コポコポと音が鳴っている。音源はすぐ近くなのに、それがどこにあるのかがわからない。何も見えない。辺り一面、真っ暗だ。
(俺……)
段々と意識がはっきりとしてくる。目が開き始めているのだろうか、周りの景色も見えるようになってきた。視界に入ってくる周りの景色。それは薄暗く、黄色く色づいていた。
(誰だろあの人……?)
周りを見ると髪の長い女の人が1人立っていた。その人は手元のピアノの鍵盤の様な物で何かしている。それと、誰かと話しているのか声が聞こえる。
「ドク……ナンバ………順ちょ…………」
声は途切れ途切れに聞こえる。確か俺はポッドの様な物の中で溺れていたはずだ。ここは……。そうだ、ここはそのポッドの中だ!
(ヤバイ、死んじゃう!)
さっきまでの冷静さが嘘の様に俺は
取り乱していた。俺の身体は液体の中で浮遊している。このままでは何も出来ずに死んでしまう。俺はおもいきり、ポッドのガラス張りの壁を叩いた。声は液体の中にいるので出せない。声なんて出していたら窒息してしまう。だから俺はひたすら心の中で叫んでいた。
(早く出せよっ、このくそったれぇ!!)
叩いている俺に気づいたのか女の人はこちらを見て、ゆっくりと近づいてきた。手元の鍵盤の様な物を操作する手はとてもゆっくりだ。すると、ポッドの下から音がして、液体がどんどん少なくなっていった。そして、いきなり目の前のポッドの壁が開いた。
とっさのことに反応できず、ポッドの壁を叩くのに力を前の方にかけていたのもあって、そのまま受け身もとれずに倒れてしまった。
「ったぁ! はぁっはぁっ……死ぬ……かと……思った……」
身体が酸素を求めている。だが、あまり息苦しいわけではなかった。身体は液体によって濡れている。そして、何か青いスーツの様なものを俺は身に纏っていた。
「おはよう、インフィニート。目覚めはどうかしら?」
俺のことを見て女の人は話しかけている。ポッドの中からではわからなかったが、髪は……灰色みたいで瞳は黄。スーツみたいなのを着ている。それにしてもインフィニートって誰のことだ? もしかして俺のこと?
「ドクター、インフィニートが目覚めました。どうされますか?」
すると、空中に“板”が現れた。それは緑色をしていて、人が映っている。まるで、テレビの様に。
『そうか。なら、彼を連れてきておくれ。色々、話したいことがあるのでね。頼んだよ、ウーノ』
「わかりました」
ウーノと呼ばれた女の人は俺の方を振り向くなり、
「ドクターがお呼びよ。着いてきなさい」
そのまま、スタスタ歩いていってしまう。
「え……えっ?」
皆は、知らない人に着いていってはいけません、と習わなかっただろうか? 今、俺はこの人に着いていっていいのか? それ以前に、俺はちゃんと転生出来たのか? てか、ここどこ!?
「早くしなさい」
なかなか着いてこない俺に怒りを感じたのか怒気を含ませて言ってくる。このままここにいるのもあれだから、着いていった方が良いのかもしれない。右も左もわからないこの状況では、この人に頼らざるおえない。それに、一度は亡くした命。もう、なにも怖くない。着いていこう。
(やんなっちゃうなぁ、もう)
コツーンコツーンと足音が壁や天井に反響している。照明は薄暗い。これでは、絶対に目に悪い。不気味さを演出している。極めつけは通路に並ぶたくさんのポッド。女の人が入っているのもあれば、入っていないのもある。
ポッドは液体で満たされていた。さっきまでこれの中に入っていたと思うとゾッとする。たが、この中に入っている人を見ても嫌悪感とかそういうものは微塵も感じなかった。自分に対しては何かしら感じたが、他人となると何も感じない。この光景を見て、性的興奮など感じてしまえば、それはそれで人間として終わりだとは思うが、本当に何も感じないのだ。しいて言うなら……理科室にあるホルマリン漬けの標本を思い出した。
前を歩くウーノは何もしゃべらない。ただ黙々と歩いていた。そうすると、扉が目に入った。それは一度入ったら二度と出てこられない、そんな気持ちを俺に持たせた。ここに来るまでに見た光景など序の口であるかの様に、その扉は異質な雰囲気を俺に感じさせた。
「ドクター、連れてきました」
『入ってくれ、ウーノ』
ウーノはその扉の向こうへと進んでいく。入りたくはないが……入るしかないのだろう。
「よく来たねぇ、インフィニート。どうかな? お目覚めは」
そこにいたのは、10人に聞けば8人くらいは科学者と答えそうな――残り2人は医者と答えるかもしれない――身なりをした男だった。髪は紫、瞳は黄。白衣を着たその男からはとにかく異質さを感じた。人間であるが人間ではない。人間の皮を被った悪魔というのはよく聞くが、この男は……欲望を人形に固めた物体、そう俺には感じられた。そんな風に感じるなんて、転生したのかもしれないという事実に混乱しているのかもしれないな、俺は。
「いやぁ、君が外に捨てられていたのを見つけた時は驚いたよ。まさか私以外に造っている人間がいるとは思わなくてねぇ。そうだ、これは君と一緒に捨てられていた物なんだけど」
俺の返答を待たずに次の話に進める目の前の男。その手には紙の様な物が有った。
「これなんだけど、私には何が書いてあるのか解らなくてねぇ。どうだろう、君は読めるかい?」
その紙に書かれていたのは意味の解らない数字の羅列。こんなもの誰にだって読めるはずがない。だが、俺にははっきりと意味のある文章に見えた。
『これを読んでいるならば、君は転生したのだろう。どうかな? 新しい身体には慣れたかな。君のいる世界は“魔法少女リリカルなのは”の世界だ。ちなみに、もう1人の転生者は男です。見ればすぐわかると思うよ』
ここまで読んで俺は重大な問題を発見した。俺は“魔法少女リリカルなのは”を知らない。魔法少女なんて、もう何も怖くなくて、首ガブッ! くらいしか知らない。これでは、どこのどいつが転生者なのか原作組と見分けがつかない。唯一の救いは転生者が男であるというのをわかっていることだけか。
『君にあげた特典は、インフューレント・スキル。つまり、ISだ。ちなみに、君のISはISです。叫べっ! IS発動、IS! あと、宙を自由にかける道も特典として追加しといた。それでは、力の限り頑張ってくれ。健闘を祈る』
読み終わった後、俺は膝の力が抜けたような気がした。インフューレント・スキルっては? ISって何? あれか、女にしか使えないあれか? 俺は男だ! それとも、性別がないのか!? ……この先どうしたらいいんだ?
「ところで、何が書いてあったんだい?」
「ISどうのこうのとかですよ……」
俺はこれからどうすればいいんだ。こんな訳の解らない所にいるし、特典も意味わかんねぇし!
「そうか! 君もISを……そうだ、その力、私に見せてくれないかなぁ。ウーノ、トーレを呼んでくれ」
「わかりました」
あれろあれよという間に話がドンドン進んでいってしまう。俺は話がわからず蚊帳の外。このドクター、テンション上がると絶対人の話が聞こえなくなる性格だ。
「えっ? えっ!?」
「ああ、そうだ。自己紹介がまだだったねぇ。私の名前はジェイル・スカリエッティ。娘達からはドクターと呼ばれている。そこにいるのは私の娘、ウーノだ」
ウーノは俺をチラッと一瞥した。まだ鍵盤で何かやっている。パソコンのキーボード的な物なのか?
そして、ジェイル・スカリエッティ。……今度からこの人のことは、心の中で変態ドクターと呼ぼう。どっかイカれてんだろ、この人。しかも、まだ娘いるみたいだし。なんだよ、ウーノとかトーレって。数字の読み方もじったみたいな名前だな。
「ドクター、トーレが来ました」
「何かご用ですか、ドクター」
来ていたのは身長の高いお姉さん。
これまた、髪は紫で瞳は黄。すっげー冷たい目で俺を見てくる。
「何時起きるかと思えば、今ごろ目覚めるとはな、インフィニート。まあ、私も七ヶ月前に造られたのだが」
「はあ……」
話の流れが全くわからない。えーと、俺はこの人と何をすればいいんだ? 殴り合い? 造られたってこの人、人間?
「インフィニートと戦闘をして欲しいんだ、トーレ。君のISも調整したいしねぇ。ああ、それと壊してはいけないよ? 彼には聞きたいことがたくさんあるんだ」
「了解した。行くぞ、インフィニート」
俺の応答もないのに先に行かれる。ここの人たちは人の話を聞かないのか? いや、子は親に似るのか。そうに違いない。
俺が考えている間にドンドン先に歩いて行ってしまう。なんだろう、とてつもない死の危険を感じる。でも、逃げたら逃げたで殺されちゃうのかもしれないなぁ。こういう、研究者がいる所って。それよりなら、まず自分でどうにか出来そうな方に行かないと。
戦闘すると言っていたが、怪我はしたくない。願わくば、命の危険の無いことを……。てか、戦闘ってどうやって?
ドクターとかウーノの口調がよくわからない……