目の前にいる最悪の脅威。グラムは不気味に口元を歪めている。
「世界を滅ぼすだって? 君にそんな事がでぎるの?」
アーサーはグラムに尋ねる。グラムはふっと笑って言った。
「今すぐにという訳ではない。が……一年後だ。我は魔物の軍勢を率いてこの世界に戦争をしかける」
「貴様も来るか?」
グラムはアーサーに右手を差し出した。
「ふざけるな……! 僕はこの世界が好きなんだ。一年なんて猶予は与えない。今ここでグラム……お前を殺す!」
アーサーはいつもの雰囲気とは似ても似つかぬ怒気を表す。そして最強の聖剣をグラムに向けた。
「まあ、そう焦るな……と言いたいところだが、良かろう少し遊んでやる」
クックックと喉を鳴らすグラム。赤黒い剣を中段に構える。
「ヒナ、イスカ君達は手を出さないでね」
アーサーはグラムが相手ではヒナもイスカも足手まといになると考えた。
それ程にグラムは強い。
「しかし……!」
ヒナはアーサーに食い下がるが、アーサーの眼差しを見て言葉を飲み込んだ。それはイスカも同様だ。
アーサーはヒナとイスカに微笑むと、ありがとうと言ってグラムに向きなおった。
「お話は終わったかな?」
グラムは死んだ様な目をアーサーに向けて言った。
「…………」
アーサーは霞む程の速度でグラムの眼前まで踏み込む。そのまま一撃必中の剣をグラムの首に叩き込んだ。
とてつもない衝撃波が広がり、周りの木々をなぎ倒す。
(確実に入った! 手応えは……)
しかしアーサーは驚きに目を見開く。
「ふむ……そこそこだな」
アーサーの剣を首に叩き込まれたグラムは微動だにせず、首を傾げて平然とそこに立っていた。アーサーは一瞬驚いたもののすぐにグラムから距離を取る。
冷や汗が頬を伝う。
「やったとは思わなかったけど、無傷とはね……」
「もし、貴様の今の剣が本気ならば拍子抜けだな」
コキコキと首を鳴らすグラム。
「……では次は我からいこうか」
グラムは三日月のように口を裂くと地を砕く程の踏み込みでアーサーの懐に入る。さっきの一撃と同じような状態だ。そしてアーサーがグラムに攻撃した所を逆に寸分の狂いもなく斬りつけた。
「……つ!」
自身と同じ攻撃をされたアーサーだが、さっきの自分の斬撃よりも格段に威力のある一撃。
(一度では返しきれない……なら)
アーサーは首に迫る魔剣の一撃を跳ね上げる。
「ほお、一度では迎撃出来ないと瞬時に悟り、一呼吸で10回斬って上に跳ね上げたか。中々」
グラムはアーサーの剣の技量に舌を巻く。だが、余裕のある表情は崩さない。
そしてまたアーサーはグラムの間合いに入る。常人には捉える事の出来ない剣撃速度でアーサーとグラムは斬り合う。それを見ていたヒナとイスカは言葉を失っていた。
方や大陸最強の剣士。方や大陸一の刀鍛冶、それなりに剣の心得はある2人。
しかしその2人で冴え目の前で行われている遥か高みの攻防を目で追うのがやっとだった。
アーサーと一度剣を交えたヒナもあの時はアーサーが手加減していた事をこのような型で気づかされた。
アーサーはフェイントや緩急を駆使した高速連撃。逆にグラムは一撃に重点を置いた一撃必殺の剣。
何度もアーサーとグラムは高速の攻防を繰り広げる。
アーサーはグラムと斬り合う中で焦りを感じていた。剣技は恐らく自身に部がある。だが、何とも言えぬ不安感が身を包んでいた。
アーサーはグラムの剣を強めに斬り払い再度距離を取る。
「我とここまで斬り合えた者は今までいなかったぞ。素晴らしい技量だ。が、まだ足りんな。貴様の剣には圧倒的に『殺意』が足りない。本気で我を殺すつもりで斬ってこい」
アーサーはクスっと笑う。
「……君が僕の剣に何を思うのかは知らないけど、今のが僕の本気だと思う? ここからだよ本番は!!」
アーサーはそう言って黄金の聖剣を上段に構える。一瞬でアーサーの殺意が膨れ上がり、周りを包み込む。ヒナもイスカもアーサーの殺意にあてがわれて膝を付いている。この二人でさえ立っていられない程の殺気を平然と受け流すグラム。
「素晴らしい……!! もっと我を楽しませてくれ!!」
グラムは薄気味悪い顔から狂気の顔へと変わる。グラムは漆黒の魔剣を突き出すように構える。
アーサーの周囲から、このフロニャルドから輝きが立ち上り、黄金の光はアーサーの聖剣に集まってその輝きを増していく。
グラムはそれを見ながら自身の大技を放つ準備に入る。
「地獄の黒炎《ヘル・ブレイズ》」
グラムはそう呟くと自身の背後に黒い紋章を出現させる。
黒い刀身に黒紫の炎が纏わりつく。まるでこの世の憎悪を集約したようなおぞましい炎だ。
アーサーは剣を強く握り直す。
「これで終わりだよ……約束されし勝利の剣《エクス……
アーサーの剣の輝きが止み、その膨大な力が撃ち出される。
「どうだかな……殺せるのならやってみるがいい」
グラムはそう言って黒炎の突きを解き放つ。
カリバー!!!!》」
黄金の斬撃と漆黒の炎がぶつかり合う。黄金と漆黒がぶつかり合い、その余波でアーサーとグラムの周りは吹き飛んでいる。
そして、特大の爆発が起こる。大量の土煙りが巻き上げられ視界は完全に遮られた。
しばらくして土煙りが晴れると、ヒナとイスカは眼前の光景に目を見開いた。
そこには血塗れのアーサーが剣を杖代わりに膝を付きそうに何とか立っている状態だった。
逆にグラムは所々甲冑が砕け血を流してボロボロの状態だが余裕の笑みを浮かべて立っていた。
ヒナとイスカはアーサーに駆け寄る。
「その傷!!」
ヒナの問いかけにアーサーは途切れそうな意識を何とか繋ぎ留めて言った。
「……だい……じょうぶ…………だ……よ」
血塗れの笑顔でそう言った。
「そうなわけないでしょ!! すぐに処置をしないと」
ヒナは焦ったように言う。
その様子を見ていたグラムが口を開いた。
「この勝負は我の勝ちのようだな。少し遊んでやろうと思ったが、なにぶん目覚めてすぐの戦闘とこれ程の使い手を相手にするのはいささかきつかったようだな……そこの死にかけに伝えておけ。次に相見える時、決着を付けようとな」
クックックと笑ってグラムは闇に溶けるように姿を消した。
「ま……て……」
途切れ途切れに言葉を紡いでグラムが消えた方に手を伸ばすアーサー。それを遮るようにイスカが言った。
「もういい……今は休め」
イスカの言葉を聞いたアーサーはそのまま意識を失った。
「ヒナ! 急いで戻るぞ! まずはアーサーの治療だ。それとグラムのことだが、みんなには伏せておこう。余計な混乱を招くだけだ」
イスカの言葉にヒナは頷く。そしてイスカが傷だらけのアーサーを担ぐと風月庵に全速力で駆け出す。
ヒナは心配そうにアーサーを見る。
「待ってて……! すぐに治療するから!!」
こうしてアーサー対グラムの勝負は幕を降ろした。しかしグラムの言っていた一年後の世界戦争……その日までのカウントダウンが今宵動き出したのだった。