ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

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戦闘回。
前編です。


phase21 あなたが人生に裏切られても (前編)

 次々と消えていく、仲間からの応答。

 その最後の言葉が耳から離れず、蹲っていた。

 

 

『助けてオーリャ! 囲まれてる! 囲まれてるの! もう動けない……! お願い……お願い助けて!』

 

『クソ……クソォ! もう弾丸がな……うわぁああぁ!』

 

『……ねぇ、聞こえる……? ……もう……ターシャもヴォロージャも…返事……ないんだ……』

 

 

 恐怖感を消す為に、と司令部から支給された抗精神薬を噛み砕く。

 

 効いてない。

 

 全然効いてない。これ。

 

 だって

 

 

 

『聞こえてるなら助けてよ! 助けてもうバリケードが持たない! 来てるの! すぐそこまで来てる!!』

 

『痛ぇ! 頼む、拾ってくれ! 拾ってくれ俺の腕が……腕がぁああ!!』

 

『……ごめんね、オリガ……』

 

 

 

 『コレ』を聞いたのは……もう、一週間以上前のことなのだ。

 

 

 手元にある錠剤を眺めながら思う。

 

 本当に薬、なのかな……これ。

 

 だったら……どうして聞こえるんだろう……?

 どうして、仲間の声が。

 もう居ないハズの。

 皆の声がきこえてくるんだろう……。

 

 

 

『ごめんね……オリガ』

 

 

 ガリガリガリ、とそれらを噛み砕く。

 自分の咀嚼音が耳に着く。

 聞こえる『声』から気をそらしたくて、必死になって耳を塞いだ。

 

 なのに、強化された聴覚は聞きたくない『音』を拾った。

 

 

 

 

 

――何だあいつ?

 

――あぁ、アレが『代用品』か

 

――『今度も』……全滅だとよ。

 

――やっぱり……ね。

 

 

 

 やめて、と言いたかった。

 違うと、叫びたかった。

 私たちは代用品じゃない、代用品なんかじゃない。

 

 

 だって……神機使いにしてもらえると言われた。

 言われた通りにやれば、神機使いにしてもらえると言われた。

 もう足が痛くなるまで配給の列に並ばなくていいって。ちゃんとした分量を毎回貰えるって。

 母さんや兄さんの様に、路上で飢えに苦しんで野垂れ死にしなくて済むんだって。

 

 

 今でもハッキリと覚えている。

 

 孤立した自分たちの区画で、何が起きていたのか。

 疎開もままならず、配給品もない。

 なのに……陥落した場所から流れてきた人間だけがひしめいていた。

 道を歩けば餓死者か凍死者の死体が転がっているのに、それを片づけるだけの体力がある人間さえも居なかった。そのくせ、皆、死体から衣服や配給チケットを剥ぎ取っていく。

 伝染病を防ぐためにと設けられた即席の火葬場には、燃料が切れて、氷漬けになった死体が積み上げられていくだけで……電力はとっくのとうに打ち切られ、皆、公園の木や家具を暖をとるための薪にしている有様だった。

 

 

 ……ロシア支部ではアラガミに喰われて死ぬんだったらまだマシな方だ。

 

 ほとんどの人は、散々生きようと足掻いた挙句……食べ物が無くて餓死するか、寒さに耐えきれずに凍っていくかのどちらかだった。

 

 毎日毎日、どこかで骨と皮だけになった死体が転がっていた。

 

 

 神機使いになれば、そんな死に方はしなくていいと言われた。

 10年くらい戦えば、安全で毎回ちゃんと配給がもらえる『内側』で暮らしていいって言われた。

 ……だから……。

 

 …………だから……。

 

 

 

 

 

 

――だから言ったんだ。初期型の……ピストルだっけか。あんなもんまで出しやがって

 

――動くかどうかも分からない。カビの生えてた骨董品を……。

 

――ただ死ぬだけならいいだろうが。

  この前はアラガミ化しやがったんだぞ!? オレの部隊はそれで……!

 

――死んだ奴の装備はそのまま回すんだっけ?

  長持ちしねぇ鉄砲玉ばっか作るんだったらオレ達正規の神機使いに物資を回して欲しいのに…

 

 

――アンプルだって3日前に支給されたばっかりだ……。

  相棒が死んじまった……これでどうやって戦えばいいんだよ…。

 

 

 

 

 

 

 

『ごめんね、オリガ……』

 

 

 

 

 

――あの子……どうなるのかしら。

 

――多分どこかの部隊に配属されるだろうな。だが……いつまで戦えるのか。

 

――どうせまた『次』が来るだろ。

 

 

  

 

 

―――― あいつらの『代わり』なんぞ幾らでも居やがる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ごめんね……』

 

 

 最期を看取ることさえできなかった仲間たちの声が反響する。

 キツかった訓練も、苦しかった『副作用』も皆と一緒なら……と思って耐えてきたのに。

 今は辛くても、いつかはきっと幸せになれるんだって思ってきたのに。

 もう、飢え死にしなくっていいんだって。

 もう寒さに震えてることはないんだって。

 

 なのに……なのに……。

 

 こんなのひどすぎる。

 皆、皆、あんな死に方がしたかった訳じゃない。

 ただ……。

 

 ……ただ……。

 

 

 

 

 

 

「おい、アンタ。大丈夫か?」

 

 

 ふと、頭の上からこちらへ問いかける声があった。

 

 

 

 

   □■■□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦は以上だ。何か質問は」

 

 会議の終了後に、隊長がその言葉を口にした。

 特に質問はないらしく、誰も挙手する者は居なかった。

 

 作戦はいたって簡単。3行にまとめると……

 

 ブラッドとスネグーラチカの混合班を二つに分ける。

 私とオリガちゃん、アーサーさんとロミオ先輩は索敵。残りは迎撃陣形に展開。

 目標の大型種『クアドリガ』をキルゾーンまで誘導して全員で殴る。

 

 ……らしい。

 この大型種をぶち殺せばあとは小型種だけになるので、面制圧が可能になる……らしい。

 つまり、クアドリガ討伐で陣地奪還は完了というわけだ。

 

 何だかあっけないような気もするけど実際そうゆうものなのだから仕方ない。ここは素直に現実を受け止めておこう。

 

「訓練通りにやれば勝てない相手ではない。各自、冷静に行動するように」

「了解ー」

「あー……そうだな……オレからは……作戦当日は寒波が直撃するらしーから防寒装備よろしく、ってとこだわー……まぁ大したことねーけどな! でもブラッドさんとエミールさんは気を付けた方が良いかも」

「まーた寒波っすかー。りょーかいです!」

「……分かった」

「ウム。心得た!」

 

 アーサーさんが軽く言った一言だったが、ブラッドは少々どよめいた。

 

「えー? 寒いのは嫌だな~……」

「だ……だよなぁ……はぁ……オレ寒いの苦手だし……」

「ナナちゃんその恰好だとね……というか寒波直撃するならどうして……」

 

 別の日にちにやればいいのに、と恨めしさが混じる。

 そんな私たちの文句と疑問に答えたのは、ロシア部隊最年少なオリガちゃんだった。

 

「そりゃ対クアドリガ用の気温だからですよ!」

「気温……?」

「通常のクアドリガは高熱型アラガミなんで! 寒いと弱くなるんですよ。あとはデカいから動きが鈍くなって討伐しやすくなりますよー」

「……あ、そっか」

 

 今日の為に、皆で散々勉強したクアドリガの生態によると確かに奴らは高熱系。

 故に冷却バレッドが効果的……って言わる程だ。

 

「あとは単に地盤の問題なんですよね。寒い方が硬くて歩きやすいので」

「ま、寒いって言ってもこの時期の寒波だから大したことねぇと思うけど。せいぜい零下10度とかその辺だと思うし」

 

 あっさりとそう言えるアーサーさんの神経がちょっと……いや、かなり怖い。

 確かにオラクル細胞を体に入れた時から私たちの身体は人間の活動領域をはるかに凌ぐ生存能力を持っていたりする。

 でも、それとこれとは話が別だ。

 ……零下10度をせいぜい、とか大したことないと言えるロシア支部って一体……。

 

 考えてもキリがなさそうなので、思考をやめることにした。

 

 

「……でも、籠城している兵にとっては……」

「えー? 大丈夫だと思いますよー? 中継でみたらさっき一部の兵が水泳やってましたし」

「……ソ、ソウデスカー……」

 

 普通の人間であっても生存能力強化されているのだろうか。

 環境のせいなのかもうやだここ……。

 

 

「……緊急事態発生!! おでんパンが……なくなった!!」

 

 袋をゴソゴソやっていたナナちゃんが、束の間の平和の到来を告げた。

 

 

 

 

  

   ▼▼▼

 

 

 

 

 

 作戦は初めはスムーズに進んだ。

 

 開幕と同時に現れたコンゴウの群れをすり抜けて、分隊別に分かれて行動。

 進路上邪魔になると判断された小型種のみを狙って討伐。

 そして私たちは敵影をしっかりとらえて……あとはキルゾーンへと誘導すれば任務完了……

 

 

 

 ……の、ハズだった。

 

 

 ただひとつの誤算を除外すれば。

 

 

 

「うぉっ……」

「無理ーーーー!」

「あ、ありゃりゃりゃりゃ……」

「な、なんだよコイツ……!」

 

 

 アーサー分隊。軽くパニックに陥るの巻。

 

 

「落ち着け! ……まさかこんな奴が出てくるなんて思ってなかったけどな!」

「死んだ……これ絶対死んだ……わ……私……生まれ変わったらアルパカになりたい……!」

「やべぇ、死んだ皆の顔が見……これマサカ走馬灯!?」

「諦めんな馬鹿ぁ!」

 

 

 

 

 

 を、見た時、私たちは確かに思ったのだ。

 これがクアドリガかー。でっかいなー……と、思ったのだ。

 

 で、よく見たらちょっと違った。

 

 

 まず……頭の上の平坦なハズの排熱器官が何か違うな~という嫌な予感。

 次にシルエットが何か違うな~何かトゲトゲしているなー……という妙な直感。

 

 そして前面装甲の……顔。

 変な緑色の人面。

 

 

 

 

 そう、クアドリガだと思われていたそいつは。

 

 テスカトリポカだったのです。

 

 

「こりゃいつまでも制圧できねえ訳だわー」

「隊長ぉぉおお! こちらブラッドー04! クアトリガテスカトリポカでした! クアドリガ!! じゃなくて!! テスカトリポカぁああ!!」

「くっそ怖ェーですわー……生き残れたら何か奢って下さいって」

「え、えっと神属性神属性……オレがしっかりしねぇと…‥」

 

 

 速攻でノルンから送られてきた情報が点滅する。

 

『神と殺戮機械を融合させたような姿を持つアラガミ。

 想像を絶する火力を誇り、一つの街を一瞬にして廃墟にするほどの力を有する』

 

 

 ……こんなの相手にどうやって戦えと言うのでしょうか。

 接触禁忌種と呼ばれる類のアラガミであり、並の神機使いはその名の通り『接触すんな、したら逃げろ』なレベルの化け物だ。

 

 

「総員に告ぐ! 作戦の変更はねぇ! やることは同じだ! けど敵の脅威レベルは格段に上がった! あと氷結系は全部捨てろ! ロミオと神威は神属性バレッド装填!」

「持ってないんですぅう!!」

 

 だって持ってこいなんて言われてない。

 

「了解……じゃあ唯! 食って撃て!」

「食ってって……あ、アラガミ弾ですか!?」

「……あぁそうだよ! 偏食性か何かで喰ったもんそのまま撃てばある程度は効くって座学でやっただろ!!」

「そ、そそそそそそうでしたぁ! ご、ごめんなさいすいませんド忘れしてましたぁ!」

 

 流石のロミオ先輩もイラっとしてる。

 

 うん……まぁ……もっともだ。色んな人に怒られるのも慣れてきた。

 

 じゃない、今は命の危機。

 

 

「ロミオ! 威嚇射撃!」

 

 と、自分だけステルスフィールドを展開したアーサーさんとロミオ先輩が射撃体勢。

 レーザー光の直線がテスカトリポカの頭上のへと直撃する。

 完璧なヘッドショット。人間ならバッタリと倒れてもう呼吸中枢も停止することだろう。

 当然。

 

 

『#$%$%&#+*(!!!!!!』

 

 

 アラガミはそうはいかないのです。

 

 何言ってんだかよくわからないけど、多分怒ってるような……不快すぎる機械音な奇声を発して、頭蓋骨に似た頭部がこっちを向いた。

 

「……こ、こっち見たぁ……!」

 

 もう足がガックガク。

 胃のあたりがきゅうっと締まる。

 

 

 

 

「喰いついた! このまま引っ張ってくぞ!!」

「りょーかーい! さぁ逃げますよ! 神威さん!」

 

 あまり慌ててないロシア組は流石の一言に尽きる。

 

 テスカトリポカはガチガチガチという何かが組み変わるような音を立てている。

 ギアチェンジでもしているんのでしょうかね……アラガミは思ったより頭いいね……。

 

 そして、奴は発進する。

 

「早!?」

「あのデカさで……!」

 

 思ったよりも全然早かった。

 通称歩く戦車と呼ばれる通り……完全にキャタピラの使い方を誤っている歩行方法は、ビックリするほど早かった。

 納得いかない。

 

 アーサーさんの指示。正面にかつてのコンクリート高層建築物が見える。

 かつては様々な会社が入っていただろうソレは、今では、アラガミに齧られてかなりスカスカになっていた。

 その隙間は人間ならば入り込めるだろうが……歩く巨大戦車であるテスカトリポカには越えられない。

 

 コレで少し時間が稼げ……

 

「一気に通り抜けるぞ!! そんなに時間はねぇ!!」

「……え?」

 

 

 アーサーさんの怒鳴り声と被って、トンデモナイ破壊音が衝撃と共に襲ってきた。

 耳が痛い。

 不幸中の幸いと言うべきか、あまり砂埃のようなものは立たなかった。

 

 だから、しっかり見えた。

 

 

 テスカトリポカが……高層ビルをぶっ壊しながらこっちに向かってくるというこの世の終わりの様な光景が……

 

 

「……えぇぇえええええ!!!?」

 

 8階建てビルが……死んだ。

 

 可哀想に、中に居た小さなアラガミも犠牲になっている。

 さっき舞い上がったハズの破片が、遥か天空まで打ち上げられ……私の足先にトスン、と落下した。

 コレが頭上に刺さってなくて良かった……と安心しかけたところ。

 

「うわっ……ちょっ……いつっ! 痛っっったい!!」

 

 頭上から舞い上がった砂や小石欠片が降ってくる。

 致命傷にはならないものの、……地味に痛い。そして埃臭い。

 

 

「歩くだけで損害何億fc出すとか……流石接触禁忌ですねー」

「大丈夫か二人ー」

「く、口の中ジャリジャリします……」

「平気そうだなー!? よぉっし! このまま後退もとい、明日への前進だぁぁああああ!!」

「同じです!!」

 

 顔に着いた砂だけを払おうと思った……けど、何故だか皮膚に当たった瞬間、含まれていた水分が溶けだして肌にこべりつく。

 それらを拭っている余裕はなかった。

 

 

「ん……ちょっとキツいかも……アーサーさん! コイツ少し削りましょう!!」

「削るって!?」

 

 オリガちゃんが唐突に凄い提案をぶちかます。

 

「基本的な弱点はクアドリガと変わりませんー。ちょっとあの……ウっっっっザい緑ヅラカチ割ってきます!」

「ちょ……オリガちゃん!? オリガちゃーーーーん!?!?」

 

 金色のツインテールをはためかせた少女は1人で駆け出してしまった。

 

 

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