ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

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真相編

 

 激しく響くノイズの隙間を縫って間抜けな音楽が聞こえてくる。照明は真っ赤に色づいて視界から一切の色彩を奪う。自由な生を獲得した罪人への祝福なのか、裏切りと偽りの中に死に行く奴らへの嘲笑なのか、形を得ないファンファーレが裁判場を埋め尽くす。

 

 「な、な、な、なんと。まさかまさかの指名しっぱぁ〜〜い」

 

 玉座に腰掛ける『そいつ』は、ぶっきらぼうにそう言った。モノクマのままだったら、もっと楽しそうに言ってたかも知れない。黒幕が正体を明かしたために、自分で仕掛けた演出のほとんどをぶち壊すことになった。それすらも何とも感じてないらしい。

 

 「今回、六浜童琉さんを殺した犯人は、六浜童琉さん自身、つまり自殺ではありませんでした」

 

 そんなこと分かってる。あいつは俺たち全員を巻き込んで死んだんだ。俺たち全員が犯人なんだ。それを、俺たちはわざと間違えた。あいつの作った逃げ道に甘んじた。

 

 「・・・これで・・・終わったのですね」

 

 終わった。何もかも。理不尽に押し込まれた合宿場の生活も、一時も心の安らぐ暇がないコロシアイも、昨日まで同じ飯を食ってた奴の処刑を目の当たりにする絶望も。この瞬間を、俺たちはずっと目指してきてたはずだ。だがそれは、こんなはずじゃなかった。こんな、無責任な終わり方じゃなかった。

 

 「これが、六浜サンの望んだ結果だよ。これでよかったんだ」

 「いいわけあるか!!・・・こんなの・・・ふざけてやがる!!」

 「・・・」

 

 納得できるわけがねえだろこんなの!!六浜は勝手に一人で全部背負って、俺たちには何も言わねえで、俺たちはそれを知っても何もできずに、何も懸けずに、ここからいなくなる。そんなの・・・。

 

 「コロシアイから無条件に離脱したようなものだ。六浜童琉の意思を汲むのであれば・・・これが最善策と言わざるを得まい」

 「分かってんだよんなことは!!!!当たり前だろ・・・!!だから・・・なんでこんなことしたんだって・・・なんで俺らに何も言わなかったんだって・・・!!」

 「言えば貴方がたは邪魔をするでしょう。六浜さんは貴方がたを生かしたいからこそ隠したのです。それ以外の方法はありませんでした。貴方に何かできたと思うのは傲慢でしかありません」

 

 そりゃそうだ。“無能”の俺なんかにあいつの計画をねじ曲げて、筋書きを変えるなんてことできるわけがねえ。他に全員で脱出する方法なんて思い付くはずもねえ。だから、これが一番現実的な方法だったのかも知れねえ。けど・・・。

 

 「そりゃ・・・何も考えずに出て行けたらいい・・・!!いま生きてる奴らだけならよかった・・・!!けど・・・これで出てったら、死んでった奴らはどうなるんだよッ・・・!!」

 「・・・」

 

 テメエのことながら、俺は何言ってんだ。そんな柄じゃねえのに、死んだ奴らに今更何ができるわけがねえのに、なんでそんなこと言い出すんだ。

 

 「お互い知らねえままだったら!!昨日今日会った程度だったら!!名前も知らねえ奴らだったら!!簡単に切り捨てられた!!なんでだよ・・・!!“才能”なんか嫌いなのに・・・!!“超高校級”の奴らなんかクソなのに・・・!!あいつらの何も背負わねえで出て行くのが悔しくてたまらねえんだよッ・・・!!なんてあいつらのことなんか考えてんのか・・・俺だって意味分かんねえよ・・・!!」

 

 なんで今になって、こんなこと言い出すんだ。この感情はなんだ。あんな奴らのことなんか、なんとも思ってなかったはずなのに・・・なんでこのタイミングでそんな感情が湧き上がる。忘れちまえばいいのに・・・それを俺自身が拒んでやがる。

 

 「責任を感じるのも傲慢です。貴方が彼らに親しみを覚えていたのは意外ですが、今となっては手遅れです。なにもかも」

 

 手遅れ・・・そうかも知れねえ。俺たちに選択肢は残されちゃいねえ。たぶんそうなんだろう。そうなんだとしても。

 

 「いや・・・」

 

 そんなこと、許せるわけねえだろ。そんなこと、認められるわけねえだろ。そんなこと、納得できるわけねえだろ!

 

 「まだだ・・・!まだ・・・終わらせねえ!」

 

 こんな終わり方は選ばねえ。こんな結末は選ばねえ。用意された選択肢なんか知ったことか。他に選択肢がねえなら、俺が作ってやる。

 

 「学級裁判は・・・終わらせねえ・・・!!もう一回、学級裁判を開く!!」

 「ッ!?な、なにを言い出す?清水、翔・・・!」

 「もう一回裁判を開くって、どういうこと?」

 

 望月も曽根崎も穂谷も、俺の言葉に目を丸くしてる。『そいつ』だけは、相変わらずの退屈顔で聞いてた。いや、聞いてるのかもはっきりしねえ。

 

 「ここで終わったら、今までのコロシアイが全部無駄になる!死んだ奴らの想いが消えて無くなる!だから・・・『そいつ』をぶっ殺さなきゃ、俺はここから出て行けねえだろ!!」

 「キミには似合わない台詞ですね。しかし、キミにそんなことができるのですか?キミが勝手に宣言しただけの裁判に私が参加する必要はないと思います」

 「んぐっ・・・!?」

 「そうかなあ」

 「ん?」

 

 あっさり『そいつ』に言い伏せられそうになった俺に、思いがけない支援があった。曽根崎が、完全に『そいつ』を言い負かすモードに入ってやがる。

 

 「ボクたちはもう学級裁判に勝利したクロ、希望ヶ峰学園の生徒だ。キミも、モノクマというゲームマスターの仮面を脱ぎ捨てた時点で、ただの希望ヶ峰学園の生徒だ。六浜サン殺しの裁判に参加する義務はなくても、ボクたちがキミに対して開いた裁判には参加してもらうよ。それが、ルールだから」

 「・・・」

 

 早口に、隙間なく、強気に曽根崎は言葉を乱射する。しかも『そいつ』が絶対に逃げられねえような言葉を、意味ありげに最後に添えた。今に始まったことじゃねえが、汚え。だからこいつにあれこれ聞かれたり言われたりするのは嫌なんだ。今はそれが助けになってる。こんな時が来るなんて思いもしなかった。

 

 「仮に裁判を開くとして」

 

 『そいつ』は静かに言った。その言葉には、曽根崎に言い負かされた、って含みがあった。

 

 「議題はなんですか。今までの学級裁判は明確な議題を以て行われました。しかし今は、誰も死んでいない。誰も殺していない。そんな学級裁判で、一体何を話し合うのです」

 

 すぐさま『そいつ』は質問を変えてきた。言葉の綾だけじゃどうにもならない、具体的な答えを求めて来やがった。だが、そんなもんは予想してた。学級裁判には必ず謎が必要だ。だがその謎には裏があるときもある。誰かの思惑のために・・・謎が存在すること自体に意味があることだってある。

 俺は『そいつ』と目を合わせた。ここは絶対に退けねえ。絶対に、このチャンスを逃すわけにはいかねえ。

 

 「このコロシアイの、本当の黒幕についてだ」

 

 退屈そうな『そいつ』の目が、一瞬だけ見開かれた気がした。すぐに元に戻ったが、確実に食いついた。

 

 「本当の・・・黒幕?」

 「お前はさっき、自分が黒幕だっつったが・・・それはウソだ。このコロシアイには、他に黒幕がいる」

 「えっ・・・?」

 

 落ち着け。動揺すんな。ここで動揺を見せたら、『そいつ』は動かねえ。このまま卒業しねえためには、もうこれしかねえんだ。俺が『そいつ』をねじ伏せるためには・・・これしか。

 

 「どういうことです」

 「そもそもがおかしいんだ。さっきテメエは黒幕だと名乗ったが、テメエが正体を現す必要なんてなかった。議論が煮詰まって、俺たちの話が終わりそうになったタイミングで、テメエは現れた。自分が黒幕だと、俺らに見せつけるために」

 「それはつまり・・・ダミーということですか?」

 「さあな。それだけじゃねえ、テメエが黒幕だとしたらおかしなことが他にもある」

 「・・・なんでしょう」

 「それを議論するために、俺は学級裁判を開く。テメエが本当の黒幕じゃねえってことを・・・本当の黒幕の正体を暴くために、学級裁判を開く!テメエだって当事者なんだ。参加しねえとは言わせねえぞ・・・!!」

 

 俺以外の奴ら全員が、俺に訝しげな視線を送る。こんな話、いきなりしたって信用されるわけがねえ。

 

 「なるほど。このコロシアイの謎を、徹底的に議論するということですね。しかし分かっていますか?この場所で行われる学級裁判に負けた者は、例外なくおしおきを受けることになります」

 「テメエもな・・・!!」

 「全ての謎を明らかにすればキミたちの勝ち、私が処刑される。それができなければ私の勝ち、キミたちが処刑される。そう言いたいのですね」

 「当たり前だ。テメエと黒幕と、まとめて死んでもらうからな。それと、裁判の前にもう一度合宿場を捜査する時間ももらうぞ。確かめてえことがある」

 「・・・仮に裁判を行う場合、他の皆さんはそれで納得しますか」

 

 現状、学級裁判を開くと言ってるのは俺だけだ。『そいつ』はどうあっても学級裁判を開かせたくねえらしい。『そいつ』以外の誰かが反対しちまえば、この裁判は開く理由がなくなる。俺は『そいつ』を言い負かす覚悟はあっても、俺以外の奴らを説得する準備はしてなかった。

 だが、そんなもんは愚問でしかねえ。

 

 「納得するに決まってるさ。希望ヶ峰学園の闇が生み出したコロシアイ、絶望を撲滅するために生み出された“超高校級の希望”による絶望、そして真の黒幕・・・こんな特ダネ、逃したら死ぬほど後悔するよ」

 「それは、賛成ということですか?」

 「もちろん。それが“超高校級の広報委員”としてのボクの覚悟だよ」

 

 そんなもん建前だ。分かってる。こいつは目の前にいるカムクライズルを逃がさねえために、裁判に参加するしかねえ。それが義務じゃなく、こいつ自身が望んでることだから、信頼できる。曽根崎は、間違いなく俺と同じ方を向いてる。

 

 「清水翔がそのつもりなら・・・私は最後まで付き合う」

 「望月藍さんもですか。合理的な理由はないように思いますが」

 「理由など・・・ない。強いて付ければ、私は清水翔の側を離れたくない」

 「はっ?」

 「私の正体が分からなくても、私がカムクライズルになれなかった者であると知っても・・・お前は私を見捨てなかった。合宿場での生活で、私はお前から色々なことを学んだ。私は・・・お前に感謝しているのだ。清水翔」

 

 なんだそりゃ。下手くそに顔を緩ませやがって。俺はただ、望月が黒幕だってことを認めなくなかっただけだ。俺はこいつの前で、ただ怒りや悔しさを吐きだし続けてただけだ。それが望月にとって、どれほどのことだったのかは知らねえ。けど、望月を疑う理由はねえ。こいつは、意味もなく命を懸けるような奴じゃねえ。

 

 「あとはキミだけです。穂谷円加さん。キミはどう思いますか」

 「・・・愚問ですね。彼の遺志をおいてここを去るなんてあり得ません。彼の仇を討たないと、私は前に進めないんです」

 

 それは、暗に俺たちに賛成してるってことだろうか。死んでった奴らのためになんてのも気恥ずかしいが、否定はしねえ。鳥木だって穂谷を生かすために命を懸けた。それに応えねえと、あいつが死んだ意味がねえ。穂谷はあくまで自分のために、俺たちと並んで立つ。

 

 「賛成多数だ。まだなんかいちゃもん付けんのか」

 

 『そいつ』はぽかんとした表情から一変して、何かを考え始めた。考えたって無駄だ。もう『そいつ』は、俺たちの開く学級裁判に参加せざるを得ない。それがここでのルールだ。

 

 「なるほど。クロにこのように言われた場合、私は断ることができません。勉強になりました」

 「じゃあ、やるんだな」

 「私としても“才能”の可能性を知ることができるのならば、卒業が確定した生徒と新たに学級裁判を開くことにやぶさかではありません。お互いに利があるのならばするべきでしょう」

 

 あくまで黒幕だと名乗る以上、他にも無茶苦茶な条件吹っかけてくるかと思ったが、案外すんなり受け入れた。だがこれで、ようやく俺たちは黒幕と戦える。六浜が用意した逃げ道から外れて、正々堂々正面から、この合宿場を出て行ける。それができるかどうかは俺たち次第だ。

 

 「じゃあ清水クン、まずはどこを調べるの?」

 「ひとまず資料館だ。あそこに行きゃあなんかしらの情報があるはずだ」

 「手分けして捜査した方が効率的ではないか?」

 「・・・本当の黒幕が何してくるか分からねえ。めんどくせえことにならねえよう、まとまってた方がいい」

 「そうですか。・・・変わりましたね。清水君」

 「変わらされたんだよ、テメエらと、あいつらに」

 

 俺の隣には、曽根崎がいる。望月がいる。穂谷がいる。“才能”なんかに頼ってるわけじゃねえ。俺みてえな“無能”にだって、できることがある。その可能性を与えたのが“超高校級の希望”を名乗る『そいつ』ってのは、なんかの皮肉か。

 なんだっていい。“才能”なんかクソ食らえ。俺はそんなもんに頼らねえで、“超高校級の希望”をぶっ倒してみせる。

 

 「お話しはまとまったようですね。それでは」

 「ああ。首洗って待っとけクソ野郎」

 

 

 

 「今回は、“超高校級の広報委員”曽根崎弥一郎くんのために、スペシャルなおしおきを用意しました」

 

 

 「・・・は?」

 

 

 「それでははりきっていきましょう。おしおきタイムです」

 

 

 「えっ・・・?なにそレッ・・・!!!」

 

 俺の隣から曽根崎の声が消えた。無情な金属音と共に最後に見たのは、曽根崎の脚が暗闇に消える寸前の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         【GAME OVER】

 ソネザキヤイチロウくんのおしおきをかいしします。

 

 

 理解するより先に身体は縛られ、目の前の光景は裁判場から処刑場へと変化していた。曽根崎弥一郎は円形の広場の真ん中で、十字に身体を縛られていた。眼下に広がる観衆の群れは、一様に赤い左目を怪しく光らせている。

 

 

 《真っ赤な嘘吐き》

 

 

 いい加減な罪状が読み上げられ、観衆からは大きな罵声が飛ぶ。嘘吐き、卑怯者、詐欺師、インチキ、ホラ吹き・・・その悪意の一つが、形を伴って飛んできた。それは曽根崎の額を捉える。

 

 「うっ!」

 

 足下に落ちていくそれは、『月刊HOPE』、曽根崎が書いた本だった。その一投を皮切りに、あらゆる書物が罵声と共に投げられる。本が、新聞が、雑誌がペンが手帳が糊が修正液がハサミがインク瓶がタイプライターが、曽根崎の記事を生み出していたあらゆるものが、いま曽根崎の身体を“赤”く染めていく。ハサミが肌に線を刻み、インク瓶が骨まで響いて割れ、万年筆が身体に突き刺さる。残骸は力なく落ちていき、気付けば、足下にはガラクタの山ができていた。

 そこへ目抜きマスクを被ったモノクマが、“赤”い光を近付けた。弱々しい白線を立て、山の中から影を覗かせ、その“赤”はごうごうと音を立てて曽根崎に迫ってくる。

 

 「・・・」

 

 虚ろな眼をした曽根崎は、身じろぎすることもなく、その“赤”に呑み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「エックスットリィィイイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッム。これぞおしおき、ですね。とても興奮しています」

 

 言葉が出ねえ。何が起きた?俺の隣にいたはずの曽根崎の声はもうしない。処刑場の真ん中で赤黒い塊と化した。俺たちの目の前で。抵抗する間もなく。

 

 「テッメエエエッ!!!!!!」

 「!!」

 

 理解するより先に身体が動いてた。玉座でだらけた姿勢の『そいつ』に飛びかかって胸ぐらを掴む。高え場所から引きずり下ろして寝転んだ『そいつ』に跨がる。

 

 「テメエなにしてやがる!!!なんで殺した!!!」

 「やめてください、清水翔くん。ゲームマスターへの暴力行為は規則違反となり」

 「なんで殺した!!!!」

 

 なんで曽根崎が殺された!!!なんであいつが死ななきゃならねえ!!!ふざけんな!!!なにかの間違いだ!!!こんなことあっていいわけが・・・!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 How honest is the pain

 

 That falls equally on the deep court

 

 But high upon the ground

 

 There's empty world with the nobody

 

 Oh, she had been bound to kill

 

 The crimes that lost their leader

 

 Some magic from our love

 

 Made them pay for their unmerciful heart

 

 

 俺の怒りを掻き消すように、それは静かに狂気を孕んで、聴き惚れるほどきれいに、全員の耳を支配した。

 

 「こういうことですわ。清水君」

 「・・・・・・穂谷?」

 

 歌声の主、穂谷円加は、小さく笑って俺を呼んだ。曽根崎が死んだことなんてなんとも思ってないように、その顔色は普段と変わらない。張り付いたような笑顔も、初めて会ったときとまったく同じだ。

 

 「学級裁判で誤った人物をクロと指名した場合、クロ以外の全員が処刑される。いまさら分かり切ったルールではありませんか」

 「誤った人物・・・?い、いや・・・・・・そうではないのか・・・?六浜童琉は・・・私たち全員をクロとして・・・!私たちは全員・・・クロとして卒業を・・・!」

 「それは違います」

 

 狼狽えてしどろもどろになる望月を、穂谷は短い言葉で黙らせた。それが意味することを、俺は直感的に理解した。

 

 「クロは、私一人です」

 

 俺たちは、まんまとこいつに騙されたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今回、六浜童琉さんを殺害したクロは、穂谷円加さんです」

 

 

 「ど・・・どういうことだ・・・?穂谷円加がクロ・・・?六浜童琉の計画は・・・?私たちの議論は・・・!?」

 

 

 「ウソではありません。監視カメラの映像と検死結果を合わせて考えれば、六浜童琉さんを殺害したのは穂谷円加さんただ一人です」

 

 

 「違う!!!六浜は俺たち全員をクロにした!!!俺たち全員があいつに仕向けられてあいつを殺させられた!!!!」

 

 

 「もちろん、それが彼女の計画でした。皆さんがそこに辿り着いたことは、私も感服しました。しかし彼女の計画の緻密さや複雑さが、却って付け入る隙を与えてしまったことは、皮肉な話です」

 

 

 「付け入る隙・・・?」

 

 

 「六浜さんの計画には私たちの協力が不可欠。逆に言えば、全員が協力するか、計画を知らないままでいなければ・・・簡単に崩壊してしまうものなのですよ」

 

 

 「・・・・・・意味を理解しかねる」

 

 

 「彼女の部屋にあった花を覚えていますか?白く可憐で、小さな花です。名をキスツス・・・花言葉は、『私は明日死ぬだろう』」

 

 

 「・・・!?」

 

 

 「私は、植物園から彼女があの花を持ち出すところを見かけました。おそらく事件後、自分の部屋が捜査されることを見越して、ヒントにでもしようと考えたのでしょう。その意味を理解すれば、彼女の計画に気付くのは容易いですから」

 

 

 「そこでテメエは・・・全部気付いたってのか・・・!?たったそれだけで・・・・・・あいつの計画を全部知ったってのか!!!」

 

 

 「まさか。しかし、彼女が何かを企んでいることくらいは分かりました。少なくとも、彼女が死のうとしていると。そんなの・・・許せるはずないじゃありませんか」

 

 

 「?」

 

 

 「彼女は自ら命を絶とうとしていたのですよ?身勝手に、我が儘に、死のうとしていたのですよ?そんなこと・・・絶対にさせたくありませんでした。彼女は・・・私が殺さないと意味がないのに・・・」

 

 

 「・・・は?」

 

 

 「彼女が、貴方たちが何をしたかお忘れですか?貴方たちは・・・私にとっては殺すべき相手なのですよ?だって彼は・・・鳥木君は、貴方たちのせいで死んでしまった・・・・・・貴方たちに殺されたのですよ!!!」

 

 

 「鳥木・・・平助・・・!?私たちが殺した・・・!?」

 

 

 「鳥木君は・・・死ぬ間際に言っていました。なぜ自分が死ななければならないのだと。自分の運命を恨み、理不尽を憾み、殺した貴方がたを怨み・・・・・・私の胸の中で亡くなりました。なぜ彼があんな目に遭わなければならなかったのですか!!あんな悲劇がありましょうか!!だから貴方がたは・・・私に殺されなければならないのですよッ!!!!!」

 

 

 「鳥木平助くんは明尾奈美さんを殺害し、学級裁判で指名を受けたのでクロとして処刑されました。自分の死を受け入れてましたし、死ぬ瞬間に穂谷円加さんと会話などしていませんでした」

 

 

 「六浜さんの命を踏み台にして、全員で希望ヶ峰学園に帰る?冗談ではありません!!貴方がたは一人残らず殺されるのです!!この私に!!そうでなくては私が生きる意味などありません!!私は貴方がたを全員殺さないと・・・生きることも死ぬこともできないままなのですよォッ!!!」

 

 

 

 

 

 バカげてる・・・ふざけてやがる・・・・・・なにが殺されなきゃならないだ・・・なにが卒業だ・・・・・・なにがコロシアイ・・・なにが学級裁判・・・なにが・・・・・・・・・“超高校級”だ・・・。

 命のやり取りを前にして、人は簡単に狂う。“超高校級”も“無能”も・・・なにが違う。

 

 「ふっざっけんなァァアアアアアアアアアッ!!!!!!」

 「ッ!!」

 

 この感情はなんだ。腹の底に鉛を沈められたような重みと、抜け殻になったような空虚と、ふつふつと湧き出てくる衝動。気付くと俺は『そいつ』を捨てて、穂谷に殴りかかってた。が、俺の手は届かなかった。

 

 「裁判後の乱闘はやめてください。おしおきが完了するまでに死者が出ては、判断に困ります」

 「は・・・!!はな・・・せ・・・!!」

 

 俺の身体はいつの間にか、鎖で雁字搦めになってた。壁の奥から伸びてくる、絶望の鎖。

 

 「うふ・・・うふふ・・・!あっははははははははは!!!“無能”の負け犬にはお似合いの姿ですわ清水君!!もののついでです。どうやって彼女を殺したか教えて差し上げますわ!!」

 「黙れ!!!クソ野郎!!!!テメエは・・・!!!テメエはぁぁあああ!!!!!」

 「彼女の死因は凍死などではありません。彼女は、窒息死したのですよ!」

 「・・・ッ!?」

 

 その愉快そうに笑う顔を歪ませてえ・・・!!その耳障りな声を引き千切りてえ・・・!!その細くて白い首をへし折りてえ・・・!!穂谷という存在のすべてを、俺の手で破壊し尽くさねえと気が済まねえ!!!

 

 「彼女の計画通り、六浜さんが弱って立てなくなった頃に、私は多目的ホールの窓を閉めました。と言っても、足下の小さな窓だけですが。しかしそれだけで十分でした。私が多目的ホールにバラ撒いたドライアイスが彼女から呼吸を奪うには・・・!」

 「ドライアイス・・・!?」

 「地下の・・・冷蔵室か・・・!!」

 「弱った彼女が私に気付いたかどうかは分かりませんが・・・彼女は苦しむ様子もなく、いつの間にか死んでいました。再び窓を開けておけば、ドライアイスは換気され、ホールは元通り。うふふ・・・どうですか?素晴らしいとは思いませんか?」

 「しかし・・・ホールは施錠され、鍵は曽根崎弥一郎が保有していた。窓は鉄柵で通行不可能・・・一体どこから侵入したというのだ・・・?」

 

 嬉々としてテメエの殺人を語る穂谷。『そいつ』が訂正しねえってことは、それは間違いなく本当のことなんだろう。だからこそ許せねえ・・・!!こいつは六浜がそこまでして・・・命を捨ててまでテメエを助けようとしてることを知っておいて六浜を殺した!!イカれたテメエの妄想のために!!!

 

 「扉と窓以外にも・・・出入り口はあります。私たち全員がそれを目の当たりにしたではありませんか。ここにきた、最初の日に」

 「・・・ッ!!!まさか・・・!!!あそこを・・・!?」

 「ええ。モノクマが現れた壇上の隠し通路です」

 

 そんなバカな・・・!!デブっつってもぬいぐるみだぞ・・・!?それが通るような通路なんて、見つけたとしても通れるわけが・・・!!

 

 「忌々しい細身だと思っていましたが・・・役に立つこともあったのですね」

 

 たったそれだけのことで、六浜の計画は台無しになった。穂谷に花を持ち出すところを見られたから・・・こいつが狂ってることは分かってたのに・・・こんなことしてくるなんて・・・!!!

 

 「もうよろしいですか、穂谷円加さん」

 「ええ。早く処刑してしまいましょう。私はまだ・・・貴方を殺さなくてはならないので」

 「では・・・」

 「ああ、待ちなさい。清水君を処刑するのは後にしてください」

 「んなっ・・・!?」

 

 退屈そうな『そいつ』が穂谷を催促した。それに対して穂谷は、殺害予告と命令を同時に言いやがった。狂ってる。なにもかも、こいつらは、狂ってる。

 

 「かしこまりました。それでは先に望月藍さんのおしおきを執行します」

 「・・・!!」

 

 ただ愕然としてた望月の顔が、一気に青ざめた。

 

 「まっ・・・!!ふざけんな!!!なんで俺らが殺されなきゃならねえ!!!テメエが!!!テメエが死ね!!!六浜が誰のために死んだと思ってんだッ!!!俺らはなんのために今まで!!!!」

 「・・・し、しみず・・・!しみず・・・!!」

 

 六浜の想いを踏みにじったこいつを殺す!!俺たちを裏切って笑ってやがるこいつを殺す!!そう怒鳴っても、どんだけ叫んでも、喉が痛むほど喚いても、身体を縛る鎖はびくともしねえで、俺の激昂を煽る。

 なのに、名前を呼ばれて触れられた瞬間、高ぶった感情が一気に失せた。か細くて弱々しい、怯えた声だ。

 

 「清水・・・翔・・・!わ、わたしは・・・・・・わからない・・・!!今となっては・・・これでよかったのか・・・!」

 「なっ・・・!?い、いいわけあるか・・・!!こいつは・・・!!」

 「し、しみず・・・!!わた、しは・・・・・・!!こわい・・・!!」

 「ッ!?」

 

 俺の服を握る腕の隙間から、望月の顔が見えた。青くなった顔を、二つの目からこぼれる涙がぬらしてた。カタカタ震える手に、うわずった声。今、望月は間違いなく・・・恐怖してる。

 

 「死は・・・すべての生き物に等しく訪れる・・・!!自然の摂理だ・・・!!死は・・・自然なことだ・・・!!いずれ訪れるものをおそれるのは・・・理解しがたいことだ・・・・・・!!なのに・・・死が目前に迫って・・・いまさらになって・・・私は死が怖い!!これが『感情』なのか・・・!!」

 「・・・!」

 「だとしたら・・・いっそ『感情』などないままの方がよかったのか・・・!!なににも怯えず・・・おそれず・・・ただの生理現象として死を迎えた方が・・・しあわせだったのか・・・・・・!!もう・・・・・・わからない・・・!!」

 「今回は、“超高校級の天文部”望月藍さんのために、スペシャルなおしおきを用意しました」

 

 やめろ・・・!もうやめてくれ・・・!なんなんだこれは・・・!俺たちがなにをした?俺たちはなんで殺されなきゃならない。なんで・・・こんなことに・・・!

 

 「それでは、はりきっていきましょう。おしおきタイムです」

 

 『そいつ』がボタンを押すと同時に、壁からまた鎖が伸びてくる。それは望月の首に、腕に、腰に、脚に巻き付いて、俺と望月を引きはがす。

 

 「まっ!!まて!!!望月!!」

 「しみず・・・!!」

 

 簡単に剥がされた望月の手が、空を掴もうと藻掻く。

 

 「た・・・・・・たすけ・・・て・・・・・・!!」

 

 

 「やめろぉぉおおおおおおッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       【GAME OVER】

 モチヅキランさんのおしおきをかいしします。

 

 

 望月藍は抵抗した。ガムテープとロープで固定された身体を捩らせた。ペットのように繋がれたロープは、隣に立つモノクマの手に握られている。金髪の長いカツラに黒いコートを着たモノクマは、客車のドアを開いて望月を押し込む。

 耳を劈くような汽笛を唸らせ、鋼鉄の機関車は動き出す。行き先の案内板が回り、望月藍の運命を示す。

 

 

 『Journey to the Stars』

 

 

 汽車はもうもうと煙を吐いて速度を上げる。客車の窓から見える景色は徐々に色を失い、やがて小さな光が散らばる漆黒へと姿を変えた。車掌モノクマはまだまだ速度を上げようと石炭をくべる。ぐんぐんと速くなる機関車の中で、望月はただ顔を青くして震えている。金髪モノクマはそんな望月を嘲笑うように未知の惑星の話を耳元で囁く。

 やがて前方に惑星が見えてくる。それは巨大なモノクマの頭部だった。慌てて車掌モノクマは急ブレーキをかける。不意の衝撃に、望月はいとも簡単に飛んでいき、機関車から飛び出した。

 

 「・・・!?」

 

 飛び出した勢いのままふわふわと、徐々にモノクマ惑星に漂っていく。モノクマはそんな望月を笑うように大口を開けた。望月の身体はモノクマの口元へ吸い込まれていく。

 

 「!!」

 

 まずい、と感じた次の瞬間、モノクマは勢いよく口を閉じた。真っ赤な飛沫が飛び散り漂う。

 咀嚼音のような、巨大な機械が稼働するような音がしたかと思うと、モノクマは再び口を開いた。先に散った赤い飛沫の後を追うように、小さなネジが飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ギャラクシカル・ウルトラ・エクストリーーーーーーーーーーッム。宇宙の神秘を感じますね。この世は謎に満ちています」

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!」

 

 ウソだウソだウソだウソだウソだ!!!!全部何かの間違いだ!!!これは夢だ!!!覚めろ!!!今すぐ覚めろ!!!こんなの現実なわけがねえ!!!早く覚めてくれ!!!これは・・・!!!

 

 「現実ですよ」

 

 冷たいのに、透き通った声。脱力した俺をなおも縛る鎖。いつの間にか立てられた二人分の遺影に囲まれて・・・俺は独りになった。

 

 「苦しいですか?悲しいですか?辛いですか、痛いですか、悔しいですか、寂しいですか、虚しいですか、腹立たしいですか。これが、死です」

 

 もう穂谷が何を言っても聞こえねえ。俺はこいつを殺す。殺さなきゃダメだ。六浜も曽根崎も望月も、みんなこいつに殺された。殺さなきゃダメだ!!!

 

 「貴方にとっては、曽根崎君や望月さんの処刑も辛いでしょうね。現実を受け入れられない貴方だからこそ・・・“才能”に敗れたときのまま、現実を見ようとせず敗れたままの貴方だからこそ、あの二人に救われていた貴方だからこそ、辛いでしょうね」

 「コロス・・・!!!テメエ・・・!!ぜってえに・・・!!!コロス!!!」

 「無様ですね。流石に嫌悪を感じます。このような人間が私と同じ“超高校級の努力家”と呼ばれることが不愉快です」

 「なにが“超高校級”だ・・・!!なにが“才能”だ!!“才能”なんかクソ食らえ!!!」

 「知らないと思いますので教えてあげますが、キミは私の後継者として学園に来たのです」

 

 『そいつ』は俺を見下しながら言った。襟を正して、袖についた埃を払う。

 

 「私という成果を生み出した旧学園派は、“超高校級の努力家”にカムクライズルの可能性を見出した。不思議に思いませんでしたか?スカウト時点で既に努力を止めたキミが、なぜ“超高校級の努力家”として入学できたのか。なぜ“才能”を捨てたキミが学園から追放されなかったのか。キミをカムクライズルにするためですよ。新学園派はそこまでは気付いていなかったようですが」

 「殺す!!!殺してやる!!!ぜってえ殺してやる穂谷!!!!」

 

 くだらねえ・・・そんなこと、どうだっていい。俺はただ、こいつを、穂谷を殺さねえと・・・!!あいつらの仇をとらねえと・・・俺は・・・!!!

 

 「今回は、“超高校級の努力家”清水翔くんのために、スペシャルなおしおきを用意しました」

 「殺させろ!!!そいつを!!!今すぐ!!!俺がそいつを殺す!!!」

 「それでは張り切っていきましょう。おしおきタイムです」

 「清水君、さようなら」

 「穂谷ィィイイイイイイイイイイイッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       【GAME OVER】

 シミズカケルくんのおしおきをかいしします。

 

 

 円形の盤上に立つ清水翔。盤は細い足場の上に、絶妙なバランスで乗っている。少しでも動けば盤は揺れて落ちてしまいそうだ。手を後ろに縛られて、周りを人形に囲まれている。合宿場で同じ日々を過ごしてきた面々の面影を持っている。

 

 

 『覆水は盆には返れない』

 

 

 ギリギリのバランスを保つ盤の上に、何かが降ってくる。人形と同じ大きさの、モノクマ人形だ。盤に着地したモノクマは大きく足場を揺らし、二つの人形が落ちた。黒い短髪とピンクのツインテールの人形だ。

 

 また人形が落ちてくる。今度は色黒の人形とポニーテールの人形が消えた。

 

 みたび落ちてくる。ぼさぼさ髪の人形と着物を着た人形と派手な服装の人形がまとめていなくなった。

 

 まだまだ落ちてくる。赤いジャージの人形とオールバックの人形が盤上から姿を消す。

 

 また一つ落ちてくる。転がって落ちた灰色の髪の人形を追うように白く小さい人形も落ちた。

 

 残った4つの人形がモノクマ人形に詰め寄られる。清水は思わずモノクマの群れに突っ込んだ。揺れる足場も気にせず、モノクマ人形の爪も牙も気にせず、人形たちを救うために。

 

 「邪魔だ!どけ!」

 

 傷つき、倒され、嘲笑われても、清水は進んだ。やがて掻き分けたモノクマの群れの向こう側に辿り着く。立ち塞がる最後のモノクマを突き飛ばして、清水は群れを抜けた。

 そこには、何もいなかった。もう既に、人形たちは落ちていた。青い髪の人形も、緑色の人形も、紫の髪の人形も。ただ一つ、黒く長い髪を靡かせる人形だけが、清水の背後に立っていた。

 

 「!」

 

 振り返る間もなく突き飛ばされた。足場を失った身体はどんどん盤から離れていく。一瞬だけ見えた人形は、残りのモノクマも突き飛ばし、ただ一人盤の上で笑っていた。

 落ちる、落ちる、落ちていく。暗闇は無限かと思いきや、すぐに底についた。冷たく絡みつく感触。重く、じわじわと身体を蝕んでいく。それは泥のように清水を呑み込んでいく。

 

 「クソッ!!こんなもん・・・!!うぐぅっ・・・!!」

 

 抵抗すればするほど、藻掻けば藻掻くほど、ずぶずぶと清水を呑み込んでいく。腰が沈み、胸が囚われ、首まで達したとき、清水ははっきりと感じた。自分が死ぬという絶望を。

 そして暗闇の中に、清水翔の姿は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 声の消えた学級裁判場は静かで、たった今この場で3つの命が消えたことなど、本当に夢か幻かとさえ思えてきます。それほど私の心が澄んでいるのは、おそらく私がもはや正気ではないからでしょう。

 

 「“超高校級の歌姫”穂谷円加さん。あなたは晴れて卒業となります。おめでとうございます」

 「一つ答えなさい」

 

 建前の意味さえなくした無駄な言葉など聞くに値しません。それよりも、私は知らなければならないことがあるのです。

 

 「本当の黒幕とは、なんですか?本当にそんなものがいるのですか?」

 「いいえ。このコロシアイの黒幕は私だけです。おそらく、清水翔くんが適当に言ったのでしょう。学級裁判を行うには議題が必要ですから」

 「そうですか」

 

 あの清水くんが、駆け引きでハッタリを使うなんて、人の変化は分からないものです。しかしそれがハッタリなら、結構なことです。

 

 「これで心置きなく、貴方を殺せます」

 

 隠し持ったカッターナイフを取り出して向ける。裁判場の照明が反射した刃は鈍い光沢を持って、私の殺意を煽る。

 

 「私は彼らと同じ扱いですか」

 「当然です。貴方がコロシアイなどしなければ、誰も死なずに済んだのです。貴方を殺さなければ、コロシアイは終わりません」

 「そうかも知れませんが、私を殺しては希望ヶ峰学園へどう帰るというのです。自力で脱出できないからこそ、コロシアイと学級裁判が意味を持つのです」

 「鳥木君のいない世界に、私が生きる意味などありません。どうせ病に侵された身。永くない命です。惜しくなどありません」

 「それは困ります」

 

 自分に殺意が向けられていようとも、一切態度を変えずに会話をする。とても理解しがたい精神力です。ですがそんなことはどうでもよろしい。私はここで全てを終わらせるのです。

 しかしそんな私の想いに反応するように、先ほどまで清水君を捉えていた鎖が、私の身体に巻き付いてきました。

 

 「うぐっ・・・!?あ、あなた・・・これはどういう・・・!?」

 「安心してください。おしおきなどしません。放っておいては殺されそうなので、少々手荒ですが取り押さえさせてもらいます」

 「こんなことして・・・!!ただで済むと思っているのですか!!」

 

 ふわあ、と一つ大きなあくび。私がコロシアイを終わらせようとしているときに、『その方』の中では何かが終わっていました。

 

 「落ち着いてください。希望ヶ峰学園に戻れば腕の良い医者もいます。3年の時が過ぎたのです。貴方の病に治療法が確立されているかも知れませんよ。希望を捨ててはいけません」

 「黙りなさい!!私は希望など信じない・・・!!」

 「なんとも皮肉な話ですね。これは希望の、希望による、希望のためのコロシアイだったはずですが。私が“超高校級の希望”を目指せば目指すほど、周囲は絶望していく。不思議です」

 「今すぐこの鎖を離しなさい!!」

 「そうは言っても、卒業生は必ず希望ヶ峰学園に帰す、それがルールです。だからキミを殺すわけにも、殺されるわけにもいかないのです。ご理解ください」

 

 理解などできるわけがありません!ここで殺さなければ、私はなんのために六浜さんを殺したのか分からなくなります!

 

 「心中お察しします。キミの鳥木平助くんに対する執念と愛情の深さには驚かされるばかりです」

 「よくもそんな口を・・・!」

 「それがキミの“才能”と何かしらの関係を持っているのか・・・まだまだ研究する価値がありそうです。何よりキミはまだ生きています。“才能”を行使することができます」

 「・・・!?」

 

 この期に及んでまだ“才能”など!“超高校級の希望”などもはや何の意味も持ちません!私は彼のために殺し、彼のために死ぬことでしか、彼を愛すことができないのです!

 

 「私は、キミの“才能”を観察したいです。キミの“才能”の限界を知りたいのです」

 「くっ・・・!なにを・・・!?」

 「ですから、キミは希望ヶ峰学園に帰るべきです」

 

 それだけ言うと、話は終わったとばかりに『その方』は手を挙げました。鎖に縛られる私に対して、期待とも退屈ともつかない目を向けて、一言言います。

 

 「それでは、穂谷円加さん。ご卒業ならびにご進学、まことにおめでとうございます」

 「はっ・・・?」

 

 パチン、と指の鳴らす音を最後に、私の意識は途絶えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コロシアイ合宿生活』

 卒業生:穂谷円加

 

 【清水翔】 【六浜童琉】 【晴柳院命】   【明尾奈美】

 

 【望月藍】 【石川彼方】【曽根崎弥一郎】 【笹戸優真】

 

【有栖川薔薇】 穂谷円加  【飯出条治】 【古部来竜馬】

 

【屋良井照矢】【鳥木平助】 【滝山大王】【アンジェリーナ】




穂谷が歌ってた歌の歌詞です。英語版は原曲の替え歌です。そのままのメロディーで歌えます。

Lover’s concert 〜レクイエムバージョン〜

How honest is the pain
That falls equally on the deep court
But high upon the ground
There's empty world with the nobody

Oh, she had been bound to kill
The crimes that lost their leader
Some magic from our love
Made them pay for their unmerciful heart

That crimes belong to me
From this day until forever
Just accept The Reaper
And I’ll give to you such a requiem

Oh, don’t to tears for despair
It hurts lonely days without you
Please stay in love with me
Keep this day in our heart eternally

The grief for you shall return
To this soul crazy and sinful
I’ll not fall in despair
Neither get the hope any once again

I'll stay within your love
And say again, again I love you
And if I could see you
Everything will be just as wonderful



 痛みというのはなんと律儀なのだろう
 地下深い裁判場にまで等しく降ってくる
 だけど遥か高くの地上は
 誰もいない空虚な世界

 彼女は覚悟を決めた
 導き手を失った罪人たちを裁く覚悟を
 私たちの愛が為したいくつもの奇跡が
 彼らに己の無慈悲さを思い知らせた

 その罪は私のもの
 今日からずっと、永遠に
 ただあなたたちは死を受け入れなさい
 そうすればレクイエムくらいは歌ってあげます

 どうか私に失望しないで
 貴方のいない孤独な日々が辛くてたまらないの
 私を愛したままでいて
 今日を二人の記念日にしましょう

 貴方を喪った悲しみはまた込み上げてくるでしょう
 この狂気に満ちた罪深い心にも
 私はもう絶望せずに
 しかし希望を抱くこともしません

 私は貴方の愛を捨てたりしない
 貴方を愛していると何度でも言います
 もしまた会えた時には
 すべてが素晴らしく映ることでしょう
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