勇者アデルとその仲間たち   作:うばたま

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ジルダの独り言4

 カザーブは、山間の小さな村だ。ロマリアであんなに犯罪が横行しているのだから、奴らのアジトに近い、こんな小さな村は、さぞ酷いことになっているんだろうと思っていたら、驚くほど村は平和だった。

 リゼットに言わせれば、五年前とそれほど変化はないというのだ。

 「奴ら、あまりに小さい村だから盗むものはないと素通りしたのでしょうか」

 「ありえなくはないですね」

 割と失礼なことを言われているのに、それを気にするでもなく、リゼットが頷いた。

 「基本的にこの村は貧しいんです。農作物もそれほどとれないし、小麦と芋と、この近くで採れる岩塩でもっている村なんです」

 そういえば、リゼットの父親は職人だったとか言ってたっけ。そういった、手に職もってないと、この辺りで生活するのは厳しいのかもしれない。

 「あんた、ひょっとしてリゼットちゃんかい」

 のんびり歩いていると、後ろで農婦と思しきおばさんが、親しげに声をかけてきた。

 「おばさん!」

 リゼットの顔が綻ぶ。どうやら知り合いのようだ。

 「まあまあ立派になって……。ずっと心配してたのよ。あんたたちを引き取ったあの男、実はとんでもない奴だってことがわかってねえ」

 おばさんはリゼットを抱きしめつつ、後ろのあたしたちに気付いたようだ。

 「あ、おばさん。こちらは今、私と一緒に旅をしている方々です」

 「旅……?」

 結局、そのおばさんはリゼットが、村で唯一の宿にあたしたちを連れていく間、ずっとついてきていた。

 

 その間、リゼットはこの村を出てからの話を、簡単にしていたが、結構苦労してたんだね、この子。実の叔父に売り飛ばされそうになって、運良く助かり修道院で暮らしていたとか。

 「今はどうしているの?」

 売り飛ばされそうになって、の辺りで心臓に手を当て、修道院で暮らして、のところで目頭を押さえていたそのおばさんが、あたしたちにもう一度目を向けた。ちょっと警戒している。完全武装しているこの姿見れば、そりゃ何事かと思うわな。

 「今は……」

 リゼットが困ったようにアギレを見る。アギレはコホン、と咳払いした後、見たこともないようなにこやかな笑みを浮かべて見せた。こうやって見たら、この男、なかなか好青年に見えなくもない。

 実際こいつは結構わけわからないんだよね。外見はなかなか男前。サラサラの銀髪に、琥珀色の瞳は、この辺りでは見かけない。長いことアリアハンにいたようだが、アリアハンではあまりない色だ。それに、言葉遣い。乱暴な言葉遣いは、どこか違和感がある。

 下町訛りってのがある。当然下町で育ったやつが使うものだが、中には、あえてその言葉を覚えて使う者がいる。なぜか?自分の生まれを隠すためだ。それに、この言葉を使うだけで、仲間意識も芽生える。

 どうもアギレの乱暴な言葉遣いは、そういった類から来ているんじゃないか。まあ、この旅とは関係のないことだから、触れはしないけど。

 とにかく、何が言いたいかっていうと、アギレがこうしてにこやかに微笑めば、上品で、優しげな色男になるってことだ。田舎のおばちゃんが、思わず警戒を緩めてしまうほどに。

 「はじめまして、マダム。私たちはロマリア国家から任命されて調査に伺いました。周辺の魔物がここ最近やたら力をつけているのでね、その警護も兼ねて。実はリゼットは、修道院で僧侶の修業を積みましてね。僧侶として、我らの旅に協力してくださっているのです」

 やりすぎだ、この野郎。シアンなんか、ぽかーんと、大口開けて間抜け面晒してんじゃん。

 「そ、そうですか……」

 ところが、さすが田舎の純朴なおばちゃんだ。彼女はアギレの微笑みに頬を染めながら、それ以上何も言わなかった。

 まあね、カンダタのことは伏せておいた方がいい。何しろ、奴らのアジトから一番近い村だ。踏み荒らされているんじゃなかったら、次に考えることは、この中に、相当な数の盗賊がいるんじゃないかってことだ。

 しばらくは、カンダタ討伐も、魔王討伐のことも、言わないのが得策だろう。

 

 宿は小さかったが、小奇麗ないい宿だった。こんな田舎の宿だから、食堂も、酒場も兼ねている。むしろ、メインはそちらだろう。

 「リゼットちゃん!」

 宿屋の亭主は、リゼットの顔を見るなり立ち上がった。この男もまた、リゼットの身を案じていた一人なんだろう。

 リゼットがさっきと同じように、簡単にここ五年のあらましを話し終える頃には、宿の中は、中から出てきた親父さんの妻に子に父親に母親に祖父母に従兄に又従兄……とまあ、一族総勢が出てきていて、小さな宿屋は満杯だ。

 「そうかそうか。苦労したんだねぇ……」

 宿の女将さんが、リゼットをぎゅっと抱きしめた。こういう小さな村じゃ、子供は、よその子も、自分とこの子も関係なく育てるのだろう。

 「で、この方々は?」

 「……調査の方々です」

 アデルが、謁見の時に預かった王家のしるしの入った許可証。ロマリアの領内なら、どこでも入ることのできるそれを見せたら、みんな目を丸くした。王家の使いと言っても、さして警戒していないのは、この村が、カンダタとはあまり関係ないからだろうか。

 

 リゼットの父親は、それなりに腕の立つ職人とは聞いていたが、何の職人かは知らなかった。

 だから、この村の鍛冶屋が、駆けつけてリゼットを「お嬢さん」と呼ぶまで、すっかりそのことを忘れちまっていた。

 リゼットの方も、まさか自分の父親が弟子まで取っていたなどとは、知らなかったのだろう。仕事の話は一切しない父親だったというから。

 「親方には、ずいぶんよくしていただきました」

 そういう男は、最近ようやく小さいながらも店を構えられることになったということだ。

 「そういえば、これ」

 そう言って、彼が取り出したのは、驚くことに爪型の武器だった。小手のようなものに、鋭い鉤爪がついている。武闘家たちが好んで使うタイプの武器だ。

 「へえ、これはすごい」

 覗きこんだセトが顔を輝かせた。さすが武闘家、他人の物だとしても、いい武器を見れば心が浮き立つものなのだろう。

 「それにしても、何だって爪?」

 「このカザーブには、伝説の武闘家がいるのです」

 リゼットがため息をつきながら言った。

 「伝説?」

 「当時、この村の近くで恐ろしい熊が現れました。村人の数人が殺され、喰われたのです。人の味を一度覚えた熊は、何度も人間を狙ってきます。村人は、毎日生きた心地がしなかったそうです」

 そういう話はたまに聞く。人を食い殺した熊ってのは、仕留めておかないとまた人を食いに来るそうだ。これって、魔物も同じなんじゃなかろうか。

 「そんな中、村の武闘家が、その熊を退治しました。なんでも、凄腕の武闘家で、恐ろしい大熊を、素手で倒したとか」

 「それはぜひとも見習わないといかんな。やはり、武闘家たる者、己の腕一つでどこまで上り詰めるかを極めねば」

 「……いえ、その逸話は間違いで、実際には、鉄の爪を使って倒したのですよ」

 あらら。逸話ってのは、やっぱりある程度盛られるもんだ。

 「地元では有名なんですけどね、どうもこういうのは派手な部分だけがクローズアップされる。でも、英雄であることに変わりはありませんよ」

 そう言いながら、鍛冶屋の青年はリゼットに鉄の爪が入った箱を差し出した。

 「これは俺のじゃありません。親方が作ったものです。俺も、仕上げのところはお手伝いさせていただきましたがね。親方はあの武闘家に憧れて、仕事の合間にこっそりこれを作ってたんですよ。いつか、伝説の武闘家が使ったような武器を作ってみたいと。本当は、親方が亡くなってからお渡ししたかったんですが、あの時はまだ完成してなくて……」

 人のいい男だ。このことは誰も知らないんだから、こっそりもらっておくこともできただろうに。わざわざ仕上げをしてやり、ずっと持っていたわけだ。よほど師匠を尊敬していたんだろう。

 「え、でも……」

 リゼットは少し困ったようにあたしたちを見たが、確かに今は貧乏所帯のこのパーティーで、この武器は正直ありがたい。それに、セトがさっきからそわそわしている。

 「あ、ありがとうございます」

 そう言って、受け取ったリゼットは、その箱をセトに手渡した。

 「い、いいのか?」

 「私が持っていても、使い道はありませんから。それに、父の希望は、伝説の武闘家が使うような武器を作ることです。父の夢を叶えてあげてくださいね?」

 意外にこの子、男の操縦が上手くなるかもしれない。とりあえず、これで明日からのセトの働きには期待できる。

 

 

 その鍛冶屋の男は、意外にもエディと気が合ったようで、あれからもやたら話し込んでいた。さっきの戦闘で採っておいたキラービーの毒やら、道中で捕まえた兎まで買い取ってくれた。何でも、毛皮が必要らしい。

 「この辺りの名産品にね、兎の毛皮で作ったお守りがあるんですよ。尻尾みたいにこう丸めて。運気が上がるとかで、割と人気なんです」

 兎の代わりに、彼はアギレ用にナイフをいくつか用立ててくれた。さっきの戦闘で、アギレの奴、ナイフを何本かだめにしちまったから。肉はいらないってことだったから、そちらはリゼットが燻製にしておいた。カンダタのアジトまでここから一日ちょいかかりそうだから、これはありがたい。

 この人の好さそうな男に、カンダタの話を探ってみたんだが、意外なことが分かった。

 カンダタがここを襲わないのは、カンダタはこれでも義賊を気取ってやがるからっていうんだ。

 「義賊ぅ?奴らがここ数年でどんだけ人様の迷惑になっていると思ってるんだか」

 「そこなんですがね。どうも、カンダタ親分は引退してしまったらしい。それが二年前のことですよ」

 「そういえば、二年前までは、そんな悪い噂は聞かなかったな。無茶な税金をふんだくる領主とか、貴族が隠してる裏金だとか、そういうのばっか狙ってたし」

 つまり、それまでは、一応一般には迷惑をかけなかった連中が、この二年前に頭目が変わったことで、進路を変更し、やりたい放題、やらずぶったくりで生きる、チンピラ集団に成り下がったってことか。

 「この村に手出しをしないのは、一応はこの村から食料の調達もできるし、酒の調達もできる。お得意様(・・・・)だからですよ。あと、カンダタ親分がこの村を気に入っていたし、顔見知りが多かったのも理由でしょうね。そういえば、あの中にはお嬢さんたちをかどかわそうとした、あのクソ野郎も入っていましたよ。だからみんな心配してたんです」

 確かに、さっきのおばさんも、リゼットの叔父が悪党だってことを知ってたな。

 「あの野郎が、盗賊団の新頭目の腰巾着をやっているところを、村人の何人かが見てるんですよ」

 リゼットがぎゅっと唇を噛んだ。縁を切っているとはいえ、身内に当たる男が、盗賊団の一員でしたってのは、そりゃ辛いだろう。これだから、身内ってのは厄介なんだよ。

 「急ごう。これ以上、奴らをのさばらせるわけにはいかない」

 こうして盗賊討伐に意気込むわけだが、ここでまたしても問題が起きることになる。本当、物事ってのはうまくいかない。

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