ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

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非日常編

 昨日は楽しかったけれど、今日も良い朝だわ、久し振りにすっきり目が覚めたんだもの。いつもミッドナイトくらいまでコーヒーと一緒にいるおかげだと思うのだけれど、寝付きが悪いのはバリスタの運命かしら。でももうキッチンに行かないと。今日もみんなのために美味しいコーヒーを淹れるのよ。顔を洗ってしっかりブラッシングもして、うん、リップもパーフェクト。さあ、キッチンで待ってるワタシの可愛いカップたちにたっぷりおめかしさせてあげないとね。

 廊下はちょっとだけ息が白くなるくらい寒かった。ワタシは小走りになって外に出て、ドアを開けてダイニングの中に入ろうとした。だけど後ろからいきなり声をかけられて、思わずぴくっとフリーズしてしまったわ。別にジョークのつもりではないけれど。

 

 「おい!」

 「きゃっ!・・・アー、ダイオ。グッモーニン。急にびっくりしたわ」

 

 声をかけてきたのはダイオ。いつもワタシより早く眼を覚まして、ワタシがダイニングでモーニングコーヒーを淹れるころを狙ってコーヒーに合わせるスイーツを食べに来るんだったわ。なんだか、サンドウィッチのパンくずを食べにくる小鳥みたいでキュートだから、ワタシはウェルカムなのだけど。けれど今日はずっと早く来たのね。

 

 「どうしたの?まだコーヒーもスイーツも用意してないわ」

 「マジか・・・ってそうじゃねえや!あの、あのあれ!おれどうしたらいいかわかんねえんだよ!」

 「あれ?なんのことかしら」

 「と、とりあえず来てくれ」

 

 そう言ってダイオはワタシの手をとって引っ張っていった。ちょっと乱暴だけど、いつもキッズみたいな子なのに急に男らしさを見せられてちょっとハートが跳ねたり・・・なんてね。

 でもそんな余裕は一瞬で消えていってしまった。ドミトリーの陰に隠れて見えなかった道、ワタシたちのメイン・ストリートの真ん中に、それはあった。遠くから見ただけでもすぐに分かる。どうして分かってしまうのかしら、もう見たくないと思っていたのに、こんな形で、それも・・・仲間のそんな姿を見ることになるなんて。

 

 「・・・・・・アァ・・・!?」

 

 目にしたものとは正反対に、ワタシの頭からは血が消えていった。海の波の引きが強いほどビッグウェーブがくるみたいに、引いていった血の気が連れて戻ってきたのは自分でも信じられないような寒気だった。

 どうして?なんでこんなことに・・・ああ、どうか悪い夢なら覚めて。ワタシはこんな世界にいる場合じゃない、早く眼を覚まして、みんなのモーニングコーヒーを用意してあげないといけないのに。どうして・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ピンポンパンポ〜〜〜ン!オマエラ、緊急招集です!多目的ホールにお集まり下さい!ライナウッ!ライナウッ!ライナ〜〜〜ウッ!!』

 

 またモノクマの放送で叩き起こされた。なんだってんだちくしょう。どうせ起こすならもっと遅い時間に起こせ。わざわざモノクマの方も早起きしてまでなんでこんな放送してんだ。無駄なことしやがって。そう思いながら俺は時計を見た。なんだよまだ六時半にもなってねえじゃねえか。

 

 「ん?」

 

 なんだこの違和感は。時計は秒針までしっかり動いてる。たぶん普通通りに動いてる。じゃあなんなんだこの違和感は?

 

 「清水クン!清水クン大変だよ!清水クンってば!」

 「あ?」

 

 また曽根崎か。もう声だけで分かるようになっちまった。まだ俺に絡んでくるのか。けどなんだかいつものあいつと様子が違う。こんな言い方、俺があいつのことよく知ってるみてえで気持ち悪いが、でもなんか違う気がする。でも俺は不機嫌そうな顔を作ってドアを開けた。

 

 「うるっせえな。なんだ朝から・・・」

 「キ、キミ放送聞いてないの?とにかく大変なんだよ!早く来て!」

 「放送ってなん・・・うおっ!お、おい!?」

 

 そう言うと曽根崎は俺の腕を掴んでどんどん部屋を離れてった。その言葉を聞いてようやくさっきの違和感の正体が分かった。あいつの放送はいつも朝の七時のはずだ。六時半より前に起こされるわけがねえ。じゃあ、あの放送はなんだったんだ?夢か?

 曽根崎は宿舎を出たかと思うと、食堂じゃなくて中央通りの方に向かってった。いつの間にかここでは、南北のでっかい道をそう呼んでた。そこにはもう既に割と人がいた。けどその人だかりの外からでも、その注目を集めてるものははっきり分かる。それぐらい目立つ赤色をしてたんだ。

 

 「・・・」

 「だれが・・・・・・こんなことを・・・?」

 「酷いな・・・」

 

 中央通りの隅、山の斜面のすぐ前のところに、そいつはいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周りに散らばった土や木の枝は自然界にはない赤色に染まってて、そいつの首から上も同じものに塗れてる。けどそっちは周りに散ってるものよりずっと鮮やかで、見るだけで同じものが体から奪われていくような感覚を覚えた。赤い塊に大きく開いた三つの穴は苦痛に歪み、消えていく命に沈みながらも、俺たちにそいつが何者なのかを示してる。

 

 「・・・飯出・・・・・・・・・なのか・・・・・・?」

 

 一目見るだけではっきり分かるほど派手に、無残に、凄惨に、“超高校級の冒険家”飯出条治はそこで死んでいた。虚ろな眼は焦点が合わずに地面を睨んで、裂けるぐらい開いた口から舌がだらしなく垂れてる。少し風が吹いたら血で固まってない髪がそよそよ揺れるだけで、瞬きもしない。

 

 「なんてことじゃ・・・!」

 「飯出君・・・・・・なんてむごい・・・」

 「オマエラ!何してんの!?早くホールに集合してよ!集団ストライキなんてされたらさすがのボクでも困っちゃうよ!」

 

 その凄惨な姿を前に呆然とする俺たちの後ろから、あの苛立つ声が聞こえてきた。反射的に振り返ると、モノクマがいつもの不細工な笑顔でそこに突っ立ってた。

 

 「っ!いやあああああああああっ!!!」

 「ちょっ!み、みこっちゃん!落ち着きなってば!」

 「貴様・・・モノクマ!これはどういうことだ!」

 「はにゃ?どういうことってどういうこと?質問するときはちゃんと何が分かんないのかを伝えないとダメだよ、六浜さん」

 「ふざけるな!!飯出を殺したのはお前だろう!!あれはお前がやったのだろう!!」

 「あらやだ奥さん、飯出さんとこの条治くんってば死んじゃったの?昨日まであんなに元気にしてたのに、人生って分かんないものねえ」

 

 もともとの気質のせいもあるがこんな状況のせいで晴柳院がビビりまくって、六浜は余裕なく怒鳴り散らす。それでもモノクマは煽るようなことを言いやがる。

 

 「冗談はさておき、まあここでもいっか。みんな揃ってるみたいだし」

 「な、なに始めるつもりだコノヤロ!」

 「始めるのはボクじゃなくてオマエラだよ。っていうかちゃんと人の・・・クマの話は最後まで聞くもんだよ!」

 

 そう言うとモノクマは六浜の横を通ってどんどん飯出に近付いてく。そしてその目の前でくるりと回って、全員に聞こえるような大声で言った。

 

 「ピンポンパンポ〜〜〜ン!死体が発見されました。一定の自由時間のあと、学級裁判を始めます!」

 「はあ?」

 「これからオマエラには、飯出くんを殺した犯人捜しをしてもらいまあす!オマエラを裏切って、自分だけ外に出ようと飯出くんを惨殺したにっくきクロをね!」

 「犯人捜し・・・だと?」

 

 何を言ってんだこのクマ。裁判?犯人捜し?どういうことだ?

 

 「これからの自由時間は捜査や取り調べにあてるといいよ!この後に行われる裁判では、そこで得られた情報が、文字通りオマエラの命を左右するんだからね!それと、ボクからプレゼントもあげちゃいます!後で電子生徒手帳を確認しておいてね!」

 「ふ、ふざけんなこのブサぐるみ!どうせあんたが殺したんだろ!」

 「ぷん!失礼しちゃう!ボクは規則違反をした奴には厳しいけど、そうでない生徒に危害を加えることはないんだよ!」

 「・・・それを信じろというのか?」

 

 モノクマはどんどん話を進めてくが、俺たちには何が何だか分からん。どういうことだ?飯出はモノクマに殺されたんじゃねえのか?この中の誰かが飯出殺しの犯人?俺らでそれを捜し当てる?何を言ってんだこいつは。

 

 「うぷぷぷぷ♫みんなのリーダーだった飯出くんが殺されて動揺してるねえ。しかもその飯出くんを殺したのは自分たちのうちの誰かだなんて、これこそまさに『絶望』だよね!ぶひゃひゃひゃひゃ!」

 「お前は俺たちに何をさせようと言うんだ」

 「馬鹿でもあるまいし、何度も聞かないでよね」

 「・・・」

 「この合宿場から希望ヶ峰学園に帰れるのはたった一人だけ。誰かを殺してみんなを欺いたクロの一人だけ!クロは希望ヶ峰学園に帰るために、みんなはクロが希望ヶ峰学園に帰るのを阻止するために、命懸けでその権利を奪い合ってもらうって寸法だよ!こんなスリリングなことないよ!ワックワクのドッキドキだよね!うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ!!ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

 「あっ!」

 

 ふざけた笑い声を残して、モノクマは消えた。後に残ったのは、もう二度と動くことのない飯出と、呆然とする俺たち。あいつは、俺たちにとって受け容れがたい事実を平然と言ってくる。飯出が死んだなんて。

 

 「・・・」

 「何をするつもりだ、古部来」

 

 六浜が冷たく言った。古部来は懐から取り出したたすきで袖を縛って動きやすい格好になって、飯出に近付いていった。いつもより顔は青ざめてるが、その目は真剣で本気だ。飯出の前にしゃがむと、勢いよく両手を合わせて飯出を拝んだ。

 

 「調べさせてもらうぞ、飯出」

 「なぜそんなことをする」

 「奴は最初に言った。いつでも本気だと。そしてあいつは、捜査が俺たちの命をも左右すると言った。これまでの奴の言動、あの映像、そしてこの事件。これほどの材料が集まっていて、何も分からないとは言わせんぞ、予言者」

 「・・・そうか」

 

 勝手に二人だけで会話済んじゃねえ。けど古部来の言おうとしてることは分かる。モノクマの言うことはまず間違いなく、今後本当に俺たちがやらなきゃならないことだ。どう俺たちの命が関わってくるのかは分からんが、捜査はしなきゃならんだろう。そして飯出殺しの犯人がモノクマでないとなると、答えはひとつだ。

 

 「みんなには申し訳ないが・・・聞いてくれ。飯出を殺した犯人は・・・どうやらこの中にいるらしい」

 「ちょっ・・・!?六浜ちゃん本気!?」

 「外部との交通が遮断された状態じゃし、モノクマが言うとったことからも・・・それは本当なんじゃろうな」

 「こ、この中に・・・殺人鬼がいるってのかよ!?マジか!?」

 「待ってよみんな!そんなこと・・・」

 「聞けぃ!!」

 

 六浜の言葉でまた俺たちは軽くパニックになる。けどこうしてる間にも時間はじりじりなくなってく。モノクマは一定時間としか言ってない。今すぐ終わってもあいつの気まぐれで通されそうだ。それを分かってるのか、六浜も強引に他の奴らを黙らせた。

 

 「事実だけを言おう。我々はその潜んだ犯人を突き止めなければならないようだ。そのためには捜査が必要だ。協力してくれ。飯出のためにも・・・」

 「・・・ボクは捜査するよ、六浜さん」

 

 俺の手を握ってた曽根崎はいつの間にかそれを離して言った。いつもは無理矢理俺を巻き込むくせに今そうしないのは、俺のことを気遣ってんのか?それとも単にふざけてる場合じゃねえって分かったからか?でも断る理由なんかない。どこの誰かも分かんねえ人殺しのせいでモノクマのおもちゃになってるなんて、考えるだけでムカつく。

 

 「私も協力を表明する。狭空間における不明瞭な事象の解明は最優先事項だ」

 「あ〜っ、しゃあねえなあ。まあ飯出に触んなくていいなら・・・」

 「・・・なにもせんと飯出さんの霊魂が化鬼するかもしれませんので・・・・・・お、お清めはさせてもらいます」

 「みこっちゃんマジだいじょぶ?ムリしない方がいいよ」

 

 曽根崎に続いて他の奴らも六浜に協力すると言い出した。どっちにしろ人殺しとこれから先、共同生活なんてごめんだ。どいつが犯人なのかは俺もはっきりさせたい。俺は特に何も言わねえが、協力だけはしてやる。そういう意味で一歩前に出た。

 

 「・・・ありがとう、お前たち。古部来、手を止めろ。捜査方法について私から提案がある」

 「言ってみろ」

 「全員の個室を捜査対象とする。ただし、その部屋の主以外が捜査をすることだ」

 「ん???ど、どういうことだ???なんでへや???」

 「犯人の部屋ならば何か証拠品が残っている可能性が高い。些細な異常に気付きやすくするため、また証拠隠滅を防ぐため、まずそれぞれが別の人間の部屋を調べてくれ」

 「せめて同性の部屋にしませんこと?男性がわたしの部屋にあがるなんて、考えるだけで鳥肌物です」

 「・・・まあいいだろう。その代わり、徹底的にやってもらうぞ」

 

 提案っていうのは、ここにいる全員の協力が必要だけど全員を疑ってるからこそのものだった。矛盾してるような気もするが、まあ合理的っちゃあ合理的だ。人が死んでんのによくここまで冷静に考えられるもんだな。

 その後少し話した結果、飯出の部屋は後で何人か連れで捜査することにして、名前順をずらして捜査することになった。俺が笹戸の部屋を捜査するってのは別にいいんだが、俺の部屋を曽根崎に捜査されるってのは気持ち悪い。証拠なんて何もないが、あいつが俺の部屋に入るってこと自体が嫌だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 笹戸の部屋はこれといって特に何もなかった。釣り関連の本とか道具、釣り竿を入れるためのゴルフバッグにバケツ、タンスの中には救命胴衣まで入ってた。凶器になりそうなもんっつったら釣り針くらいだろうな、釣り糸じゃ血はでねえだろ。っつうか笹戸みてえな弱そうな奴が飯出を殺せるとは思えねえし、笹戸が犯人だとしても部屋に証拠品なんか残さねえだろ。

 

 「・・・捜査かあ」

 

 具体的に何をすりゃいいのか分からん。部屋の捜査をしろってんなら怪しいもんを探すぐらいだが、いきなり外に放り出されて捜査しろって言われても。何気なく宿舎の廊下を見渡してたら、隅っこで頭を抱えてる晴柳院がいた。めんどくせえが、取りあえずきいてみることからか。ようやく曽根崎のしつこさが意味を成す時がきた。

 

 「おい」

 「ひゃああああああああああああああっ!!?」

 「ぁんだよデケえ声出して・・・」

 「ご、ごめんなさい!清水さんやったんですか・・・物の怪かと」

 「は?」

 「あっ、あっ、清水さんがそうやいうわけやなくて・・・これ」

 「なんだよ」

 

 こいつどんだけビビってんだよ。さすがに俺も落ち着いてるってのに、晴柳院はまだ指の先までぷるぷる震えてる。その指で指したのは、廊下の隅っこにあるくしゃくしゃの紙だ。人の手で曲げたっていうか自然となった感じだな。

 

 「ここに来てから毎日、盛り塩をしてたんです。うちの部屋、宿舎の鬼門にあたるから・・・。でも、今朝になったら塩がちょっと消えとったんです!これは間違いなく強力な凶神がこの場所に降りたいうことです!」

 「そうかい」

 「清水さんも気をつけてください。もしかしたら飯出さんの霊魂が化鬼して、それが清められてもうたんかも分かりませんので」

 「・・・くだらねえ」

 

 またぶつぶつ経文的なもんを読み上げ始めた晴柳院とは、これ以上話してても意味なさそうだ。こいつから有益な情報は得られないと分かったのが情報だ。宿舎の外に出ようとすると、飯出の部屋を捜査してる六浜がいた。もう自分の割り振られた部屋を捜査し終わったのか。だけど六浜は部屋の外でもどかしそうにしてるだけで、中に入ろうとしない。

 

 「めぼしいものはないか」

 「そのようですね。タンスの中も異常はありませんでした」

 「僕も特に気付いたことはないかな・・・」

 「・・・そうか」

 「なんで自分でやらねえんだ」

 「むっ、清水か。お前は終わったのか」

 「終わんなきゃここにいるわけねえだろ。で、なんで自分でやらねえ」

 

 部屋から出て来た鳥木と笹戸の報告を受けて六浜は少し残念そうに肩を落とした。俺があえて棘のある言葉で追究してみると、六浜はすぐ動揺した。こいつマジでチョロいな。

 

 「ほ、呆け者!男子の部屋は男子!女子の部屋は女子が捜査すると決めただろう!私にだけそのルールを破れというのか!」

 「六浜さんは、自分で男子の部屋を物色することに耐えられないようです」

 「・・・」

 

 また例のむつ浜か。もういい、どうせ意味のある情報がないならこれ以上ここに居続けても意味はない。俺はさっさとそこを離れて宿舎の外に出た。俺は次に食堂を見に行った。どこに何があるか分かんねえから一応見ておくだけだ。

 

 「・・・カケル」

 「なんだ。なんかあったか」

 「・・・」

 「やあやあ清水クン。キミがしっかり捜査するなんて意外だよ。てっきり部屋にこもって呼ばれるまで寝てるとでも言うと思ったからね!」

 「・・・ちっ」

 

 もうこいつと会っちまった。こんな気分でこんな風に絡まれたらぶっ殺したくなっちまうが、今はそんなこと冗談でもいえねえ。飯出まで俺が殺したと思われたらたまったもんじゃねえ。

 

 「何か証拠的なものは見つかった?」

 「まだ部屋しか探してねえ」

 「そう。じゃあボクとアニーサンで見つけた情報、聞く?」

 「黙って教えろ」

 「おっ!清水クンは探偵の素質があるのかな?いつもと違ってやけに積極的じゃないか!広報委員のボクはともかくとしてキミが情報をあつ」

 「お・し・え・ろ」

 「はい」

 

 頼むからこれ以上ムダな口をきくな。本当にぶっ殺したくなる。っていうかこいつはなんでこんないつも通りに振る舞える?もしかしてこいつが殺したのか?だから平然とできんのか?

 

 「実はさ、キッチンの包丁が足りないんだよね。一本だけ」

 「・・・包丁」

 「昨日の料理当番はアニーサンでしょ?だから聞いてみたんだけど、料理を作ってる間はちゃんと揃ってたんだって」

 「一番小さいフルーツナイフがなくなってたわ。昨日のディナーの前は絶対に揃ってたけれど、片付けの時にはもうなかったわね。洗い物があったし他のナイフもシンクにあったから気にしなかったの」

 

 壁に掛けられた包丁は10本くらいで、それぞれ大きさや種類が違ってて、料理によって使い分けるらしい。なくなったのは一番小せえやつ、果物ナイフか。

 

 「モノクマファイルによると死亡推定時刻は真夜中の二時頃。遺体の頭部には数ヶ所の刺し傷と全身に切り傷。凶器はそのなくなった果物ナイフだろうね」

 「待て、なにファイルだ?」

 「モノクマファイル。生徒手帳に追加されてたんだ。飯出クンの遺体の状況について簡単に載ってるよ」

 「・・・マジか」

 

 曽根崎に言われて生徒手帳を調べてみたら、マジでそんなのがあった。開くと飯出の死体の写真とそれについての情報、警察が調べるようなことじゃねえかこれ。俺たちには入手しがたい情報だけど、モノクマがそれを提供するってのはなんなんだ。あいつは俺たちと人殺しのどっちの味方なんだ。だがとにかく、凶器が分かったのはデカいだろうな、たぶん。

 

 「それ以外に怪しいところはないね。清水クン、よかったらこの後」

 「断る」

 「断られてもついて行く!」

 「・・・」

 

 じゃあ最初からきくな。勝手についてくる曽根崎を無視して、俺は食堂を出た。すると渡り廊下で、さっきまでいなかった穂谷と鉢合わせた。こいつですら外に出て捜査してんのか。

 

 「やあ穂谷サン」

 「あら・・・・・・曽根崎君と清水君でしたわね」

 

 ずいぶん間があいたな。まあこいつからしたら俺も曽根崎も覚えるに値しない道ばたの小石なんだろうな。今更それに腹立てる気すら起きねえ。

 

 「ボクたち捜査しなきゃだから今は失礼するよ」

 「お待ちなさい」

 「うん?」

 

 俺が無視して行こうとすると、穂谷が後ろからいつもより強めな口調で呼び止めた。あの『女王様』が俺を呼び止めるなんて、珍しいこともあるもんだ。振り返ると、穂谷は自分の足下を見てた。俺と曽根崎の視線も自然とそれにつられて下に向く。

 

 「あ?」

 「これはなんでしょう」

 「・・・水かな?」

 「正しくは水滴の跡、です」

 「そうだね。で、これはなんだい?」

 「いえ別に。重要なものかも知れないので証人が欲しかっただけです。もう行ってよろしいです」

 「あ・・・ああ、そう。ありがとうね穂谷サン」

 

 なんでこいつはいつもと同じ調子で喋れるんだ、俺たちをムカつかせてどうするつもりだ。曽根崎は相変わらずへらへらしながら受け流して、さっさとそこを離れた。その時になぜか俺のパーカーをひっつかんで、多目的ホールの方に向かいやがった。

 

 「なっ・・・なんだテメエ!離せ!」

 「まったく清水クンは。捜査っていうのはみんなが注目するところだけ見てればいいわけじゃないよ」

 「はあ!?」

 「飯出クンの遺体があったのは中央通り。自然と注目や注意はそっちに集まる。でも実際は、重要な証拠っていうのはみんなが注目しない方にあったりする。その方が犯人にとっても都合がいいしね」

 「だったらテメエだけで捜査しろ!俺を巻き込むな!」

 「一人より二人、だよね」

 「分かった分かった!分かったから離せボケ!」

 

 そう言うとようやく解放された。マジでこいついつかぶっ殺す、口にはしないが俺は心に誓った。それだけは全身全霊で誓う。何か証拠があるかなんて分かんねえが取りあえずホールに向かった。

 

 

コトダマ一覧

【盛り塩)

場所:宿舎の廊下

説明:晴柳院が、毎日部屋の前に供えていた盛り塩が一部消えていた。下に敷かれていた紙はくしゃくしゃになっていた。

 

【なくなったナイフ)

場所:キッチン

説明:事件前日の夕飯から当日の朝にかけて、キッチンの包丁が一本なくなっていた。なくなったのは一番小さな果物ナイフ。

 

【モノクマファイル1)

場所:なし

説明:被害者は飯出条治。死亡時刻は午前二時半頃。死体発見現場となったのは中央通りの展望台下辺り。大量出血による出血性ショック死であり、被害者の首から頭部にかけて複数の刺し傷がみられ、肩から先には切り傷もある。また、全身を打撲しており手首や胸を骨折している模様。

 

【水滴)

場所:渡り廊下

説明:多目的ホール側の地面に残っていた水滴の跡。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まずは医務室から見ていこうか」

 「・・・」

 

 モノクマの捜査資料と他の奴らの探した証拠品がありゃあなんとかなるんじゃねえのか。わざわざこんなとこまで足運ばせて、面倒くせえ奴だ。見てみろ、誰も来てねえじゃねえか。

 

 「うん、ぱっと見たところ何も怪しげなところはないね」

 「だから言ったろ」

 「冷蔵庫の血液パックにも、薬品棚の瓶も特に異変はなさそう・・・かな」

 「無駄足だ」

 

 医務室なんて最初にちょっと覗いたくらいでろくに覚えてねえ。知らねえもんをいくら調べても意味なんかねえだろ。あちこちいじり倒す曽根崎は,最後にベッドを見て両手を挙げた。

 

 「うん、医務室は何もない。これも立派な情報だよ」

 「何がだ」

 「今回の事件とは関係ないということは、犯人の行動範囲は医務室に及んでないってこと。誰かのアリバイの根拠になり得る」

 「事件は夜時間だ。医務室にいても怪しいだけだろ」

 「そりゃあね。でも印象は大事だけど、事実は揺るがない。それは捜査の大前提だよ」

 

 何言ってんだか。事実が事実だって言える根拠もねえのによくそんなこと言えるもんだ。ま、それくらいの誇張がなきゃ広報委員なんてやってらんねえか。

 

 「それじゃ、次は多目的ホールだね」

 「まだ行くのかよ」

 「当たり前だよ。医務室より・・・むしろ多目的ホールの方が色々ありそうだからね」

 

 危険なものっつったら、ここには毒とか注射針とかも置いてあるだろ。ホールにある危険なものっつったら金属バットかそこら。っつうか飯出を殺した凶器は果物ナイフだってさっきテメエが言ってただろうが。何を調べてんだこいつ?

 取りあえず取りあえずっつって多目的ホールまで来たが、ここにも特別なにかあるわけじゃねえだろ。

 

 「もういいだろ」

 「そうかな?ボクはこここそ臭うけどね。じゃあ手分けして捜査しようか」

 「は?」

 「ボクは外の掃除用具と舞台を調べるから、玄関ホールをよろしく」

 

 調べろっつっても何を調べるっつんだよだから。そんなこと言う暇もなく、曽根崎はさっさと行っちまう。玄関ホールをどう調べればいいんだか。あるのは鉄の引き戸と両脇の靴箱、それから簀の子ってとこか。何が落ちてるわけでも何がなくなったわけでも・・・ん。

 

 「ん?いち、に、さん・・・」

 

 おかしい。確かモノクマは、16足あると言ってた。けど今この玄関ホールにある運動靴は、それには足りてない。

 

 「14足。二つ足りねえ」

 

 別にそれぞれに名前が書いてあるわけじゃねえし、足のサイズもバラバラだ。なくなったのがどんなサイズかは分からねえが、確かになくなってる。もしかしたら事件に関係あるかも知れねえな。曽根崎の言う通りだったのが癪だが、覚えとこう。

 

 「どう、清水クン?何か見つかった?」

 「くつ」

 「靴?・・・ああ、なるほど。これはいかにもって感じだね。こっちも発見あったよ。掃除用具のバケツに、一つだけ使った跡があった。具体的に言うと、このバケツ」

 

 持ってきたのかよ。バケツの底を見てみると、確かに新品とは思えないところが何個かある。底のところに水垢みたいに砂が付いてて、特に目立つのが端っこに付いた緑色の細いもの。なんだこりゃ。

 

 「藻だね」

 「藻か」

 

 ただの藻か。だが藻が付いてるってことは、掃除に使ったわけじゃなさそうだな。やっぱ癪だが、曽根崎の言う通りこっちまで捜査に来た甲斐はあった。

 

 

コトダマ一覧

【運動靴14足)

場所:多目的ホール・玄関ホール

説明:モノクマが用意した16足の運動靴のうち、2足がなくなっていた。

 

【使用済みのバケツ)

場所:多目的ホール・掃除用具置き場

説明:バケツのうちの一つの底に砂や藻が付いていた。他のバケツに同様の付着物はないため、事件に関係していると考えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホールの方の捜査が終わったからもういいだろ、と思ったが、どうにも気になるから飯出の死体を見に行くことにした。曽根崎は俺のフード引っ張る気まんまんでいたのか、意外そうに声を漏らすから振り返って睨んだら手を引っ込めやがった。次引っ張ったら折る。

 中央通りに戻ったら、やっぱり飯出の死体はあった。最初に見つけた時と同じように、うつ伏せのまま倒れてるせいで頭は血と泥と草に塗れてる。直接それを捜査できる古部来はどういう神経してんだ。モノクマファイルもあんのに死体に触る必要があんのか?遠巻きに周辺を捜査してる明尾と有栖川が、なるべく死体を見ないようにしてる。

 

 「やあみんな。捜査の進捗はどう?」

 「・・・とても笑っていられる状況ではない」

 「そ、そうだよね。ごめんごめん。質問する時に笑っちゃうのはクセなんだ」

 「よく触れんな。モノクマファイル知らねえのかよ」

 「ふん、馬鹿が俺とまともに議論できるようにする程度のものだ。鞘無しの将は犬にも伏せる、況んや太刀を要さぬ足軽がいようか」

 「あ?」

 

 わけの分かんねえ言い回ししやがって。さり気に俺のことを馬鹿にしやがったな。

 

 「そこまで言うんだったら、何か見つけたんだろうな」

 「・・・馬鹿にはもったいない重要な証拠を見せてやる。死んだ飯出が持っていたものを取り出した」

 「所持品か。重要な情報かも知れないね」

 

 飯出の所持品か。そういや前からことあるごとに色々持ち歩いてた奴だったな。なんで持ってんだか分かんねえくらいわけ分かんねえもんまであって、なんでも入る超次元ポケット並にバリエーションがあったもんだ。並んでるもんは全部血が付いてたが、どうも使ってはねえみてえだ。

 

 「え〜っと、制汗スプレー、ミント味の清涼菓子、ポケットティッシュ。それから・・・あらまあ」

 「・・・?なんだこれ」

 「え・・・清水クン知らないの?」

 「だからなんだよ」

 「避妊具だ」

 「コンドームってやつだよ!コンドーム!」

 

 へえ、初めて見た。ってそうじゃねえ。なんであいつはこんなもん持ってんだ?あとなんで古部来は呆れ顔で俺を見て、曽根崎はにやつきながら俺を見てんだ。眼鏡叩き割って破片で目潰すぞこの野郎。

 

 「いやあ、清水クンって意外とピュアッピュアなんだね!もしかして、赤ちゃんはコウノトリさんが運んできたり手を繋いで寝たら妊娠するものとか思ってあぶない!!」

 「避けんじゃねえ」

 「なんで今のタイミングで目突こうとするの!?怖いよ!怖すぎるよ!」

 「捜査の邪魔だ。馬鹿共は失せろ」

 「いま古部来クンの中でとうとうボクが馬鹿にランクダウンした音がしたよ」

 

 うるせえなこいつ。

 

 「これのどこが重要な情報だ」

 「分からんのならもういい。これ以上お前たちと話すのは無意味なようだ」

 「ボ、ボクは聞く気あるよ!もうない?」

 「・・・一つある。これだ」

 

 そう言うと、古部来は紙切れを取り出した。もともと個室に置いてあったメモらしい。ぐしゃぐしゃに丸められた折り目と端に付いた真っ赤な血が目立つ。何か書かれてるな。

 

 「なにこれ?」

 「『飯出くんへ。二人きりで大事なお話があります。夜中の二時に展望台に来てください』。ここまで言えば馬鹿にも分かるだろう」

 「なるほど。これはいかにも事件に関係ありそうだね。しかも重要なやつ」

 「俺が見つけたのはこれくらいだな」

 「うん、色々と情報提供ありがとう古部来クン」

 

 ようやくこいつの気が済んだか。古部来もよくもまあ馬鹿と言いつつここまで色々教えたもんだ。これもこいつの“才能”なのか?巧みな話術で情報を引き出すとか・・・そんなわけねえか。穂谷もそうだったが、この状況下で情報を共有することは自分が犯人でない表明にもなる。証拠を見つけ出すってことはそういうことだろ。

 古部来への聞き込みを終えて、飯出に関してもうこれ以上情報はないと判断して戻ろうとしたが、一応近くにいた有栖川と明尾にも話を聞いてみることにした。そしたらまた曽根崎は慌てて手を引っ込めた。曽根崎の隙をつくのは難しそうだが、折るチャンスはそのうち来そうだ。

 

 「なんじゃ、清水はずいぶんと積極的に捜査するんじゃな」

 「悪いか」

 「なんつうか・・・意外。アンタってこういうのもなんか・・・どうでもいいって考えてるって思ってたから」

 「どうでもいいわけあるか、人殺しだぞ」

 「それを聞いて安心した。わしゃ今の今まで、てっきりお前さんは感情を持たない地底人の一種か何かかと思っとったぞ」

 

 それは冗談で言っているのか・・・?いくらなんでも空気読めなさ過ぎだろ。つか曽根崎もそうだが、俺が捜査するのが意外か。まあ自分でもそう思われても不思議じゃねえとは思うが、明尾はひでえな。頭の中が残念過ぎるだろ。

 

 「なみみん・・・それマジで言ってんの?」

 「んなわけなかろう」

 「そ、それより、二人は何か捜査の成果はあった?どんな些細なことでもいいんだけど・・・」

 「アタシは特にない・・・っていうか、そんな余裕ないよ。普通」

 「わしもじゃ。じゃが、強いて言えば一つある・・・」

 「なになに?」

 

 多目的ホールで証拠っぽいもんがあったくらいだからこっちもなんかあるかと思ったが、そこまであっちこっち行かねえか。明尾が気付いたことってのもあんまり重要そうじゃねえが、曽根崎は興味津々だ。俺も一応聞いておく。

 

 「現場の状況じゃが、他の場所と比べてこう・・・荒れとるとは思わんか?」

 「そうだね。それが気付いたこと?」

 「いかにも。土が見えたり枝葉が散っていたり、ただ誰かが暴れた以上の何かがありそうじゃ。まあ、さして重要とは言えんな。わしの見る目もまだまだか」

 「いや、そんなことないよ!きっと大きな証拠になるはずだよ!」

 「曽根崎、アンタうるさいよ」

 

 やっぱりか。そりゃ死体があんだから荒れてて当然だろ。殺しのあった場所だぞ。どっかで殺して持ってきたってんならまだしも、殺しがあったんならそれなりに犯人と飯出が暴れたはずだ。

 

 「二人ともありがとうね。じゃあ引き続き捜査よろしく」

 「うむ」

 

 俺は曽根崎がそう言うのを待たずしてさっさと宿舎の方に歩きだした。こっちの方には何もねえ。曽根崎もそれを分かってるらしく、フードを引っ張られることはなかった。

 

 

コトダマ一覧

【飯出の所持品)

制汗スプレー、ミント味の清涼菓子、ポケットティッシュ、避妊具など。いずれも使用した形跡はない。

 

【メモ)

飯出が持っていたメモ。「飯出くんへ。二人きりで大事なお話があります。夜中の二時に展望台に来てください」と書かれている。ぐしゃぐしゃに丸められた折り目と一部に血液が付着している。

 

【荒れた地面)

飯出の死体の周辺は、土や草や枝葉で散らかっていた。自然に散らかったのではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからまた分かれ道に戻ってきたところで、俺は気配を感じて後ろを振り返った。また曽根崎は手を引っ込めた。これで三度目だ。いい加減に腹が立って曽根崎に言ってやった。

 

 「テメエ、いい加減にしろよ。次フード引っ張ったら腕折るぞ」

 「じゃあ清水クンももっとちゃんと捜査しなくちゃ。まだ調べてない場所があるでしょ」

 「あ?」

 「展望台。さっきのメモにも書いてあったでしょ?」

 

 ああ、そう言えば古部来が読み上げたメモの中に展望台が出て来たな。ってことは、そこも事件と何か関係あんのか?だったら捜査しといた方がいいかもしれねえ。少なくとも曽根崎に目を付けられた以上は逃げられねえな。

 

 「さっさと済ますぞ」

 「乗り気だね清水クン!」

 

 乗り気じゃねえ、うんざりしてんだよ。テメエが俺の後を勝手について来てやかましくガタガタ言うからな。ともかく展望台を調べりゃこいつもいい加減に気が済むだろ。俺は山道に足を踏み入れた。

 山道を登っていく途中で、妙な姿を目撃した。新手の未確認生物かなんかかと思ったら、道に這いつくばってうろちょろしてる滝山だった。何やってんだこいつ。コンタクト落としたとかじゃねえよなまさか、こいつがそんなもん使えるとは思えねえし。

 

 「あれー?何やってんの滝山クン?そんなところに食べ物は落ちてないよ!」

 「ん・・・やっぱお前らか」

 「やっぱ?」

 「くつの音がしたから」

 

 もうツッコミたくねえ。確かこいつは“超高校級の野生児”だったな。聴覚も嗅覚も視覚も、人間並じゃねえってことか。家じゃあるまいし、足音で誰かなんか分かんねえだろ普通。

 

 「邪魔だ。どけ」

 「じゃまとはなんだじゃまとは。おれはそうさしてんだぞ」

 「は?」

 「このへんで犯人とかのしょうこがねえかとおもってな」

 「なんで山道?飯出クンの死体は中央通りにあったんだよ?」

 「う〜んと・・・なんでだったっけ?」

 

 なんで自分が捜査してる理由が分かんねえんだよ。大丈夫なのかこいつ。ともかく、俺は展望台に行きてえのにそこに這いつくばられたら邪魔だ。さっさとどけサル野郎。

 

 「で、捜査の結果はどう?」

 「う〜ん、じつはなんも見つかってねえんだ。血でもおちてりゃよかったけど、そしたら見なくても分かるしなあ」

 「あっ、そう。確かに山道はキレイなもんだね。足跡があるくらいだ」

 「おれは目とはなにはじしんがあるんだけど、なんも見つかんねえとなるとやっぱりここはいみねーのかなあ」

 「どうかな」

 

 なんだそりゃ、俺らに聞いてんのか?滝山の言いたいことが分からん。それに何も見つかんねえって、こいつこそ本当に役立たずだな。“才能”があっても、それを活かすだけの頭がなかったってわけだ。くだらねえ、こいつは本当にくだらねえ。

 

 「いいからどけ。汚えかっこしやがって、目障りなんだよサル」

 「むっ!きたねえのはしょうがねーだろ!これはモノクマのせいだ!」

 

 怒るとこそこなのか。けどモノクマのせいってなんだ?

 

 「え?どういうこと?」

 「きのう、メシのあとに体あらおうとおもってみずうみに行ったんだよ。そしたらモノクマに、しぜんをよごすなっておこられたんだ」

 「何しようとしたの滝山クン?」

 「なんもしようとしてねーよ!ちょっと水あびしようとしただけなのに、足のさきも入れさしてくんねーんだぜ?おかげできのうから体がかゆくてかゆくて」

 「ええ・・・本格的に汚いよ・・・。部屋のシャワーはどうしたのさ・・・」

 「つかいかた分からん!」

 「マジか」

 

 思わず言っちまった。けどシャワーの使い方も分かんねえ高校生なんていたのか、しかも希望ヶ峰学園に。レバー捻るだけで水が出るって知ったら、こいつどんだけ驚くんだ。っていうか昨日モノクマに言われたってことは、もともとここに来てからの三日間は体洗う気すら起きなかったってことか。昨日普通に同じ場所でメシ食ってた時に知らなくてよかった。

 

 「自然を汚す行為は規則違反だったね。まあシャワーもあるし、泳ぐんならまだしも水浴びする人がいるとはモノクマも思わないだろうね。季節的にも」

 「だからさ、あとでそのシャワーのつかいかたおしえてくれよ。しみずでもそねざきでもいいからよ」

 「わ、分かったよ。だからあんまり触んないでほしい・・・かな」

 

 さすがにこれには曽根崎もドン引きみてえだ。そりゃそうだ。こんな奴とは同じ建物にもいたくねえ。こっちにまで臭いと汚れが移りそうだ。そのうち病気になって勝手にのたれ死ぬんじゃねえのか。そんなことでまたこんな捜査する羽目になんのはゴメンだぞ。曽根崎は困りながら笑って、さっさと滝山を振り切って俺の後から山道を登ってきた。

 それからすぐに山道は終わって展望台が見えてきた。前にここに来た時は、確か飯出が、あのツタ植物の屋根がついたテーブルでこの辺りの地図を描いてたな。つい数日前のことだが、今となってはそれが遠い昔に感じる。少なくとも、あの時の状況を再現するなんてことはできなくなっちまった。

 

 「あら、あんたたちも来たの。ここは五人もいらないわ」

 「やあ石川サン。それに屋良井クンも。実は古部来クンから聞いて、ここに何か重要な証拠がないかと思って来たんだ」

 「ああ、思いっきりあるぜ。そこに」

 「・・・!」

 

 俺と曽根崎を迎えたのは、ポラロイドカメラを持った石川だった。展望台の写真でも撮ってたのか、手には何枚か写真が握られてる。その隣にいた屋良井が、なるべく目を向けないように指さした場所に、確かに重要そうな証拠がでんと構えてた。それを見て思わず小さく声を漏らしちまった。

 

 「うわ・・・これ、血痕だよね?」

 「ああ。たぶん飯出のだな。他にケガしてる奴なんかいねえし」

 「だいぶ散ってんな」

 「ええ。あちこちにね」

 

 展望台の地面には、飯出のものと思われる血の痕があちこちに散らばっていた。テーブル近くから山道との境目、広場の方までだ。出血した飯出が、この辺りを移動した痕跡だろう。

 なんつうか、生々しい。血って、こんなにくっきりと痕が残るなんて思ってなかった。それにこの有様からして、飯出は犯人に襲われながら逃げ回ったってことになるんじゃねえか?テーブルの辺りに比べて、広場の方は血の量が明らかに変わってきてる。

 

 「むごい・・・よね」

 「ああ」

 「あと、この辺りにこれが落ちてたぜ。たぶん飯出が使ったんだろうな」

 「懐中電灯だね。モノクママークがあるってことは、支給品か。こんなものあったんだ」

 

 屋良井が見せてきたのは、同じく血にまみれた懐中電灯だった。柄の部分に貼られたモノクマのステッカーがふざけた笑顔を見せてる。ステッカーだから当然だが、血を浴びながら笑ってるそれに少しだけぞくっとした。

 

 「気になる点はこれだけではない」

 「ん?あ、あれ望月サン。いつの間に」

 「最初からここを捜査していた。お前たちが気付かなかっただけだ」

 「ああ、そう。それは失礼」

 

 俺も気付かなかった。っていうかこいつ存在感なさ過ぎんだよ。ホールの時も、話しかけられるまで本当にこいつがいることに気付かなかった。それより、証拠はこれだけじゃねえっつったか。

 

 「他に何かあんのか?」

 「柵を見てみろ」

 

 そう言って望月は、展望台と斜面を隔てる杭とロープの柵を指さした。ちゃちいし低いから、あんまり頼りにならねえ。よく見ると、ロープにも血の痕がある。それにその血が付いてる部分の近くの杭も、他とは違う点があった。

 

 「血の痕と・・・この杭、ガタガタだな」

 「その通りだ。ロープに付着した血液はすぐ気付くが、よく観察するとこの杭が刺さっている穴は、この杭より明らかに太いのだ」

 「どういうこと?」

 「最初にここを捜索した際はこうはなってなかった。事件と何か関連があると考えられる」

 「う〜ん・・・覚えておくべきかも知れないね。ありがとう望月サン」

 「いや、曽根崎弥一郎に言ったのではない。清水翔に言ったつもりだったのだが」

 「え」

 

 どっちでもいいだろ。とにかくここにも不審な点はあったわけだ。俺らが調べるまでもなくこいつらが調べてるんだったら、わざわざ来る意味なんてなかったな。石川がその写真も撮るって言うから、俺はそこをどいて屋根の下の椅子に腰掛けた。

 これで捜査は終わりだ。けど、そこで気付いた。犯人が分かってねえじゃねえか。こんだけ色々捜査して、結局犯人に繋がる直接的な手がかりはなかった。どういうことだ、犯人は何の痕跡も残さずに飯出を殺したってことか?自分に関する証拠を一切消して、見つかっても意味ねえ証拠しか残さなかったってことか?そんなことが、”才能”があるとはいえただの高校生にできんのか?

 そうやって俺が悩んでんのを見透かしてんのか、今も見てるんだろう。狙い澄ましたように合宿場中にその放送は響き渡った。

 

 『オマエラ、これより学級裁判を始めます!宿舎にある赤い扉の前に集合してください!』

 「・・・モノクマだね。学級裁判ってなんだろう?」

 「宿舎の赤い扉。気になっていた場所だ」

 

 曽根崎と望月は放送の内容に素直に従うようだ。ま、逆らったところでろくなことにはならねえだろうな。石川と屋良井もさっさと行って、二人も後からついていく。俺もそれに続こうと腰を上げたが、その時に視界の端にちょこっと何かが映った。

 

 「ん?」

 

 ツタ植物の屋根を支える四本の柱の一本、その根元んところに、何か落ちてる。土の上ではかなり目立つ、真っ白なものだ。摘まんでみると、それは粒だった。錠剤か何かか?もしかしたら毒かも知れねえな。取りあえず俺はそれをポケットに入れて、放送で呼び出された宿舎の赤い扉に向かった。

 

 

コトダマ一覧

【きれいな山道)

場所:山道・南

説明:宿舎と食堂の前の分かれ道から展望台までを繋ぐ山道。足跡以外に注目するところはない。

 

【展望台の血痕)

場所:展望台

説明:展望台の地面に残っていた血の痕。あちこちに散らばり、展望台の縁に近付くにつれて痕が多くなっていっていた。

 

【懐中電灯)

場所:展望台

説明:展望台に落ちていた、全員に支給された懐中電灯。血にまみれてガラス部分は割れている。

 

【ロープの血痕)

場所:展望台

説明:展望台の縁に張られたロープの一部に血が付着していた。地面に散った血と同じものと思われる。

 

【大きな穴)

場所:展望台

説明:展望台の縁にロープを張るために打たれた杭の根元にあった穴。杭より太く、元の穴から乱暴に拡張されたような痕跡がある。

 

【白い粒)

場所:展望台

説明:柱の根元に白い粒が落ちていた。錠剤のように、何かが固められたもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が赤い扉の前に到着した時、既にそこには俺以外の14人が揃っていた。もし飯出がいたら、全員揃ったことを確認してまた演説めいたデカい声でも出すんだろうな。だが誰も何も言わない。俺の方をちらと見て、すぐに扉の方に視線を戻した。モノクマのアナウンスはない。

 

 「一体・・・何が始まるってんだ・・・?」

 「・・・扉が!」

 

 全員揃ってからすぐ、赤い扉は自然に動き出した。ごろごろと音を立てて両側の壁に吸い込まれていき、奥に現れたのは、何個かの剥き出しの電球だけを照明にした、鉄の檻みてえな部屋だった。ここに入れってことだろうか。

 

 『オマエラ、そのエレベーターに乗ってください!全員乗ったら動き出しますからね!乗り遅れたらめんどくさいから早く乗れ!』

 「モノクマ・・・この先にいるのか?」

 「行ってみるしかないようですね」

 

 モノクマのアナウンスに促されるまま、誰からともなく一人、また一人と中に足を踏み入れてった。俺もそれに続いて行こうとしたら、また目の前で滝山が邪魔した。きょろきょろ辺りを見回してなんなんだ。

 

 「サル、邪魔だ」

 「ちょっとまて。なんか・・・こっちから・・・」

 「ちょっ・・・なに?なにしてんの滝山?」

 「どこ行くの滝山くん」

 

 滝山は周りの奴らなんてお構いなしに、鼻をふがふがさせながらうろちょろしだした。犬かこいつは。先に中に入った奴らが呆れてそれを見てる中、滝山はアニーに近付いて急にしゃがんだ。目の前の右手を取ると、プロポーズかなんかしてるような姿勢になった。

 

 「えっ?えっ?な、なにしてるのダイオ?」

 「滝山!いきなり女性の手を取るとは何事か!」

 「この手・・・」

 

 戸惑うアニーとなぜか動揺する六浜を無視して、滝山はアニーの右手を見つめてもう一度臭いを嗅いだ。うろうろしてた時の困惑した顔に確信の色が加わって、神妙な表情になって言った。

 

 「この手、血のニオイがする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コロシアイ合宿生活』

生き残り人数:残り15人

 

  清水翔   六浜童琉   晴柳院命     明尾奈美

 

  望月藍   石川彼方  曽根崎弥一郎    笹戸優真

 

 有栖川薔薇  穂谷円加  【飯出条治】  古部来竜馬

 

 屋良井照矢  鳥木平助   滝山大王  アンジェリーナ




事件が起きましたよ事件が。なんだかモノクマの影がもの凄く薄くなってきた気がします。モノクマの存在意義ってダンガンロンパっぽいシチュエーション整えるためだけな部分はある。困ったもんだクマ
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