その正義、欠陥品。   作:おガンツ

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前田日生#1

暗く、澱んだ空気のなか、三人の家族がいた。

 

両親は、勇気を出して、霧を払う。

 

「私は、この子を二度も殺すなんて、できない」

 

そして、希望に溢れた、四人家族になった。

 

 

 

─────

 

 

 

「あぁ、先生。俺、今日休みます。妹が熱出して、両親は仕事で遅くなるから、俺が面倒みなきゃだから。そっ。うん。よろしく」

 

未生が熱を出した。

何があったのか。

疲れなのか、それ以外なのか。

とにかく、未生に寂しい思いをさせられない。

未生の部屋で、学校へ電話する。

 

「お兄ちゃん、ごめんね」

 

「バカ、寝てないとダメだろ?」

 

ベットから起き上がろうとする未生を、俺は止める。

 

「水....飲みたいな」

 

「わかった。取ってくるから待ってろ」

 

俺と未生は、血が繋がっていない。

歳の差は4歳。

未生は小学六年生の11歳。

 

もうすぐ、誕生日だ。

 

ケータイが鳴る。

 

「もしもし。あぁ、心優か。今日は、学校休むわ。未生が熱出してさ。バイト?あぁ、休むよ。今日は父さんも母さんも、遅くなるからさ」

 

今頃、ホームルームが終わって、一時間が始まる前だろう。

 

「学校終わったら、面倒見るの変わるって?....そうだな、お願いしようかな。バイト、五時からだから」

 

持つべきものは親友か。

バイトを休んでもいいが、それだと誰かに代わってもらうのも、面倒だし、申し訳ない。

正直物凄く助かる。

それに、未生も一週間ぶりくらいに、心優に会うのだから、喜ぶはずだ。

あとは、マスクをつけさせて、うつさないように気を付けなきゃな。

 

「ほら、水持ってきたぞ」

 

「ありがとう。お兄ちゃん」

 

「それ飲んだら、寝なきゃダメだぞ」

 

ごく、と未生が水を飲む。

素直で、思いやりがあって、穏やかな自慢の妹。

血が半分しか繋がってないなんて、関係ない。

俺の自慢で、大切な妹。

 

「ごめんね、学校休ませて....」

 

「何言ってんだ。俺は、お前の兄ちゃんだから、当然のことだ。お前一人にしておけない」

 

家族だから。

 

「うん。お休み、お兄ちゃん」

 

「おやすみ、なんかあったら呼ぶか、電話しろよ?俺は、部屋に居るから」

 

バタンと、扉を閉める。

我が前田家は、未生に甘い。

両親も、俺が中学生になるまで携帯を持たせてくれなかったのに、未生は小学三年生の時にもたせた。

 

どうやら、目に入れても痛くないらしい。

 

さて、本でも読もう。

 

心優に薦められた、重力ピエロ。

伊坂幸太郎著。

血の繋がらない、弟。

それでも、家族な弟。

文学少年な心優らしい、俺のためのオススメ。

 

読み終わったら、日生ならきっと、未生が家族に、どこが似てるか俺に言い出しそうだよ──

 

だが、うちの妹は、二階から落ちてきたりしない。

 

そして、一人で抱え込ませたり、しない。

 

春が、ゴミ袋を踏みつぶしてから、父親が53のトレーナーの意味を語ったあたりで、腹が鳴った。

どうやら、お昼時らしい。

 

俺は立ち上がり、未生の部屋のドアをそっと開ける。

どうやら、寝ているらしい。

 

カップ麺でも、食べようか。

 

それから、ご飯を食べ終わって。

未生に、腹減ったら作るから、起きたら電話か呼んでくれ。

とメールして、部屋に戻る。

 

そのあと、重力ピエロを読み終わって、まだ未生が起きないので、少し心配になり様子を見ようと立ち上がると、インターホンがなる。

 

カメラには、小学生の男の子が映っている。

 

「どちらさま?」

 

「あ、篠崎 総次郎(しのざき そうじろう)です。今日、未生さん、休んだって聞いたので、お見舞いに来ました」

 

....まさか。

まさか、未生の、彼氏か!?

 

見たところ、四年生くらいの少年が、名乗る。

篠崎....?

 

「....わかった。今開ける。ちょっと待ってな」

 

くそぉ、うちの妹はやらんぞ....!!

 

ドアのロックを開けて、開く。

 

「....あ、はじめまして。お兄さんですか?」

 

お兄さん!?

お兄さんだと!!

お前にお兄さんと呼ばれる覚えはないぞ!!!

 

「あの、どうかしました??」

 

「おっと。なんでもない。まぁ、上がれよ」

 

とりあえず、リビングに案内する。

 

「お邪魔します」

 

....礼儀は、まぁ合格か。

靴もちゃんと揃えてるし。

 

「お茶、出すからそこに掛けてな」

 

「あ、すいません。失礼しますね」

 

煎茶でいいか。

コポポポっと急須から注ぐ。

 

「ほら、煎茶。飲めるか?」

 

「はい。ありがとうございます」

 

湯呑を口につけ、ふーっと息を吐いて、総次郎はお茶を飲む。

 

「総次郎....だっけ?お前、姉ちゃんいる?」

 

コトッと湯呑を置く。

 

「あ、はい。篠崎 淳(しのざき すなお)です。お兄さんは、ウチでバイトしてるって聞いたことあります」

 

やはりか。

俺のバイト先、焼肉屋篠。

割と高級な部類に入る。

そこは、なかなか繁盛している。

居酒屋と兼用していて、11時に焼肉屋は閉まり、暖簾を替えて、0時からは、居酒屋になる。

コイツの父、総一郎さんが、焼肉屋の店長。

その奥さんである、瞳さんが、居酒屋の店長となっている。

そして、そこの娘、篠崎淳が、俺と同じバイトなのだ。

淳からも、弟が二人いると聞いていたし、総一郎は下の子なのだろう。

 

「それで....お前は何年なんだ?」

 

「四年生です」

 

さぁ、ここからが本題だ。

 

「ほう....。学年も違うのに、うちの未生とはどんな関係なんだ?」

 

「あ、えっと。その....」

 

言いよどんでいる....。

やはり、彼氏か?

彼氏なのか!?

 

「友達だよ、だからそんなに怖い顔しないでお兄ちゃん」

 

未生が、階段から降りてきていた。

 

「未生、寝てなくて大丈夫なのか?」

 

「うん、だいぶ、よくなったから」

 

それならいいんだが....。

まあ、顔色も良くはなっているし、安心できるか。

 

とにかく、二人の邪魔になるのは、野暮だな。

 

「すまんな、俺は部屋に戻る。あとはゆっくり話をはずませてくれ」

 

「わかったよ。お兄ちゃん、疲れたでしょ?バイトまで、ゆっくりしたら?」

 

正直、飯食って、本読んでただけなんだが....。

 

「あぁ、わかった。うつすといけないから、冗談抜きに、早めに帰せよ?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

それから、俺は部屋に戻り、ベッドに横になった。

未生に、後輩か。

それより、彼氏なんだろうか....。

いつか、お兄ちゃんなんて、呼んでくれなくなるのだろうか。

 

....不安だ。

 

それから、20分程で、総次郎は帰った。

 

「....で、未生。いったいアイツはどんな関係なんだ?」

 

「うーんとね、帰り道一緒だったから。いつも見かけてて、声かけたら、話が合ってね。それから、よく二人でいるよ」

 

「....そうか」

 

正直、ひっかかることはあったがまぁいい。

 

その時、玄関から、声がした。

 

「おーい、来たぞー。って、未生、元気そうだな。よかった」

 

「みっひー!」

 

「おお、心優か」

 

みっひーと言うのは、未生が心優につけたあだ名である。

 

「いや、すまんな。珍しく、他人に声かけられてさ。遅くなっちまった」

 

「嘘だろ。そんな珍しい事....あるのか」

 

「そんなことより、日生、時間大丈夫か?」

 

気が付くと、四時を回っていた。

歩いて、30分ほどかかる篠には、いつもこのくらいの時間に家を出ている。

 

「おっと、そうだな。んじゃ、後頼むな。未生、この後は、心優が居てくれるから、こき使ってやれ」

 

「未生のためなら、喜んで」

 

「そっか。じゃあ、ゲームやろうよ、みっひー」

 

いや、ダメだろ。寝てないと。

注意して、バイトの制服を持って、玄関へ向かう。

 

「お兄ちゃん、いってらっしゃい!」

 

「おう、行ってくる」

 

その日、バイトで、新たな事件に巻き込まれるとは、思ってもいなかった。




あ、月見里さん、次でしたね。

月見里さん視点で、送ります。

その後、日生が休んでいた時、学校でのみっひーを書きます。
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