ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

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色々覆りそうで覆らないようなそうでないような15話です。













phase15 ラケル先生のためなら死ねる

 我ながらスゲエとは思った。

 無理でも何でもやってみるもんだなー、と思った。

 

 

「確保ーーーーっ!!」

「おぉぉぉおおおおおおぉぉーーーーっ!!!!」

 

 なんてことはない。ただ。

 

 ……ちょっとスタングレネードを投擲しただけだ。

 

 

 

 うん、そうだよね! やっぱり物理力は全てを制するんだよね!

 ちょっと怯ませる位だったら御の字ですー、とか思って投げたスタグレが、まさか命中するなんてね。更にまさか引き金の所をピンポイント狙撃するとはね、まさかそこで炸裂するなんてね!!

 

 ……きっと、いや、間違えなく向こう3か月分の幸運を、今ここで全部使い切ったと言えるかもしれない。

 

 

 

 そうして奇跡と奇跡と奇跡の末に出来上がった光景は……。

 

 妙齢の美人に群がっていく戦闘服のオッサン共……。

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 

 

「ちょ、や、やり過ぎは駄目ーーーー!!」

「ふん縛れェェエエエ!」「束縛じゃヒャッハーーーー!!!!」「口ん中何か詰めとけェ!!」

「台詞がダメだぁああーーーー!! やめて差し上げて!!」

 

 元研究員な美人さんは何が起こったかよくわからない、といった顔でぐるぐると色んなもので体を簀巻きにされていく。濃い青の目が散々彷徨って……私へとロックオン。

 声帯を通さずに言葉を視線に乗せて問う――どうして、と。

 

 ……デスヨネー。

 

 

「ぁー……」

 

 少しばかり迷って、言葉を吐き出すことにした。

 そんなの、決まってるじゃないですか。

 

 

「……し、死なせたくないからです……!」

 

 

 そりゃそーだろ。

 その場に存在するほとんどの人間が抱いたであろう心の声が、何故か聞こえてくる気がする。

 

 

「あなたみたいな!! 頭よさげで綺麗な人が脳みそブチマケて自殺する姿なんか見たくないからです!! そんなもの見ちゃったらトラウマになります!! 夢に出ます!! 不眠症になります!!」

 

「……じゃあ目を瞑っていれば……?」

 

「……っ!」

 

 盲点だった。

 

 

「だ、大体貴女が何をしたって言うんですか……!」

「……」

「確かに……シャレにならない話――だとは思いますけど……で、でも! 別に生きてる人間にトドメ刺した訳でもないですからぁー……そ、その……貴女ががやらかしたことはせいぜい死体遺棄! 昔どっかの国でやっていた鳥葬みたいなものと!! そんなに変わったことじゃありませんから!!」

「…………」

 

 言いきった!

 もう、こうなったら暴論でも何でも通しちゃったものが勝ちだ。総員がありとあらゆる意味で絶句するのがよく分かった。だけど、たとえドン引きされようがあまり悔いはない。

 

「……でも……その前に……一人始末し……」

「録音してる人いたら切ってください、あとは聞かなかったことに」

 

 懺悔なら他の人に願いたい。そんなものまで背負いきれない。

 

 

 

「それに……」

 

 

 ほんの少しだけ、ためらった。

 

 私は……この人がやったことを、正しいことだったなんて口が裂けても言うことはできないだろう。

 肯定することも、弁護することも……多分できない。それどころか、本当に正しいことだったのかどうかなんて判断することさえも。

 ……そんな資格、ないから。

 

 だから、どこまでも無責任だとは自覚している。

 綺麗事だってことも分かっている。

 

 

「自分に罪がある……だから許されないとか、価値がない、なんて思ってる貴女を」

 

 

 そしてその綺麗事が……この人の為だけのものじゃない、ということも。

 自分が信じたいものなんだ、ということも。

 ……それでも。

 

 

 

「必要としている人たちが、沢山居るんです」

 

 

 

 発した言葉が鏡面反射するかのように、跳ね返る。

 

 ……そうだ。

 

 足手まといかもしれない。

 情けないかもしれない。

 弱くって、しょぼいかもしれない。

 ……だけど。

 

 

 

「だから……逃げないで下さい」

 

 

 

 それだけは……しちゃいけなかったんだ。

 

 それさえ守れば、あとは……ぶっちゃけ万事どうにかなるんだ。

 

 

「逃げないで、できる限りの精一杯のことをやるんです! 苦しくっても、ダサくても、情けなくても……何ができなくっても、何もできなくってもーー誰かの為に。それだけです!!」

 

 

 

 それが、きっと人間の形。

 

 本来、あるべき人の形なんだろう……多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、つ、繋がった!! 聞こえますかブラッドー04 神威唯さん!? いいですか……落ち着いて聞いてください』

 

「うわっ!? び、びっくりしたぁ……ってフランさん!? ……ど、どうしたんですか……」

 

 イキナリ入ってくる通信音声にやや緊張したフランさんの声。

 あーコレもう分かりましたよ……もうコレ絶っっ対いいお知らせじゃないでしょう。もっと言うとロクな通知だった試しがございません。

 いいだろう……来いよ! と内心覚悟を決めて待つ。

 

 

『今そっちに……アラガミの大群が……本当もの凄い数が! 向かっています!』

「……」

『詳しい位置情報はまだ把握できていません。掴み次第お送りしますので、その場に居る民間人の避難誘導をお願いします。何卒――御無事で!!』

「…………」

 

 

 

 やっぱり現実は予想の壁をミゴトにチャージグライドォ……! するんだね。

 

 

 

 

「どうして!! 今!! 敵が来るんですかぁ!! もう! 本当こんな時にぃ……!! 状況が悪すぎる!! ……あ、ひょっとして私が居るから、かな……」

「マジかよ」「死んだなオイ」「どうしたモンですかねェ……」

 

 早くも諦観が流れつつあるフライア組。

 

「あー……戦術マニュアルどこにしまったっけ……」

 

 網膜投影をパチパチやる私。

 もう何か覚悟を決めた顔つきになりつつあるフライア兵たち。装備を確認する者。銃を握りしめる人。更には胸元に下げたドックタグを握り込む人や遺書代わりの音声記録を取ろうとしている輩まで居やがる。

 

「あった……ありましたよー! 入れといて良かったぁ……えぇっと……避難経路に従って広域シェルターへ……ってやっぱどこですかソレ!?」

「うわぁ……」

「つか、ブラっ娘ちゃん。これもう経路とか言ってる場合じゃないんでねぇの?」

「デスヨネー……じゃ、じゃあ……」

 

 考えたって何も出てこないですけどねー!

 

 とか思っていると、思わぬ場所から指示が飛んできた。

 

「そこ!! 貴女!! 赤いスイッチ押しなさい!!」

「え……えぇ!? ちょ、自爆だとしても思い切りが良すぎじゃ……」

「な訳ないでしょう!? いいからさっさと押す!!」

「は、はいぃっ!!」

 

 スマキになっている元研究者女史に命令された。何度だってしつこい位に言うが、私は権威と権力、ついでに威厳や尊厳、カリスマ性……といったものに弱い。

 だから、脊髄反射でスイッチ・オン。

 鳴り響く警戒音――――こみ上げる不安感。

 

 

『緊急アラガミ警報ーー緊急アラガミ警報ーー状況赤ーー状況赤ーー』

 

 一体何が始まると言うのですか。

 

 

「これで皆避難しますから大丈夫……! さっさと脱出しますよ!!」

「え……? えぇええぇえ!? 解決!? こうもアッサリ!?」

「何も解決していない!! 全員がこの場所を脱出するまでの経路確保と……アラガミの足止めを! ……頼みます……『ゴッドイーター』!」

「そりゃそうですケド……でも避難って何処に!?」

「フライアが全員受け入れてくれるのでしょう!!!?」

「そ、そうでしたぁ!! スミマセンごめんなさいぃぃ!!」

 

 窮地で使える人間と使えない人間の差ってこうゆう所に出てくるんだなぁ、と改めて思いました。

 今の心境を一言で述べるならば……生まれてきて、ごめんなさい。

 

「じゃあ皆さん! 行きましょう!! 誘導は……何か……もうこの簀巻き様の言う通りに!!」

「は……はぁ……ですが」

「ブラッ娘ちゃんよ、それでいいのかアンタ。腐っても一応エリート部隊の端くれだろうに」

「うぐ」

 

 生死の危機にあったとしても、人の心は割と正常に傷つくのだ。

 

「ひ、人には向き不向きがあるんですよ……! そ、そうだよきっと! だから私は1匹でも多くのアラガミをぶっ殺してきます!!」

 

 だって、それしかできないから。

 

 

 

 

 

 

「……と、言われましても」

「どっから攻めてくんのかサッパリだしなーォィ」

「大丈夫だー俺には自決用の拳銃があるぅー!」

 

 ……そうじゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車椅子の上、黒衣に腰まで届く長い金髪。青い目の少女にも老齢にも見える女性は月の女神を模したステンドグラスを眺めながら笑った。

 

「嗚呼、やはり……そうなのね」

 

 

 ラケル=クラウディウスは艶やかに、柔らかに、笑う。

 

 

「そう……新しい力の目覚めと覚醒。新たなる秩序と序列……そして世界に起こりうる、変革と革命」

 

 

 P-66偏食因子。

 それは第二世代までの既存のゴッドイーターに投与されているP-53型や公式記録上ではたった一例しか成功しなかったP-73型とは異なる。

 偏食因子の交代と世界の変革。技術革新の時はすぐそこまで迫っている。

 

 

 

「良いでしょう」

 

 

 アラガミは進化した。

『感応種』と呼ばれる特異な力を持つ種の台頭。並の神機使いの持つ神機は『支配』されて全く作動しなくなると言う。

 ならば、人も進めば良い。

 

 

「『荒ぶる神』と『新たなる神話』その序章は」

 

 

 今はまだ、役者も舞台も揃ってはいない。

 

 だから、ここから始まるのは、序章。

 

 やがて訪れる神と人との物語――その、序章を

 

 

 

 

 

 

「あなたから……始めることとしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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とりあえず、何とかして市内に出た私は。

 

 

「と、富田さん!?」

「唯ちゃん……!? 何でこんなところに……?!」

 

 フライア兵団御一行様とまさかの遭遇。

 黒いヘルメットに防弾ベスト、編み上げの長靴と市街戦用の戦闘用迷彩服。突撃銃とオラクルを練り込んだ銃弾。また、RPGや無反動砲を抱えた姿もちらほら見える。

 と、いうか気づいた新事実。フライア警備員の皆さんってこうゆう時はやっぱり戦闘員なのね……。

 

「あの、今コレ一体どんな状況……」

「あ……あぁ……今から集団避難をさせようと思っていて……出動時に使ったのと持ってきた輸送用のトラックに積み込んいる。……ただ、思ったより敵が来るのが早すぎた! 東側の壁から来ているようだがかなり危ない」

「……了解、じゃあ、そっち行きますね!」

 

 

 

 

「皆さん! 輸送の都合により手荷物は最小限です! 繰り返します、手荷物は最小限です 現金、通帳、印鑑の類だけを携帯してください!」

「あると思ってんのか」

「とーちゃん、げんきんってなにー?」

「混乱防止の為、車両避難は禁じています!!」

「だから!! あると思ってんのか!!」

「いや、だってマニュアル口上にはこう言えって……ねぇ?」

 

 深夜、大勢の今現在『保護対象』になった難民たちはぞろぞろと戸外に出ていた。

 

「兵隊さん……爺様の位牌を持って行っちゃならんでしょうかね……」

「位牌は構いません! 急いでください、点呼を怠らないように!」

「位牌……お、すげぇ本物だ……!」

「爺様に触るんじゃねぇだらっしゃぁああああああ!」

「出た! 婆様の爺位牌久遠葬送!! 誘導してくれてる人をボコすなんて、並の常識じゃできねぇことを平然とやってのけるッ! そこに痺れる憧れるゥ!」

 

 

 

 ……と、その時。

 

「おい……アレ……!」

「うわぁぁああぁっ!」

 

 まぎれもなく切迫した誰かの悲鳴。その声が次々と人の列に連鎖していく。

 当たり前だろう……だって、そこには。

 

「オウガテイル……!?」

 

 改めて、コイツはこんなにデカかったのかと思った。神機を構えて応戦しようとしたその時……

 

「行け!! 唯ちゃん!!」

「……へっ?」

「ここは僕に任せて、君は行くんだッ!!」

「いやちょっと!? え? え!?」

 

 飛び出したのは……富田警備長さんだった。

 

「二尉!!」

「そんなに偉い人だったんですか!?」

 

 今明かされる衝撃の真実。

 

 富田さんは、神機もなく、ただ体一つで目の前のアラガミへと吶喊していく……!

 無茶だ、彼はゴッドイーターですらないのに……!

 

 そこで気づく。

 富田健次郎さん……体に何か巻いている……?

 

 

「まさか……!」

「皆! 目を閉じるんだぁああああ!!」

 

 

 ……汽車の前方に人がいたら警笛を鳴らすのはなぜでしょうか。

 汽車が傷つくからじゃない。

 

 相手が跳ね飛ばされるからだッ!!

 

 

 

「うぉおおおぉおおとどっけええぇええッ!!!」

 

 

 

 その雄叫びはまさに機関車の警笛!……じゃないって。

 

 富田健次郎さんは……覚悟を決めたようにそう声を張り上げると……体に巻き付けてあった『ソレ』から、ピンを引き抜いた。

 

 

 笑った、ような気がした。

 

 

「富田さっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「富田系フラァッッッシュ!!!!」

 

 

 暗い空の下。眩い閃光が迸る。直視できないから、自動的に網膜投影機のブラインドが下がった。

 

 

 

「今だッ! 囲め囲めぇ!」

「動きが止まったぞぉぉおおお!」

「見たか! 人類の叡智スタングレネードの力ッ!! 人類の怒りを思い知れぇええええええええっ!!」

 

 

「……」

 

 

 

 零距離グレネードの効果はばつぐんだ!

 フライア兵団の皆さんは、オラクル成分配合のナイフだの銃剣だのでアラガミ様をミンチに変えていく。そして露出した核へ偏食因子っぽいものを……。

 

 ……今夜の夕飯は喉通りそうにないかもしれない……無論、生きて帰れたらの話だけど……。

 

「さぁ行くんだ唯ちゃん!! ここは僕たちに任せてくれ!!」

「大丈夫なんですか富田警備長さん!?」

「ははははっ! 心配ないさ!!」

 

 何故か無事だった眼鏡がきらり、と星屑の光を反射した。

 

「僕の肉体は装甲壁さ!」

 

「………………………………………………はい、ソウデスネ、ハイ」

 

 

 フライア兵団のみんなは、ここぞとばかりにO-アンプルを分けてくれた。コレだけあれば何とかなりそうな気もしてきました。はい。

 そして、即席地図を出して東側の壁へと走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 って言いましても多すぎでしょうコレ……!

 

 投影画面に映るのは……もうあまり考えたくない位の多さだった。

 しかも判別できない。何となく、動いてないのがコクーンメイデンじゃないかとは思うけど……。

 

「と、とりあえず1体ずつ……あ、無理だコレ……」

 

 各個撃破とか言ってる場合じゃないかも……。

 とりあえず、撃ってから考えよう、という方向で行くことにした。とにかく今は……この大群をコレ以上壁に近づけさせる訳にはいかない。

 最悪自分を囮にしてでも……とか思うけど、やっぱり余裕があるうちは出来るだけ優位に立って戦えるに越したことはない。実のところ決心とは裏腹に今この瞬間にもバンバン救援信号を連打している。

 ……早く誰か来てくれないかなぁ……と思いながら。

 

 高台から、アラガミに向かって一斉掃射。

 弾丸状に構成されたオラクル細胞がアラガミ数体を切り刻み、地面に縫い付けていくけど……一時的に足止めをしただけだ。追加スタングレネードを投げて停止させておく。

 ……もうこんなことばかり繰り返してる。

 

 できることは足止め位なものだ。

 撃破した個体数はせいぜい十数体だろう。

 

 その癖に、取りこぼす数は増えている……市街地に入っちゃったアラガミが増えている。

 けど……結局、こんなことしかできないんだ。

 自分の無力さは、よく分かっている。

 

「……だけど……」

 

 もう、決めたんだ。

 

 

 その時だった。

 

「っえ……!?」

 

 オウガテイルが1体、目の前に跳躍してきた――!

 思わずバックショットを繰り出し後方へと飛ぶ。10メートル程一気に落下し、上手く衝撃を逃がして着地。ゴッドイーターになる前から……足にはちょっと自信があったけど……改めて思う。肉体強化すげぇ。

 足が痺れただけだという凄さ。

 

「このっ……!!」

 

 高台下を観察した結果、あぁ、そうかと納得した。『仲間』達の捕食した後や死体に昇って這い上がってきたのだと。

 敵ながら創意工夫にとんでらっしゃることだとは思うけど、そうも言っていられず、迷うことなく爆裂系の強力めのバレッドを押し込む。

 発射数自体は減ったものの――威力が上がる。

 

「当たってくださいお願いしますっ!」

 

 銃口からは撃ってた連射系よりも、反動の大きい弾丸が放たれる。

 それはさっきのオウガテイルに直撃し、続いて爆散。神様の頭骨が弾け飛び、肉片と共に体液が飛散。そこに真っ赤な花が咲いた。

 とりあえず1体……と、思ったがこっちはアドバンテージを失っている。

 しかも……さっき皆から分けてもらった弾丸補充も残り半分を切っている。

 

 改めて、これもう駄目かもしれない……という予感に襲われた。

 

 だって。ほら。

 

 さっきまで見向きもしないでぞろぞろ一方通行していたアラガミたちが、近くに獲物が居ると分かった途端にこっちに集まってきている……!

 

「ちょっ……!」

 

 空気の弾丸が目の前に迫ってきた。

 文字通り風を切って迫る攻撃を、何とか倒れ込んで数センチ差で回避する。

 けど……そしたら。

 

 目の前にザイゴートの巨大な顎が、ぼっかりと大きな口を開いていた。

 

 

「あっ……うわぁぁあっ!!」

 

 思わず悲鳴が上がった。

 

 

 

 

 ……が、

 

 微妙に噛み合わない歯は、何も噛めないままパックリと半分に両断されていた。

 少し遅れて、球体っぽい上半分が、面白い様にそっくり返る。

 

 こんな風に、綺麗な断面で斬れるのはアラガミの喰い千切った傷では有り得ない。

 ……これは、刀剣で『斬った』跡だとハッキリわかった。

 

 

 

 

 

 だって、はっきり見たから。

 

 そこに居る、人を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長!!」

 

 

 

 

 

 

 見間違えもしない。

 フェンリル極致化技術開発局ブラッドのピクニック隊長……ジュリウス隊長だ。

 頭の上のバナナと言い、やけに構造が複雑怪奇な貴族趣味っぽい服装といい……マジのマジで隊長だ。

 夢や幻やホログラフの類なんかじゃない。

 

 

「あれ……でも一体どこから……」

 

「あぁ、ヘリから市街地に入り侵入してきたアラガミを排除、そこから救援信号通りに一直線にアラガミの大群を抜けてきた」

「……」

 

 うわ……確かに言った通りだ。

 隊長の後ろには道が出来てる。死屍累々で屍山血河な。つか神機のやべぇ血みどろですわ。

 

「遅くなって、すまないな」

「い、いえ……ってか人間業ですかソレ……」

「あぁ……ロミオとナナも一緒だ。避難民の護衛が終わり次第、合流すると言っている」

「……!」

 

 駄目だ。

 まだ泣いちゃ……だめなんだ。

 泣いてる場合なんかじゃない……そんなことは余裕が出来てから……いくらでもすればいい。

 

 状況はあまり好転していないんだ。

 相変わらずアラガミはゴチャゴチャ居るし……まだ何も終わってないけど……。

 

 なぜか、生きて帰れる。そんな気がした。

 

 ……みんな、一緒に。

 

 

 

 

「あ、あれ……でもフライアまでの護衛、ナナちゃんと先輩だけでなんですか……? それってちょっと……いや、かなり無理じゃ……」

 

 隊長は余裕の笑みを浮かべつつ、ザイゴードをまた1体両断しながら言った。

 

 

「無用な心配だな。見ろ」

 

 と、隊長が指す方向を見ると。

 ……そこには――

 

 

 

 

「勝利の女神だ」

 

 

 

 ……フライアが、見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラケル先生! 見えますか!! 俺は!! 此処に居ますよ先生あぁ先生マイゴッデスラケル先生!! ラケル先生Я люблю вас!! ラケル先生の為ならたとえ火の中水の中世界の終末まで何処まででも!! 私は往きます先生先せぇええーーーーい!!!!」

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうした……!? まさか……戦闘疲労のせいか……!? 眼球から瞳孔が消失しているぞ、無理はするな!!」

「す、すみませんちょっと今……あぁ、世界は今日もキレーだなーと思イマシテはい……」

 

 

 そう、どんなに地を這って生きる人間が……色々あっても。

 きっと、世界は美しいのだ……生きてる人間がアレでアレなだけで。

 とりあえず青いお月様は今日も綺麗だなー……などと意識が現実逃避しそうになってしまっただけだ。

 

 

 

 

「……お前の言う通りだった」

 

 イキナリ何ですか。

 

 

「俺に言ったな……お前は守りたいものしか守れない、と」

「……」

 

 

 …………。

 

 分かってましたよ。

 分かってましたよ……そう言えばそんなことも口走りましたネ……私……。

 

 でも……今、言わないで下さってもいいじゃないですか……。

 

 

「うわぁぁあああああ!! す、すみません! すんません本当!! ソレは!! 忘れる方向で考えて下さい!!!! っていうか忘れてください!!!! もう本当に恥ずかしくって死にたいんです本当……」

「いいや、お前の言う通りだ!」

「何でそこ頑固なんですか!?」

 

 頑迷なお人だ!

 

 だが、態度とは裏腹に、口調は苦渋に満ちていた。

 ……あれ? コレは本当に……真に受けちまって……る……?

 

「俺は……結局、俺は」

 

 隊長は銃形態にリロードしながら、言葉を重ねる。

 少しだけ、自嘲的だった。

 

 

「『自分』が守りたいと願うものしか、守ることなど出来ない人間なんだ」

 

 

 ……お、思ったより深刻っぽい……。

 …………完全にデマカセだった分……申し訳なさ倍増。

 

 

 

 

 

「……だから、ここに来た」

 

 

 そして、壁内……今まさに避難中だろう、市街地に向かって、

 叫ぶ。

 

 

 

「聞こえるか!? 死にたくない者は……」

 

 

 そこで、はっとしたのだろう。

 言い方を変える。

 

 

「生きたいと願う者は!! フライアへ行け!!!!」

 

 

 

 オープンチャンネル越しに声が拡散していった。

 

 ……届いたはずだ。きっと、誰の耳にも。

 

 今、生きようとしているすべての人間へと。

 

 

 

 ……って素直に言いたいところなんだけど……これ、いつから回線全開だったんでしょうか……。と一縷の疑問がもたげてしまう。

 

 ともかくこの瞬間は、もしかしたらさっきの女神への愛の惨禍もアレだけ大声で叫んじゃったんだからもうこの辺りの生存者全員に拡散しちゃってんじゃないかなーと思ったり思わなかったり別に隊長的にはそれでも良いんんじゃないかもしれないけどフライア全員がそーゆー思想の持ち主じゃないだろうかと疑われるようなことでもあったりしたらもう人間世界で生きていけない気がするしこの際だからいっそのこと私もラケル先生信仰に目覚めた方が良いのかもしれないという自分の中の弱い心と言う名の悪魔が囁いてくる謎の呪言から何とかして耳を背けることで必死だった。

 

 

「いつかお前に言ったな? 結局、自分のことは自分にしか決定できない――と」

「……あー……はい」

 

 確か……アレはまだ。

 『覚悟』があるかと問われて……何も答えられなかった、頃のことだ。 

 あの時と比べてみると分かる。本当に、亀よりすっとろい歩みだった。

 

 だけど、それの何が悪い。

 

 

 

「爪も牙も持たない人類だけが持ち得る力……"意志"こそが、人間に与えられた"最大の武器"なんだ」

「……」

 

 

 

 それは初陣の時に言っていた言葉だった。

 

 

 

「だから」

 

 

 きっと、それが……隊長の守りたかったものだったんだろう。

 

 

「世界に抗い、生きようとする人の意志の力を。その力を使用すべき機会と時間を……人の決意を」

 

 

 

 

 きっと、それが……今できる、精一杯のことなんだろう。

 

 

 

 

「守り通して見せるさ」

 

 

 

 

 ――誰かの、為に。

 

 

 

 

 

「付いてきてくれるか?」

 

 

 

 

 返事はもう、決まっている。

 

 もう、迷いはない。

 

 

 

 ……今のところは、とりあえず。

 

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