暴虐の龍光   作:カイバル峠

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気付けば前回更新からはや二か月……

楽しみにして下さっていた方々、申し訳ございません!


好敵手

好敵手

 

 

 

イャンガルルガは高速の低空飛行で一気に距離を詰める。

一方でイビルジョーは食事に集中しており背後からの奇襲に気付く様子はない。

イャンガルルガは人間が口角を吊り上げるように、その眼光が鋭さを増す。

そしてクチバシの先端が触れるか触れないかのギリギリの位置に迫った時、一気に上体を引き上げて体を一回転、尻尾を叩きつける。丁度先程イャンクックに入れた最初の一撃と同じだった。

慣性と重力が合わさった合力により威力を増した打撃そのものに加え、並んだ棘が皮膚を切り裂き、肉を抉り、衝撃に反応した毒腺から滲み出た毒が標的の体内を蝕む。

 

そうなるはずだった。

 

イャンガルルガは怪訝な様子を見せる。

尾先から伝わって来たのはいつもの肉を切り裂き、抉るあの感覚ではなく、寧ろより硬く、弾性のあるものに弾かれた(・・・・)ような感触だった。

よく見ると、イビルジョーの表皮を覆う鱗の一片一片が精錬された金属にも似た妙な輝きを放っている。

 

自身の攻撃が通じていないことを悟ったイャンガルルガは上昇して高度を上げると空中で姿勢を反転、再びイビルジョーから距離を取り、地上に降りる。

流石のイビルジョーも攻撃を受けたからには黙っているわけにはいかないと判断したのか、食事を中断すると、イャンガルルガの方を向き直った。代謝の高さゆえに膨大な量の食糧を必要とするイビルジョーにとって、捕食行動の阻害はそのまま生命維持活動の阻害を意味する。

 

ゆえに

 

 

 

「グゥウオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 

イビルジョーは雄叫びを上げた。

暗緑色の背中が大きく盛り上がり、腰の一部と共に朱に染まる。

自身の生命を脅かすことに繋がる者として、イャンガルルガを排除すべき敵、ゆくゆくは自らの腹に収まるべき糧と認めたのだった。イャンガルルガもそれを感じ取り、体が疼くのを感じた。

彼は今一度興奮に任せて飛び上がると、咆哮に代えて火球の三連発でイビルジョーに応えた。

イャンガルルガの火球の威力はイャンクックの火炎液を遥かに上回るシロモノだ。しかし先程イャンガルルガが感じた違和感は現実のものだったのか、直撃したはずのイビルジョーの皮膚には殆ど傷が付いておらず、むしろそれらをものともせずに突進してきた。これにはイャンガルルガも驚くと共に狂喜する。無論この程度で倒せるなどとは初めから思っていなかったが、実際に目にすると改めて実感するのだった。自身の勘が正しかったということを。

怒涛の勢いで迫るイビルジョーの顎先の凶牙が自身の身を削るよりも早く、イャンガルルガは空高く舞い上がる。対するイビルジョーも跳躍してイャンガルルガを捕えようと試みる。大型獣竜種にあるまじき驚異的な反応速度であるが、どうやら相手の方が一枚上手であったらしく、鼻先が虚しく空を切った。イャンガルルガは、空中で急旋回して体勢を反転させると、イビルジョーが着地した瞬間に生じる僅かな隙を狙い、突進を掛ける。

狙うのは横腹。

あらゆる動物において、可動性を確保する為に軟組織であることが殆どであり、仮に甲殻を有している場合でも背面と比べて明らかに薄い、いわば共通の弱点である。それはイビルジョーにとっても例外ではなく、どういう理屈かは知らないが、如何に通常よりも硬化した鱗があるとはいえ、甲殻と呼べるほどの強度はない。また、幾度も繰り返し一点を集中して狙えば時期にガタがきてダメージが入る。加えてあの厄介な鱗を削ぎ落すことができれば、多少なりとも流れは変わる。

 

しかしながらまたもやイビルジョーは恐るべき反応を見せた。

 

イャンガルルガが残り数メートルにまで距離を縮めた時、その視界の隅から巨影が飛び込む。

 

「グワッ?!!」

 

そして衝撃と共に、気付けば吹き飛ばされていた。

一瞬の間に、イャンガルルガは意識が飛びかける。

だが戦いはまだ終わっていない。

未だ衰えぬ闘争心をバネに立ち上がる。

しかしその瞬間、全身を激痛が駆け抜け、よろめく。

見れば鱗が剥がれ、甲殻も一部ひしゃげ、翼と背中の棘も数本折れている。

 

そして自分が飛ばされてきた方向を見遣る。

漆黒の鱗に包まれた巨竜が、口から赤い光を滾らせながらこちらへ歩を進めてきていた。

 

彼は理解した。

先程自分の視界に映ったものはイビルジョーの尻尾だったのだと。

そしてそれもまた自分の攻撃を弾いたあの鱗に覆われていると。

 

イビルジョーの口から赤い閃光が瞬くと同時に一筋の光がイャンガルルガ目掛けて放たれた。

空を切り裂く一条の光が軌道上のあらゆるものを吹き飛ばしながら迫る中、イャンガルルガは反射的に翼を広げており、風圧に押される形で辛くも線上から離脱する。

赤い光はそのまま地面を抉り、イャンガルルガのいた場所から更に数十メートル先に着弾、周囲に赤い閃光と爆風を撒き散らしながら暴発した。

地面がめくれ、周りの木々はなぎ倒され、爆心地には巨大なクレーターが形成される。

光線が通り過ぎた痕、クレーター共は共に赤黒く染まっていた。

空中に逃れ、爆風の風圧に揺られながらもなんとか姿勢を維持しその様をまじまじと見つめていたイャンガルルガもこれには戦慄を覚えた。これまで幾度となく、イビルジョーというモンスターは目にしてきたが、このような行動をとる個体は見たことがない。あの赤い光も、恐らくは龍エネルギーがその正体であろうが、通常の個体はあのような光線状に直進した後大爆発を起こすほどに圧縮されたブレスは激昂した時でさえ使わない。もしさきほどのが直撃していたら……

 

イャンガルルガは自身の認識が甘かったことを痛感した。

 

あのイビルジョーはこれまで見て来たものよりは幾らか小ぶりではあるが、そのどれとも一線を画するイレギュラーなのだと。

生来の性分として、戦いを好み、生業とするイャンガルルガはこれまでにも幾度となく死線を潜り抜けて来た猛者だ。数多の敵を下し、時には敗走し、負った傷の数も計り知れない。片眼も戦いの中で失った。常に生傷は絶えないがその分より強く、より狡猾にもなった。自分より小さな相手は力ずくで沈め、自分より強い相手でも不意打ちで大ダメージを与えてきた。

しかし今回ばかりは事情が違った。

イビルジョーというモンスター自体、元より他の大型モンスターと比べても輪をかけて凶暴かつ強力なモンスターだ。単体で一地域の生態系を破壊できるモンスターなど、古龍種を除けば他に類を見ない。

それに付け加えて他の個体には見られない硬化した外皮を持ち、膨大な龍エネルギーを高濃度に圧縮したブレスを操る特異個体というおまけつきだ。しかもさきほどの反応速度からみて運動性能も通常個体より高いのだろう。

体格差も相まって、イャンガルルガにとってはますます分の悪い相手だ。

撤退という考えがイャンガルルガの脳裏を過ったその時だった。

視界の隅で赤い何かが煌めくのが見えた。

それが何かを本能的に悟ったイャンガルルガは強引に身を捩って躱す。

その判断は正しかった。

赤い光が、再びイャンガルルガのすぐ横を掠めていった。

 

光の飛来してきた方向に目を向けると、そこには既に次弾装填を始めた宿敵の姿が。

 

どうやらそう簡単に逃げさせてくれるような相手ではないらしい。

あのブレスの射程がどの程度か正確に分からない以上、自身が飛んで逃げ切る前に撃墜される可能性もある。

 

イャンガルルガは賭けに出た。

 

突如として、狂ったように自身の周囲に火球を乱射し始める。

当然、さきほどの事例からこの程度でイビルジョーをどうにかできるなどとはイャンガルルガ自身も考えていない。

しかしこの場には近くの河川から枝分かれした小川が幾筋も流れていることもあり、常に土壌が多量の水分を含んでいる。

それらの水分が高温で一気に熱せられたとしたらどうなるだろうか。

 

「グオッ?!」

 

ジュウッっという音と共に一面が白煙に包まれる。

火球により熱せられた水蒸気が急速に冷やされて水滴に戻り、幾万、幾億、それを遥かに凌ぐ数が宙を舞い、白く染めたのであり、謂わば今朝の霧を意図的に発生させたのだった。この地域は熱帯性の気候のため湿度が高く、飽和水蒸気量も多いのだがそれを超える量の水蒸気が発生すれば一部は液体に戻る。当然即席の煙幕などすぐに霧散して晴れてしまう。しかし不意打ちには有効であったらしく、突然視界が真っ白になったことでイビルジョーに動揺が生じ、思わず攻撃動作を中断してしまった。

しかし霧といっても一生物の単独の力で起こされた一時的なもの。自然に発生したものとは規模も量もまるで異なるため、すぐに晴れる。

やがてその時が訪れた。

だがそこには既に黒狼鳥の姿は無い。

 

 

「グゥウオオオオオオオオオッッ!!!」

 

 

後に残された恐暴竜の無念を示すような叫びが虚しく木霊するだけだった。

 

 

 

◆◇   ◇◆

 

 

 

「あっ、イャンガルルガが逃げました。」

 

 

 

時は少し遡る。

イビルジョーとイャンガルルガが争い始めた時、丁度付近の調査に当たっていた一団があった。4人組で、各々がモンスターを相手取るための武器を持ち、生物的なフォルムを色濃く残す防具を身に纏っている。この樹海は古代の遺跡の調査でハンターもよく出入りしており、彼らもその例に漏れないハンターであった。

 

「それにしてもあのイビルジョー、またとんでもないヤツがいたもんだねぇ。」

 

「ええ。黒狼鳥も相当の手練れのようでしたが、恐暴竜はその上を行っていたようですね。」

 

口々に感想を述べるのはそれぞれハンマーと弓を背負った若い女性ハンターの二人。

二人共容姿は整っており、ハンマー使いの方は名をリザベラといい、赤い髪に日に焼けた肌と、快活そうな見た目で、どこかしなやかな女豹を思わせる野性的な雰囲気も醸し出しており、細身ながらも一たび狩場に出れば愛用のハンマーを振り回し敵を粉砕するその姿は正しく獅子奮迅といえる活躍を見せる。一方で、弓使いはメリアという名で、銀に近い色味の薄い金髪に白い肌、物腰も柔らかく、一見ハンターをしているとは思えない、育ちの良い令嬢のようにも見え、リザベラとは正反対の印象を受ける。しかし彼女もハンターとしての腕は一流で、複数の特殊ビンを使い分けながら他のメンバーをサポートし、また持ち前の鋭い勘でこれまで幾度となく隊の窮地を救ってきた。

 

「でもあんなのがウロウロしてたんじゃ、おちおち調査もしてらんないねぇ。」

 

「そうですね、戦えるように準備はしてきているとはいえ流石にあれは想定外です……どうします、リーダー?」

 

そう言ってメリアが視線を向けた先にいたのはランスを背負った壮年の男性だった。

リーダーと呼ばれた彼は名をリヒャルトという。精悍な顔つきにどこまでも落ち着き払ったその姿は、幾多の修羅場を潜り抜けて来た者に特有の、何事にも動じない山の如き威容を感じさせた。寡黙で多くを語らない性格であるが、その実力は勿論のこと、長いハンター生活の中で培われた知識と経験に判断力、冷静沈着でありながらも側にいる者を不思議と安堵させるような雰囲気を持ち、人望も厚い。リヒャルトはメリアの問い掛けにすぐには答えず、暫し考えるような素振りを見せた後、口を開いた。

 

「……お前はどう思う、ライアン?」

 

ライアンと呼ばれたのはまだあどけなさの残る青年だった。このメンバーの中では最年少であるが、いざモンスターを相手にした時の立ち回り、ずば抜けた観察力、非凡な発想力など、熟練のハンターでさえも素直に舌を巻くほどの実力者であり、他の三人のみならずギルドからも期待を寄せられている注目株だ。

 

「……確かにあのイビルジョーがいる現状ではこれ以上の調査続行は困難だと思います。でも」

 

そういうとライアンは手にしていた双眼鏡から目を離した。

 

「その代わり別の大発見をした、と言えるかもしれませんよ?」

 

彼は笑みを浮かべながら、イビルジョーが貪ったイャンクックの死骸を指さした。

 

「っ、あれは……」

 

ライアンの指し示したものを見て一行は息を呑んだ。

赤黒く染まったその死骸は、最近樹海で発見されたという謎の死骸群とあまりに酷似しているのだった。

 

「なるほど、確かに噂になってる例の“龍蝕結晶”ってやつに酷似しているな。だがそうだとしても一つ問題がある。」

 

「……ギルドにどう報告するか、ですね?」

 

ライアンの答えにリヒャルトは大きく頷いた。

 

「そうだ。龍蝕結晶もしくは龍蝕が確認された地域は樹海の中じゃ局所的とはいえ、面積で考えれば相当広い範囲に及んでいる。ある地域では龍属性エネルギーが土壌や地下水にも浸透して植物にも影響が出始めているらしい。そんな理由で一部では新種の古龍の存在を唱える説も上がっているとも聞く。事実こんな形での環境改変能力を持つモンスターはかの黒蝕竜と天廻龍以来だ。恐らく誰も今回の件が“普通のモンスター”に引き起こされたもんだとは考えてはいないと見て良い……そこでだ、そういった空気の中で納得のいくような報告をするにはどうしたらいいと思う?」

 

リヒャルトはどこか確信めいた笑みを浮かべながら再び問い掛ける。まるで受け持った生徒が正答を導き出すことを最初から分かっていたように。

対するライアンも笑みを以てそれに答える。

 

「師匠にしては随分と簡単な問題を出されますね。勿論僕も目撃したというだけで受理されるような案件だとは思っていません。ですが物的証拠があるとなれば話は別。最も理想的な方法としてはあのイビルジョーを捕獲して再現させることですが、流石にこれは現実的ではありません。でも先程のイャンガルルガとの戦いで大したダメージは負わなかったようですが、少なからず鱗は落ちていると考えていいでしょう。それに龍蝕結晶の生成には高濃度の龍属性エネルギーに加えて強力な酸が必要だそうですが、現状この樹海でその二つを持ち合わせているモンスターはイビルジョーのみです。幸いあの死骸は龍蝕化が始まって間もないですから、上手くいけば唾液が採取できるかもしれません。その成分に普通の恐暴竜と合致するものがあれば動かぬ証拠となるでしょう。」

 

堂々と答える弟子の姿にリヒャルトは思わずフッと笑みがこぼれるのを感じた。

 

「……満点だ。お前には少し簡単すぎたか?だがここまで言ったなら次に俺達の為すべきことは分かるな?」

 

その言葉はライアンのみに向けられたものではなく、メリアも、リザベラも気を引き締める。

 

「ええ、勿論です。恐暴竜との戦闘を避けて今言ったものを回収、ですね?」

 

相も変わらずに他者の意図を的確に言い当てるライアンを見て、リヒャルト以下、隊のメンバーは改めて自分達の隊の新人(ルーキー)を頼もしく思うと共に、これからの成長への期待を新たにするのだった。

 

「よし、内容はライアンの言った通りだ。イビルジョーが去り次第、サンプル回収を開始する!」

 

「「「了解!」」」

 

 

 

その後、樹海における一連の怪現象の発生源として、特異な生態を持つイビルジョーの存在が最有力候補として挙げられた。ギルドはこれをイビルジョー特異個体と認定、最重要観察対象と定めたのだった。

 




どうも、ご無沙汰しておりました。

最近リアルでやることや悩みが多くて、執筆に集中できないでいました。

また話は変わりますが、4月に体調を崩して後凄まじい空腹感に襲われております。

これが飢餓の苦しみか……

ちょっとジョーさんの気持ちが分かったかも笑

今後も連載が滞ることもあるかと思いますが、決してエタるようなことは致しませんので、どうぞよろしくお願いいたします。

それでは!


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