勇者アデルとその仲間たち   作:うばたま

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ジルダの独り言3

 「そういえば、ジルダさんたちは何か用意するものがあったとか……」

 そうなのだ。パーティーが分裂して、あたしたち先発隊は、何もお使いをこなしてただけじゃない。むしろ、こちらがメインなのだ。

 あたしたちは総勢八名。この前みたいに二手に分かれることはまた出てくるだろうが、持つ荷物も半端ない。それに、やっぱり移動手段はあった方がいいに越したことはない。

 というわけで、あたしたちはロマリアで馬車の調達をしていた。でかい幌馬車で、二頭の馬に引かせた大型のやつ。悪天候に備えて白い幌がかけられており、車輪なんかも、一部に鉄を用いている。相当に値の張る代物だが、あのメダル親父の口利きで、格安にしてもらった。それでも、この二年間あたしたちが稼いで集めておいた資金はほとんどなくなったけど。

 馬はどちらもおとなしく、賢い目をした牝馬だった。リゼットがいつの間にか「シトラス」と「ケラソス」って名前を付けてたっけ。

 「あの金額でこれだけのものが用意できるとはなあ。メダル親父に感謝」

 そうは言うけどねぇ。あっちだってしたたかな商人だから、ただじゃ動かない。あたしたちが、確実にあの封印を解くだろうと見越して、ロマリアの鉄問屋に掛け合って、いくつか契約を交わしている。その交渉が、ロマリアでのあたしたちの仕事だ。尤も、交渉したのはエディと、奴が書いた直筆の手紙だけど。

 封印が解かれることを、アリアハン現国王はまだ知らない。知っているのは、レーベにいるバコタだろう。あの野郎は最近元国王派に寝返ったから、きっと元国王には報告がいっている。

 あたしたちがアリアハンに戻る時には(できるかどうかは微妙だが)、国王がまた入れ替わっているんじゃないかと睨んでいる。

 ともかく、これから忙しくなるだろう。封印は解かれても、問題は山積みだ。あのカンダタって盗賊団を始末しておかないと、ロマリア経由で、アリアハンにも盗賊団がやってくる。そうなる前に、あの盗賊どもを片づけるのが、新しい仕事だ。

 

 

 馬車の旅はなかなか快適だが、今はなにぶん気候が悪い。

 「これ、あってよかったよ」

 毛皮のフードをできるだけ前に引き寄せ、あたしは身震いした。馬車の隅で、ソートとメモリーだとかいう大ガラスの雛の世話をしているリゼットも、同じものをつけている。あの雛、ここ数日で羽がしっかりしてきて、最近では飛ぶ練習を始めているらしい。

 「おかげで素寒貧です。せいぜい、カンダタたちが大金を隠し持っていることに期待しましょう」

 「それって窃盗では……」

 「そういえば、カンダタのアジトぶっ潰して、金の冠届けたら報酬もらえるのか?」

 馭者台に座っていたアギレが、隣のアデルに訊いた。アデルは馬車を使うのが初めてなようで、さっきから熱心に使い方を見ている。

 「……具体的には何も。ただ、勇者として認めるとは言ってた」

 「駄目だねえ。もっと具体的に何かもらえるかキチッとしておかないと。名誉で腹は膨れないっての」

 特に今うちのパーティーは貧乏なんだから。

 「いやいや、意外と名声というのは使えますよ。ただより高いものはないと言いますしね。そうですね、例えば勇者なら、その辺の民家のタンスを漁って、中身を持って行くくらいなら、咎められないかもしれません」

 「そりゃ完全な泥棒だろ」

 マントに包まりながら、シアンが突っ込んだ。

 それにしても寒い。王都から北、森に入ると、日差しが遮られて、寒さが余計にしみる。まだ秋半ばだってのに。

 「この辺りは寒さが厳しいですから」

 「そういえば、この辺りはリゼットの故郷か」

 地図を見ながらアギレが振り向いた。道中敵に何度か遭遇したけど、こちとらは今現在八名いる。それほど手こずることはない。でも、進めば進むほど敵は強くなっている気がする。それが気のせいじゃないと確信したのは、でかい蟹の集団に遭遇した時だ。

 「軍隊ガニですね。近くに川があるんでしょうか」

 エディがそう言って腰の剣を抜く。細身の綺麗な剣だ。攻撃力はさほどでもないらしいが、とにかく軽くて使い勝手がいいらしい。

 あたしは腰につけていた棘の鞭を取り出した。この鞭はもともと、例のメダル親父の屋敷にあったもんで、一度メダルを持ってきた時に、もらったものだ。

 

 「ジルダ姐さん鞭なんか使えるのか。割と扱い難しいだろ」

 もらった時、手に取ったあたしを見てアギレが言った。こいつは、いつもあたしのことを姐さんって呼ぶ。同い年なのだが、一か月だけあたしが上なのだ。そうじゃなかったらこんな呼び方はやめさせるんだが。

 「じゃああんた使う?」

 「いや、俺はこっちの方が得意なんでね。使えるなら姐さんが使いなよ。それ、かなり強力だぜ」

 そう言って奴は肩に隠し持ってたナイフを見せた。確かにこいつは戦闘時はほとんどナイフを投げて戦う。一応剣も使えるようだけど。

 「じゃあ使わせてもらおうかな。実を言うとね、鞭さばきは割と得意なのさ。以前の上客に、こういうのが好きな奴がいてね」

 これは本当だ。娼館に来る男の中には、特殊な趣味を持つ者も多い。中でも一番の変わり者は、あたしに鞭でぶたれるのが大好きな奴だった。こっちも、特に嫌な思いもせずにお金をもらえるならありがたいことだから、鞭の扱いもあれこれ試してみたもんだ。奴のお気に入りは、革のブーツで踏みつけられながら鞭で打たれ、罵声を浴びること。これやったら、泣いて喜んでたっけ。

 この鞭には、ちょうどぶつける部分に棘がついている。ただの棘じゃない、鉄製の、かなり鋭いものだ。扱いこそ難しいが、これは相当なダメージになる。あんな、プレイ用の鞭とは似ても似つかない、まごうことなき戦闘用の鞭だ。

 馬車から出ると、既に戦いは始まっていた。戦いの喧騒を聞きつけてきたのか、キラービーってこの土地に昔からいる巨大蜂や、アニマルゾンビが二頭やってきた。

 馬車を出たあたしに、キラービーの一匹がぶうん、と嫌な羽音をさせながらやってきた。

 「この、醜い豚が!」

 しまった。鞭を振う時の癖がつい出てしまった。もう十年以上も前だってのに、慣れとは恐ろしいものだ。

 とにかく、あたしの鞭の一撃でキラービーの羽根はあえなく吹っ飛び、飛べなくなった奴は地面を這いつくばっている。その胴体に、リゼットが、聖なるナイフをぶっ刺した。躊躇してないよ、この子。どうやら、アリアハンでの旅は相当に成長させたみたいだ。

 吠えながら突進してくるアニマルゾンビをセトが蹴り飛ばした。アニマルゾンビって名前の通り、腐ってる獣だから、奴は衝撃で脳味噌と、内臓のいくつかを潰してしまい、物凄く悲しそうな遠吠えをあげながら倒れてしまった。成仏できたんだろうか。

 もう一頭のアニマルゾンビは、イオリが首を剣で跳ね飛ばした。よほどいいところに入ったのか、あまり血は出ない。おかげであの猛烈な匂いはこっちからはしない。セトが倒した方はものすごいことになってるけど。

セトも、本当は武器を持っていたんだ。いかに己の肉体で戦うのが武闘家と言っても、そりゃ武器がある方が強いに決まっている。故郷のイシスで使っていたとか言う鉄の爪、手に装着して使うタイプのその武器があったんだが、以前、ちょっとばかり厄介な敵との戦いで、壊れてしまった。作り直そうにも、アリアハンでは肝心の鉄が高い。手に入っても、武器にできるほど加工する技術を持つ者は、アリアハンではごくわずか。爪ってのは、剣以上に技術を要するものだから。そういうわけで、セトは今現在武器を持っていない。ブーツの先に鉄を仕込んでいる程度だ。本人は何も言わないけど、そろそろ何とかしたいのだろう。お金があればね。

 一方、軍隊ガニと戦っていたアギレ、アデル、シアンは、少しばかり苦戦をしていた。

 珍しいこともあるもんだが、見て納得。奴らの甲羅はかなりのもんだ。まるで鎧を着込んだみたいになっている。鎧と言えば、アデルとシアンは、気の毒に、未だに革の鎧を使っている。鉄がアリアハンより安いからこちらで調達する予定だったのだが、馬車と防寒具買ったら、買えなくなったのだ。軽いからいいなんてアデルは言ってたけど、盗賊たちやっつけたら、何とかしてやりたいもんだ。

 「奴さんたち、固すぎるもんでな。ナイフが折れちまった」

 何とか仕留めたアギレが、ぶつぶつ言った。見れば、ブロンズナイフが根元からぽっきり折れている。

 「アデルに魔法使わせれば?」

 「この森でメラを?」

 確かに。こんな森で考えなしに炎をぶっ放すのは、あまり薦めない。

 アデルは剣で軍隊ガニとなんとか戦っている。どうやら目を狙っているらしいが、奴もそうはさせまじと、凶悪そうな鋏で応酬している。

 シアンは、敵の攻撃をかわしつつ、ヒャドの塊をぶつけた。あの子、ヒャドまで使えるんだ。あの魔法は少々厄介で、かなり使いづらい。あの子も、剣を使うことは諦めて、魔法に専念すればいいのに。

 こちらは効いたのか、軍隊ガニの動きが鈍った。どうやら、肝心の鋏の部分が凍り付いてしまったらしい。

 ろくに身動きとれなくなったその軍隊ガニへ、シアンが鋼の剣を、そのパカパカ開いてる口元にぶっ刺し、体内に向けてメラをブチ込んだ。これなら飛び火はしないだろうね。焦げた匂いが辺りを漂う。これが、魔物じゃない普通のカニだったら、さぞおいしく出来上がっただろうに。

 それとほぼ同時に、アデルが何とか敵の攻撃をかわしつつ、敵の目を潰し、怯んだ相手の胴に、渾身の一撃を叩きこんだ。なるほど、アデルは、このくらいの敵なら、力押しで倒せるらしい。

 騒ぎに不安がる馬をなだめていたエディが、眼鏡を上げつつ「お疲れ様でした」と言った。その足元には、いつの間にこっちに来ていたのか、キラービーの死骸が落ちている。エディがいなかったら、せっかくの馬がやられていたかもしれない。

 「魔物も強くなってきた気がしないかい」

 「その通りです。以前は、こんな強いのはいませんでした」

 聖なるナイフを拭いていたリゼットが、顔を青ざめさせた。故郷の村が心配なんだろう。

 「よし、今日はもう少し進むぞ。できれば、カザーブで休憩したい」

 アギレがいうと、彼女は顔を綻ばせ、次に少し申し訳なさそうにうつむいた。

 「す、すみません……」

 「なあに、どうせなら、このクソ寒い森の中で寝るより、村の中であったかく寝たいもんだ」

 セトが豪快に笑えば、イオリも「それに、干し肉は飽きた」と呟いた。彼は酒が飲めないせいもあってか、割と食い道楽なところがある。この、干し肉と堅パンだけの食生活は、口には出さないけどさぞ辛かっただろう。

 「それに、カンダタの情報も聞けるかもしれない」

 剣を収めながら、アデルが言った。目的地が決まると話は早い。

 「さ、早く馬車にお乗りください、女王陛下」

 アギレの奴、さっきの、しっかり聞いてたでやんの。しばらくはこれをネタにされそうだ。

 

 

 つくづくエディは変わり者だ。

 「見てください、これはとても貴重なものなのですよ」

 先ほど屠ったキラービーの針を抜いて、持ってくるとは思いもしなかった。

 「この毒液です。これに触れると麻痺してしまいます」

 「それは知ってるよ。だから、キラービーが他の魔物ときたら警戒しなくちゃいけない」

 「でも、この毒は、一定時間が経過すれば、何事もなかったように過ごせるんです。つまり、後遺症とかは引き起こさない。これを、医療に利用しようという意見が、今多く出ているんですよ。残念なのは、あまり日持ちしないということですね。こうやって、できるだけ密閉しても、もって数日」

 頭のいい人が考えてることは、よくわからない。あんな毒液が、何の役に立てるんだか。

 「例えば、大きな手術をする時、痛みでショック死してしまう人がいますよね。これを上手く使えば、その痛みを感じないでいられるわけです。その間に手術をしてしまえばいい」

 「ああ、なるほど」

 「でも今はまだ試行錯誤している段階ですね。エジンベアだったら、かなりいい値で病院や大学が買い取ってくれるんですが。せめてロマリア王都なら……」

 まだ言ってる。それにしても、こいつは、もともと何やってたんだろうね。

 

 

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