暴虐の龍光   作:カイバル峠

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荒ぶる胎動

荒ぶる胎動

 

 

 

鬱蒼と茂る大樹が日の光を遮り、積もり積もった落葉が地表を覆う。

木々の隙間を埋めるように伸びた下草の中、水気を吸いジメジメとした腐葉土が広がる中で、彼の者は生を受けた。

 

視界一面に広がる闇と体を丸めていなければならないほどの窮屈な空間。

 

彼の者は閉鎖された世界の“殻”を破りその姿を現す。

パキッという軽快な音と共に白い破片が散乱し、粘液に濡れた体を横たえた。

 

暗い緑色の鱗で覆われた外皮に鋭い爪の生えた後肢、そして対照的に貧弱な前肢、胴体と比しても太く長い尾、そして小さいながらも鋭利な牙の並ぶ、首の中ほどまで裂けた大顎。

生まれながらにして斯くも禍々しい姿をしたこの生物はとある獣竜種の幼体だった。

 

やがて幼竜は目を見開く。

しかしそれは無垢な赤子のそれとは程遠く、あらゆる光を飲み込む澱のようにドロドロと濁った漆黒の瞳。幼竜は幾度か瞬きを繰り返すと、まだ覚束ない足取りでフラフラとしながらも立ち上がる。

まず最初に視界に飛び込んできたものは、白くやや歪な形をした球体だった。大きさは幼竜よりもやや大きいくらいだろうか、それが自身を取り囲むように、無数に鎮座していることに気付く。幼竜は暫く臭いを嗅いだりしてそれらを観察していたが、やがてその表面を舐め始める。

 

そして――――

 

 

バリッ

 

 

幼竜は球体を蹴破った。

幼竜の唾液が付着した箇所に鋭い爪が突き刺さり、球体を構成する殻は水に濡れた紙の如く容易く破れる。そして破れた箇所に頭を突っ込み、目的のものを見つけると、そのまま球体の外へと引き摺り出した。

出て来たのは幼竜と全く同じ生物だった。些か未熟だったのか、幼竜よりも僅かに小さく、微動だにする気配もない。

しかし幼竜は気にも掛ける素振りも見せずにもう一匹の幼竜を後肢で踏みつけ、その喉元に食らいつくとそのまま首の肉を食い千切る。噛み千切られた肉塊は咀嚼する度に揺れ動き、滴る血が周囲に赤い染みを形作る。幼竜は噛み千切った肉を飲み込むと、再び齧り付き、肉を引き剥がす。幾度そんなことを繰り返しただろうか、幼竜と同じく暗緑色の外皮で覆われていたはずの首は白い骨のみになっていた。続いて幼竜が選んだのは腹だった。後ろ足に力を込め、鉤爪で皮膚を切り裂くと、断面に頭を突っ込むと先程と同様に肉を引き剥がし、咀嚼する。腹部の肉が落ちると、やがて内臓が現れるが、幼竜は全く臆することも無くそれらも喰らった。

 

どれだけの時間が経ったのだろうか。

 

辺り一面が赤く染まり、既に球体は一つとして残っておらず、代わりに血の海の中に無数の白い殻と小さな骨が散らばっていた。そしてそれらは紛れもない、幼竜の弟や妹達のものだった。幼竜は最後の肉の一切れを飲み込む。その全身は返り血で赤く染まっていた。

 

だがしかし、ここで幼竜は何一つとして間違ったことなどしていないことは留意せねばなるまい。

最も覚醒が早く、強靭な個体がそうでない他の個体を糧とする。

一瞬の遅れが死に直結する自然界において、その種が存続するために気の遠くなるような時間をかけて選択してきた生存戦略に従ったに過ぎない。

 

そして徐に状態を起こして直立に近い体勢になると、空を仰ぐようにして雄叫びを上げる。

とても生まれたばかりとは思えぬほどに野太く、地を震わすような声。

背中は盛り上がり、腰の一部と共により鮮やかな赤色へと変色し、瞳には獰猛な光が宿る。

 

幼竜は己が兄弟を食することで得たもの。

 

それは決して満足感でも寂寥感でも、まして罪悪感ですらない。

 

 

――――渇き。

 

 

確かに胃袋は満たされた、しかしそれは更なる欲望への足掛かりでしかなかった。

命尽きるまで決して終わることのない、恒久の飢餓。

 

 

 

一匹の竜が、己が種族に課せられた呪いにも等しい本能―――――単体で生態系バランスを崩壊に追い込むほどの力を持つ恐暴竜イビルジョーとしての宿命に目覚めた瞬間だった。

 

 

 

 

 

樹海の中は多種多様な動植物が入り乱れて複雑雑多な生態系を形成している。

やや開けた場所では大人しい草食種のモンスターが小さな群れで地面に生える草を食べていた。

灰地に黒い縞模様の入った胴体に、後方に大きく伸びたトサカ、巨大な棘の並んだ尾。

アプトノスと呼ばれるモンスターだ。適応力が強く、乾燥帯や火山地帯、寒帯といった極端な環境下を除けばはぼ世界中に分布しており、普遍的に見られるモンスターである。

アプトノスたちは今日も今日とてのんびりと緩慢な動作で下草を食し、水辺で喉を潤していた。

しかしながら樹海で暮らすのはこのような大人しい者達ばかりではない。

生態系、食物連鎖とは必然的に捕食者と被捕食者の関係を内包している。

一頭のアプトノスが不意に首を持ち上げて後方の茂みに目を遣ると、そのまま駆け出した。それを見た他のアプトノス達も一斉に食事を中断して走り出す。

草食種の多くは捕食者に対抗する手段は逃げの一択しかない。しかしその分警戒心が強く、感覚も鋭敏だ。

その判断が正しかったことはすぐに明らかになった。

アプトノスの群れが駆け出すのとほぼ同時に茂みの陰から黒い巨影が飛び出す。

 

その正体はイビルジョー。

 

生後間もなくは30㎝に満たなかったが、今や9メートル近くにまでに成長していた。

成体と比べると3分の1ほどの体躯であるが、それでも発達した筋肉に覆われた屈強な肉体や、口の外にまで牙の並んだ巨大な顎など、高い戦闘力を有することには変わりなく、小型種の多い草食種にとっては脅威である。

イビルジョーは群れの中のまだ若い個体に狙いを定めた。体調は4,5メートルほどで、自身よりも一回り以上小さい。

イビルジョーの強靭な後肢が大地を蹴る。

歩幅が大きく、かつ脚力に恵まれ、巨大な鉤爪がスパイクのように地面を捕え、その圧倒的な走破力を生み出す。元々動作の緩慢なアプトノスとの距離は見る見るうちに縮まり、そして背後からアプトノスの首をその凶悪な顎で捕えた。アプトノスはもがくも、イビルジョーの咬合力は余りにも強く、もがくたびに首の骨がミシミシと悲鳴を上げる。

すると逃げ出したアプトノスのうち一体がこちらに気付き、威嚇するように吼えると向かってきた。襲われたアプトノスの親だった。通常であれば、子がイビルジョーなどに襲われても助けることはなく、群れの他の個体とともに逃げることの方が多いだろう。アプトノスには大型の肉食モンスターに抵抗する手だてがないからだ。しかし今回は相手がまだ成熟し切っておらず、体躯も自身とさほど変わりないことから、勝機を見出したのであろうか。

我が子に食らいつくイビルジョーの背後に駆け寄ると、尻尾の棘を腰に打ち付ける。突然襲ってきた痛みにイビルジョーは怯み、アプトノスを放してしまう。イビルジョーは大型モンスターでは珍しく、頭部以外に外殻らしい外殻が存在しておらず、それゆえに傷を負う事も多い。アプトノスはその様子を見て更に一撃をお見舞いせんと、尻尾を振り上げる。しかしそれは誤りだった。

もはや爆音とも呼べるような咆哮が鳴り、アプトノスは思わず萎縮する。

その直後、突如として横腹に走った衝撃。

そのまま横倒しになった。

脇腹が大きく抉られ、血肉が飛散し、一部は肋骨まで吹き飛んでいた。

 

アプトノスはゴポッと吐血すると、痙攣し、そのまま動かなくなる。

 

 

―――――最後に見たモノに恐怖しながら。

 

 

 

 

 




初めまして。

お久しぶりの方もいらっしゃるかもしれませんが、以前ハイスクールD×Dの方で二次創作を書いておりました、カイバル峠といいます。

気付けば既に一年近く更新せぬまま、今後の方向性や新作を書きたいと思いつつも中々手に付かない中で、ふと童心に帰って野生生物の生き様を描いた作品を書きたいと思いついて投稿した次第であります。

今後も更新は不定期になるかもしれませんが、気長にお付き合いいただければ幸いです。
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