俺はな、テメエみてえな奴が一番嫌いなんだよ」

 「へっ?」

 

 思った事をそのまんま、そいつにぶつけた。俺より目線が高えから偉そうっつってるわけじゃねえ。こいつ自身が、どう見ても偉そうに振る舞ってるからそう言ったまでだ。間抜けな声を出して六浜は明らかに動揺してた。意味が分からねえって面だな。

 

 「・・・ゴホン、偉そうに見えたか?」

 「見えるな。偉そうで、ふんぞり返って、俺みてえな何もできねえ奴を見下してやがる」

 「私はそうは考えないが」

 「テメエなんかに何が分かる。何も感じねえ脳内プラネタリウムは黙っとけ」

 「お前も変わらんな清水。“才能”への妬み嫉みは失せたと思っていたが」

 「他人に興味がわいただけだ。“才能”うんぬんの話はまた別だろ」

 「まあ、肩書きがある以上は偉そうと思われても仕方あるまい。お前が私を嫌う理由も理解できる」

 「いいや理解してねえ」

 「ほう。私が何を理解してないと?」

 「テメエ自身だよこの野郎。やたらめったら“才能”見せつけて周りを見下した上、生徒会かなんだか知らねえが上から指図なんかして挙げ句の果てにゃ謙遜通り越した嫌みで他人の劣等感煽りまくってくれやがったなぁオイ」

 「ずいぶんと早口で捲し立てるな。どれもこれも身に覚えがない」

 「だから分かってねえってんだよテメエは」

 

 自分でも不思議なくらいに言葉が出てくる。俺じゃねえ誰かが乗り移ったみてえだ。六浜もさっきの間抜け面から、既に議論モードに変わってやがる。だが俺はこいつと議論する気はねえ。かといって難癖つけるわけじゃねえ。どうとるかは六浜次第だ。俺は俺の言いたいことを言いたいように言うだけだ。

 

 「本心を言えよ。自分ならなんでもできると思ってんだろ?」

 「馬鹿な。私は何もできん。取り柄と言えば天気予報くらいだ」

 「本気を出せばなんでも解決できると思ってんだろ?その気になりゃ他人を思い通りにすることだってできんだろォ!?」

 「私に解決できることなど、私でなくても解決できる。人を思い通りに動かすことなどできてたまるか!人はそんなに簡単なものではない!」

 「自分の言うことに素直に従ってりゃ全員幸せになれるって思ってんだろ!?“超高校級の予言者”だもんなァ、未来が分かんだから自分の言うことが絶対正しいに決まってんだもんなァ!!」

 「私は予言者ではない!!未来に何が起きるかなど誰にも分からん!!」

 「だったらなんで全部背負い込みやがる!!!」

 「・・・ッ!!!・・・・・・?」

 

 しん、と空気が止まった。

 

 「お前は万能じゃねえ。誰かがお前に代わっても事足りる、他人を思い通りに動かせねえ、未来に何が起きるか分からねえ。俺らと何が違う?俺らとお前との違いはなんだ?」

 「・・・・・・私は、希望ヶ峰学園生徒会の役員として」

 「この合宿場でそんな肩書きに意味はねえ。それに俺は生徒会役員様におききしていらっしゃるわけじゃねえ、お前にきいてんだよ。六浜童琉さんよ」

 「・・・」

 「俺らと何も違わねえお前が背負い込むんだったら、俺ら全員も背負わなきゃなんねぇだろ。俺らは荷物持ちすらできねえ、むしろテメエがお荷物になってる赤ん坊か?ナメてくれんなよ」

 

 出そうになる言葉を抑えてるのか、返す言葉を必死に絞りだそうとしてんのか。六浜はまだ喋らない。

 

 「“才能”とか肩書きとかに責任感じんのは勝手だけどな、他人の責任まで背負うってそりゃ結局、何も持ってねえ俺をナメてるってことじゃねえのか?俺だって気絶したお前を運ぶくらいの根性はあらあ」

 「うむ、清水翔がいなければ観測器具の運搬も一苦労だ」

 「テメエは違う方向性で俺をナメてんだろ」

 

 どいつもこいつも、人が“無能”だからってナメやがってよ。まさかここまでとは思わなかった。ムカつくったらねえや。

 

 「お前、“超高校級の予言者”なんだろ?未来を100%的中させる現代の予言者、結構じゃねえか」

 

 もうこいつの顔は見たくねえ。今のところはな。

 

 「だったら過去(うしろ)ばっか見てねえで、未来(まえ)向けよ。重てえ荷物なら俺らが持ってやる」

 

 人形みてえにそこに突っ立ってるだけの六浜に、どこまで届いてるかは分からねえ。別に届いてなくてもいい。俺がムカついてることを言っただけだからな。これ以上この部屋に情報はなさそうだし、あっても問題ねえだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やあ、清水クン。六浜サンとの話は済んだの?」

 「いつから聞いてた・・・」

 「『六浜、お前めんどくせえな』ってとこから」

 「ふざけんなテメエ!」

 「『だったら過去(うしろ)ばっか見てねえで、未来(まえ)向けよ。重てえ荷物なら俺らが持ってやる』。かっこいい〜!」

 

 こいつに聞かれてると知ったらあんなこと言わねえのに、それを分かってわざと盗み聞いてやがったなこいつ。

 

 「あと清水クンさ、敬語ぐらいはちゃんと使えるようにしようよ。きいていらっしゃるって・・・ボクあそこで一旦冷めちゃった」

 「うるせえな!用はなんだよ!」

 「あとの二箇所は調べ終えたよってだけ。ボクが調べたのは管理室。まあ、合宿場全体のインフラを管理してるところだね。電気・水道・ガスはもちろん、空調・エレベーター・植物園の育成環境、何から何までだよ。ちなみに使えそうな情報はナシね。一番奥は冷蔵室。食糧とか日用品とかが氷漬けになってた。穂谷さんがうっかり馬鹿でかいドライアイスに触っちゃってブツブツ文句言ってたよ」

 

 聞かれてたやら、モノマネがイラつくやら、仕事が早えやら、何をどういう順番で処理していいか分からねえ。だが処理しきれなくとも、期待してたことはなかったみてえだ。この地下エリアで得た情報らしい情報は結局、俺が資料室で見つけたことだけだ。それに、幸か不幸か、誰もここでは黒幕と鉢合わせなかったらしい。

 

 「ほらよ」

 「なにこれ」

 「お前が俺に話したことの証拠だよ。資料室にあった」

 「何の話だ?」

 「お前は見なくていい」

 「おむっ」

 

 ファイルを覗き込もうとする望月を制して、曽根崎と目線で話した。これは、俺と曽根崎だけが知ってればいいことだ。ファイルを一読した曽根崎は、ふっと笑ってファイルを閉じた。すべて分かっている、とでも言いたげな眼だ。

 

 「望月サンには話してないんだ?」

 「お前が秘密にしてること、俺が勝手に言うわけにいかねえだろ。面倒事なら尚更だ」

 「ありがと。それじゃ、みんな集めて上に戻ろうか」

 

 裁判場でモノクマが一方的に全面対決を宣言してから、もう随分と時間がたった。それでもまだモノクマは裁判開始を告げない。いや、告げられないんだろう。いまモノクマを操ろうとしたら、黒幕はどうしたって俺らの前に姿を現さなきゃならねえ。ここに交代で誰かを見張りにつけてりゃ、黒幕はずっと動けねえってことになるが、その程度のことを黒幕が想定してねえとは思えねえ。それにしても、捜査時間がえらく長いんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 確か裁判の直後から捜査時間が始まって、裁判自体は朝からだったから、結局その日一日のほとんどが捜査時間だった。しかもまだ終わってねえ。モノクマは何をしようとしてるんだ?この時間の間に俺らが何かしねえって確信でもあんのか?モニター室や操作室まで手の内を明かしてそう思われてちゃ、俺らは相当ナメられてんな。

 

 「さてと、これからどうしようか?」

 「ひとまず集めた情報を整理しないか?いずれ来たる学級裁判では、我々全員が共有しておかねばならないことだ」

 「んー、でもまだ他にあるかも知れないよ?そっち探さない?」

 「そういうわけにもいかない。特に曽根崎、裁判場での続きを是非ともお前に聞きたい」

 「・・・」

 

 まただ。あの時と同じように、また曽根崎は目を逸らした。未来機関と“超高校級の希望”に関する話になると、途端に曽根崎は腰が引ける。俺に話すときの雰囲気もいつものふざけた感じとは違った。こいつにとってはそれくらい重てえもんってことか。

 

 「私は彼の秘密なんてこれっぽっちの興味もありません。話したければ勝手にどうぞ」

 「学級裁判に必要な情報であるならば、事前に共有しておかなければモノクマの後手に回る可能性がある。それは私たち全員にとって不都合なのではないか?」

 「・・・どうすんだよ」

 

 合宿場の全体を探した。新しく見つけた地下室も手分けして捜査したばっかりだ。これ以上の情報が転がってねえことは誰にだって分かる。曽根崎はなんとかして逃れようとしてたらしいが、この状況じゃ無理だろうな。曽根崎のことだ、俺は曽根崎に委ねる他ねえ。小声で言うと、曽根崎は顔色を変えた。

 

 「ボク、言ったよね?知る権利は尊重するよ。ただし、権利に見合う責任が果たせるならって。責任を果たすっていうのは簡単なことじゃない。もしかしたら、聞いた後で後悔するかも知れない。聞かなきゃよかったって思うかも知れない。それでももう後戻りはできない。知るってことは、絶対に取り戻せないギャンブルなんだよ」

 「構わん。いまさら何を重荷に感じようか。お前の態度から私が『予言』してしまう前に、話してくれ」

 「・・・それじゃ、先に答えてよ」

 

 直接問われてない俺でも、また寒気が走った。こいつがマジな表情でヘンな質問しやがるから、思わず身が強張る。聞いたが最後、絶対に逃げられねえことを改めて思い知らされるような、妙な感覚。六浜も穂谷も望月も、全員がその質問には同じ答えだった。

 

 「っぷ、はははっ。みんな清水クンと同じ答えじゃないか。うん、いいよ。死なないようにがんばってね」

 「質問の意味が理解できないのだが」

 「なんの質問なのですか?結局、話すのですか?話さないのですか?」

 「話すよ。希望ヶ峰学園と、未来機関と・・・“超高校級の希望”のこと」

 「“超高校級の希望”?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、六浜の目の色が変わった。まさかこいつも一枚噛んでやがるのか、とも思ったが、その後の曽根崎の話を聞いて、資料室で見つけたファイルを読んで、みるみるうちに表情が変わっていった。どうやらこの話は知らなかったらしい。穂谷は途中から話について行けなくなったように、自分の髪をいじってた。望月はうなずきながら聞いてたが、どこからどこまで理解してんのか分からねえ。

 一通りの話が終わった後は、情報をまとめて整理する・・・と思いきや、言い出しっぺの六浜が急に解散しようと言いだした。

 

 「・・・す、すまない。少し休ませてくれ」

 

 さすがの六浜でもここまでの情報量を一気に与えられちゃ混乱したのか、具合悪そうに言った。ファイルの全てに目を通しはしたが、この調子じゃ完全には理解しきれてねえんだろう。ふらつく足取りのままその場を去る六浜に続いて、誰からともなく、俺らは解散した。学級裁判のことなんて忘れたかのように、自然に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、俺は部屋じゃなくて、多目的ホールにいた。好きでいたわけじゃねえ。呼び出されたんだ。

 

 「お前が俺に何の用があるんだよ」

 「第一声がそれか。まったく・・・変わったのか変わっていないのか、分からん奴だ」

 「お前に分からねえことなんかあんのかよ。なんでも分かるんだろ?」

 「なんでもは分からん。分かることだけだ」

 

 ホールのど真ん中に立ってた六浜は、昼頃の青ざめた顔色は消え失せて、すっかり体調が元に戻ったらしい。あれからずっと休んでたんだ。一時の混乱も落ち着いたんだろう。今はずいぶんと血色がよくなって、いつもの凛とした気の強そうな表情に戻ってた。

 

 「用というほどでもないが・・・少し話をしておこうと思ってな」

 「話すんのにわざわざホールか」

 「狭い場所は落ち着かなくてな。すまんな」

 「まあ、別にいいけどよ」

 

 ホールの中は、外より風がない分だけいくらかマシな程度だと思ってたが、意外と温まってた。見たところストーブとかの暖房は入れてねえみてえだが、ずいぶんと気が利く。

 

 「ところで、少し暑くなってきたな。上の窓を開けてくれないか?風通しがよくなるように、少しだけでいい」

 「あん?暑いんなら自分でやりゃいいだろ」

 「・・・いや、お前にしてほしいんだ」

 

 真剣な眼差しで言ってくるもんだから、理由は分からねえが従っといた方がいいと感じた。別に上にあがって窓を開いてくだけだから、そんなに手間でもねえ。確かにホール内は温まってると言うよりも、少し暑いくらいだった。だったら空調切ればいいだろとも思うが、俺は深く考えずにホールの窓を開けた。

 ついでに足下の小窓もいくつか開けた。穏やかな風が抜けていって、空気が入れ替わっていくのが分かる。

 

 「なんだかんだで付き合いの良い奴だな。曽根崎も望月も、穂谷さえも、お前には心を開いているようだ」

 「買い被りすぎだ。あいつらはあいつらで勝手に俺に関わってきてるだけだ」

 「どちらでもいい。リーダーとはそういうものだ、自然と人を引き付け、支えとなり、導く者のことだ」

 「俺とは程遠いな」

 

 なんなんだ?呼び出したと思ったら急に俺を持ち上げやがって。何を考えてやがるか分からねえが、こいつは今更になって妙なことしだす奴じゃねえと分かる。何か狙いがあるな。

 

 「清水、私はな、お前の可能性に期待しているのだ」

 「あ?可能性?」

 「“超高校級の努力家”という“才能”、それはつまり、あらゆる可能性を内に秘めているということだ。お前は気付いていないのだろう」

 「・・・俺に“才能”なんかねえよ」

 

 なにかと思えば、“才能”の話か。俺がこの世で最も嫌いな、凡人が一生足掻いても越えられねえ壁のことだ。やっぱり俺はこいつみてえな奴が一番嫌いだ。天才は凡人を知ったように語りやがる。テメエの“才能”を差し置いて、同等の能力を求めやがる。

 

 「“才能”は持って生まれるものではない。“才能”なき者とは努力をしない者のことだ」

 「凡人の努力は天才の“才能”に簡単に捻り潰される。俺はそれを見てきた。凡人が努力で越えられるのは凡人だけだ」

 「天才などいない。知識と経験と技術、それを身につける努力の積み重ねこそが“才能”の姿だ。お前は“才能”を身につける“才能”を持っている」

 「そんなもんがあったら俺はなんでこんなことになってんだ!テメエに俺の何が分かる!」

 「何も分からんさ。だが、お前が己の力を見誤っていることくらいは分かる。清水翔、お前が思うより遥に、お前は力がある」

 

 こいつは、なんでここまで俺の癇に障ることを言ってくる?自分でも抑えきれねえ苛立ちが、自然と口を動かす。まるでこいつに操られてるように。そして脳みそは勝手に昔の記憶を甦らせる。クソほど腹立たしくなる出来事も、今でもぶん殴りたくなるような面も、大声で掻き消したくなる言葉も。

 

 「力があるだと?ふざけんな!テメエは熱出すくらい教科書読み込んだことあんのか!身体ぶっ壊すまで地味な筋トレしまくったことあんのか!学校中の奴らひとりひとりの名前覚えて挨拶回りしたことあんのか!全部ぶち壊されてきた!!“才能”ある奴らにだ!!俺が必死にしてきた努力を、“才能”は軽々越えていった!!それが現実だ!!努力なんかしたって無意味なんだよ!!虚しさしか残らねえ!!その上身勝手に叱られるんだ!!『なんで努力をやめた。もっとがんばれ』『あんなにがんばってたんだから次もがんばれ』『お前ならできる。今度こそできる』、無責任なんだよ!!励ましてるつもりの言葉がプレッシャーになるなんて気付かねえ自己満野郎なんかが、全てを否定されたこの感情に気安く触れるんじゃねえ!!」

 

 思わず声を荒げた。六浜は身じろぎ一つせずに聞いてた。自然と動いてた口はやがて静まり、俺は肩で息をしながら六浜を睨んだ。

 

 「・・・フンッ」

 「ありがとう」

 

 誰かにこんなにキレたのは久し振りな気がする。キレた後はいつも空気が淀んで、バツが悪くなる。こんなくだらねえ話なら、来るんじゃなかったと背を向けてホールから出ようとした。そんな俺に、六浜は短く言った。

 

 「やっとお前の声を聞けたぞ、清水」

 「気のせいだろ」

 「失敗は成功の母、挫折は達成の元、苦節は栄光の糧・・・やはりお前は信頼できる」

 「俺は成功にも達成にも栄光にも興味がねえ」

 「それらは得てして、興味のない者がいつしか手にするものだ。頼んだぞ・・・お前には、重い荷物を背負わせることになるが」

 

 それだけ言って、六浜は話を終えた。素振りも顔も見えなかったが、雰囲気だけでそれは分かった。さっきまでの怒りがウソみてえに、なんだかスッキリした気分だ。抱え込んでたもんを全部投げ捨てて、手ぶらになったような。妙な気分だが、重てえ荷物持つのにはちょうどいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 っぷ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うぷ、うぷぷ、うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ!!!!ぶひゃ、ぶひゃ、ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なん・・・で・・・!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんで・・・なんでだ!!!!!なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでウソだウソだウソだうそうそうそうソウウソウソウソウソウソウ嘘嘘嘘嘘嘘嘘ッ!!!!あり得ないあり得ない絶対絶対ウソに決まってるこんなことウソだバカげてる夢だ夢夢夢夢夢夢こんな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冷たい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『死体が発見されました!死体が発見されました!死体が発見されました!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死体?死体・・・死体死体死体死体死体死んでる死んでる死んだ死んだ死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たのむからウソだと言ってくれ

 

 

             起き上がって、冗談だと笑ってくれ

 

 

                           お前がいなくなったらどうすりゃいいんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なあ・・・答えてくれ、六浜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コロシアイ合宿生活』

生き残り人数:残り4人

 

  清水翔  【六浜童琉】 【晴柳院命】   【明尾奈美】

 

  望月藍  【石川彼方】 曽根崎弥一郎   【笹戸優真】

 

【有栖川薔薇】 穂谷円加  【飯出条治】 【古部来竜馬】

 

【屋良井照矢】【鳥木平助】 【滝山大王】【アンジェリーナ】




よいお年を。2016年を越えられなかった彼・彼女らに合掌
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