現在アルトリウスはセルクルという鳥の様な物に騎乗していた。
生まれ付き乗り物なら何でも乗りこなせる騎乗スキルを備えていたアルトリウスは平然とセルクルを操っている。
初めてみるセルクルを簡単に乗りこなして見せたアルトリウスをレオ閣下とビオレは驚いていたが今は気にする様子もない。
そして前を走っているレオの後ろでビオレに色々な説明を受けていた。
「アルトリウスさん。現在、勇者帰還セレモニーで『戦』が行われているのですが、これからそれに参戦して頂きたいのです」
「『戦』?」
(この世界でもやっぱり戦争はあるみたいだ。
勇者召喚というからには何かしらの危機があるということが分かる。
でもしょうがない。せっかく召喚してもらったのに、何もしないというのは騎士道に背く事になるかな……
まあ別に今は騎士とか関係ないし、ブリテンの王という重荷から解放された今は自由に生きていくつもりだけど)
「はい。ここ最近、隣国のビスコッティ共和国が勇者召喚をしてから我らガレット獅子団領国は敗戦が続いています。そこでこちらも勇者召喚を行い、この窮地を打開して頂くために呼び出したのですが……」
「なるほどねー。えーっとビオレさんだったよね。僕の事は気軽にアーサーって呼んでね。それでちょっとしたバグが起きて来るはずのない僕が来たって事だよね?」
(僕意外にも勇者いるんだ。レオ閣下が最初に言ってたナナミ・タカツキさんが本当はガレットの勇者だったみたいだね。確かビスコッティの勇者はシンク・イズミっていう人だったよね。その人を殺せば丸く収まるのかな?)
「では、公の場でない所ではアーサーさんと呼ばせて頂きます。一応公式の場ではアルトリウス様で勘弁して下さい」
ふふっ可愛らしい笑みを浮かべる。
「ありがとう。それでその『戦』でビスコッティの勇者であるシンク・イズミっていう人を殺せばいいんだよね?」
僕がそういうと、前を走っていたレオ閣下が顔をしかめる。
多分「殺す」って言う単語に引っかかったのだろう。
アーサーを見た時から雰囲気が現代の地球人ではないとわかっていたレオだが、要するに殺し合いが頻繁に行われていた時代から来たという事が分かった。
「アーサーよ、お主はこのフロニャルドの『戦』を勘違いしておる。これから戦場に出るが己の目で見た方が理解も早いじゃろう。勇者帰還セレモニーで既に『戦』はもう始まっておる。移動しながらビオレに『戦』の説明をしてもらうといい」
レオ閣下は自身の騎乗しているセルクル、ドーマのスピードを上げた。
ビオレさんにこの世界の事を一通り教えてもらった。
まとめると、まずここはフロニャルドという異世界。
国の興業で「戦」というものがある。
「戦」は殺し合いではなくスポーツの様なもので安全だという事。
フロニャルド出身の人々は一定のダメージを受けると『けものだま』というものになる。
高位の騎士や将軍などは防具や武器がダメージを肩代わりしてくれるらしいが、それでも一定のダメージ量を超えると『けものだま』になってしまう。
異世界から召喚された勇者はフロニャルドの加護を受けられないので怪我をするらしい。
まあこれは僕の剣の鞘の力で問題ない。
最近、隣国のビスコッティ共和国が勇者召喚をしてガレット獅子団領国はピンチという事。それで僕を召喚した。
まあ間違えたらしいけど。
それに地球に帰る事が出来るという事だ。
でも僕はもう死んでるし、ブリテンの王国は時を経て大きく変わっている筈だ。
今更昔の時代の王様が現れたところで邪魔なだけだ。
だからフロニャルドに永住という方向性でいこうと思う。
落ちついたらレオ閣下か、ビオレさんにでもお願いしてみよう。
『戦』の要点をまとめて頭に入れる。
(なるほどなるほど。楽しそうだな。
殺し合いじゃない「戦」なんて初めてだし、甘いと思ったけど、殺したい訳じゃないから問題ない。
うん。全然元の世界よりいいね。
ガレットの人達も優しいし丁寧だ)
「レオ閣下、ビオレさん。僕ガレットに協力するよ。あと『戦』が終わったらちょっとお願いがあるんだけど…いいかな?」
アルトリウスの笑顔に頬を赤らめる2人。
慌ててレオ閣下が答える。
「そ、そうか。いい返事を聞けて良かったのじゃ。もうすぐ「戦場」に着く。そこでアーサーの実力を見せて貰おう。そのお願いに関しては『戦』が終わって落ちついたら時間を作る事にしようとおものだが……どうじゃ?」
「わかったよ。ならまずは『戦』で活躍しないとね」
赤い顔を隠すように2人はセルクルのスピードを上げた。
セルクルを走らせて数十分、岩場でセルクルを止めると向こうの方に『戦場』らしき場所が広がっていた。
「着いたぞ。丁度ここから『戦場』の様子を見る事が出来る。ほれ、もうあそこでビスコッティの勇者が戦っておるぞ」
レオ閣下が指さした方向に瞳を凝らす。
そこから眼下に広がる雄大な景色、その中心に湖があった。だが、ただの湖ではない。そこはさながら巨大水上運動場とでも言うべきか、数々のアスレチックが並び、そこを渡ろうとする人、そしてそれを妨害しようとする人とに分かれている。水中に落ちた人にはすかさず船が寄って救助をしていた。
安全性が考慮されている事が分かる。
そこでは金髪の少年が襲いかかってくる敵の兵士を『けものだま』に変えて水上アスレチックを突き進んでいた。
戦況を見るにかなりガレットはビスコッティに押されているようだった。
「かなり攻め込まれているようじゃな。一体うちの連中は何をしているんじゃ……」
レオ閣下が悪態をついている。
(へーこれが『戦』か。
さっき一通り説明を受けたけど、本当にこれが『戦』なんだ)
「どうかしましたか?」
ビオレがアーサーの表情を見て心配したのか尋ねてきた。
「何でもないよ。ただ、本当に安全な『戦』なんだって思ってね。僕のいた所とは全然違うから」
悲しそうに笑うアーサー。
(僕のいた世界もこんな平和だったらあんな事にはならなかったのかな…ねえ……ランスロット、モルドレッド)
「アーサーさん。貴方は………」
ビオレは何か聞きたい容子だが、「何でもありませんっ」と言ってそれ以上聞いてこなかった。
少し心配させちゃったかな…でももう過去の事はいいんだ。
(今は第二の人生だから楽しまないと……)
「それでレオ閣下。僕は早速戦線に加わればいいの?」
「一旦本陣のキャンプ地に行け。そこに騎士数名とビオレの部下の近衛隊が待機しておるし、一式の装備がある。そこで準備を整えてから出発するといい。それとこれを持っていけ」
レオ閣下は蒼い宝石の着いた指輪を渡してきた。
「これは?」
「これは我が国に伝わる『神剣』じゃ。名をエクスマキナという」
(神剣エクスマキナねー。僕の持ってるこれと似たようなものかな?)
アーサーは腰の長剣に眼を落とす。
「レオ閣下。せっかくだけど、僕にはこれがある。それに間違えて召喚された勇者がいるわけだから正規の勇者のナナミ・タカツキさんに渡してください」
そう言って腰の長剣を撫でる。
「そうか、なら本陣のキャンプ地に着いた後、本隊のゴドウィンと合流して援護を頼む。わしはこのまま戦線に行ってガウルの援護に行く。ではビオレ、アーサーを頼んだぞ」
レオ閣下はセルクルに乗って『戦場』に向かって行った。
「では、私達も向かいましょうか」
「そうだねー」
2人も本陣に向けて出発した。