スカイリム~廃人達の生き様~ 作:荒ぶるメタボ
足が重い。肺が熱い。
後ろを追いかけてくる衛兵達も消耗しているが、俺はその比じゃない。
なにしろ幼女だからな。
しかも昼間で吸血鬼。大の大人に体力で勝てる訳がない。
治癒の呪文でスタミナを回復させながらなんとか距離を保っているが、このままじゃ埒があかない。
逃走のゴールは一つ、見つからないように背中のスクゥーマ袋を処分すること。
これさえ無ければあとはどうとても言い訳できる。
「……ッ!ヒーリング!」
持続型の治癒魔法でゆっくりスタミナを回復する。足の痺れが取れて、また全速力で走り出す。
どうすればいい?どこに捨てれば見つからない?いや、考えを変えるんだ、後ろの衛兵達を撒ければいい。
スクゥーマなんて人目のないところで猫にでもやれば万事解決だ。
道が別れる。その先の標識を見て、咄嗟に閃いた。
『七千階段』
スカイリム最高の山、ハイフロスガーに繋がる険しい山道。
そこならさすがに衛兵達も追ってこれまい。というかもうここ管轄外だろ、いい加減帰れよ。
「犯人が七千階段に逃げ込んだぞー!!追えーー!追えーー!!!」
「「「ライラ首長のために!ブラックブライア万歳!!!うぉぉぉ!!!!」」」
いや、なんでイヴァルステッドの衛兵まで追いかけてくんの!?
おたくら戦争中だろ!?なんて突っ込んでも許してくれる雰囲気じゃない。
足を早めた俺の前に、そいつは現れた。
「ウガァァァアア!!」
立派な黒い髪を垂らした、野生のゴリディ……じゃなく、トロール。
くっ、ただでさえ急いでるのにこんな再生チートのゴリラ相手にしてられるか!
スクゥーマ袋を両手で抱え直し、衝撃に備える。
頭の中で使いたいシャウトを選び、喉に意識を集中する
「ファース、ルー!!不安!!」
「うがひぃぃい!!」
相手に恐怖を付与するシャウト(魔法の一種)を受け、トロールは俺に背中を向けて逃げ出す。
「うわっ!なんだなんだ!!トロールが来るぞ!構えろ!!」
俺を追う衛兵達に向かって。
ふはは!トロール戦車だッ!!WRYYYYYYYYYYYY!!!
恐慌に陥って戦えないが、トロールが突っ込んでくるだけでも十分恐ろしかろう!
……と思っていたら。
「慌てるな!ホワイトランのあいつと比べればなんて事ない!」
「そ、そうだ!あいつと違って切れば血は出るし、殴られても骨折だけで済む!何も怖れることはない!クールになれ!」
「クールになって気づいた、あのトロール恐慌に掛かってるぞ!
犯人の幻惑魔法に違いない!トロールは無視して追跡を続行だ!!」
いやいや、ホワイトランのあいつって誰?
というかなんで衛兵達こんなにハイスペックなんだよ、俺の見事な作戦が一発で看破されてるんですけど!?
なんて突っ込んでる場合じゃない。
ここは現実でゲームとは違うと自分に言い聞かせて、邪魔するモンスターを「不安」のシャウトで蹴散らし、回復魔法⇒全力疾走の悪性循環に戻る。
無限と思えたその循環もついに終わりを迎える。
とうとう七千階段の頂上、ハイフロスガーまでたどり着いてしまった。
……遠くから衛兵達の罵声が聞こえる。もうすぐ追いつかれる。
何とかして、スクゥーマを始末しないと……
始末……目の前の宝箱が目に留まる。これは山の仙人達、グレイビアードに捧げる奉納箱。
スカイリムの法律では一度なかに入れた物は彼らの私有物となり、取ろうとすればそれは窃盗行為にあたる。
……これだ。
俺は迷わずスクゥーマの入った袋をその中に入れた。
幸いにも他にもいくつもの袋が入っており、手間を掛けて順番をずらすと、もうどれが自分の入れた袋かわからなくなった。
「くはははは!ついに追い詰めたぞ汚らわしい密輸業者め!
さあ武器を捨ててスクゥーマを渡すのだ!そうすれば楽に死なせてやろう!!」
しばらくして衛兵達が追いついてきた。
なんてナイスなポジション、フスロダー(衝撃魔法)でまとめて崖から落とせるぞ。
……メインクエストを進めてない俺は最初の「ファス」しか唱えられないから、よろめかせる事ぐらいしか出来ないが。
「スクゥーマ?なんの事ですか?そんなもの知りませんよ」
「悪あがきはよすんだな!貴様がスクゥーマを抱えてここまで逃げ延びた事は衛兵ネットワークを通して確認済みだ!」
「でも無いものは仕方ないじゃないですか」
両手を広げて何も持っていない事をアピールするも、衛兵達は武器を降ろさない。
「どこかに隠したに決まっているだろう!」
「どこにです?」
「例えばその宝箱の中だ!」
ご名答。いや、他に隠すところなんてないしね。
「そう思うなら探してみたらいいでしょう、でもこれ全部グレイビアードの私物ですから、漁るなら許可を取らないといけませんね」
わざとらしく言って、寺院の門を叩くフリをした俺を衛兵達が慌てて呼び止めた。
「スタァァップ!待った!それは必要ない、なぜなら俺達は衛兵だ!
首長の名においてその奉納箱を調べさせてもらおう!」
「どの首長ですか?ハイフロスガーは中立地帯、それに無断で探りを入れるなんて上級王でも無理ですよ?」
「ぐぅ……!」
衛兵達の間に動揺が広がる。
この寺院に住まう仙人、グレイビアードとはスカイリムで最も尊敬されると共に恐れられている、人外魔境に踏み入った世捨て人たちだ。
下手に怒りを買えばどうなるかわかったもんじゃない……というのが一般人の認識だ。
ハッタリの効果はてきめん。ここはもうひと押しだ。
「なのでやっぱり呼んできますね。
大丈夫ですよ、万が一機嫌を損ねてもレベル150超えの超人ズに声の力でバラバラにされてそこからイヴァルステッドに捨てられるだけですから。……上級王トリグのように、ね」
「よし!ハイフロスガーは異常なし!お前ら警備に戻るぞ!
……そして貴様は覚えていろ……今回は逃げられたかも知れんが必ず追い詰めて死刑台に送ってやる!」
いやいや、そんな銭形刑事みたいな事言われても、本当に俺何も知らないし。
口惜しそうにぞろぞろと引き上げていく衛兵達を見送りながら、昨日の貴族から貰った奇妙な薔薇を取り出す。
サングインの瞳……その形は、とあるデイドラロード(魔神)が残す伝説の杖に良く似ていた。
件の杖の入手方法は、気立ての良いおっさんに偽装したデイドラロードと酒飲み勝負して勝ち、身に覚えのないトラブルを起こして、その後始末に追い掛け回されること。
……ちょうど今回のように。
「いやはや、あの状況を切り抜けるとは恐れ入った!流石あの女が選んだたった一人の勇者といったところかぁ?」
背後からする男の声に、一々驚く気にもなれない。
俺の予想が正しければそいつは、
「ほぉ、この姿を見ても驚かないとは」
「ええ、大体予想はついてましたし、今ので確信に変わっただけです」
墨をこぼしたような黒い肌に赤い幾何学模様を走らせ、頭には悪魔のような角を生やし、おぞましい鎧を身につけたその男は、快楽と放蕩を司るデイドラロードが一人、サングインだった。
「ほぉ、こういう反応も中々に新鮮だなぁ!
どいつもこいつも俺の招待にド肝を抜かしてへ垂れ込む腰抜けばかりだが、流石は「世界を救ったドラゴンボーン」と言うべきか?」
「やっぱり知ってるんですね、なんでわた、俺達がこの世界に来てしまったのか……」
「そりゃなぁ、俺達デイドラロードの間は今やその話題でぶっちぎりだからなぁ」
「お願いです!教えてください、どうやったら元の世界に戻れるんですか!?」
目の前の大悪魔に、誠心誠意真心込めて土下座する。
曲者ぞろいのデイドラロードの中で一番マシかつ気さくなのが、今俺の目の前にいるサングインだ。
気を良くしている今の彼なら、俺の願いを聞き入れてくれるかも知れない。
「そうさなぁ、そう言った難しい理屈の話は俺の専門外だ。だから小難しいのは抜きにして結論だけ言わせてもらおう。
お前さんが元の世界、エセリウスの向こうに戻るのは絶対に不可能だ」
「……なっ!?ど、どうしてですか!?」
「だぁから~理屈の事を聞かれても説明できないんだって。とにかく無理なものは無理。
それともメファーラ辺りにでも聞いてみるかぁ?耳応えの良い返答をしてくれるだろうぜぇ?真実かどうかは二の次だがな」
そんな、それじゃあ俺は一生この世界に居るしかないのか?
家族に別れも言えず、心配を掛けさせたままこの世界で死ぬのか?
「なぁに暗い顔してんだぁ?なっちまったもんはしょうがないだろ。
それより折角そんな力を手に入れたんだ、思いっ切り楽しまなきゃ損だぞぉ?」
「力……ですか?」
「お?お前さん気づいてないのかぁ?
……よし、なら黙っていよう。その方が面白そうだしなぁ」
サングインはいたずらを思いついた子供のような悪い顔して、一人納得する。
そんな中途半端な事を言われたら逆に気になる。
「まぁ、そう拗ねるな。力のことはその内気づくだろうから俺からいう事は何もねぇ。
あんまり肩入れしても他の奴らにどやされちまうしなぁ。
代わりと言っちゃなんだが、そのサングインの瞳について説明させてもらおう」
いつの間にか俺からサングインの瞳を取り上げたサングインは、薔薇を指先で弄りながら近づいてくる。
俺に近づけて、止まった。
時間が。
――神速反射が発動した、ということは、敵意がある?
相手は気まぐれで生死与奪を行うデイドラロードだ、何をしでかすのかわかったもんじゃない。
時間が許す限り全力疾走で距離を開けた俺の目の前に、一瞬遅れて紫色の炎が燃え上がる。
デイドラを呼び出す、オブリビオンの門だ。その中から現れたのは……
「おいおい、そんな全力で逃げるなよ、サムおじさん傷ついちゃったぞぉ?
……なぁに、ちょっと痛いけどすぐ慣れるって。お前さんなら目玉の一つや二つ潰れても問題ないだろ?」
目玉を潰す!?
さらりと溢れたその一言に戦慄した。
言葉の意味が通じてないと判断したのか、サングインは自分の左目に薄紫色の薔薇を宛てがい、……押しつぶした。
「とまぁ、装備するとこんな感じだ。へへっ。
この瞳は便利だぞぉ?生命・死者探知は勿論、目的を念じればそれまでの道を示してくれるし、集中して見れば物事の本質を見抜くこともできる。
薔薇の杖を他のドラゴンボーンに渡しといてなんだが、こっちの方がよっぽどオススメだぁ。
あなたの放蕩生活を全力で支える、サングイングループってなぁ!」
要するにゲーム内のクエストマーカーとアイテム説明が観れるということか。
確かにこちらの世界に来てからはメニューが開けない。
アイテムだって説明がないから、区別がつかない。当然だけど不便を感じている今日この頃だ。
「それを付ければ目的地がわかる、アイテムの属性を観れる……いいですね、便利な目です」
「そうだろうそうだろう!
ネレヴァリンやクヴァッチの英雄にも勧めてみたが誰も欲しがらないんだよなぁ、便利なのに!」
「ええ、私も却下ですよ。確かに便利ですけど、片目を潰すなんて絶対嫌です」
一人ご機嫌になっていたサングインの表情が凍りつく。
「え、何お前さん、付けないの?」
「付けません」
「どーして付けないの?」
「だって目潰したくないですし」
「殴っていい?」
「嫌ですよ」
「一発で良いから」
「自分の全てを込めそうだから嫌です」
「…………」
「…………」
時間が止まった。比喩ではなく。
慌てて飛び退くと、さっきまで立っていた場所の空間が歪んだ。振り抜いたサングインの拳圧で。
やばい、やばいやばいやばい!やばいやばいやばいやばいやばい!!
デイドラロードを怒らせてしまった!!
「お前さん、一遍死んでみろ。いや本当に。
死ねばわかるぞぉ、この目の素晴らしさが。だから、ほら、死ねよ?」
さも「このパン美味いから食ってみろ」のような気軽さで、死ねと命令してくるサングイン。
……死の概念を持たない彼らにとって、人の死とはそれほどに軽いものなのだ。
それゆえに、なんの躊躇いもなく本気で殺しに来る。
殺気すら発せず、まるで道端で出会った友人に挨拶するような気軽さで、命を刈り取る。
どうすれば、目の前の大悪魔を説得できる?価値観が全く違う相手に、命の重さを説くことができる?
俺を殺すという決断を、変えさせることができる?
「ご、ご、ごめんなさいサングイン様!怒らせるつもりじゃなかったんです!どうか許してください!」
……結論不可能。
真心込めて誠心誠意土下座するしかない。
「じゃあ目を付ける?」
「は、はぃぃ!」
「よし、じゃあ自分で付けろ?
しっかしお前本当にそのポーズが好きだよなぁ、たしかアカヴィリでいう最大級の敬礼じゃなかったかぁ?
やだなぁ、俺達の仲じゃないか、これからも仲良くやろうや?」
薔薇を左目から抜き出し、空になった空洞を三日月に歪めて笑うサングイン。
目玉を潰して何が仲良くだ、思わず抗議しそうになるのをぐっと堪える。
実際問題、俺の目を潰すことにサングインは微塵も罪悪感を感じてないし、悪気すら元より存在しない。
……下手に機嫌を損ねるより、後腐れなく縁を断つため、愛想笑いを浮かべながら薔薇の根を左目に近づけた。
激痛。失明。
想像を絶する痛みに、モノローグを飾る余裕すらない。
激痛のあまり思わず気を失いそうになって、俺はその場に蹲った。
それを愉快そうに眺め、サングインは思い出したように口を開いた。
「そうそう、一つ思い出したぞぉ?お前さんの相方、なんと言ったかぁ?どうでもいいか。
お前さんを追いかけて色々無茶しちまってなぁ、今結構やばい事になってるぞぉ?
……早く助けに行ってやらないと、手遅れになるかもなぁ」
「ヴィジョンのことですか!?」
「ん~いいねぇ、その目。強すぎない控えめな色合いが素材を引き立てている。
さっすが俺だぁ、アバンギャルドにも程があるぞオイ!」
「……教えてください!あいつは今、どこにいるんですか!?」
「お?おお、アレならもう視えてるんじゃあないのかぁ?お前さんの新しい左目でなぁ」
意味深に笑うサングインの真意に、ハッと気づいた俺はヴィジョンの姿を思い浮かべながら右目を閉じた。
残された視界の端で、ゲームで見慣れた白い三角錐のシンボルが静かに佇んでいた。
一応人体破壊?になるので注意書きに載せた方がいいんでしょうかね?目潰しはないけど手足が吹っ飛ぶ描写はどんどん出る予定です。
感想で頂いたコメントを見て思ったんですが、ネットで公開されてるフォロワーMODを登場させる場合、作者様の許可は必要でしょうか?
一応キャラの二次引用になりますよね?