ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

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 各キャラ重なる面影に色々苦労してる。27話です。


phase27 決戦前までに

  

 

 

 

 嬉しかったり――した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▽▼

 

 

 

 

 

 

 

 予想してたことだが、その後の兄の活躍は凄まじかった。

 

 

「CA……じゃねぇ疑似CNSプログラミングを手打ち入力だと……!? 凄すぎる!」

「関節部位のトラブルが……」

「そうか、あそこの配列を……! なんて凄い発想なんだ!!」

「立った!! 神機兵が立ったわ!!」

「テスターを起こせ! 歴史が変わるぞ!」

 

 

 

 

 

「……あぁ、完璧すぎて自分が怖い……!」

「あんま調子乗らないで」

 

 

 

 

「神機兵が……神機兵が……動いた……!」

「すごい、やはり彼は天才だ!」

「なかなかできることじゃない!!」

 

 

「やめて下さい!! コイツつけあがりますから!! 煽てると調子に乗りますから!!」

 

 

 

「マスターとお呼びしても宜しいですか!?」

「神と呼んでもいいでしょうか!?」

 

「お兄様!!」「お兄様ーー!!」「あぁ、お兄様! 流石ですお兄様ーー!!」

 

 

 

 

 

「見てくれマイシスター! さぁ唯ちゃんもご一緒に!!」

 

 

「帰ってよぉぉぉおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 

 ……ってなことになってやがった。

 

 ものの一週間経つか経たないかで神機兵の兵装開発(具体的には神機兵の持ってるデカ神機)の担当のハズなのに、

 何故か色々な問題につき自立できなかった神機兵を歩かせ。

 その片手間にアーサーさん達ロシア部隊の旧型神機のアップデートをこなし。

 更には、ここに来てから何か思いついたらしい――変な新技術の開発レポートの発表までやりやがったらしい……。

 

 皆ビックリして唖然としていたが、ぶっちゃけコイツは常にこんな感じだ。

 更に、今はブーストかかってヤル気がギンギンに漲ってしまっちゃっている。

 

 嫌味な位デキて当たり前、だけど人から好かれる意味不明のカリスマ性を持っているから敵を作らない。

 

 ……他人だったらさぞ、眩しく映るだろうな、と今まで何千回も思ってきた。

 

 

 幸か不幸か、正直、身内からすれば

 

 

 

 

 

 

 ウッッッッザイ……以外の……何者でもない……。

 

 

 

「アンタの兄さん凄いな神威さん!!」

「マジ腹立ちます」

「このままあの人が此処に居てくれればなぁ……! ロシア支部にエイジス島出来ちゃうよー!」

「何なら置いて行きますよー」

「マジ!? そうして! そうして!!」

「寝込みを強襲して拉致監禁しましょー。2,3日昏睡させておいて、そのスキにフライアがトンズラかまします……これで完璧……死ねクソ兄貴が……」

「いいね! 上手く行きそうだねー! というのは別にしてー。あの人昔ロシア支部に居たコトあるよ思い出したよ。本人も言ってたし」

「……そーなんですかぁー……」

「興味なさそうだね神威さん……。オレ、勘違いしてたみたいだわー。アンタどっかで見たコトあると思ってたらそれお兄さんの方だったんだよ! ごめんごめん」

「……べっっっつにぃーー……」

「だって本当似てるんだもん」

 

 

 耳が腐る程言われてきた。

 私たち兄妹は、外見だけならかなり似ている。

 だから何処へ行っても『あの神威ヒロキの妹』不回避だった。世界中を移動しまくる移動要塞兼極致化技術開発支部なら平気かと思っていたら……追いかけてきやがった……。

 

 

 それはそうと、とアーサーさんは上機嫌ゆえに輝く目から、やや厳しめな表情へと変わった。

 

 

「神威さん……この戦術予測表……見たんだけど、これアンタだろ……」

「……ゔっ…」

 

 ペラリ、と机の上に書類が一枚。

 そうです、それはまさしく私が提出したものです。

 

 

「だよなーー。絶対そうだと思ったんだ。アンタが副隊長になってから戦術パターンがカッキリ2種類だけになっちまったもん。教科書通りのマニュアル戦法か、逆に弱腰すぎてアレなヤツかーーって感じの」

「……す、すみません……」

 

「『遊撃隊』の隊長として言わせてもらうと……両方共ダメだね、不合格だ」

 

 

 

「まず前者、『お手本通り』な方な。何が駄目かって言うと、よく言われることだけど……状況って言うのは教科書通りには動いてくれない」

「……敵勢力が……教科書通りとは限らないから……適用できない、と?」

「違う。確かに敵もそうだよ。教科書通りって訳にもいかない。

 でも、だからと言って教本を蔑ろにすべきじゃない……『アレ』は何だかんだでよく出来てる。過去の膨大なデーターを分析して洗練してる……こっちが『場面』さえ読み間違えなければそのまま転用したって最善の結果を出せる場合もある。それに基礎を馬鹿にすると痛い目見るよ? ソースはオレ」

「……成る程……」

 

 彼は基礎を馬鹿にして痛い目見たことがあるようです。

 

「でもコレで真に問題にすべきは『敵』じゃない。『味方』の方。この戦術表は個人差を一切考慮に入れてない。全員厳格な訓練を潜り抜けた兵士であるという想定の下に構成された戦術だ。……これじゃ失敗するのも目に見えてる」

 

「……」

 

 

 アランソンさん……結構……言われましたね……。

 

 

「で、もう1コの『引け腰』な方は、逆。もう全然逆。まるで逆。

 こっちはこっちでアラガミのことを全然分かってねぇ! 新人がよくやるミス。まぁ……ナメてかかってないだけでもマシだけどさ……これだと『最低討伐線』もクリアできない」

 

 聞き慣れない単語がアーサーさんの口から飛び出した。

 思わず聞き返す。

 

「最低……討伐……せん……?」

 

 字面から見れば最低討伐しないといけないアラガミの数……の様に思える。

 問題は、それがアーサーさんの口から当たり前のように出てきたことだ。

 ……恐らくは神機使いの中でごく普通に使用される用語、なんだろう。

 

 

「あー……ジュリウス隊長とかロミオは気にしたことねェんだろうな……。ギルバートさんだっけ? なんか旧型から転向した人。あの人に意見は聞かなかった?」

「……」

「それじゃダメだな、神威さん」

「…………本当……すんません」

 

 しょうがないなー、といった感じのヤレヤレ顔でアーサーさんは続けた。

 

「まぁ、薄々分かってるとは思うけど最低ブッ殺さないといけないアラガミの数だよ。どこの支部でも大体あると思うよ。……んー……カンタンに言うと、『防衛班』のノルマって考えればいいと思――」

「あ、あの……」

「ん? 何?」

 

 聞き慣れない単語第二弾。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……『防衛班』……って……何ですか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

「……え?」

 

 コンマ0.1秒の静寂があった。

 

 

 

「ええええええぇえええ!?!? えぇー……何かエェー……マジかよ……。

 

 

 

 

 …………マジかよー……」

 

 

 

「ご、ごごごめんなさい……! 勉強不足で本っっっっ当! 申し訳ありません!!」

「……ゴメン、先に謝っとく、今からクッソ失礼なこと言うから……ゴメン……ひとつ、言わせて……。

 

 

 

 アンタ本当に何も知らねぇでよく生きて来れたな!?!? 今まで!?!?」

 

 

 

「お蔭様で今!! 現在!! 毎日が新しい発見の連続で!! 新鮮です!!!!」

 

「ソコ開き直るの?! 逆に凄いわ!! よくソレで神機使いになろうと思ったよな!? 徴兵されたクチか!?」

 

 大正解だ。

 徴兵が来たのでコレ幸いとウザい兄から逃れるために乗っかったクチ。

 ……何もかも無駄だったけどね……。

 

「常識が違う……!? こ、コレが『外』と『内』の違い……!? 格差を見た……階級社会っていうのは今でも健在ダッタンダ……!! とんでもねぇモンスターイーターが居たモンダー!」

 

 ひとしきりボヤいた後、多少冷静さを取り戻したアーサーさんは……。

 

 ……深刻な常識格差を埋めるべく、まるで、異世界人とでも会話するかのように――懇切丁寧な説明を開始した。

 

 

 

「大抵ん所はそうだと思うけど……神機使いには『部隊』があって、部隊単位で動いてる。分かるな? アンタら『ブラッド』や『スネグーラチカ』みたいな奴だ。

 支部は神機使いの巣だ。そんで、部隊がウジャウジャ湧いてる。

 で、メンドクサイから大抵は第一部隊、だの第二部隊だの第三部隊だの数字呼びしてる。というか、名前がしっかり付いてる部隊の方が少ないんだわ」

「そうなんですか!?!?」

「そうなんですよ!!??」

 

 てっきり皆名前付いてるモノだとばかり……。

 ……だってブラッドだって、スネグーラチカだって名前ついてんじゃん……。

 

 と、そこで思い出した。

 今派遣で来ている金色騎士・フォン・シュトラスブルク卿のことを。

 

 あの人は自己紹介の時『第一部隊所属』と言っていた。

 

 

 

「ヤバい……何か怖くなってきた……。オレの常識が今問われてる……!?

 

 ……で、でな!? 第一部隊、とか第一チーム、αチームなんて呼ばれてるとにかく一番系な部隊がトップだ。

 一番強い奴らが集まる場所。

 そいつらは積極的に打って出てアラガミを倒しに行く奴ら。理由は……装甲壁のアップデートとか、研究素材の確保とか、神機の強化とか。

 強いて言うなら『ブラッド』もコレに近いと思う」

 

 確かに……と思った。

 ブラッドがアラガミを倒しに行く理由はフライアの装甲壁の改良や修理の為の素材の確保か、神機兵開発の過程で必要となるアラガミ素材の調達。もしくは自分たちの実績作りになる。

 そもそもフライアは研究の為だけに動く支部。一部例外はあるけれど、守るべきものがないし、何より動ける以上……余程のコトでもない限り私たちが人を守るために出撃することはない。

 

 

「んで、つぎに第二、第三、第四くらいまでかな? って数字が続く。この辺は、第一部隊みたいに遠出しないで支部に詰めてる。支部の近くのアラガミを狩ったり、最悪の場合壁を破ってきた奴をぶっ倒す。基本的には救護部隊、偵察部隊、装甲壁修復部隊や回収部隊なんかの混成になるから『防衛班』なんて呼び方になる。

 

 何が違うか、って言うと第一部隊が『狩る』ゴッドイーターなら防衛班は『守る』ゴッドイーターってこと」

 

 

「……」

「どうかした?」

「……やっぱり……壁って……『アラガミ装甲壁』って破れるんですよね……」

 

 言うまでもないが……アラガミ装甲壁は読んで字のごとく対アラガミ用の防護壁。

 アラガミが『なんかすげぇマズそう』と思う傾向の因子、『偏食因子』をまぜてこねて固めて作ったデカい壁だ。それが破れる……というのが意味することは……。

 

 アーサーさんはもう完全に呆れ顔。

 

「……そりゃな……。装甲壁なんかバッカバカ破られるよ。だからこまめにアップデートしなきゃならねぇんだよ……新種は湧くわ、偏食傾向は変わるわでな。その辺フライアは良いよなー、イザ勝てないとなったら逃げちゃえばいいんだしさ」

 

「……」

 

「あ……落ち込むなよ~……。……はぁ……ゴメン。確かに少しだけ羨ましいっていうのもあるんだ。……技術も装備も人材も揃ってるアンタらがさ――……ま、言っても始まらないな!」

 

「……」

 

「神威さーん……」

 

 

 あまり不用意に人を傷付けることを好まない……系男子なアーサーさんが、色々喋って何か元気づけようとしている様子が分かった。

 多分落ち込んでいる――と勘違いしているのだろう。

 でも大丈夫。今はそこまで沈んではいない。

 

 

 

「前に……言われたんです。『誰だって好きに生きれるわけじゃない、なりたいモノになれる世界じゃない。それでも、貴女になりたい人は沢山居る』って……。……怒られました。……ちょっと思い出しちゃって」

 

「お、良い事言うじゃん」

 

「…………胃痛が……」

 

「何で!?」

 

 

 やはり自分は恵まれている方……なんだとは思うけど。

 最近、来やがった兄のせいでついつい、忘れがちになる。

 

 『私たち』を希望だと言ってくれる人達には悪いけど……。

 

 

 

 

 『英雄』にはなれそうにない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁー……そーだなー。アンタになりたい、って奴はこの世界にゴマンと居るだろうなー。オレだって時々羨ましくなるし……。

 

 

 でも、アンタはアンタだろ?」

 

 

「……」

 

 

「あー……あんま上手く言えないケドー……アンタの兄さんは確かにスゴイ奴だし、アンタの隊長もスゴイ人だよ? だけどさ……引き摺られることはない、そうだろ?

 神威さんって周りをよく見れるところはいいんだけど、自分のことは全然分かってねえな。自分が周りからどうゆう風に見られてるか、ってこともさ。自己評価低すぎ。逆にウザい」

 

「……う、ウザい……」

 

 よく言われますが何か。

 

 

「だからオレはハッキリ言う。言わなきゃ分かんないっぽいからハッキリ言う。

 

 

 

 

 もっと!! 社会勉強しろ世間知らず!!」

 

 

「は……はいスミマセンごめんなさい!」

「あと神機兵置いてけ!!」

「あ、ソレは無理です」

「じゃさっさと完成させろハゲ!!」

 

 九条先生、苦情が来てますヨ……。

 

「という冗談は抜きにして……本当にさっさと神機兵完成させて欲しいんだよオレらは。ロシア支部はさっき言ったと思うけど防衛戦力全然足りてねーの。迎撃用の神機使いも少ないし、だからさっさと、神機兵作って防衛戦に回したいんだわー……!

 

 

 

 

 

 それに…………オリガに……あんま無理させたくないんだ……」

 

 

 

「……オリガちゃん……?」

 

 金髪ツインテールな元気美少女が思い出される。

 体に不釣り合いなデッカいクレイモアを振り回す美少女神機使い――のハズだ。

 けど、それだけじゃない、ということも薄らとだけど察している。

 前回の大戦闘――テスカトリポカ戦ではオリガちゃんはかなり無理のある戦い方をしていた。あんな戦い方ばかりしていたら――早死にするのは目に見えている。負担がかかるどころではない、文字通り命を削るような戦闘だ。

 

 でも……他でもない……アーサーさん自身が言っていた。『それしか戦う方法を知らない』のだと。

 

 

「……」

「アイツは……神機の適合率が高くない。……適合率って案外重要だぜ? 数値が高ければ高いほど、安定してればしてるほど……『寿命』が来るのが、遅くなる」

「……でも……」

「それにアイツの神機だってメチャクチャだ。混乱した戦況で、とにかく戦える頭数を増やさないといけないっていう状況下で……ほぼ無理やり動員されたようなものなんだ。

 だから……もう無理してまで戦う必要なんかねぇ」

「……」

 

 何か、違和感を感じた。

 だけど……それがハッキリ何であるか、という確信は持てなかった。

 

 アーサーさんは暗くなってしまった雰囲気を、無理やり吹き飛ばすかの様に笑った。

 

 

「だからアンタ達にはけっこー期待してるんだぜー? さっさと早いところ神機兵作ってくれよな!

 

 それに……オレは決めたんだ、もう二度と仲間を失ったりしねぇんだ、ってさ」

 

 

 

 

 

 その言葉には、確固たる決意があるような気がした。

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーサー・クリフォード隊長によって散々ダメ出しをされて、もう生きる気力も失せかけてきた頃だった。

 何となくのノリで庭園に突撃すると……そこには意外なことに、隊長ではなく、シエル・アランソンさんが東屋に座っていた。

 この人もかなり貴族趣味っぽい服装もとい装備なのでお花畑が似合っている。

 

「……副隊長……」

 

「あー……どうもです……アランソンさん……」

 

 何で居るの……。

 

 いや、別に悪くないけど……あんまり今は会いたくなかった。今は1人で際限なく奈落の果てまで落ち込みたい気分だった。

 だからと言って、そこどいて、という訳にもいかず……黙ってここで踵を返すこともできず、何となくで隣に座ってみる。

 

「……」

「……」

 

 

 ……沈黙。

 

 

 

 

「……えっと……アランソンさん……。今回の戦術表だけど……またダメ出し食らいました……アーサー隊長に」

「……」

「……うん……でも……お互い初めてだし……気楽に行きましょー……」

「……」

 

 静寂。

 

 

「……え、えっと……戦術の選択自体は悪くない……とおっしゃってましたよ……」

「……」

 

 無言。

 

 

「……あとは……私が弱腰すぎるって……」

「……」

 

 

 無音。

 

 

 

「……えー…っと……だからそのー……」

「副隊長」

「な、何ですか!?」

 

 唐突に喋り出したアランソンさん。

 しかも名指しで。

 

 

「……実は……ご相談が」

「……なんでしょう……?」

 

「此処に……ロシア支部に来てからというもの……私……何故かよく人に話しかけられるんです」

「……えっと……ヘルマンさん?」

 

 彼と彼女の邂逅の開口一言目は、やはり予想していた通り

 

『デカい』――だった。確かにプロポーションは凄まじいけれど、その台詞を真顔で言ってはいけなかった。

 若干ドン引きしていた彼女の顔を見て――少しだけ哀れみを感じた。

 

 

「もし、凄くしつこい様だったら査問会に通報してもいいからね? 注意状3枚で退場であの人もう既に2枚持ってるから今リーチかかって」

「……いえ、シュルツ隊員ではなく……一般兵からの」

「……え、マジで!?」

 

 ロシア支部の変態は奴だけではなかった……!? 一見……アランソンさんは凄く可愛い女の子だ。ふわふわの装備だのフリルだのを身にまとっているし、しかもソレが似合っている。

 だけど……よくよく見るとホルスターには拳銃、脚にはナイフ、という結構近接系装備に充実している。恐らくその他のブラッドの誰よりも。事前情報によると高度な軍事教育プログラムを受けてきたらしい――まさにそれこそが、今の微妙な齟齬を生じさせてしまっている一因になる訳だが。

 

 口説こうという挑戦者がよく居たものだな……侮れない、流石ロシア支部、と感嘆の念さえ抱く。

 敵ながら……、だ。

 

 

「……その……不埒な目的であるならば……相応の対応を、とは思うのですが……。……困っているのです」

「……不埒な目的じゃない??」

「はい……。皆さん、おっしゃるのです……」

 

 その内容はマジで意外なモノだった。

 

 要約すると。

 

 

『アランソン、って『あの』アランソンですか!?』

『サイン下さい!!』

『握手してください!!』

『貴様オレに間接握手よこせぇぇええ!!』

『お写真よろしいでしょうか!?』

『でけぇ……』

 

 

 ……というファンっぷりらしい。

 

 

 

「はい!?!?」

 

 え、エェー……それは、また……。

 

 反応に困る。

 

 『内側』の常識だと、神機使いと一般兵の間は極めて微妙なモノだった。

 神機使いは即席ソルジャーとはいえ、若年、下手すると子供……と言える年齢までも動員している。しかも、人体にはオラクル細胞をブッ込むことで半ば人間を捨てていることになる。

 ……しかも、その多くは基本的に『非生産的』と判断される外部居住区出身者だ。有名な話では、内部居住区には赤紙が届きにくい――ということ。

 『内側』に住んでいれば教育を受ける十分な練成期間があるため、研究職や幹部職、軍人にしても士官クラスに配属されることが多い。

 嫌な話だけど、支部の外か内側かに生まれるかで既に差がついている……のだと。

 

 と、いう訳で、軍人といってもピンキリだと思うけど……多くの兵士は、人間を辞めていることに対して恐怖を、または若年でありながら動員されていることへの同情を。または、特殊な教育を受けている訳でもないのにスピード出世することへの嫉妬などなどを抱いているため、当然関係がうまく行くわけがなく、比較的彼らから受け入れられるのは……ジュリウス隊長の様に正規士官教育を受けつつも、ゴッドイーターを平行してやっていたという珍しいケースのみだ。

 

 

 ……そんな一般兵の皆様方がそこまでアランソンさんに執着する理由とは……。

 

 アランソンさんは見た目だけだったら間違いなく、『若い女の子なのに』と同情路線に入ると思うのだけれども……。

 

 

「……な、なんで……?」

 

 シエル・アランソンさんは少しだけ考え……やがて、何かを振り切りたいかの様に語り始めた。

 

 

 

「……私の家は……元々軍閥だったらしいのです。まだ国連軍が健在であった頃、アランソン家という名は、有名だったと聞きました」

 

「……あー……そうですか」

 

 それなら納得だ。

 今は亡き伝説の末裔に会えた、と思えばテンションも上がるだろう。

 ……が、話はそこだけでは終わらなかった。

 

 

「そして、私の両親は……『ソーンツァ作戦』で殉職した、と」

 

 

 ……聞き慣れない業界用語本日第三弾、降臨。

 どっかでうっすら聞いたことがあるような気がするなー……と思いつつも、アーサーさんとは違い何か今ここで話の腰を折れるような雰囲気じゃない。

 私は……アランソンさんが今、何か心を開こう、としている場面に質問できる程空気読めない奴じゃない……!

 

 と、いう訳で、奥義『知ったかぶり』で通すことにした。

 ソーンツァ作戦、ああ知ってますよあの作戦ですね、あの有名なね!

 ……よし……演技の用意は十分だ。

 

 

 

「両親は、若手の士官であり、当時崩壊しきっていた連合軍に……所属していたと聞きました。当時もう連合軍に力は残ってはいなかった……でも、両親は最後まで任務に忠実だった。

 ロシアで人類の反攻作戦がある、と毎日口癖の様に言っていたのを今でもよく覚えています。でも、私は行ってほしくなかった。……でも……母は誕生日までには帰るから、と優しく言って任務へ赴きました。

 

 そして幼かった私は……二人の訃報を受け取りました……奇しくも、自分の誕生日に」

 

「……」

 

 

 

 ソーンツァ作戦って何かロシアで連合軍な人類の反攻作戦だったらしい。

 

 ……ごめん、何も分かんねえわ……。

 

 

「……その後、私はラケル先生の『マグノリア=コンパス』へと引き取られました。

 今思うと……両親が、もしもの時の為に、と探してくれていたのかもしれません。……軍事で名を馳せた家だったので、頼れる知人も、親類も、皆……アラガミに負けてしまっていたのでしょう。……だから、少しでも、とまだ家の名に力があるうちに……と信頼できる場所を用意してくれていたものだったのかもしれません。

 

 事実、マグノリア=コンパスに行って私の教練担当だという教官に会って最初に言われた言葉がコレでした。

 

 

 

『アランソン!? 『あの』アランソン!?!? さ、サイン貰っても宜しいですか!?』……と」

「うわぁ……」

 

 ある意味人格が曲がりそうな幼少期の記憶だ。

 アランソンさんの過去もやはり壮絶っぽい。かなり一筋縄ではいかない臭い。

 でも、過去を語る彼女の顔は何故か穏やかなものだった。

 

 

「そして、私は、マグノリア=コンパスで軍事教育を受けてきました、時には反対する教官を無視してでもストレステストを受けさせて貰った事もありました」

 

 わりと過酷な軍事教育を受けてきたこと、そして時には懲罰房にぶち込まれたこと……。暗殺や防諜まで学んだこと……。

 正直言って、少女が送るべき思春期をまるで過ごしていない様に思えた……けど、本人は。

 

 

 

「でも……私は、嫌じゃ……なかった。

 規律と軍律で徹底された世界も。時には人格をも切り離して理性に従うことを要求されることも……。

 

 嫌じゃなかったんです……だって、寂しくなかったから。

 その時だけ……両親が近くに居るような感じがして……」

 

 

 

 ……シエルさんは。

 

 

 

「だから……その……今、こうやってロシア支部に居ることも。

 ……皆さんから、親の名前を聞くことも……今は、とても……。

 

 ……多分……私は……」

 

 

 

 ……とても、嬉しそうだった。

 

 

 

「……そうなんだ」

「……はい、ですがあまりに熱心すぎるのはちょっと」

「よく言っておきますね」

 

 レアなのは分かるが度を超すのは良くない……とのムネ、ちゃんと伝えておこう。

 どの辺に言えば届くか分からないが、とりあえずここは隊長に報告することにした。

 あの人なら多分上手くやる。

 

 

「あ、あの……副隊長……」

 

 

 おずおず、といった感じでアランソンさんは話しかけてくる。

 

 

「私は此処に来てからというもの……一つ学びました。いかなる状況にも不測の事態にも対応できるように、上意下達は厳守すべき……でも、戦況に応じて臨機応変に対応するべきことは重要であるのだと」

「は……はい……!?」

 

 何という四字熟語の多さ。

 堅苦しい言語使用により若干混線しかけた頭の配線をなんとかショートさせない様に押し込める。

 

「なればこそ、お互いの相互理解が必要不可欠事項なのではないか……という結論に至った結果」

「は、はぁ……」

「副隊長、折り入ってお願いがあります」

 

 そこから先は、マジで唐突だった。

 

 

 お辞儀したのだ。

 

 がばっ、とでも擬音が聞こえてきそうな位の……まさかの腰を90度に曲げる完璧な直角お辞儀を彼女は披露したのだ……!

 

 

 

 

「私と、友達になってください!」

 

「!?」

 

 

 と、友達告白……!?

 

 

 

「あの……駄目でしょうか……?」

「だ、だだだだダメじゃない!! ダメじゃないよ! だ、大歓迎……です……」

「……!」

 

 今度は、ぱぁぁぁ、という擬態語が似合う程目をキラキラさせたアランソンさん。

 表情がド直球で顔に出る人だ。分かりやすいというか、騙されやすそうというか……。

 ……あまり人のことは言えないんだけども。

 

 

「こ、こちらこそ……宜しくお願いします……!」

 

 思わず片言になる私。

 

 だ、だって嬉しいんだもん……。

 

 自慢じゃないが、私も友達は少ない方だったから!!

 全然友達なんか! いなかったから!! ……そりゃ学校で一緒に食堂行くレベルのは居たけど、アレは友達じゃない、クラスメイトだ。

 

 だからこんな宣言もとい告白をされたのは初めてだ。

 

 

「えーっと……アランソンさん……」

「あ、あの! その呼び方ですが……できたら名前で……呼んでくれるのじゃ……駄目……ですか?」

「そ……それじゃ……シエル……ちゃん?」

「……っっ!!」

 

 名前を呼んだ、それだけで真っ赤になるシエルちゃん。

 ……ヤバい……すごく可愛い……!

 

 シエルちゃんは頬を紅潮させながら、あまりこうゆうことには慣れていなくて……でも憧れていたんです。仲間とか、信頼とか……と、小声で恥ずかしそうに喋っている。

 もう一つ、不躾だけど、お願いがあるのだ、とシエルちゃんは切り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたを呼ぶとき……『お姉さま』って呼んで、いいですか……!?」

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 

 

 ………………ん?

 

 

 

 

 

「ご、ごめんなさいっ! 幾ら何でも早過ぎますよね……? 『お姉様』なんて呼ぶの……」

「早い!?」

 

 早い遅いの問題じゃないよシエルちゃん!? 

 え、何これ……間違っているのは世界の方!? ……それとも私……!?

 

 

「ラケル先生に教えて頂いたのです! 自分と最も親しい年上の間柄の女性は、たとえ血縁関係になくとも……『お姉様』と呼称するのが相応しいと……。

 その、副隊長はまさにそれに当てはまるので……」

 

 嗚呼、女神さま……!

 貴女は何と罪深いことをなさってくださったのです。お蔭様でシエルちゃんは何かトンデモナイ勘違いをしている様です。

 

 

「マグノリア=コンパスでは日常的に使われていた言葉ですが?」

 

 何を教えていたんだよ児童養護施設! マグノリア=コンパス!!

 特にそのエリートクラス!!

 

 幼気な子供たちに教えるのは軍事訓練だけにしていただきたい。

 

「そ、そうですか……そ、それ程までに嫌ならば……はぁ……仕方ありません……」

 

 

 思わずしゅん、としてしまうシエルちゃん。

 その様子が、あんまりにもションボリ……としていたので。

 本当に、本当に……小さな女の子みたいに、しょげかえっていたので……。

 

 

 思わず、私は。

 

 

 

 

 

「……いいよ」

「え……!?」

 

 

「……呼んで、いいよ……シエルちゃん……」

「……!」

 

 

 負けました。

 

 ……折れました。

 

 

「ありがとうございます、お……お姉さま……!」

「うん……」

 

「あなたが……私にとっての……はじめての友達です……ですから……本当に、ありがとう……。

 

 これからも、宜しくお願いします……お姉さま……!」

 

 

「……~~!!」

 

 

 シエルちゃん、やっぱりそれ恥ずかしいからやめて!!

 

 

 ……なんて、言えなァァアい!! と……本当に自分が嫌になった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▽▼

 

 

 

 

 

 本当は、嬉しかったりした。

 

 

 

 分かってる。

 

 オレーシャは死んだってことも。死んだし……もう帰って来ねぇってことも。

 

 一番辛かったのは、アイツの姉さんのリディアさん……と、当時新人で一番アイツと親しくしていた『新型』

 ……アリサだってことも。

 

 

 

 ……分かってる。

 

 ……分かってるんだ、全部……全部。

 

 

 

 

 ……だけどさ。

 

 

 凄く良い奴だったんだ。

 

 

 馬鹿なのに底抜けに良い奴で、女の癖に女にばっか抱きつく奴で。

 

 辛くても悲しくても、笑顔で全部受け止めて――飲み干せる。

 

 ……良い奴だったんだ。

 

 

 

 ずっとずっと思ってた。アイツを救える方法が何かあったんじゃないか――って。

 

 アイツ一人救えた所で、何が変わった訳じゃない。

 でも、ひょっとしたら……と、思わずには居られなかった。

 

 もっとオレが自分の頭で考えていれば、行動していれば――アイツらを助けられたんじゃないか、

 と考えずにはいられなかった。

 

 

 

 

 そんな思いが、ずっと消えなかった。

 

 

 

 

 

 

 だから、オリガを見た時オレは思ったんだ。

 

 

 

 壊滅寸前の陣地を必死で守る部隊、その後方で、雪と泥に塗れて一人で座ってるアイツを見た時。

 

 

 ……嬉しかったりした。

 

 

 損傷して、そのまま眠っていたハズの……オレーシャの神機を使うアイツを見つけた時。

 

 ……帰ってきた、と思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……だからもう、

 

 オレは二度と、失いたくはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







次回と次々回でロシア編は終わらせます……!
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