暴虐の龍光   作:カイバル峠

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前回投稿から間が空いてしまいました……

今回は本編で初といっていい本格的な戦闘描写があります。

ジョーの戦闘力が徐々に明らかになる……かも笑


月下の死闘

月下の死闘

 

 

 

すっかり夜が更けた頃。

 

草木も眠る丑三つ時などと人間社会では呼称される時間帯であるが、虫の声は途絶えることなく続き、昼間の太陽に変わって月明りが照らす地上を時折夜行性の小動物が駆け抜けるなど、夜は夜の営みが行われている。

とりわけ開けた場所では、雲の無い夜は視界を確保するには十分な量の光が届く。

これだけ見ればのどかな月夜だろう。

 

刹那黒い巨影が落ちる。

辺り一帯が闇に包まれたと錯覚するような巨大な影。

影の頭に当たる部分が二つに割れる。

裂け目から現れたのは幾つもの鋭利な牙。

 

 

この影の主は他でもない――――――イビルジョー。

 

 

開かれた凶悪な口から赤い光が漏れ始め、やがて収束して赤黒い一筋の光線となって虚空を切り裂く。

軌道付近の一帯を赤い光で照らしながら進んだ赤黒い光はやがて地面から顔をのぞかせている岩に直撃した。岩は、この樹海ではごく普通に見かける形のものだった。

 

しかし今回は違った。

 

「グゥオオオオオオオオッ?!!」

 

イビルジョーの龍ブレスの直撃の後、岩がもぞもぞと動きだしたかと思えば、地面から大型のモンスターが困惑と苦悶の叫びと共に飛び出した。体全体が岩石のような外殻に覆われ、それなりの大きさはあるものの既に退化の兆しを見せ始めている両翼。岩竜・バサルモスだった。バサルモスは飛竜種の中でも最大級の巨体に成長する鎧竜グラビモスの幼体であるが、この時期はまだ外敵も多く、そのため背中のみを地上に出し、岩石に擬態してやり過ごすことが多い。外殻の硬度では成体のグラビモスさえも上回るといわれるバサルモスの甲殻に傷を付けられるモンスターはそう多くはない。しかしバサルモスも飛竜の例に漏れず、龍属性エネルギーを弱点としている。加えて通常ならばイビルジョーの龍ブレスは薙ぎ払う程度だが、あろうことか収束し、一点に集中させて当ててきたのだ。お蔭でバサルモスの背中には焦げ付いたような赤黒い痕がついており、僅かに抉れてさえいた。甲殻自体の損傷は軽微だが、弱点属性、それも極めて高濃度かつ高密度で浴びせられたが故に、ヒリヒリとした痛みになおも呻いていたバサルモスであったが、付近にいたイビルジョーを目にした途端、口から小火を吹き出しながら激昂した。比較的おとなしい性質のバサルモスだが、寝込みを襲われた挙句、甲殻を介してなおも伝わって来る痛みとで怒り心頭であった。

バサルモスは一度上体を反らせると、体内に溜まった熱を圧縮、口から熱線として吐き出した。所謂グラビームと呼ばれる技で、軌道上に存在するものを残らず焼き尽くす攻撃手段として用いられるほか、熱伝導の悪い外殻に包まれた体内に籠った熱を体外へ放出する働きを担っていたりもする。

一方のイビルジョーもこの程度の反撃は予想していたのか、身を捩って易々と躱した。躱されたことに更に業を煮やしたバサルモスは再度熱線を吐き出すことを試みる。しかしどうしたことか、今度は口元で火種が燻るだけで終わってしまう。成体のグラビモスであればスタミナ切れでも起こさない限りは難なく放てるものだが、幼体のバサルモスではまだブレスの器官も未熟なため、個体の発育状態によってはこうして不発に終わることも珍しくない。当然その隙を見逃すイビルジョーではない。すぐさま距離を詰めてバサルモスの真横に回り込むと、渾身のタックルをお見舞いする。さすがのバサルモスも重量級である獣竜種の体当たりにはバランスを崩して仰け反ってしまう。イビルジョーはバサルモスが仰け反った瞬間にその喉元に食らいついた。さすがはバサルモスの甲殻というべきか、非常に硬い。イビルジョーの牙と顎を以てしても、他の獲物のように仕留めるには至らない。そしてバサルモスもただ黙ってやられるばかりではない。体を捩ったり、退化しかけとはいえ飛行能力を有した翼や後ろ足をバタつかせ、必死で万力のような顎から逃れようと試みるのだった。やがてバサルモスは喉元から焼けるような感覚が伝わってくるのを感じた。イビルジョーの唾液に含まれる強酸は確かにバサルモスの堅固な甲殻を腐食し始めていた。これにはさすがのバサルモスも本能的に危機感を覚えたらしく、全身の、とりわけ背中の筋肉を一気に収縮させると、腹側一面から高温のガスが噴き出した。イビルジョーもこれには思わず怯んで口を開いて逃がしてしまう。イビルジョーは頭部以外の甲殻がさほど発達していないため、他のモンスターと比べて防御面では脆かったりもする。事実、高温ガスの当たった部分が所々焼け爛れ、煙を上げている。バサルモスの方もそんな隙を見逃すわけもなく、両の翼を広げ、上半身をグッと下げると強靭な脚で地面を蹴り、イビルジョー目掛けて突進する。予想外のダメージを負ったイビルジョーは動きがぎこちない。日頃から鉱石を主食として摂取し、体を覆う岩石の鎧として発達させてきたバサルモス。その重厚な体躯を生かしての突進はさながら戦車隊の突撃にも等しい。その直撃を受けたイビルジョーはいともたやすく昏倒した。そしてバサルモスはトドメとばかりに翼を羽ばたかせて宙高くに舞い上がると、そのまま重力に任せて落下を始めた。岩の甲殻を纏ったバサルモスはまさしく隕石そのもの。自身の質量に重力が加算され、その衝撃がイビルジョーを襲った。ゴキッという何かが折れる様な音がし、イビルジョーは口から鮮血を吐き出した。

流石に生きてはいまい、見届けたバサルモスはそう判断した。

この時、バサルモス自身は気付いている様子はなかったが、首元、ちょうど先程イビルジョーに噛みつかれた部分が赤黒く変色していた。

邪魔者がいなくなったところで再び眠りに就こうと地面を掘り返し始める。

 

 

だが突然、脇腹に走る、突き刺さるような衝撃と共にバサルモスは浮遊感を感じた。

 

――おかしい

 

バサルモスは訝しむ。

自分は地面を掘っていたはずなのに、何故宙を舞っているのか、と。

しかしバサルモスにそれ以上の思考の余地は与えられることは無かった。バサルモスの体が地面に落ちるよりも早く、飛んで来た巨岩がバサルモスに直撃。岩は砕けるが、その際に大ぶりな破片の一つが頭を強打する。傷はつかなくとも衝撃まで消し去ることはできずに眩暈を起こし、バサルモスはあらぬ体勢のまま地面に落下し、横倒しに近い体勢になる。眩暈のために上手く体を起こすことのできないバサルモスは朦朧とする意識の中で、赤黒い靄のようなものに包まれた“何か”を目にした。その“何か”は赤黒い靄の中で爛々と不気味に輝く赤い双眸でこちらを見据えながらもどんどんと近づいてきているようだった。バサルモスはその姿に戦慄する。しかし悲しいかな、未だに眩暈が収まらないバサルモスは立ち上がることはできない。そして“何か”が目前に迫ったかと思えば、再び先程と同様、今度は胸に衝撃を受けると同時に自身の体が宙に浮くのを感じた。しかも運の悪いことに、その時に胸部の甲殻が割れて剥がれてしまったらしい。再び地面に落下するが、それでも“何か”は追撃を止めることなく、今度は龍ブレスが連続して襲ってくる。先程のような一点集中型のものではなく、リオレイアやイャンガルルガのように球体状のブレスであったが着弾と同時に炸裂し、割れた甲殻を更に抉った。続いてバサルモスを襲ったのは上からの衝撃。見れば“何か”が自身を踏みつけていた。

 

瞬間

 

バサルモスは“何か”と目が合った。

そして“何か”はその凶悪そのものと言っても過言ではない、その顎を開く。

それは笑っているようにも見えた。

 

赤い光が爆ぜた。

 

吹き荒れるのは暴虐の嵐。

 

闇夜に木霊すは暴力的な破砕音と半分個体も混じったような水音。

 

 

そこに一切の慈悲はない。

 

 

あるものは拉げ、砕け散り、あらゆる部位が欠け損じる。

 

宙を舞うのは血か肉か、それとも他の何かか。

 

 

 

 

 

 

 

夜が明ける。

 

 

 

 

月は隠れ、再び太陽が照らす世界が訪れる。

 

しかしそこは昨日と同じではない。

 

そこに在るのは見るも無残な骨と殻と肉片。

 

元の形が特定できないほど残虐に捕食、否、寧ろ破壊或いは解体されていると言った方が正しいだろう。

 

 

そして昨夜の出来事の真相を知る者はただ一人。

 

赤く、紅く染まった大地のみだった。

 

 

 

 

 

 

 




という感じで、初の大型モンスターとの戦闘でした。

本当はもう少し長くなる予定でしたが、ストーリーの展開上一部しか公開できず、少々短めとなりました。

これからも宜しくお願いしますm(__)m
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