11月29日 偽りの楽土を越えて 他
『11月29日 偽りの楽土を越えて』
11月29日、午後14時半。
ノックス大森林西部、低地に生茂る樹海。
「はぁ、はっ・・・・・・!」
1人の男性が、道無き道を無我夢中で駆け走っていた。
視線は前方の一点。振り向いている時間も無ければ、余裕も皆無。
前だけを見据えて、ただひたすらに足を動かし続ける。
元々想定していた逃走ルートは、既に頭の片隅へと追いやられていた。
男性の身体に残された体力も、もう残り僅か。
幽閉されてから1週間。適度に身体を動かし、精神的にも平静でいられるよう努めた。
やがて2週間が経ち、虚ろな目で天井を眺める時間が増え始めた。
3週間が経過した頃には、習慣は形骸化し、食事の量や睡眠時間が減った。
1ヶ月間。今まで積み重ねてきた一部を奪い去るには、十分な時間だった。
どうして俺は、あんな無駄な時間を。
男性が後悔の念に苛まれていると、後方から小刻みな足音が急速に近付いて来る。
直後に右の太腿に激痛が走り、男性は右肩から地面へ崩れ落ちてしまった。
「があぁっ!?」
痛みを堪えながら上半身を起こし、右足へ齧り付く軍用犬と視線が重なる。
迷っている暇は無かった。男性は手にしていた鉄パイプを、トンファーの要領で握った。
鉄パイプの先端が軍用犬の頭部を襲い、気味の悪い音と感触が到来する。
それまで頭蓋に覆われていた中身が爆ぜ、ビチャリと地面に飛び散った。
「ぐぅっ・・・・・・!」
込み上げてくる吐き気を飲み込み、立ち上がる。
男性の視線は後方の脅威を意に介さず、やはり前だけを向いていた。
何を以って前とするのか。それは誰の目にも明らかだった。
ダダダンッ。
3発の銃声が樹海へ響き渡り、再び男性の膝が折れてしまう。
極度の疲労の上に重ねられた激痛。希望を塗りつぶす、絶望。
対人鎮圧用の非実弾といえど、人間を無力化するには十分すぎた。
「動くな!武器を捨てて手を後ろにやれ!!」
やがて追い付いて来た数人の兵達が、男性の前へ半円状に立ちはだかった。
男性に向けられた複数の銃口が退路を阻み、僅かな可能性を奪い去って行く。
兵達は溜め息を付いていた。
協力者がいたとはいえ、たった1人の脱走者にこうも翻弄されるとは思ってもいなかった。
だが逃走劇もここまで。両足から流れ出る血液と痛々しい痣が、それを物語っていた。
だから兵達は、唖然とした。
この期に及んで男性は忠告に反し、武器を手放さなかった。
ゆっくりと、ゆっくりと。赤子のようにふら付きながら、立ち上がる。
兵達もその様を見守るように、呆然と立ち尽くしていた。
「俺・・・はっ・・・・・・」
男性の鋭い眼光が、兵の1人を射抜いた。
反射的に、引き金が絞られた。今度は左足へ、硬質のゴムに覆われた弾頭が飛来した。
男性の呻き声が上がり、隊を統率する長の怒鳴り声がそれに続く。
「馬鹿者!誰が発砲を許可した!?」
「す、すみません。咄嗟・・・に・・・・・・っ」
それでも―――男性は、倒れようとしなかった。
不屈。折れても尚立ち上がる気迫が、決して折れないそれへと変わる。
誰もが動揺を隠せず、畏怖に似た感情さえもを抱きつつあった。
「分からんな。何故そこまでする?この状況が理解できん程、お前も馬鹿ではないだろう」
部隊長の言葉に、男性はぼそぼそと何かを呟き始める。
兵達の耳には、そのほとんどが届いていなかった。
それもその筈、男性は自分自身に言い聞かせていた。
何故自分は立っているのか。何をすべきなのか。絶望的なこの状況の中で、何ができるのか。
男性の小声へ気を向けることなく、部隊長は右手を上げて合図を送った。
すぐさま兵達は小銃を構え直し、再び銃口が男性の足へ狙いを定め始める。
次第に男性の声に力が入り、ハッキリと聞きとれるようになっていた。
「諦め、ない・・・・・・俺は、諦めない」
「無駄だ、やめておけ。我々もこれ以上、手荒な真似は控えたい」
「それでも、俺は諦めないっ・・・・・・絶対に、諦めたりしないっ!!」
一際大きく声を荒げると同時に、足から流れ出る血の量が増した。
もう無理だ。この男は、痛みでは倒れない。言葉でも止まりはしない。
「・・・・・・惜しいな」
それ程の強固な意志を、何故反逆に向けるのか。
到底理解に及ばないまでも、部隊長は尊敬の意を抱きながら、情けを捨てた。
そっと目を閉じ、右手を男性に向け、発砲を指示する動作を取る。
痛みで倒れないのなら、それを越える痛みを以って意識を刈り取るしかない。
ストン。
直後に聞こえてきたのは、銃声ではなかった。
地面をそっと踏むような、草原を静かに歩くような、小さな小さな足音。
部隊長が訝しみながら目を開けると―――女性が、立っていた。
「・・・・・・ラン、さん?」
唐突に眼前へと下り立った、女性の背中。
男性はその背を見詰めながら、思い出の中に埋もれていた女性の名を口にした。
見覚えのある衣装とブーツ。背に携えた二刀の『月下美人』。
思い違いであることを、男性はすぐに理解した。
無意識のうちに漏れ出た名の女性ではなく、その一人娘。
瑞々しい日々を共有し、幼いながらも淡い感情を抱いていた、幼馴染。
突然離れ離れとなり、3ヶ月前に再会が叶った、かつての想い人。
「・・・・・・何者か知らんが、そこを退け。その男の身柄は我々が預かる」
「その前に、聞きたいことがあります」
「黙って従え。さもなくば加担者として拘束するぞ」
「あなた達の正義は、何ですか?」
名も知らない女性の漠然とした問いに対し、部隊長は応じなかった。
三度右手で総員に指示を下し、今度は女性へ小銃が向けられる。
一方で、躊躇いもあった。外見から察するに、まだ10代の後半か20代前半。
何のために反逆者の前へ立ち塞がっているのか分からないが、その目には迷いがあった。
先程の問い掛けに対する答えを欲す、純粋な少女にしか見えなかった。
「決まっている。この新生国を護り、帝国と共和国、二大国による支配と蹂躙の歴史に終止符を打つ。それが我々クロスベル国防軍の正義だ」
「・・・・・・そうですか」
「軍の何たるかを知らん歳でもないだろう。お前は何者だ?」
「帝国の士官学校に通う、士官候補生です」
瞬時にして、小銃へ殺気が込められた。
躊躇いも何もかもが立ち消え、女性は明確な『敵』へと変貌を遂げた。
別に意味は無かった。
帝国人を名乗ったこと、クロスベル生まれである事実を伏せたことも。そして問い掛け自体にも。
あるとするなら、それは迷いを断ち切るため。
クロスベル中を駆け巡る中で、膨らみ続けてきた疑問。
曖昧な立ち位置と、複数の故郷を持つ人間であるが故の迷い。正義と不義。
答えなんて、持ち合わせてはいない。
「アヤっ・・・・・・駄目だ、下がってくれ!」
だからと言って、何の負い目があるのだろう。
もう十分だ。耐え難きを耐え、待ち続け、考えてきた。
今この瞬間だけは、思い悩む必要など何処にも無い。
「撃てぇ!!」
女性の目から迷いが消えると同時に、複数の引き金が絞られる。
「ラン!!」
それも一瞬の出来事だった。
女性の胸元から飛び出した小鳥は、瞬く間にその身を巨大化させた。
強靭な体毛に覆われた神狼を前にして、鎮圧用の弾丸など用を成さなかった。
信じ難い光景を目の当たりにした兵達は、すぐに数件の目撃証言を思い出した。
「げ、幻獣!?」
「まさか、報告にあったっていう・・・・・・じゃあ、あの女が『獣姫』なのか!?」
「狼狽えるな!!実弾の使用を許可する、総員―――」
部隊長が言い終えるより前に、神狼の口が大きく開かれ、上空を向いた。
クラウ・ソラリオン。光線上に収束した幻属性の霊力が、空を射抜いた。
最新鋭の導力兵器を以ってしても届き得ない、聖しき獣が持つ霊力の最大級。
兵達の戦意を奪い去るには十分すぎる程に、巨大な力だった。
『去れ。偽りの聖地を守る兵共よ。この者らに手出しは無用。抗うならば、その頭蓋を噛み砕く』
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獣姫、か。何とも滑稽な名だ。
国防軍の間でそう呼ばれていることは、噂程度に聞き及んでいた。
ランの背に跨りクロスベルを回る中で、何度か巡回中の部隊に遭遇したことがあった。
「アヤ・・・・・・本当に、アヤなのか?」
振り返ると、信じられないといった表情で、ロイドが私を見詰めていた。
聞くまでもないだろうに。お母さんの名で呼ばれた時は、思わず笑ってしまった。
「ロイド。ごめんね」
「ま、待ってくれ。俺には何が何だか・・・・・・痛ぅっ!?」
私が歩み寄ると、緊張の糸が解れたのか、ロイドの膝はすぐに折れてしまった。
両足を伸ばし、左手で半身を支え、右手で痛々しく患部を押さえ始める。
極度の興奮状態に陥っていたことで、痛みさえもを本気で忘れていたのだろう。
気の緩みと同時に、抑え込んでいた全てが今、一気にロイドの身体を蝕んでいるに違いない。
「ごめん・・・・・・ごめんね、ロイド」
「・・・・・・多分俺は、君に助けられたんだよな。どうして、謝るんだ?」
私は地に両膝を付いた姿勢で、ロイドの頭をそっと抱いた。
顔は汗と泥に塗れ、小さな傷が無数に刻まれていた。
分かっていた。全部、分かっていた上でのことだった。
救い出す手立てはあった。段取りも入念に組み、あとはタイミングの問題だった。
でも私は、待つことを選んだ。2週間に渡り、耐え忍んだ。
ロイドが自分自身の足で、再び立ち上がる刻を待ち続けた。
その選択がどれ程危険で、取り返しのつかない危険性を孕んでいることも理解していた。
それでも私は、信じようとした。ワジ君やランも、私の意志を汲んでくれた。
彼なら、きっと。願望に近い可能性に賭け、それが今現実となってくれた。
「参ったな。こんな状況で君に泣かれると、何て言ったらいいか・・・・・・」
「ロイドこそ、人のこと言えないでしょ」
「え?」
ロイドの頬を伝う涙を指で拭うと、彼の右手もそれに続いた。
本当に気付いていなかったようだ。私よりも先に、流れていたというのに。
「はは・・・・・・変だな。その、すまない。どうして、こんな」
この1ヶ月間。彼はどんな想いで生きてきたのだろう。
大切な物の何もかもを失い、守るべき少女を奪われた、あの日から。
憤りと失望、己の無力感に苛まれ続けたであろう、終わり無き絶望の毎日。
結局彼は、這い上がった。
心を奮い立たせ、動かない筈の足を動かし、抗い続けた。
そこに伴った苦痛は、足から流れ出る血の量からは窺い知れない。
「いいよ。今は、好きなだけね。私の胸ぐらい、いつでも貸してあげるから」
11月に入ってすぐ、一度だけランが私に問い掛けた。
このままクロスベルに留まるか、内戦が勃発したという帝国へ戻るのか。
私は前者を選んだ。迷いはあったが、今は故郷へ繋がる道を進むと決めた。
過ごした期間は関係ない。
クロスベルを想う仲間と呼んでくれた、特務支援課の皆。大切な仲間達。
そして大好きだった、幼馴染。支えるために、私は故郷へ帰って来たのだから。
今はただ、彼の痛みと苦しみを和らげてあげたかった。
「アヤ・・・・・・」
ロイドが顔を上げると、お互いの鼻頭がそっと触れた。
クスリと笑った。目元を腫らしながらも、ロイドも笑った。
私よりも泣き虫だった癖に、時折見せる男らしさにドキリとする。それが7年前。
今はまるで逆だ。思えば現在の彼の涙を見るのは、これが初めてのこと。
この7年間で彼は逞しく成長し、私の知らないロイド・バニングスになっていた。
でも泣き顔だけは、7年前のまま。私が想っていた彼が今、胸の中にいる。
「ねえ、ロイド」
込み上げてくる愛おしさに、自然と彼の名が零れた。
急速に高鳴っていく胸の鼓動が、感情の名を告げてくれた。
再び鼻が、額が触れ合う。熱を帯びた吐息がお互いの唇を撫で、その表面が乾いていく。
吸い込まれるように顔が近付き―――やっぱり、笑った。
「・・・・・・あはは」
やがて込み上げてくるのは、愛おしさではなく笑い声。
その気も無いくせに、馬鹿な真似を。危うく勢いに飲まれるところだった。
私が多少の力を込めて額を打つと、ロイドは目元を拭ってから大きな笑い声を上げた。
「あはは。こら、思い出に流されてどうするの」
「それ、俺に言ってるのか?同じ言葉をそのまま返すよ。すごい顔だったぞ」
「うるさいな。ていうか何これ、7年越しの告白?」
「はは、ただの思い出話さ。もう止めよう、ツァイトも呆れてる」
頭上を見上げると、私達を見下ろすランの顔があった。
この形態だとより一層表情が分かり辛いが、若干の気まずさは感じられた。
『私は一向に構わん』
「馬鹿。みんなには内緒だからね」
「俺からもお願いだ。大変な誤解を生みそうだしな」
『・・・・・・』
「「黙らないで(よ・くれ)」」
誤解なのか、そうでないのか。微妙なところだが、どうだっていい。
既にお互いの道は分かれている。大切な人間も、別の何処かにいる。ただそれだけのことだ。
「頑張ろ、ロイド・・・・・・頑張ろ。私も頑張るから」
「・・・・・・ありがとう、アヤ。君がいてくれて、本当に良かった」
漸く一歩踏み出せた。私の選択は、無駄ではなかった。
皆と別れたあの日、ランは言った。この旅路にも、終わりがあると。
それがいつかは分からない。今はロイドと一緒に、抗い続けよう。
この地でなすべきことをなすためにも、立ち止まってはいられない。
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『12月13日 レクター・アランドール大尉の一番長い夜①』
12月13日の月曜日、午後21時半すぎ。
「・・・・・・マジかよ。魂消ちまったぜ」
腹違いの妹がいる。
女性の告白は、抜け落ちていた欠片の1つ。
女性が明かした過去。
7年前の別れと悲劇。3年間の流れ旅。探し物。遊撃士協会。全てを知ったのが昨年。
元B級遊撃士が辿った道のり。
孤独だった4年間。出会いと満ち足りた3年間。遊撃士としての2年後。クロスベル。
そして―――その一人娘。
後追いの術が無い情報が加わった今、男性が知る数多が繋がりを示し始める。
常人では決して解き得ないパズルが、1枚の明確な絵を描き出していく。
もしその絵に、誤りがないのなら。本当にそんな絵が存在するのなら。
「運命の悪戯ってやつか。在り来たりな表現だが、一番しっくり来る」
「我ながらそう思うわ。その中心にいるのは、私ではないのだけれど」
「そんで、狼さんは知ってたのか?つーか、知っててやってんのか?」
「知らなかった筈よ。今はどうか分からないけどね」
何が先で、誰がいつ。
その順序や詳細は掴めていないものの、男性は既に全体像を描き切っていた。
魂が消えると書いて、たまげる。予想だにしない事実に、文字通り魂が擦り減る思いだった。
それにしても、今日はよく喋る。
紅潮した女性の頬を横目で眺めながら、男性は胸の内で独りごちていた。
自らが第三者へ明かすことで、楽になろうとしているのか。
それとも、単に酔っているだけなのか。事実、何杯目か分からないグラスは空いていた。
「あの嬢ちゃんも苦労すんなァ。今頃何処で何をやっているのやら」
「心配は無用でしょう。それにあの子は、私達でも推し量れない可能性を秘めている。鉄血宰相を出し抜く鍵となり得る、数少ない人間の1人だわ」
「・・・・・・買い被りすぎじゃねえのか。聖獣の存在は確かに想定外だったが、それだけだろ?オッサンを出し抜くなんざ、夢のまた夢だぜ。訳分かんねえ」
男性の言葉に、女性は無言で応じた。
女性は妹の全てを知っていた。男性もそれを察していた。
過去や性格に趣味嗜好、そしてその強さ。
人の世の喜びと悲しみを知り、弱さと限界を知り、それでも純粋さを失わない。
そして彼女の数奇な人生は、意図せずして様々な出会いと繋がりを生み出していく。
言葉では言い表せない、不思議な魅力を纏う少女。
度々窮地へ追い込まれては乗り越えるを繰り返し、強さへと変える。
それが女性にとっての、アヤ・ウォーゼル。唯一の血縁だった。
「しっかし、端から見てると飽きねえよなァ。何しろ言い寄って来る異性は、独り身の変態染みたオッサンだらけだ。その手の才能があるんじゃねえの?」
「母親譲りの魅力かもしれないわね。両親の年齢差を考えてみなさい」
「・・・・・・継がなくていいモノを継いじまったな」
「年下の彼氏という存在が最高の癒しだわ」
空っぽのグラスを揺らしながら、女性は大きく溜め息を付いた。
その姿に、男性はどういうわけか悪寒を感じた。確かな寒気を覚えた。
(・・・・・・何だ?)
まるで心当たりが無い。
今の話題に、自分が関わり得る余地など皆無の筈だ。
眉間に皺を作りながら、疑念と共にレッドアイを口内に流し込む。
すると女性はやや声を潜めながら、呟くように言った。
「2ヶ月前ぐらいに、誤解を生むような盗撮写真を彼氏へ送り付けた輩もいたわね。確かその男も、年上の独り身だったかしら」
ゴクリッ。
思わず喉を鳴らして酒を飲み込んだことで、男性は咳込みそうになる。
平静を装いながらグラスをカウンターへ置き、誤魔化しのオーダーを店主へ入れた。
男性はいつ以来か分からない、恐怖を抱いた。
情報を糧とする職業柄、知らないという事実はそのまま恐れに直結する。
そう、知らない筈だ。あの時の出来事を、この女性が知っているわけがない。
たとえ把握していたとしても、何処にも自分という痕跡は残していなかった。
辿り着ける筈がない。なら、本当に知らないのか。カマをかけているだけなのか。
「姉であるアンタにとっちゃ、悩みの種ってところか。オッサン共も命知らずだな」
「同感だわ。私の前に雁首揃えて並んでくれたら手っ取り早いのに」
「おー怖っ。それで、アンタはどうすんだ?」
「全員裸に引ん剝いてから、私は野郎共へ銃を向けてこう言うのよ。『死にてえ奴から前に出な』ってね」
「どこのマフィアだよ・・・・・・」
まるで人が変わってしまっていた。
深酒の影響というより、妹が絡むとこの女性は豹変するのかもしれない。
これまで見てきた顔のどれよりも、人間味が感じられた。
何れにせよ、この調子ならやはり考え過ぎのようだ。
そう思いホッと胸を撫で下ろしていると、男性のグラスへ酒が注がれていた。
それはレッドアイではなく、女性が口にしていた醸造酒だった。
「おいおい、アンタの仕業か?俺は苦手だって言っただろ」
「そう言わずに付き合いなさい。裸に引ん剝かれたくなければ、ね」
冷酷で冷血な、狐のように鋭い細目。
瞬時にして、男性は悟った。俺は今から、エイドス行き超特急に乗せられる。
やはり知らないという事は、それだけで悪を孕んでいる。
異常な姉妹愛。触れてはいけない物に―――触れてしまっていた。
レクター・アランドール大尉の、一番長い夜。長い長い夜の、始まりだった。
本編が一本道になりがちなこともあり、過去話を書かせて頂きました。
作者の気分転換でもあったりします・・・。お付き合い頂ければ幸いです。