立派な魔法使い 偉大な悪魔   作:ALkakou

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第七章 『氷の学び舎』

 エヴァンジェリンの転移魔法によって、小太郎達は彼女のログハウスへ帰ってきていた。約二ヶ月とはいえ、想像を超える冒険の連続だった彼らには、想像以上に懐かしく感じるはずだった。しかし、平和な麻帆良学園へ帰ってきたことによる安堵と実感を得ることは出来なかった。麻帆良学園に到着して、皆が発した言葉はほぼ同じ。

 

「寒ッ!」  

 

 辺りは一面の銀世界になっていた。雪が深く降り積もり、今も空からは白い結晶が降り続いている。ログハウスも雪景色の一つとなっており、大きく長いつららがいくつも出来ていた。

 

(なんやこの臭い)

 

 鼻をスンスンとすすりながら、小太郎は眉をひそめる。原因は分からない上に非常に微かではあるが、異臭を感じ取ったようだ。

 

「うひゃー、スゴイね」

 

 小太郎が感じ取った異臭に気付いていないのか、裕奈は驚きとともに足元の雪へ手を延ばす。彼女の手に冷たい感触が伝わり、体温によって融けだした雪が掌を濡らした。それだけで、これが本物の雪であることを彼女に実感させた。

 

「やっぱ本物の雪じゃん! てことは、もうこっちは冬!?」

「いいや、こっちは8月31日だ」

 

 エヴァンジェリンの言うとおり、今は8月の末である。たとえ季節外れの雪だとしても、このような豪雪にはならないはずである。

 

「それにこの雪、普通の雪ではないな」

 

 辺りを一瞥して、エヴァンジェリンが断言した。

 

「確かに普通の雪やないな。僅かやけど魔力の気配があるで」

 

 手に掬った雪をしげしげと観察していた小太郎が、エヴァンジェリンの言葉に同意する。

 

「? コタロー君、つまりそれってどういうこと?」

 

 それが何を意味するのか、いまいちピンとこなかった夏美が小太郎へ質問する。他のメンバーも夏美と同様のようで、小太郎へ視線が集中する。

 

「季節的におかしい雪に、魔力の気配。それにあの姉ちゃんが言っとった事を考えたら答えは一つや」

 

 ザジ曰く、麻帆良学園の一部は既に悪魔の手に落ちているという。それを踏まえた上で導き出される答え。それは、悪魔がこの雪を降らせているということだ。

 

「でも、どうして雪なんか降らしてるんだろ?」

 

 アキラがさらに浮かんできた疑問を口にした。その必然性が分からない、といった感じだ。

 

「流石にそこまではわからんなー。あんたなら何か分かるんとちゃうか?」

 

 誰に向かって口を聞いているんだ? と小太郎に言いつつ、エヴァンジェリンはそれに答えた。

 

「大方、住みやすい環境に作り変えているんだろうな。人間が住みやすいように街を作るのとさして変わらんよ」

 

 エヴァンジェリンの言葉が本当なら、もはや悪魔による制圧の段階は佳境を迎え、悪魔の支配が始まろうとしているという事になる。

 

「それで、今からどうするんだ?」

 

 そのような状況を踏まえて、千雨がエヴァンジェリンに問う。指示を受けるように言われていたアルがいない状況もあり、当座はどう行動するかといったところだ。

 

「そうだな。とりあえず、そこの奴らに聞いてみるか?」

 

 エヴァンジェリンは振り返り、ログハウスの屋根を見上げた。一同もそれに倣う。

 雪が降りしきり、魔法世界の姿が浮かぶ空の下。白雪が積もったログハウスの屋根に、悪魔が降り立った。着地の衝撃で雪が舞い上がり、雪煙が立ち込める。

 それは、かつて魔帝が造りだしたものの中でも精鋭とされている悪魔『フロスト』だ。世界樹を奪取しようと襲い掛かってきた小悪魔(グレムリン)とは格の違う悪魔である。その身は氷そのもので、冷気がとめどなく溢れ出している。特に氷柱のように発達した爪からは、空気が凍てつくような冷気が感じられた。

 一体のフロストは血を払うように爪を振り、一体のフロストは爪を舌で舐めるかのように動かしている。

 

「もう来たのかよ!」

「ザジ・レイニーデイも言っていただろ。麻帆良学園(ここ)は既に奴らの制圧下だ、なにも不思議ではない」

 

 千雨の悪態をよそに、エヴァンジェリンはさもありなんといった様子だ。

 

(私が片付けてもいいが……)

 

 小太郎を一瞥するとともに、寸秒、エヴァンジェリンは思索を巡らせた。

 

「おい犬っころ」

 

 呼ばれた小太郎は、目線をエヴァンジェリンに向けて反応した。

 

「奴らの相手は貴様一人だ」

 

 どういうわけか、エヴァンジェリンはフロスト二体の相手を小太郎一人に任せようとしていた。

 

「俺一人よりも、あんたとやったほうがええんとちゃうか?」

 

 小太郎の言う事はもっともで、相手が二体いる状況では、各個撃破できるのならばそれが望ましいはずだ。

 

「なんだ、一人ではアレ程度すら相手出来んのか?」

 

 ところがエヴァンジェリンは、小太郎を煽る様に言葉を続けた。

 

「なんやと?」

「まぁ無理にとは言わん。ただ魔界に行ったぼーやとの差がまた広がるだろうが……ふっ、犬っころにはお似合いか?」

 

 ここまで言われては、小太郎も黙ってはいられない。特に、ライバルだと思っているネギを引き合いに出されれば尚更だ。

 

「……上等! 俺も向こうで修行したんや。軽く捻ったるわ」

 

 様子を伺っていた二体のフロストは、屋根から飛び掛かる。その勢いを生かした氷の爪が、小太郎を襲う。

 

「ハッ! 遅いわ!」

 

 迫る氷の爪を小太郎は後退して躱す。しかし、絶対零度に迫るその爪を躱したとしても、溢れ出す冷気が小太郎の肌を凍て付かせる。

 

(今の速さは問題ない。せやけどアレはギリギリで避けたらアカンな……)

 

 煽る様に軽口を叩きつつも、小太郎は冷静に初撃を分析していた。昔の彼なら、猪突猛進に攻撃に転じていただろう。魔法世界での修行や、剣闘士として曲者揃いと戦ってきたことが活きているようだ。

 後退する小太郎の腕が、剛健な筋肉によって隆起を始めた。更に爪は先鋭化し、小太郎の両腕は獣の様相を呈する。小太郎は狗族と人間のハーフだ。そのため小太郎は、自身の身体を狗族へと変える『獣化』をすることが出来るのである。

 腕の獣化を完了した小太郎へ、もう一体のフロストが襲い掛かる。それは小太郎が攻撃を避けた先を予測したかの様な正確さだ。さらに先程のフロストが、氷柱状の爪を小太郎へ飛ばす。

 

「連携プレーできるんか!」

 

 次の瞬間、小太郎の姿が消失した。

 

「けど、当たらんかったら意味ないで」

 

 爪を飛ばしたフロストの眼前。そこに小太郎が現れた。なんてことはない。小太郎は飛来する氷柱を躱しながら瞬動でフロストへ近づいただけである。

 フロストが動くよりも、小太郎のほうが速かった。獣化によって強化された小太郎の腕に狗神が集中する。その腕を、フロストへ向けて突き上げた。フロストは辛うじて腕を出して小太郎の拳を受けるが、狗族の屈強な身体と腕に集まった狗神がフロストの体を突き抜けた。その衝撃はフロストを宙へ運ぶ。

 

「ッー!」

 

 小太郎の拳は絶対零度に近いフロストの体に触れたのだ。凍り付いていてもおかしくはない。しかし小太郎の拳は、獣化と狗神のためか、凍傷にもなっていないようだ。

 

「後ろや!」

 

 そう言いながら小太郎は、振り返りながら腕を振りかぶる。

 振り返った小太郎は、氷の柱が迫ってきているのを見た。その氷の柱は、フロストが自身の冷気を地面へ伝えたことで生み出したものだ。凍てつく冷気とともに、氷の柱が地面を這うように迫る。

 一方、小太郎の腕にはまたも狗神が集まっていた。そして小太郎は、それを地面へ叩きつけた。指向性を持った衝撃が地面を割り、放出された狗神がそれを巻き込む。さながら、地面を砕きながら疾走していく黒い狗だ。

 地面を走る氷柱と黒狗が、勢いをそのままに激突した。

 魔性の氷は黒狗の爪と牙に引き裂かれ、粉々に砕け散る。さらに狗神は止まることなく走り、獲物(フロスト)に襲い掛かる。無残にも、フロストの四肢は引き裂かれた。

 の様子を見届けることなく、小太郎は咄嗟に上を見た。そこには先程自分が打ち上げたフロストがいた。空中で態勢を立て直したようだが、何やら様子が変わっていた。氷で形成された身体、さらに言えばその爪を中心から一段と冷気が溢れ出していた。

 それが何が起きる前触れなのか、小太郎はその答えを持ち合わせてはいない。ただ分かっていたのは、今すぐこの場を離れなければならないという事だ。

 小太郎が回避を始めたと同時に、フロストは急降下を始めた。その爪は地面に突き立てる様に、真っ直ぐに構えられている。

 

(そういう事かい!)

 

 先程の、地面を這うような氷柱の攻撃を見た小太郎

は、これから起こる事をある程度予測できた。

 落下してきたフロストの爪が地面に突き刺さる。爪を介して地に伝わった冷気と、フロスト自身が開放した冷気。今までとは比較にならないほどに空間が凍てつき、周囲に鋭利で巨大な氷柱を形成する。それも一本や二本ではない。剣山の如く、いくつもそびえ立った。これをまともに食らえば、全身を氷柱に貫かれることになるだろう。

 しかし小太郎は攻撃をある程度予測できたためか、紙一重の所で氷柱の範囲外へ逃れていた。もっとも、完全に避け切ることはできなかったようで、軽く肩口をかすったようだ。

 

「らあぁ!」

 

 それを気にするでもなく、小太郎は即座に地を蹴った。フロストを囲むようにあった氷柱は既に崩壊しているため、障害物はない。

 高速で接近する小太郎に対して、フロストは爪を突き立てる。突進して来る相手に、刺突で迎え撃つつもりのようだ。向かってくる者の速度が速ければ速いほど相手は躱しづらい上に、刺突の破壊力は増す。合理的な選択だろう。小太郎もそれは熟知している。

 突き出されたフロストの爪先に、小太郎は自身の爪を突き合わせる。すると、フロストの氷でできた爪は音を立てて粉砕した。

 狙いどおりや、と小太郎は僅かに口角を上げた。

 小太郎はこれを狙っていた。このフロストは、小太郎が突き上げた拳を腕を出して受けていた。その際、フロストの爪は僅かに脆くなっていたのである。その状態で衝突点に大きな負荷がかかる刺突を繰り出せば、そうなってもおかしくはない。小太郎が行ったように爪先と爪先を衝突させ、より大きな負荷をかければ尚更だ。

 

「もらった!」

 

 勢いを殺さずに、小太郎は獣化した爪をフロストへ突き立てる。フロストにはもう片方の氷の爪が残っているものの、もはやそれではどうにもならなかった。

 フロストの頚部に小太郎の爪が突き刺さり、トドメとばかりに、小太郎は更に押し込む。フロストの頭部は胴体から離れ、宙を舞った。

 

「ま、こんなもんや」

 

 力なく崩れ落ち、氷が砕けるように消えていくフロストを尻目に小太郎はエヴァンジェリンへ向き直った。

 フン、と鼻で笑ったエヴァンジェリンは、飛んできたフロストの頭部を腕を一振りして掻き消す。

 

「まったく、見てられんかったな」

 

 エヴァンジェリンが言うには、一撃目の突き上げで仕留められなかった時点で論外とのことだ。小太郎も、一撃目で仕留めていたら負傷する事もなかったと分かっているため、反論は出来ないようだ。

 

「ぐっ、ホンマにその通りやからムカツクわ……」

「まぁこの場は凌げたんだからいいじゃねぇか」

 

 それを千雨がなだめる。もっとも千雨にとっては、戦闘の内容よりも、悪魔を撃退できたことそれ自体のほうが重要だった。

 

「で、なんで小太郎を焚き付けるようにしたんだ?」

 

 千雨が小声で、エヴァンジェリンへ問いかけた。小太郎を煽るようにけしかけたのには、なにか理由があると感じ取っていたようだ。

 エヴァンジェリンとしては、小太郎の実力がどれ程のものになったのか見たかったのが本音だ。

 弟子であるネギの実力は、間近で見たわけではないが、驚異的に伸びていた。一方で、小太郎の実力は全く垣間見ていない。小太郎は彼女の弟子ではないし、本来ならどうでもいい。しかし、世界の命運を左右する戦いに際して、その実力は把握しておきたかったようだ。

 もっとも、結論を出すのは早急だ。今の一戦が全力ではない事は、エヴァンジェリンも百も承知だ。だが今の戦いだけでも分かったことがある。戦いの基礎ができていたことだ。

 魔法世界へ旅立った時など、自己流の色が強く、粗が多かった。それが今では、自己流ではない、確立された戦闘の基礎を叩き込まれ、戦いが洗練された様子が見て取れた。

 

「……面倒だっただけだ。他意はない」

 

 しかし、それは言わないようにした。エヴァンジェリンに小太郎を褒める義理も無ければ、その気も無いからだ。それに、たとえ千雨へ小声で言ったとしても、狗神の血を引く小太郎には全て筒抜けになってしまうというのもある。

 とは言え初撃で一体目を撃破出来なかったことには変わりない。決定力に欠けている、とエヴァンジェリンは評していた。

 

「オイ御主人」

 

 不意に誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。辺りを見回しても、声の主らしい人影は見当たらない。

 

「ドコ見テンダヨ。ボケドモ」

 

 その声は、木の上からのものだった。

 

「なんだ、チャチャゼロ」

 

 チャチャゼロと呼ばれた小さな人形は、腰掛けていた木の枝から降り立った。

 

「ケケ、コッチニ戻ッテキタ御主人二オシエテヤロウトオモッテナ」

「何をだ?」

 

 エヴァンジェリンが話を促す。

 

「ココガコンナニナッタ原因ニツイテダヨ」

 

 チャチャゼロ曰く。エヴァンジェリン達が魔法世界へと発った後、複数の高位にあたる悪魔が襲来したらしい。魔法先生達も応戦したが、一般生徒の避難と護衛を優先し、現在も防戦を強いられているようだ。そのため、麻帆良学園を氷雪地帯へと変えた悪魔を撃退できないらしい。

 

「世界樹前広場二イル奴ガアヤシラシイゼ」

 

 魔法先生達が動くことが出来ないのなら、現在、悪魔を撃退できるのはエヴァンジェリン達しかいない。それにエヴァンジェリン達は、もともも世界樹を目指している。そのため世界樹の付近にその悪魔がいるのならば、戦うことになる可能性が高いということになる。

 

「アルの奴がまだ着ていないが、丁度いい時間潰しになるだろう。とりあえず行くとするか」

 

 アルが到着するのを待つよりも、世界樹を確保するべきだとエヴァンジェリンは判断した。事態は刻一刻と悪化していくからだ。この雪も、人間界の魔界化の単なる序章に過ぎない。更なる混沌へと堕ちていくのは時間の問題である。

 

 

 

 

 

 

 エヴァンジェリンからの頼みで魔法世界に留まったアルは、近右衛門やザジ達と共に進軍を続ける悪魔達を迎え討っていた。 

 相も変わらず、悪魔は続々と魔法世界へなだれ込んでくる。それだけではない。上空には巨魔『リヴァイアサン』がいる。百鬼夜行の如く魑魅魍魎が跋扈する光景は、もはや魔界のモノだ。

 詠春やゲーデル、タカミチといった手練でなければ、この防衛線は少なくとも更に後退していたことだろう。だが悪魔は、次から次へと湧いて出てきている。さすがの彼らも優勢とは言えない。

 

「応援はまだ着きそうにないのか?」

 

 本来は相反し合うはずの『気』と『魔力』を融合させ強大な力を得る『咸卦法』。それにより強化された無音拳を繰り出しながら、タカミチはゲーデルへ問いかけた。

 

「旧世界出身の者で構成した部隊が『造物主の掟』持ちの魔族を掃討している所のようだ。あと十分もあれば到着するだろう」

 

 逆手に持った太刀を、爬虫類のような鱗と鋭利な爪を持つ下級悪魔『ブレイド』の頭骨に突き刺したゲーデルが答える。ブレイドは少しの痙攣を見せたかと思うと四肢は力なく緩急し、絶命した。

 

「もっとも、どれほどあてになるかは分からないがな」

 

 太刀を引き抜いたかと思えば順手に持ち替え、一文字に薙ぐ。そこへ丁度『ヘル=スロース』が空間移動によって現れた。ヘル=スロースは鎌をすでに振りかぶっており、ゲーデルの命を刈り取らんと迫る。

 辺りに甲高い音が響いた。次の瞬間、ヘル=スロースの体は鎌ごと真っ二つに斬り裂かれていた。

 

「それにしても、ザジ君がいて助かった。アレまで相手にしないといけなかったら、流石に守りきれなかったかもしれないよ」

 

 タカミチは上空を見上げてそう言った。ザジがリヴァイアサンの相手を引き受けたことで、ゲーデル達はその他多数の悪魔に集中して戦えている。もしザジがいなければ、物量で侵略してくる悪魔を足止めすることすら難しかったかもしれない。

 

「ああ、そうだな」

 

 口では同意したものの、ゲーデルの目には疑念の色が色濃く浮かんでいる。

 

(解せない。彼女の行動は魔帝への敵対そのもの。魔族の彼女に利はないはず……)

 

 ゲーデルは、魔界、人間界、魔法世界という三つの世界。魔帝と造物主。ダンテの存在。その他の様々な要素を繋げていく。

 しかしそれらはあくまでも断片的なものだ。大まかな背景が見えてくるだけにすぎず、大した結論は出てこなかった。

 

「……少しばかり情報が不足していますね」

 

 そう呟いたゲーデルは、上空を見上げ続けて言った。

 

「何か情報を引き出してくれるとありがたいんですがね」

 

 その視線の先には、リヴァイアサンと対峙するザジと、空を舞う下級悪魔を掃討しているアルの姿があった。

 アルは魔法の射手や重力魔法を容赦なく悪魔に放ち、次々に撃ち落していた。しかしその活躍とは裏腹に、切っ掛けを見計らっていた。

 アルはエヴァンジェリンから、ザジ・レイニーデイの目的を探るように頼まれた。自身もザジの目的やザジ本人に対する疑念は持っていた事もあり、アルは快諾したわけである。

 

(さて、どのようにアプローチをしましょうか?)

 

 「貴女の目的はなんですか?」とストレートに聞くことは難しい。勿論その様な誘導も可能だが、上手く聞き出せる公算は低い。

 さらに、上手く誘導し交渉するにしてもザジ・レイニーデイやその他情報が少ないのが現状だ。誘導尋問のような事も難しいだろう。

 また、大量の悪魔を捌きながら情報を引き出さなければならないのだ。なかなかに無茶な仕事である。

 

「もっとも、まだ早そうですね」

 

 さり気なくザジへと視線を移した。視線の先にいるサジは、未だリヴァイアサンと対峙を続けている。

 彼女はリヴァイアサンの周りを飛び回り、幾度となく攻撃を仕掛けている。それは、普段のザジからは考えられないほどに激しい攻撃だ。

 しかし、リヴァイアサン規格外の図体を誇る悪魔だ。魔族の力を現したとは言えザジは余りにも小さい。矮小な蟻に噛まれた象の如く、リヴァイアサンは悠々と宮殿の空を泳いでいる。

 

(まずはあの魔族を片付けるべき。ならここは……手助けしましょうか)

 

 アルが始動キーを唱えようとした時だった。虚空瞬動によって、ザジがアルの隣に現れた。

 

「お手を煩わせずとも大丈夫です」

 

 長く鋭利な爪を戻したザジが、アルへ話しかけてきた。

 

「もう少しすれば、リヴァイアサンは沈黙するでしょう」

 

 そうは言うが、リヴァイアサンには特に変化は見られない。一体どのような方法かは気にはなるところだが、わざわざザジの方から話しかけてきたのだ。好機だとアルは判断した。

 

「そうですか、ご苦労さまです。それではそれまでの間、少しお話をしても?」

「構いませんよ」

 

 ザジの了承を得て、アルは手始めにある事を聞いた。

 

「確か、ダンテ氏をお呼びしたのは貴女でしたね?」

 

 今一度、ダンテに対して依頼を出し麻帆良学園へ呼んだ張本人が、ザジであることを確認する。これはザジ自身が、エヴァンジェリンに問われた際に答えたものだ。

 

「その通りです」

「それは彼が、伝説の魔剣士の御子息だからですか?」

 

 ダンテをここに連れてきた理由。それは伝説の血を引くだけではなく、魔帝と対峙することができ、封印を施した実力を持っているからだろう。アルはそう考えていた。

 

「……」

 

 今度は、否定も肯定もしなかった。ザジはじっとアルを見つめている。それに構わずアルは続ける。

 

「彼は過去に、二千年の時を経て復活を果たした魔帝を再封印しました。ですが此度、魔帝がまたもや復活を果たした……まぁそれ自体は貴女の言うとおり造物主の仕業でしょう」

 

 さらにアルはダンテやムンドゥスの事に触れ、背後に造物主の存在があると言っていたザジの言葉に同意する。

 

「魔帝ムンドゥスの復活と、魔剣士の御子息を連れてきた事。それを鑑みれば、自ずと答えは出てきます」

 

 話のさなかにも、悪魔は次々と二人に襲い掛かってくる。だがザジとアルの二人は、魔法や爪を使い悪魔の攻勢を退ける。

 

「貴女の目的。それは魔帝の打倒、と言ったところでしょうか?」

 

 ザジは魔帝の復活のことを“厄介な事”と表現していた。さらにダンテを呼んだ事を考えれば、そう結論付けることができるだろう。

 

「あなたの言う通りですよ。私の望みは、かの魔帝を完全に討つこと。その魔帝の復活をいち早く察知したので、伝説の魔剣士の子息であり、自身もかつて魔帝を封じた彼に一報を入れたのです」

「しかしそれは貴女の、いえ、貴女方の真の目的ではない。違いますか?」

 

 ザジの答えは、沈黙だった。

 

「魔帝の打倒。それ自体は目的の一つでしょう。ですが貴女方には更に真の目的がある。もっとも、真の目的そのものについては残念ながら推測の域を出ません。ですが貴女方の計画には、伝説の魔剣士の御子息と――ネギ君。彼ら二人が要となっている」

 

 アルが言っている内容は、推論と、判明している事実を繋ぎ合わせてそれらしく取り繕ったものだ。核心に迫ることは言ってはいない。ダンテがザジの計画の要所であろうことは、わざわざ彼を呼んだ事から明白である。だが、そこにネギも同様ではないか? とカマをかけたのだ。

 もっとも、ネギを引き合いに出したのは全くのデタラメという訳ではない。それなりに理由がある。

 母親であるアリカ・アナルキア・エンテオフュシアはウェペルタティア王国の最後の王女であり、『始まりの魔法使い』の末裔である。つまりネギも『始まりの魔法使い』の末裔であり、その血を引いているのだ。そして父親は言わずもがな、世界を救った英雄である。

 つまり彼はその身に命を宿したときから、大きすぎるほどの因果を背に負っているのだ。それもダンテと比較しても、何ら遜色のないほどに。

 ザジは未だ、沈黙を続けている。無表情の中にある紅い瞳は、ただアルを見つめている。

 

「我々の計画について、まだお話することは出来ません」

 

 沈黙を破って出てきたのは、明確な拒みの言葉だった。

 だがザジはまたもや閉口し、少し考える素振りを見せた。何を考えているのかは分からない。しかし暫くすると、意を決したように再び口を開いた。

 

「ですが……魔界の太古の歴史をお調べ下さい。我々が行おうとしている事の片鱗は見えてくるかと思います」

 

 どうやらカマをかけた甲斐はあったようだ。ザジは、アルが核心へ近付いてきていると思ったようだ。いずれ真実に辿りつかれるのならば、手掛かりを示す事で手を打とうとザジは考えたのである。つまりこれは、全てを話す事は出来ないザジとしての、最大の譲歩だった。

 ネギが重要な役割を担うかどうかは分からなかったが、これ以上の事は話さないだろうとアルも判断した。ならばもはや長居する必要はない。あまり時間はないのだ。早急に麻帆良学園へ戻らなければならない。

 

「ありがとうございます。魔界の歴史について調べることに致します」

 

 そう言うとアルは、ザジに背を向けた。

 

(太古の魔界の歴史・・・・・・スパーダ伝説よりも以前からとなれば骨が折れそうですね)

 

 魔界の歴史の中にザジ達の計画を知るのに必要な情報があるらしい事。アルはその事について思考を巡らせながら、麻帆良学園へと歩を向けた。

 アルの姿が見えなくなると、人知れずにザジは一人呟いていた。

 

「ネギ先生については――彼次第ですよ」

 

 

 

 

 

 

 エヴァンジェリン達一行はログハウスを離れ、世界樹前にある広場に向かっていた。

 というのも、世界樹前広場にいる悪魔が麻帆良学園を氷雪地帯に変えた原因らしいからだ。らしいとは、魔法先生達が話していた内容をチャチャゼロが盗み聞きし、そこからエヴァンジェリン達へ伝聞された情報だからだ。

 さらに、世界樹前にいる悪魔が原因であるのかは魔法先生達の予想にすぎず、確証はない。つまり情報としては、極めて曖昧で信頼性は希薄と言わざるをえないものである。

 だが彼女らの目的は、世界樹の力を利用して魔界への扉を開くことだ。そのため、当初から世界樹へ行く予定であり、世界樹前広場はその道中から離れていない。

 そのため、ものはついでと世界樹前広場へと足を運んでいるのだ。それに肝心のアルが魔法世界からまだ戻っておらず、待っている状態でもあった。

 

(大雑把にでも聞いておくべきだったな)  

 

 エヴァンジェリンは口には出さずに、失敗を嘆いた。

 世界樹を利用するとは聞いたが、そもそも世界樹は巨大である。具体的に世界樹のどこで、どのような術式を用いて、どのような手順を踏まえるのかなど、詳細は聞いていなかった。

 せめて世界樹のどの場所で行うのか聞いていれば、そこをピンポイントに制圧出来るのだが、今更言ったところで後の祭りだ。

 

「それにしても、なんだこの臭いは」

 

 人間よりも遥かに優れた五感を持つ彼女は、世界樹前広場に近付くにつれて漂ってきた臭気に少し前から気が付いていた。その臭いは不快そのもので、エヴァンジェリンは眉をひそめて顔を歪ませた。

 

「だいぶ臭いがきつなってきよったで……鼻が曲がりそうや」

 

 小太郎も鼻を抑えながら顔をひそめている。

 嗅覚に限っては小太郎の方が効くらしく、エヴァンジェリンが少し前に臭いに気が付いたのに比べて、小太郎はログハウスからすでに微かな異臭を感じていた。次第に強くなっていく臭気にとうとう嫌気が差してきたようで、げんなりした様子だ。

 

「全く、それくらい我慢しろこの駄犬。私だって臭くて敵わんのだ」

 

 エヴァンジェリンは小太郎を一喝する。当然、小太郎の「俺の方が鼻は効くんやで!」という抗議は無視だ。

 

「あーでも確かに、言われてみたら臭いがしてきた気がする」

 

 鼻をスンスンと鳴らしながら、まき絵は同意する。もっとも、人の嗅覚では到底感知出来ないくらい希薄な臭気である事を、エヴァンジェリンはあえて言わなかった。

 

「それで広場にいる奴を倒したとして、その後はどうするんだ?」

 

 千雨がエヴァンジェリンへ問いかける。今はこうして世界樹前広場へ向かっているが、その後はどのように行動するのが気がかりなようだ。

 

「さぁな? そいつが何か吐けば良いが……この気候が収まれば御の字だろうな。どの道、アルビレオ・イマが戻ってくるまではなんともな」

 

 その応えに千雨は肩を落とした。

 夏休みだというのに魔法世界などというファンタジー世界へ行き、ファンタジーな冒険を繰り広げた挙句に賞金首に仕立て上げられるわ、あまつさえいつの間にか一つの世界の命運をかけた事態に巻き込まれていた。そのうえ念願の麻帆良学園へ帰って来られたはずなのに、今度は魔法世界のみならず人間界の命運の為に銀世界の中を走っているのだ。

 せめてもう少しまともで具体的な行動予定が聞きたかった。千雨の心の声は本人以外には聞かれることはなく、虚しく散っていった。

 

 そうこうしているうちに、一同は世界樹前広場に到着した。この広場にはカフェなどもあることから、普段は多くの学生で賑わっている。いわば、学生達の憩いの場の一つである。

 しかし、のどかな学生生活や代わり映えのない『日常』は、そこにはない。

 一面を覆い尽くす雪と吹き荒れる吹雪。その勢いは道中よりも余程強かった。そして辺りは、日が落ちたとはいえ、やけに暗くて重い闇が霧のように降りていた。

 

「……」

 

 そしてエヴァンジェリンと小太郎は、悪臭の為か、黙って顔をしかめていた。

 一方、二人以外の者達はその臭いに気がついていない。どうやら人間にこの臭いは分からないようだ。

 

「誰もいない……と言うよりも何も見えませんね」

 

 夕映が辺りを見回して呟いた。もっとも、吹雪と暗闇の為に視界は劣悪である。広場の中央に存在するはずの、先端が四角錐になっている石柱のモニュメントはおろか、数メートル先すら不明瞭だ。

 

「ここで立ち止まってても仕方ないし、とりあえず先に進んだら?」

 

 そう言ったアーニャは歩を進めようとするが、エヴァンジェリンがそれを制止した。

 

「待て、アンナ・ココロウァ。何か居るぞ」

 

 その目線の先には、微かな桃色の光がぼんやりとあった。確かに何かが居るようだ、この暗闇と吹雪の中にも関わらずだ。

 次第にそれは近付いてきた。まだはっきりとは見えないが、淡い桃色の光が濃くなっていく。そして同時に、愉悦に満ちた、甘い嬌声のようにも聞こえる。

 

「えっと……これって?」

 

 和泉亜子は疑問符を付けて口を開いた。

 なぜなら、淡い桃色の少女が二人、空中を漂うように踊っているのだ。それも艶かしく、絡み合うようにだ。その動きはある種、妖艶ではあった。

 しかし、余りにも怪しすぎる。これで警戒しない方がおかしいだろう。全員がその少女たちの官能的な動きを、怪しむ目で見ていた。

 

「おい犬っころ。あれを攻撃しろ」

 

 エヴァンジェリンは小太郎へ命令する。しかし小太郎が、警戒を伝える。

 

「いや、怪しすぎるわ。あんなんに迂闊に手ぇ出す奴おらんやろ?」

 

 もっとも、エヴァンジェリンはそれ以上言わさなかった。小太郎の背中を蹴って、早くしろ、とせっついた。

 

「ほんま人使い荒いわ、あの人」

 

 愚痴をこぼしながら、小太郎は淡い桃色の少女達へ近付いていく。少女達は小太郎を床へ誘うように、官能的な手つきで手招きをしている。

 

「女は殴らん主義やけど、しゃあない」

 

 しかし相手は子供な上に、異性よりも戦闘のほうが圧倒的に優先順位が高い小太郎だ。その手招きを、戦闘前の挑発と捉えたようだ。

 

「いくで?」

 

 小太郎が呼び出した二体の狗神は、二人の少女目掛けて疾走する。吹雪をものともせずに駆け抜ける狗神は、獲物の喉元を噛み千切った。少女らの首元からは血が噴き出し、雪を赤く染める。そして少女らは赤く彩られた雪の床へ倒れ込んだ。

 

「え、ちょっ! 大丈夫なの!?」

 

 高音・D・グッドマンが、その光景を見て取り乱した。なぜなら、誤って人間を殺害してしまったのではないかと思ったからだ。気候すら変えることのできる魔族ならば、あの程度で倒せる訳がない。それどころか少女の挙動は、人間のそれのようだった。余りにも呆気なかったので、小太郎も最初は高音と同様に人間だったのではと頭をよぎった。

 しかし、これまで裏稼業で見てきた魔族の手口を小太郎は思い出した。残忍で狡猾。人の心の隙を好む者達ばかりだった。そして自分は、一瞬ではあるが、躊躇した。隙を見せたのだ。

 

「アカン! 避けぇ!」

 

 小太郎は即座に跳躍し、大声で夏美達に向かって叫んでいた。

 すると、獣のような叫びを上げとともに、とんでもない勢いで何かが飛び出して来た。それは大きな口を目一杯開いて、目の前にある物を飲み込もうとしている。

 このままでは全員が食べられてしまうだろう。彼女らの悲鳴は、吹雪の中に虚しく響く。

 

「避ける? 誰にものを言っている?」

 

 その言葉とともに、エヴァンジェリンはクッと指を持ち上げた。すると突然、分厚くて巨大な氷が地表に現れた。壁のようなその氷はエヴァンジェリン達を守るように、飛び出して来たモノを阻んだ。そして衝撃とともに、鈍い音が響いた。

 

「ナンじゃこれは!」

 

 氷壁に阻まれてその姿は見えないが、聞くに絶えない醜悪な声が、突然現れた氷壁に悪態をついた。すると、氷の壁が音を立てて崩れ落ちていく。姿が見えないために、エヴァンジェリンが解いたのだ。

 

「えーっと……カエルっすか?」

 

 半ば聞くように美空が呟いた。

 氷壁の向こう側にいたのは、醜悪な姿の悪魔だった。ずんぐりとした丸い巨体に、細かい牙が並んだ大きな口。両生類を思わせる四肢と短い尻尾。背には氷が、剣山の如く生えている。そして頭には二本の触角があり、その先端には先程喉を噛み千切られた筈の少女が付いていた。

 どうやらあの少女の姿をした触角はいわゆる疑似餌であり、それに釣られた者を捕食するためのもののようだ。

 

「カエルだとしても半端な奴だな。成体なのか幼生なのか分からんぞ? というかカエルに触角は無いだろ」

「んーカエルというよりアンコウに似てない?」

 

 裕奈も思ったことを率直に言う。確かに、この体型に触角があればそう思うのも無理はない。

 

「疑似餌を用いるのはチョウチンアンコウが良く知られていますが、どちらかと言えばカエルアンコウの方が近しいかと――」

「ボケがぁ! たかが人間風情が、このバエル様を愚弄するかぁ!」

 

 夕映が丁寧に解説をするが、悪魔『バエル』はそれを大声で遮った。同時に、バエルの唾液なのか気味の悪い色の体液が撒き散らされる。

 

「うぉあ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げて、千雨は氷壁の残骸に転がり込んだ。見ると、他の者達も同様にしていたようだ。ただ二人を除いて。

 

「エ、エヴァンジェリンさん……」

 

 話している途中に遮られた事で、夕映は他の者よりも反応が遅れてしまったのである。本来なら、全身にバエルの体液を浴びてしまっているはずだ。危険極まりない悪魔の体液をだ。

 しかし、それをエヴァンジェリンが庇ったのだ。エヴァンジェリンならば問題なく回避できるだろうし、なにより不死身である。だが、ただの人間にすぎない夕映には危険すぎた。そのため、彼女がが盾となったのだ。

 

「ご、ごめんなさいです! 私のせいで……」

 

 全身をバエルの体液に塗れたエヴァンジェリンは、静かに手を出して夕映を制した。冷静を装おうとしているようだが、エヴァンジェリンの声は静かな怒気に震えていた。

 

「フ、フフフフ……気にするな綾崎夕映」

 

 顔に付着したバエルの体液を拭って、エヴァンジェリンは続けた。

 

「おい、アルビレオ・イマ。思いの外遅かったことは見逃してやる。さっさとガキ共を連れて行け。私は、コイツを始末する」

 

 一同が振り返ると、そこにはアルが立っていた。顔にはいつもの胡散臭い笑顔が張り付いている。

 今のエヴァンジェリンに対して、軽口や弄るような言動を投げかける者など、まさに愚か者と言う他ない。普通なら、エヴァンジェリンの姿を見て震え上がるところだ。 

 

「ふふふ、とても扇情的な姿をしていますね、キティ」

 

 ところがその普通は、アルには当てはまらなかったようだ。もちろんアルはわざと言ったわけだが。

 エヴァンジェリンは微動だにせずに、淡々と口を動かして伝えた。

 

「二度は言わん。失せろ」

 

 指先はおろか、全身から冷気が溢れ出し始めたエヴァンジェリンを見て、アルは最低限の事を伝達する。

 

「分かりました。それでは終わりましたら世界樹の地下に来てください。ここからなら麻帆良教会の地下から行くのが良いかと思います」

 

 それだけ言うと、アルは他の者達にも世界樹の地下へ行く事を伝えた。そしてエヴァンジェリン以外の者達は麻帆良教会の方へ向かっていった。

 

「ガハハ! んなチンチクリンに何ができる!」 

 

 バエルは醜い声を高らかに上げ、エヴァンジェリンを憐れむように見下ろしていた。当のエヴァンジェリンはさして気にしている様子はない。ただ冷徹な瞳が、バエルを捉えている。そして、努めて冷静に言い放った。

 

「何ができるだって? 貴様の駆除だよ」

 

 その瞬間、エヴァンジェリンの姿が霞んだ。


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