ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

13 / 51
phase12 何が変わらなくとも

「きっと、この研究が成功すれば全てが上手くいくはずだ」

 

 

 

 フェンリルの中でも、それなりに地位のある研究者であった父はそう言っていた。

 

「神機使いの死亡率は間違えなく減少する、また、長期活動が可能となるから行方不明者の捜索もより多くの時間が使える。救援任務もやりやすくなる。偵察の精度だって向上する」

 

 父はどこか熱に浮かされたように、ソレを繰り返していた。

 事実、それは『可能であれば実現する』展望だったようにも思える。

 

 ……だけど、そんなに上手くいくものだろうか。

 

 

「だから、私は何としてもこの研究を完成させなければならないのだ――死に追いつかれる前に」

 

 病に蝕まれても尚、自分の研究に取りつかれたように戦い続ける父に、何も言うことはできなかった。

 

 

 もっとあの時、冷静に考えていたら……と、今でも思う。

 

 後から正解を探しても、もう何もかも遅いのに。

 

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「そりゃぁっ!」

 

 気合いと共に、クロガネ長刀型を横薙ぎに振るう。

 踏み込みからの大振り、そしてそのまま振りぬいた勢いと神機の重さを利用し体重を移動。また踏み込んでいく。最大四連続まで可能な、戦闘技術教本通りの剣技。

 

 刃はコクーンメイデンの顔面のすぐ下を切断し、一応『斬った』手ごたえだけが指先の末梢神経から伝わってくる。

 

「……はぁ……」

『はい、お疲れ様!』

 

 本日のノルマ達成。

 

「ナナちゃん、ありがとー」

『どういたしまして! 唯ちゃん、訓練成績はすごく順調に上がってるね! 撃破数、時間ともに良い感じ!』

「そうかな……?」

『うんうん! これなら~いつ『実戦』で使えても、きっと大丈夫だよ!』

 

 いかにも元気づけようとしてくれるナナちゃんのくりっくりな天真爛漫声に……少しだけ心が曇った。一応、これでも実戦の経験は着実に積んではいるし、『任務』も紛いなりにもこなしてはいる。

 だが、あくまで遠距離型銃撃形態のみの使用だ。コレでは『新型』である意味が全く存在しない。

 

 けどそこで泣き寝入りばかりもしてはいられないし、何よりすっぱり諦めきれるほど、切り替えも良くないのだ。ずるずると何か諦めきれずに引きずるところが私の悪癖ではあると自分でもよく承知してはいる。

 そんな訳でこうやって調整し、訓練を入れている。

 

 この為だけにわざわざ神機の調整を行い『近接のみ』での討伐を想定しているのだ。イザという時の為の準備くらいは、しておきたい。

 

『でもさ……頑張りすぎてない? 張り切りすぎるのも良くないと思うけどなー、無理しすぎると、お腹減っちゃうよ?』

「そうかなー……」

 

 結構痛いところ突いてくるなぁ……ナナちゃん……。

 

 確かに……ちょっと自分でも無理はしていると思うけど、こんなの全然大丈夫、の範囲だと信じたい。

 逐一、メディカルチェックを受けている身体だし、何かあればすぐにでも静止がかかる環境に居るのだ。何かがあっても平気ではないかと思う。

 それに……きっと、これぐらい必死にならなければ、きっと今の状況を打開できない。

 

 ……逆に、ここまでやってもまだ何の解決の糸口も掴めないのか、とも思うけれど。

 

 神機を調整に出すために持っていくと、すっかり顔なじみになった整備士さんが笑いかけてくきた。

 

「お疲れ様、唯ちゃん」

「……すいません、お願いします」

 

 一体、何に謝ってるのだろう。私は。

 

「頑張るのも良いけれど、ほどほどにしておくんだよ? 焦ったって結果なんか出るときにしか出やしないんだから」

「あはは……ナナちゃんにも同じこと言われちゃいました……」

 

 逆に言うと焦っている内が花なんだとも思う。

 整備士さんは計器を繋げて、軽く神機情報を確かめる。見方さえ分からない棒グラフや円グラフが多数表示されそれぞれが自動的に数字換算されていく。

 

「その……毎回すいません……イチイチやってもらっちゃって……」

「ま、確かにメンド臭いけどね、貴女の神機」

「う……」

 

 ぐうの音も出ねぇ……本当申し訳ない。

 

「けど、コレもあたしらの仕事だから。大事なお役目ってヤツだから。――まぁ、毎度毎度手間だけど、早いところ両方使えるようになってくれると嬉しいんだけどねぇ」

「……」

「やだ、冗談、冗談」

 

 整備士さんは軽く笑ってはくれたが、全部が全部冗談と言うわけじゃないのだろう。

 

 実際この……私の神機はクールダウン時間と射撃訓練、ついでに近接系訓練に加えて任務。と回さなければならないので、非常にメンド臭いことこの上ない状態になっている。更に、近接訓練の際外していた――隊長が強引に取り付けた装置――をまたくっつけて貰うわけなので……すごく手間だとは思う。本当に、本当に申し訳ないです……。

 

「まー、コレでもまだフライアはマシだからね。物資に、機材、整備用の工具まで一級品が揃っているもの」

「た、確かに……」

 

 備え付け備品、メモ帳一枚に至るまでちょっとした価格と品質ものを使用している。

 

「昔、野戦整備をやってたことがあってねーアレは本っっっっ当にキツかったわ。工具もマトモに揃っていない状態でね。あぁ、もちろん出撃するときにドッサリ予備品を詰め込むのよ? だけど色々あって無くなっちゃう訳。

ひっきりなしにアラガミに追われて、酷いときなんてドンパチやってる横で整備だよ? 負傷者の治療も戦闘も神機の整備も同じ場所でゴッチャ混ぜ。『整備しろゴラァ!』なんて神機使いに怒鳴られたときには……チビるかと思ったもんよ」

「うわぁ……怖ぁ……」

 

 野戦やべぇ……ヤベェよ、何がやばいのか分かんない位にヤベェ。

 

「んで、そん時の幼気な私の首根っこ掴みやがった無礼極まりない野郎が、今の亭主」

「はァ!? マジですか!?」

「まぁー色々あってねー……まぁ、そんな野戦男でも偏食因子は毎回神経質になってた位だから貴女たちも注意するんだよ? ウチの人曰くうっかり忘れようものなら大変なことになるらしいから」

「は……はい……」

 

 万が一にもそんなことにはならないと思うが。検査だってしょっちゅうやっているし。

 

「それにしても……コレ、本当スゴイね。流石ラケル博士。強引にくっつけている様な状態だけれど絶対に誤作動を起こしたりはしない――その分、融通が利かなさそうみたいだけどね」

「……」

「まるで、どっかの誰かさんみたいじゃない?」

 

 彼女には悪いが、ちょっと理解不能。

 

「だから心配はいらないよ、どんな外部刺激でも壊れたりはしないさ……けど、やっぱり長期使う予定のない即席追加部品だから内側からの力には弱いかもしれないね」

「内側……?」

 

 んー、そうね、と整備士姐さんは腕を組む。

 

「神機を構成しているオラクル細胞が一気に常識外の活性化をするとか、極めて特殊な活動をするとか、その辺ね」

「じゃ、なさそうですね」

「そうね、ないと思うけど……」

 

 一瞬、ほっとしたような……少々がっくりしたような気持ちになる。

 

 どうやら私の神機は『奇跡』でも起きない限り、目覚めてはくれないそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大尉ー、資料のお届けですー」

「……あぁ、ありがとう」

「どーも、じゃあ此処に受領の署名お願いしまーす」

 

 受取表に署名しながら、ジュリウスはそのファイルを受け取る。

 中身はある作戦の人名一覧表と……それと前後しておきた『事件』の詳細だった。

 

 灰色の目が人名表を辿っていく。

 

「……」

 

 そこに記されていたのは、現在の最寄支部で行われた『大規模掃討作戦』――長期遠征任務に従軍した神機使い達だった。年齢はどれも二十代後半から三十代……神機使いとしては、ギリギリの年齢。『旧型』と言われる第一世代機や、第二世代機に乗り換えたものの、あまり高い適性を示せなかった神機使い達。

 

 その全員が、行方不明になっている。

 

「……新型の携帯型偏食因子、か」

 

 長期遠征任務に当たり、偏食因子の投与は新型の携帯型というものが使用されたらしい。その実用化が未だないということを鑑みれば――あまり良い結果にはならなかったのだ、という事実が明白である。

 ジュリウスは思わず閉口した。

 

 そして、その次の資料に視線を落とす。

 

 

 と、その時、またしても自動扉が開いた。

 

「あー……ジュリウス隊長……今お忙しいですか?」

「……何か?」

 

 多少、語尾強めな口調でジュリウスが問いかけると、研究員が、やや申し訳なさそうに目線をそらす。

 

「ちょっと、回収してきたのこじ……じゃなかった……『遺された神機』が騒いでおるんですよ。近くに適合者が居るのか、それとも元・適合者が居るのか……はたまた未回収な部品が近くにあるのか。後ろ二つだった場合には……つか、そっち濃厚っスけど……神機使いの派遣を依頼したいので」

「……そうか」

「色々あるとは思いますけど……まぁ、そこは予定調整してくだされば」

 

 それにしても、と研究員は話題を変えてみる。

 

「いい加減動いてくれないんですかね。あの町の人たち。別にちょっと動いてくれるだけで良い、って言ってるのに。こっちだって……いつまでもこんなところで停滞している訳にはいかないのに」

 

 いかにも、研究室で日ごろ神機やらオラクル細胞やらと戯れている人間の感想を聞き、ジュリウスは苦笑を零す。だが、彼らからすれば当たり前の意見だった。

 

 フライアは腐っても技術開発支部。求めるものは、常に最新。時には各支部に依頼し、世界各国を回ってでも『新種』アラガミの核や素材を調達する。

 彼らからすれば……特に得るものもない、真新しいものもない。一部「なぜ、アラガミが寄ってこないのか」に興味を示している層が居るが、ほとんどは既に、『アラガミの生活環とズレているから』と結論付けさっさと自分の研究に戻っていた。

 特に、神機兵開発に携わる者は、さっさと素材確保の為に次の支部に移動したいらしい。

 

「恐らくは、フェンリルに対する不信感が拭いきれないんだろう。たとえ、善意からの行動にせよその全てが敵意に見えて仕方がないんだ……分からないでもないさ」

「はぁ……大尉がですか? 何か意外ですねー……まぁ、いいや。別にいいんですけどね、神機兵開発室の連中が五月蠅いの何のって。ありゃ近いうちに発狂しますよ、あいつら。この間なんて神機から素材を剥ぎ取ろうとして、ちょっと一悶着」

 

 よく見ると、青年研究員の額には切り傷の跡、頬には湿布。白衣の裾はやや煤けて繕われており、うっすらと血痕のようなものまで見て取れる。その姿が、どれほど戦場が過酷で凄惨だったのか物語っていた。

 長年のフライア暮らしから何となく察してはいたが、彼らは日中穏やかな割には夜間非常獰猛になる。

 

「お互いに少なくないものを失いました。もう二度とこんな愚かしい争いを繰り返したくはありません」

 

 皆の気持ちは、ノーモアフライア。

 

「まぁ、そうゆうわけで。さっさと立ち退きしてくれませんかね、とか思っちゃうわけですよ。何かあの人たち、キナ臭いし」

「……」

 

「気づきましたか? あの街……『墓場』がないんですよ」

 

 こんな時代だからこそ、何処に行っても大抵、墓場……もしくはそれに相当する何かが存在している。生きる人間たちは死を遠ざけるほど幼くはないが、死者をすぐに忘却できるほど強くもない。

 だからこそ、存在するハズのモノが……どこにもなかった。

 

「さて、と。では確かに渡しましたからね。――さて、まだ保管庫には負傷者が溢れている。さっさと戦災復興しないと」

「……あぁ」

 

 そして青年研究員は、内乱の爪痕が残る元戦場へと帰って行った。

 

 みんなラケル先生を崇めて仲良くすればいいのに、と内心思うジュリウスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色々鬱々しくてため息が出る。

 が、意を決して色々な素材を繋ぎ合わせている扉を叩いた。

 

「すみませーーん! フェンリル極致化技術開発局でーーす!」

 

 しーん、という擬音さえ聞こえてきそうな静寂。シカトこかれているんだなぁ、と内心感じ入る。

 ……良いでしょう、そっちがその気なら、無視してみるのも良いでしょう。しかし。

 

「フェンリル極致化技術局です!!」

 

 生憎、こちらも退く気はない。

 

「すみませ……うわっ」

「帰れ!!」

 

 もしかしたら打撃目的であるかもしれないって位に荒々しく扉が開く。が、そこはバックステップの要領で後退し、回避する。中に居た人は不服そうに舌打ちを一発かました。

 

「どうも、フェンリルで」

「帰れ! お前たちに用はないんだよ!!」

「そう言わずにぃっ!!」

 

 やめて閉め出さないで。

 

「あのですね! 皆さんの安全を保障するために一応こちらからスタングレネードの無償無料の配給を……」

「要らん!」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 そう、コレは、下手すると押し売りっぽく見えるけどやっていることは正式な配給。フェンリルも色々やらかしているのは事実なんで、相手方にもちゃんと気を遣って? という、本部から直接指示された訳の分からない方針のせいでこうなってる。

 だが、実働は暇な神機使い。ナナちゃん、私、ロミオ先輩の3人。

 ……何のためにゴッドイーターになったんだっけ? と右手の腕輪がゲシュタルト崩壊を起こしている。

 

「調子の良い事を言って、そいつで爆破する気なんだろう!? えぇ!? もしくは自決用に配って歩いてるのか!? はっ、お優しいことだな!」

「違いますそれは手榴弾! これはスタングレネードです!! ちょっとばかしチカっとするシロモノでアラガミの足止めを――」

「騙されるかっ!! この間も妙ちくりんな猫みたいな小娘に変なパンを押し付けられたんだぞ!? 何がおいしいから食ってみろ、だ……」

 

 それ、ナナちゃんだ。こんなところでも配ってるんだ……流石自称おでんパンの伝道師。

 

「あー……アレは好みが個人で分かれると言いますか何と言いますか……けどソレとコレとは話が別で! お願いします受け取って下さいじゃないと帰れないんです私!」

「知るか!」

 

 おっしゃる通りだと思います。

 その人は、とっさに何かを手でつかみ私に向かって投げ飛ばしてくる。

 何かが目に入ったらしく、眼球に痛みが走る。

 

「うわぁぁぁぁ……!」

 

 スタン状態になったのが敗因だった。そのままガツン、と扉は閉ざされ重々しい金属音……南京錠でも掛けているのだろう。焼け付くような痛みで物理的に涙が溢れた。その内容物を何となくで理解する。灰と塩。別名混合物と塩化ナトリウム。

 確か、塩ナトは父の故郷では魔除けの意味を持っていたような……悪霊扱いなんてあんまりだ。気を取りなおしてないけど、スタングレネードを強引に置いてさっさと次へ向かうことにする。

 

 こんな扱いにも慣れてきましたよ……。

 卵と鶏の洗礼からそろそろ半月。水をぶっかけられたり、オッサンの履きつぶしたくっさい靴を投げられたりでもう散々。最近固形物ならなんとか躱せるようになってきた。慣れって偉大。

 

「すみません、フライアですー」

「はいはい」

 

 殆どの皆様は無視か先程のように敵意剥き出しかの二択。たまに命乞い、卒倒、首吊り寸前という稀な事案が勃発するが……本当ごくごく一部、このように普通の対応もあったりする。

 

「いつもお疲れ様です。フェンリルの」

「今日は片方結びの子か」

 

 という、熟年夫婦である。

 

 あまり人の年齢を当てるのは得意じゃないから何とも言えないが……40か50歳くらいだと思う。大体うちの両親と同じ位の方々。何でも……亡くなった息子さんが生きていたら同じ位の年齢だっただろうという――ほぼお情けで接してくれるのだろう。

 

「配給のスタングレネードです!」

「悪いですねぇ」

「ありがたい」

 

 素直に受け取ってもらえると本当に感動する……! 特に塩とか灰とかぶっかけられた後だと。

 

「悪いですねえ。毎日可愛らしいお嬢さんが来てくださって」

「皆、美人さんばっかりだからなぁ」

 

 ……そッスか。そりゃどうも。

 

「おでんの子にも宜しく言っておいて下さいな。あのパンは若い人達にとっても好評ですよ……何か妙な中毒性があると」

「あの金髪の子にも言っておいてくれるかい? この前は瓦礫の掃除を手伝って貰って……神機使いは女の子でも力持ちだって、な。はははっ」

 

 ……ん? あれ?

 

「あの……金髪の……」

「気立ての良い娘さんばかりで羨ましいですねぇ」

「ウチのが生きてたら嫁に欲しい位だよ。特に金髪の子」

「だからその……」

「あらそう? おでんの子のおでんだってちょっとしたものですよ? ……おでんだけなら」

「そっかなぁ……力仕事の出来る嫁が居てくれるといいんだがな……」

 

 …………ロミオ先輩は男…。

 

「ところで、そちらの娘さんが何か言いたそうにしているけど?」

「何かあるのですか? 私らでよければ聞きますが?」

「うっ……」

 

 思わず言葉に詰まる。

 

「な、何でもないデス……」

 

 ごめん、先輩……。いつかちゃんとフォローしますからぁ……!

 

「あらあらごめんなさいねぇ、困るわよね。でも……可愛くて言い娘たちだから、いつかきっと素敵なお婿さんが見つかりますよー、って言いたかっただけなんですよ」

「このトシになるとどうもお節介を焼きたくなってな。君たちを見てると思うんだよ」

「う……うぅぅぅ……!」

 

 言えない……!

 

 こんな良い人達に言えないよ……!!

 でも、このままじゃ先輩が……!

 

 

 

 

 

「息子が生きて居たら、と」

 

 いや、待てよ。実年齢より幼……もとい若く見える彼だが。声は完全に男でしょう、と。

 うん……声、は。声だけは。

 じゃない。

 

「……よろしければ、お話を聞いていいでしょうか?」

 

 割とズカズカ入り込んでいる気がする。

 け、けど情報収集も任務の内。どうせあまり期待されていないだろうけど、やっておくに越したことはない。……話してくれれば、だけど。

 

 別に、珍しい話ではないのですけどね、と小母さんは前置きをしてから話し始める。

 

「私たち、3年程前まで『極東』に居たんです」

「極東……?」

「ご存知ですか?」

「……父が極東系なので」

 

 まさかこんな場所でご縁があると思わなかったけど。

 

「何でも当時は『エイジス計画』といのがあって、そっちに物資を回さなくちゃいけなくて……配給物資カツカツの大変な日々だったんですよ」

「……」

 

 うちの親、買い物感覚で配給行ってくるわねー、って感じだったからなぁ……留めきれないこの罪悪感。

 

 そして、『エイジス計画』の話はほんの少し、薄ら聞いたことがある。数年前に期待と注目を集めていた計画だ。人類の絶対安全圏を作るとかなんとかで、アラガミすら超えることのできない最強の盾に守られた島……だったような気がする。しばらく話題に上がって、自然消滅して、霧散。その後計画の第一人者だった当時の極東支部の支部長の事故死で完全におじゃん。更にはその『事故』というのも、意見の合わない部下による暗殺、だとかフェンリル本部からの刺客……だとか黒い噂が少々飛び交った感じだ。

 

「そんな時にフェンリルから『赤紙』……神機の適合通知が届いて、あの子はさっさと家を飛び出してしまった。『おっしゃ適合キタァアア!』って言って……凄く喜んで」

「……」

 

 他人事じゃない。私もそんな感じです……。

 

「もちろん止めたけど、引き留めたけれど……どうにもならなくてね。フェンリルからの『迎え』も来ていたし。……何より本人が行く気満々だったから。それでも、やはり何処か甘く見ていたのね、近所でもフェンリルに勤めてる人だとか、一般兵として徴兵されている人とかが居なかった訳じゃない。そうゆう人から話を聞いて……きっと安心していた、……そうしたかった。そう思って居たかったんです」

 

 心底、悔やんでいるかのような声だった。

 

「半年位経って、結局帰ってきたのは紙切れ一枚で……他には何もなかったんですよ。腕輪だけ渡されたって困りますよ。……それから、極東に居られなくなって、ここまで流れてきて……何だかんだで生き残っちゃって。一時は神機使いを見ただけで、平静じゃあ居られない位でしたよ」

「うっ……」

「あぁ、大丈夫。一時は私もこの人も……色々と馬鹿なことを考えたものですよ。一体、何処に差があったのだろう、って。うちの息子とあそこの神機使いに、何の差があったのだろう、って」

 

 返す言葉を、つい見失った。

 ……いや、違う、そんなもの存在しなかった。

 

 生物学的な理由があるのかもしれない。遺伝子の塩基配列だとか、体一つ一つの細胞だとか、或は偏食因子への適合値だとか。

 

 でも、分かっている。

 何も違いなんてない。……特に、私のような平凡な人間とは。

 

「ねぇ、娘さん……家族は居る? 居るのよね? さっきの口振りからだと」

「……はい……その……両親が」

 

 家を出る前に大喧嘩してきた兄は割愛。

 

「なら、帰ってあげないとね。いつかでいい。一瞬だっていい……知らないところで、肉親が死んで何も残らないで、ただ『死』だけを突き付けられるのは……どっちも辛い話なんだから」

「……」

 

 どんな表情を浮かべていたのか、分からない。

 顔を見ることができなかった。彼らの顔を……確かにある『現実』を見たくはなかった。

 

 悲しませていること位分かっている。

 でも、受け入れることなんかできない。

 ……責められる、覚悟もできてない。

 

 黙っていた旦那さんの方も口を開いた。

 

「苦しいし、悲しいだろうさ。……だけど、やっぱり、帰ってきてほしいんだよ」

 

 

 それが、どんな形をしていても。

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁ……」

   

 

 やはり、気が重い。

 コレ、あとしばらくは引きずるんだろうなぁ、とか思っていた。

 

 ……正直キツい。

責めてくれれば良かった。怒鳴られたり、罵声を浴びせられたりの方が良かった。そんなもの慣れている。化け物扱いだってすぐに忘れるから問題ないし。

 

 でも……こうゆう当たり前の人間の感情は苦手だった。

 

 責められているわけじゃないし、叱られている訳でもないのに、すごく追い詰められたような気持になるのだ。

 

 住んでいる場所こそ違えど生きている人間の思いは変わらない。

だから……聞きたくなんかなかった。

『同じ』だから、嫌だった。

 

「き、切り替え切り替え」

 

 そうだ、泥のように落ちこむことは後でだっていくらでもできる。今すべきことじゃない。……何より、スタングレネードはまだ残っている!

 

「よぉっし……行くぞ私」

 

 沈んでいた心境を全否定で一歩踏み出そうとした。

 

 その時だった。

 

 

「……!?」

 

 ぴりっと、肌の表面をなぞる感覚がある。

 ぞくぞくした何かが足先から這い上がってくる。まるで、体中の『何か』が歓んでいる様な――気持ち悪い感触。

 

「う、嘘……?!」

 

 あぁ、知ってる。

 

 この気持ち悪さと高揚感を。

 確かに身体が覚えている。

 

 

「――フライア! 緊急事態発生! 神機使いの応援を……」

 

 恐怖と衝撃で震えあがり、半ば混乱しかける心に冷水を流す。怖くて怖くてたまらないのに、頭の何処かでは冷静に計算が始まっていた。

 今からフライアから誰かが出撃して最短10分。平均15分。

 

 その15分を生き延びる方法を模索する、私の神機は急げばすぐに回してもらえる。通信網は生きているから輸送車に走ってきて貰えばいい。幸いここは瓦礫などの障害物が多いからアラガミの視覚も効きにくい。

 小型種程度なら私一人でもなんとかなる。

 ……小型種なら。

 

「そんな都合良い訳ないって……!」

 

 直感が告げている。『コレ』はそんな温いものじゃない、と。

 イヤイヤ無理だって。中型と単独なんか無理だって!

 

 け、けど何も討伐するわけじゃない……そう、15分ほど時間を稼げばいいのだ。

 ……15分も。

 

 問題は、『人』が多すぎること。

 

 

『神威隊員聞こえますか? 今、レーダーが中型種を補足! 他小型種多数! 神機回します、周辺住人の避難誘導を!』

 

 レーダーよか早かった私の勘。。やったね冴えてる。幸いスタングレネードはしこたま持ってるし、持たせてある。

 ……けど肝心なこと知らない。

 

「避難ってどっちに!?」

『え、えー……あっ、西側! 西側に避難用のシェルターがあるらしいです!』

 

 マジっすか……。

 何かちょっと引っかかるものがあるけど、今はそれしかない。

 

 

「み、皆さーーーーん!? 聞こえますかーー!? 今何かこっちにアラガミが来てるっぽいのでーーちょっと緊急避難の方をーーーー!!」

 

 ……もうちょい他に言い方ってモンがあったような気もする。

 

 すると、意外にもひょいひょい、と家から人が出てくる。

 ……物わかり、良すぎじゃない?

 

 とか思ってたら、皆さんそこにしゃがみこんだ。

 

 

「え? ガスでも出てる!?」

 

 毒ガス出すアラガミ……ザイゴードとかラーヴァナとかグボロ・グボロ堕天……キリがねぇ。

 

「大丈夫ですかーー!?」

 

 傍に駆け寄って気づく。

 具合が悪いんじゃない。コレは――――祈ってるんだ。

 

 何に? ……分かってる。だって彼らは『喰神教』だと言われていたじゃないか。

 

「……っっ!?」

 

 視線の遥か先には、『神様』が居た。

 お食事の真っ最中の。

 

 オウガテイルを片手で捻りつぶし、頭から喰らい上げている。

 姿形は蝙蝠を思わせる人型のフォルム、左右で形が違う、歪な大きな翼手。

 いつか見た、黒い、シユウ。

 

 

――お許し下さい。

 

 祈る人々の口からは、そんな声が木霊していた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。