【清水と望月の場合】
2月14日は、世間一般でバレンタインデーというイベントが執り行われている。外国の風習を自分たちに都合良く解釈して導入する日本らしく、このバレンタインデーも本来の形からは大きく離れているらしい。誰が何の意図でその様に改変を加えたかは私の知るところではないし、別段興味もない。だが、女子たちは平常時より興奮気味にチョコレート菓子作りに興じていたため、私もその輪に加わることにした。
「で、なんで俺の部屋に来てんだよ」
「私は廊下で済ませてもよかったのだが、部屋にあげたのは清水翔の方だろう」
「アホメガネがうろついてんだろ」
「曽根崎弥一郎にやり取りを目しされることで不都合が生じるという論は導き難いが」
「冗談じゃねえ。あることねえこと言いふらされるだろ」
「私との会話が流布されることは不都合か?」
「…もういい、用はなんだ」
私は背に隠したケースを両手で差し出した。こうすることで渡される相手は喜ぶのだと、石川彼方に教わった。
「そういうのは無表情で流れるようにやることじゃねえぞ」
「そうなのか」
「なんだこれ」
「勘違いしないでよね。別にあんたのために作ったわけじゃなくて、みんなで作ったやつの余りなんだから」
「取りあえず言えばいいってもんじゃねえぞ。なんだ?模型か何かか?」
「マシュマロやベビーカステラを、カラーチョコと練乳や生クリームなどを混ぜたクリームでコーティングしたものだ。惑星に見えるように石川彼方にあしらってもらった」
「お前にしちゃ凝ってると思った」
「題してチョコレートプラネットだ」
「クソくだらねえわ」
「では渡したぞ」
「いやちょっと待て。お前、なんで俺にこれ渡した」
「バレンタインデーは好きな人にチョコレートを渡す日なのだろう」
「…好きな人ってのはどういう意味だ」
「任意の相手」
「んなこったろうと思った」
有栖川薔薇はそう言っていたのだが、どうやら私の解釈は誤りがあったようだ。清水翔が言うには、この場合における好きな人とは任意の人物ではなく、好意を寄せる相手という意味らしい。
「ほう」
「っつうわけだ。ホラ、これ持ってどっか行け」
「……ではやはりお前に渡そう」
「なんでだよ」
【古部来と六浜の場合】
希望ヶ峰学園にいる間も、各自の才能の慎重のために課外活動は特に推奨されている。古部来のような場合は、テレビ大局に出演すれば才能研究だけでなく学園の宣伝にもなることになるので、一石二鳥だ。私は学園側の代表として、対局が行われている旅館に来ていた。相手は古部来より段位が上のベテラン棋士。熾烈な攻防が盤上で繰り広げられ、食事休憩を挟む。古部来は注文したカツ丼を平らげると、懐から何かを出した。ヤツには似合わないかわいらしい色合いのラッピングが施されたあれは…!?
「ほあっ!!?」
対局が行われたのは2月13日。明日は世に言うバレンタインデーだ。1日早いとは言え、このタイミングであんな意味ありげなラッピングからチョコレートが出てくるとは…!実を言うと、古部来はテレビにもときどき出演しているせいか学園内外にファンがいる。超高校級なのだからそれ自体はあまり珍しいことではないのだが、いかんせんモテる。年下やお年を召した方からの評判はすこぶる良い。ああいう贈り物があってもおかしくはない。おかしくはないのだが…。
そこから先の対局は、糖分を補給した古部来がお得意の奇策と心理的駆け引きで勝利した。だがそんなことはどうでもいい。対局が終わって学園に帰る道中、古部来を問い質した。
「まずは勝利だな。おめでとう、と言っておく」
「あの対局の何がめでたいものか。俺を侮り序盤から本気を出さなかったヤツの自滅だ。棋士道精神の欠片もない」
「ところでだ。お前、休憩中にチョコレートを食べていたな。あんなかわいらしいラッピング、まさか自分で買ったわけでもあるまい」
「…自分で、買った」
「嘘を吐け」
「嘘と断じる根拠がどこにある」
「自分でチョコを買うことこそあれ、あんなラッピングをするわけがないだろう。況してやお前が」
「巷は浮かれきっているからな。勝手にラッピングされた」
「あるかそんなこと。そもそもラッピングされるような店で間食用に買うヤツがあるか」
「貴様には関係ないだろう」
「反論を止めたな?」
「不毛だからだ」
「誰からもらったのか言え」
「断る」
「断るな」
「頑として断る」
「学園に着くまで終わらんぞ」
「学園に着くまで断り続ける」
「そこまで言いたくないのか…!まさか…!」
「…」
頑なに質問に答えることを拒む古部来は、それ以上何も言わなかった。これはまずい…!いや、別に何もまずくはないのだが、私は焦っていた。なぜ焦っているのか。古部来に誰がチョコを送ろうと、私には関係のない話…それは分かっているのだが、どうにも捨て置けん!!
そういうわけで、モノクマを呼び出してチョコレート菓子を作る設備を整えさせた。ぶつくさ文句を言っていたが、有栖川が多目的ホールに特設キッチンを設営するよう要求したのを皮切りに、女子全員があれやこれやと注文を付け始め、しまいにモノクマは尻を叩かれヒィヒィ言いながら一晩で創り上げた。
料理経験はあまりないがレシピなら頭に入っている。知識の限りを振り絞って、市販のチョコレートを溶かし、なんとなく将棋の駒に見える形の型に流し込んでいく。固まったものを丁寧にラッピングし、やっと出来上がった。いざ手に持つと、これを手渡ししなければならない実感が湧いてきて途端に顔が熱くなってくるが…。ええい、ままよ!
「おい古部来!」
「しつこいな貴様は。答えんと言っているだろう」
「そうではない。その…しょ、将棋を指すのは、頭をつ、使う、だろう。の……脳の活動は多量の糖分を必要とするが炭水化物は糖分摂取の効率はいいが腹に溜まって一度に量が摂れん糖を直接摂取する方が効率的かもしれんと思ったのだがチョコレートなどがうってつけだろうちょうどここにチョコレートがあるのだが(一息)」
「チョコレートを渡すのならあれこれ御託を並べるより、拙くも簡潔に渡す方がよっぽどマシだな」
「むぐぐ…す、素直に受け取れんのか貴様は!人が恥を忍んで渡しているのにだな!」
「フンッ」バリバリ
「まったく…ん?なんだこの手紙は」
「むっ?ぬあっ!おいやめろ読むな──!!」
『竜馬へ。今年もお母さんから一足早いバレンタインのチョコレートを贈ります。うちには大量のチョコが贈られてきて、お弟子さんたちは毎日鼻血が止まりません。お父さんは私があげたもの以外には手を付けようとしないので、お母さんは嬉しいやらお弟子さんたちに申し訳ないやら、複雑な気持ちです。竜馬もお父さんに似て、特別な人のチョコしか食べようとしないから、早くお母さん以外にチョコを食べさせてくれる人を探してね。イケメンに産んであげたんだから、探すまでもないと思いますけど。おほほ』
「…!」ボフッ
「くっ…不覚…!」
大遅刻ですが、バレンタインSSです。
当然ですが、本編とは何の関係もありません。
遅刻した割りには大して甘くもねーな。