スカイリム~廃人達の生き様~ 作:荒ぶるメタボ
絶望した。
目の前の現実に。
惨殺死体が散乱する山賊のアジトの最奥で、檻の中のエルフの胸を貫き、返す手でその身体を真っ二つに引き裂いた白鎧の騎士に。
「エルフ?殺す。エルフ?殺す。エルフ?殺す。殺す殺す殺す殺す。エルフは殺す。エルフは死ね。エルフは駄目だ。粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清」
スクゥーマを決めたようなイカれた台詞を発するそいつの手が振り上げられた。
無残に両断された恩人の死体を更に躙ろうと、勢い付く。
なんだよこれ……、なんだよこれ……!
「ふざけるなぁ!!そんなに殺したいなら殺してやる!うぁぁあああ!!!」
身体が弾けた。怒りのあまり。
恐怖でイカれたのかも知れない。
精神異常者御用達のハリウッドオナニー映画のような猟奇的場面を目の当たりにして。
“左目”に映る異常な数値を目の当たりにして。
“栄光騎士ペリナル・ホワイトストレーク”
“種族:ブレトン”
“レベル:75”
“体力:1500 スタミナ:1500 マジカ:1500”
“攻撃力:4000 守備力:3500”
”効果:この英霊がエルフと戦闘する場合、バトルフェイズの間のみ攻撃力が相手の攻撃力分アップする”
とにかくどうでもいい、目の前の、どうみてもプレイヤーな狂人の狂行を止めるために、ありったけの力で地面を蹴る。
「敵?迎撃。……エルフ?エルフ!エルフ!エルフ!!エルフ!!エルフ!!エルフ!!エルフ!!殺す殺す殺す殺す殺す!!!!顎を剥がして目を潰す!!!!お゛げい゛え゛ぇあ゛ぉぉおおぉおおおお!!!!!」
銀色の弧光が止まる。精巧に装飾された白銀の剣となって。
剣を潜り抜け、それを握る白銀の手にドラゴンベインを走らせる。
塞き止められた金属同士の抹殺音が、幾重に重なって迸るが、それが耳に届く前に、返す剣の鋭光と共に再び静止する。
「硬いのつけてんじゃねーですよ!」
篭手に指を引っ掛け、引き剥がそうと試みるも、接合部のようなものはどこにも見当たらない。
まるで脱着を考慮していない、不合理な設計に舌打ちながら、背後に回り込む。
「小賢しい!エルフ小賢しい!頭潰す!脳みそ潰す!目玉えぐり出す!!ヴぉえあがぎぃいいいいい!!」
まさかのバックキック。
静止したペリナルの足を踏み台に後ろに跳躍する。
白い光のオーブを帯びた左手に、ただならぬ気配を感じたからだ。
氷魔法ならいい、俺は吸血鬼だ。冷気には強い。
だけど、周囲の空間を切り崩すその白い光は氷魔法なんて生易しいものでは断じてない。
「殺す殺す殺す殺す!!!ホワイトストレークビーム!!」
しきりに鳴り響く心の警鐘に従って、着地した瞬間物陰に飛び込む。
時が動き出すと共に、バグったようなフリーズ音を連鎖させながら、光の有刺鉄線が俺がいた空間を破砕した。
「気をつけろ!そのビームに当たったら一撃で死んでしまうぞ!」
ペリナルの後ろにいた、NPCのような男が叫んだ。
「一瞬でいい、何とかそいつの動きを止めてくれ!」
こちらの返事を待たずに一方的にまくし立てたその男は、背中に背負っていた大きなかごを構えた。
否、かごなんかじゃない。一見かごのように見えるそれは、鈍い光沢を放つ白い金属で出来たいた。
何をする気だ、なんて聞いてられる戦況じゃない。
ペリナルが迫る。遮蔽物を粉塵に変えながら。
刀に添えた左手を解放し、意識を集中させる。
――吸血鬼の手――
遮蔽物を巻き上げ迫ったペリナルの巨躯が宙に浮かぶ。
磁石に引き寄せられるように迫ったペリナルが自分と衝突する前に、左手を振り払って岩壁に叩きつける。
轟音に混じって響いたのは、イソップノイズ。一撃じゃ足りない。もう一度手を振りかぶり、反対側の壁に叩きつける。
岩肌が砕け、洞窟が悲鳴を上げる。トドメとばかりに全力で手を振り上げ、遠心力に従って飛ばされたペリナルが最上点に達した時、二連の詠唱―デュアルキャスト―で威力を倍増した「吸血鬼の手」で地面に叩きつけた。
剥き出しの地面が砕け散り、軽く俺の倍も跳ね上がる。
迫り来る危険――岩のお陰で止まった時間の中、刀を逆手に構え、全力でペリナルの元に駆ける。
如何な装甲を誇ろうとも、重力ダメージの前には無力。
それでも、もし万が一生き延びていたら、砕け散った鎧の間から覗く心臓を貫いて、完全に止めなければ。
止めなければ、やつはきっと立ち上がって、さっきのような恐ろしい魔法で俺を殺す。
恐怖に突き動かされ、期待に鼓舞された身体が、巻き上がった土煙を切り分けて、ペリナルの前にたどり着く。
……そして絶句した。
アメリカンコミックのような、人の形に空いた大穴を見て。その下で膝を立て、今にも立ち上がりそうな無傷のペリナルの姿を見て。
「モルト・ベネ!後は任せろォ!」
時が流れ出す。入れ替わるように飛び出したNPCが、白金属のかごをペリナルに覆いかぶせる。
「エ゛ェェェエル゛ヴゥゥゥウゥウウウウ!!!!!!!!!!」
怨念じみた残響を残して、白い甲冑の男は吸い込まれるように白金のかごの中に消えた。
「ふぅ……なんとかなったか……」
穴の底で、かごを地面に叩きつけた姿勢のまま、NPCは大きく溜息をついた。
そのかごの正体が気になって、左目を凝らすと、ペリナルの時のように字幕が浮かび上がった。
“Dwemer Jar”
“亜空間を内包するドワーフ製の瓶。特別な金属で出来ており、レッドマウンテンの溶岩にも耐える”
“対人宝具:B”
“保有者:マックミラーノ”
……さっきは戦闘中だったからつっこんでる余裕なかったが、どこかおかしいぞこの解説文。
それよりDwemer Jarって、確かポータブルハウス系のMODだったはず。
直接使った事はないけど、このMODのスクリプトにはお世話になっているからよく覚えている。
ということは……
「おーい、悪ぃけどさっきの魔法で引き上げてくれ!こんな深いと登れそうにないんだ!」
“マックミラーノ”
“種族:インペリアル/ドラゴンボーン”
“レベル:66”
“体力:610 スタミナ:210 マジカ:140”
“攻撃力:1850 守備力:800”
“懸賞金:ホワイトラン2940/ファルクリース12740/リフテン360/ペイル920”
俺は無言で穴から退いた。こいつもやばかった。
無銭飲食で懸賞金40の前科持ちの俺だが、こいつはそんな次元じゃない。
千単位で懸賞金が付くのは殺人ぐらいだ。
しかも一人殺して1000だから、17000近くあるこいつはホワイトラン領だけで二人も殺し、更に殺人罪に匹敵する何かをやらかしているということ。
そしてファルクリース領の12000は……考えるだけでも恐ろしい。
野生の通り魔ということも考えたが、こいつの種族は“ドラゴンボーン”という、とあるNPC一人を除けばプレイヤー専用の種族だ。
それにDwemer Jarのこともあるし、ひょっとしてこいつは、ヴィジョンが言っていた「MODを叩き買った廃人」の方か?
……そうだ、ヴィジョン!
後ろでわめき散らす凶悪犯を無視して、檻の中に踏み込む。
胸から上下に引き裂かれた無残な死体に、思わず胃の中身を吐き出しそうになる。
が、今はそれどころじゃない。……時空掌握の改造MODや、トマト=血液の改造データが反映されている。それなら、もしかしたら
……いや、きっと。
左目でメニューを開き、習得済み魔術の一覧を開く。
回復魔法の欄に切り替えて、十数とあるスペルの中に、目当ての呪文があることに安堵する。
呪文の名前を心の中で唱える。
応じる様に、両手から暖かい光を放つ球体が浮き出た。
いつもとは段違いのマジカと集中力を要するそれをゆっくりと展開し、両手の輝きが最大に達した時、砕け散った屍に向けて、その全てを放った。
「リザレクション!!」
外れかかった牢獄の扉が衝撃波で吹き飛んだ。近くのテーブルの上に散乱していた如何わしい物体が部屋中に飛び散る。
奇跡的な光に包まれたヴィジョンの体は細かい光の粒子に変わって、徐々に一つの形を結んでいくき……
「いってぇぇぇえええ!!!!……ってあれ?痛くないぞ?それになんだか身体が暖かい、昼寝から覚めた時のようだ!」
「…………!
……復活した第一声がカジートのモノマネですか。ボケですよね?廃人過ぎたんじゃなく」
「はぁ?何言ってんだお前、復活って……あ!!!
一体どうなってんだ!?俺死んだはずだよな!?
なんか“大丈夫、ワシの守りは絶対だから”とか言ってる爺さんが川辺で手招きしてたぞ!?」
「ええ、死んでましたよ。完璧に。……それと身体の具合を確かめる前に何か着てください。目の毒です」
「お前本当に末期だな……普通こういうのはご褒美って言うんだぜ?ラッキースケベどころかシーン突入しちゃってるぜ?」
訳のわからない事をほざきながら、ヴィジョンはあたりを見回してそこら辺に落ちていた赤いチュニックに袖を通した。
ヴィジョンを復活させたリザレクションはfcteResurrectionというMODで追加した蘇生魔法だ。
ゲーム内だと、名無しのモブNPCに使った場合、蘇ったあと姿が変わることがあったので、
今も肉体だけ蘇って中身は別人、という最悪のパターンかも知れないと心配していたが、どうやら杞憂で終わってくれたようだ。
「やっぱ胸が窮屈だな……だがそれがいいッ!」
脂肪の塊を歪に歪ませ、R15じゃとても書けないようなアレな事を繰り返す目の前の阿呆から目をそらし、緊張が抜けたのか、俺はその場にへたれ込んだ。
よく考えてみれば朝からずっと走り通しの上休憩も挟まず攻撃力4000の狂戦士と命懸けの戦いを広げてきた。
普通なら疲労困憊でとっくに倒れてるところだ。
それなのに全く疲れないのは、俺が吸血鬼だからか?
「おーい!誰か!誰か助けてくれ!」
「ん?誰だい、そこにいるのは?」
引き止めるまもなく、凶悪犯に呼ばれてヴィジョンが穴の方に歩いて行った。
わざわざスカートを抑えながら膝を折ったヴィジョンが穴を覗き込むと、形容しがたい絶叫が中から響いた。
「お、お、お、お前は!マイゴッド!なんで生きてる!?」
「さぁてね、自分でも良くわからないな。
そこのちっこいのが言うには私は一度死んだらしいが……どうやら私は死神にも嫌われちまったらしい」
「じゃ、じゃあ生きてるんだな?死んでないんだな?……良かったぁ」
「よしてくれよ、男の涙は好かない性分なんだ。それよりそんな穴底で何しいるんだい?」
背中が痒くなるようなロールプレイの応酬を繰り広げるヴィジョンをその穴に蹴り落としたい衝動を抑え、訳も聞かずに凶悪殺人犯にロープを垂らそうとするのを慌てて止める。
「待ってください、そいつは17000もの懸賞金が掛かってる“ドラゴンボーン”ですよ?
ついでに言うなら、あなたを殺した白いヤツの一味だと思います」
「待ってくれ!それは誤解なんだ!僕は誰も殺していない、全部事故なんだ!」
「犯人は皆そう言いますよ」
「違うんだ!本当だ信じてくれ!僕の目を見ろ!これが嘘をついてる人間の目に見えるか!?」
つぶらな瞳で見上げてくるインペリアルのおっさん。
MODを入れる知識もあるのにどうやったらこんな残念な顔になるのか。感性が残念だからか。
「見えます思います」
「よくわからないな、何がしたいんだ?ピシガシグッグかい?」
こっちは真面目な話をしているのに耳打ちしてくるな、ヴィジョン。
というかもう素で喋って欲しい。お姉様言葉気持ち悪いです。
「とにかく僕の話を聞いてくれ!僕だって殺したくなかったさ!
でも仕方なかったんだ、あいつがあんなやつだと知ってたら、……いや、あのMODでこんなことになると分かってたら、最初から入れたりしなかったさ!」
「あいつというのは、さっきの白いのですか?
そしてMODというのは、もしかしてTから始まってMで終わる4節の英文ですか?」
「ああ、そうだよ。……あんな事をした後で信じてくれないかもしれないが、僕はこれから今までの出来事を洗いざらい喋る。
ギルティかどうか、二人で判断してくれ。
ノットギルティしか主張する気の無い僕を入れても多数決は成立しないからね」
Dwemer Jarにどっかりと腰を下ろし、取調室で尋問を受ける容疑者のような畏まった態度でマックミラーノが見上げてくる。
……さっきペリナルの時だって、結果的にこいつは俺を助けてくれた。
人を見た目で判断しちゃいけないけど、まっすぐ見つめてくる瞳がどうしても悪人に思えず、17000ゴールドもの懸賞金が掛かった理由をポツポツと語りだすマックミラーノに、俺とヴィジョンは静かに耳を傾けた。
ステンバーイ様のアドバイスで閃いた新キャラ、マックミラーノ登場です。
ビューティフォー⇒マクミラン先生⇒Macmillan⇒Mac milan⇒ミラノのマック⇒マックミラーノっつー洒落です。ネーミングセンス無くてすんません。