勇者アデルとその仲間たち   作:うばたま

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ジルダの独り言2

 ロマリアに着いたあたしたちは、のほほんと待ってるわけではない。

 まず、アリアハンのあの好事家。あたしはメダル親父と呼んでるけど。何考えてんだかわからない、あの変わり者から頼まれた革製品の取引に入る。あんな変人でも、商売人としてはしっかりしたもので、ロマリアに卸す革製品をたくさん預かってきた。

 相手は、あの変人が長年付き合ってきた商人たちだとかで、メダル親父からの手紙を渡すと、すぐに代金を用意してくれた。

 「いやあ、今後はまた陸路で商いができますなあ」

 そう言ってホクホク笑ってたけど、手紙にはなんて書かれてたんだろうね。

 陸路ってのは、閉鎖された旅の扉のことだろう。アデルたちは、あそこを使ってこちらに来る予定だ。もし封印が解けなかったら、それは、あいつらがくたばっちまった時だけだろう。

 まあ、アギレがいるんだからそれはないだろうけど。

 結局、あたしたちがロマリアに着いて二週間ほど経ってから、落ち合う予定の宿屋に、アギレたちがひょっこり顔を出した。ひい、ふう、みい……、ああよかった。きちんと揃ってる。アギレとアデルはともかく、あのお坊ちゃんお嬢ちゃんはひょっとしたらと思わないでもなかったんだが、元気そうだ。

 特にリゼットは、何というか、顔つきまで変わってしまっている。

 以前はおどおどした小動物みたいだったのに、何があったんだろうかね。

 

 「あの、アギレさん」

 その日の夕食時に、リゼットがおずおずと切り出した。ちょっと前まで、アギレ相手なんか、恐ろしくてろくに話も出来なかった小娘が、成長したもんだ。

 「どうした?」

 「あの、一度修道院に顔を出して来てもよろしいでしょうか。その、いろいろ報告しなくてはいけないことが……」

 「ああ、そうだな」

 アギレは頷き、隣にいたアデルが立ち上がった。

 「送っていく」

 「い、いえ。そんな、すぐ近くですし」

 「送ってもらいな。もうこの辺りは二年前と違って治安が悪いよ」

 これは本当だ。大盗賊カンダタ組の登場で、巷では空前の犯罪ブーム。魔物やなんやらで不安なご時勢もあって、悪人の増加は凄まじい。リゼットみたいなのは、ものの数分でさらわれ、売り飛ばされるだろう。

 「俺も行く」

 シアンが、仏頂面のまま立ち上がった。こいつは意外だ。自分から言った割には、妙に不機嫌そうだし、一体何考えてんだろうね。

 「じゃああたしも行くか。ちょっと飲み過ぎちゃったみたいで、夜風に当たりたいし」

 あたしがそう言って立ち上がると、リゼットは少し困った顔をしながらも、微笑んで頭を下げた。

 何しろ、男子はほぼ禁制の修道院だ。あたしみたいなあばずれでも、女がいた方が、多少なりとも警戒されないだろう。

 「す、すみません、みなさん」

 あたしはどうもこの子に甘いようだ。以前アギレにも言われたけど、まあそこは仕方がない。ちょっとばかし、この子には縁がある。この子は覚えちゃいないだろうけど。

 「気をつけてな」

 豆の煮込みをかっこんでいたセトが軽く手を上げた。エディはロマリアのワインが気に入ったのか、油漬けのオリーブと共にちびちびやっている。イオリは酒が全く飲めないらしく、食後のお茶をのんびり啜っていた。

 

 「どうだった?久々のロマリア料理は」

 「すごくおいしかったです!幸せでした」

 そう言ってニコニコ笑うリゼットは、本当に幸せそうだ。道中はまともな食事をしていなかったのか、二週間前に比べて少し痩せている気がする。この子には辛かっただろう。見た目に反して、割と食い意地が張っているこの子には。

 そういえば、リゼットは以前はアデルに苦手意識を持っていたようだが、それもすっかり消えてしまったようだ。食事中も、気安くアデルに声をかけ、他愛もない話を振っていた。ま、これはお互いにもいい傾向かもしれない。二人とも、同年代の友人はあまりいなかったようだから。

 同年代といえば、このシアン坊やもだが、こいつは、やはり打ち解けていないようだ。こいつも、いいかげん意地張ってないで素直になりゃ、もっと強くなれると思うけどねえ。

 

 

 マンダリーナ修道院は、この辺りじゃ由緒正しい建物で、かなりでかい。ロマリアでは一番評判のいい修道院だと聞いたことがあったが、リゼットを見る限り、それは正しかったようだ。

 確かに、あのろくでもないお姫様に、いいように使われちまってはいたが、それでも、世の中には、預かった子供たちに無茶な労働を押し付けるわ、虐待するわ、はては女衒の真似をするような修道院がごまんとある。そういうのに当たらなかったのは、幸運だろう。

 このご時勢とあって、正門は厳重に閉まってはいたが、リゼットが名乗り、用件を言うと、すぐに修道女の一人が出てきて、通してくれた。

 応接室に通された後、リゼットは一人院長室に行ったらしい。例の「お姉さま」とやらのしでかした一連の出来事を報告しているんだろう。

 あの子は、アリアハンにいる頃は、ここに来れば誰かに代わってもらえると思っていたようだが、今はどうなんだろう。さっきの態度を見る限り、それは無理だと悟っているんじゃないだろうか。

 あの子は自分でも気づいていないが、相当な才能の持ち主だ。魔法だけじゃない。剣技を教えていたイオリによると、かなりの腕前になっているようで、そりゃ城の兵士並とは言わないまでも、その辺の男には負けないんじゃないかということだ。

 実際、あの子はアリアハンからロマリアまで、ここまで生きてやってきた。途中、何度か魔物と遭遇しているだろうに、それらを乗り越えてきた。これは結構すごいことだ。その代理が務まる人間は、あまりいないはずだ。

 その後、リゼットと、院長とやらがやってきて、挨拶をした。

 院長は、あのお姫様がしでかしたことで、何度もこちらに頭を下げてきた。この人が悪いわけじゃないんだが、もしかしたら、こうなることは予感してたのかもしれない。

 ドアの向こうでは、好奇心を抑えきれない娘たちが何人かちらほらと覗いている。彼女たちがもっぱら興味があるのは、アデルとシアンだろう。どっちも、顔立ちがいかにも小娘の好みっぽいから。

 リゼットは、今夜は修道院に泊まることになった。妹さんは今もこの修道院にいる。二年ぶりに姉妹が再会するのだ。積もる話もあるだろう。

 あたしたちは快くそれを受け入れ、宿に戻ることにした。リゼットが見送りしている間、二回、リゼットの知り合いに話しかけられた。

 「ねえリゼット。さっき聞いたのだけど本当なの?その、サブリナ様が……」

 彼女たちは、ちらちらとアデルやシアンを見ながらも、好奇心を抑えきれないといったようにリゼットに尋ねた。

 「ええ、本当です。サブリナお姉さまは、ここからアリアハンに向かう旅の途中、勇敢にも魔物と戦い、名誉の戦死を遂げられました。お姉さまの意志は、私が継ぎます」

 事務的に返す言葉に、納得した。なるほど、やっぱりこういう方向に話を持って行くわけだ。そして、さりげなくリゼット続投か。

 そりゃ、王族の一員でもあるお姫様が、旅も始まってないうちから、尻尾巻いて逃げましたなんて、到底言えないわな。おまけに、妻子持ちの男をたらし込んで。

 「そ、それで、どういう風に……?」

 お気の毒、とか言いながらも、彼女たちの顔には、悲壮感が全く漂ってない。恐ろしい怪談を聞きたがるようなノリだ。つまり、他人事。相当嫌われていたんだろう、そのお姫さまは。

 「お姉さまは……」

 一呼吸おいて(たぶん、考えてるんだろう、設定を)、リゼットは言った。

 「キャタピラーに、頭からバリバリ食べられました」

 途端に悲鳴が上がった。これは刺激的すぎるよ。すごい設定にしたもんだ。もうちょっと綺麗な死に方を考えてはやらなかったのか。どうやらこの子の、「お姉さまお慕い」病も、キレイサッパリ治ってしまったらしい。

 

 

 あたしたちが修道院から戻ってくると、アギレとイオリ、エディが地図広げてあれこれ話していた。その横で、セトがいびきかいて寝ている。

 リゼットが修道院に泊まると話すと、アギレは「そうか」と頷いた。「どうせ、明日は謁見だ。それも昼からだし、ゆっくりしてるといい」

 「謁見。そういえば、そうか」

 あのお姫様は死んだってことで報告しなくちゃいけない。王様はさぞかしほっとするだろうよ。それにしても、これで、リゼットの「お姉さま」は、完全に死んだものとして扱われるわけだ。たとえロマリアに戻ったとしても、もう彼女に居場所はない。修道院も受け入れない。どこの馬の骨かもわからないのに、王族に成りすまそうとする不届き者として扱われるだけだろう。彼女はその辺をわかっているのだろうかね。

 謁見には、アデルとシアン、リゼットが出向くことになった。リゼットは一応お姫さまの代理だからね。

 

 

 

 次の日の謁見を終えたアデルが、とんでもないことを報告してくれた。

 お姫さまの訃報と、その代わりをリゼットが引き受けるというのは、すんなり通った。そこは問題ない。

 封印の解除は、こちらはいたく喜んでくれた。何でも、あの封印になぜ魔物が大量に迷い込んできたかというと、巷を騒がせている盗賊団が、あの辺りを通る商人たち、その積み荷を襲ったことが、そもそもの原因らしい。

 襲われる商人たちと、その護衛が、盗賊どもと激しく争い、騒ぎに駆け付けた警備の兵士も加わったが、何しろあちらは数が多い。それに、相当な手練れが揃っているらしく、苦戦を強いられた。その騒ぎのさなか、魔物まで現れたから大騒ぎだ。結果、手薄になった神殿内に魔物が入り込んだ。

 ロマリアも、アリアハンも、あの関所は複雑に入り組んだ神殿になっているから、一度迷い込むと見つけ出すことは困難だ。しかも、旅の扉を使われたりすれば、特に。

 そうこうしている間に、魔物たちはアリアハンに流れ込み、あっという間に分散してしまい、ロマリアではもう、どうすることもできなかった。

 アリアハンは大打撃を受けて封印してしまうし、盗賊団は日に日に大きくなるし、周辺の魔物も活発化するし、遠いアリアハンとは連絡もままならないし。

 結果として封印はそのままに、二年の歳月が流れた。

 アリアハンの商人たちも大打撃だったが、それはロマリアも同じだったらしい。

 その封印を、アリアハンの勇者が解いたということで、問題はまあ一応の解決を見ることができる。一度修繕をきっちり行い、警備を強化しさえすれば、再び旅の扉は解禁される。そうなれば、また交易は再開。商人は潤い、旅人は行き交い、その周辺の宿や飲食店は活気を取り戻す。

 ……ある問題を除いては。

 そう、全ての原因ともなった、盗賊のことだ。

 そこで、アデルは今までも何度も出てきた、はた迷惑な盗賊野郎の討伐を命じられたのだそうだ。非公式な情報だが、盗賊たちは数日前に王宮に忍び込み、国王の冠、公式の場では必ず身に着ける、純金の王冠を持ち去ったらしい。とんでもないことしでかすもんだよ。

 これやられちゃ、ロマリア王家としても、国の威信にかけて捕まえないわけにはいかない。けど、今のこの状態で、自国の兵士はできるだけ使いたくはない。魔物の動きは日々活発化してるし、何が起きるかわかりゃしないのだから。

 そこへ来た勇者。世界のため、人類のために己を犠牲にして戦う勇者、その存在が来れば、そりゃ渡りに船だろう。幸い、カンダタの野郎が金の冠を盗み出したことはまだ公には知られていない。今の間なら、こっそり取り戻せば、王家の名前に傷がつく必要もない。いい気なもんだ。

 かくして、次の目標はカンダタ討伐。本当は東のイシスに行く予定だが、しばらくはここロマリアにいることになりそうだ。

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