それはある夜のこと。

私は弾薬をひとつ取り出し、月へとかざす。

ほら、あの日と同じ月。

「私」と「友人」の、些細なあの日と、同じ月。

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とある夜の哨戒のこと。

ある夜のことである。

 

 

私は月に数回の、夜間哨戒の任に就いていた。

 

実のところ哨戒と言っても、自分の仕事はただの見張りに近い。

あちこちと飛び回るのはあくまで艦載機の役目であったし、

私の任務は、それの世話係とも言い換えることができるのかもしれない。

 

その艦載機にも、なんの異変はない。

時折時間を告げるかのように、律儀に飛んでは戻るを繰り返すばかり。

当の『世話係』は私一人ではないし、居ても居なくても結果は変わらないように思える。

 

 

 

頬を撫でる風が、思ったよりも冷たいこと。

 

月が半月と満月の間の、何とも言えない中途半端な感じであること。

 

その二点さえ除けば、今夜の哨戒はなにひとつの不満もない。

実に穏やかな夜だ。

 

冷たい夜の風の、その独特な香りは好きであったし、

満月であれば煌々と照りつけていたであろう月も、よく見れば優しく微笑んでいるように見える。

 

 

 

惜しむらくは、そんな日に限って哨戒の任に就いてしまったことだ。

だが、こればかりは言っても仕方がない。

 

敵もすっかり鳴りを潜めていることを考えれば。

ましてこんな穏やかな日にと考えれば、ずいぶんと楽をしているようにも思えてくる。

 

 

 

視界の隅で何かが動いた。

ふと顔を上げてみると、自分のものではない、味方の飛行機が自分の頭上を飛んでいた。

 

何かの伝令かと思ったが、その飛行機は何をするでなく、

ただ私の真上でクルクルと旋回するばかり。

 

はて、なんだろう? と首を傾げるも束の間。

よくよく見れば同じく哨戒中の、友人の艦載機ではないか。

 

 

 ははぁ、あいつ。さては独りが寂しくなったな?

 

 

艦載機をこんなことにまで使えるぐらい、余裕があるのも事実だ。

その艦載機は、こちらが気づいた事を悟ってか、東の方へと引き返す。

 

私はそれを手を振って見送り、

手持ちの艦載機が戻ったら飛ばしてやるか、と頷いた。

 

だが、見送ったはずの友人の艦載機は途中で反転し、

そしてまた私の頭上で、クルクルと回り出す。

どうやら着いてきて欲しいらしい。

 

仕方のない奴め と、こっそりほくそ笑んだ。

 

頭の中で、今夜の自分の担当位置と、友人の担当位置を思い出す。

すぐ隣だ。 往復だけなら、ゆっくり向かっても15分とかからない。

 

わかったわかった、と手を振って東へと歩を進める。

友人の艦載機もまた、ゆっくりと東へ。

 

 

 

友人の艦載機は相も変わらず、私の頭上を飛んでいる。

それを目で追っている内に必然、空を見上げる形になった。

 

 

 へぇ、キレイじゃん。

 

 

方角を知るために多少見ることはあったが、

ただ星を眺めるなぞ、ここしばらくなかった気がする。

 

北の七つ星以外の星のことは分からなかったが、ただ漠然と。

そしてあの星とあの星を、と繋げてみたりもした。

 

大きく輝く星を3つ繋いで、できた。と、ひとりほくそ笑む。

 

小さな星の集合体を艦載機に見立てて、近くのあの星、アレはあの娘。とも。

 

 

 

そうこうしている内に、艦載機がゆっくりと降りてゆく。

それを追えば、必然、友人。

 

友人もこちらに気づいたのだろう。

私には笑みを見せたが、艦載機へは『余計な気を回すな』とばかりに困った顔を向けていた。

 

 

 よっ、なんかした?

 

友人は、いいや。と言いかけた後、

腕の艤装を見せて言った。

 

 

 弾が詰まってしまったらしい。悪いが少し見てくれるか?

 

 

はて、弾詰まり程度なら、自分がここ来る間にでも直せそうなものだが……。

 

 

 あー、なるほどなるほど……オッケー、見せてみ。

 

 

友人のそれは、自分のそれとは細部こそ違ったが、

案の定、その艤装自体には何の異常もない。

 

こちょこちょっと弄ったふりをして、弾薬を1つだけ抜き取ってやる。

ほい取れた。と言って友人の肩を叩いた。

 

 

友人は、ありがとう、助かる。と言って、腕の艤装を確かめる。

 

そして腕をおもむろに伸ばして、バーン。と一言。

もちろん、火器は火を噴いてはいない。

 

 

 当たったか?

 

 いや、外したようだ。

 

 

どこを狙ったかも分からなかったが、友人は静かに笑っていた。

 

 

照準も直してやろうか? と、いたずらっぽく顔を覗き込めば、

大丈夫だ、だが次は当てないとな。と、友人は顔を赤くする。

 

 次は、当てないとな。

 

そっぽを向いて、小さく、もう一度。

 

 

 

 

その時だった。

東の空が、突然光る。

 

 

もう朝か。

 

いや、違う。 光るのは、赤と黄色の流れ星。

 

 

それが味方の放った照明弾だと理解する前に、

友人は星へ向かって駈け出していた。

慌てて、私も。

 

 

 

 

 

 

 

赤と黄色。

あの照明弾の色の組み合わせの意は、なんだっただろうか。

思い出せない。

 

だが北から、母港からは確かに警報が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

駆けながら、アッと気づいて右手を開く。

 

弾薬、1つ。

 

それを確かめてから、私は自分の艤装に目をやる。

 

 

――弾詰まりは起こしていないだろうか。

 

――照準は大丈夫だろうか。

 

 

私の? それとも、友人の。

自分で発したその問いかけに、なぜか答えられない。

 

 『大丈夫だ』

 

その一言すらも、聞こえてこない。

 

 

 

私のすぐ横へ、何かが飛んできた。

それは自分のそれよりも強く、海面を叩き、私の顔を濡らす。

 

 

まだ自分の射程の、外だ。

撃ってもまだ、当たらない。

 

 

腕を伸ばす。

 

そして、バーン、と一言。

 

火器は、火を噴かない。

 

 

 次は、当てないとな。

 

 

私はそう言って、震える腕を構え直す。

シッカリと、射程の向こうに照準を合わせて。

弾薬を、ギュッと握り締めて。

 

 

バーン、という声と共に、私は1つ。砲を撃ち放った。

 

 


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