この作品は前回投稿していたモノを加筆修正している作品ですが、この番外編は初めて書いたモノです。
まぁ読まなくてもOKですが、感想や評価が嬉しくて書きまくったよー
お気に入り登録も150件! 本当にありがとうございます。
過去にあった、織斑一夏が攫われた事件を書いてます。おかしいとこもあるかもですが、よろしくです。
ではどーぞ。
織斑という名前は有名だ。
世界一の金持ちの名前を知っているか。
世界一足の速い人の名前を知っているか。
世界一のロックスターを知っているか。
これらは認識の違いや勘違い、または興味がなく知らない人もいるかもしれない。
しかし、織斑という名前を知らない人間がいる確率は宝クジ一等前後賞の当選確率より低いだろう。
それは織斑千冬という人物が築き上げたブランドとも言えるものだ。
IS
インフィニット・ストラトスの登場は世界を変えた。女性にしか使えない最強の兵器。
やがて兵器から格闘スポーツとして世界大会が開かれた。
織斑千冬は、その世界大会である第一回モンドグロッソを圧倒的とも言える強さで優勝を手中に収め、『ブリュンヒルデ』と呼ばれるようになり、第二回大会も危なげなく駒を進めていった。
そんな時に彼女のいも……弟である織斑一夏は攫われた。
IS国際大会の第二回モンドグロッソ。準決勝が終わった直後の出来事だった。決勝へと進んだ織斑千冬の元に緊急連絡が入った。
「一夏が、攫われた……」
最強のIS乗りの姿は一瞬ぐらついた。たった一人の家族が攫われたことに様々な思いが駆け巡るが、なんとか堪えた。犯人側の要求は織斑千冬が決勝で戦って敗北する事だった。『棄権』では、裏で何かがあったと全世界に知れ渡り意味をなさない。とするならば決勝の対戦相手の関係者が犯人なのだろうか、闇賭博でもされているのか、それは分からない。
迂闊に犯人扱いしては国際問題となる。
日本と準々決勝で戦ったドイツは日本側のサポートに回っていた。強さの秘訣などの一端でも解ればという下心もあったが、織斑一夏誘拐の犯人から日本側にかかってきた通信回線を傍受していた。結果として半径430mと広めな範囲ではあるが逆探知に成功していた。
やり方に問題はあるが、千冬にとっては怪我の功名とでもいうのか、大体の場所はドイツのおかげでわかった。ただ、問題なのはその探知されたポイントは移動しているとのことだった。
試合後のエネルギーチャージと休憩時間。試合会場の整備が終われば決勝は始まる。
―――数時間前。
日本。ISが世に出て、女尊男卑な世の中になっても割と平和な島国。とある中学校から飛び出るように走り出てきた小さな小さな中学生に、平和な時間が流れていた。
中学生は織斑千冬の弟、織斑一夏だった。一夏は学生服を身に纏い、少しばかり急いでいた。先ほどまで自身もいた学校で親友の五反田 弾が人伝に聞いたらしい確かな情報によって足早に帰路についていたのだ。
「本当!?」
「おう、ケータイ持ってる奴からきいたんだ。千冬さん準決勝に進んだらしいぜ」
次勝てば決勝だな。と、弾は一夏に告げた。
やはり自分の姉は強いと、誇らしく嬉しくニマニマしながら、「今日は先に帰るね」と言い残し、放課後の教室を後にした。
家に帰ってテレビを点ければ準決勝の途中ぐらいだろうか、最初から観れるだろうかという時間帯。手料理を作って姉の帰りを待っても隣町で試合をやっているわけでもあるまいし、記者会見や報告などで今日中に帰ってこれるわけがないのだが、一夏の頭は既にお祝いの料理メニューや、お祝いの言葉などでいっぱいになっていた。
しかし、魔の手は忍び寄り、一夏に襲い掛かった。
「え!? な、なんで……」
目の前にはお皿の上にのるチョコケーキに見えるものがあった。道のど真ん中である。
こんなところにチョコケーキ。ケーキ屋さんの試食などではないし、皿の上にある事から落としものでもない。蟻が群がることも、犬猫が誘われるわけでもなく、そこにチョコケーキはどっしりと皿の上に構えていた。
馬鹿な、罠だ。
いや、何の罠だ。誰が掛かると言うのだこんなモノ。
とりあえず一夏は辺りを見回した。
右よし、左よし、前よし、後ろよし、上よし。下もよし。全方位オールグリーン。
チョコケーキに近づく一夏は、再度確認しながら皿の前にたどり着いた。
すんすんっ。
匂いよし。
少し考え、恐る恐る皿を持ち上げるが、煙とか、光ったりもしないため一夏は指でケーキに触れ……ひとつまみ口に含んだ。
「これは……甘さ控え目の不死屋のチョコケーキだ!」
食べた者は不死の力を手に入れる事が出来るなんて冗談が飛ぶくらい人気の名店のチョコケーキだ。一夏も今までに並んで買えたのは2回しかない。
なんて罰当たりなことをするんだ。と、拾い食いしている自分を棚に上げつつ、一口、更に一口と完食する。少しばかりの後引く甘さに幸せを噛み締めるが、大事なことを思い出す。
「あ、急いで帰らないと。お姉ちゃんの試合が―――」
たった今まで自分が何をしていたか思い出すべきだとは思うが、本来の目的を思い出し、更に足を進める。だが、曲がり角で更なる悲劇が一夏を襲う。
「―――なぁっ! 復刻版のドッキリマンチョコウェハース! こっちは冷めても美味しい鯛夢のタイ焼き!? しかも温かい!!」
さっきの事といいおかしい。いと御菓子。お菓子美味し。目の前の皿にのるものを片付けた一夏は次の曲がり角で確信する。
夢だ、夢を見ているんだ。
今度は数メートル毎にお菓子が用意されていたのだ。
「し、仕方ない。夢なら仕方ないよね!」
そう自分に言い聞かせ迷いは消えた。仕方ないのはお前だ。そんな台詞を言ってくれる友も今はいない。ならば止めるものもいないということなのだ。まるでお菓子のグルメレースだ。一夏の頭の中にもグルメレースのBGMが流れる。急がないと他の誰かに食べられてしまう。
「あーあ至高のお菓子と最速のスピード~♪」
飽きが来る甘さに、計算された様なタイミングの塩系のポテチ。更に一気に爆発的加速をさせるキンキンに冷えたコーラ。
「チップスター♪食べたその日かーらー♪」
間違った歌を歌いながらコーラのキャップは封印を解かれ、そして喉をシュワシュワと流れる炭酸飲料。
悪魔的だった。一夏は悪魔に魅了されていた。
止まれない。止まれるはずがない。次は、次はなんだと足取りは軽く進む。
そして一夏が辿り着いたのは行き止まりだった。そこには大きな簀の子の様な、頑丈な木の板があり、更にその上にはお皿の上に置かれているお菓子があった。
しかし、今までとは違い、時間が掛かるお菓子だった。
ぐるぐるペロペロキャンディーだ。
チュッパチャップスで噛み砕かずに舐めて30分弱。ならばコレはどれほど時間が掛かると言うのか。
お皿の前で少し考え始めた一夏。持って帰ればいいモノを、いやそもそも拾わなければいいモノを、しかし、一夏はそうは考えなかった。
きっと、このキャンディーを食べ終わると、棒にヒントが書かれていて、次の進行方向を教えてくれるに違いない。
まだ食べるのか。止めるものは誰もいなかった。
そして、一夏が目を閉じて悩み始めた時―――。
ガシャーン!!
―――上から降ってきた金属で出来た檻としか形容できないモノに捕らわれた。
フォークリフトが板の底から檻を持ち上げ、トラックの荷台に乗せられた。
「んぇ?」
悩み抜いた結果、とりあえず手に取ったキャンディーと、いきなり暗くなった板の上。そして、揺れる地面。
誘拐輸送されていた。
しかし、一夏はそうは考えない。その向こう側を考えていた。
これは正解した結果の移動手段だ!
そんな向こう側なんて存在しないわけだが。真っ暗で揺れるトラックの荷台の中で、一夏はぐるぐるペロペロキャンディーを舐め始めるのだった。
千冬は内密に会場を飛び出した。スタッフの制止の声も聞かずにISを身に纏い空を駆ける。随時更新されるドイツから提供されるデータを受信し、捕らわれているであろう地図の範囲が移動しながらも狭まって行く。ほぼ地図の円形の真ん中を目指して直進する。
一気に行かなければ相手に知れ渡ってしまい一夏も危ないかもしれない。焦燥感が千冬を襲うが、助け出すことだけを考え進む。
会場では決勝の相手があと数十分でエネルギー回復と言ったところだった。犯行グループからの追加の要求や指示などがないため、まだ千冬が会場を抜け出した事は気付かれていないだろう。
地図の更新が終わる。示されたのは港の貨物倉庫付近。数台のトラックが並ぶのを上空に到着した千冬は確認した。
千冬は一見普通に見えるが、違和感のあるトラックを見つけるとブレードを片手に冷静に観察し始める。
千冬が怪しいと睨んでいたトラックの荷台が開かれ、作業着姿の女が荷台に乗りこみ、また閉じられる。そして数分後―――。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!」
ISのマイクが拾ったのは反響する一夏の声だった。トラックの荷台にいるらしい。千冬はイグニッションブーストでトラックに突貫した。
どこかに着いたらしい。もう少しでキャンディーも終わってしまうと言ったところ。一夏は止まったトラックの中でじっと待っていた。少し不安になってきたのだ。実はお菓子のグルメレースとかではなく、誰かに迷惑を掛ける事に首を突っ込んでしまっているのではないかと。まさしくその通りだった。
キャンディーも食べ終わり、棒だけが一夏のもとに残るが、これまでの事を思い出す。学校から急いで帰ってお菓子を食べ始めたが、そもそもなぜ急いでいたのか。
「お姉ちゃん……」
そうだ。姉である千冬を見る為に急いでいたのではなかったか。
ガチャン
「っ!!?」
いきなり眩しくなる荷台の中。誰かが入ってきた。いきなりの光に目がくらみ一夏には見えなかったが、声から察すると女性だった。
「ふふふ、もう少しで決勝が始まります。結果次第ではあなたは解放してあげますよ」
(決勝? ……モンドグロッソ!! やっぱりお姉ちゃんの……)
一夏は光を手で遮りながら理解した。すぐにまた閉じられた事により暗くなるが、オレンジ色の光が生まれる。荷台の中にも照明があったようだ。
檻の中に女性は入ってきて、一夏の手を易々と掴みあげた。一夏はびくりと身体を震わせると、女性は厭らしく笑みを浮かべながら喋りだす。
「あら、本当に軽い。お菓子に釣られるなんてありえないと思ってたけど、ふふふ、本当に、ふふふ……」
一夏は恐怖した。しかし、目の前の自分の腕を掴んでいる女性にではない。
初めてお菓子に恐怖した。
誘惑し、魅了し、籠絡させる悪魔の食べモノ。
一夏はジワリと涙を溜め、嗚咽を零しながら、
哭いた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!」
「ふふふ、泣いてももう遅いのに。あなたはこれから―――」
ズドンッ!!!!
一瞬トラックが傾く。その横上からの衝撃に驚くも、光が差し込む。コンテナの外壁と檻が抉られ、外が見える状態になっていた。
「一夏!!」
「お、お姉ちゃん!!?」
「織斑千冬だと!? ど、どうして!!? ぐっ……」
一撃で沈む女性。手加減はしたらしいが、気を失ったようだ。
「お、お姉ちゃ~ん……うぅぅぅ、わぁぁぁぁぁぁんっ!!」
「もう大丈夫だ。頑張ったな一夏」
一夏はお菓子が怖いと泣き、千冬は一夏が攫われて怖い目にあっていたと考え宥める。千冬の勘違いが解けるのはそう長くの時間はかからなかったが、ここでは割愛する。
「お、お姉ちゃん。大会は?」
「ふ、負けだろうな―――私だ。弟を無事確保した。協力感謝する」
千冬はそのまま通信をして、一応は会場に戻る事を一夏に伝え、一夏は家までお姫様だっこで送られるのだった。
「ではな、すぐには帰れないだろうが、メールをする」
「うん……ごめんなさい」
「気にするな」
千冬は飛び、一夏が家の中でテレビを見ると不戦勝の優勝者が、少し納得がいかない面持ちでインタビューを受けていた。
日本側のスタッフチームはこの結果を重く受け止めつつも、千冬からの通信から問題は無くなったと判断し、報道に応じ、全てを伝えることにした。親族の誘拐事件があった事を全て。
そんな報道の直後に五反田 弾から一夏あてに電話が入り、鈴は家に飛び込んできた。安心した鈴を連れて、弾に誘われ五反田食堂に行き、弾のお爺さんからご飯をすすめられ、テレビ報道を見ながら食事をしていると、千冬が会場に戻ってきた様子が伝えられた。
『多くの方にご迷惑をお掛けしたことを心から謝罪いたします』
長く、多い質問のインタビューで、視聴者、応援してくれていた方々やスタッフ、対戦相手に至るまで全てに謝罪をする自分の姉。自分が捕まっていた事でこれほどまで大事になってしまったことに一夏は恥じ入ると共に申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。もう少し恥じるべき事があるはずだが、お菓子とか。それは気にせずにテレビに集中する。
そして、今後の事などを質問されると、スタッフ側が「今はその事は―――」と止めに入ろうとしたが、千冬は言い切った。
『―――私、織斑千冬は、これを以て引退いたします』
「え!!?」
その発言は世界を揺るがした。
人によっては「家族が誘拐なら仕方ない」と見るし、また違う人は「日本代表なんだし、誘拐は警察にでも任せておけばよかった」なんて声もある。
一夏にも取材陣が殺到した事があるが、五反田家に匿ってもらったり、国から報道陣を押さえつけられるまで少し大変ではあった。
他の国にしてみれば、全力で勝てない相手ではあったが、優勝候補筆頭が消えたため、それ以降のモンドグロッソ等の大会は接戦を繰り広げる事になった。
でも、一夏はそんな事は割とどうでもよかった。
引退宣言したにもかかわらず、それ以降帰ってこない姉。
メールのやり取りを始めた最初の頃にかなり千冬に怒られたが、必要な事だと、涙ながらに謝り続けた。
千冬の怒りは『誘拐事件の真相』についてだった。
一夏のお菓子拾い食いグルメレースがバレたのだった。
結局は中学3年になるまでの間、メールでのやり取りぐらいしかなかった。その頃の一夏は少し寂しくはあったものの、次に再開する日の事を夢見て日々を過ごしていった。
そして、中学3年になった頃、姉は一度帰ってきた。ドイツに行っていたらしい。一夏の誘拐事件の情報提供の礼としてそこでIS関連の仕事をしていたのだとか。
そして、しばらくぶりに再会した千冬から最初に言われたのは「拾い食い・過度なお菓子の禁止」という怒りの言葉だった。
しかし、千冬は一夏が一人で生活をしていった事でどう変化したのか、銀行の預金金額や、生活環境などを確認すると、「あれから、よく頑張ったな」と褒めて、お土産で用意していたお菓子の入った小箱を一夏に渡すのだった。
「……えへへ、お姉ちゃん」
「なんだ?」
「ありがとう!!」
感想は随時受付中。
誤字脱字報告もありがたいですよー。というか今回は加筆修正じゃないから結構あるかも?
また、評価頂けている方、本当にありがとうございます。
めちゃやる気につながってます。
ちょーうれしーよー。