勇者アデルとその仲間たち   作:うばたま

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アギレの手記3

 さっきも書いたように、勇者ってのはかなりイレギュラーな存在なんだ。オルテガが生まれるまで、その称号を持つ者はいなかったように。サマンオサの英雄サイモンはそうじゃないかって噂されてたけど、結局彼は勇者だけが持つ魔法を、とうとう使うことはできなかったそうだ。だが彼は彼で規格外の強さだったらしいから「英雄」という、勇者とは違った称号をもらっている。

 文献上の、賢者と並ぶ伝説の存在だった勇者が、同じ国で、こうも都合よく生まれるなんてことは、まず有り得ない。実際生まれちまったから有り得なくはないんだが。

 オルテガはバラモスこそ倒せなかったが、五年間の旅で数多くの人々を助けた。尋常じゃないその強さでもって。そしてその子供がまたしても勇者で、父がなしえなかったバラモス退治に旅立つと来れば、他の国だって当然援助を惜しまない……といえば聞こえはいい。だからこそ、アリアハンと同盟を結ぶ他の王家は、援助と称して、勇者の仲間になりうる人材を送ってきた。オルテガが失敗したのは仲間を得られなかったからだ。本当はいたんだがな。だから今度は苦楽を共にする仲間が必要とのことだ。おお、ありがたや。

 これは表向きの理由で、裏にはもっとどす黒いもんが詰まっている。まず一つが、バラモスが居城を構えているのが、ネクロゴンドと呼ばれる大陸だ。ここは昔っから辺鄙な場所だが、一応一つの国があった。もともと荒れ果てた土地と、岩山だらけの住みにくい土地だったが、それでもそれなりに栄えてはいた。火山がたくさんあるおかげで金が割と多く取れていたこともあるんだろう。だが、それも十年ちょい前の大噴火によって、人が住めない土地になっちまった。多くの人間がくたばり、生き残った人間も散り散りになって、他の国に移住した。どうも、あの噴火はバラモスのせいらしい。というのも、それと同時にバラモスがこの地上に現れ、奴はネクロゴンドにあった城に住み着いたから。

 つまり、バラモスを勇者が見事倒せば、あの人のいないネクロゴンドの土地は宙ぶらりんになる。そうなると、バラモスを倒した勇者、ひいてはその後ろにいるアリアハンの土地になる可能性が高い。だが、バラモスを倒したのが勇者だけじゃないとなると、その仲間を提供した国にも権利が生まれる。つまりはそういうことだ。他にも、いろいろある。何しろ、オルテガの名声たるや凄まじい。助かりはしたが、同時に面白くないのが国家の本音だろう。

 そういったもろもろの思惑の犠牲者が、次々とアリアハンを訪れた。

 最初に着くのは、おそらくロマリアが送ってきた僧侶だと思った。何しろ、アリアハンとロマリアは同盟国の証として、旅の扉と呼ばれる便利なものがある。詳しい原理は知らないが、遠く離れた場所と場所を繋いで、一瞬で移動させる摩訶不思議なものらしい。国同士がしっかり管理しているから、一般人は許可なくは使えないが、国から勅命を受けた僧侶なら問題なかろう。ところが、その僧侶様はなかなか来ない。

 最初に来たのは、ポルトガの魔法使いだった。えらく美人な姐ちゃんだが、どうも俺と同じ匂いがする。

 俺たちみたいな裏稼業を持つ人間ってのは、独特の匂いがするもんだ。誰のことも、心から信用することはない。いつ誰に裏切られ、攻撃されようとも眉ひとつ動かさずに反撃できる、そんな人間は、必ずこういった眼をしている。向こうも同じだったのだろう。用心深くこちらをうかがっていたが、それも一瞬だった。俺たちは顔を見合わせ、少し笑った。

 なるほど、ポルトガは確かに腕のいい人材を送り込んだが、身分や地位なんかは考慮しなかったようだ。そういう人材は惜しいのだろう。ただでさえ、いつ魔物が襲ってくるかわからないご時世だ。

 ジルダと名乗った女は艶然と微笑んだ。十人中十人がグッとくる笑みだった。俺と同業者か、それに近いのも納得だ。男の心を掴むことなど朝飯前なのだろう。

 「あんたも大変だな。こんな辺鄙な場所まで」

 「まあね。でも魔物の相手の方が遥かに楽だね。騙される心配はないもん」

 彼女が豪奢な金髪をかき上げる。真新しい金貨みたいな、見事な金髪だった。

 彼女は噂の「勇者様」を一目見て、小さくため息をついた。

 「アリアハンも、割とえげつないのね」

 それに関しては俺も同意見だ。ただ、アデルのことは気に入ったらしい。ちなみに、ルイーダの彼女の評価は≪くろうにん≫だった。まあ、こんな家業をしてりゃ苦労することもあるわな。

 

 ジルダの次に来たのは、セトとかいう、筋骨隆々の大男だった。ちなみに、最初に俺が抱いた感想は「赤い」だ。

 実際そいつは赤かった。肌はよく灼けた赤銅色で、短く切った髪は、もともと茶色だったのだろうが、長く陽に晒されたせいだろう、色が抜けて赤くなっていた。

 「まるで太陽の申し子だろう」

 そう言ってガハハと笑うが、俺にはどこが面白いのかわからなかった。彼の出身国イシスが、太陽を神と崇めていると知ってから、ようやく彼の自己紹介の意味が分かったが、それでもあまり面白いとは思わない。冗談は下手くそだが、とりあえず悪い人間ではないらしい。

 「あんたが勇者か。俺が来たからにはきっちりお守りするからな」

 アデルが自己紹介をすると、彼はそう言って熱い胸板を叩いた。その台詞は、彼が勅命を受ける時にあちらさんから言われたのか、それとも実際の勇者を見て、そのあまりにも頼りなげな風情に口をついたのかはわからなかった。

 そんな彼の職業は「武闘家」らしい。戦士のように、己の肉体を使って戦う者を指すが、武闘家の場合は基本、戦士のように鎧を着こんだりしない。素早さが命だとかで、そういうのは嫌う傾向にある。そんな彼のルイーダの評価は≪ねっけつかん≫だそうだ。納得。

 

 その次は、なんと驚くことなかれ、エジンベアからやってきた。あの国がまさか人材を送ってくるとは思わなかったが、まあ、まかり間違えればネクロゴンドの土地が手に入る可能性が無きにしも非ずだ。

 エディと名乗った男は、神経質そうな細身の男だったが、その物腰や話しぶりからから見て、相当いいとこの出だろう。なのに、なんだってこんな仕事を受けたのか。

 「あのままいても、殺されるのは目に見えていたんで」

 奴はそう言いながら、プラチナブロンドの髪を優雅な仕草でかき上げた。おそらく本人は意識していない、ただの癖なのだろうが、この癖はさっさと直させよう。ただでさえ、下衆な連中に目をつけられやすい奴らがいるのに、こうもあからさまにお育ちのよさそうな奴まで入ると、まるで「どうぞ襲ってください」というようなもんだ。そういった奴らを、簡単にあしらったり追い払える(この場合、相手の生死は保証しない)ジルダはいいとしても。

 エディは、一応剣の手ほどきは受けたらしいが、じゃあ前線で戦うというわけでもないらしい。ただ「旅の間の財政管理や交渉事ならお任せを」と言ったので、そっち方面で役に立つのだろう。

 ルイーダに後からこっそりと評価を聞くと、返ってきたのは≪がんばりや≫だそうだ。

 

 ロマリアからはまだ来ない。一番の同盟国だというのに、これは妙な話だった。

 それから数日、俺たちはあれやこれやと計画を練った。旅立ちは二年後だったが、このプロジェクトはすでに始まっている。

 そうして、ようやくロマリアの使者と名乗る者が現れた。これが乳臭い小娘で、隣にいたジルダなんぞ、目を丸くしてまじまじと見ていたくらいだ。

 「あんたが、僧侶?」

 小娘が着こんでいたのは、一応教会関係者が着るであろう服だったが、妙だ。僧侶が着る服というのは、2種類ある。まずは普段の「お勤め」の時に着る服だ。神父や、尼僧が着る、黒くて動き辛そうな長ったらしい服。そして、僧侶が旅に出る時や、公式の場に出る時の僧服は、一目見ればすぐわかるデザインになっている。動きやすそうに改良されてはいるものの、一目で僧侶と分る、仰々しい十字架のデザイン。

 小娘はそのどちらも着てはいなかった。彼女が着ていたのは、かなりくたびれた修道女見習いの服だった。

 そりゃ、あまり期待していない企画とはいえ、これはないんじゃないですかね、ロマリア王。

 俺は思わずそう呟いたが、小娘の口から出てきたのは、それ以上に笑える話だった。

 もともと、ロマリア王に命じられて、一人の僧侶が来ることになっていた。彼女は優秀で、優れた癒しの魔法の使い手だった。小娘、リゼットと名乗ったその小娘の先輩にあたる立場で、リゼットは何のことはない、彼女の付き添い、いや、小間使いとしてついてきたに過ぎないのだ。

 「で?その僧侶様はなぜこちらにいらっしゃらないって?」

 「で、ですから……」

 俺としても、こんな小娘をいたぶる趣味はない。女を苛めるのは嫌いではないが、ガキは範疇外だ。

 簡単に言うと、その僧侶様は、勅命が下った瞬間、彼女の胸中である計画を立てた。アリアハンへ行くということは、ロマリアから離れるという意味でもある。つまり、彼女を知る者はいない。高名な僧侶の彼女を。だからこそ、彼女はかねてよりねんごろにしていた男と、この機会に手に手を取って逃げた。駆け落ちしたのだ。

 別に、この世界の聖職者は恋愛禁止というわけではない。結婚も許されるし、子供を持つ者だっている。とはいえ、その相手が誰でもいいというわけではない。そりゃ、人の道を説く立場の人間が、人倫に反するもの、つまり不倫の恋なんざ誰が認めるか。

 彼女はやたらとリゼットを連れていきたがっていたということだが、つまりは、最初から計画しており、身代わりを用立てていたのだ。そのリゼットだが、何年か前に教会に拾われ、その罰当たりな僧侶に仕えていたために、癒しの魔法が、全く使えないわけではない。擦り傷治すのに、相当の時間を要するとしても、魔法が使える。これは重要だ。魔法ってのは、才能が必須だ。どれだけ努力しようとも、魔法を使うことができない人間がほとんどって世界で、13歳で魔法が使えるってことは実はかなり大きい。

 何より、本人が責任を感じて、泣きながら自分をどうか使ってくれと懇願するのだ。そりゃ、これはいわば国際問題だ。このご時勢、ロマリアとアリアハンの間で亀裂でも入れば、どうなるか。こんな小娘にも想像はつくと見える。

 

 驚くことに、今回のプロジェクトに名乗り上げた国には、かの黄金の国ジパングまであるのだ。この国は東のちっぽけな島国なのだが、ずいぶん変わっており、長らく他国との交流もしていなかったために、独自の文化がある。その国の女王が、戦士を遣わしたのだ。

 「イオリと申す。よろしく頼む」

 その戦士は、一国の使命を帯びてきた戦士であるにもかかわらず、ずいぶん軽装だった。俺の疑問を察したのか、彼はわずかに笑って言った。

 「なに。重い鎧を着込んで戦うこともあるが、某の戦法は、どちらかというと速さも重要になる故な」

 腰に帯びた、奇妙な形の剣は、なるほど、確かにかなりのものだ。

 意外だったのが、どの国も「出し惜しみ」しているのがまるわかりの人選だったのだが、このイオリに関してだけは、ジパング随一の剣豪を送ってくれていたのだ。これを知ったのはだいぶ経ってからだったが。何しろこの男、謙虚なのか、自分の実力を「大したものではござらん」としれっと言っていたものだから。

 

 この辺りで全員揃ったと思っていた。残すところサマンオサのみだったが、あの国は今、相当に揉めている。そう思っていたら、ひょっこりとガキが一人やってきた。青みの強い銀の髪は、サマンオサには少し珍しい。

 シアンと名乗ったそのガキは、サマンオサの英雄サイモンの息子だと言い、アデルを軽く睨んだ。睨んだ気はなかったのかもしれないが、奴が「勇者」の子供であるアデルを意識しているのはバレバレだ。「英雄」の息子からすれば、気にするなという方が無理なのかもしれないが。

 そりゃ、「英雄」も「勇者」も、期待を背負っている分いろいろ考えることも多かろうが、少なくとも、勇者に関して言わせてもらえば、ろくなもんじゃないぜ?と言いそうになる。

 タイプとしてはアデルと同じなのか、武器をある程度使えるし、簡単なものなら魔法も使える。とはいえ、勇者に今一つ届いていないというのが、俺の素直な感想だった。特に、剣に関してはお手上げだ。剣の達人であるイオリが言うまでもなく、俺の目にもわかった。才能がないと。本人には言わなかったけどな。

 

 ともかく、総勢八名の大所帯。この面子で敵の総大将バラモスを叩く。そうすれば世界は救われてハッピー。そういった一大企画だったのだが、早くもケチがついちまうんだよなあ。

 

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