ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

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学級裁判編1

 

 鋼鉄の籠が地下へと降りて行く。ごうごうと唸る機械よりも、自分の心臓が騒ぎ立てる鼓動の方が耳障りだ。前よりもずっと広くなったエレベーターの中は、息遣い一つ響かないほど静かだった。そしてエレベーターは唐突に降下をやめて、口を開ける。日常の終わりから非日常のはじまりへ。この場所で誰かが終わる。誰かの命を終わらせた代償に、あるいはそれを踏み台に、誰かの命が終わりを告げる。その誰かになるのは俺たちか、それとも誰かの命を奪ったクロか。その行く末を知る者はいない。

 

 「はあ・・・せっかく最後の学級裁判になると思って用意したのに、こんな事件のために使われちゃうなんて・・・。テンションさげぽよだよ」

 

 床には白と黒のチェック模様、青い壁紙に赤いカーテンで目隠しをされた通路、赤い壇上に組まれた16席の証言台。うち12席には、悪趣味な血の色が目に付く遺影が立てられている。その側にある玉座に座るモノクマは、つまらなさそうに俯いている。

 

 「ったく!ボクはオマエラと決戦がしたかったんだよ!直接議論して、論破!ってしたかったのに!それは違うよとか言ってみたかったのに!こんな時にコロシアイなんてしてんじゃないよ!」

 「貴女が今まで散々やれやれと言っていたからこんなことになったのでは?」

 「TPOくらい弁えろっての!時と場合とオケージョンを弁えたコロシアイをしろよ!」

 「無茶苦茶だな」

 「まあ、でもこれはこれで面白い展開ではあるけどね。うぷぷ!最終裁判直前に起きたコロシアイ!ここでクロが勝っちゃったりしたら色々と絶望的だよね!ボクもそんな展開は望んでないんだけど!」

 「キミがそれを言っちゃうの?クロとシロに公平な立場はどうしたのさ」

 「もちろん公平だよ。でも、傍観者にも心があるのさ。怪獣にもロボットにも心があるように、モノクマにだって心があるんだよ」

 「どうでもいい。誰だか知らねえが、どうせこの中にいるんだろ?そのクロが」

 「・・・」

 

 単純に考えて、適当にやってもクロを当てる確率はかなり高い。さすがにそれじゃ命まで懸けられねえが、それぐらいクロにとってはリスクの高い殺人だってことだ。しかもモノクマでさえ、クロに負けて欲しいと明言してやがる。だったら学級裁判なんてやらずにクロだけ処刑すりゃいいと思うが、ルールにこだわる以上は必要なんだろう。

 俺たちはいつものように、それぞれの証言台に立った。視界に映る証言台のほとんどは遺影になってる。ここからさらに人が減るなんて考えるだけで暗くなるが、そんな呑気に言ってられる場合じゃねえのも分かってる。俺らが生きるために、一人だけ生き残ろうとした奴を殺す。ここはそういう場所だ。

 

 この中に、潜んでやがるんだ。六浜を殺した犯人が!そいつの化けの皮を剥いで、すべてを明らかにしてやる!この、学級裁判で!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コトダマ一覧

【モノクマファイル7)

場所:なし

詳細:被害者は“超高校級の予言者”六浜童琉。死体発見場所は多目的ホール。死亡推定時刻は午前1時ごろ。目立った外傷、衣服の乱れ、薬物を服用した形跡は一切ない。頭髪に白い粉末が付着している。

 

【多目的ホールの鍵)

場所:多目的ホール

詳細:多目的ホールの内扉を開閉する鍵。六浜が管理していたが、死体発見時には曽根崎が持っていた。

 

【全開の窓)

場所:多目的ホール

詳細:死体発見時、多目的ホールの窓はすべてが開放されていた。外から風が吹き込んできて風通しがよくなっている。

 

【室温)

場所:多目的ホール

詳細:ホール内は空調が効いていてとても暖かく、よく乾燥している。窓が開けられていてわかりにくいが、温度の設定はかなり高めにされている。

 

【六浜の死体)

場所:多目的ホール

詳細:血の気が引いて冷たく硬直しているが、死斑以外に目立った外傷などはない。髪の毛に付着していた白い粉末は塩。

 

【六浜の遺留品)

場所:多目的ホール

詳細:六浜が使用していたボールペンと小さなメモ帳。見た目だけは立派なモノクマブランド。

 

【バケツ)

場所:多目的ホール

詳細:多目的ホール内の用具倉庫にて発見。本来はホール横の掃除用具入れにあるはずの物。底に水滴が残っており、使用した形跡がある。

 

【室温)

場所:多目的ホール

詳細:ホール内は空調が効いていてとても暖かく、よく乾燥している。窓が開けられていてわかりにくいが、温度の設定はかなり高めにされている。空調機能を管理している管理室は誰でも入ることができ、そこで暖房と乾燥機能のスイッチが入れられていた。

 

【白い花)

場所:六浜の個室

詳細:白い花びらで中心が黄色い花。もともと六浜の部屋にあったものではなく、新しいものである。合宿場に自生している種類ではない。

 

【望月の動機ビデオ)

場所:なし

詳細:コロシアイ合宿生活でモノクマから最初に配られた動機のビデオ。望月のものには、望月にそっくりだがまったく異なる性格の人物が映っていた。

 

【“超高校級の絶望”)

場所:なし

詳細:旧希望ヶ峰学園での事件を発端として人類を壊滅寸前まで追い込んだ、人類史上最大最悪の絶望的事件を引き起こした主犯格。江ノ島盾子個人を指す場合もあれば、彼女を崇拝する集団や思想そのものを指す場合もある。新希望ヶ峰学園ではかつての勢力は見る影もなく、細々と活動する数名が残るだけである。

 

【『人類の生活』)

場所:資料館

詳細:四大文明や幻の古代文明などの生活から現代までについてまとめられた学術的にも価値の高い1冊。インドで栄えた文明の生活様式について書かれたページを開いて伏せて置かれていた。象が踏んでも潰れないハードカバーで綴じてある。

 

 

【スペシャルファイル①『新希望ヶ峰学園における“才能”研究の概要』)

場所:食堂

詳細:希望ヶ峰学園は、人類の希望を保護し育む希望の学府であり、教育施設であると同時に研究施設である。

 学園の創始者である神座出流は、人の持つ“才能”の研究を行っていた。“超高校級”と呼ばれる生徒たちはみな“才能”に溢れ、未来人類の希望であると同時に学園にとっては興味深い研究対象である。この研究の目的は、人の持つ“才能”を完全にコントロールすることである。すなわち、内に眠る“才能”を引き出し覚醒させるだけに留まらず、“才能”を個人から抽出あるいは個人に付与することをも可能にすることである。これは言わば、“才能”の物質化である。あまねく人々は、自らの望む“才能”を得ることができ、また持て余す“才能”を他者へ分け与えることができるようになる。これこそ、新たなる人類の進化の形と言えよう。故に希望ヶ峰学園は未来の希望である“才能”を保護し育む機関であると同時に、希望ヶ峰学園そのものが人類の希望となるのである。

 この研究の最終的な目標は、ありとあらゆる“才能”を有した人間を造り出すことである。神座出流はそれを、“超高校級の希望”と呼んだ。しかし旧希望ヶ峰学園は“超高校級の絶望”との争いの中で、志半ばでその研究を断念せざるを得なかった。

 

 

【スペシャルファイル②『希望プロジェクト プランD経過報告書』)

場所:資料館

詳細:XXXX/〇〇/△△ 報告者:晴貫 邑吉  被験者:(真っ黒に塗り潰されてやがる)

  ①前回からの経過

  AH-0625による変化は少しずつ、しかし確かに表れています。課題であったプランへの疑念は軽減あるいは消失したものと思われ、それ以外にも言動・思考に変化が表れ始めています。“才能”の伸長という点においては非常に大きな結果を残しています。定期健診の点数も日が経つに連れて向上し、既に入学時の2倍に及ぶポイントを示しています。

  また、抗絶望性は基準値を大きく上回る値を示しており、旧学園における験体『(ここも真っ黒だ)』や他験体で課題となっている抗絶望性に対する一つの解決策を提示しているものと考えられます。

 

  ②プランの問題点または失敗点

  定期的な投薬による身体への影響が懸念されます。現時点で確認できる身体的異常はありません。一方、AH-0625の効果による精神的変化から、複数の生徒に怪しまれています。以前に報告した、引地佐知郎からのマークが懸念されています。

 

  ③その他の報告事項

  引地佐知郎の他に、不穏な動きを見せている生徒がいます。詳細は添付の資料をご確認ください。

 

 

【スペシャルファイル③『コロシアイ』)

場所:発掘場

詳細:・コロシアイ学園生活

 人類史上最大最悪の絶望的事件による世界の崩壊から“才能”あふれる希望ヶ峰学園生を守るため、当時の希望ヶ峰学園学園長、霧切仁氏は生徒の了承の下で、彼らを希望ヶ峰学園に幽閉した。彼らは外部からの影響を受けず、また外部への影響を与えることもなく、学園の中で人類の希望を保持し続けるという計画であった。

 しかし、学園内に残った生徒の中に身を潜めていた江ノ島盾子と戦刃むくろにより、希望のシェルターは絶望のコロシアイ場へと姿を変えた。江ノ島盾子は共に幽閉されたクラスメイト全員の記憶を奪い、外へ出ようとする彼らの感情を煽りコロシアイを強いたのである。結果として江ノ島盾子は自害し、超高校級の絶望の根源は絶たれたが、彼女を含め10名の死者を出す大惨事となった。

 次のページより、コロシアイ学園生活内に死亡した生徒の詳細を記述する。

 

 【舞園さやか】 死因:腹部を刺されたことによる失血

 “超高校級のアイドル”。桑田怜恩の殺害を計画するも反撃に遭い、桑田怜恩によって殺害される。中学時代の同級生でありクラスメイトの苗木誠に濡れ衣を着せようとするが、自身が死亡したことによりトリックが未遂に終わり、失敗する。

 

 【戦刃むくろ】 死因:全身を槍で貫かれたことによる出血性ショック死

 “超高校級の軍人”。“超高校級の絶望”メンバーであり、江ノ島盾子の姉。江ノ島盾子による処刑のデモンストレーションにより死亡。江ノ島盾子になりすましてクラスメイトに接触し、死亡することによって江ノ島盾子が全ての黒幕であるという事実を隠匿するために参加していた模様。頭部が一部焼失している。

 

 【桑田怜恩】 死因:全身の粉砕骨折と打撲

 “超高校級の野球選手”。舞園さやかを殺害したため、処刑される。

 

 【不二咲千尋】 死因:頭部殴打による心機能の停止

 “超高校級のプログラマー”。大和田紋土によって殺害される。自身の死を予測し、事前に人格をプログラミングにより再現し、アルターエゴを作成する。江ノ島盾子は後にこれを利用し、コロシアイ修学旅行を引き起こす。

 

 【大和田紋土】 死因:内臓破裂と全身四散

 “超高校級の暴走族”。不二咲千尋を殺害したため、処刑される。壮絶な処刑が行われたため死体が原形を留めていない。

 

 【石丸清多夏】 死因:脳挫傷

 “超高校級の風紀委員”。山田一二三によって殺害される。

 

 【山田一二三】 死因:脳挫傷

 “超高校級の同人作家”。安広多恵子に石丸清多夏の殺害を教唆され、実行後に安広多恵子によって殺害される。

 

 【安広多恵子】 死因:轢死

 “超高校級のギャンブラー”。山田一二三を殺害したため、処刑される。

 

 【大神さくら】 死因:毒物の摂取

 “超高校級の格闘家”。自ら毒物を摂取し、死亡。死亡直前に葉隠康比呂・腐川冬子・朝日奈葵と会い前2名から頭部に殴打を受けるが、死に至るものではなかった。

 

 【江ノ島盾子】 死因:多様な傷痕があり、また死体の損傷が激しいため検証不可。

 “超高校級の絶望”。自分自身を処刑にかけ、死亡。通常の肉体ではあり得ないような傷痕が複数みられ、死亡当時の状況の詳細は解明途中である。記憶操作の研究を幇助した松田夜助を殺害したことが確認されている。また、験体『(ここも読めねえ)』に自らの絶望性を一部移植したとの研究結果がある。

 

 ・コロシアイ修学旅行

 未来機関が作製した『希望更正プログラム』によって、江ノ島盾子の手で絶望に堕とされた旧希望ヶ峰学園77期生を“超高校級の絶望”から更正させようという計画が執り行われた。この計画を主導したのは、先のコロシアイ学園生活を生き延びた者のうち、苗木誠・霧切響子・十神白夜の3名である。

 仮想空間内で共同生活を送ることで汚染された精神を矯正する目的で行われたものであったが、このプログラムが執り行われる直前、77期生の一人である日向創がプログラムにバグを混入させた。このバグこそが、不二咲千尋が発明したアルターエゴを改造した、江ノ島盾子のアルターエゴである。これにより、『希望更正プログラム』は江ノ島盾子に乗っ取られ、77期生は電脳空間内でコロシアイをすることになる。

 次のページより、コロシアイ修学旅行内に死亡した生徒の詳細を記述する。

 

 【(読めねえ)】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の詐欺師”。花村輝々によって殺害される。プログラム内では、腹部を刺されたことで死亡処理が行われている。常に自分以外の他者の姿を模倣しており、プログラム内では十神白夜の姿に変装していた。

 

 【花村輝々】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の料理人”。(読めねえ)を殺害したため、処刑される。プログラム内では、急激に高熱に晒されたことで死亡処理が行われている。

 

 【小泉真昼】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の写真家”。辺古山ペコによって殺害される。プログラム内では、頭部を殴打されたことで死亡処理が行われている。プログラム内で、九頭龍菜摘の事件に関与している証拠が発見される。

 

 【辺古山ペコ】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の剣道家”。小泉真昼を殺害したため、処刑される。プログラム内では、全身を刀で刺されたことで死亡処理が行われている。プログラム内で、九頭龍菜摘の事件に関与しているとの証拠が発見される。

 

 【澪田唯吹】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の軽音部”。罪木蜜柑によって殺害される。プログラム内では、気道が長時間圧迫されたことで死亡処理が行われている。プログラム内で、九頭龍菜摘の事件に関与している証拠が発見される。死亡直前、バグに感染していたことが確認されている。

 

 【西園寺日寄子】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の日本舞踊家”。罪木蜜柑によって殺害される。プログラム内では、頸動脈を損傷し大量に出血をしたことで死亡処理が行われている。プログラム内で、九頭龍菜摘の事件に関与している証拠が発見される。

 

 【罪木蜜柑】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の保健委員”。澪田唯吹・西園寺日寄子を殺害したため、処刑される。プログラム内では、致死量の薬物投与をしたことで死亡処理が行われている。プログラム内で、九頭龍菜摘の事件に関与している証拠が発見される。

 

 【弐大猫丸】 死因:脳機能の停止

 “超高校級のマネージャー”。田中眼蛇夢によって殺害される。プログラム内では、全身殴打で生命維持機能が停止したことで死亡処理が行われている。田中眼蛇夢による殺害以外に、強い衝撃と熱刺激を受けて死亡処理が行われるも中断された形跡がある。

 

 【田中眼蛇夢】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の飼育委員”。弐大猫丸を殺害したため、処刑される。プログラム内では、激しい衝撃を受けたことで死亡処理が行われている。

 

 【狛枝凪斗】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の幸運”。更正補助プログラム「七海千秋」によって殺害される。プログラム内では、毒性物質を吸引したことで死亡処理が行われている。七海千秋が自身を殺害するように誘導した。

 

 

【スペシャルファイル④『“超高校級の問題児たち”』)

場所:大浴場

詳細:以下に、『“超高校級の問題児たち”修正・改善プロジェクト』参加者を列記する。尚、各自が有する問題については極秘事項であり、原則的に当事者・非当事者を問わず秘匿すべし。

 

 氏名:明尾奈美

 性別:女

 才能:超高校級の考古学者

 事由:学園内での危険物所持。主にツルハシや電動ドリル、ノミとカナヅチなどの発掘作業用工具。再三の注意にも耳を貸さず、特別対応が必要と判断。また、希望ヶ峰学園理事会員及び一部教職員に対し、生徒にあるまじき態度を見せるとの報告多数。

 卒業条件:工具不携帯による通常生活の遂行及び、希望ヶ峰学園生としての慎ましく誠実な精神養育の確認を以て『可』とする。

 

 氏名:有栖川薔薇

 性別:女

 才能:超高校級の裁縫師

 事由:「袴田事件」の中心人物である、袴田千恵と親交の深かった生徒であり、事件について過剰に関与しようとしているため、静観すれば危険な生徒。少々ヒステリックな面があるため、接触時には注意されたし。また、飯出条治との接触には十分に注意すべし。

 卒業条件:「袴田事件」への関与を抑止し、飯出条治との対話・和解を以て『可』とする。

 

 氏名:(仮名)アンジェリーナ・フォールデンス

 性別:女

 才能:超高校級のバリスタ

 事由:本名及び基本情報の著しい欠損。ティムール・フォールデンスは養子と主張しているが、保護機関や出身国などの情報の提供を頑なに拒絶。同氏の農園では複数の奴隷の就労が確認されているため、様々な可能性が考えられる。

 卒業条件:当生徒の生徒基本情報文書の作成を以て『可』とする。

 

 氏名:飯出条治

 性別:男

 才能:超高校級の冒険家

 事由:異性に対し偏執的な好意を持つ傾向があり、複数の女生徒から苦情が寄せられている。また、「袴田事件」と関係しているとの報告もあり、有栖川薔薇との接触には十分に注意すべし。

 卒業条件:希望ヶ峰学園生としての誠実かつ清廉な交際を支える精神改革、及び有栖川薔薇との対話・和解を以て『可』とする。

 

 氏名:石川彼方

 性別:女

 才能:超高校級のコレクター

 事由:窃盗、詐欺、売春など、判明しているだけで十数件の前科有り。珍品や自身の蒐集品に強い執着を持ち、特にこれらが関係する事柄において衝動制御障害とみられる言動が報告されている。突発的な傷害行為や暴力行為に十分に注意すべし。

 卒業条件:本人による窃盗品を返却することの承認及び衝動制御障害の完治あるいは緩和を以て『可』とする。

 

 氏名:古部来竜馬

 性別:男

 才能:超高校級の棋士

 事由:極端な自尊心による他者との隔絶。また、他者とのコミュニケーション能力に大いに問題があり、集団生活の基礎となる協調性の著しい欠如を認める。加えて生活態度に問題があり、特に睡眠時間に関しての改善が望まれる。

 卒業条件:生活態度の是正、協調性の十分な発育を以て『可』とする。

 

 氏名:笹戸優真

 性別:男

 才能:超高校級の釣り人

 事由:学園内の過激派思想集団に所属しているとの情報があり、学園に対して反抗的な思想を抱いている。晴柳院命に強く執着しており、一般的な学生の交際範囲を大きく逸脱している。通常は大人しく柔和な性格であるため、慎重に対処すれば安全と考えられる。

 卒業条件:学園に対する反抗思想の消滅、過激派集団の離脱を以て『可』とする。

 

 氏名:清水翔

 性別:男

 才能:超高校級の努力家

 事由:生活態度に著しい問題あり。授業妨害、指導無視、集団逸脱が多く、円滑なクラス運営に大きく障害となる生徒。また、自らの“才能”を発揮することを放棄しており、これは学園の理念である“才能”を保護し育成することに真っ向から背くものである。“超高校級の絶望”との接触歴ありとの情報有り。本プロジェクトにおいて最優先で是正すべき生徒である。

 卒業条件:絶望因子の排除、通常の学園生活を送ることができるだけの精神構造の是正、“才能”の再保有を以て『可』とする。

 

 氏名:晴柳院命

 性別:女

 才能:超高校級の陰陽師

 事由:晴柳院義虎氏の孫であり、同氏が過去学園内に創設した思想集団の意思統一の象徴として奉られている。笹戸優真はこの団体のメンバーである。当人は非常に主張が弱い性格であるため、問題児の中で満足に生活できるかという点には疑問が残る。多面的なサポートが必要と考えられる。

 卒業条件:強い意思表示が可能な性格の構築、それに伴う笹戸優真や晴柳院義虎に毅然たる対応を以て『可』とする。

 

 氏名:曽根崎弥一郎

 性別:男

 才能:超高校級の広報委員

 事由:引地佐知郎との密な関係を持っていたとの情報有り。件の生徒と同様に、未来機関からの諜報活動を依頼されたものと推測される。通常の学園生活においては広報委員としての過剰な取材により、複数の生徒から苦情が届いている。

 卒業条件:未来機関との関係を明確にすること、場合によってはその関係を断絶させることを以て『可』とする。

 

 氏名:滝山大王

 性別:男

 才能:超高校級の野生児

 事由:特殊な出生に由来する、著しい社会性の欠如と精神的未熟さがみられる。身体的には高校生の平均を大きく上回るため、トラブルの際には取り扱いに十分に注意すること。

 卒業条件:高校生として最低限の基礎学力の定着、学園生活を送るにあたっての十分な社会性の発育を以て『可』とする。

 

 氏名:鳥木平助

 性別:男

 才能:超高校級のマジシャン

 事由:長期に亘る『Mr.Tricky』としての活動による出席不足かつ欠席理由が不明瞭。学園生活には特記すべき事項はないが、学外での活動が多いため有事の際の行動は不明。また、学園内で無許可の営利活動を行っていたとの情報アリ。

 卒業条件:欠席理由の明確化および欠席必要性の解消、営利活動に関する報告書の作成を以て『可』とする。

 

 氏名:穂谷円加

 性別:女

 才能:超高校級の歌姫

 事由:新52期生であるが、現在は新53期生と同学年である。欠席過多から、進級ができていない状況にある。欠席原因は持病によるものとの連絡が多いが、診断書類の提出はないため事実確認ができていない。また、複数の生徒と学生らしからぬ交際関係があるとの報告多数。詳細は不明である。

 卒業条件:欠席理由の明確化、進級資格認定試験への合格を以て『可』とする。

 

 氏名:望月藍

 性別:女

 才能:超高校級の天文部

 事由:詳細不明。『計画』に関与している可能性ありとの報告が上がっている。複数の生徒や教師から入学時と人格が大きく変化しているとの報告があるため、『計画』に関して非常に深い部分まで進行している可能性がある。場合によっては、特別処置が必要と考えられる。

 卒業条件:経過観察中につき、条件未定。

 

 氏名:屋良井照矢

 性別:男

 才能:超高校級の爆弾魔

 事由:テロリスト『もぐら』として大量破壊・大量殺戮を繰り返している、非常に危険な生徒。再三に亘る学園からの警告にもかかわらず、学園内でテロ行為を敢行している。異常な自己顕示欲を示しているため、扱いには特に注意すべし。

 卒業条件:テロ行為の全面的な中止、大幅な精神改革を以て『可』とする。

 

 

【スペシャルファイル⑤『希望プロジェクト プランS経過報告書』)

場所:植物園

詳細:XXXX/〇〇/▽▽ 報告者:魔達 居龍  被験者:ーーー

  ①前回からの経過

  非常に順調です。前回に引き続き、学園生との接触及び観察を継続しています。定期健診においては、新たに"超高校級のパティシエ"、"超高校級の師範"の"才能"が発現し、いずれも認定規定値まで達しています。発現した"才能"、及びその練度についての資料は、所定フォルダ内のデータを更新しております。ご査収ください。

 

  ②プランの問題点または失敗点

  プランの進行に伴い被験者の性格、言動、精神状態に変化が表れています。健診項目を追加してデータを収集したところ、少しずつ摩耗しているように見られます。成果が表れている一方で、危険な状態に移行しつつあることに留意すべきと言えます。

 

 

 『希望プロジェクト プランS経過報告書』

 XXXX/▢▢/◎◎ 報告者:魔達 居龍  被験者:ーーー

  ①前回からの経過

  新たに"超高校級の理髪師"、"超高校級のスイーパー"、"超高校級の彫り師"の"才能"が発現し、既にオリジナルに近いレベルにまで達しています。以前より発現する"才能"の数が増え、修得の早さが加速しています。被験者の負担を軽減すべく、学園生との接触を減らし観察のみに移行しています。彼自身が持つ“才能”が成長しているものと考えられます。また本人が、より高効率かつ確実な“才能”の修得について考えていると話しています。具体的なことは不明です。

 

  ②プランの問題点または失敗点

  前回報告した、精神状態の摩耗が進行しています。この状態が継続して一定の水準にまで下降した場合、プランの進行について再考を要する可能性があります。

 

 

 『希望プロジェクト プランS経過報告書』

 XXXX/☆☆/@@ 報告書:魔達 居龍  被験者:ーーー

  ①前回からの経過

  前回から5つの“才能”が発現しています。これほどの進度で“才能”を修得することは、他に例がありません。被験者の負担を考慮し、学園生との接触を中断し観察に費やす時間を減らしたにもかかわらず、この数字は明らかに異常です。プランの休止と再考を進言します。

 

  ②プランの問題点または失敗点

  各精神値が危険域に接近しています。既に被験者はかなりの段階まで進んでいますが、このままでは危険です。

 

 

 『希望プロジェクト統括部長へ』

  私は、彼がこれ以上“才能”を修得し続けることに反対します。プランの中断と彼の治療を独断で決定しました。すでに彼は学園外へ連れ出し、適切な処置を受けさせています。『希望プロジェクト プランS』は失敗です。“超高校級の希望”は他の方法で創ってください。申し訳ありません。

 

 

【スペシャルファイル⑥『“超高校級の希望”』)

場所:地下資料室

詳細:希望ヶ峰学園は、創始者であり初代学園長である神座出流が、“才能”を育成・研究するための施設として建てたものである。彼はありとあらゆる“才能”を持った究極の人類の創造を悲願とし、希望ヶ峰学園が行う研究の最終目的はそれに同じく、“超高校級の希望”を生み出すことである。

 “超高校級の希望”、すなわちあらゆる“全能”の人間を生み出すことは容易ではなく、“才能”についての研究及び“才能”を人為的に発現、移植する技術などの開発が不可欠となった。希望ヶ峰学園の歴史は、“才能”実験の歴史と換言できる。ある時は多岐に渡る“才能”を有したサンプルに特殊訓練を行って破壊し、またある時は催眠的手法により“才能”を植え付けようとして破壊してきた。完全な成功と言える研究は、未だに現れない。

 唯一、“超高校級の希望”の成功例として現れたのが、『験体ヒナタ』である。予備学科生として入学した、一切の“才能”を持たない脳に、“才能”を移植することに成功し、術後の容態も非常に安定していた。しかし、彼は“超高校級の絶望”に染まってしまったため、その能力を人類の“絶望”のために振るってしまった。

 新希望ヶ峰学園では、旧学園でのデータから“超高校級の希望”研究を継続して行っている。完成品としての“超高校級の希望”、その絶対条件は、『絶望しないこと』である。絶望的状況に屈しない精神力や、絶望的状況を察知し回避する適応力、そのような素質を数値化し、抗絶望性として実験データへの追加項目とした。

 研究開始、及び中途開始実験は数十ケースに及ぶが、現在、希望ヶ峰学園で行われている“超高校級の希望”研究は以下にまとめる通りのみである。ただしいずれも、“超高校級の希望”を完成させるための実験であり、最終的には失敗に終わる前提で行われていることに気を付けたい。

 『プランD』

 験体:(黒く塗り潰されてる)

 “才能”指数:下

 実験内容:投薬により精神的エントロピーを減少させることで、保有する“才能”の伸長を観察する。

 

 『プランS』

 験体:(黒く塗り潰されてる)

 “才能”指数:中

 実験内容:験体が保有する“才能”により、一人の人間が保有可能な“才能”数の限界を調査する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【学級裁判 開廷!!】

 

 「では、学級裁判の簡単な説明からはじめましょう。学級裁判の結果は、オマエラの投票により決定されます。正しいクロを指摘出来れば」

 「クロなんて、分かり切っているようなものではありませんか!」

 「ちょ、ちょっと!まだボクが話してる途中でしょうが!」

 「六浜さんを殺害したのは・・・貴女しかいないでしょう。モノクマ」

 「ええっ!?ボ、ボクが犯人だったの!?」

 

 お決まりのモノクマの挨拶をぶった切って、穂谷は結論を口にした。六浜を殺した犯人はモノクマだという。モノクマ、つまりはその向こうにいる黒幕のことか。

 

 「なんでそう思うの?」

 「本来なら私たちはここで、モノクマとの直接対決をするはずだったのですよ。しかし今回の事件によってそれは阻止された。六浜さんは大きな力になることが容易に予想できます。モノクマが、厄介な相手を消しに先手を打ったのでしょう!」

 「しかし直接対決となる学級裁判を宣言したのはモノクマだ。そのモノクマがわざわざ自らの行う学級裁判を阻害するような行為をするのは合理性がない」

 「合宿規則17抵触ギリギリのことだしねー。だいたいモノクマはボクらに手を出さないはずじゃなかったっけ?」

 「そうだよ!ボクが学級裁判をやろうって言ってるのに、六浜サンを殺して何になるのさ!ボクはルールには特に厳しいって有名なんだからね!規則は絶対遵守してるよ!コンプライアンス!!」

 「どうでしょうか?裁判の目的も、規則を守っているというのも、所詮はモノクマの言葉を信じるしかありません。そんなものが通じるのならば、今までの学級裁判でしてきたことは一体なんだったのでしょうか?」

 「どっちにしろ、今はまだ結論出せねえだろ。話し合えることはとことん話し合う、それが学級裁判だろ」

 

 まあ、モノクマが犯人だったとして、それを学級裁判で認めさせるのは相当骨が折れるだろうな。今ある証拠から地道に推理してくしか、やっぱり道はなさそうだ。

 

 「で、じゃあ最初は何から話そうか?」

 「六浜童琉の死体の顕著な特徴としては、そこに一切の外傷がないことだ。死斑以外に異常がないという記述こそが異常と言わざるを得まい」

 「外傷どころか出血もなくて、おまけに毒や薬を飲んだ形跡もない。確かに、死因がはっきりしないね」

 「けど、それなら死因もほぼ決まったようなもんじゃねえか?」

 「そうなのですか?」

 

 

 【ノンストップ議論】

 

 「モノクマファイルによると、六浜童琉の死体には“一切の外傷がない”そうだ」

 「“刺した“り、“殴った”り、“撃った”り、“斬った”り、“潰した”りはしてないってことだね!ついでに“毒を飲んだ”り怪しげな“薬を飲んだ”ってこともないみたい!」

 「まるでその場で“突然に死んでしまった”気さえしてきます。一体六浜さんの死因はなんなのですか?」

 「外傷が残らねえ殺し方だってある!多目的ホールは何もねえように見えたが、見えねえ凶器があったんだ!」

 「見えない凶器?」

 「ガスだ!犯人はガスを使って六浜を酸欠にして、“窒息死させた”んだ!」

 「それは違うぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なるほど、窒息死ならば外傷は残らない。苦しみ悶えた被害者が自らを傷付ける可能性は否定できないが・・・いずれにせよ窒息死は考えられない」

 「だよね」

 「窒息死とは考えられないからこんなに考えているのです。それすらも気付いていなかったのですか?なんのためのリンゴ頭なのですか」

 「ぜってぇ必要ねえ暴言だろそれ!!」

 「死体発見時、多目的ホールはすべての窓が開放された状態であった。換気作用がしっかり働いている空間でガスによる窒息が起こる可能性は非常に低い」

 「じゃ、じゃあ犯人が六浜に無理矢理息を止めさせたとか」

 「その場合は六浜サンに抵抗されながら口と鼻を同時に押さえ続ける必要があるね。少なくとも1,2分は。格闘したにしては六浜サンの死体はキレイなものだったね」

 

 全員が全員否定するもんだからムキになっちまったが、確かにあの環境で窒息死はムリだろうな。だがだとしたら、いよいよ六浜の死因がなんなのか分からねえ。窒息以外に外傷が残らない死因なんてあるか?

 

 「そういえば、なぜ多目的ホールの窓が全開になっていたのでしょうか?普段は閉じていますよね?」

 「ああ、そういえばそうだね!さすが復活した穂谷サン!目の付け所が鋭角だね!」

 「なんらかの意図があったのだろう。意味も無くすることではないだろう」

 「さあな、それより今は六浜の死因だろ」

 

 話が多目的ホールの窓に移りそうになったから、少し強引だが死因のままに留めた。そこから先の話は、今はまだする気にならねえ。面倒だし、なにより気が乗らねえ。

 

 「ふっふーん、それじゃあボクの意見を出そうか」

 「まともなんだろうな」

 「もちろん!窒息死っていうのは惜しかったね!六浜サンの正しい死因は・・・溺死だよ!」

 「で、溺死ィ?」

 「六浜さんは溺れて死んだと?多目的ホールでですか?」

 「まさか!この合宿場で溺れる場所といったら、あのバカでかい湖しかないでしょ!」

 「しかし、あの湖は進入禁止ではなかったか?以前、滝山大王がモノクマに制止されたと聞いた覚えがある」

 「そ、そうだ!殺しのためとはいえ湖には入れねえはずだぞ!」

 「・・・って言ってるけど、どうなのモノクマ?」

 「合宿規則4『ゴミのポイ捨てなど、合宿場の自然を破壊する行為を禁じます。ただし、発掘場を除きます。』。この規則に則って、湖で身体を洗う行為は自然を破壊する行為として禁じました。(入ってはいけないとは言ってない)」

 「汚れを落とすのではなく、ただ水に触れるだけならセーフということですか」

 「そういうこと!自然のものを自然に返す行為や、自然の持つ性質を変えない範囲ならセーフとなります!」

 「つまり湖で溺れさせることも?」

 「もちろん、セーフ中のセーフ!」

 

 なんか都合が良い話のような気もするが、確かにそう言われると納得できる気もする。だがそうすると他にも奇妙な点が出てくる。

 

 「では、なぜ六浜童琉の死体は多目的ホールに移動させられたのだ」

 「そりゃ死体は放って置いたらポイ捨てになっちゃうからね。飯出クンの時とは違うんだから」

 「溺死させられる場所といえば湖畔だろう。そこから多目的ホールは非常に距離がある。吸水して重量の増した六浜童琉を運ぶのであれば、より近接している倉庫や資料館でも問題ないように思われる」

 「それもそうですね」

 

 多目的ホールに運ぶ特別な理由でもあったんなら納得できるが、六浜は何もない場所に放置されてただけだった。あれじゃ、別の建物に運ばなかった理由が説明できねえ。

 

 「多目的ホールじゃなきゃいけない理由でもあったのかな?」

 「それより、そもそも六浜さんの死因が溺死であることの証拠がないじゃありませんか。外傷がない死因なら他にも考えられます」

 「・・・いや。ある、かも知れねえぞ。証拠」

 「はい?なんですかリンゴさん?」

 「なぜ清水翔は林檎と呼ばれているのだ?」

 「うるせえ!溺死ってことは、要は溺れさせりゃいいんだろ!だったら・・・!」

 

 【証拠品選択】

 A.【六浜の遺留品)

 B.【『人類の生活』)

 C.【バケツ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「多目的ホールの用具倉庫にバケツがあった。あれはもともとホールの横の掃除用具にあったもんだろ。それがホールの中にあったってことは、あれで六浜は溺死させられたんだ!」

 「バケツ・・・なるほど。バケツに汲んだ水で六浜サンを溺れさせたんだね!それなら湖畔から六浜サンの死体を運ぶ必要はなくなるよね!」

 「本当にそのバケツは六浜さんを溺死させるために使われたのですか?」

 「他に使い方なんかねえだろ。バケツがあんなところにあるってことが、六浜が溺死させられたって証拠だ」

 「・・・根本的な疑問なのだが」

 「なんだよ」

 

 自分のことだが、少し強引な推理な気がする。けどバケツがあるってことはやっぱりそういうこと以外に考えられねえし、六浜の死因は溺死なはずだ。それ以外にあるわけがねえ。それがこの事件の真相なはずなんだ。

 だが、そんな結論を望月が許すはずがなかった。

 

 「なぜ六浜童琉は多目的ホールで死んでいた?」

 「やっぱそこかあ!」

 「六浜童琉の死因が真に溺死であるかは一旦さておいて、なぜ六浜童琉の死体は多目的ホールに放置されていたのだ?あの場所で殺されたのか、あるいは別の場所で殺されたのか。いずれにせよ、死体をあの場所に放置することにも意味があったのではないか?」

 「あら?お待ちなさいな」

 

 何もないホールのど真ん中に、外傷のない六浜の死体。奇妙といえば奇妙過ぎる現場の状況に疑問を抱いてるのは望月だけじゃねえ。だが誰もそこには触れようとしなかった。まだ分からねえことが多すぎたからだ。それを空気を読まねえで突っ込んでくのは、らしいっちゃらしい。そして、そこに真っ向から刃向かってく穂谷も、やっぱりらしい。

 

 「六浜さんの死因をさておいて?今は彼女の死因を特定させる話をしているのですよ?強引に話題を変えるなんて、本当の死因を明らかにされては困ることでもあるのですか?」

 「死因を特定させるために必要だと考えるから提案したのだが、理解していないのか?現場の状況には不明確な点が多い。これを明確にすることが、六浜童琉の死の状況、すなわち死因を特定する大きな手掛かりになるのではないか?」

 「ちょ、ちょっと落ち着いてよ二人とも。いっぺんに違う話をされても」

 「今すべき話は“死因”についてに決まっているでしょう!」

 「“死体発見現場”こそ優先的に議論されるべきだ」

 

 勝手に話はじめてんじゃねえぞ。いっぺんに話されてもこっちは一つの話しか聞けねえっつうの。そう言って止めるような奴らならこんなに苦労してねえ。どうにかして、こいつらの話を1度に片付けられねえか。

 

 

 【ダブル議論】

 

 「まだ六浜さんの死因がはっきりしていません。それを無視して議論は進められません」

 「死体発見現場は明らかに異常だ。死因によらず六浜童琉を多目的ホールに放置した理由は明確にさせておくべきだろう」

 「死因は溺死だと思うけどなあ。外傷がない上に服毒の形跡もないんじゃ、それくらいしか浮かばないよ」

 「無傷の死体があんな何もねえ場所に転がってるってだけで十分意味不明だ。クロにとっちゃ、それだけで理由になるんじゃねえか?」

 「確かに溺死なら外傷は残らないでしょうが、外傷が残らないからといって溺死であると決めるのも早計ではありませんか!?そもそも六浜さんの死体は“まったく濡れていなかった”ではありませんか!」

 「単に奇妙な現場を演出することが目的だったということか?奇妙な現場を生み出せば議論されることは明白だろう。なにより仮に清水翔の言う通りだとしても、放置する場所が“多目的ホールである必然性がない”ではないか」

 「この議論ッ!!ぶち抜いてやるッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おいお前ら、いい加減にしろ。黙れ。まとめて説明してやる」

 「えっ?清水クンにできるの?ボクでもどうすればいいか困ってるのに、清水クンにできるの?」

 「なんで二回言った!!」

 「まとめて説明・・・してもらおうか」

 「まず、六浜の死体が濡れてなかったってことだが、それは単純な話だ。乾いただけだろ」

 「ぷっ!うふっ、うふふふふふふふふふっ!!あっはははは!!冗談は頭髪だけにしてください!溺死であれば少なくとも頭はずぶ濡れになるはずですよ!?」

 「誰の髪が冗談だッ!!」

 「たとえ一晩放置したからといって、タオルもドライヤーもなしに髪が簡単に乾きますか!?六浜さんの髪は決して短くありませんでしたよ!?」

 「そうだよね。外ならよく乾くと思うけど、ポイ捨てはできないし・・・」

 「だから多目的ホールを選んだんだろ。あそこなら窓を開けりゃ風通しが良くなる。外に放置できねえなら、外と同じ環境にできる多目的ホールを選ぶのは当然だ」

 

 六浜が溺死したことを隠すんなら、死体を乾かすのは絶対に必要だ。死体に付きっきりで乾かす以外の方法だったら、自然に乾くのを待つしかねえ。だから犯人はあの多目的ホールを選んだんだ。物がないのも、ホールのど真ん中に放置されてたのも、窓を開けてたのも・・・・・・え?

 

 「なるほど。確かにその条件を満たすのは、開放して外気を取り込むことが可能な多目的ホール以外にない」

 

 ちょっと待て。やっぱおかしいぞ。

 

 「しかし、計画的なのか杜撰なのかはっきりしない犯行ですね。考えがあって現場を決めた割に、その考えが大雑把過ぎます」

 

 そうだとするとなんであいつはあんなこと言ってたんだ。

 

 「まあ犯人の気持ちなんてボクらには考えても分からないよね。だけど、溺死っていう死因と多目的ホールの状況を考えるに、犯人は六浜サンと最後まで一緒に」

 「それだけじゃねえ!!」

 

 思わず叫んだ。考えもなしに、咄嗟に、議論を止めるために。

 

 「は、犯人が多目的ホールを選んだ理由はそれだけじゃねえ!!」

 「そんなにおっきな声出さなくても聞こえるって。どうしたの清水クン?」

 「六浜を溺死させてからあいつの死体が乾くまで、多目的ホールに出入りされたら意味ねえだろ!・・・だから、確実に誰にも見つからねえように多目的ホールを選んだんだ!」

 

 納得しかけてた周りの空気が変わった。不要なことだったかも知れねえ。けどこれで議論が変わる。

 

 「誰にも見つからない、とは?多目的ホールは誰でも出入りできますよ」

 「いや、多目的ホールは誰も入れねえようになってたはずだ」

 

 それは・・・

 

 A,犯人が多目的ホールの入口を見張ってたから

 B,犯人が多目的ホールの鍵を持ってたから

 C,犯人が多目的ホールの近くに罠を仕掛けていたから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「多目的ホールの内扉には鍵がついてたはずだ!犯人はその鍵を持ってたんだ!」

 「ふぅん」

 「六浜を殺して乾かす準備を整えた後、犯人は多目的ホールの内扉に鍵をかけて出てった。そうすりゃ、朝まで誰もホールに入れなくなるだろ」

 「内扉の鍵なんてあったのですか?まったく知りませんでしたが」

 「使う人なんてほとんどいなかったけどね」

 「いつも六浜が夜の見回りの時に鍵をかけてたんだ。だからその鍵は六浜が持ってたはずなんだ」

 「なるほど。リンゴさんは自分が何を言っているのか理解しているのですか?六浜さんは鍵のかかった多目的ホールの中で死亡していたのに、その鍵は六浜さんが持っていた。それでは今朝、どうやって私たちはホールの中に入ったのですか?」

 「鍵を六浜が持ってたのは昨日までの話だ。今朝、その鍵は別の奴の手に渡ってた。そいつが多目的ホールに鍵をかけた、つまり六浜を殺した奴ってことになる・・・そうだ!そうに違いねえ!!」

 「・・・ってことは、清水君には犯人の目星がついてるってことじゃない?結局、誰が犯人だと思ってるわけ?」

 

 結論を急くように曽根崎が言った。だが、その目は言葉とは逆にまったく俺の主張を聞き入れようとしてねえ。次に俺が言うことが分かってるからだ。そんなこと、それぐらいのこと、俺にだって予想できる。だから俺は、徹底的にやってやんぞ。

 

 【人物指名】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「曽根崎・・・今朝、多目的ホールの鍵を開けたのはテメエだろうが」

 「え?なにそれ?」

 「と、とぼけんじゃねえ!多目的ホールで六浜を見つけたとき、お前が鍵を開けただろうが!お前が俺に言ったんだよ!」

 「なんの話か分からないなあ。急に何を言い出すの清水クン?ボクを犯人に仕立て上げて・・・何を焦ってるの?」

 「ッ!?はあ!?焦ってねえよッ!!」

 「お二人だけで盛り上がっていないで、私にも分かるように話しなさい。結局、曽根崎君が内扉の鍵を持っているというのは事実なのですか?」

 「事実だ!!当たり前だろ!!こいつは認めるしかねえんだ!黙って待っとけ!」

 

 ぶん殴って認めさせてやりてえが、学級裁判の場でモノクマがそんなことを許すわけがねえ。曽根崎に口で勝つしかねえのか・・・!

 

 

 【ノンストップ議論】

 

 「今朝、内扉の鍵を開けたのは曽根崎だ。鍵は“もともと六浜が持ってた”はずだろ。曽根崎が六浜をぶっ殺して奪ったんだッ!」

 「ひどいこと言うなあ。ボクは殺してなんかないってば」

 「鍵は一つだけだったのですか?“スペアキー”などがあれば誰にでも施錠も解錠も可能だったということになりますが」

 「あれはみんなを監視する立場の六浜さんだけに与えられた学園からの支給品なので、世界にアレ一つだけでーす!」

 「やっぱり六浜が持ってたもんじゃねえか!」

 「もともとあったのが一つでも、複製できないわけじゃないよ。そもそも清水クンの証言だけじゃ信憑性ないでしょ。“他に証拠がない”のに決めつけないでほしいな」

 「それは違うぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追及しても糾弾してものらりくらりと相手にしない曽根崎の目の色が変わった。その視線を受けても望月は表情一つ変えずに、淡々と述べる。

 

 「証拠なら存在している。何かの役に立つかも知れないと思って、曽根崎弥一郎の個室の屑入れを捜査していたのだが・・・的中したな」

 「屑入れ・・・?なぜそんなところを?いえ、理由などどうでもよろしい。何か見つかったのですか?」

 「このようなメモが見つかった」

 「!!」

 

 全員によく見えるように望月が見せたのは、何度か破かれたのをテープでどうにか貼り合わせたメモ紙だった。そこに書かれてることが意味することは、もはや考える必要もなかった。

 

 「『今夜、私の代わりに合宿場の見回りを頼む。この鍵は多目的ホールの内扉の鍵だ。施錠を忘れないように。六浜童琉』。これは証拠として十分に働くのではないか?」

 「文を読むに、鍵も一緒に渡されているようですね」

 「あるじゃねえか・・・!!証拠がよ・・・!!」

 「“超高校級の広報委員”にしては証拠品の処分方法が雑と言えなくもないが、証拠品であることに代わりはない。しかし」

 「その推理は校正する必要があるね!」

 

 望月の話を遮って、曽根崎が叫んだ。既に逃げ場を失ってるはずなのに、曽根崎はまったく退こうとしない。それどころか、何かを企むように不敵な笑みを溢す。抑えきれずにあふれ出す高揚を反論の言葉に変えてるみてえだ。

 

 「清水クンの推理に、望月サンからそれを支えるような証拠が出てくるんだね。そんなもの簡単には信じられない!あまりに都合が良すぎる!できすぎてる!まるで示し合わせたみたいじゃないか!そうでしょ!?」

 「私と清水翔は何も示し合わせていないが?同じ事実を語れば辻褄が合うのは自然なことではないか?」

 「ボクはね、もう飽き飽きなんだ。都合の良い『事実』はさ!作られた『真実』は!!」

 

 

 【反論ショーダウン】

 

 「何が出てくるかと思ったらそんなボロ紙切れ一つだなんて、期待してただけにガッカリだね!ボクを追い詰めたいなら、もっと強力な証拠を出してよ!強力なッ!確固たるッ!決定的なッ!絶対に揺るがないッ!そんな証拠をさ!!」

 「このメモが強力な証拠かどうかは不明だが、曽根崎弥一郎が六浜童琉から多目的ホールの内扉の鍵を受け取った証拠にはなるのではないか?」

 「分かってない・・・分かってない分かってない分かってなさ過ぎるよ望月サン!!証拠は信じるものじゃない!!疑うものなんだよ!!誰かを疑うために証拠を利用するなら、証拠だって疑わなきゃいけない!!本当にその証拠は本物なのかい!?誰かが・・・望月サン自身が“捏造した証拠”なんじゃないの!?」

 「無駄な抵抗だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「曽根崎弥一郎、お前ならば分かり切っているはずだ。このメモ帳が何なのか。このメモに使われたペンがどのようなものなのか」

 「それがどうしたの」

 「この紙は六浜童琉が使用していたメモ帳のもの。ペンは六浜童琉が使用していたもの。いずれも遺留品となっている。下手な言い訳をしても照合すれば簡単に分かることだ」

 「・・・ありゃりゃ。そういうのはボクの専売特許だったのに。望月サンってば隙がないなあ」

 「なに余裕ぶっこいてんだ・・・!テメエ、今の状況分かってんのか?」

 「分かってるさ。うん、バレちゃったか。そうなんだ、実は六浜サンから鍵と見回り役を預かっててさ、昨日の夜は言われた通りに見回りしてたんだ」

 「しているのではありませんか。やはりウソでしたか」

 「ウソは吐いてないよ!まあ隠し事はするかもだけど」

 「どっちだっていい!認めたってことは、テメエが犯人ってことになんだぞ!」

 「そうだね。キミが“導きたかった”結論そのものじゃないか、やったね清水クン」

 「あぁっ!?」

 

 意味深な言い方で俺を見る。どう考えても追い詰められてるのはこいつのはずなのに、その目で見られると逆にこっちが追い詰められてるような気がしてくる。なんなんだこいつのこの余裕?何を企んでやがる?何を隠してやがる?

 

 「じゃあ、みんなの主張をまとめてみようか。“清水クンの発言から明らかになった真実”をさ・・・」

 「なぜ曽根崎弥一郎が主導する?諦めたのか?」

 「まあまあ、ボクは一旦全部話を聞いてから言いたいことを言うタイプなの。だから聞かせてよ、キミたちの“真実”を!」

 

 妙に高揚した曽根崎だが、ここからどうやって反論するってんだ。それに、こいつが犯人で間違いねえはずだ。内扉の鍵を持ってたってことが何よりの証拠だ。そうだ、それで間違いねえ。

 

 

 【ノンストップ議論】

 

 「さあ!キミたちの真実を聞かせてよ!」

 「曽根崎が六浜をぶっ殺したんだ!多目的ホールで“溺死させた”んだろ!」

 「彼女から夜の見回りを任され、“ホールの内扉の鍵を持っていた”曽根崎君は、彼女を多目的ホールで殺害した後、内扉の鍵をかけてホールを密室にしたのですね」

 「密室とは厳密には異なる。六浜童琉が溺死した事実を隠蔽するため、“曽根崎弥一郎は多目的ホールの窓を開放して”死体が乾燥しやすい環境を造ったのだ」

 「それは・・・違うよッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そうだよね、そうなるよね。でもね、そうじゃないんだ。キミたちの“真実”は事実とは違う。」

 「何をわけの分からないことをブツブツ言ってらっしゃるのですか?気持ちの悪い」

 「私の発言に、何か事実との相違があったか?」

 

 自分が始めさせた議論を自分でぶった切りやがった。望月の言葉を耳聡く拾い上げて、自分の立場を一転させる議論を始めるために。

 

 「その推理だと、ボクが犯行の全てをやったってことになってるけど、違うんだよ」

 「何が違うのですか?」

 「多目的ホールの窓を開けたのはボクじゃない。開けたのは別の人だ。本人が一番よく分かってると思うけどね。しかも窓を開けた時、六浜サンはまだ生きてたはずだ」

 「ッ!!」

 「なに?どういうことだ?」

 「ボクは夜の見回りをしてて、最後に多目的ホールを見に行ったんだ。そこでホールの灯りが点いてることに気付いたんだ。しかも窓が開いてるってことにもね。明らかに誰かがいるって思ったよ」

 「ウソだ!!デタラメだ!!そんなデマカセ誰が信じるってんだ!!」

 

 クソッ!!これ以上曽根崎に喋らせたらダメだ!!こいつの言葉を他の奴らに聞かれたらまずい!!そう思って苦し紛れに大声を出すが、そんなもんで止まるような奴じゃねえのはイヤってほど分かってる。やめろ!!!それ以上はやめろ!!!

 

 「妙な予感がしたから、ちょっと様子をうかがってたんだ。そしたら、ホールから歩いてくる人影が見えてさ。とっさに隠れて顔を確認したんだ」

 

 そこで曽根崎の目を見た瞬間、俺は一瞬で悟った。やられた。さっきと立場がまるで変わってる。こいつは自分が追及されることも含めて、想定内だったんだ。敢えて俺に追及させたんだ。俺が曽根崎にしたように、曽根崎も俺に同じことをするつもりだったんだ。しかも俺の追及を踏み台にして。

 

 「ねえ、清水クン。どうしてキミはあの時間帯に多目的ホールから出て来たの?」

 「くっ・・・!!」

 

 この野郎・・・性格悪いなんてもんじゃねえぞ!今までの議論を全部、俺に対する疑惑に変えるつもりだ!全部を俺の陰謀ってことにして、俺をこの裁判でクロにするつもりだ!なにが『作り話には飽きた』だ!なにが『ウソは吐かない』だ!馬鹿にしてやがる!!

 

 「?」

 「六浜サンの死亡推定時刻からは少し外れるけど、窓が全開になった多目的ホールから、真夜中に、たった一人で、何をしてたの?」

 「テメエ・・・はじめっからそのつもりだったんだなッ!!俺をハメやがったなッ!!」

 「それは答えになってないよ。後ろめたいことがないなら、正直に話してよ。ねえ、どうして清水クンはあの時間に多目的ホールにいたの?どうしてそれを黙ってたの?どうしてアリバイの話を飛ばしてまで、ボクが犯人だって結論を出したの?どうしてそんなに動揺してるの?」

 「ぐっ・・・!こ、この野郎ッ・・・!!」

 

 決して畳み掛けるような勢いじゃない。相手の答えを聞く意思も感じる。嘘もデタラメもない。なのに曽根崎の言葉は何よりも強く脳みそを揺さぶり、鋭く心臓に突き刺さる。答えようとしても言葉が出る前に掠め取られるみてえに消える。

 

 「なんですかそれは?リンゴさんが多目的ホールに行っていたなど初耳ですが」

 「窓が開放された多目的ホールから出てきたと言っていたな。清水翔は窓が開放されていることに疑問を抱かなかったのか?」

 「疑問を持たないのは、窓を開けた本人だけだよ。決定的な証拠はないのが惜しいところだけど・・・でもさあ、清水クンってボクと同じくらい、クロいんじゃないかなあ?」

 「クロい・・・だとッ・・・!?」

 

 穂谷と望月の疑惑が、曽根崎から俺に移った。それだけは、肌で分かるくらい感じた。それだけで、身体が震えた。たった、それだけだ。簡単だ。ひとがブッ壊れる原因なんて。

 

 「ふっ、ふふっ、ふふざっ、ふざっ、ふふふふざふっ、ふざざっ、ざけっ、ざっ、ふざっ・・・!!!ふっざっけんっなぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 目の前にいるのは全て敵。だが俺にはたった一人の奴しか見えてなかった。俺を追い込んだ奴だけが、俺をぶっ壊した奴だけが、俺がぶっ殺さなきゃならねえ奴だけが。

 

 「んなクソみてえな推理で誰が納得するんだゴルァッ!!ホールから出てくる俺を見ただぁっ!!?じゃあ俺が出てくるとこを見たテメエはそれを証明できんのかッ!!テメエがクロだったらそんなデマカセいくらでも言えんだろうがッ!!テキトーこいて逃げようとしてんじゃねえぞボケェッ!!!」

 「ボクの言うことがデマカセだったらそんなに動揺する理由がないよね?キミが導いた議論の流れは明らかに不自然だ。まるで何かからボクらを遠ざけようとしてるみたいに・・・」

 「黙れ黙れ黙れッ!!!俺がホールで何してようがテメエらには関係ねえだろ!!それにどう考えたって怪しいのは内扉の鍵を持ってた曽根崎だろうがッ!!」

 「これでは話し合いになりませんね。私は、鍵を持っていてホールを唯一施錠することができた曽根崎君が怪しいと思いますが、いかがですか?」

 「清水翔による議論の誘導や事実の隠蔽があったのは間違いないようだ。さらに無実ならばこれほど精神的に乱れることも考えにくい。したがって、清水翔が疑われるべきだと考える」

 「うーん、参ったなあ。ボクと清水クンで真っ二つだ」

 「真っ二つ?いま、真っ二つって言ったね?よくぞ言ってくれました!ではここで、この最終裁判用法廷のスペシャル機能をお見せしましょう!今度はバッチリ再現するよ!当たってんだか当たってないんだか分からない予想なんかじゃなくてね!」

 「何の話だ?」

 「スイッチ!オーーーーーンッ!!」

 

 立場が割れる。真っ二つになった議論を割って、モノクマが嬉しそうに笑う。玉座の前のスイッチを叩くと、俺たちの証言台が動き出した。二つに対立した意見を示すように、向かい合って二列に証言台が並び直す。俺たちは、ここで互いの意見をぶつけ合わされるんだ。直感的にそう理解するくらいに分かりやすい。

 

 

 【議論スクラム】

『六浜童琉を殺した犯人は?』〈曽根崎だ!〉VS《清水だ!》

 

 ーー議論ーー

 〈今までの議論から曽根崎が怪しいって結論になったんじゃねえのか!〉

 《その議論は、清水クンが誘導して作ったものだったよね》

 

 ーー容疑者ーー

 〈容疑者である曽根崎君の証言など、信じるに値しません〉

 《全員が容疑者であると言える学級裁判においては、その選択こそが重要だ》

 

 ーー証拠品ーー

 〈内扉の鍵や犯行に用いたバケツなどの証拠品は、清水君が明らかにしたものです〉

 《そりゃあある程度の証拠品がないと、ボクを犯人に仕立て上げられないもん》

 

 ーー隠し事ーー

 〈曽根崎は多目的ホールの内扉の鍵のこと隠そうとしてただろうが!〉

 《清水翔も、夜中に多目的ホールを訪れていたことを隠蔽していたのだろう?》

 

 ーーアリバイーー

 〈曽根崎君は夜に見回りで多目的ホールに行ったアリバイがあるのでしょう?〉

 《清水クンには、事件当時ボクの証言以外のアリバイはないよね》

 

 ーー六浜童琉ーー

 〈俺がホール行ってたとして、六浜と会ってた証拠でもあるってのかよッ!!〉

 《昨日の六浜童琉の足跡を辿れば、明らかになるだろう》

 

 「これがボクたちの答えだッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 打ち出す言葉は悉く撃墜され、一つも奴らの主張をぶち壊す力を持たない。押し切られるように、ねじ伏せられるように、俺らは言葉を失った。

 

 「どう?納得してくれた?」

 「はあ・・・決定的な証拠がないのが気がかりですが、確かにどちらかと言えば清水君の方が怪しくなってきたような気がします」

 「んぐぐっ!!ど、どいつもこいつもォ・・・!!」

 「清水クン、早く楽になっちゃいなよ」

 「楽にだと・・・!?バカかテメエは!楽もなにも俺はやってねえんだよ!」

 「だから、まだ隠してることがあるんでしょ?大人しく白状してってば」

 「んなッ!?」

 「はい?まだ何かあるのですか?」

 

 この野郎・・・!!どこまで俺を追い込むつもりだ!!その哀れむような目を止めろ!!そんな目で俺を見るな!!

 

 「清水翔が隠蔽していることとは、これのことか?」

 「ッ!!?なッ・・・!?テ、テメエなんでそれを・・・!!?」

 

 既視感のある流れから、また望月が何かを取り出して言った。見せびらかすように揺らしてるのは、クシャクシャになったメモ紙だった。さっき、曽根崎を追及したときと同じ種類の紙で、違うのは破られてねえってことくらいだ。

 

 「清水翔、お前は事件のあった夜、六浜童琉と密会しているな」

 「んんぐぁっ・・・!!そ、それは・・・!!」

 「はっ?はあああああっ!!?なんですかそれは!?このリンゴ頭、あれだけ言って結局、六浜さんと会っていたのですか!!?」

 「やっぱりね」

 「なん、な、ななん、なんでェ・・・!!も、もちづきィィイイイイッ!!!なんでテメエがそれを持ってやがる!!」

 「お前の個室の屑入れを捜査した。曽根崎弥一郎の時と同様に、証拠品がある可能性があったからな」

 「またゴミ箱ですか!なんなのですかあなたは!?ゴミ箱の妖精かなにかですか!?」

 「なんでもいいけどさ。清水クン、キミは犯行時刻の昨日の夜に、犯行現場である多目的ホールで、被害者の六浜サンと、二人っきりで会っていた。しかもそれを隠して、その上議論を誘導し、剰えボクを犯人に仕立て上げた。キミがクロじゃないって言うなら、なんでこんなことをしたのか不思議で不思議で仕方ないんだけど?納得いくように、分かりやす〜〜い説明を、ボクら全員に、してくれないかなあ?」

 「ううぅっ!!んぎっ、くうぁあ・・・!!」

 

 俺は呪った。曽根崎弥一郎を。望月藍を。穂谷円加を。六浜童琉を。モノクマを。学級裁判を。コロシアイを。希望ヶ峰学園を。俺(シミズカケル)を。何もかも、全て、終わった。

 

 「ん?議論は終わった感じ?結論が出た感じ?はい!それじゃあ投票いっちゃいましょう!こんなヤッツケ裁判さっさと終わらせて、希望と絶望のぶつかり合うマックスエクストリームな最終裁判に」

 「こう、なりたくなかったんだよ・・・!!」

 「あっ、これまだ続くやつや!モノクマは学習して成長するんだ!」

 

 別に話したって何かが変わるわけじゃねえ。けど、全部もうバレた。洗いざらいぶちまけた方が楽になるかも知れない。どうにもならなかったら、それはそれだ。

 

 「六浜に呼び出されて、死ぬ前のあいつと会った。別に隠すつもりはなかった。でも議論が進んでくうちに、俺が六浜を殺した犯人に近付いてく気がして・・・!!こ、このままじゃ俺が犯人になっちまうって思った。それで思わず声が出て・・・!退けなくなった」

 「思わず?証拠品といい議論の流れといい、貴方のような方が思いつきでやったようなものではなかったと思いますが?」

 「たまたまだ。曽根崎が六浜から見回りを頼まれてたなんか知らなかった。鍵を持ってたのも、完全に六浜が勝手にやったことだ」

 「多目的ホールの窓を開放したのは、清水翔なのか?」

 「ああ。妙だとは思ったが・・・六浜に気圧されてやっただけだ。あいつがマジな顔して頼むから」

 「頼むから?」

 

 ウソはねえ。自分で振り返るほどに、馬鹿なことをしたと思う。素直に言ってれば違ったはずだ。ヘンに曽根崎を犯人にしようとしたり、反論したりしなければあいつに反撃の余地を与えることはなかった。俺は六浜を殺してない、はずなのに、そんな当たり前のことにさえ自信が持てねえ。もしかしたら知らねえうちにあいつを殺しちまってたのかも知れねえ。そんなバカげたことを否定できねえほどに、俺は自分のことも分からなくなっていた。

 

 「窓を開けたのは、清水クンの意思じゃなかったってこと?」

 「ああ。六浜に頼まれてやっただけだ」

 「六浜さんに頼まれた?彼女は被害者なのですよ?なぜ彼女が窓を開けるように頼むのですか」

 「さあな・・・もうどうでもいい。考えんのも面倒になった」

 「・・・なんか、変だね」

 

 そんなこと分かってる。何かがおかしい。何か、大きな間違いをしてるような気がする。けどだからなんだってんだ。どうせ全部終わりだ。終わったんだ。

 

 「清水クン、一つ聞かせて」

 「なんだ」

 「キミは、六浜サンを殺したのかい?」

 「なんですかその質問は?聞く意味があるのですか?」

 「まあまあ。ね、答えてよ」

 「・・・さあな。殺してねえつもりだが、殺してるかもしれねえな」

 「ひどく曖昧な回答だ。肯否を判断しかねる」

 「やはり無意味な問答でしたね。さあ、さっさと彼に投票して終わりにしましょう!」

 「待って」

 

 曽根崎の質問は意味が分からなかった。殺したか、なんて聞いてはいそうですと答える奴なんかいるわけがねえ。穂谷の言う通り無駄な質問だ。そのはずなのに、曽根崎は投票に移ろうとする議論を止めた。まだ何かあんのか。

 

 「ねえみんな、もう一回考え直してみない?このまま投票するのはボク反対だな」

 「考え直すとは・・・?」

 「ボクらはいま犯人が清水クンだって思ってるけど、そうじゃないのかもしれないよ」

 「は、はあ?あなたが彼を犯人だと言ったのでしょう!?私はそれに付き合って議論してきたのですよ!結論も出て、清水クンも半ば認めたようなものです!これ以上、何があるというのですか!?」

 「だって清水クン、分からないって言ったんだよ?本来は否定するはずの質問に、そんな曖昧な答え方しないよ普通。よっぽど狡猾な犯人か、自覚がない犯人か、犯人だと思い込んでるシロか・・・いずれにせよ、まだ何か隠されてることはあるはずだ」

 「学級裁判は、犯人を見つけ出すことが目的であって、事件の真相解明は副次的なものに過ぎない。清水翔が犯人ならば投票しても支障ないのではないか?」

 「とんでもない!副次的なんかじゃないさ!真相が分からなきゃ犯人は分からない。犯人を見つけ出すことは真相を解明することと同じ、だからボクらは推理するのさ!だからまだ明らかになってない謎があるなら、議論を続けるべきなんだよ」

 

 謎が残ってるから投票はできない。曽根崎は俺が犯人だと思ってるんじゃねえのか。議論を止めて、半分殺されたような状態で、まだ議論しなきゃならねえのか。けど、議論が続くってことは、俺がクロじゃなくなる可能性も出てくるかもしれねえ。そう気付いた瞬間、思わず曽根崎の意見に乗っかってた。

 

 「・・・明らかになってない謎って、なんだよ」

 「たとえば・・・さっきからボクはずっと不思議だったんだ。ボクがホールの鍵を持ってたってことの証拠と、清水クンが六浜サンと会ってたことの証拠についてさ」

 「その二つは紛れもない事実なのでしょう?いまさら疑う必要などありません」

 「事実は事実だけど、捜査の段階ではまだボクと清水クンがそれぞれ自分のことしか知らなかったはずなんだ。なのに、それに関する証拠を見つけてくるなんて、なんだか話が出来すぎてない?まるで、その事実をはじめから知ってたみたいにさ・・・」

 「はじめから、知ってた?」

 

 そういえばそうだ。曽根崎が鍵を持ってるのは、朝に多目的ホールで六浜の死体を発見したときに分かったことだとしても、それを六浜が曽根崎に渡してたなんてことは考えもしなかった。俺がホールで六浜と会ってたことだって、俺自身しか知らなかった。曽根崎が俺を見たと言ったが、それでも六浜と会ってることの確証には至らねえはずだ。そうじゃねえか。だったら、その証拠を見つけてくるってのは、はじめからそれが分かってたってことになるのか?その証拠を持ってきた奴って・・・。

 

 「・・・お前だよな、望月」

 「間違いない」

 

 三人から一斉に疑惑の視線を受ける。それでも望月は動揺の欠片さえ見せず、堂々と、飄々と、淡々と答えた。

 

 「我々全員が容疑者であるのだ。捜査で容疑者の個室を捜査することが不自然か?」

 「ゴミ箱で細切れになってるメモを修復するなんて、確信でもねえとそこまで普通やらねえだろ!望月、テメエまさか・・・知ってやがったのか!?」

 「・・・結局、お前たちは何が言いたいのだ?」

 「ボクと清水クンの個室に、証拠となるメモが残されてる確信があったからこそ、キミは個室を捜査した。それはつまり、キミは六浜サンの行動を知ってたんじゃないの?もっと言えば・・・キミはそれを利用して、殺人計画を立てることも可能だったんじゃないの?」

 

 率直に曽根崎は切り込む。俺と曽根崎の後ろに隠れて、妙な行動をしていた望月に。徐々に俺の中の疑惑は薄れていった。六浜を殺したのは俺じゃないのかも知れねえ。もしかしたら俺がそう思うことまでも、犯人の思惑の一部なのかも知れねえ。だとしたら犯人は、俺を犯人に仕立て上げようとしてたのか?俺と曽根崎のやり取りまでも、想定してたってことか?

 

 「六浜童琉が昨晩、どこで何をしていたのか、私は関知していない。清水翔や曽根崎弥一郎と六浜童琉の昨晩の行動も、捜査でこの証拠を発見し、この場で議論したことにより明らかになった。私は、六浜童琉を殺害していない」

 「確信があったからこそ、キミはボクと清水クンの個室を捜査した。六浜サンからメモで指示があったって確信があったんだ」

 「私が捜査したのはお前たち二人の他に、穂谷円加の個室と六浜童琉の個室だ」

 「あっそう。どっちにしろキミは、はじめから分かってたんじゃないの?六浜サンがボクたちに宛てたメモがあるはずだって」

 「・・・」

 「キミは、はじめから証拠品がある前提で捜査してたんでしょ?だから真っ先に個室を捜査しに行けた。違う?」

 「根本から論じよう」

 

 当然、望月は曽根崎の推理を否定する。だがそれじゃ、なんで個室のゴミ箱なんか捜査したのか説明つかねえ。多目的ホールの捜査もそこそこに、資料館も捜査せず、どうしてそんなところを捜査しようと思ったんだ。それを追及していくと、望月はようやく明確に反論した。

 

 「曽根崎弥一郎。私は確信を持って個室を捜査したわけではない。そこに証拠が存在している蓋然性が高いと判断したため、捜査したに過ぎない。捜査とは本来そうあるものではないか?証拠を集めるために捜査することが疑いの対象になるのであれば、なぜ個室の捜査だけが特別に糾弾されるのだ?」

 「らしくないなあ望月サン。なんで自分だけが疑われるんだって、キミにしては反論が幼稚じゃない?」

 「私の疑問への回答になっていない。さらに質問を付加しよう。お前は私が個室に証拠がある確信を持っていたと主張しているが、なぜそう考える?その根拠をお前が提示できないのであれば、お前の推理も根拠のない確信ありきのものと言わざるを得ない」

 「だったら俺が相手になってやるよ!」

 「えっ、清水クン?」

 「要は、望月が確信持って捜査してたってことを認めさせりゃいいんだろ!」

 

 

 【反論ショーダウン】

 「捜査は本来、証拠品が存在すると推定される場所を訪れて調査することだ。寄宿舎の個室も例外なく事件に関与している可能性がある。パーソナルな空間であれば証拠品を隠滅しやすいとも考えられる。なにを不自然なことがある?」

 「ゴミ箱の中で細切れになってるメモを修復するなんて、確信がなきゃ時間削ってまでしねえだろ!っていうか望月、テメエは捜査したっつってるが、結局はそのメモを回収するために個室に行っただけじゃねえのか?」

 「実に心外だな。私は生存者及び六浜童琉の個室を隈無く捜査した。それぞれの個室で証拠品と思われるものは“これらのメモしかなかった”。そこに恣意性はない」

 「その言葉、斬るッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「証拠品はそのメモだけじゃねえはずだ。六浜の個室に、明らかに妙なもんがあっただろうが」

 「・・・?六浜童琉の個室に、か?」

 

 望月の表情は、素直に疑問を抱いてるもんだった。もっともそんなウソを吐いたところであいつには意味がねえ。やっぱりこいつは、メモ以外の証拠品なんか探す気がなかった。

 

 「白い花だ。水を張った皿に浸けてあっただろ」

 「もともと六浜童琉の個室にあったものではないのか?」

 「私も見つけましたが、摘んで間もないようでしたし、自生している種類でもなかったようです。あの部屋に行けば誰でも分かりそうなことですが」

 「・・・」

 「望月、テメエはハナっからメモを探すことしか頭になかったんだ。だからあんな分かりやすく妙なもんを見逃した。つまりテメエは、六浜が誰かにメモを出してたことを知ってたってことになるだろ!!」

 

 あの花が事件にどう関係してんのかは知らねえが、普通に捜査してあれを見落とすことなんてねえ。望月は前から捜査はしっかりやってた。だからこそ、今回の捜査は妙なんだ。俺が言ってやると、望月は少し考えこむように顎に手をあてて、空を見つめた後、言った。まったく、いつもの調子で。

 

 「認めよう。私は恣意的に捜査を行った。六浜童琉のメモが証拠品となることを捜査開始時点で理解しており、各々の個室に存在していることにある程度の確信を抱いていた」

 「相変わらずあっさりしていますね。それで、なぜそんな確信を抱いていたのかが問題になるわけですが」

 「曽根崎が言ってたように、昨日の夜に六浜の行動を知ってたってことじゃねえのか?」

 「直接六浜さんと会うか話すかして知ったか、偶然見かけたか盗み見たか・・・なんでそれを隠してたのか、も気になるところだ。ね、清水クン」

 「ッ!」

 

 嫌みを言ってきやがったから思いっきり睨んでやったが、曽根崎はのらりくらりと俺の視線をかわしやがる。一方の望月は淡々と、こっちの理解を待たずにどんどん話しやがる。認めた途端に吹っ切れたように。

 

 「昨夜、私も曽根崎弥一郎や清水翔と同様に、六浜童琉からメモにより指示を受けた。その内容が意味不明だったため、私と同様に六浜童琉から指示を受けた者がいる可能性があると推測した。私自身は昨晩、六浜童琉とは会っていない。事実を話さなかったのは隠蔽していたわけではなく、共有することでお前たちを混乱させてしまうと考えたため、お前たちに配慮して話さなかった」

 「配慮?」

 「私は六浜童琉を殺害した犯人ではない。故に私への不要の疑惑は時間の浪費であると共に、精神的疲労の蓄積にしかなり得ないと判断した」

 「それはテメエが決めることじゃねえ!」

 「会ってないなんて言葉、誰が簡単に信じますか!」

 「でも六浜サン、昨日の夜はずっと他の人と会うのを避けてたみたいだし、ない話じゃないと思うよ」

 

 どっからウソでどっからホントなのか分からねえ。こいつも俺や曽根崎と同じように、六浜からなんらかの指示を受けて、その通りに行動してただけ。だから六浜が殺されたことについてなんか知らねえと。ずいぶん都合が良くて勝手な話だ。でも、疑ってちゃ話が進まねえ。とにかくこいつの話を解きほどかねえと。

 

 「・・・で、意味不明な指示?なんだそれは」

 「念のため、私のメモも証拠品として持参している」

 「あったのかよ!」

 

 当たり前のように、望月は自分が不利になると分かり切ってる証拠を見せてきた。

 

 「『妙な頼みをして済まないが、多目的ホールの暖房を点けてほしい。地下の管理室に行けば空調を操作できる。今夜は冷えるから、35℃にしておけば丁度良いだろう。六浜童琉』これだけだ。妙だろう?」

 「で、その通りにしたの?」

 「断る理由がなかった。地下の管理室で空調を操作し、そのまま個室に戻った」

 「だからホールがあんなクソ暑かったのか・・・」

 「ああ、あれは変だなと思ってたんだよね。望月サンの仕業だったんだ。メモも筆跡も六浜サンのものだし、ウソじゃなさそうだ」

 「これで私に対する疑惑は晴れただろうか?」

 「いいや、もし望月サンが素直に個室へ戻ってても、六浜サンを殺せた可能性はある。たとえば、多目的ホールになんらかの仕掛けをしておいて、気温を上げることで発動させたりとか。あるいは外との寒暖差を利用して・・・」

 「暖房を点けるように指示したのは六浜童琉だ。しかもこのメモは、夜時間になる少し前に確認したものだ。多目的ホールに仕掛けを施すことは現実的には不可能だろう。それらしきものは多目的ホールには見られなかった」

 「だからテメエの捜査は信用ならねえっつってんだろ。まあ、俺もそんな心当たりはねえが」

 「室内の温度を変えただけで人が死亡するなど、そうない。況してや六浜童琉は特別な虚弱体質でも疾患を抱えているわけでもない。私の行為は直接関係していないだろう」

 「・・・ん?」

 

 冷静に考えれば、暑いといえば暑いが蒸されて死ぬような暑さでもねえ気温だ。それで六浜がぶっ倒れて死ぬなんて、ちょっと考えればあり得ねえと分かる。望月の捜査が信用おけねえことと、望月が怪しくなったこと以外は何も変わらねえ。だがその中で、妙に耳に残る言葉があった。

 

 「おい、望月。テメエ、この期に及んでウソ吐いてねえよな?」

 「ウソ?まだ私の発言に何か疑問があるのか?」

 「さっきのメモ見せてみろ。テメエはそこに書いてあることしかしてねえんだろうな?」

 「勿論だ。余分なことをする理由がない」

 「それがなんだというのですか?この方はそういう方だなんてこと、分かり切っていたでしょう!」

 「・・・だったら、誰なんだよ」

 「誰って、何が?」

 「昨日の夜、管理室に行った奴がいるだろ・・・望月以外にも!」

 

 間抜け面でとぼけやがって。化けの皮を剥がしてやる!

 

 

 【ノンストップ議論】

 

 「昨日の夜、望月以外にも管理室に行った奴がいるはずだ・・・!どいつだ!出て来い!」

 「ちょ、ちょっと待ってよ清水クン?なんでそんなこと言えるの?」

 「何を根拠に議論しているのか不明確だ」

 「もし望月が本当に多目的ホールの“温度しかいじってねえ”なら、現場の状況の説明がつかねえんだよ!」

 「何を仰っているのですか?“室温が高く”、“窓が開放されて”、“内扉が施錠されていた”。まったく、議論について来られないなら話さないでください。“全て説明がついている”ではありませんか!」

 「それはちげえぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「鍵がかかってたこと、窓が開いてたこと、クソ暑かったこと・・・あのホールで妙な部分はそれだけじゃねえ!まだもう一つ、妙なことがあるだろ!」

 「妙なこととはなんだ?」

 「俺は管理室も捜査したんだが、そこでは確かに室温のパネルがいじられてた。だがそれ以外に、乾燥機能のパネルもいじられてたんだ。ホールに入ったときに、やたら空気が乾いてたのが気になってたんだ」

 「空気が乾いてた・・・へえ!暑いのは分かったけどそれは気付かなかったや!さすが清水クン!アンテナのおかげで人より敏感なん・・・ごめんッ!」

 「だから望月が室温しか上げてねえなら、他にもう一人、乾燥機能のパネルを操作した奴がいるってことだ」

 「どうせモノクマが誤って操作してしまったのでしょう?」

 「むっ!失礼な!ボクはオマエラが快適にコロシアイできるように細心の注意を払ってるっつーの!乾燥なんかしてたらボクのモコモコふんわり愛くるしい肌が、がさがさになって剥がれ落ちて・・・ギエーッ!スプラッターッ!てなわけで、ボクはいじってませんよ。いじってもすぐ元に戻すもんね!」

 「では曽根崎君でしょう。見回りの時にそれくらいの時間はあります」

 「乾燥機能のパネルは私が管理室を訪れた時点で既に機能していた。それが夜時間の30分ほど前だ。曽根崎弥一郎が見回りに来たのは、先ほどの清水翔を目撃した証言から考えて夜時間直前。前後関係を見れば、私より先に曽根崎弥一郎が管理室を訪れたとは言えない」

 「では誰がパネルなんかを捜査するというのでしょう?謎ですね」

 「テメエしかいねえだろ穂谷」

 

 曽根崎や望月の話を聞いた後じゃ、穂谷の苦し紛れの言い訳なんかつまらなく感じる。分かり切った結論の前で足踏みさせられることほどイラつくことはねえ。

 

 「望月より先に管理室に行って、ホールの空調の乾燥機能を点けたのはテメエだろ。他にいねえ」

 「・・・証拠、はあるのでしょうね」

 「穂谷円加の個室を捜査・・・いや、訂正しよう。穂谷円加の個室へメモを探しに行ったところ、発見した。他二人と同様にゴミ箱に破棄されていた」

 「なになに。『頼みがある。管理室に行って多目的ホールを乾燥させてほしい。それだけだ。お前にしか頼めないことだ、穂谷。よろしく頼む。六浜童琉』。ばっちり乾燥機能のことじゃん!」

 「ええ、そうですよ。私が乾燥のパネルを操作しました」

 「すぐ認めた!」

 「否定はしていませんでした。証拠まであるのに悪あがきする意味がありませんので」

 「だったら、テメエが望月より先に管理室に行って多目的ホールの乾燥パネルをいじった。それでいいな」

 「穂谷円加が、六浜童琉の指示に素直に従うだろうか?正常な責任能力が欠如していたのではないか?」

 「失礼ですね。私を誰だと思っているのですか。私は気付いたのです、辛い現実から逃げていても、何もできないし変わらないと。この悲しみを克服しないと、私は前に進めないと!」

 「語るのはいいけど、それは六浜サンの指示に従う理由になってないんじゃない?」

 「私たちの中で黒幕に打ち勝つ希望となるのは六浜さんだと感じていました。だから、彼女の言うことならばと従ったまでです。これで・・・彼の仇を討てると、そう思っただけです」

 

 結局鳥木か。別に立ち直ったんならなんでもいいが。望月より先に管理室に行ったってことは、その後で俺が六浜と別れるときまで時間があるな。その後で六浜を殺すとなると、曽根崎の目も欺いてホールに忍び込まなきゃならねえ。そこまでのことが、穂谷にできんのか?

 

 「・・・で、これどういう状況?」

 「あ?」

 「清水クンは窓を開けて、ボクは見回り、望月サンは暖房、穂谷サンは乾燥機・・・昨日の夜、全員が全員、別々に妙な行動をしてた。しかもすべて六浜サンに指示されたことで、彼女が死んでた多目的ホールに関することだ。これは・・・世にも奇妙な偶然の一致、で片付けられるわけがないよね」

 「あ、あぁ・・・確かに」

 「・・・多目的ホールで殺人を企てていたのは、私たちの中の誰かではなく、六浜童琉だったのではないか?」

 「・・・ッ!!」

 

 なるべく考えまいとしてたことをしゃあしゃあと言うのは、いつも望月だ。頭に浮かんだ可能性を無視しようと必死になってるところを、わざわざ拾い上げてくる。そんなこと、さっきからずっと分かってたことだっつうんだよ。

 

 「六浜童琉は私たち各々に一見意味不明な行動をさせ、多目的ホールを殺人に適した状況へ変化させた。そして誰かを呼び出し、殺害するつもりだったのだろう。しかし実際には逆に殺害され、ホールに置き去りにされた。これが現時点での私の仮説だ」

 「んッなわけねえだろ!あいつが・・・あの六浜がッ!殺人だと!?」

 「この合宿場にいる以上、完全にあり得ない、なんてあり得ないんだよ。彼女だっていろいろ溜まってたはずだからね。責任感強い人が吹っ切れて・・・よくある話さ」

 「けど・・・あの六浜だぞ!?リーダー張ってた、責任感ムダに強くて、そのくせ自分のことは後回しにして、いつもいつも悩みっぱなしで、口うるさくて・・・むっつりで・・・そんな、奴なんだぞ・・・!」

 「どうしても信じられない?」

 「その信頼が危険だと、私は忠告したはずです。笹戸君が晴柳院さんの無害さを利用したことを忘れましたか?」

 「だからって・・・!っつうか、そもそもなんで多目的ホールの状況が殺人に適した状況なんだよッ!」

 「え?」

 

 六浜が誰かを殺そうとしてた・・・そんなバカなことがあるわけねえ。だってあいつは、そんな奴じゃねえはずだ。そんな弱え奴じゃねえはずだ。あいつが黒幕なんかに・・・絶望なんかに折れるわけがねえんだ!

 

 「清水君、気持ちは分かりませんが、貴方一人が喚いても意味がないと思いますよ」

 「うるせえ!望月の戯言なんかに乗せられやがって!だったら俺がテメエらをねじ伏せてやる!六浜は殺人なんか考えてねえ!ぜってえにだ!」

 「おー?これはまたまた意見が分かれた感じ?しかも1対3?うぷぷぷ!もちろん、人数が偏っててもいけますよ!うぷぷぷぷぷ!」

 

 

 【議論スクラム】

『六浜童琉は殺人を計画していたか?』〈計画してない!〉VS《計画してた!》

 

 ーーホールの環境ーー

 〈多目的ホールの状況が、殺人のために作られたなんて言えんのかよ!〉

  《あれは溺死体を乾燥させるために準備されたと、結論が出たはずです》

 

 ーー実行犯ーー

 〈けどそれは、俺らがそれぞれにやったことだろ!六浜は何もしてねえ!〉

  《ボクらに指示を飛ばしたのは六浜サンだよ》

 

 ーー協力者ーー

 〈俺らが素直に従うかも分からねえのに、わざわざメモで指示するなんてどう考えても変だろ!〉

  《証拠となるメモを処分し偽造すれば、疑惑を全員に分散させることが可能だった》

 

 ーー動機ーー

 〈六浜がそこまでして殺人なんかする理由がねえ!あいつはそんな弱え奴じゃねえんだよッ!!〉

  《今まで与えられた動機は残っています。それに彼女の気持ちが清水君に分かるのですか?》

 

 ーー信頼ーー

 〈あいつが殺人なんかするような奴だと思うか!?考えられねえだろうが!〉

  《笹戸優真は晴柳院命の信頼を利用した。あり得ない、ということはない》

 

 ーー証拠ーー

 〈そもそもテメエらの推理には証拠がねえじゃねえかよ!!あいつが殺人を計画してたって証拠がよ!!〉

  《証拠なら、あるよ》

 

 「これがボクたちの答えだッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「しょ、証拠が・・・あるだと?」

 「資料館に本があったよね。開いた状態で伏せられてた、不自然な本が」

 「それがなんだってんだッ・・・!!」

 「『人類の生活』。古代の人々の暮らしについて書かれた本なんだけど、開かれてたページにある記述と、あの多目的ホールの環境が、一致してるんだ」

 「は・・・?」

 「記述と環境が一致、とはどういうことだ?」

 

 資料館に行ったときに、テーブルの上に放置されてたあの本。頭の片隅に追いやってたが、あんなもんが証拠になるだと?記述と環境が一致してるだと?なんの話だ。そんなくだらねえ本一冊で、六浜の何を証明できるってんだ。

 

 「『それは、このような方法だ。素焼きの壺を水で満たし、窓を開けて換気しやすくし、床に乾燥した藁を敷き詰めた部屋に一晩放置するだけだ。こうすることで、翌朝には表面に氷が張るほど冷たい水を得ることができる。電気も製氷技術もない時代、一年中高温で乾燥した地域に暮らす人々はこうした知恵を生み出した。』」

 

 曽根崎が本の内容を読み上げた。一字一句漏らさず、明瞭に。その意味が全員に分かるように。

 

 「窓を開けて換気しやすい環境だった。乾燥した藁の代わりに乾燥機を使ってホール内は乾いた環境だった。高温の外気は暖房を使うことで再現できた。どう?見事にコピーできてると思わない?」

 「・・・ッ!い、いや!最初になんか言ってただろ!素焼きの壺って・・・そんなもんホールのどこにもなかったぞ!」

 「素焼きの壺なんかないよ。だってそれは、犯行前に準備できるものじゃないからね」

 「はあ?な、なんだそりゃ・・・意味分かんねえぞッ!!」

 

 窓を開けたのは・・・俺だ。室内を乾燥させたのは・・・穂谷だ。暖房を点けたのは・・・望月だ。俺たちが六浜に言われたやったことの一つ一つが、曽根崎が今読んだことと対応してるような気がしてきた。だって、そうでなきゃわざわざ空調効かせたのに窓を開ける意味が分からねえし、全部の窓を俺一人にやらせる意味もねえ。

 

 「だってこの犯行でいう素焼きの壺っていうのは、被害者自身のことを指すんだから」

 「はっ・・・!?」

 「どういうことですか?被害者は・・・溺死体ということでしょうか?」

 「ううん、違うね。ごめんねみんな、どうもボクは、とんでもなく大きな勘違いをしてたみたいだ」

 「・・・?曽根崎弥一郎、お前は何に気付いている?」

 

 こいつ、何を考えてる?何に気付いてる?何を見て、何を聞いて、何を思って、何を感じて、何を言おうとしてる?

 

 「ボクも途中で気付いたんだ。六浜サンは溺死なんて浅薄なこと考えてなかった・・・もっと、もっと突拍子もないことを考えて、この仕掛けを作り出したんだ」

 

 この仕掛け?多目的ホールの状況がか?さっきの本の内容と一致してるってことと関係あんのか?だとしたら、そこに答えがあんのか?だったら、六浜が狙ってた死因ってのは・・・。

 

 Q『六浜が画策していた殺害方法は?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねえ、気付いてるんだよね?」

 

 呼びかけが自分に向けられたものだと、不思議と分かった。自然と、口にしてた。その答えを。

 

 「凍死・・・?」

 「・・・・・・はっ?凍死?」

 「そうだよ。それこそが、六浜サンが企ててた死因だ」

 

 自分でも信じられねえ答えなのに、曽根崎は否定しねえ。あり得ねえと思ってるはずなのに、それが答えだと言いやがる。

 

 「あっ・・・ああっ・・・ありッ得ないッ!!凍死だなんてッ!!あんな暑い部屋で!!あんな格好で!!凍えて死ぬなんてあり得ませんッ!!」

 「そう、あり得ないと思うよね。だからこそ六浜サンはそれを選んだ。仕組みを知らなければ辿り着きようのない死因を」

 「仕組みとは?ホールの環境を利用した以外に何か別の要素があるのか?」

 「六浜サンが利用した、素焼きの壺の現象。これはね、暑くて乾燥して空気がしきりに入れ替わる、つまり水が蒸発しやすい環境を作ることで、冷水を生み出す技術なんだ。素焼きの壺から少しずつ染み出した水が少しずつ蒸発していく。そうすると気化熱で水の温度が下がっていくってワケさ」

 「暑さで汗をかいて、その気化熱で凍死ですか!?バカバカしい!そんなフィクションのような話がありますか!」

 「汗じゃないよ。多目的ホールの状況を考えれば、『染み出した水』に代わるものは簡単に分かるはずだよ」

 

 汗が蒸発して凍死なんて、そんなバカな死に方あるはずがねえ。曽根崎が言ってる『染み出した水』に代わるものってのは、たぶんあれのことだ。

 

 A.窓から吹き込んだ雨水

 B.バケツに汲んであった水

 C.スプリンクラーの消火水

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「バケツの水・・・か」

 「そうか。六浜童琉が溺死でないとするならば、バケツで汲んだ水をどこかで使用するはずだ。おそらくは水を頭から被り全身を濡らすことで、素焼きの壺を再現しようとしたのだろう」

 「そんな馬鹿な・・・だいたい、もしそうやって凍死を計画していたのだとしても、人が死ぬほどの低温になるのですか?せいぜい0℃前後ではありませんか?」

 「だから、水に塩を混ぜたんだろうね。塩を混ぜるだけで水が凍る温度は大きく下がる。つまり水も冷たくなりやすいからね」

 「六浜童琉の頭髪に食塩が付着していたのはそれが理由か」

 「し、しかし・・・もし六浜さんが殺害相手をバケツで濡らしたとしても、被害者はホールでじっとしている必要があるはずです!そんなことせずにさっさと逃げればよろしい!」

 「そうしないために、ボクに鍵をかけさせたんだろうね。しっかり被害者が凍え死ぬまで、あの巨大な凶器から逃さないために」

 「うっ・・・!し、しかしそもそも!被害者はそのホールの状況を不審に思ったはずです!そんな意味不明な状況、少なからず警戒するはずです。そんな相手にバケツで水をかけるなんて・・・できるはずありません!」

 「しかし、六浜童琉が自らの仕掛けを利用されて殺害されたのなら、被害者は六浜童琉に水を被せたことになる。水をかけようとしてくる相手に、逆に水を被せるということも同様に不可能に思えるのだが」

 「・・・・・・・・・逆じゃ、ないのか」

 

 じゃあ、六浜ははじめっからそのつもりで?でもなんで・・・なんでこんなわけわかんねえことを?無意味なのか?そうする必要があったのか?もしそうならあの現場は・・・そういうことなのか?それがあいつの目的なのか?こんな結末を・・・あいつが望んだってのか?なんで・・・?

 憶測は、妙な確信を持って推理に化ける。推理は、根拠を引き連れて解えに変わる。解えは、事実と融け合って真相に届く。

 俺は呟く。真相に成り果てた、ただの憶測を。

 

 「全部、あいつの計画通りだったんだ・・・!」

 

 望むなら、これが俺の思い違いであって欲しい。

 

 「丸っきり・・・はめられたッ・・・!」

 

 これは、俺たち全員の、完全な敗北だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「六浜はッ・・・!あいつはッ・・・!自分で水を被ったんだ・・・!!」

 「自分で?なぜそんなことをする必要がある?」

 「それが六浜の狙いだったんだ・・・!あいつは自分が水を被ることで、あの仕掛けを完成させたんだ・・・!」

 「何を言っているのですか?六浜さんが水をかけようとしていたのは、殺そうとしていた相手でしょう?」

 「そうだ。だからあいつは水を被った。自分を殺すために、自分の意思で水を被ったんだッ!!」

 

 裁判場が静まり返る。突拍子もないことを言ってる自覚はある。意味が分からねえし冗談じゃねえしあり得ねえのに、不思議な確信があった。

 

 「六浜サンは、自殺したって?」

 「自殺?なぜ六浜童琉が自殺する?散々私たちに指示を飛ばし、挙句自殺では・・・行動に合理性がない」

 「自殺じゃねえ・・・!六浜のしたことは、自殺なんて簡単なことじゃねえ!!」

 「・・・はあ。清水君ももう使い物になりませんね。おかしくなってしまいました。自殺なのに自殺じゃないなんて・・・謎かけですか?」

 「1つ・・・確認するぞ」

 

 自殺なんて結論、俺が許さねえ。あいつは誰かを殺して生き延びようなんてする弱え奴じゃねえし、自分一人だけ死んで逃げ出すほど無責任な奴でもない。だから、確かめる必要がある。あいつが、どうやって死んだのか。

 

 「曽根崎、さっきの壺がどうのって話、もっかいしろ」

 「素焼きの壺ね。昔の人が冷水を作るために生み出した技術だよ。素焼きの壺を水でいっぱいにして、高温乾燥で風通しが良い部屋に一晩放置しておくだけで、水の温度が下がって冷水ができるんだ。気化熱を利用した技術さ」

 「六浜童琉はそれを利用して殺害を行おうとしていたという話だった」

 「多目的ホールを、壺を置く部屋とほぼ同じ条件にして、ずぶ濡れの奴を放置しておけば、勝手に冷えて凍死するってことだよな」

 

 ってことは、六浜を殺した凶器ってのは・・・。

 

 「つまり・・・もしこれが殺人だったら・・・六浜を含めた多目的ホールの環境全部が凶器、ってことだよな?」

 「環境が・・・凶器?六浜さん自身が・・・凶器?」

 「その辺の扱いは、モノクマ次第じゃないかな?」

 「どうなんだよモノクマ・・・!」

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 俺の質問に、モノクマはぼーっとした顔を返す。聞いてんのか、聞いてねえのか。

 

 「あのさあ、オマエラ何か勘違いしてない?オマエラが今すべきなのは、クロを見つけてこの裁判を終わらせることなんだよ?凶器が何かなんて、ボクにとってはどうでもいいことなの。オマエラが誰を選ぶかが大事なの」

 「・・・じゃあ聞き方を変えてやるよ」

 

 はっきり答えねえってことは、やっぱりそこに何かあるんだ。六浜を殺した凶器が俺の考える通りだったら・・・まだ聞き出さなきゃならねえことがある。

 

 「モノクマ、もしクロが二人以上いたときは、シロはどうすればいいんだ」

 「クロが二人以上?うぷぷ、つまり同時に複数の殺人が起きちゃった場合だね!そういう時は・・・早い者勝ちです!コンマ1秒でも先に殺人を犯した人がクロとなり、遅かった方は殺し損、被害者は殺され損!そゆことー!」

 「違う。二人以上の奴らが、一人の奴を殺したら、どうなるんだ」

 「・・・共犯者ってこと?前にも言ったでしょ!共犯者はクロになりません!クロとなるのは直接手を下した・・・!」

 「直接手を下したっていうのも曖昧だよね。屋良井クンは滝山クンに直接毒を飲ませたわけじゃないし、晴柳院サンは直接放火したわけじゃない」

 「焦れったいですね。清水君、貴方は何を考えているのですか?何かに気付いているのでしょう?言いなさい」

 

 気付いてる・・・とっくに。マジでそうなんだったら・・・どうすればいいか分からねえくらいだ。

 

 「あいつを、六浜を殺したクロは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・俺だ。俺たちだ」

 「えっ・・・?」

 「俺らが、殺した・・・あいつが、殺させた!俺らはあいつに、六浜に六浜を殺させられたんだッ!!!」

 「・・・は?わ、私たちが?殺した?殺させた?六浜さんが?六浜さんを殺したのは六浜さんで、私たちで・・・」

 「理解不能だ。詳細な説明を要求する」

 

 ・・・。

 

 「六浜の死因は凍死、多目的ホールが壺の仕掛けと同じ条件になってたせいで、中でずぶ濡れになってた六浜は体温が下がって・・・死んだ」

 「そうなるように指示をしたのは六浜サンだ。暖房は望月サンに、乾燥機は穂谷サンに、窓の開放は清水クンに、水は自分自身で。着々と、殺人の仕掛けを準備していった」

 「六浜を殺したのはあの環境、その環境を用意させたのは六浜だ!ご丁寧に逃げられねえように曽根崎に鍵までかけさせやがった!あいつははじめからこうするつもりだったんだ!自分が死ぬための仕掛けを・・・俺たち全員に手伝わせた!俺たち全員、知らねえうちに六浜殺しに加担させられてたんだッ!!」

 「目的が不明だ。それでは清水翔、お前の言っていることは・・・」

 「んなこと分かってらあ!!」

 

 俺が言ってることがどういうことかなんて、分かってる。

 

 「六浜を入れた俺ら全員・・・クロだってことだろッ・・・!!」

 「はっ!?」

 「・・・」

 「理解していたか。では、なぜそうする必要があったのか、説明可能か?」

 

 生存者全員が犯人だなんて・・・一昔前のミステリー小説じゃあるまいし、このコロシアイのシステム上あり得ない。そう思ってた。だから奴はそうしたんだ。俺らに、この謎を解かせる気がなかったんだ。俺らはクロだから・・・!

 

 「ねえ、清水クン。キミは何を言ってるの?」

 「・・・!」

 「ボクたち全員が犯人?クロしかいない学級裁判?そんなこと、あるわけないじゃないか」

 「そ、そうです・・・!たとえ彼女がそうしたとしても・・・私たちは彼女に害を与えてません!なぜクロなどと呼ばれなければならないのですか!」

 「そもそも六浜童琉がそうすることに理由があるのか?合理的な理由が」

 「・・・うるせえ」

 

 うるせえうるせえうるせえうるせえうるせえうるせえうるせえうるせえうるせえうるせえうるせえうるせえうるせえうるせえうるせえうるせえうるせえ!!!!

 

 「テメエら全員、黙らせてやる・・・!!かかってきやがれ!!」

 

 

 【議論スクラム】

『クロは六浜を含む生存者か?』〈反対〉VS《賛成》

 

 ーー生存者の行動ーー

 〈私たちは人を殺すようなことはしていません!〉

  《直接殺すんじゃなくて、人が死ぬ環境を作らされたんだよ》

 

 ーークロの条件ーー

 〈直接六浜さんに手を下したわけではないなら、クロの条件を満たしてません!〉

  《晴柳院だって直接笹戸を殺したわけじゃねえのにクロだっただろ!》

 

 ーークロの人数ーー

 〈共犯者に関する規則では、クロは単一に限定されるのではなかったか?〉

  《クロの人数についての規則はねえはずだ。直接殺人に関わってりゃあいい》

 

 ーー順番ーー

 〈最後に水を被った六浜サンの自殺って扱いになるんじゃないの?〉

  《あの仕掛けはどれか一つでも欠けたら六浜は死ななかったはすだ!順番は関係ねえ!》

 

 ーー六浜の指示ーー

 〈ボクたちに指示をした六浜サンがクロになるんじゃないの?〉

  《あいつがやったのは水を被ることだけだ。誰に何を言おうがクロにはならねえ!》

 

 ーー目的ーー

 〈こんなことをする理由が六浜童琉にあったのか?〉

  《学級裁判にシロがいねえんなら、あいつが言ってた目的が達成できるはずなんだ!》

 

 

 「これが俺の答えだッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「六浜には確信があったはずだ。でなきゃこんなことしねえ。だから、もう一回聞くぞ、モノクマ!」

 「・・・」

 「クロが二人以上いるとき、どう投票すればシロの勝ちになるんだ」

 「・・・ああもう、まったく質悪いったらないよ。シロのいない学級裁判?真相を知らないクロ?茶番にも程があるよ。こんな裁判とっとと終わらせたいのに、そういうわけにもいかないし・・・」

 「答えやがれ!!」

 「そんなの考えてなかったに決まってんだろ!思いついたって普通やる奴なんかいねーっつーの!反則だよ!と、昨日までのボクなら答えてたでしょう。でもね、この質問はオマエラで2回目なんだよね」

 「2回目・・・?で、では1回目は・・・?」

 「六浜童琉か」

 「そのとーり!だからボクはこう答えてやったよ。『該当クロの全員が同じ票数になれば、最多得票者が誰かにかかわらずシロの勝ち』ってね!」

 「全員が同じ・・・ってことは、0票でも同じならクロは処刑なんだな」

 「どしたの清水くん?やけに聞いてくるね。もちろん得票数にかかわらず同じならシロの勝ちだから、0票でもクロは処刑されちゃうよー!」

 「つまり・・・どういうことだ?」

 

 モノクマも言った通り、六浜も確実にこのことを知ってたはずだ。これをあいつが聞いたってことは、やっぱり間違いねえ。

 

 「あいつはこの学級裁判で・・・コロシアイを終わらせる気なんだ・・・!俺ら全員をクロにすることで、確実に学級裁判で勝てる状況を作り出したッ!」

 「それが・・・今だと?」

 「・・・そっか。ボクたち全員がクロなら、わざわざ処刑される道を選ぶわけがないもんね」

 「全員が1票以上獲得するには全体の票数が不足している。0票ならば可能性はあるが、その場合私たちの投票先は全て晴柳院命以前に死亡した誰かになる。状況としては、あり得ないと言える」

 「俺らがここまで辿り着こうが着くまいが、あいつは俺らがどう投票しようが、この学級裁判でコロシアイ合宿生活を終わらせるつもりなんだッ・・・!!」

 「学級裁判で勝利したクロは、希望ヶ峰学園に帰ることができる。ボクたち全員がクロなら・・・ボクたち全員が生きて帰れるってわけだね」

 「それが彼女の選択なのですか・・・?彼女自身の命を捨ててまで・・・私たちを希望ヶ峰学園に返すために・・・!?」

 

 無駄に責任感が強いあいつだからこそ、誰よりもコロシアイに苦しんでたあいつだからこそ、“超高校級の予言者”のあいつだからこそ、こんなバカげた計画を考えて、実行したんだ。それが、モノクマのルールに従って逃げる手段だったとしても、一番多くの人間が生き残ることを優先した。黒幕との戦いを避けて、生き残ることを第一に考えた。

 これは、俺たちの完全な敗北だ。俺たちはただ、用意された逃げ道を歩むことしかできない。

 

 「では、私たちは誰に投票すればいいのだ?」

 「・・・彼女の意思を尊重するなら、誰か一人に票を集めるなり、適当に散らすなり、とにかく私たち全員が同票にならないようにすることですね」

 

 本当にそれでいいのか?このまま六浜の思惑通りに・・・俺たちはモノクマと対決することもなく、合宿場について何にも明らかにしないまま、希望ヶ峰学園に帰るのか?そもそも、六浜がこんなことしたってのは・・・!

 

 「待てよ」

 「なんでしょう?」

 「このままじゃ・・・終われねえ。この裁判はまだ、終わらせねえ!」

 「清水クン、どうしたの?」

 

 六浜にハメられて、俺たち全員がクロになった。このまま適当に投票すれば、俺らはモノクマのルールに従って学園に帰れる。だが本当にそれでいいのか?モノクマの正体は?合宿場の謎は?“超高校級の問題児”ってなんなんだ?“超高校級の絶望”と未来機関の関係は?ここで死んでいった奴らの意味は?

 このまま逃げたら、何かが失くなるような気がした。このまま六浜の言う通りにしてたら、俺は・・・また負けっ放しになる。

 

 「あの馬鹿が・・・六浜がなんでこんなことをしたのか・・・!あいつが自分の命を諦めて俺たちだけを生かすなんてことする理由がなんなのか・・・分からねえまま終わるなんて、許さねえ!!」

 「理由など・・・なぜそんなことを明らかにしなければならないのです?どんな理由があろうと、事実は変わらないのではありませんか?」

 「このままじゃ・・・気分悪いんだよッ!あいつが用意したシナリオ通りになんのが気にくわねえ。あいつは・・・何かに気付いた。だからこんなことしたんだ。それを知らねえまんま学園に戻るって・・・なんか、全部あいつに押しつけてるみてえで・・・あ、後味悪いんだよッ!!どうせ結論が分かってんなら、別にいいだろ!!」

 「・・・ボクも知りたいな。彼女が何を知って、どうしてこんなことをしたのか。六浜サンが、ただ手っ取り早いなんて理由でこんなことするなんて思えない」

 「無意味です」

 「六浜童琉の動機についてある程度の推測は可能だ。そして今回の場合、真相を知っているはずの六浜童琉は既に死亡している。ここで推理をし、その目的形成の順序を明確にしておくことで、六浜童琉の真意を知ることが可能かも知れない。それに」

 「それに?」

 「モノクマはまだ投票に移る気はないらしい」

 

 歪んだ目をいつもより赤く光らせ、不細工な口は大きく吊り上がって、悪意のこもった笑い声が抑えきれずにこぼれてくる。さっきまで黙って裁判の行方を眺めてただけのモノクマは、いつの間にか学級裁判の参加者の一人として、玉座の上に屹立してた。

 

 「うぷ・・・うぷぷ、うぷぷぷぷぷぷぷ!!あーっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」

 

 俺たちがこうなることを、六浜は予言してたんだろうか。モノクマとの直接対決を避けるために六浜は命を懸けたのに、それを無視するようなことをする資格が俺たちにあるんだろうか。

 けどそんなもん知ったことか。あいつは勝手に俺たちに命を懸けた。だったら俺たちだってやってやる。自分勝手に、我が儘に、身勝手に、テメエが辿り着いた『真実』を暴いてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コロシアイ合宿生活』

生き残り人数:残り4人

 

  清水翔  【六浜童琉】 【晴柳院命】   【明尾奈美】

 

  望月藍  【石川彼方】 曽根崎弥一郎   【笹戸優真】

 

【有栖川薔薇】 穂谷円加  【飯出条治】 【古部来竜馬】

 

【屋良井照矢】【鳥木平助】 【滝山大王】【アンジェリーナ】




題して、『みんなでつくるコロシアイ』。そんな学園モノありそうだよね。
ななんと4万字ということに・・・コトダマだけで1万字ちょっとあるけどね!
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