まどろむ暗闇の中、薄れていた意識が徐々に覚醒していく。
あぁそうか……僕は死んだのか……。
生涯を思い起こすと沢山の事があった。
沢山戦い、大勢の人々を殺してきた。
逆に多くの人々を救った事もある。
忠実な部下にも恵まれ、楽しい旅などもした。
そして沢山裏切られた。
それでも……自分にとって最も優先すべき事は【楽しい】と言う事だ。
それを考えると満足のいく生涯だったと思う。
生まれ変わってもう一度人生を楽しむ事が出来たらなんて思うが、どうもそれは無理らしい。
そんな満足感と悔いの心地よい矛盾に悩まされながら、
薄れていく意識に身を任せて、澄んだ蒼色の瞳を閉じる。
(もう少し、生きたかったな……)
完全に意識がなくなりそうになる時、ネクタイを締め、背中に短剣を背負ったネコが現れた。
(ん?なんだろうこの猫……)
見たこともない出立ちの猫をはっきりしない意識の中で確認した。
何故か無性にその猫が可愛くて触りたさに手を伸ばした。
瞬間
暗闇に沈みそうになる身体を見たこともない魔法陣が包み込み、蒼い光が辺りを眩しく照らし出す。
そして急激な浮遊感に襲われたかと思いきや、自身の眼前に広がっていたのは広大な景色だった。
「え? 何これ……ここどこ? そもそも僕何で生きてるんだ……」
冷静に自分の状況を確認してみるが何がなんだかわからない。
考えている間にも地面は淡々と迫っている。
しかし、そんな事はどうでもよかった。
(生きてる。いや蘇った? ……どっちでもいいか。)
元の生きていた世界とは異なるようだが、もう一度人生を謳歌できる喜びが自身の身体を支配していた。
そして、もう一度生きていくこの世界を瞳に焼き付けようと辺りを見渡す。
紫の空、浮遊している島々、森、海などの自然。遠くの風景を眺めていく。
一緒に落下していた猫を胸に抱き抱えて、風の精霊の恩恵、風王結界を発動する。
自身と猫が空気の膜で覆われ、落下の速度が緩やかになる。自身の落下地点が海だと確認する。
こちら側に来る前に魔法陣が出現していたのを確認していたので誰かが自分を呼び寄せたのは容易に想像がついていた。
案の定、眼前に広がっている海から石畳の台座のが浮かび上がって来た。
そこにゆっくりと着地すると目の前に女性が1人立っていた。
その女性をゆっくりと確認した。
白銀の髪に端整な顔立ち、魅惑的なプロポーション。真っ白な肌が露出している大胆な衣装。そして1番特徴的と言っていい猫耳に腰の辺りから生えている尻尾。
佇まいを見て相当高貴な地位にいることが推察できた。
(見たことない種類だな……猫人間かな?)
胸に抱き抱えていた猫がモゾモゾと動きその猫人間に駆け寄って行く。
「よしよし、ご苦労じゃったなチェイニー」
猫に労いの言葉をかけている彼女を観察していた。
その視線に気づいた彼女が猫を手放してこう言った。
「よく、来たな勇者!!」
快活に彼女がそう言った。
( 勇者? 僕の……事だよね? そんな感じで呼ばれた事もあったような……なかったような……でも、本業は一応王様だしな)
「お主はナナミ・タカツキで相違ないな?」
「ん?違うよ」
ナナミ・タカツキ何て聞いた事ないな……ここに来る前、暗闇の中にいた時にだいたいの知識が頭の中に入ってきて色々理解したけど、ナナミ・タカツキって多分東洋の日本っていうこことは別の世界の国の名前だよね……
「お主、今何と言った?」
彼女はもう一度質問してくる。
「だから、僕の名前はナナミ・タカツキじゃないよ」
それを聞いた彼女は慌てて台座の下に降りて言った。
しばらくして彼女は戻って来た。隣には紫色の髪に同じく猫耳と尻尾を生やした綺麗な女性が増えていた。
「どうやら、召喚の儀でバグが起きたらしい。今あの勇者に連絡して見た所どうやらあやつの友人は全てビスコッティに召喚されているらしい」
隣にいる紫色の髪の女性と話している彼女。
話終えるとこちらに向き直り申し訳無さそうに言った。
「すまんの。どうやらこちら側のミスでお主を勇者として召喚してしまったみたいじゃ。だがお主もこの魔法陣に描かれている勇者召喚の説明を見て来たんじゃろ?」
彼女は僕を呼び寄せた魔法陣を出現させる。
「いや、僕は勇者召喚なんてモノは知らないし、突然こちら側に呼び出されたみたいだよ?」
「じゃが、この魔法陣に描いてあるじゃろ?」
そう言って彼女は魔法陣に描かれている文字を指差す。
そこには『これは勇者召喚です。応じる場合のみこの魔法陣を踏んで下さい』と書いてある。
「んー知らなかったな、まあいいよ。僕を呼んでくれたことには一応感謝してるから」
満面の笑顔を作り笑いかける。
理由はどうであれ、この世にもう一度生を受けたのだ。
感謝しかない。
レオンミシェリは不思議に思っていた。
(こやつ、こちらのミスで突然異世界に召喚されたというのに動揺も怒る様子もない。感謝しているとお礼の言葉が出る始末。そもそもビスコッティの勇者の友人も連れてくるという事は知っていたし、その中に勇者の師匠もいるという事でそのナナミ・タカツキをガレットの勇者として迎える手はずだった訳だが……)
レオは勇者をじっくりと観察する。
黄金の長髪は後ろで三つ編みされ、顔立ちは完璧なまでに整っている。蒼色の瞳は吸い込まれそうな程澄んでいて、長髪から覗く肌は雪のように白い。
割と高めの身長だが、線は細く、白と青を基調とした服装に身を包んでいる。胸当て、手甲、脚甲をしているが軽い装備だ。そして1番目に付いたのはその腰に吊るされている流麗な黄金の長剣だ。
見ただけで分かる、自身の所持している魔戦斧グランヴェールに引けを取らないその長剣は神秘的な輝きを放っている。
いくら事故とはいえ、私はとんでもない物を召喚してしまったのかと心配になったが、それ以上に何かやってくれそうという期待の方が強かった。
「では、お主の名は何という?」
彼は綺麗な笑みを浮かべた。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕の名前はアルトリウス。アルトリウス・ペンドラゴン。よろしくね。それで君は?」
「我が名はレオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ。姫と呼ばれるの好きではない。呼ぶならレオ閣下と呼んでくれ」
これが《百獣王の騎士》レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワと《騎士王》アルトリウス・ペンドラゴン出会いだった。