ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

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腰抜けの主人公が今までのツケを払う13話です。









※多少展開が鬱っておりますので、苦手な方はご注意ください。


phase13 その弱さと向き合って

 不安がなかった訳じゃないかった。

 

 そうなる可能性は大いにあった。

 

 だけど――私はその恐怖から、目を背けた。

 

「何か心配事が?」

「……ない訳ないでしょう?」

 

 とげとげしい口調で、幼馴染の男を睨み付けた。私と同じく、父の部下として働いていた者だ。

 彼はどこか優しい苦笑を浮かべて私を宥める。

 

「確かに……もう少し錬成してから出した方が良かったとは思ってる。だけど……これは全て『支部』の――強いて言うならば出資者の意向だ。こっちが何を言っても聞き入れてもらえない」

「……分かってるわ」

 

 『コレ』が完成すればどうなるか。父が言う通り――助かる人間が増えるだろうとは思う。

 だけど、何かを見落としている気がしてならなかった。

 

 確かに、救われる人間も居るだろう、だが……その裏で、犠牲になる人間も居るのではないか?

 

「大丈夫さ……きっと、世界は良くなる。その為の研究なんだ……そうだろ?」

 

 

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程なぁ……けど、そうは言っても仕方なくねーか? そうゆうモノだって言われてたんだし」

 

 今更言われたってなー、とロミオ先輩は肩をすくめた。

 

「逆に、今までがフツー過ぎたんじゃないの?」

「……」

 

 そうかもしれない。

 

 あの後、実はびっくりする位何もなかった。例の黒いシユウ様は飯が終わったら、さっさと退場してしまい、それと同時に街の方々もさっさと元の生活に戻っていった。呆気にとられている内に終わっちゃったもんだから仕方がない。折角届いた神機も輸送車も「あれっ?」って感じになり……そのまま尻尾を巻いて帰ってきたのだ。

 

「でもさ、深く考えても分かんないと思うよ? それに多分……カンタンに分かっちゃいけないこと、なのかもしれない」

 

 人にも色々あるんだから、ってことか。ロミオ先輩は書類に目を通している。

 

「……それ、何ですか」

 

 つい話題逸らし。

 

 私のこの微妙過ぎる胸中を知ってか知らずか、コレー? と先輩は素直に返答する。

 

「ジュリウスが取り寄せしてた資料、を本人からじゃなくって事務の人に手を回して秘密裏に手に入れた物」

「……何故そのように回りくどいことを」

「んー……何かアイツが一人で色々抱え込んでそうだったから?」

 

 なぜ分かるのだ……能力者か。あんたは。

 

「そう……でしょうか……」

「そうなんですよー」

 

 特にやることもないし、言いたい愚痴は全部言った後なので、ロミオ先輩の読んでる資料を盗み見る。先輩もあまり気にしていないらしく……いや、もしかしたら口振りからすると内心見たっていいんだぜー、とか思っているかもしれない。

 一読したところ『神機使いによる遠征作戦失敗』だとか『偏食因子研究者行方不明――アラガミ襲撃の恐れあり』とか……実に穏やかとは言い難い内容だ。

 

「なんでこんなことを……」

「分かんない……強いて言うなら日付じゃない?」

 

 言われて日付の欄に視線を移す。今から2年くらい前だった。

 

「『赤い雨』と黒蛛病はここ1年くらい騒いでるじゃん。で……健太の病気は多分半年から3か月くらい。本人の話だとお父さんが行方不明になったのは2年前だって言ってたからさ」

「……」

 

 まさか、この作戦。

 

「全員行方不明だって言ってるけど……この行方不明って死体が確認できないだけ、だよな。誰一人腕輪も神機も回収されてねーんだって」

「……」

 

 参加者の名前とその年齢を見ると、殆どが……と言っちゃアレだが、神機使いとしては寿命ギリギリの年齢だった。多分……というか絶対、コレ片道切符の任務だったと憶測できる。

 

「……」

 

 結局フェンリル上層部は神機使いを単なる駒程度にしか見ておらず、しかも肝心な守るべき人たちはアラガミを崇拝している……なんて凄く出来の悪い笑えない冗談のような有様。分かっていたことだけど……こうして目の前に突き付けられると……かなり落ち込んでみたくもなってもいいんじゃないかと思う。

 

「先輩は……どう思います?」

「んー? 何が?」

「こんなの……無意味じゃないですか」

 

 言っちゃった……。

 ロミオ先輩の顔から軽い表情が取れる。怒られちゃったかなぁ……と内心おもいつつも、口先は止まらない。

 

「だって……だって、私たちがあの子のお父さんの腕輪だけ見つけたって、何が変わるわけじゃない……黒蛛病が治るわけじゃない。目の前に死を突き付けるだけじゃないですか……。腕輪だけ貰ったって困るだけなんじゃないですか」

「……それは……」

「だから意味なんて……何処にもないのに」

 

 私なんかが気づくようなことだ。

 ロミオ先輩はきっと……とっくに分かってる。自分でも、自分の気持ちが整理できなかった。

 そんな当たり前の事実を提示することで不愉快にさせたいだけなのかもしれない。もしくは、何か答えが欲しいのかもしれない。

 

 ……と、いうかこうゆう台詞を吐くこと自体、私らしくない。

 

 いつもウジウジ悩んで一方的に考えて自然鎮火するのを待つ。そうやって生きてきたハズだったのに。

 

 

 ……やっぱ謝ろ、今すぐゴメンナサイして、無かったことにして貰おう。そうするべきなんだ、と少し遅れた結論を出して口を開こうとしたその時。

 

 頭上から資料の直接攻撃が。

 

「ぐ……」

「ハイハイ。如何にも暗ーいお前らしいな!」

 

 そのまま、わしゃわしゃと髪をかき乱してくる。

 

「まぁ……お前の言う通りなのも事実だけど。……でも、だったら何だよ? お前は何もしないの?」

「……」

 

 人間的にはこう言いたい――そんなことない、と。

 

 だけど現実問題として……何ができるのか、と問われても。黒蛛病の特効薬を開発できるでもない、専門知識も技術もない、何もないほど……無力なのだ。

 強いて言うならば、神機から神鉄砲ぶっ放すこと位だけど……それだって中途半端極まりない。

 

「だろ? だったらできる事だとか、やれることをやるしかねーじゃん。この台詞ウケオリなんだけど……相手の考えてることが分からなくても、その人のためにできることをする、で良くね?」

「……」

「あいつの考えてることは……まぁ正直あんま分かんないし……きっとオレらの想像よりも辛くて苦しいんだと思う。でも、それでも……あいつ言ったじゃん。腕輪を探してくれって、一緒に帰りたい、って」

「……です、よね……」

 

 ロミオ先輩は納得しているのだろうか。

 

 しているのかもしれない……逆に、同じような無力感を噛みしめているのかもしれない。

 やはり、よく分からない。

 

 

 

 

「居た! 二人共!!」

 

「ん……? 何ですかぁ……?」

「……医療員……?」

 

 伊達にフライア生活を送っていないロミオ先輩の脳ミソにはフライアの人員情報が一つ一つ刻み込まれている。から、恐らくは間違いはない。

 だとすると。

 

「探したんですよ!!」

「ど、どうしたんですか!? 何かあったんですか!?」

「有りましたよ!! あの男の子! 危篤状態なんです!! 数日前まで正常だったのに……一体何が」

 

 ひゅっ、と息が詰まる。

 

「な、なんで……」

「こちらが聞きたい位です! とにかく……急いでください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、事態が動いたのはそれから半日経ってからだった。

 

 健太君は何とか容体が回復……とは言い切れないけど危篤状態からは脱して何とか面会は出来るようになっている。ただ、その頃になるとナナちゃんも先輩も任務が入ってしまったから、あの子に会えるのは暇な私だけ、ということになった。

 

 寝台の上には、かなり顔色の悪い少年が横たわっている。

 手足にはぐるぐると包帯が巻かれているが……これは外傷や出血によるものではない。

 見えないように、見ないようにする為のものだった――見えると、辛いから。

 何を言っていいのか迷った挙句、

 

「げ、元気……?」

 

 結局核弾頭を落とし込む。

 

 うわぁああああぁ! 私のバカーーーー! そんな訳ないでしょーーーー!

 

「……まぁまぁだよ」

「お、おう……」

 

 もしかして、自分、十代突入したばかりの男の子よりコミュ力が低いんじゃなかろうか……。

 

「唯さんさ……あんまりそうゆう質問しない方がいいと思うよ?」

「で、デスヨネ……」

「空気読めない訳じゃないんだからさー」

「……」

 

 読めて、尚ぶち壊してるんだからタチ悪いとは思ってる。

 

「あの、さ……」

 

 こんなこと言っていいのか、と不安になる。

 

 

 

「元気になったら……何したい?」

 

 

 

 

「元気って……それ、今みたいに落ち着くってこと? それとも、病気が治ったらってこと?」

「う……ど、どっちでもいいんじゃない?」

「何だ、それ」

「選択式だよ! どっちでもお手軽な方をどうぞってこと!!」

 

 うーん、と子供らしくコクビを傾げる。

 でも、顔は困ったように笑う。

 

「言われてもなー」

「あー……ほ、ほら! 病は気からって言葉もあるから! だからそんな悪い方には考えないで良い方向に行くように前向きに検討してみたらどうでしょう!?」

「えー……その理屈で行くと唯さん年中重体じゃね?」

「そんなこと………………」

 

 うっ、と詰まる。

 

 

「……………………ナイヨ?」

「説得力ない」

「……ぅぅぅぅ……」

 

 はい論破。論破されましたよえぇそうですねはい。

 

 

「……まず、局長さんが持ってきたバガラリー制覇」

「え、アレ……長いよ?」

「……マジ……?」

 

 つか局長何してんですか。外見に反比例な良いオッサン過ぎるでしょうが。

 

「じゃ、じゃあ……先輩さんに貰ったゲームクリア」

「そうゆうの!」

「ナナさんのおでんパン完食」

「完食……完食ね、うん」

 

 串は……ううん、何でもない。突っ込んじゃいけないんだ。そうだ。

 

「あと……あとは……」

 

 掛布がぎゅっと握り込まれる。小さな拳は、やっぱり子供の大きさだった。

 子供も握力でしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラケル先生の……椅子やりたいよ……!」

「それは駄目」

 

 

 

 

 

 

「……」

「駄目だよ。それやったら二度と人間扱いされなくなるからね? 命は助かっても人間として生きていけなければ人生に意味はないでしょう? お姉さん、そんな苦しい生き方を貴方に選んでほしくはないな。だから辞めよう、ね?」

「………………うん」

 

 分かって貰えて何よりだ。

 人道を踏破するにも力が必要だけど、その分のエネルギーを正しく使えば人生はより明るくなると思う。……それにしても自分でもビックリする程淡々と喋れたものだ。

 

 

「……ねぇ、どうして、お父さんの腕輪を探してほしいの?」

 

 深い意図はなかった。

 

 多分、私が安心したかっただけ、だろう。

 もしくは決意したかっただけ。

 

 ちゃんと探すからって、ちゃんと探してあげる、って、胸を張って言えるように。

 

 

 

「……だって……そうしないと……いけないから」

「……」

「母さんが言ってたんだ……会いたい、って。帰りたい、って……ずっと」

「……でも」

 

 言ってた筈だ。

 

 死んだ父親を探し続けている内に、母親も死んでしまったと。

 ……同じ病気で先に死んだと。

 

 

「分かってるよ」

「……だったら」

「分かってるんだよ。母さんは死んだ……だけど……だけど、それでも探すんだ……見つけないと、いけないんだ」

「……」

 

 

「だって……だって、他に何したらいいか……分からない」

 

「……」

 

 さっきまで、アレほど治ったら何がしたいか語っていたのに。

 

 ……だけど、きっと、こっちの方が本音だろう。

 

 

「じっとしてると怖い。……怖くて怖くて、たまらないんだ。おれ、人が死ぬの、結構見てきたんだけど……でも怖いんだ」

「……」

 

 それが普通だ。

 自分が死ぬのが怖くない人間なんか、居る訳がない。

 

 

 

「ただ……ただ、帰りたいんだ。皆で、一緒に」

 

「……うん」

 

 

 もしかしたら、ただ、縋っているだけなのかもしれない。

 必死に食らいついているだけなのかも――しれない。

 

 もう『それ』しか、無いから。

 

 

 だけど『見つけたらどうするの?』の一言だけは、聞くことができなかった。

 聞きたくなかった。

 

 

 

 病室を出た私は、ロミオ先輩とナナちゃんに連絡を入れようとしてロビーの端末に向かう。

 

 そこで、オペレーターのフランさんに呼び止められた。

 

「あの……神威さん、よろしいですか?」

「え……何ですか」

 

 

「実は……」

 

 それは、近くに発令される作戦の内容だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうゆうことですか!!」

 

 珍しく……というか絶対あっちゃいけないコトなんだけど、隊長に対して大声を張り上げている。

 

「……聞いたのか」

「聞きました、けど……」

「詳細は追って伝える。準備はしておいてくれ」

「……」

 

 中々引き下がらない私に、隊長はまだ何かあるのか? と問いかける。

 

「あ、あるって言われましても……」

「あるんだな」

「あ、有りますけど!」

 

 ああ、そうだ。こんなところで引き下がるわけにはいかない。此処だけは引き下がっちゃいけない。既にビビってるけど、何とかしてなけなしの勇気と言うモノをかき集めてみる。

 

「……強制執行だなんて許されるんですか!?」

「ああ。フェンリルの持つ切り札だ。相手に対する全人権の停止処分と言う強硬手段が存在する」

「なっ……!?」

 

 開いた口が塞がらない。

 

 何、それ……。

 

「い、嫌がる人たちを無理矢理に引っ立てるって言うんですか!? 此処に!? しかも此処に!?」

「フライアならば受け入れが可能だ。元々は移動式の『支部』。期間内であれば……最低限の安全は保障できる」

「だ、だけど……」

 

「もう譲歩は出来ないんだ」

 

 隊長は真正面から言い切った。

 

「……」

「調査の結果,地質としての特異性は見られなかった。だとしたら本格的にサテライト建設に動いた方がいい――そう本部が判断した、それまでだ」

「でも……だったら……」

 

 建設だったら人が居てもできるだろう、と。

 

 そうしない理由は何となくだが察しはつく――優先順位だ。

 『優先的』にまた人間を選んで、そこに入れる人と入れない人を選別するからだ。……できるだけ、フェンリルに従順で扱い易い人間だけを。信頼に足ると判断された者たちだけを。

 

 そこに、誰の意志も介在することはない。

 

 知ることも、考えることも、意見を言うことも、願うことも、祈ることも――できないまま。

 

 

「それが……」

 

 

 そうやって目に見えないような所で、何か大きなモノに運命を勝手に決定されていくことが。

 

 ……心底、嫌だったはずなのに。

 

 

「それが、神機使いの……『人類最後の砦』を名乗る、フェンリルの言う事なんですか?」

 

「……」

 

 ジュリウス隊長は黙ったままだった。

 沈黙の肯定と言うのか何というのか。ここで隊長に当たっても何の意味もないけれど、何かにぶつけられずにはいられなかった。

 今だけは八つ当たり衝動を止められそうにない。

 

「そうやって……人を『選別』してきた結果がコレなのに……? そのせいで一体どのくらいの人間が傷ついてきたんですか、どれ程の人間が死んだんですか! なのに、なのにまだ追い詰めるんですか? 縋ってるモノさえも奪い尽くすと言うんですか!?」

 

 黒蛛の病が出たらそこを切り捨て、

 都合の悪い人間を捨て、

 配給が回らなくなった区画はそのまま捨て去る。

 

 まるで、末期病の患者が腐ってゆく末端を切り捨てるかの様に。

 

 『本体』を生かす為ならば、一切の容赦はない――その先に在るのが命だとしても。

 

 たとえ、必死に生きようとしている人の意志があったとしても。

 ……生きたい、と願って縋りついていたとしても。

 

 そうやって役に立たない神機使いを切り捨てた。病気の親子を切り捨てた。

 子を失ったばかりの夫婦も、行くアテの無くなった難民も――見放して、見捨てた。

 

 

「人は……弱いんです。ほとんどの人間は本当に弱いんです……アラガミに対して無力で、戦う力どころか逃げる術さえ持ってない。そんな弱い人間が……何かに縋るのは悪いことなんですか……? ソレを切り捨ててまで、何を守り抜こうって言うんですか!?」

「それは……」

 

 ふと、喉の奥が冷える。

 

 ああ、そうだ。

 

 隊長は強いんだ。……ビックリするくらいに強い人なんだ。

 一人で何でも出来る人間は居る。何をやっても上手くいく人間は確かに存在するのだ。

 だから当然、差があって壁がある。

 

 だから、きっと、……分かってなんか貰えないだろう。

 

 だったら、何を言ったって良いじゃないか。

 

 ……どうせ、届きはしないんだから。

 

 

「貴方が……! フェンリルが守りたいのはただの『理想』だ! 自分が守りたいものを、守ってるだけだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 渾身の言い訳とも、タダの八つ当たりともつかない『其れ』を、思いっきり叩き付けた。

 慣れないことばかりやった所為か全身が強張っているのが良く分かる。握り込んだ拳に爪が喰い込む。

 

 

 だが、頭上から響いた声は思っていたよりも、冷え切って――固かった。

 

 

「言いたいことはそれだけか?」

「……」

 

 それだけな訳がない。言い返したいことは山程あった。

 だけど、もうこれ以上は言葉にできなかった。

 

 だから、いつもの様に言葉を詰まらせる。

 飲み込めないままの、感情を押し殺しながら。

 

 

「お前の言い分が理解した。否定はしないさ。今ある全てを以てして可能な限りを救う――それがフェンリルで、それが『ゴッドイーター』の在るべき姿だ」

 

 隊長の声は大声ではなかった。

 私みたいに感情任せに怒鳴っている訳じゃない――けど、間違えなく怒りのような何かが読み取れる。

 

 末端の一兵卒に過ぎない自分の口答えのせいか、生ぬるい理想論を唱えたせいか。怒られる理由なんて本当数えきれない。むしろ、今まで何も言われなかった方が不思議な位だろう。

 だから、言われるべくして言われた言葉だとは、理解していた。

 

 

 

 

「だから――――いつまでも弱いままで許されると思うな」

 

 

 

「……っ」

 

「動機が何であれお前は既に神機使いとしての力を手にしている。アラガミに対し、抗うだけの挑戦権を十分に持ち得ている……そんなお前が、何時まで弱者としての立場でものを言うつもりだ?」

 

「……」

 

 

 だったら抗え、と言ってくる。

 つまりは……こうゆうことなのだ。

 

 確かに怖かった。変わりたいとは思っていたし、弱い自分が嫌だった。

 だけど……

 

 私は、弱いことに縋っていた。

 

『強さ』から、逃げていた。

 

 

 そこまで言われてもまだ内心言い訳が止まらなかった。

 

 強さには責任が付くじゃないか、そんな責任なんか背負えないんだ。

 私はそこまで強くはないんだ。

 自信なんかない。

 誰かの期待に応えられる程の実力もない。

 

 ……そんなこと、今まで一回だって有りはしなかったんだから。

 

 

 

 だが、どれひとつとして言葉にはできなかった。

 

 

 

「甘えるな。神機使いとしての覚悟がまだ決まらないなら……この船を降りろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  それだって任務は有る。

 

 

 いつも通りの任務、いつも通りの日常。可能だと判断された程度の小型種の討伐。

 

 まだ……答えは出ない。

 

 ただ銃口をアラガミに向けてぶっ放す。何も考えないで撃ち続ける。

 ……もう、何も考えたくなんかない。

 

 ザイゴード、という球体と女体を足して割ったような浮遊アラガミを弾丸で叩く。小気味のいい音と共に肉が裂けて削れて、鮮烈に引き千切られる。壊して壊して引き裂いていく。

 穴だらけになっていくアラガミを見ても何の満足感もない。達成感も得られない。

 

 ただ、指令細胞群を破砕され、あとは消失していくだけになったアラガミに対して弾を当て続けていく。

 ……そんな無意味で無価値な、八つ当たり。

 

 

 やがて、弾丸が尽きる。

 

「何で……」

 

 柄を引っ張ってみても、神機は応えてはくれない。

 捕食形態にもなってくれないし、近接形態に代わってくれない。最初だけ丁寧にやってたその作業が……やがて力任せになっていく。

 

「どうして……!」

 

 あぁ、ダメだ。

 

 奥底からどろり、としたまっ黒な怒りがせり上がってくる。

 食いしばっていた奥歯が、噛み殺しきれなかった苦味が、溢れて、広がって、ぐちゃぐちゃに絡まっていく。

 

「どうして応えてくれない訳……? ……私の、何が気に食わないの……!?」

 

 黒い鋼は何も答えてくれない。

 ただ……静かに夕暮れ時の陽光を反射していただけだった。

 その先の真っ赤な空にも、雲はひとつたりとも存在しない。

 

 どこまでも澄み切っている。

 

 だから……もう、余計にやり切れなくなった。

 悔しくて辛くて……苦しくて苦しくて仕方のない、何処にも行く先のない気持ちが暴走する。

 

「そうだよ……! そうだろうね! 私なんか……私なんか、元々大した人間じゃない!! これと言った取り柄なんかないよ、根性だって曲がってるし、性格だって良くないし、自信なんて何それおいしいの、食べられるのって感じだし……役立たずもいいところの愚図だよ……そんなの、自分で一番分かってる!!」

 

 一度口に出すと、止まらない。

 どうせ……誰の耳にも入らない、誰かに届くことのない、腐れた独り言でしかない。

 

「でも……」

 

  

 きっと、この言葉に意味なんてない。

 

 

 

「足掻いたって……いいじゃない……!」

 

 

 

 そうだ。

 

 私……足掻きたかったんだ。

 

 

 

 最初から何となく分かっては居た。

 最新鋭の『ゴッドイーター』なんて……きっと、私には過ぎた役割なんだって。

 自分にそんな価値ないってことも。私のような平凡人間には身に余り過ぎているってことも。

 

 ……だけど。

 それでも、足掻いてみたかった。

 

 

 

「私だって、こんな私だって……何かになれるって、『何か』で在れるんだって……そう思えたから…………だから……!!」

 

 

 『普通』の人間だったら、きっと衣食住が取りあえず保障されている環境に居たら。一応家族が居て、アラガミへの恐怖もない場所で過ごせていたら……人によっては絶望さえしてしまうかもしれない。

 それだけの力が、神機適合通知の赤紙にはある。

 人の人生を、それまで続いていた当たり前の日常を破壊するのだから。

 ……だけど、私は。

 

 嬉しかったり、した。

 

 生まれて初めて、何かに期待してみたり……した。

 

 その結果がこの様だ。

 

「あははっ……はははははっ……」

 

 

 乾いた笑い声が口から洩れる。

 情けない。

 ただ……ただもう、自分が嫌だった。

 

 子供みたいに自分の感情のままに動いて、上手くいかなくなって癇癪起こして……終いには喚くだけしかできない、そんな幼さが本当に嫌だ。

 気力と体力があったら墓穴でも掘って埋まりたい。運が良ければ隙を付いて即身仏。

 何かもう、そんなんでいい気もしてきた。

 

「このままじゃ私……」

 

 偏食因子だってタダではない。神機の調整や整備だって人の手を煩わせる。毎回当たり前の様に受け取るスタングレードや回復錠だって……

 何より――

 

 役立たずが、生きてていい世界なんかじゃない。

 

 フェンリルは『そうゆう』所から、切り捨てていくのだから。

 

 

 

 

 

 

「神機使いで……居られなくなっちゃうよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あれ?

 

 

 

 

 

 私、今、何て……言った……?

 

 

 

 神機使い(・・・・)()いられなくなる(・・・・・・・)……?

 

 

 

 

 頭の中で、ぱちり、ぱちり、と欠片が埋まっていく。

 

 

 

 

――――『神機使い』の末路、って……なんだっけ?

 

――――偏食因子の許容限界を超えたら……どうなるんだっけ……?

 

 

 

 

 色々な情報がぱっ、と散り……ひとつの形に収束していく。

 

 

『ある日父さんは帰ってこなくなった……』

『大事な『本体』の方が無いわけなんです』

『お許しください』

『偏食因子は毎回神経質になってた位だから』

『大規模掃討作戦――』

『お許し下さい』

『最悪にして過去一番多く取られた処置は』

 

 

 

「あっ、あぁあぁぁあっ……!」

 

 

 

 そんな訳がない、そんなバカな話があるわけない。

 違うに決まってる、そう、きっとそうだよ……。

 

 

 けど、否定する材料が……何ひとつ、見つけられなかった。

 

 

 

 もし、『それ』が真実なんだとしたら。

 

 どこまでも。血に塗れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
















   ◇◆◇









『だが、人は――弱い』
「……そうだな」

 合成音声は感情を押さえつけた淡々とした言葉を紡いでいく。
 今ならば分かる。

 きっと、そうでもしないとやっていられないのだ。

『かつての私は……意志さえあれば、強き意志さえあれば、弱さなど圧殺し得るものだと信じていた。所詮この世は弱肉強食、世界を回す真実は何時だってシンプルに出来ている――――だから』

 そこで、数秒間だけ沈黙が入る。
 それはきっと、女が強がりを押し通すのに必要だった時間だろう。

『弱さなど、強引に切り捨ててしまえば良い……そう思っていた』

 まるで、懺悔のようだった。

『その結果が、このザマだ』












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