ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

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第五章「傀儡の炎に罪を拾う 後編」

 

 こちらは、『ダンガンロンパQQ』の解説になります。

 本編を読了していることを前提に執筆しているため、本編についてのネタバレが多分に含まれています。

 まだ本編を読まれていない方はご注意ください。

 


 

 「みなさんこんにちわあ。“超高校級の陰陽師”の晴柳院命ですう。今回の解説編はうちが担当しますよ。そして、一緒に解説をしてくれるんはこの人です」

 

 「ちょっと!なにこれ!?なんでボクと晴柳院さんのエリア分断されてんの!?」

 

 「時勢です」

 

 「時勢ってこれアクリル板じゃなくて鉄格子じゃないか!どことなく僕側の方が内側っぽいし!なんでこんな面会みたいな感じになってるわけ!?」

 

 「うちは普通にアクリル板くらいでええ言うたんですけど、有栖川さんと六浜さんが絶対にこれくらいはせなあかんて聞かへんくて。そんなことより笹戸さん。はよ自己紹介せんと皆さん誰だか分かりませんよ」

 

 「いま晴柳院さん名前言ったよ」

 

 「あっ」

 

 「(かわいい)」

 

 「え、ええからはよしてください!」

 

 「うぅん・・・まだ納得いってないけど・・・。えっと、みんなこんにちわ。僕は“超高校級の釣り人”、笹戸優真だよ。今回は晴柳院さんと一緒に五章後編の解説編を担当することになったから、楽しみにしてきたんだけどこの状況に面食らっているところだよ」

 

 「はい、結構です」

 

 「で、この檻はなんなの?僕、投獄される心当たりないんだけど」

 

 「ほんまですか?自分の胸に手ぇ当ててみてください。ほんまに笹戸さんは投獄されて鞭打ちになる謂われがありませんか?」

 

 「僕この後鞭打ちされんの!?本当にないって!」

 

 「もう感想欄では非難囂々ですよ。笹戸さんに恨みを抱かなかった人はいないってくらい」

 

 「そうなの!?いや、どんな最悪な悪役キャラにだってファンはいるんだよ。僕だってそりゃ晴柳院さんとかに比べたら少ないかも知れないけど、悪く思ってない人のひとりやふたり」

 

 「いてません」

 

 「ばっさり!!」

 

 「まあ、今回はちょうど・・・というか作者の悪意で、笹戸さんが恨まれる原因の回をうちらで解説することになりましたから。ここで笹戸さんの悪行を振り返っていきましょう」

 

 「前回の解説編のラスト時点で、僕もう死んでるんだけど・・・。ていうか、それとこの鉄格子の何の関係があるのさ」

 

 「せやから、笹戸さんは放っておいたらうちに何するか分かりませんから、別の部屋にするかせめて仕切りを付けてくださいってお願いしたんです。そしたら、有栖川さんと六浜さんが来て色々話し合った結果、こうなりました」

 

 「最悪の結果に!!せめて仕切りって話がなんで鉄格子になるの!?」

 

 「ちなみに笹戸さん、鉄格子に触ってみてください」

 

 「え?なに・・・?怖いんだけど」

 

 「はよ」

 

 「晴柳院さんが怖い・・・いや、怖くないんだけど、なんかいつもと雰囲気が違ってヘンだ・・・じゃ、じゃあ触るよ。えい」

 

 【WARNING!!WARNING!!】

 

 「え!?え!?なにこの音!?こわ・・・うわーーーっ!!?」

 

 「どらあ!!この野郎!!大人しくしやがれ!!」

 

 「いたたたた!!なにこれなにこれなにこれ!?いだあっ!!いたたたた!!」

 

 「テメエ!!すっとぼけてんじゃねえぞ!!おらっ!!」

 

 「はいストーップ!飯出さん、ありがとうございました。もう戻っていいですよ」

 

 「晴柳院さんの一言であっさり帰って行った・・・。いたた・・・飯出くんに轢かれたよ・・・なんなのこれ?」

 

 「笹戸さんが鉄格子に触れるとブザーが鳴って飯出さんが取り押さえます。これもうちを守るために何かさせてくれって飯出さんがあんまり言わはるから、しゃあなしに」

 

 「口で説明すれば分かるよ!っていうかなんで僕そこまで全力で警戒されてんの!?なんだと思ってるのさ!」

 

 「ですから、それを今回の解説編で見て行くんです。そんなに前に乗り出すと髪の毛が鉄格子に触れますよ」

 

 「なんなのこの厳戒態勢・・・アメリカの刑務所じゃないんだからさあ」

 

 「今回の解説編で自分がしはったことをよおく振り返って、反省してください。そやないと許しませんからね」

 

 「許す余地が残ってるってこと・・・?よ、よし!がんばって反省しよ!」

 

 「ほなそんな感じで、さっそく始めていきましょう。ダンガンロンパQQ解説編『後のお祭り 第五章後編』の、はじまりです!」

 

 「きっちり言うんだね」

 


 

 「はい。最初は裁判場に着いたシーンからです。裁判編やから当たり前ですね」

 

 「裁判場は毎回背景のデザインが変わってる描写があるけど、今回はすごく荒々しいよね。なんでだろ」

 

 「やっぱり和風を意識したんとちゃいますか?この時点でそれがバレるとほとんど犯人もバレてまうような気がしますけど・・・」

 

 「でも龍虎や風神雷神や閻魔大王だよ。和風は和風でも、絶対かたぎじゃない雰囲気じゃないか。晴柳院さんのイメージとは全然違うよ」

 

 「それはそう思います。うちもこれは怖いです」

 

 「やっぱり晴柳院さんのイメージだったらさ、こう静かな細い川のほとりを散策してるような、それか蛍が飛んでる野原に月明かりが差してるような。そんな静かなイメージが合うよね」

 

 「そ、そうでしょうか?」

 

 「普段はその真っ白な巫女服みたいなの着てるけど、きっと晴れ着もよく似合うと思うな。まあその巫女服もよく似合ってるし、一片の汚れもない真っ白っていうのも晴柳院さんのイメ──」

 

 【WARNING!!WARNING!!】

 

 「え!?な、なになに!?触ってない触ってないよ!?」

 

 「だあしゃ!!おら黙れこのやらあ!!黙れってんだよコラ!!」

 

 「うわあああっ!!」

 

 「はいストップ!ストップです飯出さん!そのまま笹戸さんを押さえててください」

 

 「なんで!?いま僕ちっとも鉄格子に触ってないよ!?なんでブザー鳴ったのさ!?」

 

 「あちらをご覧ください」

 

 「へ?うわっ!僕と晴柳院さんが解説してる部屋の隣に、大きなガラス張りで中の様子が伺えるスタッフブースみたいなところがあって、そこにすごい形相の有栖川さんと六浜さんが僕を睨んで仁王立ちしてる!」

 

 「はい、説明ご苦労さんです。飯出さん、もういいですよ」

 

 「なんで彼は帰るときは何も言わずに去るの・・・」

 

 「鉄格子があるいうても、笹戸さんのことやから言葉や身振り手振りだけでうちに危害を加える恐れがあります。そのつもりがなくても、うちが身の危険を感じるようなことがあるかもしれません」

 

 「ないよ!?何!?僕は収容対象なの!?精神汚染系のオブジェクトか何か!?」

 

 「せやから有栖川さんと六浜さんは常にあっちからうちらの様子を監視して、何かあればすぐに手元のボタンを押さはります。そしたらブザーが鳴って、また飯出さんが突っ込んで来はります」

 

 「かつてこんな人権軽視の解説編があっただろうか。いや、ない」

 

 「ちなみに今のは有栖川さんが押さはりました。六浜さんも押さはる寸前でしたよ。言葉を慎んでください」

 

 「解説編なのに言葉を慎むってそりゃもう仕事放棄だよ・・・っていうか有栖川さんはともかく、六浜さんにまであのボタン持たせてるの危険過ぎない!?むつ浜さんなんだよ!?」

 

 【WARNING!!WARNING!!】

 

 「おっっらあテメエこの野郎こら!!この笹戸野郎!!いい加減にしやがれ!!」

 

 「ぎゃああああああああっ!!なにこの技!?むりむりそこそっちには曲がんないから!!」

 

 「せやから余計なこと言うとこうなりますて。痛い目みぃひんと分かりませんか?」

 

 「晴柳院さんが絶対に言わない言葉が聞こえてきた・・・もうダメだ」

 

 「はい、飯出さん退場」

 

 「もう女王様だよ・・・穂谷さんよりやりたい放題だよ・・・」

 

 「ちなみにうちも同じボタン持ってますんで。もしうちが怖いと思ったり不快に感じたらあれがああなるんで。そのへんよろしう」

 

 「飯出くんはもうあれ扱いされてるけど、それでいいの?」

 

 「もう。笹戸さんが余計な時間取らせるから、ちっとも解説編が進まへんやないですか。まだ最初のシーンの説明しかしてませんよ」

 

 「これ僕のせいかなあ・・・?うん、まあいいや。気を付けよ。気を付けなきゃ近いうち死ぬし」

 


 

 「改めて裁判場に入ったシーンですけど、ここぞとばかりに穂谷さんが厄介ムーブをかましてくれます」

 

 「厄介って・・・確かに、モノクマに怒られて何かしらのペナルティを受けてもおかしくないことはしたよね。いくら鳥木くんの死を受け入れられてないとはいえ、これは鳥木くんにも失礼だし」

 

 「でも最後の展開を考えたとき、穂谷さんって鳥木さんが亡くなったことをちゃんと理解してますよね?ここまで鳥木さんが亡くなったことをずっと否定してますけど、いつから認めたんでしたっけ?」

 

 「六章に入ってからだったかな。というか五章に入ってからはどこまでが本気でどこからがうわごとなのか分からないくらい支離滅裂だったから、僕にもよく分かんないや」

 

 「作者さんやったらその辺はちゃんと決めてはるんとちゃいますの」

 

 「決めてないんだよね、これが。こういうキャラは初めてだったし、半分狂ってるのも、完全に狂ってるのも、大して変わらないでしょってことで」

 

 「半狂いと完狂いは全然ちゃうと思いますけど・・・でも、狂ってる人がそういうんならそうなんでしょう」

 

 「え?僕って狂い側?」

 

 「完狂いでしょう?」

 

 「そんなカケグルイましょうみたいに言われても。そうなのかな。“超高校級”の人たちってアクが強いから、僕もそういうところあったりするかも知れないけど」

 

 「まあ、体臭きつい人は自分の体臭分からんっていいますし、そういうもんなんかも知れませんね」

 

 「今この場で穂谷さんより晴柳院さんの方がよっぽど毒吐いてるよ・・・」

 

 「この後も、今回の裁判で穂谷さんはほとんど野次を飛ばすだけですけど、中盤ですごく重要な問題提起をしてくれます。そこから事件の全容が一気に見えてきますから、ある意味この回のMVPと言えなくもないかもですね」

 

 「みんな死にたくはないだろうけど、穂谷さんだけはもう一個死ねない理由があるからね。意外とあのときは本気で裁判の貢献しようとしてたのかも知れないね」

 

 「その裁判ですけど、第一発見者がうちっていうことと、事件現場の特徴から証拠品がほとんどなかったので、前半はあまり分かることは少ないです。取りあえずうちの証言から裁判はスタートします」

 

 「最後まで読めば分かるけど、実はこの時点で決定的な証拠が出てるんだよね。クロが、自分がクロであることを理解してないからこそ、今回の裁判ではどこに真相が隠れてるか分からないよ」

 

 「さすがに全部通して仕組んだ人は見方が違いますね。うちはずっとこの裁判中、針の筵でしたよ」

 

 「い、いやいや。僕だって晴柳院さんが辛い思いをするだろうってことは分かってたよ?でも、その上でやる価値があると判断したからやったんであって、決して晴柳院さんを貶めようとかそういう意図はなかったんだよ?ね、分かってくれるよね?」

 

 「分かりません。分かるつもりもありません」

 

 「そりゃあんまりだよ!僕は晴柳院さんのために──」

 

 「あ」

 

 【WARNING!!WARNING!!】

 

 「えっ!?あっ!思わずさわああああああああっ!!!」

 

 「触ったなこらあ!!そのまま動くんじゃねえぞこのド痴漢野郎が!!」

 

 「飯出くんには言われたくない!!いたたたたたたたっ!!」

 

 「触ったらあかん言うたやないですか・・・なんで触るんですか」

 

 「い、いや熱が入ってうっかり・・・」

 

 「はい、飯出さんもういいです。戻ってください」

 

 「だんだん流れ作業みたいになってきたよ。飯出くんはあれどういうモチベーションなの」

 

 「頑張りに応じて後でうちがお料理を振る舞ってあげる約束です」

 

 「うわあそりゃ頑張るや。僕は今日絶対生きてかえれないぞう」

 

 「ちなみに今のところ白湯ですね」

 

 「飯出くんが可哀想になってきた。次はもっと痛がってあげようかな」

 

 「さ、解説しますよ。うちの証言に関することは色々と伏線を張ってあったんですけど、植物園の構造をほとんど全て使った事件っていうことが分かりますね」

 

 「植物園である必要はないかも知れないけど、植物に聞かせる音楽とか、庭園の中にある池とか、毒性植物の栽培室とか、要素が上手いこと植物園っていうキーワードに収束した感じがあったよね」

 

 「原作でも、ろくでもないことが起きる場所として有名でしたし、何か運命的なものがあるんでしょうか」

 

 「どうかな。むしろこの事件の場合は、無印の方より2作目の方が繋がりが強いよ」

 

 「そうですね。まあその話はおいおいするとして、議論は笹戸さんが亡くなってる状況についてに移ってますよ」

 

 「さり気なく清水くんがリンゴ呼ばわりされてる」

 

 「でもそれ最初に言わはったん、アニーさんですよ」

 

 「そうだっけ?」

 

 「初対面で言うてはりました。アニーさんには悪気一切ないですし、清水さんはその時スルーしてたんですけどね」

 

 「なにその少年漫画ばりの伏線回収」

 

 「伏線らしい伏線でもないような。あ、ここで清水さんが言うてるんは、笹戸さんの遺体が栽培室の奥で見つかったことについてです」

 

 「焼死体がどんなのが一般的かなんて普通知らないし、調べても分かるようなことじゃないんじゃないの?」

 

 「でも、もし火事の部屋に閉じ込められたらどうするか、は想像できるんとちゃいます?」

 

 「そりゃまあ。普通に冷静さを失って、とにかく逃げようとするよね」

 

 「でも笹戸さんの遺体は栽培室の一番奥で、座った状態で見つかりました。栽培室の出入口はひとつしかありませんから、これは明らかにおかしいです」

 

 「穂谷さんは晴柳院さんを疑ってるけど、晴柳院さんじゃ僕をこんな風に部屋の奥に押し込めておけないっていう結論になったのかな?飯出くんのときもそうだけど、体が小さいことってコロシアイにおいては不利だけど、裁判ではある意味有利になるんだね」

 

 「ここでは結論までは出てませんね。そりゃ普通自分からその状況になったなんて思いませんから」

 

 「だから今回の裁判は勝てると思ったんだけどなあ。ここまでは順調だったんだけど、どこから綻びが出たんだろう。ちゃんと見とかなくちゃ」

 

 「反省会してるんちゃいますよ?そもそも笹戸さんが反省すべきなのはそことちゃいますから」

 

 「え?違うの?」

 

 「これを反省してももう死んでもうてるのにどうするんですか」

 

 「なんか、またの機会に活かせないかなって」

 

 「計画性のないサイコパスや」

 

 「サイコパスって計画性あるもんじゃないの?」

 

 「知りませんけど。でも笹戸さんって、サイコパス診断テストとかでさらっと怖い回答するタイプですよね」

 

 「そんなことないよ!やったことないから分からないけど」

 

 「ほなやってみましょうか」

 

 「ええ・・・やるの?あ、でも僕の回答だけじゃ成立しなくない?もうひとりいないと」

 

 「分かりました。ほな」

 

 【WARNING!!WARNING!!】

 

 「だっしゃあごるあ!!なんのつもりだテメエ!!」

 

 「えええっ!!?なんで!?なんで飯出くん呼んだの!!?」

 

 「飯出さん。なんかサイコパス診断できる問題出してください。うちと笹戸さんで答えるんで」

 

 「そんなことのためにブザー鳴らさないで!飯出くん分からずに突っ込んでくるんだから!」

 

 「えっと・・・じゃあ聞いたことあるやつな」

 

 「自然に混じってきたけど前代未聞だよ。3人体制って。しかも解説編関係ないからねこのくだり」

 

 「家に強盗がやってきた。あなたは武器を持っておらず、隠れる事しかできない。あなたが身を隠すとしたら家のどこ?」

 

 「お、押し入れの中ですかね・・・ああ、でもそれやとすぐ見つかりそうですから、床下とかにします」

 

 「僕はドアの裏かな。見つかりそうにないし」

 

 「おぉう」

 

 「え、どうしたの?」

 

 「えーっと、一般人は押し入れとか物置とか、身を守るために見つかりにくい場所を言うんだ」

 

 「うちがまさにそうですね」

 

 「僕もそうだよ!?」

 

 「いや、サイコパスの回答はドアの裏だ」

 

 「なんでドンピシャ!?」

 

 「ドアの裏は意識が向きにくい、かつ行動が制限されない。つまり相手に対して優位に立てる場所だ。直感的にそういうところを選ぶってのは、もうそういうことなんだな」

 

 「うわあ・・・」

 

 「違うって!?見つかりにくそうだからだって!たまたまだよこれ!だからやりたくなかったんだよ!」

 

 【WARNING!!WARNING!!】

 

 「えっ!?いま!?」

 

 「ぬあっ!!?ええっと・・・おらあ!!」

 

 「あべし!!普通に殴られた!!もうただの暴力だよ!!」

 

 「だ、大丈夫ですよ有栖川さん。六浜さん。ちゃんと牢がありますから」

 

 「とうとう獄中であることが確定してしまった」

 

 「飯出さん、ありがとうございました。帰ってください」

 

 「まだ裁判前半の前半だよね・・・?もう満身創痍なんだけど」

 

 「頑張りましょう。サさどさん」

 

 「笹戸のさはサイコパスのサじゃないからね!?」

 

 「ささどぱす」

 

 「なんて?」

 


 

 「曽根崎さんはどうしてまる焦げになった笹戸さんを見て、すぐに笹戸さんやと分かったんでしょう。同じくらいの体格の人やったら、うちや望月さんや清水さんかておったのに」

 

 「靴を見たって言ってたけど、正直微妙だよね。燃えてたらその靴がなんなのかも分かりにくくなるのに」

 

 「靴が似てる人やったら望月さんでしょうか。曽根崎さんと望月さんは、望月さんが現場に到着するまで会ってなかったはずですから、確定的なことは言えへんかったと思うんですけど」

 

 「曽根崎くんならメタ視点から推理しててもおかしくないなあ」

 

 「もどきとはいえミステリものでメタ視点から推理できる登場人物なんてイレギュラー過ぎます」

 

 「メタは冗談としても、曽根崎くんのことだから、他にも色んな根拠を持ってたんだと思うよ。分かりやすい部分で靴って言ってるだけで」

 

 「五章にもなると誰がクロでもおかしくなくなるんですから、紛らわしいことせんといてほしいです」

 

 「ホント、誰がクロでもおかしくないよ」

 

 「ボタン押したろかなこいつ」

 

 「勘弁してください」

 

 「檻の向こうで頭下げてるとほんまに面会みたいですね」

 

 「シャレにならないよ・・・なんか晴柳院さん、今回やけにイジワルだよ。前回の解説編の鬱憤まで晴らそうとしてない?」

 

 「そないなことあらしまへんえ」

 

 「分かりやすくウソだ!っていうかウソ吐くと訛り強くなるなんて設定あったっけ!?」

 

 「気分です。イントネーションが表せへん分、これくらい分かりやすうせんと、うちが京言葉話してるって忘れられてまうんです」

 

 「別にそこまで重要な設定じゃないからいいんじゃないかなあ。ただの作者の趣味なんだから」

 

 「それでもうちにとっては大事なアイデンティティのひとつです!」

 

 「うん、いいと思うよ。可愛いし」

 

 【WARNING!!WARNING!!】

 

 「えええっ!?今の何がもんだああああああっ!!?」

 

 「シバくぞこの野郎!!おらあっしゃおらぃ!!」

 

 「六浜さん的にアウトやったみたいです。セクハラせんといてください」

 

 「褒めただけなのに!」

 

 「世の中には褒めてもらって嬉しい人と嬉しない人と嫌な気持ちになる人がいてるんです。もちろん笹戸さんは嫌な気持ちになる人です」

 

 「敢えて言わなくていいよ!」

 

 「笹戸さん野放しにしとったら全然解説が進めへんです。どうしましょ」

 

 「野猿かなんかか僕は!」

 

 「あ。せや。飯出さん、あれ持って来てください」

 

 「あ、あれ?一体何持ってくるんだ・・・」

 

 「はい!笹戸さん!どうぞ!」

 

 「すごい良い笑顔と良い匂いだけど、なにこの四角いの?ディストピアのご馳走?」

 

 「いいからいいから。よばれてください」

 

 「教えてくれないんだ・・・こっわ・・・。ええい、ままよ!」

 

 「はい、よお噛んでください?あ、飲み込みましたね。ほなちょっと座って待っときましょうか。うちは解説してるんで」

 

 「なんかどっかで食べたことある気がするなあ。なんなのこれ?」

 

 「えっと、議論は進んで、清水さんがモノクマファイルの妙な記述に目を付けます。笹戸さんが摂取したっていう毒物ですね。もしかしたら笹戸さんは毒死したんちゃうかって思ったんです」

 

 「そあッ・・・!?ァッ・・・!?へあ・・・!?」

 

 「あ、もう効いてきましたか。さすがですねえ」

 

 「はあ(こわっ)・・・!?んがぁ(なにこれ)・・・!?」

 

 「笹戸さんが摂取した毒っていうんは、麻痺性の毒を持つキノコやったんですね。食べると二時間くらい動けへんようになるっていう。さっきのあれはそれです」

 

 「はぁあが(なにその適当な説明)!?えがが(っていうかこんなのダメでしょ)!」

 

 「そうですかあ。懐かしい感じがしましたねえ。あのときの笹戸さんもきっとこんな感じで火に焼かれるのを待ってたんですね。想像するだけで怖いです」

 

 「へああ(今この場で晴柳院さんが一番怖いよ)!」

 

 「何言うてるか分かりません。ほな、ここからはこんな体制でやっていきましょか」

 

 「ふぁ(助けて)ーーー!!」

 


 

 「笹戸さんが毒キノコを食べたことは分かりましたが、そこからは犯人が絞れそうにないゆうことで、その議論は打ち切りになりました。こうやってそれぞれの証拠には触れながら核心に迫らないことで、伏線を張りつつ裁判を長引かせるテクニックですね」

 

 「|ふぁん《あんまりそういうこと言わない方がいいんじゃないかな》・・・ほへ(テクニックとか)

 

 「解説編やからこういうところにもどんどん触れていきますよ」

 

 「はが(あれ)っ!?ふがんが(晴柳院さん、僕の言ってることが分かるの)!?」

 

 「毒キノコの次は今回の事件の凶器とも言える、火事についてです。犯人がどうやって火事を起こしたんか。これは今回の事件最大の肝になってくるところです」

 

 「ふぁぅ(無視されたのか偶然だったのか分からない)・・・!んが(っていうか本当にこのままやるんだ)・・・」

 

 「六浜さんが出火原因と燃え方について詳しいんはさらっとスルーされてますけど、ここもちょっとご都合主義ですね。六浜さんの“才能”は知識の蓄積と考察力でできてますけど、いうて知識にも限度ってもんがありますよね」

 

 「はがらか(本人が観てる前でよく言うよそんなこと)はぐぐ(僕だったらブザー鳴らされてるよきっと)

 

 「栽培室全体で一気に火を燃え上がらせるために使われたんは、お台所にあった油でした。犯人は朝早うにお台所に行って、油のボトルを持って来て栽培室に撒いたんですね。せやから朝ご飯を作ろうとした穂谷さんは油がなくてフライパンを叩くしかでけへんかったと」

 

 「(いや、その理屈はおかしい)

 

 「読んでくれたみなさんにはフライパンを叩く穂谷さんがだいぶツボやったみたいですけど、あれもあれで伏線のひとつやったんですね」

 

 「|ほーん《気付く人マジで0人説が立証できちゃうレベルの遠回し加減だけどね》」

 

 「ここから次々と火事が起きた当時の栽培室内の様子が明らかになってきます。燃え方から、栽培室全体に一気に火の手が上がったことは分かりました。それと、大きな爆発が起きたことも」

 

 「|はんまーかんまー《栽培室全体が壊滅的状態だったこともあって、そこはバレちゃったね》」

 

 「爆発がいつ起きたんか。望月さんが推理を進めていきますけど、清水さんが噛みついていきます。今回の清水さんは真相を解明しようと積極的ですね。今までの清水さんとはわけがちゃいます」

 

 「|はんがー《さすがに五章ともなると清水くんの主人公力も万全だね》。|ふふがが《けどまあその度に見事に論破されちゃうんだけど》」

 

 「うちが植物園に来てから爆発が起きたと推理しはる望月さん。うちはその爆発に気付きませんでしたけど、それは植物園の音楽が流れる機能にあったんです。いくら爆音とはいえ、爆発音を掻き消すともなると、うちの耳はよう耐えた思いますよ」

 

 「ふう(それはそう思う)

 

 「それに音楽の鳴る時間が毎日決まった時間やのうて5時間おきって中途半端なんも、このトリックのためにそうしたんですよね。つくづく都合のええ設定ですね」

 

 「はむ(それを言っちゃあおしまいだよ)

 

 「そしてうちが聞き取られへんかった爆発音の正体は、除草剤や殺虫剤のスプレー缶が爆発したもんやとも分かりました。これ実は作者さんの実体験らしいですよ」

 

 「へほ(そうなの)!?」

 

 「そのときは制汗剤でしたけど、ライターで火炎放射して遊んでたそうです。爆発はしませんでしたけど、そのときにスプレー缶の中身は燃えるっていうのを覚えたらしいですね」

 

 「はが(怖いことするなあ)・・・」

 

 「笹戸さんが言わんといてくださいね」

 

 「ふぁむあ(やっぱり僕の言ってること分かってるよね)!?へむへむ(っていうかそろそろ元に戻らないのこれ)!?」

 

 「うるさいですね・・・」

 

 「はうあっ(はうあっ)!!」

 

 「これで出火の仕方と爆発の原因は分かりましたけど、肝心の火元がやっぱり分からないままです。こうやって外堀から埋めていくと、謎を残したまま議論を進めることができてええ手法ですね」

 

 「ほむ(手法っていうとなんか嫌な感じするけど)・・・|ふぁらお《でも確かにたくさん議論してる感じは出てるよね》」

 

 「火が原因でほとんどの証拠品が焼失してるか、燃えて原型を留めてない中なので、今回の裁判はどうしても議論中心にせなあかんかったんですよ。ですから、あんまり謎をばらけさすと読んでる方もわけわからんようになってまうので、火元っていう大きな謎ひとつで勝負した感じですね」

 

 「|ふぐり《っていうことは、後半の僕の素性についての話っていうのはおまけなのかな》?|ふあん《確かに真相の一部ではあるけど、解明しなくても犯人は分かることだったしなあ》」

 

 「出火元と思われる謎の丸焦げ機械を回路やと主張する清水さんと、それは回路になってないという六浜さん。曽根崎さんがその両成敗をします」

 

 「|ふむ《思ったんだけど、この辺で晴柳院さん空気になってない》?」

 

 「うちはあんまりにも話が難しかったんで全然入れませんでした・・・。うちが余計な口を挟んだら議論がヘンな展開になってまうんちゃうかって思いまして」

 

 「|ほごご《一応ミステリものの体をとってるから、みんなこうやって議論できるけど、実際には知識に差がありすぎて議論にもならないかもね》」

 

 「まあ命懸かってたらそないなこと言うてられませんけどね。ある意味うちは、議論の中身が難しうて自分が入られへんことに慣れてしまってたんかもしれません。あんまりええこととちゃいますけど」

 

 「|んむう《なんかこう、自分が仕掛けたトリックでみんなが悩んでるのを見ると、僕ものすごいトリックを作ったんじゃないかってなんというか》・・・はむ(嬉しくなるような)

 

 「あ〜、こらちっとも反省してませんね。ボタン押します」

 

 【WARNING!!WARNING!!】

 

 「毒盛られてもかテメエこらあ!!!」

 

 「はわあ(ぎゃああ)〜〜〜!!ひげえ(予告された上で押された)!!」

 

 「余計なこと言わへんように喋れんようにしたったのに、これじゃ意味ないやないですか」

 

 「|ほだっが《やっぱり晴柳院さん僕の言ってること分かってるじゃないかあ》!!」

 

 「はい何言うてるか分かりません。分かりませんけど、だいたいどんなこと考えてるかはその濁った目ぇ見たら分かります」

 

 「わむ(濁ってないけどね)!!へすす(瀬戸内海みたいに澄み切ってるけどね)!!」

 

 「いいえ、白濁してます」

 

 「はがが(そういう病気じゃないか)!!」

 


 

 「喋れても喋れへんくても笹戸さんの失言は止まらない言うことで、2時間経って毒が抜けた笹戸さんがこちらです」

 

 「棚の下から出して来たみたいな紹介しないでよ」

 

 「毒は抜けましたけど毒気は抜けてへんので、今後も発言には気を付けてください」

 

 「今回の晴柳院さんの方がよっぽど毒気たっぷりじゃないか・・・それはそれで嫌いじゃないけど」

 

 「分かってへんみたいどすなあ」

 

 「笑顔でボタンちらつかせないで!そのボタン交渉材料になってないから!もはや一方的な暴力だから!」

 

 【WARNING!!WARNING!!】

 

 「えええっ!!?あっ!!有栖川さん押したな──あっだああ!!」

 

 「連続で来させんな!!疲れるんだよ!!」

 

 「知らないよ!!」

 

 「うちが意識を引き付けてその隙に有栖川さんが押す作戦です」

 

 「誰が押しても無条件に飯出くんは突っ込んでくるし僕に止める手立てないんだからその陽動作戦なんの意味もないよ」

 

 「不意を突いて受け身を取らさせへん作戦です」

 

 「僕をどうしたいのさ!?腕の骨とか折れちゃうよ!?」

 

 「折れると言えばシャーペンの芯ですけど、今回のトリックの火元にもシャーペンの芯を使っていましたね」

 

 「ご、強引・・・!!」

 

 「シャーペンの芯は回路に繋ぐとすごくよく燃えるし光るんで、本編を読んでも良い子は絶対に真似したらあきませんえ。ほんまに火傷しますよ」

 

 「うん、これは本当。家のコンセントとかで普通に火事になるやつだから」

 

 「作者はだいたいこういうのは実験映像とかを見て作りよるんで、実際にこんなことができるんかまでは検証してません。せやからその辺の考証も甘いです。あしからず」

 

 「ミステリのトリックを実際にやって考証してる人なんているのかな・・・?ものによっては法律に引っかかるよ」

 

 「シリアスな空気ゆうんはちょっぴりのファンタジーを誤魔化してくれるもんなんですよ」

 

 「まあ厳密な突っ込みを入れだしたらキリが無いしね。今回もそうだし、三章とかまさにそうだね」

 

 「その辺を強引に成立させてしまう要素が、“超高校級の才能”なんですよね。ちょっとくらい無茶なことでも、“才能”があればなんとかなると言えてしまう便利な設定です」

 

 「うん。だからキャラクターの根幹を成すと同時に、トリックやシナリオ作りに寄与する“才能”選びっていうのがキャラメイクでは大事なところなんだよね。そこを忘れると、ただの自己満足になっちゃうよ。うちの作者みたいに」

 

 「でもわりとトリックに絡んでません?」

 

 「なんとかトリックに絡むようにあれこれ試行錯誤してるんだ。今回の僕の“才能”の使い方だって、後でそのシーンのところになれば分かるけど、だいぶ曖昧な説明しかしてないよ」

 

 「ざっくりしてるんですねえ」

 

 「あとここ。火元がシャーペンの芯を使った回路っていうところまでは分かったけど、その回路に電気を流すのはどうやったのかっていうところ。これも当時の感想で突っ込まれてたけど、リモコンで回路に繋がったモーターが作動するなら、そこには初めから電気がある必要があるって」

 

 「つまり、このトリックでは電気を生み出すことはできなくて、電気があるところに動きを与えることができるっていうだけやったんですね」

 

 「まあその辺は雰囲気で流してくれれば。初期のころだからこういうアラもあるさ」

 

 「初期って、もう五章ですけど・・・。実際の執筆でも2年くらい経ってますけど・・・」

 

 「今3作目を作成中でしょ。そのスパンから見たら初期さ」

 

 「物は言いようとはこのことや」

 

 「でも、火事の詳細を明らかにするっていうところから、燃料である油や誘爆物のスプレー缶、それから火種になるシャーペンの芯の存在まで明らかにできて、ここから今度は発電装置の話になるなんて、ひとつの議題がすごく長いね」

 

 「さっきも言いましたけど、今回の裁判ってこの火事の原因っていう部分が謎のほとんどを占めてて、しかもこれをやったのが誰かっていう議論はまだしてないんです。読まはった方がどう思わはったか分かりませんけど、ひとつの謎だけで勝負するとこういうことになります」

 

 「うん、それもまあいいんじゃないかな。五章だとこれくらい議論が進まない感じがある方がいいよ。人も少なくて、活発な議論っていうのが難しくなってくるから、しっとりじっくり考えるような雰囲気ができてさ」

 

 「しかもここで前半が終わるんですけど、穂谷さんの狂気的な発言のせいで、議論は発電装置の話から笹戸さんの素性の話に移ります。結果的にそれが真相を暴く足がかりになるんですけど、結局前半でずっと議論してた謎は謎のままなんですよね」

 

 「この後はいよいよ僕の素性の話かあ・・・なんか照れくさいね」

 

 「そういうところですよ、笹戸さん」

 

 「え!?」

 

 「今回の解説編の冒頭でも言いましたけど、今回は笹戸さんにとっては反省会ですからね。後半から本格的に反省してもらいます。ここからはボタンの判定も厳しめになります」

 

 「今以上に厳しくなるの!?冗談じゃなく僕喋れなくなっちゃうよ!?」

 

 「さっき喋れへんくてもできてたんですから、ええんちゃいます?」

 

 「ええことないよ!?」

 


 

 「笹戸さんってほんまに素性が分からへんかったゆうか、謎が多かったいうか、裁判の中でもなんで問題児なのか問題になってましたけど、そんな気配なかったですよね」

 

 「うん、自分でもその自覚はあるよ。なんというか、僕ってクラスの中でもあんまり目立たない方だったし、印象薄いっていうか」

 

 「それやと希望ヶ峰学園にスカウトされたとき、クラスの皆さんの目が変わったんちゃいます?」

 

 「その辺の設定って、QQではどうなってるの?スカウトする順序とか」

 

 「な〜んも決めてません。一応3作目を書くにあたって、こんな感じかなあいうイメージはあるみたいですけど、QQのときはそんなん1ミリも考えてませんでした」

 

 「大雑把だなあ」

 

 「でもうちの設定ですと秋入学ですし、全国の高校生が対象ですし、梅雨ぐらいから選考が始まるんとちゃいます?文化系の“才能”の人も頑張り次第では実績が出せますし、スポーツ系の人も新人戦とかが終わる頃合いやないですか?」

 

 「確かにそうだね。でも学校じゃ測れない“才能”の人もいるよね。僕なんかまさにそうだけど」

 

 「笹戸さんは遅咲き組ですもんね」

 

 「そうだね。受験を間近に控えたころにもう一回高校生やるってなったときは、確かに周りの目は変わったよ」

 

 「あ、そっちですか。見直した方やなくて」

 

 「なんというか、希望ヶ峰学園にスカウトされたことと受験戦争から離脱する口実を得たことの両方が羨ましがられたんだろうな。もともとあんまり目立たなくていじめられるとかもなかったから、あからさまなやっかみとかはなかったけど」

 

 「この話まだ続きます?」

 

 「自分からフったくせに!じゃあ終わろうよ!これ以上広がらないし!」

 

 「やっぱり笹戸さんって良くも悪くも目立たんくて、素性がよう分かりませんよね。何考えてるか分からへんわけともちゃうし。途中でなんか伏線っぽい描写もありましたよね?三章くらいで」

 

 「ああ。なんか自分の“才能”に疑問持ってるくだりね。あのときはまだ真相がぼやけてたから、取りあえず張れる伏線を張ってただけだよ。どうせ読んでる人はみんな忘れてるやつなんだからほじくり返さないでよ」

 

 「でもなんの後ろ盾もなく適当に出て来たわけとちゃいますよね?」

 

 「う〜ん・・・強いて言えば、僕は合宿場に来たころはスランプ気味っていう設定があって、いまいち釣りでも成果を残せてなかったんだよね。その辺のこと仄めかしてるのかな」

 

 「やっぱり本編には全く関係ありませんでしたね。むしろ合宿場の方たちの中では、笹戸さんは“才能”を活用してた方やと思いますけど」

 

 「魚を捌くのにスランプはないからね。それに、“才能”を捨てた清水くんがいたらスランプなんて小さい問題だし」

 

 「それはそうですね」

 

 「まあそういうわけで、僕の抱える問題っていうのは“才能”のことでもないし、普段の学園生活でもないんだ。っていうか僕はそういうところで大人しくして波風立たないのは自然にできるからね」

 

 「やっぱサイコパスなんとちゃいます?本物ってそうやって言うやないですか」

 

 「だから笹戸のさはサイコパスのサじゃないってば」

 

 「なんやそれ」

 

 「晴柳院さんが言ったやつのフォローしたんだけど!?」

 

 「もう既に亡くなってる笹戸さんの素性を知るっていうのも簡単やなくて、捜査も改めてできない裁判場では、よう一緒にいたうちの証言に注目されます」

 

 「今回の晴柳院さんは証言を求められてばかりだね」

 

 「そらこの事件の中心人物ですから」

 

 「このときのみんなといま晴柳院さんではその言葉の解釈もちょっとズレてるね」

 

 「笹戸さんがみなさんの前で記憶を取り戻してたから、なんとか狛枝さんの事件に繋がりましたけど、もしあれが他の場所で勝手に取り戻してたりしてたら、ここでこの裁判は詰んでましたよ」

 

 「いやそれでも何らかの形で続けたと思うよ。裁判の途中で詰みました、で終わる論破作品なんて聞いたことないよ」

 

 「この情報もそうですし、資料館に隠されてたファイルのおかげで、QQと原作の世界観の関係性が明確になりましたね」

 

 「晴柳院さんのおじいさんの世代がもう新しい希望ヶ峰学園だから、相当後の時代だよね」

 

 「狛枝さんもそうですけど、原作キャラの皆さんはほとんど歴史上の人物です。その人に憧れてこんなことするって、冷静に考えへんくてもやっぱ頭おかしいですよね」

 

 「んん・・・まあ、うん。常人離れしてることは認めるけど、そこは、そんな長い時間同じ意思を繋ぎ続けたその歴史と奇跡を評価してほしいな」

 

 「出た出た出た出た。頭おかしい人の無駄に冷静な反論。はじめっから会話の歯車噛み合わせる気ぃなくて、冷静に振る舞ってるけど自分の意見しか主張してけえへんやつや」

 

 「あからさまにイライラしないで!晴柳院さんそんな人じゃないでしょ!?」

 

 「本編ではどうでも解説編では関係ないんです。言いたいこと言いますよ。前回の解説編では千恵さんのおかげで散々な目に遭いましたからね」

 

 「僕も穂谷さんに散々な目に遭わされたんだけど・・・」

 

 「せやから自業自得です。こんなことしといて」

 

 「あ、いまは狛枝先輩の事件を振り返ってるところだね。原作をプレイした人にとってはもう分かり切ってることだからさっくり済ませてる」

 

 「今回の事件って、狛枝さんの事件と要素がほんまにたくさん共通してるんですよね。そもそもの事件の構造とシロとクロの関係はもちろん、炎・爆発・音楽・毒って。死因や死体の状況は全然ちゃいますけど」

 

 「そこがリンクしちゃったらもう完全な模倣だからね。でも実際これは偶然だよ。事件の構造と火を使うっていうのは決定事項だったけど、爆発は火事があったら自然に起きるものだし、それを誤魔化すために音楽が必要になるし、毒に至ってはもはやただの思いつきだもんね。本能的に人って火から逃げようとしちゃうだろうな、て作者が気付いたから」

 

 「その偶然の一致がええことなんか悪いことなんかは分かりませんけど、その偶然のおかげで笹戸さんの狛枝さん崇拝がより生々しいゆうか、狂気的になったんは間違いありませんね」

 

 「んー、ちょっと違うかな。僕が崇拝してるのはあくまで希望であって、狛枝先輩個人を崇拝してるわけじゃないんだよね。もちろん狛枝先輩は希望ヶ峰学園の大先輩だし、希望を尊ぶ人として『希望の徒』の中でも尊敬の対象としてみんなが知ってる人だけど、『希望の徒』ってあくまでメンバーがそれぞれの希望を追い求めていくのを支える団体だから、僕が狛枝先輩を崇拝してるっていうわけじゃないだよね。僕も狛枝先輩も、希望を崇拝してるっていう点では共通してるかな。あ、でも僕なんかより狛枝先輩の方が希望に対する考え方とか実際の行動力とか、そういう部分でお手本になるところはたくさんあるよね。だから今回は狛枝先輩の起こした事件の模倣って形で、ちょっとは僕も狛枝先輩に近付けたのかも知れないし、それを嬉しく思ってるっていう気持ちは確かに僕の中にあるから、それはある意味崇拝してるって言えなくもないかな?どうなんだろう?むずか──」

 

 【WARNING!!WARNING!!】

 

 「もうしゃべんなお前はあ!!」

 

 「──しい部分もあるけど崇拝と言ってしまぶはっ!!」

 

 「やっと止まった!あああもうっ!!キショいキショいキショいキショいキショいキショい!!何食べたらそんなキショい言葉が次から次へと出てきよるんですか!」

 

 「こいつ、ブザーが鳴って俺が入ってきたことにも気付かずしゃべり続けてたぞ・・・。どうする?轡か?ガムテープか?」

 

 「いえ、鎮静剤を打ちましょう」

 

 「逃げ出したゾウじゃないよ僕は!」

 

 「大人しくしやがれ!一発で済ませてえだろ!」

 

 「飯出くん注射刺していい人じゃないでしょ!?やだやだこわいこわい!」

 

 「ガキかテメエは!一般成人男性だろうが!」

 

 「成人男性って言わないで!やめっ・・・あっ──」

 

 「刺したっ」

 

 「( ˙-˙ )スン…」

 

 「うわっ!急に落ち着くな!」

 

 「鎮静剤ってそういう薬でしたっけ?望月さんみたいになってますけど」

 

 「じゃあ、解説編続けようか。晴柳院さん。飯出くんはもう戻っていいよ。ありがとう」

 

 「ありがとうってなんだ」

 


 

 「記憶のパスワードの話ですけど、都合上わりとざっくり決めてますよ。この辺は細かく話しても原作履修済みの人にとっては分かり切った説明になってまうんで、あんまり重点的にしても意味ないんで」

 

 「曽根崎くんの禁則事項ですって全然かわいくないな・・・」

 

 「ここはファンサービスです」

 

 「曽根崎くんはファン多いからね。やっぱり冒頭から清水くんと常に一緒にいてギャグシーンをたくさんしてたこととか、単独の動きでシリアスなシーンもやってたからかな」

 

 「ファンで言うたら笹戸さんも割と多かったやないですか」

 

 「あくまで過去形なんだね」

 

 「そらそうです」

 

 「確かに当時の人気投票とかでは、2位とか3位に挙げてくれてる人が多かった印象だなあ。一番じゃないけど好きな方って言われてた気がする。でも晴柳院さんに比べたらもう全然だよ」

 

 「う、うちはそんなんあんまり・・・」

 

 「嬉しくないの?」

 

 「嬉しいは嬉しいですしありがたい思いますけど・・・やっぱ恥ずかしいです・・・」

 

 「かわいい(真顔)」

 

 【WAKARING!!WAKARING!!】

 

 「うわっ・・・あっ!違う!ブザーじゃない!有栖川さんがガラスに指で書いてる!」

 

 「何してはるんですか・・・新しいパターン作らんといてください。どうせ作るだけ作ってうちの作者は管理でけへんのですから」

 

 「もう二度と出てこない演出なんだろうなあ・・・」

 

 「でもQQメンバーで一番人気があるんはやっぱり清水さんですよ。前の人気投票では古部来さんが1位とってはりましたけど」

 

 「ど、どっち?」

 

 「好きやって言うてはる人の数で言うたら清水さんで、好きな順に名前を挙げていったときにより上位に来やすいのが古部来さんっていうことですかね。どちらも厳密な調査とちゃいますから」

 

 「古部来くんもいいキャラしてたからね。六浜さんも女子人気が高いイメージあるけど、その辺はどうかな」

 

 「六浜さんと古部来さんの話はあとに取っておきましょう。この後の解説編でも出て来ますし」

 

 「あ。そう言えば二人とも2回目まだか。これはちょっとネタバレになっちゃったかな?」

 

 「画面の前のみなさんは、その辺も楽しみにしといてくださいね。うちらはうちらの仕事を全うしましょう」

 

 「いよいよ裁判も大詰めに差し掛かってきたところだしね。狛枝先輩の事件の記録を読んで、今回の僕の事件との共通点を話してるところかな?」

 

 「その後に、事件の構造さえも同じやって気付いたところです」

 

 「ここまでバレちゃうともうこのトリックにあんまり意味がなくなっちゃうんだよね。あくまで僕が完全な被害者だと思われてないと、一気に説明がついちゃうというか」

 

 「そうですね。しかもそのことに気付くきっかけになったんが、他でもないうちの証言っていうんが、皮肉なところですよね。うちが何も知らへんからこそ活きてくるトリックやのに、うちが何も知らへんからこそそのトリックを潰すっていう」

 

 「そこばっかりはどうにもできないからね。被害者が協力的っていうのはコロシアイの中では結構難しいから。2作目ではその辺もなんとかしようとしてたよ」

 

 「あれもあれでうちは思うところがあるんですけど・・・まあそれはええです。こっちの話しましょ」

 

 「曽根崎くんが言ってる、命を賭けても譲れないものがある、ていうの。彼の先輩の話にも繋がるのかな?」

 

 「そうですねえ。曽根崎さんの先輩は名前しか出てきてませんから、うちにはなんとも分かりませんね。設定がないのが設定なんて言われる始末ですし」

 

 「始末・・・」

 

 「あ、ここで発電方法の話に戻って来ますね。犯人が自分でも気付かへんうちに、どうやって電気を起こして発火装置を起動させたか」

 

 「清水くんがちょうどモノモノマシーンのことを思い出してるけど、これはちゃんと日常編で僕と清水くんでカプセルを大量に開けるシーンがあるし、トリックに使われたアイテムもきちんと全部出て来てるからね」

 

 「わざとらしい伏線やなあ」

 

 「さすがに電磁誘導を日常編の中に滑り込ませることはできなかったから、裁判編でいきなり出てきたけどね」

 

 「そんなんあったなあ、て曽根崎さんは言うてはりましたけど、果たしてこれ何人の人が思い出したんでしょうね」

 

 「そんなにいないんじゃないかなあ。磁石で発電できるっていうことさえ分かってれば思い出す必要もないし、思い出してもすぐ忘れちゃうだろうし」

 

 「その後の、ドアを開けたら釣り糸が切れて装置が池に落ちるっていう仕掛けも、具体的なことは特になんも言わんと、ただそういう仕掛けをしたってしか言われてません」

 

 「さすがに全部を細かく説明したって、文字だけじゃなかなか伝わりにくいし、大して重要でもないしいいんじゃない?」

 

 「作者さん的にも、ここまでは細かい理屈も説明してきたつもりなんですけど、ここにきて『これくらいでいいか』で済ませてもうたことをちょっと気にしてるそうですよ」

 

 「そうなんだ。粗を探せば他のトリックにも見つかりそうなものだけど、ここは確かに厳密に考えるまでもなく実際にはできなさそうなトリックだよね。僕の使ってる釣り糸、さすがに人が自然にドアを開ける程度の力では千切れないし。そんなんじゃ大型魚どころか小型魚でも切れちゃうよ」

 

 「一応、釣り糸の強度が低いってお話はしてましたよね?」

 

 「二章くらいだったかな?あのときにこのトリック思いついてたっけ?どうだったか分かんないや」

 

 「適当やなあ・・・適当いうか、場当たり的いうか・・・」

 

 「最後に上手くまとまれば細かいことはいいの!」

 

 「豪快といい加減を履き違えたある人や」

 

 「日常編で何の気なしに挟んどいた描写が、あとから上手いこと伏線になるなんてこと、創作論破ではよくあるんだよ」

 

 「それは分かります。適当に伏線を張ったわけでもなくて、もともと考えたあった設定とか、話の流れを面白くしようとして付け足した設定が後から活きたりもしますね」

 

 「そういう瞬間が楽しいんだってさ。僕は創作しないからよく分かんないけど」

 

 「ときどきこうやって作者さんの声を代弁することありますよね。もういっそのこと本人呼んだったらええのに」

 

 「それって、僕らと作者がここで話すってこと?」

 

 「はいそうです」

 

 「それはやめとこうか」

 

 「なんでですか?」

 

 「うんとね、それはね。色んな人たちが過去に通ってきて思い出したくない記憶なんだよ。きっと」

 

 「そんなもんなんですかねえ」

 

 「晴柳院さんは知らないままでいいよ」

 

 「逆に笹戸さんは何を知ってはるんですか」

 

 「いや、これも作者の代弁」

 

 「わっかりづら」

 


 

 「あ。犯人指名だ」

 

 「池で鯉が跳ねた、っていううちの証言が確定的な証拠になったって部分ですね。鯉が跳ねたっていうんは捜査編のときも言いましたし、裁判の中でも一回言うてます。でもそれが持つ意味が全然変わってまいましたね」

 

 「犯人指名の直前に六浜さんがすごく悔しげにしてるのは、たぶん全部の真相がこれで明らかになったからなんだね。三章のときは犯人をズバッと指摘してたのに、ここではそんなことできない雰囲気だ」

 

 「そらそうでしょ。うちは何も知らんうちに、勝手に笹戸さんに犯人に仕立て上げられてもうたし、捜査にも裁判にも協力的だったからこそ自分がクロとして指名されてまうなんていう非業の運命を背負わされてるんですから」

 

 「うぅん・・・そういう言い方されると僕がものすごく晴柳院さんに悪いことをしたように聞こえる」

 

 「しましたよ?」

 

 「でも僕はあくまで善意だからね!?晴柳院さんが憎いとか陥れてやろうとかそういう意図はないからね!?」

 

 「せやから余計に質が悪い言うてんのやろがい。分からんやっちゃな」

 

 「ご、ごめんなさい・・・」

 

 「はじめて謝罪の言葉が出ましたね。解説編もとい、反省会のスタートです」

 

 「今から!?」

 

 「悪いことしたらまずは謝罪するんが筋でしょう」

 

 「僕はずっと筋違いをしてたのか・・・」

 

 「あとここの犯人指名は望月さんで、四章は曽根崎さん、三章は六浜さんです。6章開始時点の生き残りメンバーが順番に犯人指名をしていってますね」

 

 「一応そんな感じになってるね。三章は六浜さんが特に古部来くんと強い因縁があったから、敵討ちのつもりで前面に出てたっていうこと。四章は真相にいち早く気付いた曽根崎くんが指名して、今回は生き残りメンバーの中で淡々と晴柳院さんを責めることができるのは望月さんくらいしかいなかったから、だけどね」

 

 「そうですねえ。この後、清水さんがらしくなくクロであるうちを庇います」

 

 「それがヒートアップし過ぎて危うく規則に触れるところだったのを、今度は望月さんに庇われてるよ。望月さんが黙れ!なんて大声出すなんて珍しいね」

 

 「まだこのときは感情が戻る兆しはなかったはずですけど」

 

 「単純に清水くんを黙らせるのに大声が効果的だと判断したのかな。それでも、今まで冷静な喋り方しかしてこなかった人が大声を出すとびっくりするね」

 

 「びっくりで掻き消されかけてますけど、この後すぐ投票ですよ。おしおき編も一筋縄でいきません」

 

 「裁判編だけで結構喋ってた気がするけど・・・あれ?でも内容あったかな?なんか途中で心理テストみたいなことしてた気がするし、ちゃんと解説できてたかな・・・?」

 

 「反省会の反省会は後にして、ここから反省会の本番を始めましょう。おしおき編は一番笹戸さんがやらかしてるお話ですよ」

 

 「もうひとがんばりだね。終わったらゆっくりお茶でも──」

 

 【WARNING!!WARNING!!】

 

 「油断も隙もねえなこの野郎!!なに茶ァ誘ってんだ!!」

 

 「たぶんいま押したの有栖が──いだだだだだっ!!なにこの技!?痛い痛い痛い!!そっちには曲がらないからあ!!」

 

 「笹戸さん、正解です」

 

 「ちょっと油断してたから慌ててすごい勢いでボタン押したのが見えたんだよ」

 


 

 「はい。ここからはおしおき編の解説、そして笹戸さんにとっては反省会の本番です」

 

 「いよいよ僕が終わるときが来たか・・・」

 

 「裁判が終わって清水さんが虚しさを感じてはります。一章、二章と勝利の余韻に浸ってたんですけど、三章あたりから変わってきましたね」

 

 「最初は“超高校級”に勝つことが嬉しかったみたいだけど、屋良井くんのあれを見たらもうそれどころじゃなくなったんだね。うん、それが普通だよ」

 

 「どの口が」

 

 「この口だけど!?」

 

 「まだQQ自体が企画段階だったときは、裁判で勝ちたいがために自分から事件を誘導して自分で解決して達成感を得るっていう、どっちが黒幕やねんって話も考えてたそうですよ」

 

 「たぶんそういう話自体はもう既にどこかで誰かが出してるだろうけど、それを創作論破でやろうと思ったらとんでもないね。最後にバラしたら面白そうではあるけど」

 

 「あんまりそういう話をしすぎるとうちの作者は本気でやろうと思い始めますよ。そんなことしてるからQQ書いてるときは創作論破なんて二度と書かないって言うといて二作目書きよるし、二作目書いてるときはもう出尽くしたって言うてて三作目作っとるんです」

 

 「じゃあ三作目を書いてるときは、これで三部作堂々の完結!とか謳っておきながら四作目を考えたりするのかな」

 

 「強ちない話でもないんですよね」

 

 「いつになったら他の創作ができるようになるんだろうね」

 

 「こんなもんを自分で書いてる時点でもう手遅れやと思いますけどね」

 

 「し、辛辣・・・」

 

 「本編見てたらイライラしてくるんですよ。裁判の後、うちはほとんど泣いて謝ることしかできませんでしたけど、よう考えたらうちはなんも悪いことしてへんやないですか。なんで謝ってたんや。返してください」

 

 「いや僕に言われても・・・」

 

 「逆に他の誰に言うんですか。あの時のごめんなさいを返してください。はよう」

 

 「ぼ、僕が謝ればいいのかな?ごめんなさい・・・」

 

 「利子ついてないですよ」

 

 「この場合の利子ってなに?菓子折のこと?」

 

 「まあそれは後でええです。場面はどんどん進んでまうんで、後できっちり清算しましょう。きっちり」

 

 「二度言った!きっと大事なことなんだろうなあもう!」

 

 「穂谷さんはうちが笹戸さんを協力させるように仕向けたと仰ってますけど、そないなことできるわけないですよねえ。陰陽師をなんやと思てはるんでしょ」

 

 「しかも、穂谷さんも意図してなかったとはいえ、四章はまさにそんな感じの話だもんね。こんなに鋭いブーメランは久し振りに見たよ」

 

 「うちは今回の解説編で何度かもっと鋭いの見てます」

 

 「たぶん僕の発言のこと言ってるよね。心当たりはないけど」

 

 「今からその心当たりが始まりますよ。モノクマがわざわざこれを見せたんは、その方がうちらが絶望するからで、笹戸さんのお願いを聞いたわけとちゃうんで、そこは言っときます」

 

 「まあそりゃそうだよね・・・」

 

 「開口一番、黒幕の正体を大外ししてますよ。黒幕は“超高校級の絶望”ちゃいますよ」

 

 「いやそれは分かんないしさ・・・。たぶんそんな感じのなんかかな、て思ったから言っただけだよ。しかもそこは大して重要じゃないんだから流そうよ」

 

 「うちが裁判で勝った前提でずっと話してますけど、負けること考えてなかったんですか?学級裁判である以上、しかもクロであるうちが捜査に協力的である以上、バレる可能性だってあったんですよ?」

 

 「戦う前から負けることを考えるバカがどこにいるんだ!ってイノキさんが言ってたじゃないか。もちろん勝つと確信してたからこう言ったんだし、負けたときには全て無意味なんだから考えないよ」

 

 「誰に影響されとるんですか。プロレスなんか見ないでしょ」

 

 「でもあれだね。こうやって改めて自分の録画されてるのを見るのって・・・恥ずかしいね」

 

 「ホームビデオ見てんとちゃうぞお前」

 

 「お前!?」

 

 「冒頭からもう頭おかしいですけど、こうも口うるさく希望希望と言われると、ほんまイヤになってきますね。何が希望や。そら笹戸さんたちの勝手な思想をそう呼んでるだけで、うちらには何もええことないやないですか」

 

 「全体の話を通して晴柳院さんは、誰かの精神的支柱というか、心の拠り所になるキャラクターだったよね。出自がそもそもそんな感じだから。QQにおいては絶望はもちろん、希望もときには害になるっていうのがテーマのひとつだったから、ずっと辛い役回りを演じることになっちゃったね」

 

 「そうですね。最終章まで残ってる人のうち、清水さんと望月さんと曽根崎さんは3人とも、希望のせいで運命をねじ曲げられた人です。“才能”という希望に固執して身を滅ぼした清水さんと望月さん、希望を巡る旧学園派と新学園派の争いに巻き込まれた曽根崎さん」

 

 「あとの2人は絶望のせいで破滅したってことか。六浜さんは穂谷さんの絶望の踏み台にされて、穂谷さんも絶望に支配されて更なる悲劇に落ちていった・・・」

 

 「ちょっと先のお話をしてまいましたけど、五章の時点からもうQQはラストスパートが始まってるんですよ。希望と絶望の戦いやなくて、希望と絶望が人の運命を破壊していく様を描いてる、そんなお話なんです」

 

 「絶望は原作で嫌というほど人の運命を破壊してるから、ここで一発希望のせいで人が不幸になるところを見せたわけか。僕の希望で、希望の象徴とされてきた晴柳院さんが押し潰される」

 

 「そういうことです。なにが『希望の徒』ですか。キッショい名前つけて」

 

 「名付けたのはキミのおじいさんじゃないか!」

 

 「その義虎お爺様ですけど、笹戸さんはえらい尊敬してたみたいやけど、お爺様にとって『希望の徒』の活動なんてどうでもよかったんですよ。学園に自分の手先を潜り込ませる足がかりにするために結成しただけですから。せやから本来の目的はとっくに達成してるんですよ。はよ解散したらええのに」

 

 「組織っていうのは時代とともに変化してくものだよ。これでいいのさ」

 

 「あら、そんなあっさり」

 

 「義虎様が今の『希望の徒』に興味を持ってないことは、晴柳院さんが自分から『希望の徒』に接触してこないのを見れば分かるよ。もしまだ僕たちが必要だったら、晴柳院さんに何らかの言いつけをしてるはずだからね。そして、もしそんなことがあれば晴柳院さんはそれを忠実に守る。そういう人だからね」

 

 「ううっ・・・!」

 

 「ど、どうしたの?」

 

 「悔しい・・・!でもよう分かってはる・・・!」

 

 「なんでそんな同人誌みたいな言い方するの」

 

 「どう・・・?」

 

 「さ!!解説を続けようか!!ボタン押される前に!!」

 


 

 「この映像の中の笹戸さん、ファンアートも描いてもらってそれがまさにそうやったんですけど、めっちゃ怖い顔してるんですよ。なんかもう、色々捨てた人の顔してました」

 

 「捨てたっていうか、これから捨てるんだけど」

 

 「ああ。夕方のニュースで報道される人ってこういう人なんやなって」

 

 「無敵の人みたいに言わないで!?」

 

 「ある意味無敵でしょう。こういう独特の思想を持ってはる人は」

 

 「でも命のひとつひとつが大切だっていうのは間違ってないでしょ?それは道徳の授業で教わるじゃん」

 

 「そこから思想の広げ方がもうアカンのですよ。最高級の素材を揃えて全部ミキサーにかけるみたいなことです」

 

 「そんな無茶苦茶なこと言ってるかなあ。よくあるでしょ?自分の身を犠牲にしてバトンを繋いでくれた仲間のために主人公が力を奮い起こすやつ。ああいうことを言ってるつもりなんだけどなあ」

 

 「それは主人公やからですよ。それに主人公が自分から仲間に献身を強いてるわけとちゃいますし、ましてや第三者が勝手に舞台設定をしてるわけでもないです。笹戸さんがしたんは、()()しか見ずに結果だけ同じにしようとした歪な模倣です。狛枝さんの事件を模倣したんと同じで、意義を見失ってるんですよ」

 

 「め、めちゃくちゃ鋭い説教を受けている・・・」

 

 「反省会ですから。ちゃんと反省してください」

 

 「まあ結果的に失敗してる以上は反省すべき点はあるんだけど、1から10まで間違ってるっていうのはやっぱり納得が・・・」

 

 「せやから中身が伴ってないから1も10もないんですよ。前提がないまま進めんといてください」

 

 「だってあの生き残りメンバーの中じゃ、晴柳院さん以外に希望を背負えそうな人はいなかったんだもん」

 

 「ああ。それは言うてましたね。うちか清水さんかて」

 

 「清水くんは確かに晴柳院さんに勝るとも劣らない可能性を持ってたけど、本人にその気がなかったからね。希望を信じないし絶望もしない。せめて希望に縋るか絶望を嫌う気持ちを持ってたら、晴柳院さんといい勝負してたかも知れない」

 

 「清水さんの意思は尊重するのにうちの意思は尊重せえへんのですね」

 

 「そこはほら、晴柳院家っていうのは特別だからさ。でも晴柳院さんはそこの前提を無視してたことを指摘してるわけだ。うん、ちゃんと事前に話しておくべきだったよ。晴柳院さんがその気になってたら、きっとこの裁判には勝ててたはずだ」

 

 「なんでこう自分に都合のええようにしか考えられへんかなあ。うちがそんな計画に協力するわけないやないですか」

 

 「そっか・・・」

 

 「なんですかその残念そうな顔は。反省してます?ていうか反省する場所分かってます?反省してる雰囲気だけ出してやり過ごそうとしてません?そんな腐り万年平社員みたいな態度やったらいつまでもうちは許しませんえ!!」

 

 「お、落ち着いて晴柳院さん!一旦足下ろそう!机の上乗ったら危ないよ!」

 

 「勝手に人のことを値踏みするんも大概ですし!しかも自分勝手な基準で!あとなんかさらっと希望は前に進むんだって言うてますけど、お前がそれを言うなとしか思えへんわ!」

 

 「せ、せっかくだからそれは言いたいじゃん・・・」

 

 「あれはそういう使い方をする言葉とちゃうんです!絶望に負けへんように自分たちを奮い立たせるために使う言葉です!人に希望を背負うように強いる言葉とちゃいます!」

 

 「はい・・・」

 

 「あと一番キショいんがここですここ!」

 

 「ど、どこ?」

 

 「映像の最後!なんやねん!キミが希望になるんだよって!」

 

 「良い言葉かなって」

 

 「これあれですよね!?元ネタはもっと下世話なやつですよね!?同人誌とかで見る!」

 

 「知ってるんじゃないか!同人誌!かまととぶらないでよ!」

 

 「今そのウソどうでもいいでしょうが!」

 

 「ウソって!」

 

 「これで笹戸さんの録画映像は終わりです。改めて見てどうですか、てきくのもアホらしいですね。全然反省できてません」

 

 「これでも反省はしてるつもりなんだけど・・・」

 

 「こんな事件を起こしてうちを巻き込んだことを反省せえ言うてるんですよ。なのに笹戸さんが見てたんはどうすれば裁判に勝てたかでしょうが!反省点がズレとる!」

 

 「巻き込んだのはこの裁判になってからじゃないでしょ。学園にいたときから、ずっと僕らは見てたよ」

 

 「ほんまやったらボタン100回押してますからね。テンポ悪なるから押さえてるだけで」

 

 「まあでも、嫌と言えない晴柳院さんの善意に付け込んでたって言われるとその通りかも知れないね。いつも見られてるのが良い気しないのは分かるよ」

 

 「うちが背負ってたんは希望の徒だけやないんです。晴柳院家、ひいては日青会とその信者のみなさん全員の人生を背負わされてるんです。人が集まって同じものを信じるほど、信じられる側はその分の重荷を背負うことになるんですよ」

 

 「晴柳院さんが言うと重みが違う・・・」

 

 「せやからうちは絶対に折れるわけにはいかなかったんです。うちが折れるということは、多くの人たちの希望を奪うことになってまいます。でも、うちが耐えれば耐えるほど、のし掛かる重荷が増える一方で・・・」

 

 「おしおきもまさにそんな感じだったね。希望の象徴である自分の像に押し潰されるって」

 

 「そこはほんまに一瞬でしたけど、うちの人生そのものでした。おしおき直前に口を突いて出てきた、希望に呪われてるって言葉も、いま改めて噛み締めてます」

 

 「そのおしおきだけど、六浜さんが身代わりになろうとしてたよね。さすがにそんな展開はなかったけど、六浜さんが理屈もなにもなくただお願いするって、相当追い詰められてるね」

 

 「この段階でもう、自分が身代わりになることでしか他の人を救えないっていう、ある種の諦めが見えてきた感がありますね」

 

 「これがまた六章に繋がるわけだ」

 

 「って良い言い方をしてますけど、たまたまですからね。ものは言いよう、ものは取りようなんです」

 

 「ちょっと感動的なシーンだけど、そうして見てみるとちょっと・・・ね」

 

 「解説編なんてそんなもんです。冷静な目で見てたらあきませんよ」

 

 「ここで無情におしおきされてしまうのがやっぱり切ないね。しつこいけど、僕だってこの展開は望んでなかったんだからね?」

 

 「それはもちろんです」

 

 「おしおきタイトルはまあ・・・やっぱり、て感じだね。陰陽師と言えばすぐこれを連想した人も多いんじゃないかな」

 

 「今の若い人には伝わらへんのとちゃいますか。これが分かるのはもう中高生とちゃいますよ」

 

 「うちの作者はそういうちょっと古いネタよくやるからね。創作をするなら世の流行とかに敏感じゃなきゃいけないんじゃないの?」

 

 「でも流行は嫌でも情報が入ってきますから、ちゃんと分かってると思いますよ」

 

 「今の流行もちゃんと追えてる?」

 

 「もちろんですよ。全集中のアレですよね?鬼を結して滅するやつ」

 

 「結はしないよ?それもまた古いネタじゃないか」

 

 「伝わる人にだけ伝わればええやないですか。ついて来られへん人はしがみついてきてください」

 

 「そんな荒くれ小説、誰も読んでくれないよ」

 

 「その分ハンドル捌きで魅せるスタイルです。思いがけない急カーブで度肝抜いたりますよ」

 

 「晴柳院さん、いつからそんな走り屋みたいな考え方になっちゃったの」

 


 

 「ああ・・・ああああ・・・」

 

 「急におしおきシーンになってまともに見ちゃったね。自分が死ぬところ」

 

 「これはいくらなんでも辛すぎます・・・あのときの感覚が戻ってくる・・・!」

 

 「さっきも言ったけど、希望の象徴である自分の像に押し潰されるって、悲しい結末だったね。作者的にはおしおき後の、像の下から血の絡んだ黒髪がはみ出てるところがこだわりらしいよ」

 

 「なんやそのドブみたいなこだわりは」

 

 「ドブ呼ばわり!?」

 

 「敢えてこのパートの解説にうちと笹戸さんの組み合わせをぶつけるあたり、作者さんの性格の悪さいうか、下劣さが出てますよね」

 

 「そりゃ自分で自分がメインのところを解説した方が分かりやすいからね。ここから先はずっとこんな感じだよ?」

 

 「うちももっと平和なシーンの解説編がしたかったです・・・前回もおしおき編してたんとちゃいますか?」

 

 「前回は袴田さんとやってたね。袴田さんがいるってことは、一章のおしおき編じゃないかな」

 

 「なんで解説編でまで死神ポジションみたいな扱いになってるんですか」

 

 「それを僕に言われても・・・」

 

 「いつもはおしおきが終わったら次に向けての盛り上げとか、今章で脱落していった人たちの回顧があるんですが、今回はいよいよ最終裁判に向けてモノクマからの挑戦ですね」

 

 「このモノクマは、五章やったら最終裁判っていう展開をはじめから決めてたみたいだね。黒幕の目的がそうだったわけじゃなくて、ただそれまでのコロシアイの模倣だったんだけど」

 

 「展開上たまたまそうなったわけでもなくて、敢えてそうするっていうところが、模倣感を強めてますね。笹戸さんと一緒で、外側だけを繕って中身が全く整ってないです」

 

 「別にそれをテーマにしてるわけじゃないんだけど、なんか僕と黒幕で通じるところができちゃったね」

 

 「やっぱサイコパスなんちゃいますか?」

 

 「もういいってそれは!っていうかサイコパスだったとしても別に人を傷付けなきゃいいでしょ!?」

 

 「傷付けたところを振り返ってきましたけどもね。結局今回だけでは笹戸さんを反省させることはできませんでした。あきませんねこれは。もっと強い刺激が必要みたいです」

 

 「安易にエスカレートさせていかないで」

 

 「これを見てはる皆さんも、こういう檻があるところなら笹戸さんと一緒でも安全ですからね」

 

 「僕のことトラかなんかだと思ってる?」

 

 「チャドクガぁ・・・ですかね・・・」

 

 「また微妙に古いネタを・・・。って誰がチャドクガ!?通学路の草むらにわいて注意喚起される害虫じゃん!」

 

 「全国共通みたいに言いますけど、そないにメジャーちゃう思いますよ」

 

 「なんか今回の解説編、穂谷さんとやる以上に消耗した感じがする。精神的にも、肉体的にも・・・」

 

 「うちは前回と同じような感じでした」

 

 「嫌だった?」

 

 「はい、嫌な気持ちにはなりました。全部が全部そうやってわけでもないですけど」

 

 「そうなの?」

 

 「そりゃうちかて、記憶を取り戻す前の笹戸さんのことは悪く思うてなかったんですよ。今回でちゃんと反省してくれたら、また一からやり直そうとも思てたんです」

 

 「そ、そうだったの・・・なんかものすごく惜しいチャンスを逃した気がする」

 

 「やからうちとしては、ちゃんと反省してほしかったです」

 

 「今になってものすごく申し訳ない気持ちになってきた・・・後でオフレコの延長反省会する?」

 

 「いえ、意味がないのでやりません」

 

 「意味がないんだ・・・」

 

 「でもやっぱりこうやって誰かと膝を突き合わせてお話するんは嫌いやないです。それに、今はなかなかできないご時世になってきてますから、お話の中だけでもこういうことができるのは嬉しいことやと思います」

 

 「い、い、良い子だなあ・・・なにこの子。天使?」

 

 「まだボタンが押したりひんみたいやね」

 

 「ま、待って!待って!もう終わりだからせめて最後までいかせて!ちゃんと最後の挨拶したら何回でも押していいから!最後くらい決めさせて!」

 

 「処刑を待つ身で厚かましい」

 

 「しょ、しょしょ、処刑!?いよいよそこまできちゃったの!?」

 

 「ほな早いところ終わりにしますか?うちはもうたくさんなんで、いつでもいいですよ」

 

 「言葉の端々に棘があるなあ・・・じゃ、じゃあ僕が〆るから、晴柳院さんからお別れの挨拶、どうぞ」

 

 「はい。それではここまで読んでくれはったみなさん、ありがとうございました。今回はうちの力不足で笹戸さんを反省させることはできませんでした。ごめんなさい。でもいつか、ちゃんとうちが皆さんの前で笹戸さんに土下座をさせるんで、信じていてください」

 

 「最近金融ドラマ観たのかな?」

 

 「それでは、ここまでのお相手は“みっこみこにしたります!”、晴柳院命と!」

 

 「(ボ、ボタン構えてる・・・)“キミは希望になるんだよ”、笹戸優真でした・・・」

 

 「それを最後の台詞に持ってくるところとか、ほんまにキショいです。ほな皆さん、またどこかで」

 

 【WARNING!!WARNING!!】

 

 「おんどりゃあゴルァ!!アリーヴェ・デルチだこの野郎!!」

 

 「うひゃあああああああっ!!」

 

 「さいなら〜」




今年はこれが更新納めです。
実はもっと早く書きあげていたんですが、間違って全部消してしまって悲しみの中、丸ごと書き直しました。
同じような話を書いたのに、全消し前とは全然違う展開になってしまいました。ポイントは押さえてるので、二人の掛け合いの違いだけですが。
それでは皆さん、良いお年を。

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