みこっちゃんとドールんとヅッキー、それからアタシで紅茶を飲みながらクッキーを食べてる。ロリっ娘と真面目ちゃんと不思議ちゃんと一緒に、こんな風にお茶できるなんてマジ夢みたい。こんなカワイイ空間にいられんなら、いっそ学園に帰んなくてもいいかもとか思っちゃったりして。
「このお茶菓子、美味しいですね。六浜さんが焼かはったんですか?」
「いや、食堂の棚にあったのだ。焼きたてのような良い香りがしたものだからな」
「そ、それ大丈夫なんですか?モノクマが何か仕込んだり・・・そうでなくても賞味期限とか・・・」
「だいじょぶっしょ。みこっちゃん心配しすぎ。不安ならおはらいしとけば?」
「陰陽術じゃどうにもなりませんて・・・」
みこっちゃんってばいちいち細かいところまで気にしちゃって、そうやってビビりまくってるところとかもカワイイからいいんだけど。
「では毒が仕込まれていたと仮定しよう。モノクマが多目的ホールで私たちを生かしておきながら、こんな不確定要素に任せた殺害をするだろうか?」
「ヅッキーってばさ、むつかしーことばっか言ってさ。つまりどゆこと?」
「特別な理由がない限り、モノクマが我々に手を出すことはない。生徒手帳のルールにも載っていた、モノクマは基本的に我々に対し無害だ」
「こないなとこに閉じ込めてる時点で無害やない思いますけど・・・」
「そうか。この生活において、が頭に付くな」
なーんかドールんとヅッキーはよく分かんないこと話してる。みこっちゃんは心配しすぎなんだって。そんなに不安になったってどーしようもないじゃん?
「怖かったらアタシのぬいぐるみ抱いとけば?結構寂しさまぎれるよ」
「ご、ごめんなさい・・・。生き物を象ったものはきちんと祓わないと邪魂が宿ります。式神と同じで」
「えーと、分かんない」
「気軽に受け取れない、ということだろう。有栖川はずいぶんとぬいぐるみが好きなのだな。昨日とは違うが・・・いつも肌身離さずなのだな」
「うん。裁縫も、元々ぬいぐるみ作りが趣味だったから自然と身につけたってゆーか?今でも一日一個は作ってるし」
「なるほど。であれば私と同様に、好きこそ物の上手なれタイプの才能だな」
「うむ、実にうらやましい限りだ」
今日はみんなとお茶だから、かわいさ重視でピンク色のポニーのぬいぐるみを持ってきた。中には綿が詰まってるから、ぎゅってするともっこもこでふっかふか。もうなんか、この空間を丸ごとぬいぐるみにしちゃいたいくらい、今って幸せ。
「そーだ!せっかくだからみんなのぬいぐるみも作ったげよっか?」
「いいのか?というか、できるのか?」
「できるできる!アタシを誰だと思ってんのドールん!」
「う、うちのはモノクマみたいな悪霊が憑くと困りますんで、清めた材料でお願いします」
「気にしすぎだ晴柳院」
まあアタシ的にはモノクマもナシじゃないんだけど。みんなのぬいぐるみ作るのなんて朝飯前。まあ丹精込めて作るし、さすがに一日で16個一気になんて鬼畜なことはできないけど。それでも、このみんながカワイイぬいぐるみなってずっとずっと・・・ず〜〜っとアタシのそばにいてくれるなら、アタシはすっごく幸せかな。ま、いまも結構幸せだけど。
「この紅茶ってあの黒人ちゃんが淹れてくれたの?」
「いや、私が淹れた。アニーならばもっと上手くできるのだろうがな」
「身体の内側から温まる。冬場の天体観測は芯から冷えるからな、このようなものがあれば研究も捗りそうだ」
「よければ今度淹れ方を教えてやろう」
「それはありがたい。よろしく頼む」
「みこっちゃん、はいあーん」
「えええっ!?そ、そんなことしてもらわんでも自分で食べられますからあ!」
「テレちゃってかーわーいーいー♫みこっちゃんがクッキー食べるとこ見たいなー」
ドールんとヅッキーが話し込んじゃってるから、アタシはクッキーをみこっちゃんの前に出して口を開けるマネをした。そしたらみこっちゃん、顔を真っ赤にしてキョドっちゃって、今にもイスから転げそう。長くてつやつやした髪の毛とか真っ白な着物がふわふわ揺れて、めちゃくちゃカワイイ。ケータイがあったら動画に撮ってたのに。もっとクッキーを近付けるとそれから逃げるみたいにちっこくなって。ああもう、そんなんなったらガマンできなくなっちゃう!
「ほれほれほれ」
「あうぅ・・・あ、有栖川さん・・・いくらなんでもそれは・・・」
「みこっちゃんのカワイイ顔が見たいからさー♫あーんしてあーん・・・」
子供みたいにぷにぷにしたほっぺにクッキーを押しつけてもういっちょ畳みかける。真っ赤になったみこっちゃんが折れて口を開けようとしたその時、アタシの持ったクッキーが消えた。
「ぱくっ!」
「あん?」
「ふえっ?」
アタシとみこっちゃんのいちゃいちゃを邪魔したのは、ヅッキーでもドールんでもない。横からいきなり現れたそいつは、アタシの持ったクッキーに思いっきり食らいついてた。動物みたいに。ってこんな可愛くない動物がいてたまるかあ!
「な・・・・・・な・・・た、た、た、たたたたたたたたたたたたたきやまああああああああああああああああああああああっ!!!」
「んおっ!?な、なんだよありす!?どうした!?」
こんのアホ猿!!アタシとみこっちゃんの甘い一時を邪魔した上にクッキーまで持ってきやがったな!!アタシが怒るとびっくりしたみたいに目を丸くしたけど、びっくりしたのはこっちだアホ!!
「どうしたじゃねえこの野郎!!何勝手にクッキー食ってんだ!!縫い付けっぞコラア!!」
「おお、一瞬で人類はここまで急激に感情を変化させることができるのか」
「滝山・・・お前はいつの間にここに?」
「なんかいいニオイがしたから。さっきまでずっとあっちの森にいたぞ」
「・・・お前はこの距離でこのクッキーの匂いをかぎ取ったというのか?いくら野生児でも人間に可能な範囲を超えている気がするのだが」
ドールんが滝山に呆れた顔して、ヅッキーはアタシの顔みて驚いたっつーか感心したっつーかそんな感じの顔して、みこっちゃんはビックリしすぎてなにがなんだか分かんないって顔してるし!!っつーか全部滝山のせいじゃん!!ふざけんなこの猿!!
「あ、そうだありす!おまえふくとか上手なんだろ?森の中うろついてたらふくぼろぼろになっちゃってさ−。なおしてくれよ。ほら、パンツまで糸がちょろってなっちゃっててさー」
「んなっ!?た、たたたたたたたきやま貴様ァ!!女性が4人もいる前で下着姿になるとはどういう神経をしているんだ!!」
「あ、あのう・・・単にこの状況を分かってない思うんですけど・・・」
「は?なんだよろくはま」
何考えてんだこいつ!!アタシに服のことで頼ってくるのは億歩譲っていいとして、なんで今ここで上着とズボン脱ぐんだよ!!元から裸同然のかっこしてっけどこれは完全にアウトだろうがああああああああああああっ!!!
「く、くるな!くるなああああああっ!!はうううううううううううううっ・・・・・・!!?」
「六浜さんがああ!?」
「動揺のあまり脳の処理限界を超えたか」
「失せろ変態!!いやじっとしてろ!!縫う!!」
「な、なんか分かんねーけどヤバそーだな・・・にげる!」
「待てコラァ!!!なにみこっちゃんやヅッキーやドールんにきったねえモン見せてくれとんじゃあ!!腸の代わりに綿詰めて穴という穴縫い付けてやるから覚悟しろやあ!!!」
「有栖川薔薇は野生児に走行速度で敵うと思っているのだろうか」
「望月さん!六浜さんを医務室まで連れてくん手伝うてくださいよぉ!」
お茶くらいゆっくり飲ませろや!!!
長考に好手なし。長考するということは、相手がそれだけの時間を使って先手を読めるということだ。長考した時点で、この局は決したも同然。一瞬で戦局を俯瞰し、恐れず踏み出せば、少なくとも敵に呑まれることはない。
「ううん・・・」
「これ以上は無意味だな」
「・・・やはりそうでしょうか」
盤面に並んだ駒は全て敵の王を討たんと槍頭を向ける。しかし既に鳥木の兵は負け戦に臨む敗軍、歩兵にすら怯える金将はあまりに矮小だ。鳥木は深くため息を吐いて頭を下げた。たとえ取るに足らない相手だったとしても、棋士として、対局相手に敬意を欠かすことはあってはならない。
「参りました」
「・・・」
「リョーマ、ヘースケ、どっちが勝ったの?」
「古部来君が。勝てるとは思いませんでしたが、ここまで圧倒的だとは・・・。ご期待に添えず申し訳ありません」
「へえ。リョーマ、強いのね」
「将棋で凡人に負ける棋士なんて、哀れ以外の何者でもありませんもの。当然です」
勝敗が決するや、アニーがコーヒーを持ってやってきた。調理場で昼食の準備をする穂谷たちが、俺と鳥木の対局が終わったことを察して様子を見に来た。見せるような局ではなかったが。
「リョーマはチェスもできるかしら?ワタシとやりましょう」
「ふん、お前と真っ当な局が指せるとは思えん。それに、俺は将棋にしか興味がない」
「敵前逃亡ですか?」
「好きにとらえろ」
やはりこいつらと指すより、俺の棋譜を詰めた方が力になる。鳥木がこの程度となると、他に相手になりそうな奴はいるだろうか。
「六浜・・・あるいは曽根崎」
あの騒がしい緑色はなかなか目敏く、理解が早そうだ。予言者とまで呼ばれる六浜ならば、あるいはまともに指せるかも知れない。
「・・・」
棋譜を頼りに過去の俺と将棋を指す。最大の敵は己自身、まさにその通りだ。過去の俺だけが唯一、俺と対等に指せる。過去の俺を超えた時、俺はまた一歩、目指すべき高みへと近付ける。
「何か思い入れでも?」
「?」
「そのペンダント」
無意識のうちに、俺は首に下げたロケットペンダントの先を指先で弄っていた。いつからだったか、集中しようとする時にはこうするようになっていた。よく気付いたものだ。
「和装にペンダントですか?似合いませんね」
「角の駒ね、結構古いものね」
「・・・古くて当然。俺の棋士たる証だ」
「あかし・・・つまり、大切なものってことね。どういうものなの?」
そう言ってアニーは自分の手にはめられた指輪をなでた。それにどんな意味があるかは知らんが、俺のこれと同じく何か思い入れのある物なのだろう。それをわざわざ尋ねるほどの興味は湧かん。
「父と俺にとっては縁深きもの、父が愛用していた駒だ」
「確か、古部来君のお父さんも有名な棋士でしたね。相当な段位であったはずですね」
「古部来角行、七段だ」
「まさに筋金入りの棋士ということじゃな!」
父は確かに立派な棋士だった。俺に将棋とは何たるかを教授してくれた、敬い尊ぶべき先人だ。既に俺の実力が父を超えたことは、過去の対局で証明された。だが所詮、そんなことは盤の上の話でしかない。敬うということに、棋士としての段位は関係ない。こういうことを言うと、いつも意外な顔をされるのだがな。
「パパからのプレゼントなんてステキじゃない。うらやましいわ」
「尊敬し、目標である人から託された物だ。プレゼントなぞの軽いものとは違う」
「アニーの指輪もプレゼントなんじゃないの?」
「ええ。でもパパからじゃなくて・・・大切な人からのなの」
「ええっ!?なにそれなにそれ!大切な人って誰よアニー!誰からもらったのそれ!」
一瞬にして場の空気が変わったのを感じた。それまでの集中に適した張り詰めた空気とは一転し、石川とアニーの喧しい雑音ばかりが耳障りに響く。
「大切な人ってもしかしてアニーの彼とか」
「やだカナタったら!そんなのじゃないわ!」
「じゃあ誰からもらったのよ!教えなさいアニー!」
「そ、それは・・・教えてあげない」
「え〜!なに恥ずかしがってるのよ〜!」
俺は棋譜と駒をしまって盤を持って席を立った。ここにいては将棋を指すどころではない。やはり馬鹿が近くにいると俺の思考まで鈍る。自分の部屋で一人で指している方がマシだ。
『コロシアイ合宿生活』
生き残り人数:残り16人
清水翔 六浜童琉 晴柳院命 明尾奈美
望月藍 石川彼方 曽根崎弥一郎 笹戸優真
有栖川薔薇 穂谷円加 飯出条治 古部来竜馬
屋良井照矢 鳥木平助 滝山大王 アンジェリーナ
ダンガンロンパのタイトルって、普通の時は(非)日常ってついて事件が起きると非日常になって、コロシアイ生活の中でも殺人は非常事態だって意味合いを感じるけど、案外みんな簡単に人殺すよね