いつか天魔の黒ウサギ Another World 作:白い鴉
朝六時。月光はいつも通りベッドから起き上がる。そばを見ると、リーネが幸せそうな顔をして眠っていた。月光はそれを呆れたような目で見ながら、洗面台へと向かい顔を洗う。その後パジャマから高校の制服に着替える。その上にエプロンを着て、朝食の準備をするために台所に向かう。今日の朝食は白米にみそ汁、卵焼きに焼き魚にすることにした。
白米を炊き、みそ汁を作り味見をしてみる。悪くなかった。これならリーネも文句は言わないだろう。とは言っても彼女は月光が作ったものなら何でも美味しそうに食べるのだが。
それから焼き魚を皿にのせ、卵焼きを小皿にのせて二人分の朝食を完成させる。時計を見てみると、学校の登校時間までまだ結構時間がある。これならゆっくりと朝食を食べられそうだ。
二人分の朝食をテーブルにのせると、月光はベッドで寝ているリーネの元へ向かい体を揺らす。
「朝だ。起きろ」
「……ん~。ふぁい……」
リーネはゆっくり起き上がり、眠たそうに返事をしながら目をこすりながら洗面台へ向かって顔を洗い、髪型をいつものツインテールにするとテーブルへと向かう。月光は先に床に座り、朝食を食べ始めた。リーネも最初は座って眠たそうにしていたが、やがて箸を取り朝食を食べ始めた。
「月光は今日から学校なんだよね?」
「ああ。何かあったら電話しろ」
「ん」
会話しながら、二人はテレビを見る。テレビでは天気予報が映し出されていた。昨日二人が作ったてるてる坊主が効いたのか、今日は一日快晴だった。
二人は朝食を食べ終えると、食器を台所に向かい食器を水につける。それから洗面所へと向かい、二人並んで歯を磨き始めた。歯を磨き終えると、丁度学校へ向かう時間になった。授業の準備などは昨日の夜のうちにやっておいたので問題ない。月光が鞄を持ち玄関へと向かうと、リーネがその後をついていく。
月光は玄関で靴を履き、扉を開ける。その時、月光にリーネが声をかけた。
「月光」
「何だ?」
「行ってらっしゃい」
「ああ」
そう返すと、月光は外に出て扉を閉じた。リーネはそんな月光に手を振りながら、リビングへと戻って行った。パジャマで過ごすのも何なので、赤いスカートに、薄いピンク色の半そでのシャツに着替える。
「……はぁ~。今日一日一人か……」
そう言いながら、リーネはベッドに寝転んだ。今日のニュースを伝えているニュースキャスターを見ながら、リーネはぽつりと呟いた。
「すっごく退屈」
特にやる事はないし、かといってテレビにかじりつく気も起きない。何しようかなーと思いながらリーネは布団に鼻を寄せ、匂いを嗅いだ。
「………月光の匂いがする……」
そう呟き、目を細めながらベッドの上をゴロゴロする。その匂いを嗅いでいると、月光がまだここにいてくれるような気がした。月光の匂いは何故か安心できた。できれば今日一日中こうして寝転がっていたい。そんな事を考えていたリーネだったが、
「……って、これじゃ私ただの変態みたいじゃない」
顔を赤くし、慌ててベッドから起き上がる。
「掃除でもしようかな」
今日一日、ただ寝転がっているのは暇だし、いつも世話になっている月光のために掃除をするのも悪くない。そう考え、リーネは部屋の片隅にある掃除機に向かった。
掃除機を取り、スイッチを入れて部屋中を掃除する。月光は几帳面なので部屋の掃除ぐらいこまめにやっていそうだが、自分をこのアパートに泊めてくれている礼としてこのぐらいはやっておきたい。
あらかた部屋の中を掃除し終えると、やる事がなくなってしまった。自分はまだこの家の事を良く知らないし、あまりやりすぎると月光に怒られるかもしれない。仕方ないのでリーネはソファに寝転がり、テレビを見る。さっきまではニュースをやっていたが、今では星座占いをやっていた。
リーネは占いが結構好きだった。占いが全て当たるわけではないが、女の子のリーネには星占いや星座占いという物がロマンチックなものに思えるのだ。月光は恐らく信じないし思わないだろうが、こういう番組を見るのがリーネは好きだった。
リーネは最初はわくわくしながら星座占いを見ていたが、やがて不機嫌そうな表情になり、番組が終わる頃には頬を膨らませていた。
「……どうして私の星座が最下位なのよ」
そう、今日はリーネの星座の順位が一番下だったのだ。しかも星座占いのお姉さんから言われた言葉が、
『今日のあなたの運勢は最悪! 今日は大人しく家でゆっくりしていましょう。余計な事をしてしまうと、想い人に嫌われてしまいます』
だったのだ。リーネはその占いの結果に苛立ちながらも、内心不安を抱いていた。想い人に嫌われてしまう、それはつまり月光に嫌われてしまう事だ。月光に嫌われる事が、怖い。
「って、べ、別に月光が想い人なわけじゃないし! 別に月光に嫌われても……」
そこまで考えた所で、リーネは体に寒気が走るのを感じた。もしも月光に嫌われたら、自分は一体どうなるのだろうか。もしかしたらあまりのショックに一日中泣いてしまうかもしれない。口では好きではないと言えるものの、心が叫んでいるのだ。
月光の事が好きだと。
ずっと一緒にいたいと、心が叫んでいる。
だから月光が喜ぶ事をしてあげたい。月光がもっと自分の事を好きになってくれるような事をしたいのだ。例えば家の掃除をしたり、買い物を月光の代わりにしてあげたい。
だが、かと言って買い物をしに外に出る気にはなれない。月光から鍵はもらってあるが、外には出たくないのだ。
「……もしかしたら、見つかるかもしれないし……」
リーネはかすかに震えながら呟く。彼らには絶対に見つかりたくない。もし見つかれば強制的に連れ戻され
るだろうし、月光とも離れ離れになってしまう。
そんなのは絶対に嫌だ。月光と離れ離れになどなりたくない。だからリーネは外に出ず、ずっと家の中にいるのだ。
「……だけどすごい退屈だし……。どうしよっかな……」
うーんと悩み始めたその時、リーネの頭に良い案が浮かんだ。
「そうだ!」
リーネは勢いよくベッドから立ち上がると、台所にとことこと歩き出す。冷蔵庫から食材、戸棚から調理器具などを取り出す。
「いつも月光からご飯を食べさせてもらってるし……。これぐらい大丈夫だよね」
リーネが考えた案。それは月光に美味しい料理を食べさせてあげる事だった。いつも美味しいご飯を食べさせてくれる月光に、たまには自分が美味しいご飯を食べさせてあげたい。
それに、昨日テレビで得た情報だが、男性というものは料理ができる女性に惹かれるものらしい。もしも自分は料理が上手いという事を月光が知れば………。
「……ふふ、見てなさい月光。月光が驚くぐらい美味しいものを作って、月光を喜ばせてやるんだから! そ、そうしたら……」
リーネはその先を想像し、両頬に両手を当てて顔を赤くして笑い始めた。
「………」
午前の授業が終了し、月光は教室で一人弁当を食べていた。彼は基本的に特定の誰かと一緒に食事をするような事はしない。そnな事が出来るほどの仲の良い友達がいないのだ。それは彼の性格もあるが、仮に誘われたとしてもいつもの毒舌を吐いて追い返すのだ。
「あ、あの……」
「ん?」
月光が一人で黙々と昼食を口に運んでいると、突然声がかけられた。横を見てみると、髪をショートカットした小柄な女子生徒が顔を赤らめながら弁当を片手に立っていた。月光は冷たい目で女子生徒を見て、
「何の用だ?」
「い、いえ、あの……」
「用がないなら消えろ。目障りだ」
「あ、あの。く、紅君のその卵焼きと、私のウインナーを交換してくれる?」
「ああ? 何故だ?」
「え、ええと。紅君の卵焼き、美味しそーだなって思って。だから、その、できれば交換してほしいなって……」
それを聞いて、月光は少し考え込んでいたがやがて卵焼きを箸で掴み女子生徒に差し出した。
「え、くれるの?」
「交換だ。卵焼きをやるからウインナーをよこせ」
「う、うん!」
女子生徒は月光に自分の弁当に卵焼きを入れてもらうと、代わりに自分の弁当に入っていたタコさんウインナーを月光の弁当箱に入れた。女子生徒は嬉しそうな顔をしながら、
「え、えへへへ。やった。この卵焼きって、紅君が作ったの?」
「ああ。それがどうかしたのか?」
「ううん。月光君て料理が上手なんだね。良かったら、今度教えてくれない? 家庭科の時間とかに……」
「断る」
「ええ、でも……」
「却下だ」
「うう……。はい……」
女子生徒はとぼとぼと机を組んで食べている女子グループの元へ戻って行った。そこからは『良いなー月光君の卵焼き。私も欲しいなー』とか、『残念だったね。でも諦めずに次も頑張ろうよ!』とか、『紅君の口が付いた箸で掴まれた卵焼き……、月光君と二人きりの料理……。ぐへへへへ……』などという会話が耳に入ってきて、月光はため息をついた。
月光はその端整な容姿のため、周りの女子からかなりモテていた。しかもマイナスの評価にしかならないはずの冷たい性格と毒舌が何故か月光の人気に拍車をかけ、今では月光の容姿に惹かれた女子だけでなく、月光に罵られたいというドン引きの趣味を持つ女子も現れ、月光は学校のほぼ全員の女子から人気だった。今日もらったラブレターの数も数えるのが面倒臭い。
そんな月光には学校の多くの男子が嫉妬を覚えていたが、月光に手を出す者はあまりいなかった。
月光は学校では文武両道、容姿端麗、さらには教師からの信頼も厚いというまさに天才だった。そんな月光に手を出したら自分の立場が危ういと男子生徒達は考えていたので、手を出す者はめったにいなかった。
中にはテストやスポーツ、さらには物騒な事に喧嘩で月光を叩きのめそうとした者もいたが、全て無駄だった。
テストで挑んだ者は圧倒的な点差で打ち負かされ。
スポーツで挑んだ者は圧倒的な身体能力と技術に叩きのめされ。
喧嘩で挑んだ者は全員例外なくボコボコにされた。
そんな事もあり、今は月光に嫉妬はするものの、喧嘩を売ろうとする者は誰一人としていなくなっていた。
「……あの馬鹿女、大人しくしているだろうな」
月光は顔を険しくし、窓の外を眺めながら呟く。馬鹿女とは言わずもがな、リーネの事だ。
自分が家を出ている以上、彼女は家で一人きりである。そんな彼女が何か厄介な事をしでかさないという保証はどこにもない。もしかしたら今、とても面倒な事をしているかもしれない。
「何事もないといいがな……」
そう小さく呟くと、深いため息をついた。
一日の授業が終わり、月光は家への帰路を急いでいた。リーネが何かしでかしてないか心配だったのだ。アパートにつき、自室の扉を開けようとすると何故か鍵がかかっていた。もうこの時点で嫌な予感が頭をよぎる。月光が呼び鈴を押すと、内側から鍵が開けられる音がした。そしてそっと扉が開けられ、わずかに開いた扉の隙間からリーネの碧眼が月光の顔を見る。
「げ、月光お帰り」
「さっさと家に入れろ」
「あー、ちょ、ちょっと待ってね。今掃除してるから……」
「何の掃除だ。掃除なら日頃やっているが」
「と、とりあえず待ってて!」
「断る」
月光は無理矢理扉のノブを引く。ノブに手を伸ばしていたリーネは勢いで外に引きずり出される。月光はリーネを無視して靴を脱ぎ捨て、リビングに向かう。
すると、
「……ああ?」
月光はひどく不機嫌そうな声を出した。ここまで不機嫌な声を出したのは久しぶりかもしれない。
台所には調理器具が散乱していた。包丁が洗わずに放置されており、鍋がひっくり返って床に落ちていた。しかも台所や床が何故か水浸しになっている。
極めつけは、テーブルの上に黒い得体のしれない物体が皿に載って置かれていた。月光がその皿を取り匂いを嗅いでみて顔をしかめた。焦げた嫌な臭いがする。一体これは何なのだろうか。振り返って、黙って月光の後ろで立っていたリーネを睨み付ける。
「おい。何をしていた?」
聞かれたリーネはびくりと体を震わせて、
「……りょ、料理」
「料理? 何を作ろうとしてたんだ?」
「そ、その。豚肉と野菜の炒め物を……」
「はぁ?」
月光は皿の中の物体を見てみる。言われてみれば、かろうじて野菜と豚肉の原型を保っているような気がする。しかし炒めるのに失敗したのだろう。黒く焦げてしまい、本当に食べ物なのか疑ってしまう。
月光は皿をテーブルにドン! と強く置いた。その音にリーネがまた体を震わせる。月光はリーネを鋭く睨み付け、
「何故こんな事をした?」
「………」
「答えろ。何故俺のいない間にこんな身勝手な真似をした? 昼食なら弁当を置いてやっただろう。それとも弁当が足りなかったのか?」
「………」
「聞いているのか馬鹿が」
「………に」
「あ?」
「……月光に、食べてもらいたくて……」
その言葉に月光は目を見開いた。
「俺にだと?」
聞き返すと、リーネの目から大粒の涙がぽろぽろと落ちた。リーネは服をぎゅっと掴みながら、
「月光に……、いつもご飯を食べさせてもらってるし、お風呂にも入れてもらったりしてるから……だから、月光に美味しいご飯を食べてもらいたくて……」
「それで、この惨状か?」
台所を見ながら月光が言った。リーネは涙を流しながら、
「今まで、料理なんてした事がなかったから……。それでもちゃんと完成させたかったけど、できなかった……。ごめんなさい……」
それに月光はため息をついた。そしてタオルを持ってきて、床や台所を拭きはじめる。リーネはしばらく泣きながら立っていたが、台所をこんなにめちゃくちゃにしたのは自分なのにその自分が何もしないのは悪いと思い、包丁や鍋を洗い始めた。
やがて台所は綺麗になり、包丁や鍋などの調理器具もリーネが洗って元の戸棚に戻した。月光は改めてリーネの方を見て、すっと手を伸ばした。それにリーネはビクッと震えて目を閉じる。
月光の手は、リーネの手を掴んだ。良く見てみると、いくつもの絆創膏がリーネの両手の指に貼られている。月光の突然の行動にリーネが恐る恐る目を開けると同時、月光が言った。
「包丁で切ったのか?」
「う、うん。包丁を使ったのも初めてだったから」
自分の指はこんなに傷だらけになってまで、リーネは自分のために料理をしてくれたのか。痛い思いをして、それでも自分に美味しい料理を食べて欲しかったのか。
月光はテーブルの上にある、焦げた豚肉と野菜の炒め物がのった皿に目を向ける。台所にある箸立てから箸を取り、炒め物を取り口に運ぶ。
「お、美味しくないよ?」
リーネが言うが、月光は無視して次々と口に運ぶ。表情を全く変えることなく、黙々と食べ続ける。やがて皿の中が空っぽになり、月光は箸を置いて言った。
「まずい」
「だ、だからそう言っ……」
「まずい」
「………う」
「まずい」
「……ごめんなさい」
「はは」
「い、今笑ったでしょ!?」
「まずい」
「ご、ごめんなさい」
リーネがしょんぼりしながら謝った。実はというと、さっきからまずいというたびに謝るリーネが面白くてたまらないのだが、そんな事はおくびにもださず、ただまずいという言葉を言い続ける。
しょんぼりしているリーネを見てようやく気が済んだので、月光はリーネにこう言った。
「ふむ。まずくてたまらなかった。豚の餌にも劣る料理だった」
「すいません……」
「あまりにもまずいせいで俺の舌が狂ってしまった」
「ご、ごめんなさ」
「だから今度上手い飯を作って俺の舌を元に戻せ」
「え?」
リーネが驚いたように月光の顔を見ると、月光は呆れたような、それで期待するような笑みを浮かべ、
「聞こえなかったのか? お前のあまりにも不味すぎる料理のせいで、俺の神の舌が狂ってしまった。だから今度俺の神の舌をうならせるような料理を作って、俺の味覚を元に戻せ」
「そ、それって、私に料理を作ってくれって言ってるの?」
「失敗作を作るな。作るとしたら成功作だ。それで俺に食わせろ」
リーネは呆然としていたが、月光が言い終わると花が咲いたような笑顔を浮かべ、元気よく頷いた。
「い、良いわよ! 今度月光もびっくりするぐらい美味しい料理を作ってあげるわよ」
「はっ。期待しないで待ってやる」
月光はリーネを馬鹿にしたような笑みを浮かべながら言った。
「ごちそうさまー」
数時間後、夕食を食べ終えたリーネが両手を合わせて笑顔で言った。それから皿を持つと、台所までとことこと持って行った。その後に続くように月光も皿を台所に持って行ってから、スポンジと洗剤を持ち皿を洗い始める。
「………」
じーっとリーネは月光を見ていたが、やがて月光の横まで近づきもう一つあったスポンジと月光の使っていた洗剤を使い他の皿を洗い始めた。月光はそんなリーネを横目で見つめ、
「何のつもりだ?」
「見れば分かるでしょ? お皿を洗ってあげてるのよ」
「珍しいな。いつもなら飯を食った後すぐにテレビを見て、その後風呂に入るという一つの行動しかできない低能のお前が手伝うとはな」
「別に良いでしょ? 料理失敗しちゃったし、月光だけに任せるのも悪いじゃない」
そう言いながら二人はそろって皿を洗っていたが、リーネは頬を赤らめて月光に言う。
「ね、ねえ月光?」
「何だ」
「なんかこうしてると、まるで私達仲の良い夫婦みたいだね」
「……ああ?」
その言葉に月光は眉間にしわを寄せてリーネを見た。そして再び視線を外し、
「お前のような料理の下手な妻はいらん」
「ひっどーい! そんなひどい事言ってると、月光一生結婚できないよ?」
「構わん。いざとなったらお前がいるからな」
月光からそんな言葉が放たれると同時、リーネの手から皿が滑り床に落ちそうになったが、リーネが危うく皿を取った。その顔はまるで茹でたトマトのように真っ赤になっていた。
「……ふぇ? 月光、今なんて……?」
「別に結婚相手などいなくても、いざとなったら貴様がいるからな。そう言えば、お前のフルネームはリーネ・アルトマンだったな?」
「そ、そうだけど……」
「結婚したら、リーネ・紅になるな。少し語呂が悪いが……」
「べ、別に私は月光と一緒になれるなら語呂が悪くても……」
ごにょごにょとリーネは口の中で何か呟いているリーネを見て月光は呆れながらこう言った。
「何をそんなにうろたえているんだお前は? 冗談に決まっているだろうが」
「……え?」
「はっ。こんな単純な嘘に騙されるとはな。男に騙されるぞ?」
今言っていたのが嘘だと知ったリーネは、少し怒りながら言った。
「あのね月光、乙女の純情弄ぶと怖いよ?」
「貴様のような雑魚がどう怒っても怖くないな」
「……はぁ、そう言えば月光ってそうだったよね。いつも意地悪ばっかり言って、性格は悪いし……」
「分かっているなら言うな」
「(……でも、時々優しくて、格好良いんだよね)」
「んぁ? 何か言ったか?」
「べっつにー」
リーネが小声で言った言葉は月光に届かなかったが、リーネは笑顔で洗い物を続けた。そんなリーネを月光は不思議な物を見るような目で見ながら、リーネの横で洗い物を続ける。
そんな二人の姿は、まさに仲の良い『夫婦』のようだった。