勇者アデルとその仲間たち   作:うばたま

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リゼットのおはなし2

 いくら待ってもお姉さまは来られないため、私は仕方なく、アリアハンの王都を目指しました。幸い関所にいる兵士の方が、私がロマリアからの通行証を見せると、すぐに感じよく馬車の用意をしてくださいました。

 私の持つお姉さまからの手紙ですが、そこには、とても流麗な字で私に対する謝罪と、出奔の理由が書かれていました。

「わたくしたちの許されない愛」という言葉が何度も出てきたので、おそらくはお姉さまの恋人と駆け落ちなさったのでしょう。

 実を言うと、私はお姉さまの恋人を知っていました。

 あの頃のお姉さまは、いつだって上の空で、夜は必ずお一人でした。

 以前だったら、夜はお姉さまお気に入りの皆様方とお茶会などがあったのです。マンダリーナ修道院はとても大きな修道院でしたから、お姉さまのように良家の子女が、数は多くはないですがそれなりにいらっしゃいました。私は主にお姉さまのお支度をさせて頂いておりましたが、たまに、お姉さま方に誘われてお茶を一杯頂くこともありました。

 余談ではありますが、お茶と一緒に頂いたお菓子は、この上なく美味なものでした。胡桃のたっぷり詰まった焼き菓子で、初めて食べた時はいたく感動したものです。

 アリアハンに来て、それと同じものをルイーダさんのお店で見た時、私は驚きました。そして、ルイーダさんが、ごく当然のように私に出してくれたことに、もっと驚きました。

 私があんまり驚いたので、ルイーダさんは教えてくれました。このお菓子はもともとアリアハンのものだったのです。胡桃はアリアハンではさして珍しいものではなく、また、小麦粉も、バターも、農耕や牧畜がさかんなアリアハンでは、さして高価なものではなかったのです。

 けれどロマリアでは、それらはとても高価でした。山に囲まれていたカザーブでは、特に。逆に、アリアハンでは貴重とされる鉄は、ロマリアではさして貴重なものではなかったのです。これらをアリアハンとロマリアは長いこと取引に使っていたのでしょう。その旅の扉が閉鎖された時、ロマリアのみんなはどうなっているのでしょう。

 話を戻すことにして、お姉さまの様子を訝った院長が、ある日私に命じました。夜にお姉さまが何をされているのか探れと。私は、そんなお姉さまの尊厳に障るようなことをするのはいやでした。ですがお姉さまは高貴なお方。もしどこぞにおいでになられた時、よからぬ考えを抱く者がいてもおかしくありません。

 そうして、私はある晩そっと部屋を抜け出すお姉さまの後をついていきました。お姉さまはある男性とお会いになられていました。とても親密なご様子で……それ以上は私の口からは申し上げられません。院長にもお伝えできずにいたのです。口には出しませんが、二人が恋人であることは明らかでした。世の中には、ああいったことを恋人ではない人とすることもあるようですが、少なくとも、お姉さまはそんな、育ちの悪い娘みたいなことはされません。ともかくも、お姉さまには恋人がいらしたのです。ですが、問題はそれだけではありませんでした。

 その男性を、私は知っていました。なぜなら、彼とその奥様が、奥様のお体を癒して欲しいとこの修道院に来た時、私もその場にいたのですから。

 奥様は産後の肥立ちが悪く、なかなかお乳が出ないのでした。そんな奥様を癒しの力で救ったのがお姉さまです。だから、彼の奥様はご健在で、どころか、乳飲み子までいるはずなのです。それなのに、どうしてあの男性はお姉さまとあんなことを……。

 私は、何も言えませんでした。ですが、私は何でも顔に出るとよく言われるように、何かを隠すことが苦手でした。未熟で物知らずな子供だったので(たぶん今もですけど)、相手に悟られないようにするだとかの術を知りませんでした。

 院長は私を責めませんでした。ですが、お姉さまへの監視は厳しくなりました。

 お姉さまは孤独でした。以前のようなお茶会があれば、少しは違っていたのかもしれませんが、なぜかずっとお茶会は催されてはいませんでした。後から知ったのですが、お茶会のために用意していたお茶も、お菓子も、みんなお姉さまのお友達の皆様が持ち込んできていたのです。

 皆様は、なぜか最近めっきりお茶会をしようとはしませんでした。いえ、実はされていました。ですが、誰も、お姉さまをお呼びにはならなかったのです。

 それがわかった頃、あの勅命が下ったのです。

 私は、信じられないことにお姉さまのお友達の皆様にお茶会に誘われました。私がついていくことになったことを知り、皆様がお茶会を開いてくださったのです。なんてお優しいのでしょう。しかし私はここで疑問を抱きました。なぜ、私だけなのでしょう?なぜお姉さまはお茶会のご招待をお受けにならなかったのでしょう?

 

 ここまで話すと、アギレさんとジルダさんが揃ってため息をつきました。お二人は、私の拙い話と、お姉さまのお名前から、私以上のことを理解されていました。馬鹿な私には、まるで見当もつかないのに。

 「たぶんだけど、リゼットの≪お姉さま≫とは、前ロマリア王の姪っ子だね」

 「前ロマリア王……」

 私は頭も悪く、世間を知らない子供でしたが、お姉さまのおかげで、ある程度教育を受けることができました。お姉さまがいらっしゃらなかったら、私は馬鹿なうえに無学の、どうしようもない子供になっていたことでしょう。

 前ロマリア王パレス八世は、確かお体の調子がお悪く、宮殿でご療養中だと聞いています。もう、お話もできない状態だとか。前の王様は、退位される前に、三人の方に王位継承権を残されたのです。第一位は今の王様のお兄様でした。この方は、生まれつきお体が弱かったのです。お気の毒なことに、すぐにご逝去されました。第二位が、今の王様です。そして、第三位。その方は、前の王様の姪御である姫さまでした。

 今の王様は、とてもお体が丈夫なうえに、何より男性です。ですが、一つ問題がありました。今の王様のお母様です。その方は、王妃様の侍女だった方で、身分もかなり低かったと聞きます。

 それに対して、姫の方は両親ともに前王と同じく高貴な血を引かれてらっしゃいます。

 「ロマリアは今でこそ落ち着いてるけどさ。以前は一触即発だったんだよ。それこそ内戦がおっぱじまると思ったもんね」

 「姫の後見人であるナントカ伯爵が、高貴な血を引く姫の即位を宣言。現ロマリア王は庶子であるために抹殺しようとしたが、あの国王、トボけた顔して意外としっかりしてたようでな。さっさと雲隠れし、好機を探っていたんだ。ま、たったの一週間で好機は訪れたがね。彼の味方の多いこと多いこと」

 何しろ、今の王様は当時から民衆に人気がありました。庶民的な考えをお持ちだったからかもしれません。

 「伯爵は斬首刑。何も知らない、まだ幼かった姫のことは、さすがに手を出せなかったんだろう。彼女は修道院へ送られたと聞く」

 何ということでしょう。お姉さまは本物のお姫様だったのです。私はそうとも知らずに大変な無礼を……。

 「修道院といえば聞こえはいいが、要は体のいい幽閉。お姫様は、たぶんあのままずっと修道院で暮らすはずだったんだろうさ」

 「でも、まだチャンスはあった。お姫様の後見人は死んだけど、お姫様派の貴族はごまんといた。つまり、今の国王が何かヘマでもやらかすか、世継ぎが生まれなかったら、再びお姫様を旗印に立ち上がることはできた。だからこそ、周りはお姫様をちやほやしてたのさ」

 ヘマとはどういったものでしょう。ちょうど、アリアハンでの旅の扉封鎖事件のようなものでしょうか。

 「でも世は魔王バラモスの台頭なんか起きて、それどころじゃなくなった。そりゃ、内戦なんか起こしてたら魔物や、微妙な関係だったポルトガにも付け込まれるからねえ」

 「周囲の態度が変わったのは、一つがロマリア王に世継ぎが生まれたこと。これでロマリア王の地位はほぼ磐石。もともと人気のある王だしねえ」

 このあたりで私にもわかってきました。今回の打倒バラモスの勅命は、実を言うと誰も期待しているものではありません。それはこの二年間でいやというほどわかりました。では、お姉さまのような高貴なお方を、いくら癒しの力を持っているとはいえ、なぜ明日をも知れぬ戦いに送り出したのでしょう?

 それは……口に出すのは憚られますが、王家にとっては、お姉さまの存在は今や危険ではないにしても、わずらわしいものでしかないのでしょう。それは、王家だけでなく、もともとお姉さま側だった貴族たちにとっても。

 「命をとるのはできればしたくない。そりゃ、相手は年かさない小娘だ。人気者の王としては、さして価値もないのに、評価を下げることはしたくない。でも邪魔だ。貴族たちにとってもいい思い出はないだろうしな。そこで今回だ」

 確かに、あまり期待できない死出の旅とはいえ、それでも、世界を救う名目で王族が出陣するのです。もし命を落とすようなことがあっても、それこそ、むしろ王家が望んだことなのでしょう。万が一バラモスを倒したとしても、もはや王様の地位は安泰なうえに、王家の一員がバラモスを倒したのだとしらしめることができます。もし、ここでお姉さまの人気が高まってかつてのようなことが起きるとしたら、その時は……。

 

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