勇者アデルとその仲間たち   作:うばたま

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リゼットのおはなし6

 ナジミさんは、オルテガ様のお供に旅をしてきた功績で、ご本人が望んだ、「塔の管理人」の仕事を得られたのだそうです。死ぬような思いで戦ってこられたのですから、引退してごゆっくりされてもいいと思うのですがね。

 この塔は、灯台の役目をしており、頂上では昼夜炎が焚かれています。それがナジミさんの主なお仕事なのだそうですが、そんな重要な塔なので、常に警備の兵士がアリアハンから来られています。彼らは主に一階で交代で寝泊まりしているようですが、ナジミさんがいる上階にも、一応仮眠所があります。私たちは、今夜はここに泊まることになりました。

 仮眠所なので、大部屋に簡素なベッドがあるだけですが、これはかなり助かりました。やっぱり、たまにはベッドで眠りたいですから。たとえ男性と同じ部屋だとしても、です。

 

 オルテガ様のお仲間だったナジミさんは、あのパーティーの生き残りの一人でした。

 「わしらがオーブの情報集めをしている間に、オルテガ殿たちはちょっと様子を見ると言ってネクロゴンドに向かわれてな。そこで魔物に襲われ、戦っているうちに火山の火口に落ちたそうだ」

 ナジミさんはそう言って、悔しそうに俯きました。一方で、アデルさんはご自分のお父上のことだというのに、これといった反応は見せません。その様子を、シアンさんが少し不快そうに見てました。

 シアンさんは、あまり口には出されませんが、英雄だったお父上、人々のために戦っておられたサイモン様のことをとても尊敬されてます。同時に、同じく人々を守ってきたオルテガ様、そのお子であるアデルさんのことをすごく意識されているようです。

 そのアデルさんは、あまりオルテガ様のことを意識されてないようなのです。一度シアンさんが怒ってどう思っているのか尋ねられた時も、「すごい人だと思う」とだけ返されてました。

 アデルさんはあまり感情を露わにしませんが、嘘はつかない人です。おそらく、お父上を尊敬されているのは確かなのでしょう。ですが、おそらくですが、アデルさんから見て、オルテガ様は遠いご先祖様のようなものなのではないでしょうか。幼い頃数度しか会っていないと仰ってたし、それならば、尊敬はしても、親しみは感じません。

 

 ともあれ、塔の管理人ナジミさんのお話はそれだけではありませんでした。肝心なのは、例の旅の扉の封印です。

 私は何となく嫌な予感がしていました。というのも、アギレさんの態度があまりにも余裕のあるものでしたから。ということは、アギレさんは、封印をかけたのが誰なのか、ご存じなのではないでしょうか。

 「じじい。お前は知ってるんだろう。封印をかけたのが誰か」

 「レーベにいる、けちな魔法使いさ」

 煙草に火をつけた後、ナジミさんがゆっくりと言いました。

 「ロマリアを内偵していた≪草≫が、ちょっとした情報を掴んでな。ロマリアには今、魔物の他に厄介な連中が荒らし回ってやがる」

 後から教えていただきましたが、≪草≫とは、スパイのことだそうです。

 「確かなのか、それ」

 「バコタが掴んできたから、確かだろうよ」

 「何者だ、そいつら」

 「盗賊カンダタの名前は、お前も知ってるだろう」

 その名前を聞いた瞬間、アギレさんの顔から笑みが消えました。

 「カンダタ一人なら、まあただの強いおっさんだがな。最近は奴の盗賊団もかなりの規模になってやがる」

 私には、カンダタという人が誰なのかもわかりませんが(よくない人だということだけはわかりました)、結局、そのことと、扉の封印の関係がよくわからないままでした。

 

 私が詳しい経緯を聞いたのは、次の日の朝、この塔を出てすぐのことでした。

 レーベにいる魔法使いの方は、もともとナジミさんたちのお知り合いだったようです。王様の命令で勇者のお供をするようなナジミさんですから、凄い封印をかけることのできる魔法使いとお知り合いというのも、考えてみたら有り得なくはありません。

 二年前、世界のあちこちで、様々な事件がありました。その混乱に乗じて、ロマリアではカンダタという人の立ち上げた盗賊団がかなり勢力を伸ばしていました。

 略奪や誘拐、時には人をも殺すその盗賊団は、もともとロマリアにいたわけではなく、バハラタという都市に拠点があったようですが、とうとうロマリアにも支部を作ってしまったのです。

 ロマリアに腰を下ろした盗賊団が、次に狙うのは、豊饒な大地を持つアリアハンでしょう。しかも、二年前のロマリアの魔物がアリアハンにやってきた時、タイミングが悪かったとはいえ、一つの村が半壊するほどのダメージを受けたのです。盗賊団相手に、アリアハンの戦士たちが苦戦することは間違いないでしょう。

 魔物と盗賊団、その二つを相手にできるほどの強さがないアリアハンは、ここで苦肉の策を取ります。旅の扉の封印です。

 

 

 

 「では、旅の扉を封印したのは、国の政策だったのですか」

 レーベに戻った私たちは、老魔導士の家でだされたお茶を飲みながら、驚いて目を丸くしました。

 「その通り。ロマリアの盗賊団も、多少勢力が収まってきたから、そろそろ解こうとは思っているが」

 驚きましたが、理屈はわかります。あの被害を見れば(私は実際には見ていませんが)一時的に封鎖する手段が悪いとは思えません。確かに、商人の方々は困るし、私たちも買い物に不自由はしたでしょうが、命を取られるよりかはましです。ですが、なぜその事実を公にせず、隠す必要があったのでしょう。

 「ロマリアへの弁明だよ。≪何者かが封印をかけました。犯人は捜していますが、こうなるのも無理はないです、そちらの失態のせいで、こちらは村一つ半壊したのですから≫とでも言えば、ロマリアは突如の国交断絶にも大きく言えなくなる」

 私は何となく居た堪れない気分になりました。ロマリア人として申し訳ないという思いでしょうか。私が何かしたわけではありませんが。

 「国の政策だと言うなら、なぜ前国王は退位を迫られたのでしょう」

 「国の政策というより、現国王の判断だな。黙ってた理由の一つに、前国王へのいちゃもんもある。あの狐、ロマリアが不穏になる直前に大量に鉄を仕入させてたぞ。そこの防具屋と手を組んでたんだろう」

 彼が言ったお店は、最近急激に伸びた防具屋でした。あそこは確か、偶然にも旅の扉が封印される前に鉄を大量に仕入れたことが幸いだったと言ってましたが、偶然ではなかったようです。

 でも、それでは前国王は陥れられたのと同じではないでしょうか。

 「ここで狸も黙ってはいない。その封印を、自分が見出した勇者一行に解かせることで、株を上げようという魂胆だ」

 「表向きは、≪何者かが封印をかけてしまい、アリアハンにはどうしようもない≫ですからね」

 お茶のお代りを持ってきてくれた青年が、そう言いました。

 「なんだ、バコタじゃねえか。お前こんなとこにいたのか」

 「久しぶりだな、アギレ」

 バコタさんとおっしゃった男性は、そう言ってアギレさんに微笑みかけました。何でしょう、このお名前には聞き覚えがあります。

 老魔導士も、バコタさんも、当初は王弟派、つまり現国王派だったようですが、それもこの二年で変わってしまったようです。お二人を変えたのは、今のアリアハンの在り方と、ナジミさんでした。

 「確かにあの時は必要だと思ったから封印をかけた。ところが、その結果生まれた失業者に対して国は何をしてくれた。何かするどころか、自分たちはちゃっかり裏で儲けて私腹を肥やし、知らんぷりだ。しかも、希望の勇者にも何も協力するわけじゃない。そのくせ、勇者が活躍すれば、でかい面でアリアハンの権利を声高に叫ぶのは目に見えている」

 おまけに、彼らはアリアハンに秘密裏に追われているのだそうです。何しろ、知られたくない秘密を知っているうえ、それを解くことだってできるのですから。そりゃ、反旗も翻すでしょうね。

 そして、バコタさんの予想は当たるでしょう。そのために、「援助」でアデルさんにお金を渡したわけですし。……五十ゴールド。仮に、後ほどアデルさんがバラモスを倒し凱旋しても、アデルさんの性格上、言いはしないでしょう。「援助金はたったの五十ゴールドでした」なんて。しかも、その名目が「父の跡を継ぐため旅立つ」わけで、一言もバラモス討伐とは言ってないのです。魔王側への言い訳も用意している辺り、抜かりはないようです。ですが、これでは、アデルさんがあまりにもいいように使われ過ぎじゃないですか。

 当のアデルさんは表情一つ変えてはいませんが、私は妙な苛立ちを覚えました。

 もやもやとした、嫌な感じのものでした。

 

 

 魔導士の方は、魔法の玉とかいう大きな玉をくださいました。丸い玉で、紐が出ています。「魔法の玉」なんて名前なのに、なぜかこの玉からは、魔力が一切感じ取れなかったのです。

 「これで封印が解けるのですか?」

 私は思わず尋ねましたが、この魔法の玉、実は軽々しく持つことが怖くなるくらいに、それは恐ろしいものだったのです。

 

 

 レーベの南西に、その洞窟はありました。私も一度足を踏み入れたことがあるので覚えています。あの時は大きな神殿でしたが、今はもう寂れており、近くにあったはずの村も、寂れて昔の影はありませんでした。

 「改めて見ると、大きな神殿ですね」

 この中の奥に、以前使った旅の扉があります。今は、その前に大きな壁が遮っていますが。

 この壁は、確かに固いものでした。試しに落ちていた石で叩いても、びくともしません。アデルさんとシアンさんは、お二人でメラを投げつけていましたが、やはり、びくともしませんでした。

 「これは燃えにくいものなんだ」

 アギレさんがお二人にそう言っていました。燃えにくい、ということは、燃えることは可能なのでしょうか。

 「この神殿といい、旅の扉といい、あの地下道といい……。アリアハンは手に余るものが多すぎだ」

 アギレさんがいう地下道とは、レーベ南の社から、灯台へと続くあの地下道のことです。あの地下道は、アリアハンの地下室、そしてアリアハンの最東端の森へと続いています。しかも、かなりの短時間でそこへ到達することができます。おそらくは、旅の扉に似た仕組みになっているのでしょう。

 アリアハンの国民の多くは、あの地下道の存在を知りません。王族の一握りと、アギレさんたちのような、王家の重要な任務に就いてる方、ごく限られた人しか知らないのだそうです。

 「あんな地下道が、今の技術で作れると思うか?」

 その台詞は、以前も聞いたことがあります。あれは、確か小さなメダルを見た時に言われたものでした。

 「今の技術では到底作れない。けれどここに確かに存在する。では、誰が作ったのでしょうか」

 「さあな。だが、これらはヒトの手によるものと言えるのかな」

 そう言って、アギレさんは懐から、預かっていた魔法の玉を取り出しました。

 「それも不思議ですよね。どんな魔法使いにも解けない封印を、こんな小さな玉が解けるなんて」

 「ああ、こっちは不思議でも何でもないぞ」

 アギレさんはそう言って笑いました。

 「実を言うと、あの封印は、物凄く単純なんだそうだ」

 アギレさんによると、あの封印は、ただ固い壁をあそこまで持ってきた、それだけに過ぎないのだそうです。封印だと思ったのは、壁に薄く魔力を流しているから、魔力を持つ人は、これが魔法による封印だと勘違いしてしまうのです。

 「でも、こんな固く、大きな壁をどうやって……?」

 「この壁はここで作ったんだ。水、火山灰、砂、砂利、石灰、粘土……あとは何だったかな?それらをバコタ秘伝の配合で混ぜ合わせて、固めたものがこれだ」

 ……どれも、魔法とは縁のなさそうなものばかりです。

 「こっちの≪魔法の玉≫もそうだ。名前はこんなだが、魔法なんか一つも入ってねえぞ。硝石、硫黄、炭とその他いろいろを詰め込んでるだけだ」

 「それをどうするのですか?」

 「見てりゃわかる」

 アギレさんはそう言って、魔法の玉についていた紐を、カンテラの火に近づけました。

 「そんなことしたら燃えて……」

 私が言い終わる前に、アギレさんは魔法の玉を壁に向かって放り投げました。

 その瞬間、大音量と共に視界いっぱいに煙が広がりました。あまりの凄まじさ、けたたましさ、そして妙に不安を誘うその音に、私は思わず隣にいたアデルさんの腕にしがみついてしまいました。

 アデルさんは私の手を振り払うことなく、私の前に一歩出ました。

 もうもうと立ち込める粉塵が地面に落ちるまで、たっぷりの時間を有しました。とりあえず、私たちの身に何か起きているわけではないようです。少し煙いですが。

 視界がようやくくっきりしてきた頃、私たちはあっと声を上げました。

 先ほどまで立ちふさがっていたあの壁が、強固なあの壁が、跡形もなく消えていたからです。

 

 

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