ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

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前回でカンの良いお方たちは思ったかと思われますが。


またしても、懲りずに

オリ展です。

(今回は短めです)



phase20 彼らの望む物

「凄いな、人多いんだなフライアって。スゲーしデケー。支部が1個町ごと移動してるみたいに見えっぞコレ」

「そっスかー? まぁ、今は色々あって人が多いんスけどね。でも、最大収容人数はもーちょい余裕があるっぽいッスよ」

「凄すぎるな!?」

「でしょー」

 

 ……と、まぁ、予想通り。

 ロシアの隊長さん、アーサー・クリフォード氏さんと我らが先輩ロミオ・レオーニ氏はすぐに打ち解けあった。あの自己紹介ならぬ事故紹介……もとい、顔合わせで唯一空気をよんだ人物であり、ぶっちゃけ赤毛という――全くの偏見にすぎないのだが――第一印象からして、何か人懐っこそうな暑苦しそうな人だなーと思っていたら案の定そっち系だったというわけだ。

 

 同じく人懐っこいロミオ先輩とは意気投合して……しかも、どうやら先月アーサーさんも19歳になったらしく、早々にして19歳同盟を打ち立てて居たのを、ガッツリ目撃したりもした。

 正直見ても誰も得をしなかったのだが。

 

「流石本部直属だよなー。小物一個取ってもロシア支部よっか全然モノが良い! ここアレもあるんだろ? あのー……神機兵って奴」

「あー、そうそう! 知ってたんスかアーサーさん!」

 

 

「知ってるも何もないですよ! アーサーさんったらいつも『シルブプレ?』なんですよロミオさん!」

「お、おいオリガ! 言うなよ!」

「良いじゃないですか別に。どーせ皆バレるんですからー……そう、きっと、いつか」

「だからってバラすなよ!!」

「えー? いいじゃんシプレ。何だよ好きなら最初っからそう言えよー、俺も大好物ッスよ!!」

「……マジ、かよ……! ロミオ……! やったぜオリガ! 同志が増えたよ!」

「あっちゃー、ヤッベぇーここも汚染地区でしたかそうですか。感染さないで下さいね」

「人を病原菌みたいに言うんじゃねーよ!」

「病気じゃないですか。主に頭と心と精神が」

 

 

 ……と、まぁ上官に対して色々容赦のない女の子がオリガちゃん。

 ラケル先生よりも色の淡い金髪に深い緑の目がくりくりっとしたいかにもロシア美少女、といった感じの子だ。長い髪は頭の両側でツインテールにい結ってあり、黒いリボンで纏められていた。

 そして……スラブ系らしくかなーり発育の良い……分厚い胸部装甲をお持ちになっている。

 ……年齢、2こも、下なのに……。

 

 全体的に小柄なのに、手足は長くて細くてどっちかと言うとすらっとしてて綺麗。

 ……なのに、胸だけが……デカいって……反則でしょう。……人類的に。いや、別に羨ましくなんかはない。

 羨ましくなんかない。

 

「情けなっ! ……うちの隊長こんなでごめんなさい、神威さん。香月さん。……ってかアーサーさんももっとちゃんと隊長っぽくしたらどうなんです!?」

「う、うるせー……オレだって努力してるんだぞ……!?」

「はいはい、吠えてろ。結果も出てないし、特に誰の役にも立っていない。ただ続けても空気中の貴重な酸素を消費して二酸化炭素を排出し続けるだけの無駄なこと極まりない作業ならやっていますよね~?」

「オリガ―――――ァ!」

 

 アーサーさんの精神がゴリゴリと削れていくのがよく分かる。

 

「ま、まぁ……スミマセンと言えばうちの隊長もね……?」

「そんなことないですよ! ブラッドの隊長さんって……どっかの誰かと違って凄くカッコイイし背高いし、どっかの誰かと違ってイケメンだし、顔立ち整いすぎてるし、やっぱりどっかの誰かと違って大人っぽくて真面目だし、その上どっかの誰かと違って階級高めでお金持ちっぽいし!」

「他人のこと誉めるのはいいがさりげなく俺のこと貶すのやめてくれない!? なぁ、やめてくれない!?」

「何ですか、自意識過剰ですよアーサーさん。誰が貴方の事なんか貶すんですか」

「お前だよ!!」

 

 仲良いな……ロシア支部……。流れるような罵倒が最年少っぽいオリガちゃんから隊長であるアーサーさんへと紡がれる間、もう一人の隊員――ヘルマン・シュルツさんはあまり口数が多くないタイプの人間なのか会話に加わろうとはしない。だが、黙っていても親密な空気が十分に感じ取れていた。まるで……横で子犬が2匹じゃれ合っているのを見ている飼い主みたいだ。

 情報によると、ヘルマンさんは近接系短剣型使用の典型的な前衛らしい。右目に眼帯をつけていることから……視界に若干ハンデがあるのではないかと予測できる。また、彼は銃形態での戦闘が見込めない分……リンクバーストもできないと考えていいだろう。

 そう、彼らロシア支部の派遣ゴッドイーター達は……『第一世代』、俗に言われている『旧型』使いだった。

 

 

「ですってよー? 隊長ー? もう皆気にしてませんからー? ほら元気だしてくださいよー?」

 

 と、私は手を拡声機型にして呼びかける。

 部屋の隅の壁で体育座りでしょげ込んでいる……ウィア・レジアに。

 

 

「やっべぇ……まだ落ち込んでんのかあの人……」

「後からジワジワくる系なんだよなぁ……ジュリウスって……しかも下手に練習重ねちまったからその分…」

「成程ですね、でもまぁー、どっかの誰かと違って超絶イケメンだから許されますよね!」

「だーかーらー! もういいんですよ隊長ー? ほら皆謎の記憶喪失に陥りましたから!」

 

 ……返事がない、ただのピクニックの様だ。

 

 もしかしたら精神の方はどこか彼方にピクニックしていやがるのかもしれないけど。

 ……でも、気持ちも分からないことはない。自分でアレだけ言っていた初対面で……アレだけやらかしちゃったもんね……。男というのはプライドの塊で構成されているらしいから、コレはかなりキツイハズだろう。

 

 その時、パシュ、とドアが開いた。

 

「一同お集まり頂いただろうか……!? 大変ながらくお待たせして申し訳ない!! この騎士! エミール・フォン=シュトラスブルクッ! ただいま紅茶と共に帰還した次第!」

 

 そこには、黄金に煌めく騎士が存在した。

 左手には紅茶のポッド。右手は大きく高々と掲げられている。目は何故か閉じられており、口元には優雅な笑み。

 何故かそこだけ異空間が形成されているような気がしないでもないが、きっと気のせいでしょう、ということで脳内処理した。

 キコキコキコと少々遅れて自動制御システム搭載型のワゴンが到着する。

 

「オリガ殿、コレで問題ないだろうか?」

「あっりがとーございます! エミールさん! 多分大丈夫だと思います!」

「何、礼には及ばない。淑女の頼みを聞き届けることも、騎士としての務めなのだから!」

 

 ファッサァ……という擬音めいた音まで聞こえてきそうな勢いで前髪……というか横髪をはらうエミールさん。オリガちゃんが背負っていた背嚢から瓶を取り出す。

 出てきたのは果物を砂糖で煮込んだ保存食――ジャムだった。

 

「折角だから皆さんロシアンティーで一杯やろうと思いまして! でもお茶っぱなんか何処にもないーと思って居ましたらエミールさんが大量に持ってきてくださったと聞きまして! 極東って凄いんですね!」

 

 オリガちゃんはニコっと快活に笑って人数分のカップを用意し始めた。

 ナナちゃんも私もコレはちょっと嬉しかったりする。ここ最近は朝もミートペースト昼もミートペースト夜もクッソ不味いミートペースト……。あとは栄養剤と水。サプリメントと水、乾いた乾パンとボソボソのビスケットと水……といった素晴らしく充実した食生活を営んでいたのだから。おでんパンでも食ってなきゃやってられなかった。

 

「ほらージュリウスー……お茶だってさー……折角用意して貰ったんだから飲めよ~? ……なーぁー」

 

 ロミオ先輩が隊長を懐柔しに行った。

 なんだかんだで仲がいいからね、あの二人は。

 だが、心の傷は思ったよりも深かったらしい。ぴくりともしない、あのバナナ。

 そこでふと、私は思いつく。

 

 

「隊長ーー? ほら、隊長の好きなラケル先生ですよー? 見てくださいこのプロマイドー」

 

 

 以前、訓練が上手くいっていなかった私(phase04参照)に隊長が手渡してくれたものだ。これなら……と一縷の期待をかけてみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お手数お掛けして申し訳ありません、ロシア支部さん。お言葉に甘えさせて頂きます。お前達も貰うと良い」

 

「……ほら、蘇生」

「……早」

「……まー……うん……結果オーライだよ……うん……」

 

「いや、少々待たれよ。今……」

 

 エミールさんが歯切れ悪く言うと、パシュとまたドアが開き、何やらゴツい金属を搭載したワゴンを、ブラッドのゴリラ別名ギルさんが運んできた。

 それを見て、思わず驚く。

 

「サモワール?」

「わー、知ってるんですね! 流石は神威さん!」

 

 オリガちゃんが満面の笑みを浮かべる。

 おでんパンを齧っていたナナちゃんが疑問符を浮かべた。

 

「なぁに? その『さもわーる』ってー?」

「んー……ポットみたいなものだよ。っていうかポットだよ全自動電動湯沸し器」

「良く知ってるねぇ、唯ちゃんにしては」

「家で使ってたからね。たまーに」

 

 オリガちゃんがポットを受け取り、ティーカップへと注いでいく。そして給湯機の下部についている蛇口をひねってお湯を出す。直接希釈。……豪快だ。

 

「ジャムは皆さんお好きにどうぞー。人数分のスプーンもありますよ! ペロペロ用の器がないので悪いけど中に直接ブッ混んで下さいねー」

「……なになにー? どうゆうこと?」

 

 ナナちゃんが分からない、と言った様子でコクビを傾げる。

 

「あのね、ティーポットの中にはリンクバーストを重ねた濃縮紅茶レベル3が入ってるの。そのまま飲むと死ぬ。だからね、ああやってポットの中のお湯を追加することにより濃縮還元。つまり希釈することで飲みやすくするんだよ。後は残りの紅茶の入ってるティーポットをサモワールの上に設置しておけばいつまでも温度を保ちつつお茶を飲めるという訳」

「そうなんですよ神威さん! アーサーさんは未だにこの飲み方が気に入らないらしーんですけどねー!」

「なんつっーかさぁー……紅茶って感じじゃねーんだよ何となくな」

「うっざ……この時代に他文化を受容するだけの感性がないなら……とっととくたばりゃいいのに……」

「もうオレ泣くよ? 泣いていい? なぁ……なぁ!」

 

 なんてことをモゴモゴと口腔内で咀嚼するアーサーさん。名前や外見からすると、かつてグレートブリテン島あたりにあった曇天と皮肉と紳士の国の血を受け継いでいるのだろうと思う。名前など、エクスカリバーでも引っこ抜けそうな立派さを誇っていることだし。

 アーサーさんが何故か意味ありげにうちのギルさんを一瞬見たが、ゴリラは黙したまま熱湯を啜っていた。

 

「その通りだ。アーサー殿! この混沌にまみれた世界に於いて!! 人々は常に交わり交流をすることによってその身を寄せ合い生きしのいできたッ! その途上に於いては、泥をすすり、汚泥を踏みつけて生きねばならなかったことだろう!! しかァしッ! 人はかつて誇った栄華……! かつて人間たちが築き上げた叡智と誇りの結晶を忘れることはなかったッ! それこそが、我々は受け継いでいくべき伝統となるのではないかな?」

 

 と、自称騎士なエミールさん。

 その言葉にヘルマンさんが重々しく頷いた。……同じドイツ系同士、何か通じ合うものでもあったのだろうか。というかこの人もキャラ濃いんだよなぁ……。

 

「……って言いますケド……コレ、別にオレの伝統じゃありませんし……」

「笑止! 生きている人間が受け継がなければ何とするのですかな。まさか死者がそのバラに埋もれた墓の下より後世に伝えるとでも? 何というゾンビ=パニック……! 片腹痛いことですな」

 

 今笑止って言ったばかりなのに、もう笑いすぎて腹痛いのか。

 お忙しい人だ。

 

「死んだ人がお墓の下から……! やだ怖い……」

「でもソレだと、対アラガミ用の最強兵員が確保できるじゃないですかねー?」

「やーだー。オリガちゃん発想が怖いぞっ? 流石ロシアっ娘なんだからっ!」

「えへへー。そうですかー?」

 

 ……ナナちゃん、貴女人の事言えるないよね?

 忘れたとは言わせないよ……あの、終末戦争と人の時代の終焉を告げたロクでもない黙示録のことを。

 可愛い外見にダマされてはいけない、彼女の腹の中は色んな意味でブラックホールだ。

 

 ……それに、万一そんなゾンビVSアラガミな世界が来たらどの道人類終了のお知らせが来るってば。死人と神が襲ってくる世界など考えただけでトリハダが立つ。

 

「……」

 

 改めて見ると、

 この面子……本当に濃いな……。

 

 協力を言ってきたロシア支部が派遣してきた理由は分かる。……というか願ってもない。

 だけど、極東の……このエミールさんとやらは何なのだろう。

 一見悪い人にも、腹に一物ありそうな人にも見えないけれど……『誰』が『何の為』に送り込んできた人員なのか、と疑わずにはいられなかった。

 

 何故なら間違えなく彼はイレギュラーだ。

 協力要請をしたわけでもない、それに人員は現在ブラッドが5名。ロシアが3名で十分足りているようにも見える。フライアの偵察や工兵が足りていないわけでもない……。

 

 

 ただ、ひとつ確かに考えられることは。

 エミールさんの背後に居るであろう人物――極東支部の役員か、もしくは支部長本人。そのどちらかが、フライアの実態を探りに来たのではないか……? と、暗い考えが脳裏をよぎる。

 

 事実、ロシアと極東の繋がりは深い。

 ナナちゃんが言ってたかつて微妙な結果に終わったと言われている大規模掃討作戦に始まり、3年前の新型ゴッドイーターと技術者の『不自然』な異動。エイジス計画への協力態度。

 しかも、極東の現支部長は……『エイジス計画』の発起人であった前支部長を暗殺したという噂まである人物だ。何を考えているのか分かったものではない。

 

 何だか薄暗い思考に支配されていたその時だった。

 

 

「でもさ、真面目な話。フライアの皆さん。オレはあんたらに感謝してるんだよ」

「……はい?」

 

 アーサーさんが低い声で話し出す。

 

「放置されちまった場所を拾ってくれる、ってのも有難いんだけどさ……此処、ずっと立ち入りが禁止されてたんだ。知ってる奴も古参のごく一部だけで……オレとヘルマン、あとはロシア第三部隊で隊長やってるダニエラ。っていう女位なもんなんだ」

「そーそ。私知りませんでしたもん。こんな場所があるなんて」

 

 オリガちゃんが付け加える。

 

「なんか……馬鹿っぽいけどさ、……昔、あそこで死んだ仲間が居たんだ。けど……何か色々あってずっとナシになっちまってて。多分もう何も残ってないだろうけどさ……何か、やっとアイツを迎えに行けるような気がするんだ……まぁ、うん。そんな感じで! オレ個人としては今回の申し出、めっちゃ乗り気だってことでお願いしますブラッド隊長さん!」

「雰囲気ぶち壊しですよ、真面目に行くんならソレ貫いてくださいよ」

「うるせーコレがオレのスタイルなの! じめじめ湿っぽいのなんざゴメンだっつーの。死んだ奴も能天気な脳筋だったしィー!」

「ふーん……まぁ、別に良いとは思いますけど。真面目かと思ったらイキナリ空元気ブチかますとか普通はドン引きですよ」

「……なぁ、オリガぁ……お前隊長のこと嫌いなの? 嫌いなの? 何か泣けてきた……」

「泣けば? 年上男性のガチ泣きなんかドン引きです」

 

 アーサーさん、撃沈。

 片手で顔を覆ってうなだれてしまった。沈んだ隊長に代わって……ぶっちゃけ、よっぽど隊長らしい風格を持つヘルマンさんが、かわりに話を進める。

 

「それもあるが、我々が……今回の話に乗った理由はもう一つある、そこをハッキリさせておきたい」

「理由、ですか。……『領土奪還』人類の活動域の拡大、以外にも何か理由が?」

 

 すっかり落ち着いた隊長が紅茶を啜りながら対応した。ちゃっかりジャムを大量に投下済み。

 この人本当に、こういった上品な仕草が絵になるなぁ……と一瞬だけ意識がそっちに向く。いつもこんな感じで居ればいいのだ……四足歩行なんかしないで。

 

「技術的な理由だ」

「……技術ー?」

 

 やっぱり神機兵のことだろうか。と思う。

 

「……『ブラッド』――第三世代。……現在我々の部隊は、全員が『旧型』――第一世代の神機使いたちで部隊が構成されている。第二世代型――遠近可変型神機の導入も他支部より遅れている」

「そんな……だってロシアは激戦区だって……言ってましたよね……? ゴリバートさん……」

 

 衝撃の真実で横っ面を張り倒された気になった。

 

「ギルって呼んでくれ。俺もそう聞いていた。極東、ロシア、アメリカ……この3つは数ある戦場の中でも『別格』だってな」

 

 ギルさんがどこか険を含んだ顔でヘルマンさんを見つめた。

 その目線をまるで巌の様にヘルマンさんは受け止める。

 

「……ロシアと極東は深い繋がりがあった。確かにロシア支部は極東相手に搾取されていた面もあった。……だが、その見返りはそれなりに受けていた」

「見返りって、何だったんですか?」

「技術提供、ですか」

 

 隊長が真正面から正解を言い当てた。

 ヘルマンさんは頷く。

 

「そうだ。極東は魑魅魍魎の巣窟……。……だが、その分オラクルリソースに恵まれている、そのため研究分野に於いても非常に高度な水準を維持していた……だが」

 

 やはり、過去形だった。

 沈んでいたアーサーさんが復活してくる。

 

「3年前、ちょっとした『政権交代』があっただろ? アレのせいで繋がりがバッサリ切れちまったんだよ。新支部長になってからは極東は積極的な新型導入だ、新技術開発だ、に一生懸命になっちまってオレたち後進支部の面倒にまで首が回らなくなっちまったんだと」

「アメリカ支部の様に独自の研究体系があった訳ではない。また、本部に対して強く出れるだけの発言権もない……そんな支部の上層部が撮った手段は……兵員による戦力増強だった」

「……!」

 

 薄ら寒い嫌な予感が背筋を上る。

 言葉にすると単純だが、兵員による戦力増強……つまり、それは。

 

「極東には技術があった。だが、ロシアの技術力は残念ながら……後退した」

「無理もねえよ。資本に人材、素材に資源。全部全部極東に持ってかれちまってたんだよ……『せんせー』と『新型』にくっついてさ」

 

 アーサーさんの口調はどこか感情を押さえつけたような……苦みや怒りが籠っていた。

 ヘルマンさんが片目でアーサーさんを睨み付ける。

 

「何……!? その様な事態に陥っていたとはっ……! ま、まさか、それはアリサ……」

「……アーサー……」

「うわぁああ! 早とちりすんなってエミールさん! 誤解すんなよー? 極東を恨んじゃいねーよ。腹立ってんのはロシア支部の上層部だ……だから3年前はもうヤバくってさ。新型なんか製造してる暇ねーし、練兵もじっくりできる余裕なんかねーし。……ロクな訓練もない、とにかく回収した神機は何でも使う。適合数値ギリギリの奴とか……本当にガキとか。とにかく何でも使ったさ。とにかく頭数揃えて物量で対抗するしかなかった。そうしなきゃ生き延びれなかったんだよ」

「…………本当ですよ」

 

 

「そんなことに……なってたんだ……」

「怖ぇーな……流石はロシア支部……」

 

 遺書用意してきてマジで正解だった。

 本当にここまでダークネスだとは……黒いなんてもんじゃない。

 

「んで、そん時組織されたのがオレらみたいな遊撃部隊だよ。各地の戦線で一斉に戦闘が起こる。それで……どっかの防衛ラインが崩れたら、そこに向かって穴を塞ぐ。その為に組織された部隊さ。……まー、もちろんそんなんで妥協するオレじゃなかったけどな!!」

「より積極的な武力介入により、崩れかかった戦線を補充するただの助っ人仕事だ……だが、どうせ救うなら死人よりも生きている人間を選ぶだろう?」

「こう見えてもオレ達ちょっとした英雄だぜー? ロシア支部に詰めてるゴッドイーターや一般兵の半分はオレに命を救われていると言っても過言じゃないね!」

「自分で言ったらカッコよくも何ともないですよ~アーサーさん」

 

 支部に居る戦闘員の半分の命を救ったって……。改めて噛みしめてみると凄い事実だ。

 と、同時にその言葉の裏側にある意味も取れる。

 ……救えなかった人も居るのだ、ということも。

 きっと、どんな地獄だったのだろう。恐らく……戦闘も人生も経験の乏しい私なんかでは、予想もつかない程の世界だろう。

 

 

 

 

「……話が逸れた。我々が求めているのは……サテライト運営の技術、及びにアラガミ装甲壁の強化技術だ」

「……」

 

 流石の隊長も閉口した。

 

「ここまで言えば理解もできたことだろう。……技術力がないのは神機だけではない。『全て』が……3年前で止まっている」

 

 

「……ハァ!?」

「なっ」

「……おいおい、マジかよ……」

「……」

 

 あまり認めたくはない現実だけど……世界は、ここ3年で明らかに変動した。

 赤い雨が降り、各地でのアラガミの新種の出現が起き、また、感応種と呼ばれる既存の神機を無効化する特別な種類まで現れた。 

 ……と、いうのに。

 

 

「それと、もう一つ。近年出現した『感応種』に対する対策。コレが全然打てない。上の奴らオレ達に丸投げしてきやがったんだよ……。大防衛戦の英雄なら何とかできるんだろ、ってな。流石に無理だろって話だわ。

 ……けど、ここで投げて逃げるのは、オレのスタイルじゃない。誰かがやらなきゃなんねーだろ。そんで困ってたところにアンタ達が現れた……なぁ、『ブラッド』はさ、『感応種』に対して戦績を上げることができる部隊なんだろ?」

 

 情報の周り早っ!?

 多分、グレム局長あたりが大々的に喧伝したんだろうなー、とブラッド全員の心が一つになる(気がする)。

 アーサーさんの目には縋るようなものまで浮かんでいた。

 

「オレ達はその感応種のコアが欲しい。……幸い出現する種類は限られてる。何か一個だけでも抑えられれば後はどうにか出来る。……コレが『ロシア支部』からフェンリル極致化技じゅち……技術開発局へと求める条件だ」

「……噛んだ」

「親近感湧きますね、隊長」

「……」

 

 隊長が紅茶を思わずカートへと戻した。

 表情には苦いものが混じっている。無理もないと思う……道理で美味しい話だと思っていたら、飲み込むのにはタダではいかなかった、というわけだ。

 中身が思って以上にヤバかった。

 激戦区、人類の最前線。との異名を持つ極東とは……別の意味で、ここもヤバい。

 

 

 

「了解しました。クリフォード隊長。我々ブラッドの指揮下にて、『奪還作戦』及びに『感応種討伐』任務を遂行します」

「ちょ……隊長……? 勝手に決めちゃっていいんデスカ……!?」

「良い訳がない。だが、もう後戻りする道などないだろう。……ならば、進むだけだ、違うか?」

「……」

 

 ……時々この人マジでイケメンだから困るんですが。

 イエス、以外の答えが見当たらない。

 べ、別に流されている訳じゃない。……多分……。

 

 

 

「よっしゃ、じゃあそうと決まれば宜しくなージュリウス隊長」

「最新型が5台に新型1台ですかー。かつてないほど見通しの明るい戦いですね! アーサーさん! ヘルマンさん!」

「アーサー殿……! その弱きを全力で救うという志……! 僕は……嗚呼僕は! 自分が恥ずかしいッ! 今の今まで自らが如何に恵まれそして与えられてきたのかということを思い知ったッ!! 嗚呼アーサー殿! 極北のゴッドイーター達よ! その全力で戦いを挑むという姿……それこそ! まさに! 求めていた騎士道っぉおおおおおおおお!!」

 

「よ……宜しくお願いします……あの、不安しかないのは私だけでしょうか……!?」

「唯ちゃんの弱音は今に始まったことじゃないからスルーするね! はい、皆さんどうぞーおでんパンです!」

 

 

「おでん……!? オレ知ってるぞソレ! 極東地区のソウルフードだろ……!? パンに挟むもんなの!? 違うよね絶対違うよね!?」

「如何にもッ! 極東のおでんという食べ物はあまりパンに挟まないものだと記憶しているが……」

「すごく美味しいから食べて見てくださいよー」

「うむ……では遠慮なく頂くとしよう。……こっ、コレはァ! ……食べた瞬間口の中に広がるネリモノと魚介の味……よく効いたカツオや昆布の風味……更にはソレを封じ込め丁度良く染み込ませたコッペパンの得も言われぬしっとり感……おで、……お、おで、おでででででで……おでん…‥おでんおでんおでんおでんおで…」

「おい……? おい、大丈夫かどうした!?」

「効いてきたぁっ!」

「アーサーさん、私の分のおでんパンあげますっ! い、今わたしーちょ、ちょっと減量中で~!」

「嘘をつくなオリガ! お前昨日あんだけピロシキ喰っといて何を言っ……」

「あっはははははーどうぞどうぞー遠慮することはナインデスヨ!? えへへへへー」

「オリガぁーーーー!!」

 

 

 不安だった。

 期待され過ぎている様な気がする……。今までの人生でそこそこの期待しかされてこなかった分、こうゆうものに私は慣れていない。

 人々の期待になれ、と……何か押し付けられているような気にもなってしまう。

 そう考えるのは、自分が卑屈だからだろう。

 

 自信なんかないのだ。

 感応種討伐の実績……というか、感応種に対して第三世代の神機が有効だということ。

 それを示したのは――私ということにはなっているけども。

 正直、あんなもの本当は二度と戦いたくない。

 『あの時』だって死にかけたのだ。思い出すだけでも怖い。

 ……さらに、それに、慣れない他人からの期待という重責が相乗効果を生んでくる。

 

 ストレスで吐きそうになっている所に、右手におでんパンを持った隻眼の男性――ヘルマンさんが肩を叩いてきた。

 

 

「お前達には要らないものまで背負わせて……悪いとは、思っている」

「……いえ」

 

 別にそんなことはない。

 きっと、これは……本当ならば、ゴッドイーターとして当たり前の重荷、なのだろう。

 この人たちはソレをずっとずっと背負ってきたのだ……そう思うと、やはり、皆凄い人たちの様に思えた。

 

「だが理解していても欲しい。……お前達は『希望』だ。最新鋭のゴッドイーターは……俺たちの様に守ることだけで精一杯の旧型とは違う。このどん底の世界を少しでも良くしてくれるという人々の願いを背負った、『希望』だ……だから、堂々と胸を張れ」

 

「ヘルマン、さん……」

 

 

 

 だからその希望が重いんです。

 その希望が、追い詰めてくるんです……なんて、甘えたことは言えなかった。

 こんなに真っ直ぐに私たちを信じてくれている人たちが居るのに……そんなことはとてもじゃない、言うことなど出来なかった。

 

 だから、虚勢でもいい。ウソでもいいから、強がっていよう。

 

 きっと、怖いのは誰だって同じなんだから……。

 でも、

 

 その中にあっても希望を求めることができる……その感情が、理解できない訳じゃないから。

 

 そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、折角良い形をしている。大きさも申し分ない。だから、堂々と胸を張れ」

 

 

「……………?」

 

 

 あ、あれ?

 可笑しいな……オカシイナー。今なんか幻聴が聞こえたようなキガシタナー……。

 

「良い胸をしているのだから自信を持て」

「ひぃぃいい!? さ、触んないで下さいぃぃいーーーー!」

「何が?」

「だ、だって!? え? 間違ってるのは私!?」

「お前の胸は正直だ」

「うわぁあああああああぁ!?!?」

 

 

「ヤベェ……ヘルマンのヤツ大人しくしてると思ってたら……さっきから神威さんの胸ガン見してやがったのか!?」

「瞬き一つしなかったッスよねあの人……!? 唯! こっちだ! こっちに来い!!」

「助けてぇーー! ロミオ先輩! 怖いよぉぉおおおお!!」

「ヘルマン! ステイ! ステェーーーーーイ!!」

 

 

 

「おでん、お、おでんおでんお……うぉぉぉおおおおおお! き、きしぃっ! き、ききききしっ……き士……騎士ぃっ……騎士道ぉぉおぉおおおおおおおおおお!!!!」

「なっ……! おでんパンのシアワセ力を、打ち消したの~!? 流石は歴戦の神機使い……カンタンには倒せないみたいだねっ……!」

 

 

「あのーあのあのー! ヴィスコンティ隊長さーん? 失礼ですがー? 御父様はご健在ですかー? もしくはおじ様は?」

「申し訳ないが、父は既に他界。親類とも縁を切っております」

「あららー残念ですー……じゃあ、どっかにー良い中年男性は知りませんか? 小太りでーヤニ臭くてー加齢臭のするー……あ、ハゲかけてたら最高ですっ! 紹介してくれませんー? 大好物でー!」

「……残念ですが」

 

 

 何か……濃い面子だけど。きっと、協力できる……ような、気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 大きな期待に応えられる自信がないときは、手を携えればいいのだ。

 それが小さな希望でも、

 

 きっと、繋げば……届くはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アーサー、男なら堂々と胸を見ろ」

「何でお前も変わってねぇんだよ!?!? 年喰った分余計にタチが悪りぃんだよ!! 頼むよ俺はお前を通報なんかしたくねぇんだ!!」

「お前も正直に生きろ」

「まるで野獣だよお前!」

 

「隊長さんもきっと後10年くらいしたらナイスミドルになってると思いますよ! それまで頑張って生きて下さいねーっ!」

「今思いついたのですが…‥グレム局長など如何でしょうか」

 

 

 

 

「何かスゲェな……ロシア支部……」

「あぁ……ハルさんに対抗できそうな人物を俺も初めて見た」

「お前あのレベルでヤバい知り合い居るのかよ!? やめろこっち来るな変態が感染るこのサル! ゴリラ! チンパンジー!!」

「黙れこの缶バッジ」

 

 

 

 ……多分。

 

 

 

 

 







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