ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

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やっと停滞していた物語が進みだす14話です。









※グロ、残酷な描写が入ります。苦手な人は注意願います。


phase14 罪と罰と罷

 酷ぇよな、と彼は言った。

 

 

 

 それが最期の言葉になった。

 今、自分の白衣はその返り血で真っ赤に染まっている。鉄臭く、思ってたよりもずっと粘ついていて……それでいて、温かかった。

 

 どうしてだっけ、

 なぜ、この人は私か庇ったのだっけ。

 

 頭の中に霞がかかり、どこかぼんやりとしている。

 どんどん冷たくなっていく……幼馴染で、同僚で……つい1か月前に私に求婚してくれたその人の身体を押しのけ、放棄する。

 本当はこんな所に置いておきたくはないけれど、仕方がない。私とて無傷という訳ではないし……今は独りでも生きなくてはならない。

 愛しかった人の瞼を閉じさせて、白衣の内側を探る。

 護身用の拳銃といくつかの試験薬のサンプルを持ち出す――きっと、丸腰よりかは幾らかマシだろうと判断して。

 一瞬だけ目に映った薬指の指輪は僅かな時間だけ迷ったがそのままにしておいた。

 

 今は、研究室へと行かなくてはならない。

 

 そんな使命感だけが自分の身体を突き動かしていた。

 行って……『アレ』をとって来なくてはならない、アレだけはあいつ等に渡すわけにはいかない。何か視界が酷く霞んでいる、と思ったら案の定瞼がひどく腫れていた。……多分打撃か何かによるものだろうが痛みはないから放置しておく。

 

 拳銃で周囲を警戒しながら歩くし、ぴちゃりと水音が足元で鳴った。電灯の消失した中で目を凝らすとやはりその液体の正体は血液だった。一瞬だけ自分の足跡が残っているのではないか、という不安に駆られるけれどよくよく考えてみたらこの暗さだ。視覚強化でも行っていない限り追跡されることもないだろう。

 そう、当たりを付けて研究室へとたどり着く。

 

 

 幸いその場所は何一つ、荒らされてはいないようだった。

 ……あぁ、誰も来られなかったのか、と感傷じみたものまでが湧いてくる。

 

 とにかく、目的物を見つけ出し、ポケットへと突っ込んでいく。ついでに自分の傷も生理食塩水で洗って消毒薬をぶっかけ応急処置しておく。棚を開け、包帯か何かないかと探すが中々見つからなかった為、ガムテープで止血の真似事をやってみた。

 

 そんなことをのんびりやっていたのが災いしたのだろう。

 

「は……はははっ! み、見つけた、見つけたぞぉ!!」

 

 ひどくやかましい声が聞こえる。

 戦闘服を身に着けた男、若い、鍛錬されている身体……冷静に考えてこちらに勝算はない。

 

 しかし不幸中の幸い……男は武器を片腕ごと失っていた。さらに細かく観察すると腹部が血に染まっており、ぼたぼたと新鮮な血液がまだ垂れ流しになっている。そのせいなのか、ひどく取り乱していた。

 

「殺さなきゃ、ころ、殺すんだ、お前、お前らを殺さないといけないんだそうだそうなんだ……そ、そうゆう命令だ!!」

 

 無駄口を叩くから、どんどん消耗していくじゃないか。

 ほら、今でもボタボタボタボタ……と。

 

「ち、違う……違う違う違う! 俺は命令に、しっ、従っただけなんだ! こんなのは聞いてない……任務、任務に忠実だっただけなのに……なのにお前ら!! 狂ってる! 狂ってやがる!!」

「……何が?」

 

 自分でも驚く程冷たく静かな声だった。

 緊張しているし、動揺しているのはこちらだって同じだ。――だからと言って相手にバラすことが得策と言えるわけではないのだけど。

 

 

 

「ア……アラガミは!! 人類の敵だろうが!!?? な、なのに……なのにお前らは!!!!」

 

「……ここは研究所よ? 検体としてのアラガミは必要になるでしょう? ……そいつらのコアがあって……不思議かしら?」

 

 男は間抜けな面を浮かべる。

 

「は?」

「……」

「はっ……はははははっ……! 何だよそれ何だよ……?」

 

 否定はしない、するつもりもない。

 私だって彼だって反論はした、だが他に策などなかった。時間も物資も何もかもが。

 コレは皆で決めたことだ。

 

 その決意を……下らない言い訳などで汚したくはなかった。

 

 

「私たち非力な普通の人間の科学者が戦闘の専門家に敵う訳がない。だから使えるモノは何でも使った。なりふり構ってない自衛手段にご不満でも?」

「だ……だからって普通アラガミを使う……か……?」

「そうね、コレは『賭け』に等しかった。……もし手練れの神機使いが一人でも居たら、今頃私たちは『お望み通り』に蜂の巣だっただろうから」

 

 男は信じられない、と言った表情でうつむいていた。

 その間にも血がどんどん溢れ出している。

 

 こいつらは……本当に、何の対策もしてこなかったのか。

 そんな安易に殺せると思われていたのか。

 

 私は銃口を、瀕死の男へと向けた。

 乾いた音と共に銃弾が発射されて、男が崩れ落ちる。悲鳴と共にそいつは床をのたうち回る。

 きっと激痛なのだろう――だって、銃弾には微量の『オラクル細胞』が練り込んであるのだから。

 

「痛いでしょうね」

 

 動く男を火事場の馬鹿力で押さえつけでわざと中和剤を投与してやる。もちろん、ケガが治るわけではない。次に通信用機器を――もっとも偏食場の関係でこの場所に足を踏み入れた瞬間狂う様にしてはあったが――ひとつひとつ丁寧に破壊していく。

 

 そこまで来て、やっと、私の中から……怒りや殺意、憎悪と言った感情が漏れ出してくる。

 

 

「どうして」

 

 僅かに声帯が狭くなって、声に震えが奔る。

 

「私たちは……ただ、人類のために、と作っていただけなのに? ただ……神機使いの生還率を上げようと思っていただけだったのに……? それが――こうやって皆殺しにされなくちゃならないことだったの? それほどまでに罪深いことだったと言うの……?」

 

 うるせぇ、と男は吐き捨てる。

 吐血で真っ赤に染まった唇が歪んでいく。

 

 

 

「その神機使い達だよ、反対したのはな!! はっ……はははっ……! んなもんが実用化されてみろ、あいつらは無茶な作戦を連発されて、ずーーーーっと死地に送られ続けることになるだろうが!! 怖いよな、嫌だよな、だから潰すんだよ!!」

 

 自棄になっている訳じゃなさそうだった。

 目には恐怖と僅かな媚びが含まれている。

 コレは……きっと煽っているんだ。何かの拍子でラクに死なせて欲しいから。

 呪詛は続いていく。

 

 

「お前……お前らは! 救おうとしてた奴らに潰されたんだよ!! ザマァ見ろ!! はっ……はははっ!!」

 

 あんまりにも腹が立ったので両手に一発ずつ撃ち込んでやった。指が醜い断面図を見せながら吹き飛び、掌が赤黒くに潰れる。

 

「謎が解けたわ……ありがとう」

 

 白衣の内側から薬液を取り出して浴びせ掛ける。

 

 もう、此処に用はない。

 

 

「『ソレ』は挑発フェロモンよ。希釈前だから濃度なんか知りたくもない位のね……じきに、アラガミの大群でも襲ってくるんじゃない?」

「なっ……」

 

 男の顔は絶望に彩られていた。

 

 

「せいぜい祈ればいい……先に、失血死できるといいわね……? ……幸運を」

 

 

「お……お、い……!? 待て、待てよ!? ふざけんな……ふざけんなふざけんなふざけんな……! 殺していけよ!! 殺してくれよ!! な、なぁ……待てよ!!」

 

 まだ懇願の声が聞こえてくる。

 

 奴がどんな死に方をしようが知ったことではない。……だって同じように、今ここで皆死んだのだから。

 

 あぁ、そうだ。それでいい。

 

 

 何もかも神に喰われて消えればいい。

 

 

 

 

 

 ……それでも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっとタンマぁっ!!」

 

 ……やっぱ他に言い方があった気がする……!

 

 い、いやいや、此処まで来て何を尻込みしているんだ私……もう後には退けない!

 と、自分を鼓舞してみるけど、胸の奥にはやっぱり案の定どこまでも虚しい寂寥感しか存在しない。

 

 

「ブラッド……?」

「え、何でここに?」

 

 居ちゃ悪いんですかね……。

 ……悪いよね、そうだよね、どう考えてもね。その点は本当申し訳ないと思っております。はい。

 

 と、いうか、今の状況が中々スゴイ。

 一体何が起こっていたのか不明だけど数人のフライア武装兵員が多数。武装にはあまり詳しくはないケド予想するにコレなら対人どころか対アラガミにでもそこそこ張り合えるんじゃないかと思える程の重装備だ。

 そんなのが、いつしか出会った美人町長さん(仮)に銃を突き付けちゃっているという修羅場。

 

 毎回思うんだけど……ひょっとして、私……間が悪すぎる呪いにでも罹っているのでしょうか……。

 

 

「そのー……任務で凄く近くまで来たんでそのー……」

「……」

「……」

「……神威ちゃん、君のその調子外れなところは評価してるけど今は笑えないよ、今は」

「……ゴメンナサイ」

 

 折角の言い訳フェイズだったのに何故か3fc芝居以下の謎のコントが展開されてしまった。だが、しかし今はそんなことしている場合ではない。

 思い出すんだ。

 何をしに此処に来たのか、何がしたかったのか、

 今、何を成すべきなのか。

 

 コレが正解かどうかは分からない。でも……確かに言えることは一つある。

 

 ――私は、この人と話に来たんだ。

 

 

 

 

「まず……お聞きしたいことが……あるんです」

 

 早速胃がキリキリと痛み始める。

 

 

 

 

 

「ここは……貴女達は『喰神教』じゃない……そうですよね?」

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 沈黙は肯定と捉えていいだろう……多分。

 

 

「そもそも……初めから何処か変だった。アラガミを崇拝する組織にしては……ちょっとこの街は合理的すぎる」

 

 多分、ここは喋っていいんだろうなーと何となく空気がそう言っているような気がした。半分は願望込で。

 最初は……彼らがただ過激な信仰を持たないだけの集団なんだと思っていた。

 だが、それは違った。

 

「調査機器にはオラクル系の素材が使われています……のに、あなたたちは拍子抜けするほどアッサリと受け入れた。それに……その後散々……本っっっ当に散々……色んなもの投げつけられたり除霊されかけたりしながら配りまくったスタングレネードにだって何も言わなかった。……聞こえたのは、フェンリルに対する不信感だけけ」

 

「……除霊?」

 

 そ、それはともかく。

 

「教義的な不平や不満をひとつとして聞いていないんです」

 

 調査機器にはオラクル細胞が入っている。その理由はアラガミの出す偏食場パルスは通常の機械で探知することができないからだ。だから、オラクル細胞で感知したソレを機械化測定するという仕組みになっている……らしい。神機なんぞはもっとアラガミに近い……どころか実はアラガミそのものだし、スタングレネードはアラガミの――オラクル細胞の活動を一瞬停止させる。

 だから、絶対何か言われると警戒していた。

 ……のに、予想とは打って変わって、彼らは何も言わなかった。

 

 その『信仰』を盾には……しなかった。

 

 

「それに……先日、ここにシユウ変異種が確認された時……『シェルター』があると聞いたんです」

 

 そうだ、言っていたハズだ。

『え、えー……あっ、西側! 西側に避難用のシェルターがあるらしいです!』……って。

 

 

「喰神教を一括りにして考えようだなんて思ってません……ですが、2072年アメリカ支部で報告が上がっているんです。支部内で発生したサリエル変異種への対応の際、喰神教と接触したゴッドイーター曰く……『アイツらすっげーやべーー。祈ってるだけで全然逃げなかった超やべーー必死こいて移動させたわマジ必死だったわ折角の休暇だったのにオフ返して』…………と」

 

 尚、とある神機使いの証言は任務報告よりそのまま引用しました。させていただきました。その件に関しましては私のせいじゃないから謝らないよ。

 

「何……だと……!?」

「アメリカにはスゲエ奴が居る……! 任務報告を何とも思ってないばかりか、それが半永久的に残るってことをまるで気にもしないツワモノが居やがる……!」

「一体どんな精神力しているんだ……!? 脳組織まで強化した強化ゴッドイーターか何かか!?」

 

 フライア兵の皆……突っ込みどころが違う!

 

 

「と、ともかく!! あなた達はちゃんと『逃げよう』としていたんです! 逃げる場所を作ってまで居るんだ! だから……少なくとも『喰神教』とは考えにくい……だったら」

 

 ちょい短絡的かなぁ、とは思いつつ。喰神教なんて多かれ少なかれそんなものだ。過激派になるとフェンリルの活動阻害どころかテロ、誘拐、破壊活動までやる。その信仰は支部内外に幅広くフェンリルも下手したら把握しきれない。

 だから……できるだけ、そうだと確定できた集団には――それが特に害悪をもたらさない『穏温派』だと思われた場合には――フェンリルは、『あえて泳がす』とあまり関与はしない。

 

 

「『喰神教』を装いたかった、偽りたかった……フェンリルから目を逸らす為に」

 

 

 どこまでも苦い言葉になる。返す刃で自分が傷つくのが分かる。

 それは……まぎれもない『弱者』の思考、力もなく群れることでしか生き残ることのできない者の考え、強者からこそこそと逃げ回るだけの生き方――だから。

 

 だから、私にだって理解できる。

 

「貴女の口から聞かせてください……どうして、フェンリルから隠れたのか、そして何が貴女を――皆を此処に縛りつけているのか」

 

 隠れたくて隠れている訳じゃない。

 逃げたくて逃げている訳ない。

 

 きっと……きっともう、『それ』しかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あの『アラガミ』は――シユウの変異種は……人、だったんですよね……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し長い話を聞いてください、と彼女は言った。

 

「私は元々フェンリルの研究者でした。……私の父も。私は父の研究の助手をしておりました」

 

 やっぱりそうだった。

 

 隊長の調べていた資料――1年前の科学者失踪事件と研究所へのアラガミの襲撃事件のことが思い起こされる。

 

 

「昔、父は何人もの仲間を失ったそうです。あの時代はまだ……偏食因子という概念が成立して間もない頃だった。暴走を抑えきれずにそのまま帰らなかった人も少なくなかったと聞いております。だから……だから、父は偏食因子の改良を目標としていた。……帰ってこなかった仲間や、同じ運命を辿った私の母の仇討ちとして」

 

 皆が押し黙った。

 神機使いとその遺族たち……この世界のどこにでもある悲劇のひとつ。

 

「父が目指したものは携帯型の偏食因子です。神機使いが簡単に持ち運びができて、少量の投与で長時間の活動を可能にする代物」

「なにそれすごい」

 

 超欲しいんですけど。

 そんなものがあれば……私たちの心配のタネもひとつ消失するだろうに。

 

「……そう思う人ばかりなら……良かった」

「……」

 

 思わなかった奴も居た、という事らしい。

 

「父は……焦り過ぎていた。もっともっと時間をかけるべきだった。自分たちの作っているものがどれ程の影響を――良くも悪くも、もたらすのかという事をもっと考えるべきだった……。きっと、冷静ならばそう出来ていたのでしょう、でも……時間がなかった」

「……黒蛛病」

「調べてくれたのですね」

 

 ただの偶然だったんだけど。

 黒蛛病の情報が欲しくって色々漁ってたらまさかのヒット。……極東地区がヤバすぎるだけで他の赤い雨の発生地区は割と限られていたからだ。

 特定できてしまう程度に。

 

 

「父は黒蛛病だった。時間がなかった。だから……携帯型の偏食因子が実用化できれば多くの神機使い達を幸せにできるのだと……信じて、疑わなかった……そして」

 

 一瞬だけ彼女の息が止まった。

 長い黒髪が蒼白になった肌に不気味なほど映えていた。

 

「……研究途中だった物を、出してしまった」

「なっ……!」

 

 先日見たあの情報は――やっぱり繋がっていた。

 

『神機使い』としてギリギリの年齢やあまり高い適性を示せなかったゴッドイーターを集めた長期遠征。

 その実態は……すごくすごく体裁の良い……人体実験。

 できるだけ損害を出さず、かつ失敗に終わったとしても世間に漏れることなく隠蔽できる方法。

 

 

「その……結果は……」

 

 誰も、帰ってくることはなかった。

 無理のある任務で全員死んだのだと思っていた……。全滅したんだと、思ってたけど……

 

「えぇ、知ってのとおりです。……『誰も』帰っては来れなかった」

「……」

「そして……フェンリルが出した責任の取り方は……銃だった。研究に携わった研究員からその家族まで皆殺しだった……どうやらその採決には本部の退役神機使いも居たようだけど……私たちは正式な処分を受ける事さえできなかった……」

 

 真実は重く、あまりに突拍子もなくて着いていけなかった。

 凄すぎて……そして複雑で、怖かった。

 人が抱いた正しい復讐心が暴走し、結果多くの死者を出した。その彼らの死に報いる為により多くの人間が犠牲になっている。

 

 誰もが守りたいものや叶えたい願いの為に――どこまでも非情になっている。

 

 この人がその地獄からどうやって逃げ出してきたのか……考えたくないし、想像もつかない。

 

 

 

 

 

 そして、話はまだ終わっていない。

 

 

 

「それで、何があったんですか?」

 

 

 その先が、あるハズなんだ。

 語る彼女の目に怯えの様なものが奔った。

 ……その様子が告げている、真実は、苦いと。

 

 

「そう……全滅だと聞いていた……失敗だったと、聞いていたのです。……ですが、完全な『失敗』ではなかった――そう、成り得なかった」

「……」

 

 なって欲しかった、と彼女はつぶやく。

 

「命からがら逃げ延びた私は……逃げた出した先で、遭遇しました」

 

 口調が何処か……言いよどんでいた。

 きっと言葉を探しているのだろう、出来るだけ口当たりと耳ざわりの良い単語を。

 何となく、そんな風に見えた。

 

 

「人の精神を……持ったままの、アラガミと」

「――っ!!」

 

「身体は既にアラガミに堕ちていた……それも、かなり中途半端に。どうすることも出来なかった。腕輪を浸食され、神機とも同化していた。どうすることも……できなかったのです。

 それでも……『彼ら』は人であり続けた……そう強要され続けていた……」

 

 ……できる訳がない。

 ゴッドイーターの世界でも更に一段階常軌を逸脱している話だろう。

 それなのに。

 話自体はすんなりと理解していた。携帯型偏食因子の実験台にされてしまった神機使い達は、投与限界を超えて『死亡』かもしくはそれに近い形になった、だが、ごく一部は生き残ってしまったのだろう。

 多分、理性や記憶、感情などを司るであろう部位を残したまま……全身をオラクル細胞に浸食されてしまったのだろう。

 自分ってこんなに理解力高かったっけ……。

 

 

「それで、彼らはどうなったんですか」

 

 

 

「彼らは……最後まで、任務に忠実でした。精神まで浸食が進み最後には……自我さえ、滅んでも」

 

「『ゴッドイーター』であろうとしていました」

 

 

 何故か、過去形だった。

 

 

 

「出来る訳が……ない。そんな都合のいいものが、あるわけがない」

 

 身体だけが神で、心が人。

 この世界にそんな都合の良い物が……どこまででも、人にとって都合の良いものがあるわけがない。

 この世界の摂理はそこまで甘くはないのだ。

 

 だったら、どうした?

 世界が人に恩寵を与えてくれなくなった――前時代の人間たちは何をした?

 捻じ曲げたじゃないか、世界の『摂理』の方を。

 

 どうして、これまでこの廃街の人間たちが生きていられたのか。フェンリルのアラガミ装甲壁もなしに、なんで生き延びてこられたのか。

 それは……アラガミが都合よく襲ってこなかった……からじゃない。

 

「だから……祈っていたんですか……?」

 

 彼らは『ゴッドイーター』に守られていた。

 でも。

 

 そんな『奇跡』がいつまでも続くわけがない。

 だから……

 

「……何を、したんですか……?」

 

 思い当る節が無かったわけじゃない。

 ただ……それを正解だとは思いたくなかっただけなのだ。

 認めたくなかった。

 信じたくなかった。

 

 初陣の時隊長だって、ロミオ先輩だって……言っていたじゃないか。

 

 アラガミは食べたモノの『性質』を取り込むことができる――――って。

 

 

「何を……したんですか……!?」

 

 気管と声帯が一気に狭くなったような気がする。

 息を吸い込むことも、言葉を発することも、今の今だけはひどく難しいことのように感じられた。言葉で聞いただけなのに、衝撃や驚愕が抑えられない。

 

「……人を……」

 

 思わず言い方を変える。

 

 

「人の体を……喰わせた?」

 

 そうだよ。

 だってここには、こんな時代で、こんな世界に……ないといけないものが、欠けている。

 

「死体を……?」

 

 

 その美しい女は黙ったままで、一度だけ深く頷いた。

 足元から世界が崩れていくような妙な感覚が伝っていく。大事な何かがぐらぐらと、壊れて零れて……消えていく。

 

 

「何で……そんなこと……!」

 

 分かっている。

 本当は……分かっている。

 

「どうして」

 

 

 より多くの人間を救う為だったのだろう。

 こんな世界だからこそ――人は、縋れるものにならば何にでも縋ろうとする。

 例え、それが半神半人の神機使いだろうが、世界政府に成り代わったフェンリルだろうが。

 そんなこと……分かり切っている。

 

 彼らがただ、生きたいと願っただけの……普通の人間だということも。

 

 だけど、これだけは言わずにはいられなかった。

 

 

 

「分かっていたハズ。そんなことをしたら――二度と、戻れない」

 

 

 アラガミは喰らったものの性質を取り入れはする。

 だから……人の脳を食べればその形質を真似て崩れていくその形を再構成していくことはできるんだと、思う。

 でも…

 

 如何にアラガミと言えど、自分と同じ形のものを、喰べることはしない。

 それを応用したのが『偏食』なんだから。

 

「二度と……人には、還れないのに……!」

 

 

 

 全て済んだこと、終わったことなんだ。

 何もかもが終わってから何か正解はなかったのか、と人の傷口を掻き毟る。

 何の意味もない、ただの人を傷付けるだけ問答だったけれど。

 

「……『彼ら』にも、全て打ち明けました。それしかない、と……それでも、選んだ、願った。往き付く果てが地獄の底だと分かっていても……全てを受け入れて」

 

 少しでも永く、人で在りたい、と。

 

 

「最後の1人も……もう、人としての意識はほとんど残っていません。……ですが、コレだけは繰り返し言っておられました……帰りたい、と。家族の居る場所へ……子供の待つ場所へ、帰りたい、と」

 

「……え?」

 

 

 まさか。

 

 いや、そんなまさか……だろう。

 でも……隊長の言っていた情報と全部合致する。

 

 だとしたら……本当に……ありとあらゆる意味での凄い偶然だ。

 

 と、動揺したのがいけなかったのかもしれない。

 

 その人が銃口を突き付けていることに気付けなかったのだから。

 

 

「……許されようとは思いません。……ですが、償う術など分からない……ただ、もう……私は、疲れました」

 

 そして、彼女は。

 すべての重荷を降ろしたかのように、どこかしら晴れたような。

 泣いてるような、笑ってるような表情と共に。

 

 本当に、小さな声で。

 

 

 

  あなたが、どんな人間なのかは分からない。

  でも――どうか――――。

 

 

 

「……『皆』を救って、下さい」

 

 

 そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 自動扉が開き、ロミオとナナがロビーへとほぼ同時に突入してきた。

 

「隊長聞いた!? ブラッド緊急出撃だよ! 予定建設区にアラガミの大群が向ってるんだって! 一体何が……」

「つ、つかさ……唯が、任務行ったまま戻んないんだけどさ……お、おい、これヤバくね? 夜だし……視界悪いし」

「ああああ……嘘でしょ、唯ちゃん……分かるよ、コレもう十中八九ロクな目に遭ってないよ!」

「……や、やっぱそう思いますか香月さん……」

「思いますよレオーニさん! しかもーあそこは今強制移住計画実施中ー! フライア人員が多く入ってるんだから! さぁー! 助けに行くよーっ!」

 

 と、実に分かりやすい会話を交わしていった。

 

 事態は数分前に巻戻る。

 

 フライア全体がそろそろ強制移住させよっかなー、という強引極まりない最終手段に踏み切ろうとしていたその時、常識では考えられない規模のアラガミの大群が『予定建設区』へとなだれ込んでいる……との知らせが届く。

 フライア側はこの事態に対し、既に入っていた人員、そして非保護の『難民』達を見捨てるわけにはいかず、切り札、特殊部隊ブラッドの緊急出動を要請。

 ……したのだが、何故か1名絶賛行方不明中につき、取りあえず居る奴らだけで出撃するかー、という事になっていた。

 入隊し初めてのスクランブル出動であるにも関わらず、香月ナナの行動は迅速だった。見た目こそ少女だが、どうやらかなりの度胸が据わっているのかもしれない。 

 

 あの調子ならば恐らく平気だろう、とロミオは隊長に向かって声をかける。

 

「ほら、さっさと行こうぜ! 隊長」

「……」

 

 だが、隊長――ジュリウス・ヴィスコンティ大尉の反応は、彼らしくもなく、どこか鈍いものだった。

 

「お、おい、隊長! しっかりしてくれってば!!」

「……」

 

 まさかスクランブルでビビっている訳でもあるまい。

 

 だが、確かに何か思いつめているらしくその表情はひどく苦いものに見える。

 普段どこか浮世を踏破、さらに跳躍している男の……ひどく人間臭い場面に遭遇し、何気この顔レアショットだとロミオは場違いすぎる感想を抱きつつもロミオは焦る。

 事態はどんどん悪くなっていく。

 状況は更に混迷を突き進んでいく。

 自分ではどうしたらいいのか、分からない。判断できない。だったら、指示が欲しい、指揮を執ってほしい。

 それができるのは――『隊長』しか居ない。

 

 

「……あいつの、言う通りだ」

「ん? あいつ? ひょっとして、唯のこと?」

 

 先程思いっきりド派手に口喧嘩をかましていた少女を思い浮かべる。

 普段これでもか、という程気弱で悲観的、かつ弱腰な駄目なヤツが珍しくこの完璧超人に突っかかっていた。『強い人間に弱い人の気持ちなんか分からない』と叫んでいた。

 

 ……そんな平凡な人間の思いでも、届くものがあったらしい。

 

 

「俺は……やはり、自分の守りたいものしか……『理想』しか守れない。結局、エゴを押しつけただけなんだ……情けないが……それは紛れもない事実なのだと、思う」

「……あー」

 

 

 どうやら、ぬかるんだ思いに足を取られていたらしい。

 

 

「俺はこんな……こんな思いで、何を守ろうとしていたんだろう……と少し省みてな」

 

 

――こいつ、本当真面目すぎるんだよな。

 

 ロミオはそんなことを思いつつ、1つばかり年上の……だがたった1歳しか年齢の変わらない、自分の指揮官を見つめる。

 きっと、本当はコイツだって分かってる。

 今はただ……一瞬だけ立ちすくんでいるだけなのだ。

 きっとすぐにでも、自分の力だけで歩き出す。

 それでも、だ。

 

 

 

「なぁ、『ジュリウス』」

 

 

 

 自分の腐れ哲学を押し付けるつもりはない。

 考えを説教してやろうだなんて大層な立場などではないことは重々承知。

 だが……今だけは、慰めるフリをする位ならば、許されるだろうという気がした。

 誰だって、弱ってる時――聞きたい言葉のひとつやふたつは存在するのだから。

 

 

 

「お前さ、馬鹿だろ。頭のいい馬鹿だろ。あんまり、くよくよ考えすぎるなってば」

「……」

 

 

 

 自然に零れたのは、軽い苦笑だった。

 

 

「ほとんどの奴はさ、お前みたいに強くないんだ。何でもできる、って訳じゃないんだ。アラガミとだって戦えないし、逃げることしかできないし……そうゆう人間の気持ちはさ……きっと、お前には分からないと思うよ」

 

 

 アラガミを唯一倒すことのできる『神機』それに適合し操ることのできる『神機使い』――それこそが人類の儚い希望の萌芽であり、同時に最後の砦でもある。

 

 そして、その存在に誰でも願えば成り得る訳ではない。

 

 

「同じようにさ、お前の強さも弱さも、あの人たちには通じない。そんだけじゃなくって、多分……唯にも、ナナにも、届かないし伝わらないよ? お前だってあいつらの弱さを理解できないと思うし」

 

 

 きっと、オレのも。

 その言葉を口腔内で噛み砕きながらも、ロミオは言葉を続けていく。

 

 

 

「……分かり合えることなんてさ、ないと思うんだ」

 

 

 言いそびれた其れは、ひどく苦くて固く、喉の奥へと突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だけど、いいじゃん、ソレで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 だから何だ。

 

 

 

 

「オレは知ってる。お前が強い奴だってこと……まー、だけど強いからその分、案外脆い奴だってことも? ……そんなの、唯も知ってる……と思うし、ナナだってさ、多分きっと分かってるよ」

 

 

 

 

 

 おでんパン少女はともかく、弱腰後輩の方はあまり自信を持てない。

 ……け、けどきっと分かってるハズ……! 

 

 ……だよな?

 もうそれでいいや、とぶん投げておく。内心言い訳が止まらないし、言わないとやってられないんだ。

 

 

 

 

「お互い『知ってる』……それだけ、だけどさ」

 

 

 

 

 

 

――――それ以上何ができるって訳でもないんだけどさ。

 

 

 

 

「支え合うこと位出来んじゃねーの?」

 

 

 

 

 

――――そうやって『支えあって』生きているのが此処の流儀なんだろ? 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからほら、お前が守りたいものを、守りに行こーぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 その位だったらさ、いくらだって付き合うよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だってオレ達、家族なんだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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