ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

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第二章「能ある故に爪は尖る 後編」

 

 こちらは、『ダンガンロンパQQ』の解説になります。

 本編を読了していることを前提に執筆しているため、本編についてのネタバレが多分に含まれています。

 まだ本編を読まれていない方はご注意ください。

 

 「めっ、みなさんこ──」

 

 「お待ちなさい。今、貴方噛みましたね。やり直し」

 

 「…ミナサンコンニチハ。ダンガンロンパQQカイセツ──」

 

 「なんですかそのロボットのような喋り方は、スマートに始めなさい。はいもう一度」

 

 「みなさん、こんにちは。ダンガンロンパQQ、解説編、第二章──」

 

 「そんな途切れ途切れでは何を言っているのか分かりません。やり直し」

 

 「あ、あのぅ穂谷さん。そこまでこだわらなくても、普通にするっと始めるんじゃダメなの?」

 

 「何を言い出すかと思えば、その頭の中には小籠包でも詰まっていますの?或いは潮風にいたんでしまいましたの?」

 

 「今のそこまで言われなきゃいけないくらいの失言だった!?」

 

 「この私が、わざわざこんな狭くて暑苦しくて埃臭いスタジオに来ているのですよ。そして解説編などという無茶ぶりに応じているのですよ」

 

 「ここスタジオだったの…?なんか前々回あたりからどんどん世界観が出来上がっていってるような気がするんだけど。あとこの解説編って無茶ぶりなの?僕は一応、打ち合わせしたことになってるんだけど…」

 

 「それはそれとして、貴方には話を始めるセンスがありませんね」

 

 「話始めるセンスってなに!?僕のコミュ力を雑に否定しないで!」

 

 「せっかく私がワールドツアーから戻って来て、うるさいマスコミやパパラッチの魔手をかいくぐってここまで来たというのに、なんですかその中途半端な始め方は。私に無礼だとは思わないのですか」

 

 「穂谷さんに無礼っていうか、穂谷さんのキャラがブレてるとは思ってるかな…あと世界観」

 

 「何を言っているのかよく分かりませんが、とにかく私が解説編を担当する以上は私の構想通りにしてもらいます。異論はありません」

 

 「いや異論あるかは聞いてよ!勝手にないって決めつけないで!」

 

 「いいから貴方はこの解説編をきちんと始めて、趣旨をきちんと説明して、その上で私が指示した通りに動けばいいのです。お魚さんばかり相手にしているのだから、こうして頭を使う機会でもないと困るでしょう」

 

 「全然必要ない一言でディスられた!それはもう毒舌じゃなくてただの暴言だからね!?横暴が過ぎるよ!」

 

 「横暴といえば、このような組合わせにした作者の横暴も許してはおけません。なぜ私が貴方となのですか」

 

 「あ、それはなんとなく聞いてるよ。残りのメンバーを見たときに、もうここくらいしか組み合わせてイメージが浮かぶ組がなかったんだって。もちろん、鳥木くんとの回も用意してるって」

 

 「鳥、ま、まあそれはいいでしょう。ええ、やはり彼でないと、私の指示を完璧にこなしてはくれないでしょうから」

 

 「なんでそこで照れるの。そんなの余裕じゃないの」

 

 「照れていません。貴方はさっさと解説編を始めなさい」

 

 「はあ…というか、まだ自己紹介もやってないじゃないか。本当にさ穂谷さん、もうこれ以上引き延ばしたらみんなにしつこいと思われちゃうって」

 

 「だからそれは貴方が挨拶を完璧にこなさないからでしょう。やればいいのですやれば」

 

 「もう…。はい、改めてみなさんこんにちは、ダンガンロンパQQの解説編、第二章後半を読んでいただいてありがとうございます。僕は今回の解説を担当する、“超高校級の釣り人”こと笹戸優真です。よろしくね。それから一緒にやるのはこの人」

 

 「ごきげんよう。“超高校級の歌姫”、穂谷円加ですわ」

 

 「この二人で、伏線とか小ネタとか裏設定とか、色んなことをお話していくね。でぁっぞよろ」

 

 「お待ちなさい。もう一度はじめから」

 

 「ごめんなさい!ホント勘弁して!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「で、さっきの謎の日本語は一体なんだったのですか。いえ、日本語かどうかすら疑わしいほど意味不明でしたが」

 

 「『どうぞよろしくお願いします』と『ではよろしくお願いします』が混ざって、ちょっと言葉が口の中で渋滞しちゃって…」

 

 「一体何にそこまで緊張しているのやら、皆目見当が付きませんが、せっかくこの私と一緒に解説ができるのです。もっと楽しそうにしたらいかがですか」

 

 「プレッシャーの大半は穂谷さんが原因だよ…。さっきみたいに間違えたらどうしようってもう既に気が気じゃないよ」

 

 「いいえ、私は始まりさえ整っていればいいのです。人間だれしも間違いはあるもの、いちいち訂正していてはキリがありません。それらを包み込む度量なくして、人の上に立つ者は務まりません」

 

 「はあ…いつから穂谷さんが人の上に立つ者になったんだろう、って思ってます」

 

 「その代わり、先ほどのような醜態、具体的に言うと噛む・飛ぶ・どもるなどは、しっかり記録に残ってしまうので、緊張感はゆめゆめなくさないよう」

 

 「そういうのがプレッシャーなんだってば!というかなんなの!?ここに来るとみんなキャラちょっと変わるの!?穂谷さんってそんなSっ気ある感じだったっけ!?」

 

 「というより、貴方が被虐気質なのでしょう。幼い顔立ちですし、身体も小さいですし、言葉使いもなんとなく。だからついいじ、もとい強めに接してしまうのです」

 

 「いじめられっ子タイプってことだよねそれ。うん、なんとなくそれは自覚してるからいいよ。でも僕これでも腹筋割れてるからね!?身体強いんだからね!やらないけど清水くんになら僕きっと勝てるよ!やらないけど!」

 

 「可愛らしい顔をして隆々だと気持ちが悪いですね。どちらかにしてください」

 

 「そんなこと言われても…釣りって結構体力要るから、鍛えないと大物釣るのも危ないんだよ。逆にこっちが海に引きずり込まれないように、身体を固定するグッズとかもあるんだから」

 

 「うふふ、すごいですね。笹戸君と話していると知りたくもない知識がどんどん増えていきます」

 

 「それホメてないよね?穂谷さん僕には何を言ってもいいって思ってない?」

 

 「まさか。私が口を慎む方など、ビジネス上そうする必要がある方だけです。なぜ私がスポンサーでもパトロンでもない貴方を気遣わねばならないのですか?」

 

 「心底不思議そうな顔をして言うのやめてよ…。“超高校級”の人たちってクセが強いし、僕もそれなりに一般人とは違う部分あるなあとは思ってるけど、穂谷さんのそれはなんか僕らと次元が違うんだよ」

 

 「そうですね。私を3次元だとしたら笹戸君は0次元くらいでしょうか」

 

 「ただの点じゃないか!」

 

 「貴方ごときが面積を持てると思わないことですね」

 

 「存在ごと否定された!そこまでのギャップは感じてないよ!」

 

 「はあ、笹戸君、貴方は先ほどから何のお話をされているのですか?こちらは解説編なのですよ?いつまでも無駄なおしゃべりをしていないで、解説に移らないと。責任を果たす努力をしてください」

 

 「ええ…穂谷さんがそれを言うの?うん、まあ分かったよ。僕たちは第二章『能ある故に爪は尖る』の裁判編からおしおき編までを解説するんだったよね」

 

 「朝方からお昼にかけての裁判です。それに朝ご飯を食べ損ねていたので、早く終わってほしかったです。もっとも、裁判の後にご飯を食べる気になど到底なれませんが」

 

 「そうだよね…そういえば滝山くんも捜査のとき元気なかったけど、本当はみんなお腹ペコペコで裁判をしてたんだよね。倒れる人が出てきてもおかしくなかったのに」

 

 「そこまで細かいことを作者さんは考えておりませんもの。やたらと威勢の良い方々もいましたし、私たちのお腹の具合など、満たされているべきとき満たされていて、空いているべきとき空いていればいい、くらいの認識なのでしょう」

 

 「うん、ストーリーにそこまで関わってくる部分じゃないし、僕はそれくらいの認識でいいと思う」

 

 「興味なさげですね。私が話しているのです。もっと興味を持って然るべきではありませんか」

 

 「本編に関係あることならまだしも、特に決めてもないような設定については別に触れなくていいかなって。それより、学級裁判が始まるんだから解説しようよ」

 

 「…笹戸君に主導権を握られるのは癪ですが、私を上手にエスコートできるというのであれば、それも良いでしょう。では今回の解説編、笹戸君主導で進めていきますので、何かあった場合は全て笹戸君が責任を取るということで」

 

 「ぬるっと僕1人に責任を押しつけないで!」

 

 「まずは死亡推定時刻のお話からですね。モノクマに話題を振られています。モノクマが学級裁判の流れを指示したのは、後にも先にもこの時だけですね。何故この時に限ってこんなことを?」

 

 「二回目だからじゃないかな。最初の裁判のときは、何から話していいものやら全然分からなくって、議論がいきなり停滞してたからね。モノクマの目的は学級裁判で僕たちがお互いに疑心暗鬼に陥って、糾弾しあったり裏切りあったり絶望したりすることだから、裁判自体が止まるのはモノクマにとっても困ることっていう」

 

 「三章以降は、もう三度目なのだから自分たちでできるでしょう、ということですか。そうですか」

 

 「何も言ってないのに納得してくれた。でもそういうことだと思うよ」

 

 「バリスタさんが殺されたのが夜中だということは確定しています。そしてあの望月さんの証言がここで重要になるのですね。たった1人で夜通し天体観測なんて、ご自分が殺されていても文句の言えない状況だというのに、のんきなものですね」

 

 「それ本編でも散々言われてたから…望月さんはそういう部分がもう完全に駆けてるんだよ。危機意識っていうか、感情全般が」

 

 「ものを客観的に述べる割には、自分の状態を客観的に評価することができないという。なんとも矛盾した方ですね」

 

 「人間味のなさの演出の1つだから…。それを言ったら穂谷さんだって、毎朝早起きしてたり頻繁に薬を飲んだり、あとずっと薄ら笑いをしてたりで、人間味がないわけじゃないけど、浮き世離れしてる感じはあったよ」

 

 「それはもちろん、私は浮き世離れした存在ですから。奇跡の歌声などと呼ばれることにも飽いて、今はただ謳うことそれだけで大いなる価値を生み出す歌姫ですから」

 

 「雑誌やテレビで見てるときは、もっとお淑やかで上品な人だと思ってたのに、やっぱり“超高校級”の人たちってクセが強すぎるよ」

 

 「貴方にそれを言われたくはありません。そうやって今は大人しくしていますけれど、化けの皮を剥がせばよっぽど強烈なのは貴方の方ですよ」

 

 「僕はそこまでじゃあ…強烈なんて言われるほどのことはしてないよ。うん、ちょっと地味なくらい」

 

 「自覚がないというのは恐ろしいものですね。ダントツとは言いませんが、トップクラスにネジが飛んでいるでしょうに」

 

 「なんのことか分からないけど、僕が主役になるのはもっと後のお話だから、今は深くは触れないよ。それより裁判の話をしようよ。望月さんの証言から、犯人が夜通し資料館にいたんじゃないかって推理になってるね」

 

 「個室の扉は放置すると開く造りになっていますからね。裁判中は何度も言及されていますが、普通固執の扉は放っておけば閉まる造りにしておかなければいけないのではありませんか?プライバシーポリシーがなっていませんこと」

 

 「うん、どっちもあるんだけど、今回の裁判で争点になったみたいに、自然に開く造りにしておくと、中に人がいるかどうかが一目瞭然でしょ?だから人が取り残されるのを防いだり、こそこそイケないことする人がいないようになってるんだ。それに、後から来た人が使ええる個室がいくつあるかも、見てすぐ分かるしね」

 

 「なるほど、合理的ですね。ですが今回の場合はそれを逆手に取られてしまったということですか」

 

 「カッコイイ言い方をすれば、その場にいなかったように偽装するんじゃなくて、その場にいたように偽装する逆アリバイトリックって感じかな。そして早朝に食堂に行って敢えて望月さんに会うことで、朝に資料館にいなかった、つまり犯人じゃなかったってことをアピールしたんだね」

 

 「衝動的犯行のような描かれ方をしていますが、案外狡猾に行動しているではありませんか。目論み通り、疑惑が犯人を除く3名に向いています」

 

 「清水くんと明尾さんと古部来くんだね。清水くんはすぐに疑惑が晴れたけど、後の2人はアリバイもないし、まあ最初の段階じゃあ怪しまれても仕方ないかな」

 

 「淡白な物言いですね。古部来君はともかく、明尾さんは貴方が仲良くしてもらっていた数少ないお相手でしょう?」

 

 「僕そんなにコロシアイの中で孤立してなかったよ…明尾さんはやたら僕を誘ってくれたけど、滝山くんとか晴柳院さんとか飯出くんとか、僕も色んな人と仲良くしてたんだよ」

 

 「あら、前2人はさておき、飯出君ですか?そんな描写ありましたか?」

 

 「いや本編だとあんまりなかったんだけど、一応そういう設定としてね。それこそ数少ないアウトドア系の“才能”同士で、僕と明尾さんと飯出くんの話したりしたんだよ」

 

 「笹戸君にアウトドアという印象はありませんね。お休みの日は部屋に籠もって絨毯のささくれを直す作業に耽っていそうです」

 

 「何そのイメージ!?陰気なのかもよく分からないしそんなの耽ったことないよ!」

 

 「あとはお菓子作りでしょうか」

 

 「地味さと派手さが極端だなあ。なんで僕がお菓子作りするのさ。何を作るのさ」

 

 「ニシンのパイでしょうね」

 

 「お菓子ではないよねそれ」

 

 「孫に嫌われているとも知らずにせっせと焼いて、それを幼気な少女に孫の元まで運ばせていそうです」

 

 「その映画、僕も見たことある。話がそれそうだからむりやり元に戻しちゃうけど、ここまででまず犯人候補は明尾さんと古部来くんの2人に絞られたわけだ。本編ではかなりの文字数を使ってそこまで行き着いているけど、短く解説するとこんなにあっという間のことなんだね」

 

 「学級裁判の進みが遅いのは致し方ないことでしょう。全員が互いを疑い、持ち合わせた情報も個人差があり、最終的に命を懸けているのです。慎重になるのも当然です。さらに言えば、あっさり終わってしまうと盛り上がりに欠けます」

 

 「最後のは作者さんの声だよね!?でもまあ、クライマックス推理でもちょっと肉付けして事件全体を振り返ってるのを考えると、ずいぶん色んな回り道やミスリードがあるんだね。ただ真相を明らかにしていけばいいだけじゃない。うん、学級裁判って奥が深いよ」

 

 「一見無意味に感じるやり取りにも、きちんと意味があるのです。無意味であることに意味がある、ということですねそれでは皆様ごきげんよう」

 

 「待って待って帰ろうとしないで!席を立たないで!」

 

 「なんですか。いまキレイに締めたではありませんか」

 

 「キレイに締めたら帰れるルールじゃないからね?」

 

 「そうなのですか?しめた、と思いましたのに、2つの意味で」

 

 「そんな無駄に上手いこと言わなくていいから、きちんと最後までいてよ。まだ裁判も始まったばかりなのに、ここから僕1人でお送りしなくちゃいけないなんて気が遠くなるよ」

 

 「そんなに長いのですか?裁判の前編の半分は、およそ今まで話した内容ですよ」

 

 「うん、だから裁判についてだけ話すと、本当にあっという間に終わっちゃうんだ。だから、事件の裏で起きてたこととか、設定の裏話とかで話を膨らませていくんじゃないか」

 

 「裁判と同じで、こちらの解説編でも意味のある無意味なやり取りをしなくてはならないのですか」

 

 「それは言わないであげてよ、この二章の学級裁判には、絶対話しておきたいエピソードがあるんだから」

 

 「はあ、そこまで仰るのなら、その絶対に話さなくてはいけないエピソードに耳を貸すことも吝かではありませんが。お聞かせなさい。その絶対に話せば盛り上がるエピソードを」

 

 「どんどん変わっていってるよ!そこまで言われると大した話じゃない気がしてくるからプレッシャーかけないで!」

 

 「どうせ本当に大した話ではないのでしょう」

 

 「うぅ…話しづらいことこの上ないよ。あのさ、穂谷さんはQQの声劇企画があったのって知ってる?」

 

 「もちろんです。あの伝説の企画倒れでしょう」

 

 「倒れてる時点で伝説もなにもないと思うけど…で、あのね、この鳥木くんと古部来くんの反論ショーダウンも一時声劇になったんだ」

 

 「まあ、そうですか。企画倒れとは言いましたが、一部現実になっているのですね。声を当てて頂いた方には、きちんと相応のお礼をしたのでしょうね」

 

 「それが、どっちも作者さんが声を当ててね」

 

 「は?なんですかそれは。それは声劇ではありません。ただ作者さんが自分で書いた文章を自分で演じながら読み上げるただの(ピーッ)です」

 

 「びっくりした!!穂谷さんそんなこと言う人だっけ!?」

 

 「どうせ伏せられるのですから何を言っても構わないでしょう?」

 

 「僕は伏せる間もなく直で聞いちゃってるよ…。うん、まあ穂谷さんの言うことも正しいは正しいんだけど、声優さんの募集であまりにも男子の声が集まらなくて、やけくそになってやったものだから…許してあげてよ」

 

 「そうですね。女子ばかりが集まったと聞いています。特に六浜さんの希望が多かったとか」

 

 「その六浜さんの演じ方も色々だったよ。王道にクールで凛とした感じの声もあったけど、なんか小さい子みたいな声の人が多かったんだって」

 

 「それはむしろ晴柳院さんの方なのでは?六浜さんにそんな幼い声は似合いませんでしょう」

 

 「まあ正解はないから。イメージCVも決まってないんだし僕たち。一応作者さんの頭の中に響く声はあるみたいだよ。どんな声って言われると説明できないけど…とにかく似合う声が」

 

 「最近は声つきの創作論破も多くなってきているようで、新しいものがどんどん増えていますね」

 

 「文章だけじゃなくって、漫画や映像なんかでも創作論破が楽しめるようになって、間口が広がった感じがするよね。敷居は高いままな感じがするけど」

 

 「最後まで完結させるというのが最も難しいことなのです。笹戸君には見習ってほしいものですね」

 

 「え?僕なにか途中で投げ出したっけ?」

 

 「途中で投げ出したというより、自分はさっさと退いて押しつけたと言いますか」

 

 「なんのことか分かんないなあ」

 

 「ええ、いいですとも。貴方の行いはいずれこの解説編でも裁かれるでしょうから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ずいぶん裁判の話から遠のいちゃったけど、今どの辺かな?」

 

 「古部来君によって密室トリックの存在が明らかにされた場面ですね」

 

 「密室トリックかあ。推理小説なんかじゃ定番だけど、色んなパターンがあって結構作りやすいんだよね。シチュエーションさえ先に用意しちゃえば、後はどうにでもなるっていうか。ある種、犯人にとってのご都合主義みたいなところは否めないけどね」

 

 「それを言っては元も子もないでしょう。犯行が失敗して未遂に終わるミステリーなど、ただただ気まずいだけではありませんか」

 

 「うん、読みたくないねそんな話…。でも今回の密室トリックはちゃんと成功したよ。靴の中敷きをドアに噛ませて、ドアを閉まった状態で固定するんだね。とっさの犯行にしては考えたよね」

 

 「まず靴の中敷きを使おうという発想に至りません。こういうトリックはどうやって思い付くのです?」

 

 「密室トリックだから、やっぱり外から内鍵をかける仕掛けか、ドアを固定する方法を考えるよね。鍵をかけると、今回みたいに自然に開くってことにならないから、死体発見や犯人の特定の仕方が大幅に変わるんだ。ドアを固定するやり方なら、途中でその仕掛けが解除されてドアが開いちゃうってことができるから、死体発見がスムーズにいくんだよね。だから今回は後者を採用しました」

 

 「ふむふむ」

 

 「で、ドアを固定するには内側で何かをストッパーにするか、ドアの隙間にものを噛ませて摩擦で固定するか、それとも金具部分を固定するかになるんだよ。もちろん最初のは、ドアが開いた時に一発でバレるからなし」

 

 「そうですね。明らかに怪しいですし」

 

 「残りの2つのどちらかで迷ってるときに、靴の中敷きを使ったトリックを思い付いたからそうしたんだ」

 

 「いきなり結論が出ましたね」

 

 「何か噛ませるならゴム製の薄っぺらいものっていう条件があるからね。靴の中敷きなら処分も簡単かつ、指摘されたら言い逃れできない証拠にもなる」

 

 「思いつきにしてはよくできていますね。いえ、自画自賛というわけではありません」

 

 「それを言うことで自画自賛感が強まるよ」

 

 「それ以外の必要なカッターナイフや本の栞をその場で調達できたのは、犯人にとっては幸いだったでしょう。思い付いても実行できないという悲しいことにならなくてよかったですね」

 

 「そこはほら、ご都合主義だから」

 

 「結果だけ見てみれば、朝までドアが閉まっていて朝食時には開いていたのですから、直感的に犯人がその前後に移動したと考えるのが普通です。そこを密室トリックなどと言って別の可能性を持ち出してくる古部来君は、聡いというより大胆ですね」

 

 「一応、彼の中で筋は通ってるみたいだよ。自分が殺したしたいと一晩一緒にいるなんて絶対イヤだもんね」

 

 「考えたくもありませんね」

 

 「だからやっぱり犯人は夜のうちに密室トリックを仕掛けて部屋に戻ったっていう方向で話が進んでいくんだね。さらっと望月さんの監視をすり抜けられてるのも、ご愛敬ってことで」

 

 「そもそも監視を目的としていないのですから、闇に乗じて寄宿舎を出入りするのも簡単ではないかと」

 

 「そうなんだよね。望月さんはそもそも夜空の方を見てるわけだから、寄宿舎の入口なんかこっそり出入りし放題なんだ。だけど、曽根崎くんはそこに疑問を持ったみたいだよ」

 

 「よくもまあこう、的外れな推理をおおっぴらに話すことができますね。恥ずかしくはないのでしょうか」

 

 「学級裁判は的外れしないとホントすぐ終わっちゃうから…まあ普通それは僕みたいな脇役の仕事で、主人公はそれを指摘して正しい推理を展開していくものなんだけどね」

 

 「望月さんが犯人であれば、そもそも監視自体を意味をなさないという主張ですね。この時点で彼は冷静に考えなかったのでしょうか?天体観測なんて見え透いたウソで夜中のアリバイが立証できると、望月さんが考えたはずがない、と」

 

 「人がどう考えるかなんて、学級裁判の場では何の保証もないよ。どんだけ突拍子もないことも、生き残るためだったらってやる人が出てくるんだから」

 

 「それもそうですね。貴方を見ていると本当にそう思います」

 

 「望月さんが疑われる流れになりそうなのを、清水君が颯爽と助け船を出す!でも実はそれさえも曽根崎くんの計算で、こういう議論の流れになることを予想して敢えて望月さんを疑うような疑問を呈したんだよね」

 

 「私はもうすっかり忘れてしまいましたが、それに意味があったのでしょうか?」

 

 「実際、事件のあった夜に、1人外に出てた望月さんが一番怪しいのは疑われて然るべきだけど、ちょっと考えればすぐに犯行ができないことが分かるでしょ?ポイ捨て禁止のルールもあるし。だからあらかじめ犯人の逃げ道を潰しておくのと、分かってない人のために確認の意味でかな」

 

 「でしたらそう言えばいいのに。敢えて一度ノンストップ議論を挟む必要もないでしょう」

 

 「それはほら、盛り上がり的に…っていうかそれも本編の中で解説してるけど、いきなり曽根崎くんが言っても信じられないでしょ、そんなこと。だから、敢えて間違ったことを言って他の人に指摘されることで、みんな受け取りやすくしたんだよ」

 

 「なるほど、確かに彼がまっとうなことを言っても、裏があるのではないかと勘ぐってしまいます。普段の行いのせいですので、申し訳ないなど欠片も思いませんが」

 

 「回りくどいように見えて、曽根崎くんの巧みな話術にみんな乗せられちゃってたんだね。さすが“超高校級の広報委員”だよね。ホント、彼が犯人にならなくてよかったよ」

 

 「犯人ではありませんでしたが、独特の胡散臭さのせいで存在そのものが議論を乱していましたが」

 

 「そこまで悪影響は出てなかったよ!?うん、でも三章の裁判での曽根崎くんの活(暗)躍とか、六章で秘密が暴露されるときなんかは、敵なのか味方なのかあやふやなところだったよね。」

 

 「立場のはっきりしないトリックスターでしたね。作者さんはお気に入りだったようですが」

 

 「そうだね。トラブルメーカーでもありギャグもシリアスもいけて、取りあえず痛い目に遭わせておけばオチる、便利なキャラだからね」

 

 「貴方とは大違いです」

 

 「穂谷さんも人のこと言えないでしょ…」

 

 「私はそれも自負しておりますので、問題ではありません」

 

 「いや問題でしょ!そもそもクセが強すぎるのがどうしようもなく問題でしょ!そんなこと言ったらみんなだけどさ!」

 

 「“超高校級”と呼ばれるだけの技量を身につければ、自ずとそれ以外のことで不具合が生じるということですね。天は二物を当てずとはよく言ったものです。私の場合は例外だったようですが」

 

 「うん…そうだね。そういうところが穂谷さんらしいっていうことなんだよね」

 

 「どういう意味ですかそれは」

 

 「黙秘権を行使するよ」

 

 「黙秘すること自体が、腹に一物抱えていることを暗に示しているのではありませんか?それはもはや、質問によっては自白に等しい行為にもなりえるのではありませんか?」

 

 「そんなこと僕に聞かれても…でもそれはそうだと思うよ。僕らも何回か裁判を経てきたから、黙ると余計に怪しく感じる気持ちは分かる」

 

 「逆に曽根崎君のように無駄によく喋る人も、まあ怪しいと言えば怪しいですが、無口な人よりも耳を傾けようという気にはなりますね」

 

 「だから、望月さんの容疑を晴らしておくっていう、一見回りくどいやり方をしたのも、曽根崎くんなりの戦略だったんじゃないかな。彼は初めから犯人の見当がついてたみたいなことも言ってたし、牽制的な意味で」

 

 「最後まで敢えて犯人を名指ししなかったのも、始めに言ってしまうと犯人の印象よりも、それをいきなり指摘したことへの疑問の方が大きく、意味をなさないからでしょうね。どこまで計算ずくで動いているのでしょう」

 

 「ホント、六浜さんと曽根崎くんと古部来くんが組んだら誰も言い逃れなんかできないよ。おそろしい…」

 

 「まったくもってそうですね(棒)」

 

 「だからこの先は曽根崎くんの進行で話が進むよ。次は凶器の話」

 

 「このようにテーマをはっきりさせると、裁判をする側としても、それを見る側としても分かりやすくていいですね」

 

 「うん、作り手的にも話題が絞られるのはすごくやりやすいってさ。テーマがぐらつくと論理に一貫性がなくなっちゃうからね。えーと、アニーさんの死因は絞殺だったから、紐状のものが何かっていう話だよね」

 

 「机の上にテグスが落ちていたのでそれが凶器…安易といえば安易ですが、まずはそこから話し始めるのが基本でしょうか。確かにテグスは人を吊すぐらいならわけなくできる強力なものもあります」

 

 「でもこれ、二階の楽器置き場の弦楽器から犯人が取ってきたダミーなんだよね。ホントこうして見ると、なんというか1人の人がやった犯行とは思えないね」

 

 「それほど切羽詰まっていたということでしょう。それに裁判の大詰めで明らかになる犯人ですが、非常に情緒不安定で感情が安定していませんでした。多重人格とはまた違いますが、コロコロ考えが変わるという点では、ここでも多少その傾向が表れているのでしょう」

 

 「このテグスで…うぅ、僕に疑惑が向いたときは本当に怖かったよ…」

 

 「釣り糸にテグスを使っているのだから当然でしょう」

 

 「だから僕の釣り糸はテグスじゃなくって、生分解性プラスチックでできた環境にやさしい釣り糸なんだってば!千切れやすいし割高だけど…」

 

 「でもその経費も希望ヶ峰学園に負担させているのでしょう?」

 

 「まあね。えへへ」

 

 「ちゃっかりしていますね。わざわざ環境に配慮するくらいなら、初めから釣りで魚を苦しめることもないでしょうに」

 

 「うーん、でも環境に興味を持ったのって釣りがきっかけだし、それに釣った魚は基本的にリリースして生態系も維持できるようにしてるし、あくまでスポーツとして釣りをしてるだけさ」

 

 「私には分からない世界ですね」

 

 「今度、みんなでマス釣りにでも行こうよ。きっと楽しいよ」

 

 「丁重にお断りいたします」

 

 「全然丁重じゃない感じで断られた!」

 

 「ともかく、その千切れやすい素材を使っていることで容疑を逃れるわけですね。何がどうつながってくるか分かりませんね」

 

 「そういう伏線もきちんと日常編で張ってるよ。僕が晴柳院さんと滝山くんに塩饅頭食べさせられたときに」

 

 「貴方がムリヤリ食べたのでしょう。塩分過多で肝臓を壊してしまいますよ」

 

 「大丈夫。海水よりは甘かったから」

 

 「せっかく作ったお菓子を海水と比べられてマシだと言われても、晴柳院さんもうれしくないでしょう」

 

 「でもまあ正直、失敗作だし」

 

 「おや、笹戸君が皆さんから疑われて失禁している間に」

 

 「してないよ!失禁は!」

 

 「私の見せ場ですね。それにしてもテグスの使い道を釣り糸にしか見出せないとはどれほど芸術に造詣がない方々なのでしょうか。楽器置き場もあるというのに」

 

 「バイオリンの弦が切られてることに気付くのなんて、本当に穂谷さんくらいにしか無理だよ…っていうかG線って言われてもよく分かんないよ僕らは」

 

 「G線上のアリアをご存知ないと。なんと哀しい貧しい暗いさもしい人生なのでしょう」

 

 「曲知らないだけでそこまで!?逆にどんな影響力あるのその曲!?」

 

 「クラシックのお話で言えば、V3の赤松さんとは楽しいお話ができそうですね。いえ、正確に言えば“超高校級のピアニスト”の赤松楓さんとですが」

 

 「意味深な感じで核心に触れるのやめてよ!笑顔が怖いよ!」

 

 「唐突にネタバレを踏んでしまえばいいと思います」

 

 「どうしたの急に!?黒いところ出てるから!僕と穂谷さんが両方黒いところ出たら終わるからこの回!耐えて!」

 

 「それから笹戸君。訂正するのも呆れてしまいますが、ヴァイオリンです。BではなくVです」

 

 「また細かいことを…ヴァイオリンね。それにしてもさ、会話の流れ上。穂谷さんははじめからあのテグスが凶器じゃないと分かってたって感じだよね。だったら何が凶器だと思ってたの?」

 

 「ロープのようなものなど、寄宿舎やキッチンからいくらでも調達して来られるでしょう。あの個室に隠されているとは思いもしませんでしたので、見当もついていませんでした」

 

 「それでよくあんなどっしり構えてられるね」

 

 「女性にどっしりとなどと言うものではありませんよ。淑やかにと言いなさい」

 

 「ごめんなさい…まともに怒られちゃったね。でもね、僕思うんだけど、個室にあって紐状のものってまで言われたら、そりゃヘッドフォンコードが凶器かなって思うけど、古部来くんはどうやってその結論に達したんだろう」

 

 「こうして俯瞰的に裁判の流れと、彼の発言を見て見ると、よく分かります。先ず紐状のものということは明らかですが、犯人がどうやってそれを調達したかということを考えます。どこかから持ってきたのであれば、これは計画的な犯行です。つまり相応の偽装工作などを用意してきているはずです。ですが彼は既に証拠品から、犯人が慌てていたことを見抜いています。そこから個室かその周囲に凶器になるものがもともとあったと結論づけたのでしょう」

 

 「な、なるほど…穂谷さん、すごいね」

 

 「私もそれなりに頭の回転が早いという設定ですから」

 

 「設定って言っちゃうんだそこ」

 

 「ですが恐るべきは、これを頭の中で一瞬にして組み立ててしまうことです。六浜さんと違って情にも流されず、曽根崎君と違って無駄なおしゃべりをしない。犯人にとって古部来君ほど厄介な飽いてはそういないでしょう」

 

 「だからこそ…おっと、ここから先はネタバレだね」

 

 「ずっと思っているのですが、この期に及んでQQのネタバレなど気にする必要があるのでしょうか」

 

 「一応ね、一応。頭の回転が早いって話だけど、六浜さんと古部来君がトップで曽根崎君や穂谷さんが次点だとすると、そこから後はどうなってくるんだろう?」

 

 「鳥木君や望月さん、屋良井君、明尾さんと続くでしょうね。そこから後は似たり寄ったりではないですか?飯出君と滝山君はお話にならなさそうですが」

 

 「意外と屋良井くんも頭良いんだよね。明尾さんも、あんな性格だけど学者だから頭も使うし、鳥木くんはきっと地頭がいいんだろうなあ」

 

 「望月さんに至ってはほぼドーピングのようなものですが。それでも天然ものの頭脳に勝てていないあたり、なんとも言い難いですね」

 

 「頭の良さで言ったら、清水くんは主人公だけどどうなんだろう」

 

 「彼は平々凡々、或いはそれ以下であることが重要なのでは?“超高校級”であることを捨てたのですし、時折知性の足らない発言もあったでしょう」

 

 「あったね。原作と他の創作論破の主人公も平凡だとはいえ閃きの力でなんとかやっていけてる人がいる中で、清水くんって僕たちみたいなその他大勢と同じくらいの知力しかないんだよね」

 

 「よくもまあ最後まで生き残ったものです」

 

 「ちょっと意味わかんない」

 

 「とはいえ閃きの力もないわけではないようです。ヘッドフォンコードを見抜いたりと、裁判の要所要所では彼なりの活躍が見てとれます。曲がりなりにも主人公の端くれであるのは伊達ではない、ということですか」

 

 「その言い方、すごいギリギリで主人公っぽいね」

 

 「ギリギリでしょう」

 

 「ギリギリだね。ギリギリといえば、今回の犯人もかなりギリギリのラインでトリックを仕掛けてたよね。成立するかしないかのギリギリで」

 

 「そうですね。密室トリックを仕掛ける割には細かな証拠品の隠滅方法が雑だったり、アニーさんがDVDを見ているところをいきなり襲われたように偽装しているのに凶器を現場に残していたり、支離滅裂です」

 

 「でも支離滅裂だからこそ、犯人像をぼかすことはできたみたいだよね。何がどう転ぶか本当に分かんないもんだなあ」

 

 「そうですね。個室のゴミ箱に捨てあったティッシュの量から、部屋にいた人数を割り出したりというのも強引かも知れませんが、確かに意外な証拠品です」

 

 「この辺の、曽根崎くんと六浜さんのやり取りはスルーするべき?」

 

 「それを問うことすらすべきではありません」

 

 「あっそう…で、ティッシュで何を拭いたかっていうことと、モノクマファイルの記述から、犯人が泣いてたってことまで突き止めるんだよね。でもそれって、事件の真相を明らかにする上で必ずしも必要なことだったのかな?」

 

 「何を言うのです。犯人が泣いていたということから、古部来君が推理をしているではありませんか。もうとっくに分かっていることを焼き直すように、自信満々得意気ドヤ顔で宣っているではありませんか」

 

 「穂谷さんは古部来くんに何か恨みでもあるの!?そういえば2章の裁判中も2人が対立する場面があったし、日常編でも2人が絡んでるところなかったような気がする…え、ほんとに嫌いなの?」

 

 「嫌いというか、住む世界が違いますでしょう。彼は可rで私のような華やかで煌びやかな世界にいる人間に興味はないでしょうし、私の方もお互いに盤を見つめ合ってたまに駒を動かす退屈なお遊びには興味など持てません」

 

 「あの、対比の仕方にものすごく悪意と偏見を感じるんだけど…でもその通りかもね。僕は合宿場に来たときから穂谷さんとか鳥木くんのことは知ってたけど、古部来くんが知ってたのは六浜さんと清水くんくらいだったもん」

 

 「方や生徒会役員、方や大問題児、興味がなくとも情報が入ってくる人だけですね」

 

 「穂谷さんははじめの段階で知ってた人っていたの?」

 

 「私はそもそも学園にあまりおりませんでしたから。鳥木さんのことは小耳に挟んでいた程度ですが、それ以外の方は全く知りませんでした」

 

 「そう考えると鳥木くんの知名度すごいね…僕たちの中で元から彼のこと知らなかったの、古部来くんと滝山くんと望月さんくらいだと思うよ。望月さんは知らなかったのか忘れたのか分からないけど、それにしてもだよ」

 

 「合宿においてそれぞれに課せられていた“超高校級の問題児”たる問題は、彼は一体なんでしたっけ?」

 

 「出席日数と学園内での無許可の営利活動。これだけ見ると普通の不良学生みたいだね」

 

 「不良どころか、彼ほど真面目な人は私たちの中にはおりません。その出席日数というのは私もよく分かりますが、無許可の営利活動というのは何のことでしょう」

 

 「たぶん、マジックでもしてお金稼いでたんじゃないかな?鳥木くんの性格からして勝手にやるとは思えないんだけど…」

 

 「やむにやまれぬ事情があったのでしょう。彼の実家は裕福とは言い難いですから、経済面で苦労するのは明らかですからね。学生をしながらマジシャンとして稼いでいくのですから、多少学生生活がおろそかになるのは仕方がないことだとは思いませんか?」

 

 「庇うね」

 

 「庇っているのではありません。事実を述べているだけです」

 

 「ツンデレ?」

 

 「ツンのないデレです」

 

 「それただデレデレなだけじゃん…よく自分で言えるよねそういうこと」

 

 「貴方こそ、晴柳院さんには相当入れ込んでいるのではありません?デレデレというよりもふひふひ言ってそうですが」

 

 「僕そんなイメージあるの!?そんな鼻息荒くしてるような!?」

 

 「陰湿ではありますね」

 

 「うぐっ…言葉が刺さる…!あ、問題で思い出したけど、穂谷さんっていま2年生だけど、年でいったら僕たちと同い年なんだよね」

 

 「ええ、出席日数があまりにも足らず留年になりました。些細なことです。どうせ学費は税金で大幅に補助されているのですから、私の懐は全く痛くありませんもの」

 

 「納税者の皆さんの怒りが伝わってくるよ…やめてよそういうこと言うの!穂谷さんが言うと僕たちみんなそう思ってると思われるんだから!」

 

 「ご安心なさい。表向きにそんなことは言いません。むしろありがたく頂戴して畏れ多い姿勢で享受している感じを出します。余計な火種を撒くべきではありませんから」

 

 「その二面性を知られた方がよっぽど炎上すると思うけど」

 

 「所詮、炎上だなんだと言っても、根本の感情はひがみか虚しい正義感でしょう。せいぜい正義を振りかざした気になってご自分を慰めさせてあげればいいのです。人を貶める正義ほど虚しいものなどありませんから」

 

 「それを堂々と言えたらいいよね。言いたいことも言えないこんな世の中じゃポイズンだよ」

 

 「急にボケをぶっこまないでください。私は今回ツッコミ側ではないので、対処しかねます。笹戸君は今回のご自分の役割をもっとよく考えるべきです。基本的に解説編は進行役と茶々入れ役がいるのです。私と笹戸君のどちらが進行役かなど、考えるべくもないことでしょう。ご自分の役を全うなさい。私にお茶の1つでも淹れなさい」

 

 「ちょっとふざけただけなのにすごい怒られた!ごめんなさい!って茶々入れ役!?そんな役割はないよ!2人で進行と解説をやろうよ!せめて解説役はしてよ!」

 

 「割としています。割と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えーっと、何の話だったっけ?どこまで裁判は進んでたっけ?」

 

 「古部来君が、もうとっくに分かっていることを焼き直すように、自信満々得意気ドヤ顔で宣っているところまでです」

 

 「言い方に悪意と偏見があるよ!ってこの流れさっきと同じだ!えっと、そうだね。古部来くんが改めて、今回の事件が突発的犯行だっていうことを確認したところまでだったね。その後はどういう流れになるんだろう」

 

 「分かり切った結論に辿り着いてしまったので、話が一区切りしました。次の話題になります。鳥木君がMr.Trickyになって、捜査中に不可解に感じたことをお話しています」

 

 「ああ、そうだったそうだった。確か、アニーさんの指輪が自然に落ちちゃって、それがおかしいって言ってたんだよね。うん、確かに指輪が自然に落ちるなんておかしい」

 

 「繰り返さなくとも、普通指輪は自然には落ちないものです。作者が指輪をしたことがないからといって、強調しなくても心配いりません」

 

 「女の人ならまだしも、男の人で指輪をすることなんて、それこそ婚約指輪くらいしかないよね。自然に落ちないことは分かっても、ゆるい指輪が不自然なのかどうかっていうのは分からないよ」

 

 「不自然でしょう。常識的に考えて。明尾さんに指摘されてしまったことは不快ですが、彼女にとって彼の指輪がとても大切なものであったことは間違いありません。そもそも指輪を贈るほどの人が、彼女の指のサイズを間違えているなどあり得ませんでしょう」

 

 「指輪を贈るってすごいことだよね。それぐらいアニーさんのことを大事に思ってる人がいるなんて…僕もやってみようかな」

 

 「貴方に指輪を贈られても晴柳院さんは喜ばないでしょう。そんな呪いのアイテムのようなもの」

 

 「変な怨念込めないよ!っていうか晴柳院さんに贈るなんて言ってないじゃん!」

 

 「他に誰に贈るというのですか。いいですか。好意があるなら隠さず行動に移しなさい。思っているだけで気付いてもらえると思ったら大間違いですよ。自ら相手に伝えるのです。相手の迷惑も考えずに言っておしまいなさい。拒絶されたらそれまでです。受け入れられたらラッキーくらいに思っていればいいのです。そんな気持ちを抱えたままもやもやし続ける方がよっぽど気持ちが悪い。伝える以外に選択肢などないのに、後先考えてどうするのですか」

 

 「な、なんかガチ説教が始まった…じゃ、じゃあ後で晴柳院さんに」

 

 「後で、は絶対やらないに等しいのです。今しなさい。携帯を出しなさい。電話をかけなさい。想いを伝えなさい」

 

 「何その展開!?急に何の火が点いたの穂谷さん!?」

 

 「告白してしまって、一度きちんとフられてしまえば踏ん切りもつくでしょう」

 

 「フられる前提で話さないでよ!いやきっと晴柳院さんのことだからはっきりとフったりはしないと思うけど!」

 

 「それもそうですね。これは笹戸君も問題ですが、晴柳院さんの態度も問題ですね。見ていて非常にイライラします」

 

 「イライラするの!?穂谷さん相性悪い人多くない!?」

 

 「生まれる時代が早すぎたようですね」

 

 「時代のせいじゃないと思うけど…えっと、話を戻すね。指輪がもともとアニーさんのものじゃないって分かったから、じゃあ元の指輪はどこに行って、今の指輪はどこから持ってきたのって話になってるよ」

 

 「古部来君は愚かにも、楽器のパーツを使って指輪代わりにしていると主張してきました。そんな都合良く指輪の代わりになるようなものがあるわけがないではありませんか」

 

 「いやよく知らないからそう思うのも無理ないよ。資料館の中で探したらそこ以外はなさそうだし、むしろ穂谷さんはよくスプーンリングなんてものを知ってたね」

 

 「ボランティアで作ったことがありますの」

 

 「えっ、ボランティア?穂谷さんが?」

 

 「なぜそんなに意外そうなのです。私はもともと世界中を回っているのは、各地の貧困層の子どもたちに援助をするためもあるのですよ」

 

 「そうだったの!?やりたくてやってたんじゃないんだ!!」

 

 「どちらかと言えばコンサート周りのことの方が憂鬱でした。現地のお偉方と御食事に行くことが最もやりたくありませんでした。第二位はファンの方々との交流会。三位は打ち合わせです」

 

 「いやなランキング聞いちゃったなあもう!僕、穂谷さんのファンじゃなくてよかったって心から思うよ。幻滅したくないもん」

 

 「イマジンブレイカーですね」

 

 「その幻想はぶっ壊さないであげて!“超高校級の歌姫”らしくいて!」

 

 「らしく、ですか。私はその言葉が嫌いです。女らしく、歌姫らしく、“超高校級”らしく、穂谷円加らしく…らしさとはいったい何なのですか?それは貴方が勝手に私に頂いている願望であって、私の本質と必ずしも同じではないはずです。むしろ異なっていると考えるべきでしょう。貴方に私の何が分かるというのですか!」

 

 「ヒステリー起こさないでよ!僕はもう穂谷さんのこと1ミリも分かる気がしてないから!」

 

 「…失礼しました。私、知ったような顔をされることがとても嫌いですので」

 

 「誰でもそうだと思うけどね。あと今穂谷さんが言った、らしさって何、ていう疑問ってこの章に結構関わってくるんだよね。自分って何だろうっていう部分」

 

 「そんな哲学的なメッセージが、本当に込められているのですか?」

 

 「いやそこまでがっつり盛り込んであるわけじゃないけど、でも今回のクロの動機ってそういう部分が大きいじゃん。“超高校級”であるために何をすべきか、どうあるべきかっていうこと」

 

 「彼女なりの答えが、今回の殺人というわけですね。まったく、モノクマの言葉をそのまま借りることになるのは気に入りませんが、希望たらんとして絶望するとはなんとも皮肉な結果ですね」

 

 「絶望的だよね…まだ学級裁判の途中で、いずれこの話をまたしなくちゃいけなくなることももうなんか憂鬱だよ」

 

 「それは職務放棄ですか?」

 

 「話を大きくしないで!気持ち的に暗いだけでやることはやるから!」

 

 「でも話を大きく膨らませないと持たないのでしょう?裁判も、解説も」

 

 「僕が言ってるのは大事にしないでってこと!さっきからちょいちょい穂谷さん、僕のこと陥れようとしてない?してるよね?」

 

 「滅相もありません。これ以上笹戸君の名誉に傷付けてももう落ちようがありませんから」

 

 「僕いつの間に落ちるところまで落ちてたの?」

 

 「笹戸君、貴方のような方にもプライドはあると思いますが、あまり名誉を気にしすぎるのは小さい人間と思われますよ?小さいですよ?」

 

 「不必要に名誉を傷付けられたらそりゃ気にするよ!あと小さいって言わないで!身長気にしてるんだから!」

 

 「確か笹戸君は、私たちの中では2番目に小さいのでしたね」

 

 「晴柳院さんの次ね。でも二作目でスニフくんが登場したから、もう男子最小じゃないんだ!背の順で前に倣えできるんだ!」

 

 「小学生より背が高くてはしゃぐ高校生というのも痛々しいですが…それに彼は成長したらきっと貴方の背丈は優に超えてくるでしょう」

 

 「でも今は僕の方が高いもん!それでいいんだい!」

 

 「笹戸君の器の小ささはさておいて、こんなことをしている間に裁判はどこまで進んだでしょうか?ああ、ちょうど屋良井君が、犯人の動機について話始めたあたりですね。スプーンリングの件がまるまる終わりました」

 

 「自分の活躍シーンなのにこんなに淡々と進行する人はじめてだよ…。アニーさんがスプーンの1本までこだわる人だったからっていう件も割と大事なのに…」

 

 「“超高校級”なのですから、こだわりというのは大事です。彼女がそれほど細かいことにまでこだわるタイプとは、裁判まで思いもしませんでしたが」

 

 「アニーさんの場合、こだわってはいるけど自分の基準に合わせるより相手に合わせそうだよね。その人の好きに飲むのが一番おいしい飲み方とか言いそう」

 

 「ブラックコーヒーを注文しておいてミルクと砂糖をどっさり入れたりしたら、さすがに怒るでしょうか?」

 

 「そりゃ怒るよ…なんで一回ブラック淹れさせたって話になるじゃん…」

 

 「彼女のこだわりが強すぎるあまりに起きた、悲しい事件だったわけですね…」

 

 「今のタイミングでそれを言うと、アニーさんが犯人みたいになるけど違うからね。アニーさん被害者だからね」

 

 「指輪の話から派生して、なぜ彼女が殺されたのかという点の議論になってきましたね。だから屋良井君も、そんな根本から論じる必要があるとしたわけですか」

 

 「というよりも、自分の導きたい結論を出すためにそんな問題的をしたっていう方が正しいかな?自分の秘密を知られたから殺したって推理は、今回の動機の配り方じゃ考えにくいもん。それでもそんなことを言ったのは、屋良井くんの中で望月さんが相当怪しかったからだと思うよ」

 

 「誰が誰の秘密を握っているか分からない状態で、それを唯一知ることができた者が怪しい。その心当たりがあったからこそ、そういう結論に至る疑問を出したと。いつからチャンスをうかがっていたのか知りませんが、ある種の議論誘導の真似事をされてしまうとは、侮れませんね」

 

 「屋良井くんって、それこそ六浜さんや古部来くんや曽根崎くんの陰に隠れてるけど、結構頭が切れるキャラだからね」

 

 「陰に隠れているのではなく、敢えて陰に潜んでいるのでしょう。いい加減な風を演じているのも、この裁判の先を見ているからでしょう」

 

 「そ、そう考えると屋良井くんって怖いね…。同じ合宿場にいたのが、今更ながらゾッとするよ」

 

 「何度も言いますが、どの口が言いますか」

 

 「ここで望月さんと黒幕の繋がりを仄めかしてるのは、後々の伏線になってるのかな?」

 

 「そうですね。黒幕と望月さんに直接のかかわりはありませんが、部分的にかかわりがあると言えなくもないですから。ですがまあ、内通しているという類のものではないので、単なるミスリードに過ぎないのではないでしょうか」

 

 「敢えて『黒幕かどうかは断言できないけれど、犯人じゃないことは確実』って言い方になるのはやっぱり望月さんが黒幕の関係者なんじゃないかって言及しておきたかったからだよね。うん、ボクたちの中で一番謎が多かったのも、望月さんだし」

 

 「謎が多いというより、謎が核心に迫りすぎていて解明が遅くならざるを得なかっただけでしょう。六章まで彼女の正体は謎のままでしたから、自然とそう感じるだけですよ」

 

 「そうなのかなあ」

 

 「そうです。さ、そうして伏線という名の寄り道が済んだ後は、いよいよ古部来君が恥を忍んで密室トリックの解明に乗り出しました」

 

 「だから必要以上に各方面を攻撃するのはやめてってば!古部来くん恥なんて思ってないって言ってるじゃん!」

 

 「恥を感じない人間などいるはずがないでしょう。恥とは、耳に心と書きます」

 

 「だからなに!?上手いこと言えないんだったら余計なこと言わないでよ!」

 

 「ですから、余計なことでも言わないと間が持たないのでしょう」

 

 「もう十分持ったから!作者さんの悪い癖がまた出てるんだよ!」

 

 「悪い癖とは?」

 

 「こういうシリーズもの書いてると、一本あたりの文字数が徐々に伸びてっちゃうクセ。最初は一万字くらいを目安にしてたのに、いつの間にか一万字を超えてからが勝負みたいな感じになってるんだよ!もうこれ今何字!?」

 

 「そうね、だいたいですね」

 

 「そっちじゃないよ!」

 

 「一大事の方でしたか?」

 

 「曲中のコール&レスポンスじゃないよ!そんなボケする人だったっけ!?」

 

 「ですからこうでもしないと間が持たないのでしょう」

 

 「だからいらないんだってば…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何の話だったっけ?」

 

 「密室トリックを解明しようかというところです」

 

 「ああ、そこね。この密室トリックは、QQのトリックの中じゃ割と現実味のある方だと作者は勝手に思ってるよ。扉にものを噛ませて固定するっていうのは、生活の中でない場面じゃないからね」

 

 「密室トリックとは言ってもいくつかバリエーションがありますからね。誰も中の状況を窺えない厳密な意味での密室。そこを密室だと思わせるフェイクの密室。空間的に隔たれてはいないものの物理的に到達不可能な事実上の密室。今回はフェイクですね」

 

 「一口に言っても色んな方法やパターンがあるんだね。奥が深いよ」

 

 「ですがあまりトリックにこだわりすぎるのもいかがなものかと思いますよ。ゲームやアニメなどのヴィジュアル媒体ではなく文字なのですから、トリックよりも人物の心理描写に重きを置いた方が媒体の強みを活かせるのではありませんか?」

 

 「それもそうだけどね。QQは割とねっとりと心理描写はしてるよ。基本的に主観だから、適切な表現かどうかは微妙なところだけどね」

 

 「だから文字数が多くなってしまうのです。無駄に」

 

 「無駄って言わないで!」

 

 「このトリックの要となる靴の中敷きを閃いたのは、そこはやはり主人公、清水君ですね。それくらいの役回りがないと、彼は裁判中わめきにわめいて拗ねるだけのお荷物ですものね」

 

 「辛口だね。うん、でも今回の学級裁判は穂谷さんも活躍したし、活躍度で言えば穂谷さんの方が上かもね。僕は相変わらずあわあわしてるだけだよ…」

 

 「笹戸君はついぞ活躍らしい活躍をすることがありませんでしたね。二章では雑に容疑をかけられていますし、二章ではやっとやる気になったかと思いきや大して何かしたわけでもありませんし」

 

 「うぅ…返す言葉もないよ」

 

 「マスコットならマスコットらしく、媚びの1つでも売ればいいのです」

 

 「僕にそれは荷が重いかなあ…晴柳院さんにお任せするよ」

 

 「さて、靴の中敷きがトリックに使われていると分かれば犯人が決まるのは早いです。私たちの中でスニーカーを履いているのは、清水君、笹戸君、明尾さん、石川さん、屋良井君ですね。後の方はブーツやローファーやハイヒールや下駄や草履など、滝山君にいたっては裸足です」

 

 「その中で、事件現場に一番乗りした人と言ったら、朝食のときに飛び出した石川さんと清水君のどちらかしかいないもんね」

 

 「清水くんはずっと石川さんのことをバカ女なんて呼んでるけど、自分の仕掛けたトリックが解除されてて、その原因と対策を一瞬で閃いて、なおかつ一緒に来た2人に怪しまれないよう自然にやるって、石川さんってかなり機転が利くんじゃないかな?」

 

 「どうでしょう。私の見る限りでは清水君が石川さんを呼ぶときのバカには、特に悪意以外の意味はないように思います。石川さんも、閃いたというよりはそうするより他に考えつかなかったという方が正しいのでは?」

 

 「まあ中敷きが見つかった時点で即アウトだから、自分の身体で隠そうとはすると思う。誰だってそうする僕だってそうする」

 

 「それが結果的に犯人として疑われるきっかけになってしまうのですから、何がどう転ぶか分からないものです」

 

 「追い詰められて情緒不安定になる石川さんは、見ててなんだか…悲しかったよ。曽根崎くんの言葉に全部込められてるかな。『これ以上、“超高校級のコレクター”のキミが堕ちていくのを見たくないよ』って」

 

 「“超高校級”であろうとしたために犯したことで、“超高校級”に相応しくない醜態をさらすとは、なんとも皮肉がきいていますね」

 

 「おしおき編で詳しく語られる内容にはなるけれど、前々からこういう展開はあってもいいと思ったんだよね」

 

 「といいますと?」

 

 「誰しも、“超高校級”の肩書きには少なからずプライドや執着があるものでしょ。それが奪われることになるのを、それこそ石川さんみたいに極端に怖がる人もいるんじゃないかなって思ってたんだ。だから、二章はこういう展開になったんだよ」

 

 「『能ある故に爪は尖る』というタイトルですね。これは語感といい意味合いといい、実に巧みにできていますね」

 

 「また自画自賛した!正直言うと、この章のタイトルが一番最初に閃いて、そこからことわざもじり縛りが生まれたんだよね。なんでこのタイトルを思いついたんだっけ?」

 

 「それはあれです。天啓です」

 

 「覚えてないんだね」

 

 「もう何年も前のことですから。ですが、このタイトルはいまだに作者の中でトップクラスのお気に入りですよ。“才能”という部分に強く焦点を当てたものはあれど、それを理由に犯行に及ぶというのは、当時の作者の知る中ではありませんでしたから」

 

 「もちろん、QQより先にそういう話を作った人もいるだろうけどね。良いアイデアは被るものなんだ」

 

 「ちなみに私は歌姫として生きていけなくなったら人生終わりだと思っていますが、笹戸君はいかがですか?」

 

 「さらっと重いこと言ったね。僕はまあ、もともと釣りをやっててそれがたまたま認められただけだから、“超高校級”じゃなくてもいいかな。呼ばれないよりはいいけどね」

 

 「貴方のその余裕のちょっとでも石川さんにあったら、こういう事態にはならなかったでしょうに。アニーさんもバリスタとして夢はお持ちなようですが、“超高校級”の称号にはさほど執着はないご様子です」

 

 「あれ?いつの間におしおき編の解説に行ってたの?」

 

 「ぼーっとしているからです。アニーさんの秘密が明かされる件ですよ。こういった、いわゆるキャラクターの裏、というものは最近の創作論破、企画論破ではありきたりになっていますね。人死にくらいは平気であります」

 

 「う〜ん…どんな層の人が見てるか分からないからあんまり安易にものは言えないけれど、確かにそれは言えてるかも。裏ってそういう暗い過去のことばかりじゃないよ!っていうのを僕は言いたい!」

 

 「ははあ」

 

 「要するに人には見せない部分でしょ?だったら弱みでも秘密でもいいじゃん!変に陰惨で残酷な設定にしなくたっていいんだよ!むしろ他人からしたら、え?そんなことで?くらいのきっかけでとんでもない人格が出来上がったりした方が怖いから!」

 

 「貴方が言うとそれなりに説得力がありますね」

 

 「それなりじゃなくて十分に説得力は込めたつもりだけど」

 

 「きっかけは分かりませんが、貴方のお好きな狛枝凪斗なんかは良い例かも知れませんね。内容が突拍子もなさすぎて理解が追いつかないような」

 

 「あれはうん…まあ」

 

 「歯切れが悪いですね」

 

 「別に僕は狛枝先輩がすきなわけじゃなくて、狛枝先輩の生き様に共感しただけだから。さすがにあそこまでねっとりこってりはできないしなりたくない。っていま僕、ほぼ答えなくらいのネタバレをしたね」

 

 「ですから、気にしなくていいのですよ。どうせ本編を読んでいないとさっぱり分からないことばかりなのですから」

 

 「それもそっかで、アニーさんの裏だけど、QQの仲では一番重たいんじゃないかな。故郷も家族もいない、自分の名前も分からない、おまけに元奴隷って」

 

 「企画論破では中の下くらいではないでしょうか」

 

 「企画の話はもういいから!他の人の過去を軽視するわけじゃないけど、戦争とか人身売買とか、現代の闇をぎゅっと詰め込んだような内容で、リアルに重いよ」

 

 「一応有栖川さんや曽根崎君の過去でも人が死んでいますし、本人は把握していませんでしたけれど清水君や望月さんの過去もなかなかですよ。過去らしい過去が明かされていない方も多いですが」

 

 「そんな過去を持ちながらも、ああいう性格でああいうポジションにいられるって、アニーさんって聖人かなんかなの?もしかして僕たちの中で一番希望に近い存在って、アニーさんなんじゃないの?」

 

 「落ち着きなさい。それ以上は貴方のキャラクターの根幹がブレてきますよ」

 

 「それに対して石川さんの、欲望に正直なこと。本当に、希望を求めるからこそ生まれてしまった絶望、だよ。皮肉だらけだよ、この事件は」

 

 「モノクマの動機があったとはいえ、完全に自分勝手な理由で人を殺したわけですから、周囲からの目も冷ややかです。その上、彼女のあの生き汚さです。ドン引きですね」

 

 「清水くんに“超高校級”のことなんて分からないだろって吠えるところとか、おしおきを免れようとモノクマに土下座するところとか、QQの他のクロに比べて石川さんは死にたくないっていうのを前面に押し出してるよね。だからこそ人間臭さがあるっていうか」

 

 「これは作者の趣味ですか?」

 

 「そう言われるとなんだか違うように見えてくるけども…原作では最終的におしおきを受け入れてる人が多かったから、それに対して『そんなわけないだろ!これくらいやるだろ!』っていうのを言いたかったんじゃないかな。アニメの桑田先輩は思わず裁判場から逃げようとしてたけど、あんなもんじゃないと」

 

 「それだけの覚悟を持って凶行に至ったかどうかの違いでしょう。計画犯であれば、少なからずこういう可能性も事前に考えられるわけですから」

 

 「んで、その後に原作3作目の同じく2章のクロに上をいかれるという」

 

 「あのシャウトでもともと好きなキャラだったのが、より一層好きになったと。やはりこれは作者の趣味なのでは?」

 

 「否定できなくなったね」

 

 「そして、いよいよおしおきです。動機、トリック、タイトルと作者のお気に入りばかりが並んでいますが、おしおきの方はいかがなのですか?」

 

 「うーん、6点(10点満点中)!」

 

 「高いのか低いのか微妙なのですが」

 

 「平均7点だよ」

 

 「平均を割っていますね。あまり気に入っていないのですか?」

 

 「書いた人なりに、上手く書けたなーっていう感覚があるものだよ。石川さんのはブラックさや“才能”絡み、無機質さはあるけど、見た目の派手さがないからね。それに死因もおしおきなのに溺死っていう地味さ。このあたりがマイナスポイントだよ」

 

 「自分で書いたのでしょう。直せばよかったではありませんか」

 

 「それが難しいんだよ。意外とおしおきの丁度良い塩梅って分からないものなんだ。どうしてこんな地味になったのかって聞きたい?」

 

 「別に聞きたくはありませんが、解説編なので解説はなさい」

 

 「一章の有栖川さんのおしおきがちょっとスプラッター過ぎて、えぐいってコメントがたくさん来たんだ。それからおしおきの1つのルールでもある、モノクマが直接手を下さない、それを破ってるんだよね。だから次は、モノクマはほとんど何もしなくて、残酷描写も抑えめにしようとしたんだ」

 

 「そうしたら行きすぎたわけですか、いい塩梅が難しいのは作者のせいなのではないですか?」

 

 「それでも、過去の自分のコレクション、石川さんの“才能”の具現化したものに闇底に引きずり込まれるっていうブラックさはよくできたと自負しています!」

 

 「今のは笹戸君ではありませんね。さて、これで第二章は片付きましたね」

 

 「おしおきの直後に片付いたって言わないで。あともう一つ大事なとこあるから」

 

 「なんですか?ありましたか?」

 

 「モノクマの目的だよ。僕たちにコロシアイをさせる目的。絶望だ絶望だっていうのは言ってたけど、そこからさらに新しい言及があったんだよ」

 

 「なんでしたっけ?」

 

 「『大きな絶望の先にある、大いなる希望』。それが黒幕の目的なんだって」

 

 「貴方ではありませんか」

 

 「僕じゃないよ!僕は絶望ありきの希望なんて求めちゃいないんだ!希望は、ただそれだけで輝くものなんだよ!」

 

 「どうやら彼の面倒スイッチを押してしまったようです。何が違うのか私にはよく分かりませんが、違うようです」

 

 「この言葉の意味は、6章で黒幕の正体が判明すると分かるからね。伏線といえば伏線だけど、これで黒幕の正体に気付いた人なんているのかな?」

 

 「いるわけがありません、いるはずがありません、いるなんてありえません」

 

 「なんで同じこと言ったの?」

 

 「さて、これで二章をダシにした雑談…もとい二章の解説編は終わりですね。最後に笹戸君、何か言いたいことは?」

 

 「え!?もうそんな急に終わる感じ!?もうちょっとアフタートークみたいなものないの!?」

 

 「私はこの後も予定が詰まっているのです。外にマネージャーを持たせているでしょう。これからロンドンに飛ばなくてはいけないのです」

 

 「はじめて聞いたよその設定!マネージャーいたの!?っていうか、穂谷さんはそれどころじゃ──」

 

 「それでは画面の前の皆さん、ごきげんよう。第二章の解説編、お相手は“笑顔がステキな世界の歌姫”穂谷円加と」

 

 「あえっ!?ああっと!うわっ…“キミが希望になるんだよ”笹戸優真でした!」

 

 「…もっとマシなキャッチコピーはなかったのですか」

 

 「だって急だったから…ごめんなさい」

 

 「まあいいです、このまま終わりますよ。さようなら」

 

 「は、はい…しゃようなら」

 

 「噛みましたね?もう一度はじめから──」

 

 「もう勘弁してよッ!!」




更新日は清水の誕生日です。最初にQQを投稿したのが2015年2月だったので今年で清水は3歳です。
バブゥ

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